(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080686
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ポリマー組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20240606BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240606BHJP
C08F 297/04 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L53/02
C08F297/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023203683
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】63/385,844
(32)【優先日】2022-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523064398
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・ネーデルラント・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チュオン,フク
(72)【発明者】
【氏名】ダーマラジャン,ナラヤナスワミ
(72)【発明者】
【氏名】ラガベンドラン,ベンカトクリシュナ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002BP012
4J002CN011
4J002GN00
4J002GQ00
4J026HA06
4J026HA26
4J026HA39
4J026HB15
4J026HB26
4J026HB39
4J026HB48
4J026HB50
(57)【要約】
【課題】強靱性、剛性、及び加工性を含めて、バランスのとれた特性を有する改善された耐衝撃性改質剤を提供すること。
【解決手段】本開示は、加工性に対する影響が最小の、改善された耐衝撃性のための、エポキシ官能化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)を含有する耐衝撃性改良ポリアリーレンスルフィド組成物であって、e-SBCがエポキシ官能化非水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-USBC)、又はエポキシ官能化部分水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-pHSBC)、又はエポキシ官能化水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-HSBC)である、ポリアリーレンスルフィド組成物に関する。改善されたPPS組成物を使用して、電子部品、例えば、当然これらに限定されないが、コネクター、ボビン、コイル、リレーなどを作製することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド組成物であって、
a)60~98重量%のポリフェニレンスルフィド、
b)2~40重量%の第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)であって、
前記第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマーが、A-B、A-B-A、A-B-A-B、(A-B-A)nX、(A-B)nX、及びこれらの混合物から選択される一般構成を有するスチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体をエポキシ化することにより得られ、
各ブロックAが少なくとも1種のモノアルケニルアレーンポリマーブロックであり、
各ブロックBが少なくとも1種の共役ジエンポリマーブロックであり、
xがカップリング剤の残基であり、
n≧1であり、
エポキシ化後、前記エポキシ化スチレン系ブロックコポリマーがブロックBの重量に対して1~35重量%のエポキシ官能基を有するように、前記ブロックBが脂肪族二重結合においてエポキシ化され、
前記第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマーが0.05~20mmol/gの残留不飽和(RU)を有する、第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー、
c)45重量%以下の任意選択の耐衝撃性改質剤、及び
d)10重量%以下の少なくとも1種の添加剤
を含む、ポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項2】
前記スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体が水素化されて、少なくとも97%の水素化レベルを有する水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体を形成する、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項3】
前記スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体が部分的に水素化されて、15~97%の水素化レベルを有する部分水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体を形成する、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項4】
前記部分水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体が、6~80%のビニル含有量を有する、請求項3に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項5】
第2のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)をさらに含み、該第2のe-SBCが前記第1のe-SBCとは異なる、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項6】
前記第1及び第2のe-SBCが、部分水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体をエポキシ化することにより形成される、請求項5に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項7】
