(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080664
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】吸音パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21J 7/00 20060101AFI20240606BHJP
D21J 5/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
D21J7/00
D21J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023202401
(22)【出願日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】102022000024846
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】523453019
【氏名又は名称】インパクト アコースティック アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】IMPACT ACOUSTIC AG
【住所又は居所原語表記】Bodenhof 4,6014 Luzern,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【弁理士】
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】コルチャゴ イザベラ
(72)【発明者】
【氏名】ガッテリ マッシモ
(72)【発明者】
【氏名】ギラルディ ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ミラーニ パオロ
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF09
4L055AG71
4L055AH03
4L055BE08
4L055BE11
4L055BF08
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA20
4L055GA50
(57)【要約】
【課題】現在、製造可能であるパネルは、機械的特性は良好だが吸音特性が不十分であるもの、またその逆のものである。
【解決手段】吸音パネル(F)を製造するための方法は、予め定められた量のセルロース繊維を準備するステップを含む。セルロース繊維は0.5mmから5mmの間、好ましくは1.3mmから2.5mmの間の平均長さを有する。本方法はさらに、パルプ(P)を形成するためにセルロース繊維を水盤(100)に浸漬するステップと、パルプ(P)を成形金型(200)上に堆積させるステップとを含む。本方法はさらに、パルプ(P)に含まれる水分を少なくとも部分的に除去して繊維マット(T)を製造するためにパルプ(P)を圧縮するステップを含む。本方法はまた、吸音パネル(F)を形成するために繊維マット(T)内に残留する水分を蒸発させるために前記繊維マット(T)を乾燥させるステップを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音パネル(F)を製造するための方法であって、
-予め定められた量のセルロース繊維を準備するステップであって、前記セルロース繊維が0.5mmから5mmの間の平均長さを有し、好ましくは前記平均長さが1.3mmから2.5mmの間である、ステップと、
-パルプ(P)を形成するために前記セルロース繊維を水盤(100)に浸漬するステップと、
-前記パルプ(P)を成形金型(200)上に堆積させるステップと、
-前記パルプ(P)に含まれる水分を少なくとも部分的に除去して繊維マット(T)を製造するために前記パルプ(P)を圧縮するステップと、
-前記吸音パネル(F)を製造するべく前記繊維マット(T)内に残留する水分を蒸発させるために前記繊維マット(T)を乾燥させるステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記パルプ(P)に予め定められた色を付与するために少なくとも1つの染料(C)を前記水盤(100)に添加するステップを含み、前記少なくとも1つの染料(C)は天然染料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記染料(C)は粉末染料であり、好ましくは前記染料(C)は20μmから80μmの間の粒径を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
-前記圧縮するステップ中に前記パルプ(P)から除去された水を収集するステップと、
