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特開2024-80661曲がり管、曲がり管の製造方法及びカバーファクタの値の算出制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080661
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】曲がり管、曲がり管の製造方法及びカバーファクタの値の算出制御方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20240606BHJP
   B29C 70/10 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B29C70/32
B29C70/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201945
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2022193142
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕貴
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AD16
4F205AG12
4F205AR09
4F205AR12
4F205HA02
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA46
4F205HB01
4F205HC07
4F205HF05
4F205HL02
4F205HT22
(57)【要約】
【課題】曲がり形状の内側と外側とで編組構造の強度面で偏りが生じにくい条件を満たす曲がり管等の提供をする。
【解決手段】組糸71及び軸糸72を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1であって、曲がり管1の屈曲部分11の内周に相当する、編組構造の表面積に対する組糸71及び軸糸72が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、曲がり管1の屈曲部分11の外周に相当する、編組構造の表面積に対する組糸71及び軸糸72が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たす。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管であって、
前記編組構造は、当該曲がり管の中心軸方向に沿って前記軸糸が組み込まれており、
前記組糸の幅をbf[mm]
前記組糸の数をn[本]
前記編組構造の内径をD[mm]
前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度をθ[°]
当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
前記組糸の繊度をfb[dtex]
前記軸糸の繊度をfm[dtex]
前記組糸の引張弾性率をEb[GPa]
前記軸糸の引張弾性率をEm[GPa]
とした場合の下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、
更に、下記(式2)で定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすことを特徴とする、編組構造をした曲がり管。
【数1】
・・・(式1)
【数2】
・・・(式2)
【請求項2】
前記組糸は、断面が矩形のテープ形状をしていることを特徴とする、請求項1に記載の編組構造をした曲がり管。
【請求項3】
前記組糸及び軸糸は、断面が矩形のテープ形状をしていることを特徴とする、請求項1に記載の編組構造をした曲がり管。
【請求項4】
組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管の製造方法であって、
当該曲がり管は、
前記組糸の幅をbf[mm]
前記組糸の数をn[本]
前記編組構造の内径をD[mm]
前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度をθ[°]
当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
前記組糸の繊度をfb[dtex]
前記軸糸の繊度をfm[dtex]
前記組糸の引張弾性率をEb[GPa]
前記軸糸の引張弾性率をEm[GPa]
とした場合の下記(式3)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、下記(式3)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、
更に、下記(式4)で定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすように、マンドレルの外周上で、当該曲がり管の中心軸方向に沿って前記軸糸を配置し、前記組糸及び前記軸糸を組み合わせて形成されることを特徴とする、編組構造をした曲がり管の製造方法。
【数3】
・・・(式3)
【数4】
・・・(式4)
【請求項5】
組糸及び曲がり管の中心軸方向に沿って配置される軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした当該曲がり管における、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示すカバーファクタcf3の値の算出制御方法であって、
(1A)前記組糸の幅bf[mm]、前記組糸の数n[本]、前記編組構造の内径D[mm]、前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅f[mm]及び前記軸糸の幅bm[mm]、前記軸糸の数nm[本]を記憶装置に記憶させるステップ、
(1B)下記(式5)に、前記(1A)のステップで記憶した、前記組糸の幅bf[mm]、前記組糸の数n[本]、前記編組構造の内径D[mm]、前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅f[mm]及び前記軸糸の幅bm[mm]、前記軸糸の数nm[本]を代入し、前記カバーファクタcf3の値を算出するステップ、
(1C)前記(1B)のステップで算出した、前記カバーファクタcf3の値をアウトプットするステップ、
を制御装置により実行する。
【数5】
・・・(式5)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編組構造をした曲がり管、その製造方法及びカバーファクタの値の算出制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性、軽量性、耐内圧性、耐衝撃性に優れた性能が要求される水道管などの曲がり管については、繊維材料(組糸)による編組技術及び樹脂成形によって構成される繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック: fiber reinforced plastic:FRP)製のものが使用されている(例えば、特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-254361号公報
【特許文献2】特開昭50-62271号公報
【特許文献3】特開平6-344450号公報
【特許文献4】特開平7-223271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
編組技術を利用して曲がり管を形成する場合、組糸を曲がり形状で編組する必要がある。
しかしながら、組糸を直線状に編組する場合に比べ、曲がり形状の内周側では組糸に縮む作用が働き、一方で、曲がり形状の外周側では組糸が伸びる作用が働き、曲がり管の編組構造に偏り(強度の差)が生じて均一になりにくく、種々の因子が影響するため最適条件化することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、曲がり形状の内側と外側とで編組構造の強度面で偏りが生じにくい条件を満たす曲がり管等の提供をすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管であって、
前記編組構造は、当該曲がり管の中心軸方向に沿って前記軸糸が組み込まれており、
前記組糸の幅をbf[mm]
前記組糸の数をn[本]
前記編組構造の内径をD[mm]
前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度をθ[°]
