(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080635
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】推進剤要素および推進剤要素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C06D 5/00 20060101AFI20240606BHJP
C06B 23/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C06D5/00 Z
C06B23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023197868
(22)【出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】10 2022 131 842.7
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】520137095
【氏名又は名称】ツェット・エフ・エアーバッグ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・バインホルト
(57)【要約】
【課題】推進剤要素および推進剤要素を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、推進剤要素であって、推進剤要素は、以下の成分
(A)少なくとも1つの火工材料と、
(B)下記式
R-COOH
を有するモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤とを含み、
ここで、Rは有機残基である、推進剤要素に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安全装置用の推進剤要素であって、前記推進剤要素は、以下の成分
(A)少なくとも1つの火工材料と、
(B)下記式
R-COOH
を有するモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤と、を含み、
ここで、Rは有機残基である、推進剤要素。
【請求項2】
前記有機残基Rが脂肪族炭化水素骨格および/または芳香族炭化水素骨格、好ましくはホモ芳香族炭化水素骨格もしくはヘテロ芳香族炭化水素骨格、および/または直鎖状、分枝状もしくは環状の飽和炭化水素骨格または不飽和炭化水素骨格を含み、前記脂肪族炭化水素骨格が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を任意選択で含むことを特徴とする、請求項1に記載の推進剤要素。
【請求項3】
前記炭化水素骨格が、C1~C17アルキル、C2~C17アルケニル、C2~C17アルキニル、C6~C12シクロアルキルおよびC6~C14アリール、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の推進剤要素。
【請求項4】
前記モノカルボン酸が総和式CnH2n+1COOHを有する直鎖状アルカン酸であり、ここでnは1~17、好ましくは3~12、特に好ましくは4~9の自然数であり、前記モノカルボン酸がn-ヘプタン酸であることがさらに好ましいことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の推進剤要素。
【請求項5】
前記モノカルボン酸が室温で液体であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の推進剤要素。
【請求項6】
前記モノカルボン酸が、25~70℃、好ましくは50~65℃、特に好ましくは55~60℃の範囲の融点を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の推進剤要素。
【請求項7】
前記推進剤要素が、以下の成分
(A)85~99.9重量%、好ましくは90~98重量%、の前記少なくとも1つの火工材料と、
(B)0.01~5重量%、好ましくは0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~1重量%、のモノカルボン酸、好ましくはC3~C9アルキル残基を有するモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの流動制御剤と、
(C)0~15重量%、好ましくは1~9重量%のさらなる添加剤と、を含み、
ここで、前記成分(A)~(C)の割合は合計して100%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の推進剤要素。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の推進剤要素を製造する方法であって、
前記方法が以下のステップ、
a)前記少なくとも1つの火工材料、任意選択でさらなる添加剤、およびモノカルボン酸をベースとする前記少なくとも1つの処理剤を混合するステップと、
b)前記少なくとも1つの火工材料、任意選択で前記さらなる添加剤、およびモノカルボン酸をベースとする前記少なくとも1つの処理剤を粉砕して、推進剤複合材料を得るステップと、
c)前記推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成するステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項9】
安全装置用推進剤要素の製造のための処理剤としてのモノカルボン酸の使用。
【請求項10】