-前記収集した水を前記水盤(100)に導入するステップと、をさらに含む請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記導入するステップの前に、前記少なくとも1つの染料(C)を除去するために前記収集した水を浄化するステップを含む、請求項2または3に従属する場合の請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥させるステップは、30℃から45℃の間の温度で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乾燥させるステップに続いて、前記吸音パネル(F)の少なくとも一表面に防水成分を含む水溶液を塗布するステップを含み、好ましくは前記防水成分はアクリル製品である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法に従って製造される吸音パネル(F)であって、100kg/m3から700kg/m3の間の密度値を有し、好ましくは前記密度値は150kg/m3から350kg/m3の間である、吸音パネル(F)。
【請求項9】
0.4から1αwの間の吸音値を有する、請求項8に記載の吸音パネル(F)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音パネルの製造方法に関する。
【0002】
「吸音パネル」という用語は、騒音の吸収とその結果としての残響の低減とを通じて、音響的に隔離された、および/またはより快適な環境を作ることを目的とした被覆材を指す。具体的には、吸音パネルは、建物および住宅における音波の伝播を制限できるパネルである。
【背景技術】
【0003】
吸音パネルは通常、例えば、グラスウールおよびロックウール、木毛およびセメント、ポリエステルおよび様々な種類のポリマー発泡フォームを含む、様々な種類の多孔質および/または繊維状の材料で作られる。
【0004】
一般に、合成材料で作られた吸音パネルは環境に優しくなく、目に見えるように設置された場合、特に美観を損ねる。
【0005】
吸音パネルはまた、天然の繊維状のポリマーであるセルロースを含む、植物または動物由来の材料および繊維から作られ得る。このような状況では、繊維の長さおよび製造される材料の最終密度レベルによって、パネルは多かれ少なかれ明白である。
【0006】
しかしながら、よく知られているように、セルロース繊維の使用には、吸音パネルの機械的安定性、強度および脆弱性の問題が伴う。
【0007】
この問題を克服するために、合成添加剤を使用することが知られている。
【0008】
特に、より良い機械的特性をセルロース繊維で作られたパネルに与えるために、紙および/または包装産業の典型的なプロセスを使用してこれらの繊維を加工することが知られている。より具体的には、製造されるパネルのより良い機械的シールを保証するために必要な微小繊維を生成するには、セルロース繊維を水中で前処理する(精製と呼ばれる)ステップが必要である。
【0009】
このような状況では、製造されるセルロース繊維パネルの厚さは特に薄く、通常は数ミクロンから数ミリメートルの範囲にある。しかしながら、これらのパネルは、より良い機械的特性を有するが、それらの吸音能力は不十分である。
【0010】
言い換えれば、これらのパネルは、吸音特性を損ねるほどに、優れた機械的特性を備える。
【0011】
パネルはまた、セルロース繊維と、より良い機械的特性を与えることが知られている、もともと木材に含まれる別の天然ポリマーである(木材に典型的な茶色を付与する)リグニンとで、作られ得る。しかしながら、この状況においても、得られるパネルは優れた機械的特性を有するが、吸音特性を有しない。
【0012】
吸音パネルを製造するためのいくつかの方法およびそのバリエーションも知られている。
【0013】
第1の方法によれば、未精製の木材繊維、したがって、一部のセルロースと一部のリグニンとを含む未精製の木材繊維は、パルプを形成するために水中に分散され、パルプは次いで高圧高温で圧縮される。
【0014】
この方法により、リグニン自体が木材繊維の結合剤であるパネルの製造が可能になる。
【0015】
繊維の分散ステップ中に、パネルに特定の色を付与するために、当該方法はまた、合成染料(通常は樹脂)を添加するステップを含んでもよい。
【0016】
不利なことに、パネルの製造の全プロセスにおいて、使用される水は、繊維を結合するために使用された接着剤の残留物および合成染料の残留物を含むので、再利用不可能である。この状況では、接着剤および染料は通常有毒であるので、水を浄化して新しいパネルの形成に再利用することは不可能である(または、いずれにしても非常にコストがかかる)。
【0017】
未精製の木材繊維を水に分散させる代わりに、樹脂を使用して乾燥した繊維を結合することが可能であり、当該樹脂は、パネルを作るために未精製の木材繊維と一緒に圧縮される。
【0018】
不利なことに、前述の方法は非常にエネルギーを大量に消費する。
【0019】
第2の方法によれば、セルロース繊維は高温で熱処理される。より詳細には、繊維の分散は、ブロー動作であって、その間に繊維が結合剤(例えば、樹脂または接着剤)で結合され、次いで熱圧縮されるブロー動作によって行われる。また、結合プロセスは従来、接着剤または合成樹脂を使用して実行される。
【0020】