当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
前記組糸の繊度をfb[dtex]
前記軸糸の繊度をfm[dtex]
前記組糸の引張弾性率をEb[GPa]
前記軸糸の引張弾性率をEm[GPa]
とした場合の下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、
更に、下記(式2)で定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすことを特徴としている。
【数1】
・・・(式1)
【数2】
・・・(式2)
【0007】
上記構成のように、組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管において、曲がり管の屈曲部分の内周の内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周の外側カバーファクタcf3(out)の値が上記条件を満たし、さらに、軸糸比率RmがRm≧0.50の条件を満たす場合であれば、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい構成にすることができる。
【0008】
また、本発明は、組糸を組み合わせて形成された編組構造をした、上記曲がり管において、前記組糸は、断面が矩形のテープ形状をしていることを特徴としてもよい。また、組糸及び軸糸を組み合わせて形成された編組構造をした、上記曲がり管において、前記組糸及び前記軸糸は、断面が矩形のテープ形状をしていることを特徴としてもよい。
【0009】
上記構成によれば、曲がり管の屈曲部分の内周の内側カバーファクタの値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周の外側カバーファクタの値を高めることができ、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)がより生じにくい構成にすることができる。
【0010】
また、本発明は、組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管の製造方法であって、
当該曲がり管は、
前記組糸の幅をbf[mm]
前記組糸の数をn[本]
前記編組構造の内径をD[mm]
前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度をθ[°]
当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
前記組糸の繊度をfb[dtex]
前記軸糸の繊度をfm[dtex]
前記組糸の引張弾性率をEb[GPa]
前記軸糸の引張弾性率をEm[GPa]
とした場合の下記(式3)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、下記(式3)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周に相当する、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、
更に、下記(式4)で定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすように、マンドレルの外周上で、当該曲がり管の中心軸方向に沿って前記軸糸を配置し、前記組糸及び前記軸糸を組み合わせて形成されることを特徴としている。
【数3】
・・・(式3)
【数4】
・・・(式4)
【0011】
組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管において、曲がり管の屈曲部分の内周の内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周の外側カバーファクタcf3(out)の値が上記条件を満たし、さらに、軸糸比率RmがRm≧0.50の条件を満たす場合であれば、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい編組構造をした曲がり管を製造することができる。
【0012】
また、本発明は、組糸及び曲がり管の中心軸方向に沿って配置される軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした当該曲がり管における、前記編組構造の表面積に対する前記組糸及び前記軸糸が占めている割合を示すカバーファクタcf3の値の算出制御方法であって、
(1A)前記組糸の幅bf[mm]、前記組糸の数n[本]、前記編組構造の内径D[mm]、前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅f[mm]及び前記軸糸の幅bm[mm] 、前記軸糸の数をnm[本]を記憶装置に記憶させるステップ、
(1B)下記(式5)に、前記(1A)のステップで記憶した、前記組糸の幅bf[mm]、前記組糸の数n[本]、前記編組構造の内径D[mm]、前記組糸の、当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅f[mm]、前記軸糸の幅bm[mm]、及び、前記軸糸の数nm[本]を代入し、前記カバーファクタcf3の値を算出するステップ、
(1C)前記(1B)のステップで算出した、前記カバーファクタcf3の値をアウトプットするステップ、を制御装置により実行する。
【数5】
・・・(式5)
【0013】
上記方法によれば、組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした3次元の曲がり管において、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい構成にする指標となる、曲がり管の屈曲部分の内周の内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周の外側カバーファクタcf3(out)の値を、組糸の幅bf[mm]、組糸の数n[本]、編組構造の内径D[mm]、組糸の、曲がり管の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、当該曲がり管の前記編組構造の1セルあたりの幅f[mm]、前記軸糸の幅bm[mm]、及び、軸糸の数nm[本]などの2次元データに基づき、3次元データに基づき算出した計算値に近似した値として算出することができる。
【発明の効果】
【0014】
曲がり形状の内側と外側とで編組構造の強度面で偏りが生じにくい条件を満たす曲がり管等の提供をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る曲がり管の説明図である。
図2】本実施形態に係る曲がり管の製造方法の説明図である。
図3】本実施形態に係る曲がり管の編組構造(1セル)の説明図である。
図4】本実施形態に係る曲がり管の配向角度の説明図である。
図5】マンドレルの説明図である。
図6】曲がり管の屈曲部分の説明図である。
図7】組糸及び軸糸の形状の概要図である。
図8】曲がり管の編組構造の2次元面積と3次元トーラス形状面積との比較に関する説明図である。
図9】曲がり管の編組構造の2次元面積と3次元トーラス形状面積との比較に関する説明図である。
図10】実施例Aに係る配向角度とカバーファクタの値との関係を示すグラフである。
図11】実施例Bに係る配向角度とカバーファクタの値との関係を示すグラフである。
図12】実施例Cに係る配向角度とカバーファクタの値との関係を示すグラフである。
図13】実施例1の曲がり管の製造に使用するマンドレルの説明図である。
図14】(A)実施例・比較例に係る曲がり管(直線部)の製造方法の説明図である。(B)実施例・比較例に係る曲がり管(屈曲部分)の製造方法の説明図である。
図15】実施例・比較例に係る曲がり管の屈曲部分の中央部分の内側・外側の説明図である。
図16】実施例・比較例に係る曲がり管の破壊試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(曲がり管1)
曲がり管1は、組糸(炭素繊維材料など)による編組構造及び樹脂成形によって構成される繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック: fiber reinforced plastic:FRP)製の管である。本実施形態の曲がり管1は、図1に示すように、断面が円形状をしており、一定の曲げ角度(本実施形態では60°)で曲がった形状をしている。
【0018】