前記第1及び第2のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)が、15~99%のエポキシ化度を有する、請求項5に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項8】
前記スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体が、10~40%のポリスチレン含有量(PSC)を有する、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項9】
前記スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体が、1~150kg/モルの分子量Mpを有するブロックA及び2~350kg/モルの分子量Mpを有するブロックBを含有する、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項10】
前記スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体が、50~500kg/モルの分子量Mpを有する、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項11】
前記e-SBCが、水素化前の共重合単位として、5~70重量%のモノアルケニルアレーン及び30~95重量%の共役ジエンを含有する、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項12】
前記ポリフェニレンスルフィドが、低分子量ポリフェニレンスルフィド、高分子量ポリフェニレンスルフィド、及びこれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項13】
前記低分子量ポリフェニレンスルフィドが、2~40kg/モルの平均分子量(MWw)を有する、請求項12に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項14】
前記高分子量ポリフェニレンスルフィドが、55~150kg/モルの平均分子量(MWw)を有する、請求項12に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【請求項15】
ASTM D256に従い測定して23℃で2~30KJ/m2のノッチ付きアイゾッド衝撃値、
ASTM D638に従い測定して20~150MPaの破断点引張強度、
ASTM D790に従い測定して<4GPaの100%における曲げ弾性率、
ASTM D412に従い測定して>10%の降伏点伸び(%)、
ASTM D412に従い測定して>5%の破断点伸び(%)、及び
ARESレオメーターに基づき300℃で測定し、200rad/秒で記録して1.0~1.06Pa.秒の剪断粘度(ηo)
のうちの少なくとも1つを有することで特徴付けられる、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エポキシグラフト化部分水素化スチレン系ブロックコポリマーを耐衝撃性改質剤として含有するポリアリーレンスルフィドポリマー組成物、その調製方法、及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド(ポリフェニレンスルフィド又はPPSと互換可能に呼ばれる)ポリマーは、高い耐熱性、耐炎性、耐薬品性、及び優れた電気絶縁特性及び寸法安定性を含む特性を有する高性能エンジニアリング熱可塑性樹脂である。自動車業界では、PPSはより軽量の金属代替物であり、塩及び自動車流体による腐食に耐性がある。アンダーフードはPPSに対する最も大きな用途領域のうちの1つであり、例えば、燃料注入システム、冷却剤システム、ポンプ、サーモスタットホルダー、電気ブレーキ、弁などである。PPSの熱安定性及び広範な耐薬品性は厳しい化学環境において極めて望ましく、多くの重工業での用途、例えば油田、換気、及び空気調節(HVAC)装置などのセクターに見出すことができる。
【0003】
ガラス繊維強化PPS等級は通常、医学的用途、例えば、高い寸法安定性、強度、及び耐熱性が必要とされる手術用部品及びデバイスに使用される。無充填PPS及びガラス充填PPS樹脂は内因的に壊れやすく、強靱性を付与する耐衝撃性改質剤を必要とする。過去の実験では、PPS樹脂を強靱化するために、SEBS、MA-g-SEBS、及びエチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジルターポリマー(E-MA-GMA)を試験した。SEBS及びMA-g-SEBSは両方とも十分な強靱性を付与しなかった一方、E-MA-GMAは加工性の低下を犠牲にして高い衝撃強度をもたらす。E-MA-GMAを改質剤として用いた配合物は、無充填PPSとガラス充填PPS化合物の両方において粘度を増加させることができる一方、SEBS又はMA-g-SEBSを用いた化合物は通常、粘度の増加を示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強靱性、剛性、及び加工性を含めて、バランスのとれた特性を有する改善された耐衝撃性改質剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
一態様では、本開示は、a)60~98重量%のポリフェニレンスルフィド及び2~40重量%の第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)を含む、これらから本質的になる、又はこれらからなるポリフェニレンスルフィド組成物であって、エポキシ化スチレン系ブロックコポリマーが、A-B、A-B-A、A-B-A-B、(A-B-A)nX、(A-B)nX、及びこれらの混合物から選択される一般構成を有するスチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体をエポキシ化することにより得られる、ポリフェニレンスルフィド組成物に関する。各ブロックAは少なくとも1つのモノアルケニルアレーンポリマーブロックであり、各ブロックBは少なくとも1つの共役ジエンポリマーブロックであり、Xはカップリング剤の残基であり、n≧1である。ブロックBはブロックBの重量に対して、エポキシ化スチレン系ブロックコポリマーが1~35重量%のエポキシ官能基を有するように、脂肪族二重結合においてエポキシ化されている。第1のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマーは残留不飽和(RU)0.05~20mmol/gを有する。ポリマー組成物は、0~40重量%の任意選択の耐衝撃性改質剤、及び10重量%以下の少なくとも1種の添加剤をさらに含む。