しかしながら、前述の乾燥プロセスに適用可能なほとんどの市販の樹脂にはホルムアルデヒドが多く含まれており、ホルムアルデヒドは、得られたパネルが屋内に適用される場合にこれらの物質を吸入することによって引き起こされ得る病気により、環境および健康に重大な問題を引き起こす。
【0021】
言い換えれば、現在、製造可能であるパネルは、機械的特性は良好だが吸音特性が不十分であるもの、またその逆のものである。
【発明の概要】
【0022】
したがって、本発明の技術的課題は、従来技術から生じる欠点を克服できるパネルの製造方法を提供することである。
【0023】
したがって、本発明の目的は、優れた機械的特性と同時に優れた吸音特性を有する吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、見た目に美しい吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、よりエネルギー効率の高い吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0026】
したがって、本発明のさらなる目的は、水の使用を削減する吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0027】
本発明のさらなる目的は、環境への影響がより低く、したがって、環境的に持続可能な吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0028】
本発明のさらなる目的は、より容易に実現可能な吸音パネルの製造方法を提供することである。
【0029】
示された技術的課題および特定された目的は、添付の特許請求の範囲の請求項の1つまたは複数に記載された技術的特徴を含む吸音パネルの製造方法によって実質的に達成される。従属請求項は、本発明の可能な実施形態に対応する。
【0030】
本発明のさらなる特徴および利点は、吸音パネルの製造方法の実施形態の例示的、したがって非限定的な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
このような説明は、添付図面を参照して以下に記載されるが、添付図面は単なる例示であり、したがって非限定的な目的で提供される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明による吸音パネル“F”の製造方法は、予め定められた量のセルロース繊維を準備するステップを含む。
【0033】
本発明の一態様によれば、セルロース繊維は0.5mmから5mmの間の長さを有する。
【0034】
好ましくは、セルロース繊維の平均長さは、1.3mmから2.5mmの間である。
【0035】
有利なことに、本発明による方法で使用されるセルロース繊維の長さにより、セルロースはより容易に加工可能となる。
【0036】
さらに、セルロース繊維の長さにより、結合剤を添加する必要なしに且つ従来技術の場合のようなリグニンの存在なしに、吸音パネル“F”は十分に硬くなる。
【0037】
有利なことに、本発明による方法で使用されるセルロース繊維の長さにより、以下に説明するように、その加工で消費される水の量を少なくすることが可能である。
【0038】
有利なことに、本発明による方法で使用されるセルロース繊維の長さは、セルロースが容易に得られるので、全プロセスに関連するコストを削減する。
【0039】
本方法は、パルプ“P”を形成するためにセルロース繊維を水盤100に浸漬するステップをさらに含む。
【0040】
この状況において、パルプ“P”を形成するためにセルロース繊維は水中に分散される。
【0041】
可能な実施形態によれば、本方法は、パルプ“P”に予め定められた色を付与するために、水に少なくとも1つの染料“C”を添加するステップを含む。
【0042】
言い換えれば、最終的な吸音パネル”F”に予め定められた色を付与することが意図される場合に、パルプ“P”が染料“C”を吸収するように、染料“C”が水盤100であって、パルプ“P”を形成するためにセルロース繊維が浸漬された水盤100に添加される。
【0043】
好ましくは、使用される染料は天然タイプの染料、例えば鉱物染料である。
【0044】
好ましくは、染料“C”は、例えば20μmから80μmの間の粒径を有する粉末染料である。
【0045】
好ましくは、染料“C”はカオリンおよび少なくとも1つの追加成分からなる。
【0046】
例えば、酸化鉄および酸化マンガンをカオリンと混合して、カオリンにシエナ色、すなわち赤色を付与することができる。
【0047】
一例として、炭酸カルシウム、炭酸マンガンおよび炭酸鉄をカオリンと混合して、カオリンに黒色を付与することができる。
【0048】
有利なことに、天然染料の使用により、着色され且つ同時に安全な吸音パネル“F”の製造が可能になる。特に、天然染料は、従来技術で使用されているホルムアルデヒドベースの樹脂からの有害な吸入の可能性から生じる問題を排除する。
【0049】
さらに、天然染料を使用することにより、吸音パネル“F”の製造の全プロセスの環境への影響が軽減される。天然染料は容易に廃棄でき無害であるからである。
【0050】