曲がり管1の編組構造は、図3に示すように、複数の組糸71と軸糸72を互いに組み合わせることで形成されている。組糸71は、図3に示すように、曲がり管1の中心軸方向に対して所定の配向角度θ[°]を有して交差している。また、軸糸72は、曲がり管1の中心軸方向の強度を向上させる等の観点から、曲がり管1の中心軸方向に平行になるように複数の組糸71に組み込まれている。
【0019】
組糸71及び軸糸72は、曲がり管1の補強部材としての役割を果たすため、高強度な材料が使用される。具体的には、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素(SiC)繊維などが挙げられ、公知の強度の大きい繊維であれば特に限定されない。また、編組した曲がり管1の形状を保持する観点から、繊維の一部にナイロンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などを使用してもよい。
【0020】
曲がり管1の編組構造に対する樹脂成形に使用する樹脂の材料としては、公知の熱硬化性樹脂であればよく、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0021】
(曲がり管1の屈曲部分の編組構造)
編組構造の曲がり管1を形成する場合、図1に示すように、屈曲部分11の組糸71及び軸糸72を曲がり形状で編組する必要があるが、組糸71及び軸糸72を直線状に編組する場合に比べ、屈曲部分11の内周側11Aでは組糸71及び軸糸72に縮む作用が働き、一方で、屈曲部分11の外周側11Bでは組糸71及び軸糸72が伸びる作用が働き、曲がり管1の編組構造に偏り(強度の差)が生じる場合がある。このような曲がり管1の編組構造に偏りが生じた場合、曲がり管1の耐内圧性能や耐衝撃性能が低下してしまう。
【0022】
そこで、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1の強度面の指標となる、曲がり管1の編組構造の表面積に対する組糸71(及び軸糸72)が占めている割合を示すカバーファクタcf(式6、式7、式9)という指標(値)を用いて曲がり管1の屈曲部分の編組構造を形成する。
ここで、図1及び図3に示すように、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとでは、その編組構造の1セル(組糸71に囲まれた1つの区画:図3(B)参照)あたりの幅f[mm]は同じであるが、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]は異なることから、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf(in)、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf(out)を算出する必要がある。
また、カバーファクタcfの算出には、曲がり管1の編組構造のセルが、組糸71のみから構成されている場合(cf1)と、曲がり管1の編組構造のセルが組糸71及び軸糸72を含む場合(cf2)とを別個考慮する必要がある。
【0023】
具体的には、図3(A)に示すように、曲がり管1の編組構造のセルが、組糸71のみから構成されている場合は、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1(編組構造)の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]などの2次元データに基づく値から、下記(式6)によって、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、下記(式6)によって算出される、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の値が算出される。
【0024】
【数6】
・・・(式6)
【0025】
一方、図3(B)に示すように、曲がり管1の編組構造のセルが、組糸71及び軸糸72を含む場合は、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1(編組構造)の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]に加えて、更に、曲がり管1の編組構造の1セル(組糸71に囲まれた1つの区画:図3(B)参照)あたりの幅f[mm]、軸糸72の幅bm[mm]、及び、軸糸72の数nm[本]などの2次元データに基づく値から、下記(式7)によって、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf2(in)の値、及び、下記(式7)によって、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf2(out)の値が算出される。
【0026】
【数7】
・・・(式7)
なお、図3(A)(B)に示すように、(式7)において、Aは曲がり管1の編組構造の1セルの面積であり、ASは曲がり管1の編組構造の1セルにおける組糸71部分を除いた空隙部の面積であり、Aaは曲がり管1の編組構造の1セルにおける軸糸72(組糸71と重複する部分を除く)部分の面積である。
【0027】
ここで、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)がより生じにくい構成にすることができるのは、曲がり管1の編組構造のセルが組糸71だけでなく軸糸72を含む場合と考えられる。
曲がり管1の編組構造のセルが組糸71だけでなく軸糸72を含む場合、組糸71の数n[本]、軸糸72の数nm[本]、組糸71の繊度fb[dtex]、軸糸72の繊度fm[dtex]、組糸71の引張弾性率Eb[GPa]、軸糸72の引張弾性率Em[GPa]などの2次元データに基づく値から、下記(式8)によって定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすことが好適である。
【0028】
【数8】
・・・(式8)
【0029】
以上を踏まえて、曲がり管1の編組構造が組糸71及び軸糸72を含む場合(図3の曲がり管1の編組構造参照)のカバーファクタcf3の値の算出には、図3(A)に示す、曲がり管1の編組構造が組糸71のみから構成されているセルにおけるカバーファクタcf1と、図3(B)に示す、曲がり管1の編組構造が組糸71及び軸糸72から構成されているセルにおけるカバーファクタcf2とを考慮した、下記(式9)によって算出される、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上の範囲内、且つ、下記(式9)によって算出される、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上の範囲内の条件を満たし、更に、上記(式8)で定義される軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすことにより、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じない、曲がり管1の屈曲部分11の編組構造を形成する(後述する実施例に係る[実施例1~5及び比較例1~5に基づく検証]参照)。
【0030】
【数9】
・・・(式9)
【0031】
なお、上記のように、内側カバーファクタcf(in)の値は100%以下80%以上の範囲内、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値は100%以下80%以上の範囲内の条件を満たすようにしている。
これは、内側カバーファクタcf(in)の値又は外側カバーファクタcf(out)の値が100%を超えると、組糸71(組糸71及び軸糸72)による編組構造により形成された曲がり管1の表面積以上となることから組糸71(組糸71及び軸糸72)の一部が曲がり管1の表面から浮いてしまい、その浮いた部分或いは周辺に負荷等がかかり曲がり管1の耐内圧性能や耐衝撃性能が低下するおそれがあるからである。また、内側カバーファクタcf(in)の値が80%未満又は外側カバーファクタcf(out)の値が80未満であると、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じてしまい、曲がり管1の耐内圧性能や耐衝撃性能が低下するおそれがあるからである。
【0032】
(組糸71及び軸糸72の形状)