【0006】
別の態様では、スチレン系ブロックコポリマー(SBC)前駆体は水素化されて、少なくとも97%の水素化レベルを有する水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体を形成する。
【0007】
さらに別の態様では、部分水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体は6~80%のビニル含有量を有する。
【0008】
さらなる別の態様では、組成物は第2のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)をさらに含み、第2のe-SBCは第1のe-SBCとは異なる。
【0009】
一態様では、第1及び第2のe-SBCは、部分水素化スチレン系ブロックコポリマー前駆体をエポキシ化することにより形成される。実施形態では、第1及び第2のエポキシ化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)のうちの少なくとも1種はエポキシ化度15~99%を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は以下の意味を有する:
【0011】
「[A、B、及びCなどの群]のうちの少なくとも1つ」又は「[A、B、及びCなどの群]のうちのいずれか」とは、群からの単一のメンバー、群からの1つより多くのメンバー、又は群からのメンバーの組合せを意味する。例えば、A、B、及びCのうちの少なくとも1つとは、例えば、Aのみ、Bのみ、又はCのみ、並びにA及びB、A及びC、B及びCであり、又はA、B、及びCであり、又はA、B、及びCのすべての他の任意の組合せを含む。
【0012】
「A、B、…、又はC」として提示された実施形態のリストは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、「A又はB」、「A又はC」、「B又はC」、又は「A、B、又はC」を含むと解釈される。
【0013】
「ブロック」とは、本明細書で使用される場合、複数の構成単位を含み(モノマー)、直ちに隣接するセクション(ブロック)に出現しない少なくとも1つの構造的又は構成的特徴を保有するポリマー分子のセクションを指す。
【0014】
「共役ジエン」とは、共役した炭素-炭素二重結合及び合計4~12個の炭素原子、例えば、4~8個の炭素原子を含有する有機化合物を指し、これらに限定されないが、1,3シクロヘキサジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン、及びピペリレン、又はこれらの任意の組合せを含む1,3-ブタジエン及び置換ブタジエンのいずれかであることができる。実施形態では、共役ジエンブロックはブタジエンとイソプレンモノマーの混合物を含む。実施形態では、1,3-ブタジエンが単独で使用されている。
【0015】
「ブタジエン」は1,3-ブタジエンを指す。
【0016】
「モノビニルアレーン」、又は「モノアルケニルアレーン」又は「ビニル芳香族」とは、単一の炭素-炭素二重結合、少なくとも1つの芳香族部分、及び合計8~18個の炭素原子、例えば、8~12個の炭素原子を含有する有機化合物を指す。例として、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tertブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、アルファ-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、又はこれらの混合物のうちのいずれかが挙げられる。実施形態では、モノアルケニルアレーンブロックは実質的に純粋なモノアルケニルアレーンモノマーを含む。一部の実施形態では、スチレンが主成分であり、マイナーな割合の(10重量%未満)の構造的に関連したビニル芳香族モノマー、例えば、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、a-メチルスチレン、ビニルナフタレン(naphtalene)、ビニルトルエン、ビニルキシレン、又はこれらの組合せを有する。実施形態では、スチレンが単独で使用されている。
【0017】
「ビニル含有量」とは、ブタジエンの場合1,2-付加を介して、又はイソプレンの場合3,4-付加を介して重合し、ポリマー骨格に隣接する一置換オレフィン、又はビニル基を生成する共役ジエンの含有量を指す。ビニル含有量は核磁気共鳴分光分析(NMR)により測定することができる。
【0018】
%CEで表現される「カップリング効率」とは、カップリングポリマーの重量%及び非カップリングポリマーの重量%の値を使用して計算される。カップリングポリマー及び非カップリングポリマーの重量%は示差屈折計検出器のアウトプットを使用して決定することができる。特定の溶出体積におけるシグナルの強度は、溶出体積において検出されるポリスチレン標準物質に対応する分子量の材料の量に比例する。
【0019】
「カップリング剤」又は「X」とは、スチレン系ブロックコポリマーの作製技術に共通して使用されているカップリング剤、例えば、シランカップリング剤、例えば、イソブチル-トリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン;ポリビニル化合物、ポリビニルアレーン、ジ-又はマルチ-ビニルアレーン化合物;ジ-又はマルチ-エポキシド;ジ-又はマルチ-イソシアネート;ジ-又はマルチ-アルコキシシラン;ジ-又はマルチ-イミン;ジ-又はマルチ-アルデヒド;ジ-又はマルチ-ケトン;アルコキシ-スズ化合物;ジ-又はマルチ-ハロゲン化物、例えば、ハロゲン化ケイ素及びハロシラン;モノ-、ジ-、又はマルチ-無水物;ジ-又はマルチ-エステル;四塩化スズ;テトラメチルオルトシリケートを指す。
【0020】
ブロックコポリマーの「ポリスチレン含有量」又はPSCとは、ビニル芳香族の重量%、例えば、ブロックコポリマー中のポリスチレンの重量%を指し、これは、すべてのビニル芳香族ブロックの分子量の合計を、ブロックコポリマーの全分子量で割ることにより計算される。PSCは、任意の適切な方法、例えば、プロトン核磁気共鳴(1HNMR)を使用して決定することができる。
【0021】