続いて、セルロース繊維を水に浸漬して得られたパルプ“P”は成形金型200上に堆積される。
【0051】
好ましくは、成形金型200は、最終的な吸音パネルFに与えることが意図された形状の断面を有する。
【0052】
分散ステップに続いて、本方法は、パルプ“P”に含まれる水分を少なくとも部分的に除去して繊維マット”T”を作るための、パルプ“P”の圧縮ステップを含む。
【0053】
言い換えれば、圧縮ステップ中、パルプ“P”に含まれる水分を除去し且つパルプ“P”に最終的な吸音パネル“F”に望ましい形状を与えるように、パルプ“P”は粉砕および圧搾される。
【0054】
例として、
図1は、下半型が成形金型200であり且つ上半型が下半型に接近してパルプ”P”を圧縮して繊維マット”T”を形成する圧縮を示す。
【0055】
可能な実施形態によれば、本方法は、圧縮ステップで発生した水を収集するステップを含む。
【0056】
より詳細には、圧縮ステップ中、パルプ”P”に含まれる水が排出されると、水は例えば容器300に収集される。この状況において、本方法は、さらなる吸音パネル“F”を製造するために、収集された水を盤100に供給するステップを含む。
【0057】
言い換えれば、圧縮ステップで発生した水は収集され、さらなる吸音パネル“F”を製造するためにセルロース繊維を浸漬するための水として再利用される。
【0058】
有利なことに、収集および取込ステップを通じて、吸音パネル“F”の製造に使用される水の90%を回収することができる。
【0059】
浸漬ステップ中に染料”C”が添加された場合、圧縮ステップで発生した水にも染料”C”の一部が含まれる。この状況において、本方法はまた、取込ステップの前に、収集した水に含まれる染料”C”を除去するために、収集した水を精製するステップを含む。
【0060】
有利なことに、天然染料”C”、特に粉末染料の使用により、たとえ浸漬ステップで着色されていたとしても、圧縮で発生した水を再利用することが可能になる。
【0061】
さらに、たとえ水が再利用されなかったとしても、染料”C”は天然のものであるので、その廃棄は(単純なデカントプロセスを通じて)容易であり、環境に害を及ぼさない。
【0062】
圧縮ステップに続いて、パルプ”P”は水分を除去するために「圧搾され」、繊維マット”T”を形成するために変形される。
【0063】
この状況において、本方法は、吸音パネル“F”を製造することによって繊維マット”T”自体に残留する水分を蒸発させるように、繊維マット”T”を乾燥させるステップを含む。
【0064】
好ましくは、乾燥ステップは30℃から45℃の間の温度で行われる。
【0065】
有利なことに、繊維マット”T”をそのような温度で乾燥することにより、乾燥オーブンなどの使用が回避され、関連するエネルギー消費が大幅に削減される。
【0066】
本方法の一実施形態によれば、乾燥ステップの最後に、本方法は、吸音パネル”F”の少なくとも一表面に防水成分を含む水溶液を塗布するステップを含む。
【0067】
好ましくは、防水成分はアクリル製品である。
【0068】
可能な実施形態によれば、この防水成分は着色されている。
【0069】
水溶液には、パネル”F”に特定の技術的性能を保証できる他の成分、例えば水溶性耐火成分なども含まれてもよい。
【0070】
有利なことに、水溶液の塗布により、吸音パネル”F”が水または湿気と接触した場合に吸音パネル”F”の損傷が防止される。
【0071】
上述の方法に従って製造された吸音パネル”F”も本発明の主題である。
【0072】
このようにして製造された吸音パネル”F”は、100kg/m3から700kg/m3の間、好ましくは150kg/m3から350kg/m3の間の密度値を有する。
【0073】
得られた吸音パネル”F”の吸音値は0.4から1αwの間である。
【0074】
有利なことに、上述の方法を使用して製造された吸音パネル”F”は、接着剤、溶剤、樹脂またはその他の非天然材料および有毒材料/物質を含まないので、完全にリサイクル可能である。
【0075】
言い換えれば、上述の方法で製造された吸音パネル”F”は、例えば損傷した場合、新しい吸音パネル”F”が形成されるまで本方法のステップを繰り返すために、新しいパルプ”P”を形成するために再び水に浸漬され得る。
【0076】
本発明は、従来技術の欠点を克服して意図された目的を達成する。
【0077】
上記に従った長さのセルロース繊維を使用することにより、既知の方法よりも使用する水の量を少なくすることができ、成形金型200上でのパルプPの分散が容易となる。
【0078】
有利なことに、接着剤および/または合成染料が使用されないという事実により、パルプ”P”の圧縮で発生した水を再利用することが可能となり、廃棄物および関連コストが削減される。
【0079】
さらに、接着剤および/または化学染料が使用されないという事実により、吸音パネル”F”の製造プロセスおよび使用は健康のために安全となる。
【0080】
本方法はまた、吸音パネル”F”の製造の全プロセスのエネルギー消費量も削減する。特に、吸音パネル”F”を主張した温度で乾燥することにより、エネルギーを大量に消費する窯および乾燥機の使用が回避される。
【外国語明細書】