前記処理剤が粉砕・圧搾剤であることを特徴とする、請求項9に記載のモノカルボン酸の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置用の推進剤要素、および推進剤要素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安全装置用の推進剤要素は、従来技術で公知である。通常、推進剤要素は、安全装置用ガス発生装置、特に、車両用安全装置および乗員保護装置に使用される。衝突時に車両乗員を保護するために、車両には様々な安全装置が設けられている。このような安全装置は、例えば、ガス発生装置を備えたエアバッグモジュールである。車両と他の物体との衝突が差し迫った場合、ガス発生器は圧縮ガスを放出し、エアバッグモジュールからエアバッグを展開させ、車両乗員を拘束させる。さらなる用途は、ベルトテンショナーまたは歩行者衝撃保護装置用のガス発生装置である。
ガス発生装置は圧縮ガスを発生させる役割を果たし、様々な実施形態が知られている。基本的に、ガス発生装置は、ガス発生装置内に配置され、電気点火器によって作動されると、エアバッグを膨張させるために、またはベルトテンショナーを駆動するために使用することができる圧縮ガスを放出する推進剤要素を利用する。
推進剤要素は、様々な方法で製造することができるペレットの形で提供される。通常、これらのペレットは、推進剤複合材料を圧搾することによって製造される。推進剤複合材料は、圧搾前に粉末混合物として存在し、主成分として燃料と酸化剤を含む火工材料を含む。燃焼改良剤、結合剤、安定剤、乾燥剤、スラグ形成剤などのさらなる成分を推進剤複合材料に添加することもできる。
上記の成分は、混合されてから、圧搾されて推進剤要素を形成する。この目的のために、成分はまとめて粉砕される。推進剤複合材料の様々な成分を粉砕するステップと、それに続く圧搾して推進剤要素を形成するステップとを改善するために、前述の方法ステップの前に、特定の処理剤を推進剤複合材料に添加することが知られている。推進剤ペレットの製造において、処理剤は、特に、圧搾剤、固結防止剤、および/または潤滑剤として作用し、したがって、推進剤複合材料および推進剤要素の取り扱いを改善する。
先行技術からの公知の処理剤の例は、ポリエチレングリコール、セルロース、メチルセルロース、グラファイト、ワックス、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、亜硝酸ホウ素、タルカム、ベントナイト、二酸化ケイ素、亜硫酸モリブデン、およびこれらの混合物である。
さらに、処理剤は、着火性や燃焼挙動など、完全に圧搾された推進剤要素の実質的な特徴にも影響を及ぼす可能性がある。その結果、安全装置用の推進剤要素の製造に適し、推進剤複合材料および/または推進剤要素の特性を改善する新規な処理剤を見出す努力がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この点に関して、本発明の根底にある目的は、プロセスおよび材料コストの点で推進剤要素の簡単で安価な製造を可能にし、推進剤要素に使用するためになされた性能要件を満たす処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、その目的は、請求項1に記載の安全装置用推進剤要素によって達成される。
本発明による推進剤要素の有利な実施形態は、互いに任意に組み合わせることができる従属項に記載されている。
本発明によれば、その目的は、安全装置用の推進剤要素(propellant element)であって、推進剤要素は、以下の成分
(A)少なくとも1つの火工材料(pyrotechnical material)と、
(B)下記式
R-COOH
を有するモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤と、を含み、
ここで、Rは有機残基である、推進剤要素によって達成される。
本発明は、モノカルボン酸が推進剤要素の製造のための処理剤として適しているという本発明者らの発見に基づく。モノカルボン酸の使用により、ステアリン酸塩などの従来の処理剤を用いて製造された推進剤複合材料よりも著しく高いかさ密度を有する推進剤複合材料が得られる。かさ密度が高いということは、体積単位あたりの火工材料の密度が高いことを意味し、その結果、推進剤複合材料の加工性が改善される。さらに、モノカルボン酸は、負に帯電したカルボン酸塩をベースとする公知の処理剤と比較して、酸化に対する感受性が低下している。したがって、本発明による推進剤要素は、酸化反応に対してより安定である。その結果、本発明による推進剤要素は、高温および温度変化に対する安定性が向上している。さらに、推進剤要素の破断強度が改善され、乾燥剤の添加を著しく低減することができる。
【0005】
本発明による推進剤要素は、安全装置用のガス発生装置に使用するために提供される。最も広く知られている安全装置は、乗客輸送用の車両に使用される車両乗員拘束システムである。このようなシステムは、ガス発生装置を含むエアバッグモジュールと、ガス発生装置に接続されたエアバッグを実質的に含む。トリガーシナリオの場合、ガス発生装置は、エアバッグを展開させる圧縮ガスを供給する。展開されたエアバッグは、流入する圧縮ガスによってさらに充填され、車両乗員に対する拘束効果を提供する。この場合、ガス発生装置内で本発明による推進剤要素を変換することにより、圧縮ガスを供給することができる。
推進剤要素はさらに、他の安全装置にも使用できるように提供される。これらとしては、具体的に言うと、電動スクーターおよびチャイルドシート用のガス発生装置付きエアバッグモジュールを含む安全装置、ならびにベルトテンショナーモジュール用の火工駆動装置を挙げることができる。また、雪崩用防護服、バイク用ヘルメット、または自転車用ヘルメット用のエアバッグモジュールなど、個人用保護具における推進剤要素の使用も提供される。
本発明によれば、推進剤要素は、処理剤とは別に、成分(A)としての火工材料を含む。
成分(A)の火工材料は、燃料と酸化剤を含むことがある。
基本的に、燃料は特に限定されず、ガス発生装置に使用する推進剤要素に利用するのに適した、従来技術から公知である任意の燃料を使用することができる。