「分子量」又はMWとは、ポリマーブロック又はブロックコポリマーのスチレン当量の分子量(単位:kg/モル)を指す。MWは、ポリスチレン較正標準液を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができ、例えば、ASTM5296-19に従い行われる。GPC検出器は、紫外線又は屈折率検出器又はこれらの組合せであることができる。クロマトグラフィーは、市販のポリスチレン分子量標準物質を使用して較正される。このように較正されたGPCを使用して測定されたポリマーのMWは、スチレン当量の分子量又は見かけの分子量である。本明細書で表現されているMWは、GPCトレースのピークで測定され、一般的にスチレン当量の「ピーク分子量」と呼ばれ、Mpとして示される。
【0022】
「残留不飽和(RU)」とは、不飽和のレベル、すなわち、ブロックコポリマー1グラム当たりの炭素-炭素二重結合を指す。RUは、核磁気共鳴(1HNMR)を使用して測定することができる。
【0023】
「ゴム中の残留不飽和(RUrub)」とは、不飽和のレベル、すなわち、その芳香族含有量に対して補正されたブロックコポリマー1グラム当たりの炭素-炭素二重結合を指す。これは、以下の方程式を介して計算される:RUrub=RU*100/(100-PSC)。RUrubは核磁気共鳴(1HNMR)を使用して測定することができる。
【0024】
「水素化レベル」(H2%)とは、オレフィン二重結合のブロックコポリマーへの飽和レベルを指す。これは、p-HSBCを生成する場合、以下の方程式を使用して計算することができる:H2%=100*(水素化前RU-水素化後RU)/水素化前RU。
【0025】
ポリフェニレンスルフィド又はPPSは互換可能に使用され、ポリアリーレンスルフィド又はPASを指す。
【0026】
部分的又は部分水素化スチレン系ブロックコポリマーはpHSBCと互換可能に使用される。
【0027】
「ゴムブロック」とは、共役ジエンポリマーブロックを指す。
【0028】
「放射状コポリマー」とは、スチレン及び共役ジエンモノマーのセグメント、又はブロックを有する分枝コポリマーを指す。
【0029】
エポキシ化p-HSBC(e-pHSBC)、又はエポキシグラフト化p-HSBC、又はエポキシ官能化p-HSBCは互換可能に使用されて、エポキシ基が水素化スチレン系ブロックコポリマー(p-HSBC)の骨格又はp-HSBCのポリマー骨格に隣接するビニル基上にグラフト化されている組成物を指す。
【0030】
本開示は、加工性への最小の影響と共に、耐衝撃性を改善するための、エポキシ官能化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)を含有する耐衝撃性改良ポリフェニレンスルフィド(PPS)組成物であって、e-SBCをエポキシ官能化水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-HSBC)又はエポキシ官能化部分水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-pHSBC)にするために、SBCが非水素化され得る、又は水素化され得る組成物に関する。
【0031】
ポリフェニレンスルフィド(PPS):PPSは、構造式
【0032】
【化1】
で表される反復単位を、>70モル%、又は>75モル%、又は>85モル%、又は>90モル%有する。
【0033】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)ポリマーは、米国特許第3,354,129号明細書に開示された比較的低い分子量を有するもの、及び米国特許第3,919,177号明細書に開示された比較的高い分子量を有するものを含む。PPSは直鎖又は分枝であってよい。比較的高い分子量を有する、実質的に直鎖のPPSは、より高い分子量のPPSの強靱性を必要とする用途において好ましい。
【0034】
実施形態では、PPSは、数平均分子量(MWn)2,000~10.000、又は5,000~9,000、又は7,000~8,500g/モルを有する低分子量PPS(「LMWPPS」)である。実施形態では、LMWPPSは、2,000~40.000、又は20,000~35,000、又は30,000~34,000g/モルの重量平均分子量(MWw)を有する。
【0035】
実施形態では、PPSは、MWn11,000~100,000、又は25,000~50,000、又は27,000~35,000g/モルを有する高分子量PPS(「HMWPPS」)である。実施形態では、HMWPPSは、55,000~150,000、又は80,000~120,000、又は85,000~100,000g/モルのMWwを有する。
【0036】
実施形態では、PPSは、PPSの総重量の<65重量%、又は10~50重量%、又は20~45重量%の量の材料、例えば、ガラス又はミネラル充填剤で充填/強化されている。充填剤の例として、ミネラル、例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルク、雲母などが挙げられる。ガラス充填剤の例として、ポリマーブレンド用の強化剤として、市販のガラス充填剤、例えば、ホウケイ酸ガラス又はケイ酸アルミニウムガラス、ガラス繊維、及びガラスビーズが挙げられる。
【0037】
実施形態では、e-SBCを含有する耐衝撃性改良PPS組成物中のPPSの量は、組成物の総重量に対して60~98重量%、又は>60重量%、又は65~95重量%、又は<98重量%の範囲である。
【0038】
エポキシ官能化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC):PPS組成物はエポキシ官能化スチレン系ブロックコポリマー(e-SBC)をさらに含む。e-SBCは、エポキシ化剤を用いてSBC前駆体をエポキシ化又はグラフト化することにより形成することができ、SBC中の共役ジエンの不飽和二重結合はエポキシ化されている。
【0039】
SBC前駆体又は塩基ポリマーは、少なくとも1つの共役ジエンを含む1つ以上のオレフィンを、それら自体で、又は1つ以上のモノアルケニルアレーンモノマーと共重合することにより調製することができる。コポリマーはテーパしてもしなくてもよく、個々のブロックはホモポリマー又はランダムコポリマーであってよく、ポリマー分子は直鎖又は分枝であってよい。
【0040】
実施形態では、SBC前駆体は、A-B、A-B-A、A-B-A-B、(A-B-A)nX、(A-B)nX(式中、nは正の整数であり、Xはカップリング剤の残基である)及びこれらの混合物の群から選択される構造を有する。各ブロックAは、主にモノアルケニルアレーンモノマーのポリマーブロックであり、各ポリマーブロックBは主に共役ジエンモノマーのポリマーブロックである。1HNMRを含む標準的分析技術を使用して、e-SBC構造を検出/分析することができる。