また、組糸71及び軸糸72に、炭素繊維材料等(6k,12k)を使用した場合、繊維は細い糸の束であることから、曲がり管1の編組構造を形成する際に断面が完全な真円(図7参照)になるとは考えにくい。そこで、組糸71及び軸糸72の繊維の形状としては、断面を矩形のテープ形状(図7参照)にすることが好ましい。これにより、曲がり管1の屈曲部分11の内周の内側カバーファクタcf(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周の外側カバーファクタcf(out)の値を高めることができ、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)がより生じにくい構成にすることができる。
【0033】
(組糸のみからなる曲がり管のカバーファクタ算出制御方法)
曲がり管1の編組構造の作製に先立ち、曲がり管1の編組構造が組糸71のみから構成される場合(曲がり管1の編組構造が軸糸72を含まない場合)における、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の値の算出処理(算出制御方法)について説明する。
【0034】
まず、ユーザーは、情報処理装置(パーソナルコンピュータなどの制御装置)の入力部により、ユーザーが想定する、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°](曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度θ[°]、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度θ[°])の各種パラメータの値を入力し、情報処理装置が備える記憶部に記憶させる((1A)ステップ)。
【0035】
次に、ユーザーは、情報処理装置の記憶装置にプログラムとして記憶されている上記(式6)に、上記(1A)ステップで記憶部に記憶した、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°](曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度θ[°]、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度θ[°])の各種パラメータの値を代入し、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の値を算出する((1B)ステップ)。
【0036】
そして、上記(1B)のステップで算出した、内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、外側カバーファクタcf1(out)の値を情報処理装置に接続されたディスプレイに表示する((1C)ステップ)。
【0037】
このように、ディスプレイに表示された、内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たす場合には、上記ユーザーが想定した各種パラメータは、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)とならないと値であると推定し、曲がり管1の編組構造の設計値(仕様)とする。
一方、内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たさない、又は、外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たさない場合には、上記ユーザーが想定した各種パラメータは、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じる値であると推定し、各種パラメータの値の変更を行い、再度、上記(1A)ステップ~(1C)ステップの処理を実行する。
【0038】
上記方法によれば、組糸71を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1において、曲がり管1の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい構成にする指標となる、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の値を、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、編組構造の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]などの2次元データに基づき、3次元データに基づき算出した計算値に近似した値として算出することができる。
【0039】
(組糸及び軸糸を含む曲がり管のカバーファクタ算出制御方法)
次に、曲がり管1の編組構造が組糸71及び軸糸72を含む場合(図3の曲がり管1の編組構造参照)における、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf3(out)の値の算出処理(算出制御方法)について説明する。
【0040】
まず、ユーザーは、情報処理装置(パーソナルコンピュータなどの制御装置)の入力部により、ユーザーが想定する、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1の内径D[mm]、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°](曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度θ[°]、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度θ[°])、曲がり管1の編組構造の1セルあたりの幅f[mm]、軸糸72の幅bm[mm]、及び、軸糸72の数nm[本]の各種パラメータの値を入力し、情報処理装置が備える記憶部に記憶させる((2A)ステップ)。
【0041】
次に、ユーザーは、情報処理装置の記憶装置にプログラムとして記憶されている上記(式9)に、上記(2A)ステップで記憶部に記憶した、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1の内径D[mm]、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°](曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度θ[°]、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度θ[°])、曲がり管1の編組構造の1セルあたりの幅f[mm]、軸糸72の幅bm[mm]、及び、軸糸72の数nm[本]の各種パラメータの値を代入し、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf3(out)の値を算出する((2B)ステップ)。
【0042】
そして、上記(2B)のステップで算出した、内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、外側カバーファクタcf3(out)の値を情報処理装置に接続されたディスプレイに表示する((2C)ステップ)。
【0043】
このように、ディスプレイに表示された、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たす場合には、上記ユーザーが想定した各種パラメータは、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)とならないと値であると推定し、曲がり管1の編組構造の設計値(仕様)とする。
一方、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たさない、又は、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たさない場合には、上記ユーザーが想定した各種パラメータは、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じる値であると推定し、各種パラメータの値の変更を行い、再度、上記(2A)ステップ~(2C)ステップの処理を実行する。
【0044】
上記方法によれば、組糸71及び軸糸72を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした3次元の曲がり管1において、曲がり管1の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい構成にする指標となる、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf3(out)の値を、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、編組構造の内径D[mm]、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]、曲がり管1の編組構造の1セルあたりの幅f[mm]、軸糸72の幅bm[mm]、及び、軸糸72の数nm[本]などの2次元データに基づき、3次元データに基づき算出した計算値に近似した値として算出することができる。