燃料は、好ましくは、硝酸グアニジン、ニトログアニジン、硝酸トリアミノグアニジン、硝酸尿素、ニトロ尿素、ニトロペンタ、ニトロトリアゾロン、ヘキソーゲン、オクトーゲンおよびそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましいのは、硝酸グアニジンおよび/またはニトログアニジン燃料である。硝酸グアニジンが最も好ましい燃料である。
【0006】
酸化剤も特に限定されず、ガス発生装置に使用する推進剤要素に利用するのに適した、従来技術から公知である任意の酸化剤を使用することができる。
酸化剤は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属の硝酸塩、酸化物および/または混合酸化物、遷移金属硝酸塩水酸化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、アンモニウム水和物、硫酸塩、リン酸塩、シュウ酸塩、ジニトラミド、過酸化物およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
成分(A)の火工材料とは別に、本発明によれば、推進剤要素は、式R-COOHを有するモノカルボン酸をベースとする成分(B)の少なくとも1つの処理剤を含み、Rは有機残基である。
モノカルボン酸をベースとする処理剤は、基本的に限定されず、有機残基Rを有する公知のモノカルボン酸を処理剤として使用することができる。
本発明によれば、モノカルボン酸は、1個のカルボキシ基(-COOH)のみで官能化された化合物と理解される。したがって、有機残基Rは単に1個のカルボキシ基を有する。ジ-カルボン酸またはトリ-カルボン酸は本発明から除外される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の第一の態様によれば、有機残基Rは脂肪族炭化水素骨格および/または芳香族炭化水素骨格を含む。芳香族炭化水素骨格は、ホモ芳香族炭化水素骨格またはヘテロ芳香族炭化水素骨格であってもよい。脂肪族炭化水素骨格は、直鎖状、分枝状または環状の炭化水素骨格であってよく、その骨格は任意に1つ以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。脂肪族炭化水素骨格または芳香族炭化水素骨格中のヘテロ原子は、窒素、酸素、硫黄およびリンからなる群から選択することができる。さらに、炭化水素骨格は、飽和または不飽和であってもよい。
別の態様は、炭化水素骨格が、C1~C17アルキル、C2~C17アルケニル、C2~C17アルキニル、C6~C12シクロアルキルおよびC6~C14アリール、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されることを提供する。
本発明によるC1~C17アルキルという用語は、1~17個の炭化水素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含む。好ましい炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、1-ドデシル、1-テトラデシルおよび1-ヘプタデシルが挙げられる。
本発明によるC2~C17アルケニルという用語は、2~17個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の少なくとも部分的に不飽和の炭化水素基を含み、その炭化水素基は少なくとも1個のC-C二重結合を含む。好ましい炭化水素基としては、例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニル、1-ドデセニル、1-テトラデセニルおよび1-ヘプタデセニルが挙げられる。
【0008】
本発明によるC2~C17アルキニルという用語は、2~17個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の、少なくとも部分的に直鎖状の不飽和炭化水素基からなり、炭化水素基は少なくとも1個のC-C三重結合を含む。好ましい炭化水素基としては、例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニル、1-ドデシニル、1-テトラデシニルおよび1-ヘプタデシニルが挙げられる。
本発明によるC6~C12シクロアルキルという用語は、6~12個の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含む。好ましい炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルおよびシクロデカニルが挙げられる。
本発明によるC6~C14アリールという用語は、6~14個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基を含む。したがって、この用語は、単環式、二環式および三環式の芳香族炭化水素基を対象とする。好ましい芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチルおよびアントラシルが挙げられる。
C6~C14アリールという用語によって同様に構成されるのは、窒素、酸素、硫黄およびリンからなる群から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を有するヘテロ芳香族炭化水素基である。少なくとも1つのヘテロ原子を有する適切なヘテロ芳香族炭化水素基としては、例えば、ピリジル、フラニル、ピロリルおよびインドリルが挙げられる。
少なくとも1個の酸素原子を有する脂肪族炭化水素骨格として、具体的にはエーテルおよび/またはエステルを用いることができる。
エーテル残基の好適な例は、2-エトキシエチル、2-メトキシエチル、4-メトキシブチル、2-(2-メトキシエトキシ)エチルおよびPEGイルオキシメチル(PEGyloxymethyl)(PEG=可変モル質量を有するポリエチレングリコール)である。
【0009】
エステル残基の例としては、2-アセトキシメチルおよび2-(2-メトキシアセトキシ)メチルが挙げられる。