【0041】
「n」という記号表示は、構造のそれぞれの「アーム」又は「枝」の数を指し、n≧1である。実施形態では、nは1~20、又は1~10、又は1~7の範囲である。
【0042】
実施形態では、各ブロックAは、スチレン、アルファ-メチルスチレン、メチルスチレン、パラ-メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、tert-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルトルエンの異性体、ビニルキシレン、1,1-ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、及びこれらの混合物を含む群から選択される。
【0043】
実施形態では、各ブロックBは、独立して、ポリブタジエン、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、ミルセン、ファルネセン、1,3-シクロヘキサジエン、ピペリレン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。実施形態では、ブロックBは、ポリ(イソプレン-r-ブタジエン)、ポリ(ブタジエン-r-スチレン)から選択され、-r-は、ランダムコポリマーを指し、例えば、「ポリ(イソプレン-r-ブタジエン)」はポリイソプレンブタジエンランダムコポリマーを意味する。
【0044】
実施形態では、SBC前駆体は、6~80重量%、又は10~75重量%、又は15~45重量%、又は20~40重量%、又は25~35重量%、又は>35重量%、又は<80重量%の、平均1,2-ビニル又は3,4-ビニル含有量を有する。ビニル含有量は、水素化の前又は後に1HNMRを介して測定することができる。
【0045】
実施形態では、SBC前駆体はエポキシ化され(最初に水素化されることなく)、エポキシ官能化(非水素化)スチレン系ブロックコポリマー(e-USBC)を形成する。他の実施形態では、SBC前駆体は、エポキシ化前に少なくとも97%の水素化レベルで最初に水素化され、エポキシ官能化水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-HSBC)を形成する。さらに他の実施形態では、SBC前駆体は、エポキシ化前に部分的に水素化され、エポキシ官能化部分水素化スチレン系ブロックコポリマー(e-pHSBC)を形成する。
【0046】
実施形態では、PPS組成物は、異なるe-SBCの混合物、例えば、少なくとも2種の異なるe-USBC、若しくはe-HSBC、若しくはe-pHSBCの混合物、又はe-USBCとe-pHSBCの混合物、又はe-HSBCとe-pHSBCの混合物などを含む。
【0047】
実施形態では、PPS組成物は、異なるe-pHSBCの混合物であり、一方のe-pHSBCが低いビニル含有量を有するpHSBCから形成され、他方のe-pHSBCが高いビニル含有量を有するpHSBCから形成されるe-pHSBCの混合物を含む。低いビニル含有量とは、<50%、又は<40%、又は<38%、又は<35%、又は<30%、又は<25%、又は<20%、又は<15%の、平均1,2-ビニル又は3,4-ビニル含有量を有するp-HSBC前駆体を意味する。高いビニル含有量とは、p-HSBC前駆体が、>50%、又は>55%、又は>60%、又は>65%、又は<80%の、平均1,2-ビニル又は3,4-ビニル含有量を有することを意味する。
【0048】
実施形態では、SBC前駆体中のAブロックの分子量分布は、ポリマーブロック(複数可)に対して、1~150kg/モルスチレン当量、又は少なくとも120kg/モル、又は少なくとも130kg/モルの範囲であり、ポリマーブロック(複数可)のそれぞれに対して、8~20kg/モルスチレン当量、又は10~12kg/モル、又は少なくとも8.5kg/モル、又は少なくとも9.0kg/モルの範囲である。
【0049】
実施形態では、各ポリマーブロックBは2~350、又は5~300、又は7~250、又は10~200、又は5~150、又は3~100kg/モルの分子量(Mp)を有する。
【0050】
実施形態では、SBC前駆体は、50~500kg/モル、又は60~400kg/モル、又は75~250kg/モル、又は<400kg/モル、又は<300kg/モル、又は<200kg/モルのMw又はMpを有する。
【0051】
実施形態では、SBC前駆体は、独立して、10~40%、又は>10%、又は>20%、又は>25%、又は<45%の水素化前の全ポリスチレン含有量(PSC)を有する。
【0052】
実施形態では、SBC前駆体は、共重合した単位として、5~70重量%、又は10~65重量%、又は15~60重量%、又は20~45重量%、又は>5重量%、又は<70重量%のモノアルケニルアレーン化合物、及び30~95重量%、又は35~90重量%、45~80重量%、又は>30重量%、又は<95重量%の共役ジエン(いずれの場合も利用される全モノマーに基づく)を含有する。
【0053】
実施形態では、SBC前駆体は完全に水素化されており、これは、水素化共役ジエンが>97%、又は≧98%、又は<99.5%、又は97.5~99.5%の水素化レベルを有することを意味する。
【0054】
実施形態では、SBC前駆体は部分的に水素化されており、これは、水素化共役ジエンが15~97%、又は>20%、又は30~95%、又は>40%、又は<70%、又は<80%、又は<97%の水素化レベルを有することを意味する。水素化レベルとは、水素化により飽和した元の不飽和結合のパーセンテージを指す。ビニル芳香族ポリマーにおける水素化レベルは、UV-VIS分光光度法又はプロトンNMRを使用して決定することができる。ジエンポリマーにおける水素化レベルは、1HNMRを使用して決定することができる。
【0055】
実施形態では、部分水素化共役ジエンは、<20mmol/g、又は<15mmol/g、又は<10mmol/g、又は<8mmol/g、又は>3mmol/g、又は<5mmol/g、又は2~15mmol/g、又は>0.5mmol/gの残留不飽和又はRUを有する。RUは、1HNMRを使用して決定することができる。
【0056】
実施形態では、部分水素化共役ジエンは、p-HSBC又はRUrubの非芳香族画分において、2~14mmol/g、又は3~12mmol/g、又は4~10mmol/g、又は<14.5mmol/gの残留不飽和を有する。
【0057】
実施形態では、p-HSBCは、一般的に公知の方法、例えば、過酢酸により例示される過酸、酢酸の存在下での過酸化水素、及びギ酸などの低分子量脂肪酸の存在下での硫酸又は過酸化水素の使用によりエポキシ化される。
【0058】