【0045】
(曲がり管1の製造方法:編組工程)
次に、曲がり管1の製造方法について説明する。
図2(A)に示すように、曲がり管1の編組構造は、円形ブレイダ20(組機)を用いて作製される。軸糸72は固定された筒22を通って円形ブレイダ20の下部から供給され、組糸71はスピンドル21に巻き付けられている。
また、円形ブレイダ20の中心には、図5に示すように、製造される曲がり管1の屈曲部分11を形成する屈曲形状部分31と屈曲形状部分31の両端の直線形状部分32・33とを有する円筒形のマンドレル30が設置されており、マンドレル30の上部の外周上で組糸71及び軸糸72を組み合わせて曲がり管1の編組構造を形成する。
具体的には、図2(B)に示すように、マンドレル30の表面に編組する曲がり管1の内周面と円形ブレイダ20とが平行に維持されるように、マンドレル30をロボットアーム(不図示)により引き抜くように動作制御された状態で、スピンドル21が軌道23に沿って動くことにより、組糸71及び軸糸72が組み合わされていき、マンドレル30の表面に曲がり管1の編組構造が形成される。
なお、円筒形のマンドレル30の直径は、編組される曲がり管1の内径Dと同じである。
【0046】
ここで、曲がり管1の編組構造が組糸71のみから構成される場合(曲がり管1の編組構造が軸糸72を含まない場合)、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1(編組構造)の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]の各種パラメータの値は、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)とならない、上記(式6)によって算出される、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の範囲内(100%以下80%以上)、且つ、上記(式6)によって算出される、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の範囲内(100%以下80%以上)の条件を満たす必要がある。
即ち、上記各種パラメータは、上記「組糸を含む曲がり管のカバーファクタ算出制御方法」で算出される、内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たす必要がある。
【0047】
このように、組糸71を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1において、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf1(out)の値が上記条件を満たす場合であれば、曲がり管1の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい編組構造をした曲がり管1を製造することができる。
【0048】
また、曲がり管1の編組構造が組糸71及び軸糸72を含む場合(図3の曲がり管1の編組構造参照)は、組糸71の幅bf[mm]、組糸71の数n[本]、曲がり管1(編組構造)の内径D[mm]、及び、組糸71の、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]に加えて、更に、曲がり管1の編組構造の1セル(組糸71に囲まれた1つの区画:図3(B)参照)あたりの幅f[mm]、軸糸72の幅bm[mm]、及び、軸糸72の数nm[本]は、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aと外周側11Bとで編組構造の強度面での偏り(強度の差)とならない、上記(式9)によって算出される、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf3(in)の範囲内(100%以下80%以上)、且つ、上記(式9)によって算出される、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf3(out)の範囲内(100%以下80%以上)の条件を満たす必要がある。
即ち、上記各種パラメータは、上記「組糸及び軸糸を含む曲がり管のカバーファクタ算出制御方法」で算出される、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たす必要がある。
【0049】
このように、組糸71及び軸糸72を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1において、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの外側カバーファクタcf3(out)の値が上記条件を満たす場合であれば、曲がり管1の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい編組構造をした曲がり管1を製造することができる。
【0050】
なお、配向角度θ[°]は、図4に示すように、スピンドル21の公転角速度ω[rad/s]、マンドレル30の直径D[mm]、マンドレル30の引取速度v[mm/s]とした場合、下記(式10)により2次元データとして算出される。
【0051】
【数10】
・・・(式10)
【0052】
また、図6に示すように、曲がり管1の半径R、曲がり管1の屈曲部分11の内周の半径R1、曲がり管1の屈曲部分11の外周の半径R2、曲がり管1の屈曲部分11の内側の円弧の長さL1、曲がり管1の屈曲部分11の外側の円弧の長さL2、曲がり管1の外径2aとした場合、半径と円周との関係により、下記(式11)の関係が成り立つ。
【0053】
【数11】
・・・(式11)
また、マンドレル30の引取速度v[mm/s]と曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ[°]とは、下記(式12)の関係が成り立つ。
【0054】
【数12】
・・・(式12)
そして、曲がり管1の屈曲部分11の内側の円弧の長さL1及び曲がり管1の屈曲部分11の外側の円弧の長さL2は、マンドレル30の引取速度v[mm/s]とは比例関係であることから、曲がり管1の屈曲部分11の内側の円弧上でのマンドレル30の引取速度をv1[mm/s]、曲がり管1の屈曲部分11の外側の円弧上でのマンドレル30の引取速度をv2[mm/s]、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度をθ1[°]、及び、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度をθ2[°]とした場合、下記(式13)の関係が成り立つ。
【0055】
【数13】
・・・(式13)
上記(式10)~(式13)によれば、曲がり管1の半径R、曲がり管1の屈曲部分11の内周の半径R1、曲がり管1の屈曲部分11の外周の半径R2、曲がり管1の屈曲部分11の内側の円弧の長さL1、曲がり管1の屈曲部分11の外側の円弧の長さL2、曲がり管1の外径2aといった2次元データから、曲がり管1の屈曲部分11の内周側11Aの配向角度をθ1[°]と、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの配向角度をθ2[°]との関係を導出することが可能である。
【0056】
(曲がり管1の製造方法:樹脂成形処理)
また、マンドレル30の表面上で曲がり管1の編組構造を形成した後、編組構造の隙間を埋めつつ、耐内圧性能や耐衝撃性能を高めるために、樹脂成形処理が施される。このような曲がり管1の編組構造の樹脂成形処理としては、曲がり管1の編組構造に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などの樹脂成分を加熱処理により含浸させて硬化させる方法や、予めフェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などの樹脂成分を含浸させた繊維(プリプレグ)で作製した組糸71(及び軸糸72)により、曲がり管1の編組構造を形成した後、加熱処理により硬化させる方法などが挙げられる。