少なくとも一つの硫黄原子を有する脂肪族炭化水素骨格の好適な例は、チオール-PEG4である。
アミン、特にアミノエーテルは、少なくとも1つの窒素原子を有する脂肪族炭化水素骨格として使用することができる。
好適な例は、2-ジメチルアミノ-1-ブチルおよび2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エチルである。
少なくとも1つのヘテロ原子を有する脂肪族不飽和炭化水素骨格の好適な例は、6-メトキシ-1-ヘキセニル、アリルオキシメチル、および4-エトキシ-2-ブチニルなどの有機残基である。
本発明のもう一つの態様は、モノカルボン酸が室温で液体であることを提供する。室温とは、25℃の温度であることを意味する。このようにして、成分(A)の火工材料の特に適切な濡れ性を確保することができる。
別の実施形態によれば、モノカルボン酸は、25~70℃、好ましくは50~65℃、特に好ましくは55~60℃の範囲の融点を有することができる。このようなモノカルボン酸は室温で固体であり、推進剤複合材料の成分を粉砕する際に生じるような熱、例えば摩擦熱を供給することによって液化することができる。したがって、上記範囲の融点を有するモノカルボン酸を取り扱い、初期固体状態で成分(A)に添加することができる。その後、成分を混合し、具体的には粉砕する際に発生する摩擦熱により、モノカルボン酸を溶融させて、火工材料との特に適切な混合を達成することができる。この点で、このようなモノカルボン酸は特に容易に取り扱うことができる。
別の態様によれば、モノカルボン酸は非分枝飽和アルカン酸である。このようなアルカン酸は脂肪酸とも呼ぶことができる。
好ましくは、非分枝飽和アルカン酸は、総和式CnH2n+1COOHを有し、ここでnは1~17、好ましくは3~12、特に好ましくは4~9の自然数である。
例えば、アルカン酸は、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ヘキサデカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、およびオクタデカン酸、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
特に好ましいのは、モノカルボン酸をベースとする処理剤としてn-ヘプタン酸を使用することである。
【0010】
さらに、成分(C)としての推進剤要素は、乾燥剤、バーンオフ調節剤、結合剤、安定剤およびスラグ形成剤ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択されるさらなる添加剤を含んでもよい。
適切な添加剤は、例えば、酸化鉄、酸化マグネシウム、非晶質シリカ、疎水性シリカ、ステアリン酸カルシウム、潤滑油、ポリエチレングリコール、セルロース、メチルセルロース、グラファイト、ワックス、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、窒化ホウ素、タルカム、ベントナイト、二酸化ケイ素、および硫化モリブデンである。
別の態様によれば、推進剤要素は、以下の成分、
(A)85~99.99重量%、好ましくは90~98重量%の少なくとも1つの火工材料と、
(B)0.01~5重量%、好ましくは0.05~1重量%、特に好ましくは0.1~1重量%のモノカルボン酸、好ましくはC3~C9アルキル残基を有するモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤と、
(C)0~15重量%、好ましくは1~9重量%のさらなる添加剤と、を含み、
ここで、成分(A)~(C)の割合は合計して100%である。
モノカルボン酸をベースとする処理剤は、従来使用されてきたカルボン酸塩をベースとする処理剤とは対照的に、加水分解に対して安定である。したがって、推進剤要素の貯蔵性を保護するために公知の方法で必要とされる添加剤、特に乾燥剤の量も減らすことができる。好ましくは、モノカルボン酸をベースとする処理剤の使用により、推進剤要素中の乾燥剤の使用を完全に回避することができる。
したがって、この推進剤要素は、処理剤としてのステアリン酸塩を特に含まない。
さらに、本発明は推進剤要素の製造方法に関する。この方法は、以下のステップ、
a)少なくとも1つの火工材料、任意選択でさらなる添加剤、およびモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤を混合するステップと、
b)少なくとも1つの火工材料、任意選択でさらなる添加剤、およびモノカルボン酸をベースとする少なくとも1つの処理剤を粉砕して(grinding)、推進剤複合材料(propellant composite)を得るステップと、
c)推進剤複合材料を圧搾して(pressing)推進剤要素を形成するステップと、を含む。
【0011】
推進剤要素を製造するための上述の方法は、このような推進剤要素を特に簡単かつ安価な方法で製造するのに役立つ。モノカルボン酸をベースとする処理剤の添加は、特に、第1の方法ステップにおける上記成分の混合を改善することを可能にする。このようにして、使用する処理剤の量を低減させることができ、かつ/または推進剤複合材料のより高いかさ密度を得ることができる。さらに、モノカルボン酸をベースとする処理剤は、潤滑剤およびケーキング防止剤として機能するので、製造中に使用される個々の容器間での推進剤複合材料の取り扱い、特に移送が容易になる。例えば、推進剤複合材料は、推進剤複合材料がミルおよびプレスダイの壁に付着することなく、ミルからプレスダイに特に容易に移すことができる。理論に束縛されるものではないが、処理剤が個々の成分の目詰まりや凝集を特に防止し、それに応じて、推進剤複合材料の個々の成分がプレスダイやプレスパンチなどの製造ツールに固着するのを阻害または抑制することが想定される。