実施形態では、官能化/エポキシ化剤として使用される過酸化物として、過カルボン酸、例えば、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、3-クロロ過安息香酸、ペルオキシ一硫酸カリウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0059】
エポキシ化は、US8927657B2で開示された通り、当技術分野で公知の方法により行うことができる。実施形態では、エポキシ官能化p-HSBCの生成は、エポキシ化反応を加速させて、エポキシ化p-HSBC(e-pHSBC)を生成するためのエポキシ化剤及び溶媒の存在下でp-HSBCをエポキシ化する第1のステップを含み、第2のステップは、水で洗浄するステップ、又は中和して、水で洗浄するステップを含む。第3のステップにおいて、第1のステップにおいてエポキシ化反応を加速するために使用された溶媒は、真空下、蒸発により除去されて、e-pHSBCが得られる。エポキシ化反応は、10~70℃、又は15~55℃、又は40~50℃の温度で十分な時間行うことによって、所望のエポキシ化レベルを得る。p-HSBCに添加される官能化/エポキシ化剤の量は、官能化の所望のレベルに基づき変動する。通常、この量は、ゴムブロック及びエポキシ化剤の総重量に対して、1~35重量%、又は2~30重量%、又は3~25重量%、又は5~20重量%、又は6~10重量%の範囲である。
【0060】
実施形態では、e-pHSBCは、官能化を起こしやすいポリマーブロックに対して、100%以下、又は15~99%、又は10~92%、又は40~80%、又は>50%、又は55~95%、又は60~85%のエポキシ化度を有する。
【0061】
実施形態では、e-SBCにおいて共役ジエンモノマーから誘導されるブロックBは脂肪族二重結合においてエポキシ化される。e-SBC中のエポキシ官能基の量は、部分水素化スチレン系ブロックコポリマー1グラム当たりに対して、0.05~20mmol/g、又は0.1~15mmol/g、又は>0.1mmol/g、又は0.5~12mmol/g、又は1~10mmol/g、又は1.5~8mmol/g、又は<20mmol/gである。e-SBC中のエポキシ官能基の量は滴定又は1HNMRにより測定することができる。
【0062】
実施形態では、e-SBCは、PPS組成物の総重量に対して、2~40重量%、又は5~38重量%、又は8~35重量%、又は10~40重量%、又は15~30重量%、又は>20重量%の量で存在する。
【0063】
任意選択の追加の耐衝撃性改質剤:e-SBCに加えて、実施形態では、PPS組成物は任意選択の耐衝撃性改質剤、例えば、エラストマーコポリマー、例えば、非官能化であっても、エポキシ、無水物、オルト-エステル、オキサゾリン、スルホネート、又はホスホネート基、カルボキシル化エチレン-プロピレンゴム、シリコーンゴム、エチレン-アクリル酸ゴム、エチレン-プロピレンコポリマーゴム、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマーゴム、及びポリ(アクリル酸ブチル)で官能化されていてもよいエチレン-プロピレンジエンポリマー(EPDM)、アルケニル-芳香族化合物のブロックコポリマー、例えば、スチレンと、重合可能なオレフィン又はジエン、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、エチレン、プロピレン及びブチレンなどとのブロックコポリマー、コア-シェルポリマー、並びにこれらの混合物をさらに含む。
【0064】
任意選択の耐衝撃性改質剤の例として、他のスチレン系ブロックコポリマー、例えば、ジブロック、トリブロック、又は放射状コポリマーであり、少なくとも一方のブロックがスチレンから誘導され、少なくとも1つの他方のブロックが、非官能化であっても、又はエポキシ、無水物、オルト-エステル、オキサゾリン、スルホネート、若しくはホスホネート基で官能化されていてもよいブタジエン及びイソプレンのうちの少なくとも1つから誘導される、他のスチレン系ブロックコポリマーが挙げられる。例として、ポリスチレンエンドブロック及びジエン由来のミッドブロックを有するトリブロックコポリマーがある。
【0065】
実施形態では、任意選択の耐衝撃性改質剤は、存在する場合、PPS組成物の総重量に対して、45重量%以下、2~40重量%、又は5~25重量%、又は10~20重量%の量である。
【0066】
任意選択の添加剤:実施形態では、PPS組成物は、難燃剤、ドリップ防止剤、染料、顔料、着色剤、安定剤、帯電防止剤、可塑剤、滑沢剤、ミネラル充填剤、ガラス充填剤、ガラスビーズなどからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤の有効量をさらに含む。
【0067】
実施形態では、任意選択の添加剤は、存在する場合、全PPS組成物の総重量に対して、10重量%以下、又は<8重量%、又は0.1~5重量%の微量で使用される。
【0068】
耐衝撃性改良PPS組成物の調製/物品の形成:組成物は、既定の量のPPS樹脂、e-SBC、任意選択の耐衝撃性改質剤、及びもしある場合には任意選択の成分を、公知の加工装置、例えば、ミキサーなどの手段により混合することにより、又は押出機若しくはニーダーの手段により溶融混練することにより、及び、必要であれば、成形品のためのさらなる加工のためのペレットへと配合する/ペレットを作製することにより調製することができる。
【0069】
一度作製されたら、PPS組成物を使用して、公知の方法、例えば、射出成形、ブロー成形、若しくは押出、又は他の公知の手段を介して物品を生成することができる。
【0070】
用途:改善されたPPS組成物を使用して、例えば、電子部品、例えば、コネクター、ボビン、コイル、リレーなどの物品を形成することができる。他の用途として、これらに限定されないが自動車アンダーフード部品、自動車燃料系統、スイッチ及びブラシ類、電気用取付部品、熱機器、家電モーター部品、コンピュータ部品、ファックスギア、及びガード、ポンプ、並びに筺体が挙げられる。他の使用は、例えば、航空宇宙、軍事用、レクリエーショナルビークル、エレクトロニクス、及び電気用途に存在する。
【0071】
PPS組成物の特性:実施形態では、PPS組成物は、60~98重量%のPPS、2~40重量%のe-SBCを耐衝撃性改質剤として、40重量%以下の任意選択の耐衝撃性改質剤、及び10重量%以下の少なくとも1種の添加剤を含有し、高性能用途における使用のための、強靱性、剛性及び加工性を含むバランスのとれた特性を示す。実施形態では、PPS組成物は以下の特性のうちの1つ以上又はすべてを有する:
【0072】