また、樹脂成形処理としては特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、RTM(レジン・トランスファー・モールディング:樹脂注入)成形、VaRTM(バキューム・アシスト・レジン・トランスファー・モールディング:真空補助樹脂注入)成形、オートクレーブ成形、プレス成形、内圧成形、シュリンクテープ(熱収縮フィルム)成形などが挙げられる。
上記工程を経て、編組構造及び樹脂成形によって構成される繊維強化樹脂(FRP)製の曲がり管1が製造される。
【0057】
(カバーファクタの値の妥当性について)
本発明では、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1の強度面の指標となる、カバーファクタcf((式6)(式7)(式9)参照)という値を用いて曲がり管1の屈曲部分11の編組構造を形成している。
上記実施形態では、曲がり管1の屈曲部分11の編組構造において、2次元でのセルの面積・カバーファクタcfに基づいて曲がり管1の屈曲部分11の編組構造を形成してきたが、実際には曲がり管1は、3次元のトーラス形状に編組するため、3次元でセルの面積・カバーファクタcfを考える必要がある。
そこで、上記(式6)(式7)(式9)により算出したカバーファクタcfの値が妥当であることを示すために、図8に示すセルの各頂点が内接する四角形(図8のe×fの領域)を拡張セルと定義し、組糸の本数をnとしたときの2次元の拡張セル面積S´と3次元トーラス表面上の拡張面積Sとを比較し、どの程度誤差が生じるか調べた。
【0058】
図8に示すように、曲がり管1の屈曲部分11の外周側11Bの編組構造の1セル(組糸71に囲まれた1つの区画)の横幅をf、縦幅をe、組糸の本数をnとすると、横幅fは下記(式14)、縦幅eは下記(式15)により算出されることから、2次元の拡張面積S´は下記(式16)により算出される。
【数14】
・・・(式14)
【数15】
・・・(式15)
【数16】
・・・(式16)
【0059】
一方、曲がり管1の3次元トーラス表面上の拡張面積S(微小面積)は、図9に示す、トーラス方向の周の長さ(z軸まわりの回転方向)とトーラス断面の円周(φ方向)の長さから求められる。
即ち、微小面積dS(微小区間)は、
z軸まわりの回転方向:2π(R+a cosφ)dz
トーラス断面の円周(φ方向)の長さ:adφ(図9参照)
より、下記(式17)により算出される。
【数17】
・・・(式17)
【0060】
そして、積分区間(図9参照)は、以下とする。
z軸まわりの回転方向:(-β/2)→(β/2)
φ方向:(-2π/n)→(2π/n)
ただし、(式18)に示すβは、拡張セルの縦幅がトーラス全周に占める割合を示す。
これにより、3次元トーラス表面上の拡張面積Sは、下記(式19)により算出される。
【数18】
・・・(式18)
【数19】
・・・(式19)
【0061】
上記(式16)から求められる2次元の拡張セル面積S´と、上記(式19)から求められる3次元トーラス表面上の拡張面積Sとの関係(比率)は、曲がり管1の条件を、例えば、曲がり管1の中心軸方向に対する配向角度θ2=51.4°、曲がり管1の半径R=100mm、曲がり管1の半径a=16mm、組糸の本数n=24本とした場合、S´/S=1.002となり、誤差は1%以内となる。
従って、3次元トーラス形状のカバーファクタは、編組の瞬間は直線状の編組と同じと考え、2次元に近似しても問題ない。
【0062】
(その他の実施形態)
上記実施形態で実行されるカバーファクタを算出する処理は、ソフトウェア(プログラム、データ)として、スマートフォン等の携帯情報機器、ポータブルコンピュータやラップトップコンピュータ、ノートパソコン、タブレット型パソコン、ハンドヘルド型パソコン、PDA(Personal Data Assistant)などに例示される情報処理装置にインストールされて実行されてもよい。この場合、ソフトウェアは、サーバ等から通信手段によりダウンロードされて携帯情報機器内の記憶装置(フラッシュメモリ等)に格納されてもよい。なお、通信手段は、インターネットやケーブルテレビ等の双方向に通信可能な伝送路であってもよいし、一方向にだけ情報を送信する放送であってもよい。
【0063】
また、カバーファクタを算出する処理を実行するソフトウェアは、CD-ROM、DVD-ROM、MO(光磁気ディスク)、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶媒体に格納され、必要に応じて記憶媒体から読み出されて、情報処理装置の記憶部にインストールされてもよい。
【0064】
また、上記実施形態での説明内容は、インターネット(通信回線)を介してスマートフォンやPC等の情報端末(各種パラメータの入力)と情報処理装置(カバーファクタの算出)との間で実行されるサービスとして実施されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態で実行される処理は、スマートフォンやPCにインストールされるプログラムであってもよい。また、上記プログラムは記憶媒体(MEDIUM)に記憶されていてもよい。
【0066】
また、上記実施形態で実行される処理は、情報処理装置を使用した、カバーファクタを算出する算出制御装置として実現されてもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、各手段等の具体的構成は、適宜設計変更可能である。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例0068】
[曲がり管のカバーファクタの算出例]
曲がり管のカバーファクタの算出例を実施例A~Cとして例示する。
【0069】
(実施例A)
実施例Aでは、図10のグラフに示すように、組糸の幅bf[mm]を2mm、曲がり管の内径(マンドレルの外径)D[mm]を26mm、組糸の数n[本]を32本、軸糸は0本として、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変え、曲がり管の屈曲部分の内周側の配向角度θ1[°]を横軸、内側カバーファクタcf(in)の値又は外側カバーファクタcf(out)の値を縦軸としてプロットした。
なお、曲がり管の屈曲部分の外周側の配向角度θ2[°]は、上記(式11)~(式13)により算出可能であることから、図10では記載を省略している。
【0070】
実施例Aでは組糸の数nを32本としており、後述する実施例B(48本)及び実施例C(64本)に比べて少ないことから、配向角度θ1及び配向角度θ2を比較的大きくしたとしても、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができることがわかる。
【0071】
また、実施例Aでは、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変えた場合、曲がり管の半径Rを大きくするほど、内側カバーファクタcf(in)の値と外側カバーファクタcf(out)の値との差は小さくなることから、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができる、配向角度θ1の範囲及び配向角度θ2の範囲を広く設定(設計)することができることがわかる。
【0072】
(実施例B)
実施例Bでは、図11のグラフに示すように、組糸の幅bf[mm]を2mm、曲がり管の内径(マンドレルの外径)D[mm]を26mm、組糸の数n[本]を48本、軸糸は0本として、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変え、曲がり管の屈曲部分の内周側の配向角度θ1[°]を横軸、内側カバーファクタcf(in)の値又は外側カバーファクタcf(out)の値を縦軸としてプロットした。
なお、曲がり管の屈曲部分の外周側の配向角度θ2[°]は、上記(式11)~(式13)により算出可能であることから、図11では記載を省略している。
【0073】
実施例Bでは組糸の数nを48本としており、後述する実施例C(64本)に比べて少ないことから、配向角度θ1及び配向角度θ2を実施例Cよりも大きくしたとしても、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができることがわかる。
【0074】
また、実施例Bでも、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変えた場合、曲がり管の半径Rを大きくするほど、内側カバーファクタcf(in)の値と外側カバーファクタcf(out)の値との差は小さくなることから、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができる、配向角度θ1の範囲及び配向角度θ2の範囲を広く設定(設計)することができることがわかる。