特に、モノカルボン酸をベースとする処理剤はその後、既に混合された成分に添加することができる。言い換えれば、火工材料と、任意選択でさらなる添加剤とが投入され、その後モノカルボン酸をベースとする処理剤と混合される。
好ましくは、処理剤は方法ステップb)の前に、したがって個々の成分の粉砕の前に直接添加される。
したがって、本発明は、安全装置用の推進剤要素を製造するための処理剤としてのモノカルボン酸の使用にも関する。モノカルボン酸の特徴および利点については、前述の説明を参照されたい。
一態様によれば、処理剤は、安全装置用の推進剤要素を製造するための粉砕・圧搾剤(grinding and pressing agent)である。
【実施例0012】
以下では、本発明を実施例によって説明するが、これらの実施例は限定的な意味で解釈されるものではない。
【0013】
実施例1
燃料として硝酸グアニジン55g、酸化剤として塩基性硝酸銅45gを供する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.1gのn-ヘプタン酸を処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN(ドイツ規格協会)53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.65~0.8g/cm3である。
次いで、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、200mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
【0014】
実施例2
燃料として硝酸グアニジン55g、酸化剤として塩基性硝酸銅30gおよび過塩素酸カリウム15gを供する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.1gのn-ヘプタン酸を処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.65~0.8g/cm3である。
引き続いて、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、200mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
【0015】
実施例3
燃料として硝酸グアニジン60g、酸化剤として過塩素酸カリウム40gを供する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.1gのn-ヘプタン酸を処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.4~0.7g/cm3である。
引き続いて、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、50mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
【0016】
実施例4
燃料として硝酸グアニジン53gと酸化剤として塩基性硝酸銅47gを混合する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.1gのn-ヘプタン酸を処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.65~0.8g/cm3である。
引き続いて、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、100mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
【0017】
参考例1:
燃料として硝酸グアニジン52gと酸化剤として塩基性硝酸銅48gを混合する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.4gのステアリン酸カルシウムを処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.55~0.7g/cm3である。
引き続いて、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、200mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
参考例1は、同等のかさ密度を有する流動性があり、適切に処理可能な推進剤複合材料を得るためには、ステアリン酸カルシウムのような本発明によらない処理剤を4倍量使用しなければならないことを示している。それに比べて、本発明による実施例では、処理剤の量を著しく減らして使用することができる。したがって、推進剤要素中に存在する他の成分の範囲を広げることができるので、推進剤要素の酸素バランスを最適化することができる。これにより、例えば、推進剤要素においてより多量の燃料を使用することができる。
【0018】
参考例2:
燃料として硝酸グアニジン52gと酸化剤として塩基性硝酸銅48gを混合する。燃料と酸化剤は、一体となって火工材料を構成する。その後、0.1gのステアリン酸カルシウムを処理剤として火工材料に添加する。成分をまとめて粉砕して推進剤複合材料を得る。
混合後、DIN53466によれば、推進剤複合材料のかさ密度は0.5~0.65g/cm3である。
次いで、推進剤複合材料を圧搾して推進剤要素を形成する。この目的のために、200mgの量の推進剤複合材料に1×104バールの圧力をかけ、ペレットの形状の推進剤要素を得る。
参考例2は、本発明によらない処理剤を本発明による処理剤と同量に使用すると、かさ密度が低下した推進剤複合材料が得られることを実証している。低下したかさ密度により、本発明による処理剤を用いて製造された推進剤複合材料と比較して、推進剤複合材料の流動性および加工性が悪化する。したがって、参考例2から、本発明による処理剤を含む推進剤複合材料と同じ流動性および加工性を達成するためには、本発明によるものではない処理剤をより多量に使用しなければならないと結論付けることができる。