ASTM D638に従い測定して20~150MPa、又は<150MPa、又は30~120MPa、又は40~100MPa、又は45~95MPa、又は55-80MPaの破断点引張強度。
【0073】
ASTM D638に従い測定して20~150MPa、又は<150MPa、又は30~120MPa、又は40~100MPa、又は45~95MPa、又は55~80MPaの降伏点引張強度。
【0074】
ASTM D790に従い測定して<4又は、>0.1、又は>0.3、又は>0.7、又は>1、又は>1.2、又は>1.5、又は>2、又は>2.5、又は>2.8GPaの100%における曲げ弾性率(flex modulus)。
【0075】
ASTM D412に従い測定して>10%、又は<50%、又は>5%、又は>15%、>20%、>25%、又は>40%、又は<50%の降伏点伸び(%)。
【0076】
ASTM D412に従い測定して>5%、又は<100%、又は>15%、又は>20%、>30%、>35%、又は>40%、又は<60%の破断点伸び(%)。
【0077】
ASTM D256に従い測定して>1KJ/m2、又は2~30KJ/m2、又は3~25KJ/m2、又は<50KJ/m2、又は<40KJ/m2、<30KJ/m2のノッチ付きアイゾッド衝撃(KJ/m2)。
【0078】
1.0~1.06Pa.秒、又は>1.0Pa.秒、又は<1.06Pa.秒、又は1.0~1.02Pa.秒、又は1.03~1.04Pa.秒、又は1.04~1.05Pa.秒、又は1.03~1.06Pa.秒の300℃における剪断粘度(ηo)。レオロジー特性は以下の通り測定することができる:300℃の温度で、ARESパラレルプレートレオメーターを使用して剪断速度による粘度の変動を測定する;0.01~200rad/秒において、一定のひずみ5%で振動剪断速度(oscillatory shear rate)を測定する;及び複素粘度を200rad/秒で記録する(振動モードにおける最も高い剪断)。
【実施例0079】
以下の例証となる例は非限定的であることを意図する。以下の試験方法が使用される。
【0080】
ポリマー分子量は、ASTM5296に従い、ポリスチレン較正標準液を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定することができる。
【0081】
ガラス転移温度(Tg)は、ASTM4065に従い、動的機械分析(DMA)により測定する。
【0082】
引張応力-ひずみはASTM D412に従い測定し、メルトフローレート(MFR)はD1238に従い測定する。
【0083】
e-SBCの合成は、CD2Cl2を溶媒として用いて、プロトン核磁気共鳴分光法(1H NMR;Varian 500MHz分光器、23℃)により特徴付けられる。
【0084】
実施例では以下の成分を使用した:
【0085】
エチレンターポリマー:比較用耐衝撃性改質剤としてのランダムエチレン-アクリル酸メチル-メタクリル酸グリシジルターポリマー、7~9重量%のメタクリル酸グリシジル、24重量%のアクリル酸エステル含有量、メルトフローインデックス4~8g/10分、及び融点63~67℃。
【0086】
PPS樹脂:無充填半結晶性PPSポリマーは非晶質と結晶性領域との両方からなる。ポリマーは高い溶融温度である285℃を示し、90℃のガラス転移温度(Tg)、90Mpaの破断点引張強度、及び3800MPaの曲げ強度を有する。
【0087】
SEBSは、スチレン及びエチレン/ブチレンに基づく、Kraton Corporation製の直鎖トリブロックコポリマーであり、13%のポリスチレン含有量を有し、230℃(5kg)でのメルトインデックスは22gm/10分であり、スチレン/ゴム比は13/87であり、破断点伸びは750%(ASTMD-412)である。
【0088】
MA-g-SEBSは、スチレン及びエチレン/ブチレンに基づく、Kraton Corporation製の直鎖トリブロックコポリマーであり、30%のポリスチレン含有量、38%のビニル含有量及び1.7重量%の無水マレイン酸グラフト含有量を有する。
【0089】
実施例1
e-pHSBCを合成する:30重量%のスチレン含有量、ビニル含有量35重量%を有し、2.4mmol/g~3.7mmol/gの範囲の残留不飽和レベルを有する、スチレン及びエチレン/ブチレン(S-E/B-S)の直鎖トリブロックコポリマーに基づくp-HSBC(71%水素化)を準備した。p-HSBCをシクロヘキサン溶媒に室温で溶解した。別個のステップにおいて、ギ酸と過酸化水素の1.0:0.5モル溶液を反応させて、過ギ酸を形成した。エポキシ化の間、6回の等しいステップで過ギ酸をシクロヘキサン中に溶解したポリマーに添加した。ギ酸レベルを制御/変動させて、エポキシ化のレベルを調節した。50℃で反応時間8時間にわたり作動させてバッチ式反応器内で反応を行った。すべての反応混合物を10%の炭酸水素ナトリウム水溶液で直ちに中和させて、2次反応を回避した。反応混合物を複数回水で洗浄して、pH7.5に到達させた。次いで、ポリマーをメタノール中に沈殿させ、真空乾燥し、洗浄し、1HNMRで分析して、エポキシ含有量を決定した。ゴムブロックの重量ベースで、それぞれ、5重量%、10重量%、20重量%及び30重量%のエポキシグラフトレベルのe-pHSBC試料を得た。
【0090】
実施例2
高ビニル含有量のe-pHSBCを合成する:30重量%のスチレン含有量、60重量%のビニル含有量、及び3.76mmol/gの残留不飽和レベルを有するスチレン及びエチレン/ブチレン(S-E/B-S)の直鎖トリブロックコポリマーに基づくp-HSBC(82%水素化)を準備した。p-HSBCをシクロヘキサン溶媒中に室温で溶解した。別個のステップにおいて、ギ酸及び過酸化水素の1.0:0.5モルの溶液を反応させて、過ギ酸を形成した。過ギ酸溶液の半分をシクロヘキサン溶液中p-HSBCに最初に添加し、残りの部分を1時間後に添加した。ギ酸レベルを制御/変動させて、エポキシ化のレベルを調節した。60℃で3~4時間作動させてバッチ式反応器内で反応を行った。すべての反応混合物を炭酸水素ナトリウム溶液で直ちに中和させて、2次反応を回避した。反応混合物を10%水性炭酸水素ナトリウムで2回洗浄した。ポリマーをイソプロピルアルコール(IPA)中に沈殿させ、洗浄し、1HNMRで分析して、エポキシ含有量を決定した。ゴムブロックの重量ベースで20重量%のエポキシグラフトレベルを有するe-pHSBC試料を得た。
【0091】
応用例:ベンチトップミクロ配合機Xplore(商標)MC40を使用して、表1及び3の配合物の混ぜ合わせ及び射出成形を行った。押出機容量を満たすために、通常約30gmの配合物が必要とされる。混ぜ合わせる間、押出機の溶融温度を300℃で維持した。この温度は、p-HSBC耐衝撃性改質剤の分解を防ぐため、PPSの溶融温度(280℃)よりも上であり、最も高い作動温度である。