【0075】
(実施例C)
実施例Cでは、図12のグラフに示すように、組糸の幅bf[mm]を2mm、曲がり管の内径(マンドレルの外径)D[mm]を26mm、組糸の数n[本]を64本、軸糸は0本として、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変え、曲がり管の屈曲部分の内周側の配向角度θ1[°]を横軸、内側カバーファクタcf(in)の値又は外側カバーファクタcf(out)の値を縦軸としてプロットした。
なお、曲がり管の屈曲部分の外周側の配向角度θ2[°]は、上記(式11)~(式13)により算出可能であることから、図12では記載を省略している。
【0076】
実施例Cでは組糸の数nを64本としており、前述した実施例A(32本)及び実施例B(48本)に比べて多いことから、配向角度θ1及び配向角度θ2を実施例A又は実施例Bよりも小さくしなければ、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができないことがわかる。
【0077】
また、実施例Cでも、曲がり管の半径Rを60mm、90mm又は120mmと変えた場合、曲がり管の半径Rを大きくするほど、内側カバーファクタcf(in)の値と外側カバーファクタcf(out)の値との差は小さくなることから、内側カバーファクタcf(in)の値が100%以下80%以上の条件を満たし、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値が100%以下80%以上の条件を満たすことができる、配向角度θ1の範囲及び配向角度θ2の範囲を広く設定(設計)することができることがわかる。
【0078】
[実施例1~5及び比較例1~5に基づく検証]
本発明では、組糸及び軸糸を組み合わせて形成され、断面が円形状の編組構造をした曲がり管において、曲がり管の屈曲部分の内周の内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下80%以上で、且つ、曲がり管の屈曲部分の外周の外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下80%以上であって、軸糸比率Rmが、Rm≧0.50の条件を満たすことにより、曲がり管の内側と外側とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じにくい構成にしている。
【0079】
そこで、本実施例では、実施例1~5および比較例1~5に係る曲がり管を作製し、〈曲がり管のVf(繊維体積含有率)の測定〉、〈曲がり管の引張弾性率の測定〉、〈曲がり管の破壊試験〉を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0080】
(繊維強化樹脂(FRP)製の曲がり管の構成)
〈曲がり管の編組構造に用いる組糸及び軸糸〉
表1に、曲がり管の編組構造に用いる組糸及び軸糸を構成する炭素繊維1~3を記載した。
【表1】
〈曲がり管に用いる樹脂組成物〉
・熱硬化性樹脂:ビニルエステル樹脂(銘柄CBZ500LM-AS、粘度200~350mPa・s、日本ユピカ製)
・促進剤:銘柄PR-CBZ01(日本ユピカ製)
・硬化剤:328E(化薬ヌーリオン製)
【0081】
(曲がり管の製造方法)
実施例1~5および比較例1~5に係る曲がり管の製造方法としては、表2に示す、軸糸比率(Rm)及びカバーファクター(cf3)となるように、実施例1~5・比較例1~5に記載の編組構造を形成し、さらにそれらに樹脂成形することによって、繊維強化樹脂(FRP)製の曲がり管をそれぞれ作製した。
【0082】
【表2】
【0083】
下記に曲がり管の製造方法について説明する。
1)3Dプリンター(Creater3,FLASHFORGE製)と3Dプリンター用ポリ乳酸フィラメント(PLA-F35,FLASHFORGE製)でマンドレルを作製した。
表2の実施例1~5・比較例1~5に記載した、直径D、曲率半径Rを設定し、曲げ角度を60°にし、両端の直線部(チャック部)の長さをそれぞれ100mmに固定してそれぞれマンドレルを作製した。実施例1のマンドレルを図13に示す。
【0084】
2)ボビンを組糸用と軸糸用として必要な本数分それぞれ用意した。
組糸及び軸糸として使用する炭素繊維を、1錘半自動ボビンワインダー(KUW-100,コクブンリミテッド製)で製紐機用ボビンに巻返した。
【0085】
3)上記ボビンを製紐機(40Z032C,コクブンリミテッド製)の組糸用キャリアー(スピンドル)と軸糸用キャリアー(スピンドル)に取り付けた。
【0086】
4)マンドレルをNACHIロボットアーム(MZ10LF,不治越)に取付けた。
【0087】
5)キャリアーに取り付けたボビンから組糸と軸糸を引張り出して、マンドレルの積層開始地点に固定した。
【0088】
6)マンドレルの直線部は、下記(式20)で算出した引取速度γ1でマンドレルを引き取って製紐した。このとき、製紐機とマンドレル(直線部)の引抜方向の軸が垂直になるように保持しながら製紐した(図14(A))。
【0089】
【数20】
・・・(式20)
θ:配向角度(°)
f:キャリアーの回転周波数(Hz)
r:マンドレルの半径(mm)
γ1:マンドレルの引取速度
ωc:キャリアーの角速度(rad/s)
【0090】
7)マンドレルの屈曲部分は、上記(式20)で算出した引取速度γ1でマンドレルを引き取って製紐した。このとき、製紐機とマンドレル(屈曲部分)の引抜方向の軸が垂直になるように、ロボットアームで角度を調整しながら曲がり管の編組構造を形成した(図14(B))。ロボットアームの角度制御は、下記(式21)で算出した角速度wrを用いた。
【0091】
【数21】
・・・(式21)
θin:曲がり管の屈曲部分の内側の配向角度(°)
R:マンドレルの曲率半径(mm)
r:マンドレルの半径(mm)
ωc:キャリアーの角速度(rad/s)
ωr:ロボットアームの角速度(rad/s)
【0092】
8)真空(-0.1MPa)に調整した金型内に、表面上に編組構造を形成したマンドレルを配置して、RTM法により樹脂成分(ビニルエステル樹脂組成物)を加圧注入後、常温で3時間、80℃雰囲気下で2時間放置して硬化させFRP製の曲がり管を形成した。
金型から離型した後、FRP製の曲がり管を200℃に加熱し、マンドレルを溶かして除去し内部が中空の曲がり管を得た。一例として表2の実施例1で得られた曲がり管の図を図15に示す。
【0093】
(試験方法)
〈曲がり管のVf(繊維体積含有率)の測定〉
JIS K7075(1991)に準拠した方法で、試験片の質量を燃焼法で測定し、試験片の密度を測定した後、得られた値を下記(式22)にあてはめて繊維体積含有率Vfを算出した。
【数22】
・・・(式22)
f:繊維質量含有率(%)
W:試験片の質量(g)
1:ニクロム線を含む試験片の質量(g)
2:燃焼後のニクロム線を含む試験片の質量(g)
f:繊維体積含有率(%)
ρc:試験片の密度(g/cm3
ρf:試験片に用いられている炭素繊維の密度(g/cm3
【0094】
〈曲がり管の引張弾性率の測定〉
上記の方法で作製した曲がり管の屈曲部分の中央部分から、L50mm×W5mm×1.5tmmの寸法の試験片を、内側、外側から1カ所ずつウォータージェット法にて採取した(図15参照)。
そして、曲がり管の屈曲部分の中央部分の内側、外側から採取した試験片について、JIS K7164(2005)に準拠した方法で、温度23±2℃、湿度50±10%の環境下で、速度1mm/minにて引張試験を行い、得られた応力-ひずみ曲線から、引張弾性率Eを下記(式23)によって算出した。
【0095】
【数23】
・・・(式23)
【0096】
この試験では、傾きが直線となる領域をひずみの読み取り範囲として、
σ1:ひずみε1=0.0025において測定された引張応力(MPa)
σ2:ひずみε2=0.0050において測定された引張応力(MPa)
とした引張弾性率Eを上記(式23)によって算出している。
そして、曲がり管の屈曲部分の中央部分の内側から採取した試験片での引張弾性率をE(in)(図15参照)、曲がり管の屈曲部分の中央部分の外側から採取した試験片での引張弾性率をE(out) (図15参照)とした。
【0097】
〈曲がり管の破壊試験〉
上記の方法で作製した曲がり管について、上記の「曲がり管の引張弾性率の測定」で行った引張試験方法に準じた方法で、図16に示すチャック部分をチャックで掴み、試験速度を6mm/minとして、試験片が破壊するまでの引張応力(試験力:F)を測定し、下記(式24)によって破壊強度を算出した(試験回数は各3回)。
〈曲がり管の破壊試験方法〉
・機器類
オートグラフ:アムスラー
ひずみゲージ:KFGS-2-120-C1-11LIM3R 共和電業
ひずみゲージ用接着剤:CC-33A 共和電業
・状態調節
温度23±2℃、湿度50±10%、16時間以上
・試験条件
試験環境:温度23±2℃、湿度50±10%
ロードセル容量:100kN
試験速度:6mm/min
試験回数:3回
チャック部:チャックによる潰れ防止のため芯金挿入
【0098】
【数24】
・・・(式24)
σ:破壊強度(MPa)
F:試験力(N)
A:断面積(mm2
【0099】
(試験結果について)
〈曲がり管の合否判定基準の決定〉
FRP製の曲がり管は、金属部品(例えば、アルミニウム合金)の代替品として採用されることが多いため、アルミニウム合金の代替えの観点から、アルミニウム合金相当の強度特性(弾性率)を保持すれば合格とした。強度特性としては、上記の引張試験で算出される、曲がり管の屈曲部分の中央部分の引張弾性率を指標値とした。
【0100】
また、曲がり管においては各部位での強度特性が均等であることが好ましい。
しかし、曲がり管の屈曲部分では繊維部材の状態の都合で内側と外側とで強度特性に差異が生じやすい。そのため、湾曲部曲がり管の屈曲部分の内側と外側との強度物性と差異ができる限り小さくなるように編組構造を形成するのが好ましい。
曲がり管の屈曲部分の内側と外側との強度物性の差異が大きいと、曲がり管に負荷がかかって曲がり管の屈曲部分に応力が集中した際に弾性率の大きい側が破壊してしまう場合がある。そのため、曲がり管の屈曲部分の内側と外側との強度物性が均等であるほど、曲がり管の屈曲部分に応力が集中しても破壊には至らない。
以上の観点から、曲がり管の強度特性の合否判定については、曲がり管の屈曲部分の中央部分の内側から採取した試験片での引張弾性率E(in)、曲がり管の屈曲部分の中央部分の外側から採取した試験片での引張弾性率E(out)を測定し、それらの比E(in)/E(out)が1に近い(すなわち、曲がり管の屈曲部分の内側と外側との強度物性が均等)かどうかを判定基準とした。E(in)/E(out)が1に近い態様を好ましい態様とし、曲がり管の破壊試験の結果からE(in)/E(out)の許容される範囲を設定した。
具体的には、表2に記載の実施例1~5、比較例1~5のうち、E(in)/E(out)の測定結果が異なる実施例2[E(in)/E(out)=1.05]、実施例3[E(in)/E(out)=0.90]、実施例5[E(in)/E(out)=1.00]、比較例1[E(in)/E(out)=0.82]、比較例5[E(in)/E(out)=1.73]の曲がり管について破壊試験を行い、その結果を表3に示した。
E(in)に比べE(out)が大きい比較例1では、応力集中により341MPaにて曲がり管の屈曲部分の外側が破壊した。
E(out)に比べE(in)が大きい比較例5では、応力集中により720MPaにて曲がり管の屈曲部分の内側が破壊した。
それらに対し、E(in)とE(out)が同等な実施例2、3、5では、1,000MPaを超えても曲がり管の屈曲部分は破壊せず、最終的には曲がり管の屈曲部分ではないチャック部付近で破壊した。
以上の結果から、破壊強度が1,000MPa以上となる曲がり管をアルミニウム合金相当の強度特性(弾性率)を保持した合格レベルと判定し、その破壊強度が得られた実施例2、3、5のE(in)/E(out)の比から、E(in)/E(out)の許容される範囲を0.85~1.05と設定した。
この判定基準により、表2に示す実施例1~5、比較例1~5について、E(in)/E(out)が0.85~1.05の範囲に入る曲がり管をAランク(合格)、入らない曲がり管をBランク(不合格)と判定した。
【0101】
【表3】
【0102】
〈曲がり管の試験結果〉
[比較例1:cf3(in)=80~100%、cf3(out)=80~100%、Rm≧0.50のいずれも満たさない例]
比較例1は、cf3(in)が78.7%、cf3(out)が77.9%、軸糸比率Rmが0(軸糸を用いない)の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.82となり、曲がり管の内側と外側とで強度が均等でなく、Bランク(不合格)であった。
【0103】
[比較例2:Rm≧0.50は満たすが、cf3(in)=80~100%、cf3(out)=80~100%は満たさない例]
比較例2は、cf3(in)が73.4%、cf3(out)が62.0%、軸糸比率Rmが0.50の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.83となり、曲がり管の内側と外側とで強度が均等でなく、Bランク(不合格)であった。
【0104】
[比較例3:cf3(in)=80~100%、は満たすが、cf3(out)=80~100%、Rm≧0.50は満たさない例]
比較例3は、cf3(in)が99.8%、cf3(out)が77.5%、軸糸比率Rmが0の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.24となり、曲がり管の内側と外側とで強度が均等でなく、Bランク(不合格)であった。
【0105】
[比較例4:cf3(in)=80~100%、cf3(out)=80~100%は満たすが、Rm≧0.50は満たさない例]
比較例4は、cf3(in)が95.8%、cf3(out)が87.9%、軸糸比率Rmが0.40の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.80となり、曲がり管の内側と外側とで強度が均等でなく、Bランク(不合格)であった。
【0106】
[比較例5:cf3(in)=80~100%、Rm≧0.50は満たすが、cf3(out)=80~100%は満たさない例]
比較例5は、cf3(in)が99.5%、cf3(out)が48.0%、軸糸比率Rmが0.50の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が1.73となり、曲がり管の内側と外側とで強度が均等でなく、Bランク(不合格)であった。
【0107】
[実施例1]
実施例1は、cf3(in)が82.2%、cf3(out)が81.5%、軸糸比率Rmが0.50の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.99となり、曲がり管の内側と外側での強度が均等なAランク(合格)であった。
【0108】
[実施例2]
実施例2は、cf3(in)が90.1%、cf3(out)が89.4%、軸糸比率Rmが0.50の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が1.04となり、曲がり管の内側と外側での強度が均等なAランク(合格)であった。
【0109】
[実施例3]
実施例3は、cf3(in)が99.9%、cf3(out)が99.6%、軸糸比率Rmが0.50の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.86となり、曲がり管の内側と外側での強度が均等なAランク(合格)であった。
【0110】
[実施例4]
実施例4は、cf3(in)が100%、cf3(out)が95.0%、軸糸比率Rmが0.67の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が0.91となり、曲がり管の内側と外側での強度が均等なAランク(合格)であった。
【0111】
[実施例5]
実施例5は、cf3(in)が100%、cf3(out)が99.1%、軸糸比率Rmが0.67の編組構造を用いた例であるが、曲がり管のE(in)/E(out)が1.00となり、曲がり管の内側と外側での強度が均等なAランク(合格)であった。
【0112】
なお、cf3の上限側については、cf3(in)が100%を超える態様、cf3(out)が100%を超える態様、およびcf3(in)とcf3(out)の両者が100%の態様は、現実的に製造が不可能であるので、検証を行っていない。
【0113】
以上の結果から、cf3(in) =80~100%、cf3(out)=80~100%、Rm≧0.50を全て満たす編組構造を用いた曲がり管では、屈曲部分の内側と外側との強度物性が均等(E(in)/E(out)が0.85~1.05の範囲)となり、アルミニウム合金相当の強度特性(弾性率)を保持できることが確認できた。
【符号の説明】
【0114】
1 曲がり管
11 屈曲部分
11A 屈曲部分の内周側
11B 屈曲部分の外周側
20 円形ブレイダ
21 スピンドル
22 筒
30 マンドレル
71 組糸
72 軸糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16