【0092】
いくつかの配合物を配合した。タルクを含まない無充填配合物をより低い型温度88℃で成型し、その一方で2重量%のタルクを含有する配合物を型温度150℃で成型した。冷たい型温度は、ポリマーブレンドを非晶質の状態へと急速にクエンチすることを可能にし、これは衝撃強度を増強する。高温の型温度は結晶化を促進し、この条件に対して2%タルクを核化剤として添加することにより、この結晶化はさらに増強される。機械的特性に対する成型温度の作用を主に研究するため、射出ノズル温度を300℃~320℃の間で変動させた。試料の外観を最適化し(層剥離なし)、同時に成型中のフラッシュを排除するために、射出圧力を各配合物に対して調節した。配合物に応じて射出圧力を15psi~58psiまで変動させた。
【0093】
ASTM D236に従い、屈曲性の棒を試験用配合物から成型した。
【0094】
表1は、エポキシ-g-pHSBC及びSEBS及び無水マレイン酸-g-SEBS改質剤を有するPPS配合物に基づく、実施例A1~A15の配合物を含む。表2は実施例A1~A15の特性について記載している。エポキシ-g-pHSBCを含有する配合物は、未調整PPS(2.8kJ/m2)、エチレンターポリマー調整PPS(5kJ/m2)及びSEBS調整PPS(4.3kJ/m2)と比較して、有意に高いノッチ付きアイゾッド衝撃(8kJ/m2)を示す。
【0095】
【0096】
表3は、エポキシ-g-pHSBC及びエチレンターポリマー改質剤を有するPPS配合物に基づく実施例B1~B2について記載している。1セットの配合物はPPSとエチレンターポリマー耐衝撃性改質剤とのブレンドであり、第2のセットは、耐衝撃性改質剤に加えて2重量%のタルクを含有する。
【0097】
表4は実施例B1~B16の特性について記載している。ノッチ付きアイゾッド衝撃強度は、改質剤含有量の増加と共に増加し、未調整PPSよりも増強する。エチレンターポリマー耐衝撃性改質剤を含有する配合物は、70kJ/m2を上回るノッチ付きアイゾッド値を有する。曲げ弾性率は、耐衝撃性改質剤レベルの増加と共に低減し、未調整PPSと比較して低い。同じ改質剤レベルでは、10%エポキシ官能基を有するエポキシ-g-pHSBCは、5%エポキシ官能基改質剤と比較して高い剛性を提供する。引張強度は、耐衝撃性改質剤のレベルが高いほど低減する。引張強度値は、20重量%の耐衝撃性改質剤の当量レベルのエチレンターポリマー改質剤を有する配合物と比較して、エポキシ-g-pHSBC配合物においてより高い。タルクを含有する配合物に対しては、ノッチ付きアイゾッド衝撃強度は改質剤充填量と共に増加し、未調整PPS(実施例B7~B16)よりも増強する。曲げ弾性率は耐衝撃性改質剤のレベルの増加と共に低減するのに対して、引張強度は改質剤充填量の増加と共に低減し、破断点伸びは改質剤含有量が高くなるほど増加する。
【0098】
【0099】
表5は、低ビニル(<50%)と高ビニル(>50%)エポキシ-g-pHSBC改質剤のブレンドを有するPPS配合物に基づく実施例C1~C2及びE1~E5について記載している。1つのセットの配合物(C1)はPPSと100%低ビニル改質剤とのブレンドであり、別のセットの配合物(C2)は100%高ビニル改質剤とのブレンドである。
【0100】
【0101】
表6は、実施例C1~C2及びE1~E5の特性について記載している。ノッチ付きアイゾッド衝撃強度は、高ビニル成分の増加と共に低減する。高ビニル改質剤を含有する配合物は70kJ/m2を上回るノッチ付きアイゾッド値を有する。高ビニル改質剤の量が100:0から0:100へ低減する高改質剤から低改質剤に対して、ノッチ付きアイゾッド値は72kJ/m2から約6kJ/m2へと徐々に低減する。剛性は、100%高ビニル改質剤を含有する化合物における剛性を除いて、すべての配合物において一定に維持される。ブレンドされた改質剤において高ビニル成分が増加するにつれて粘度は低減する。
【0102】
【0103】
表7は、E-MA-GMAとエポキシ-g-pHSBCの組合せを使用したPPS配合物に基づく実施例D1~D2及びF1~F3について記載している。実施例D1及びD2は20%のエポキシ-g-pHSBC、及び20%のE-MA-GMAをそれぞれ含有する。実施例F1~F3の配合物は全改質剤の80重量%~20重量%まで変動するエポキシ-g-pHSBC含有量を有する。
【0104】
【0105】
表8は、実施例D1~D2及びF1~F3の特性について記載している。ゲートにより近い型部分(ゲート端)及びゲートから離れた部分(デッドエンド)から得た試料に対してノッチ付きアイゾット試験を行った。ゲートから離れた領域(デッドエンド)から得た試料は、ゲート付近の領域(ゲート端)で得た試料より高いノッチ付きアイゾッド値を示す。D1は、エポキシ-g-pHSBC改質剤を含有するが、12kJ/m2のノッチ付きアイゾッド値及び138Pa.秒の粘度を示す。他方では、E-MA-GMA改質剤を20重量%含有するD2は、D1と比較して、実質的に高いノッチ付きアイゾッド値(59kJ/m2)及び高い粘度値(843Pa.秒、200rad/秒で測定)を有する。エポキシ-g-pHSBCとE-MA-GMAをブレンドした組成物の実施例F1~F3はより低い粘度、及び高い衝撃強度を有する。F1は、全改質剤重量%の中で80重量%のエポキシ-g-pHSBCを含有するが、D1よりほぼ4倍高いノッチ付き45kJ/m2のアイゾッド値を有する。F1粘度(347Pa.秒、200rad/秒において)もまたD1の粘度(138Pa.秒、200rad/秒において)より高い。
【0106】
【0107】
レオロジーデータ:レオロジー実験を300℃で、0.01rad/秒~200rad/秒の範囲の周波数及び一定のひずみ5%を用いて実行した。複素粘度データを各周波数で得た。20重量%の改質剤を含有する様々な配合物に対して計算したゼロ剪断粘度(ηo)値が以下の表9に示されている。エチレンターポリマーの比較配合物は、エポキシ-g-pHSBC、SEBS及びMA-g-SEBS改質剤を含有する配合物と比較してより高いゼロ剪断粘度を有する。ゼロ剪断粘度(η0o)はCarreau-Yasuda(1)モデルにおける5つのパラメーターから計算することができ、これは以下の形態である:η=ηinf+(η0-ηinf)/(1+(τγ)a)(1-n)/a(式中、ηは特定された剪断速度で実験的に測定された複素粘度であり、ηoはゼロ剪断粘度であり、ηinfは無限大の剪断粘度であり、τは緩和時間であり、γは適用された剪断速度であり、n及びaは一定である)。
【0108】
【0109】
様々な配合物に対して計算したゼロ剪断粘度(ηo)が上記表9に示されている。エチレンターポリマーベースの配合物は、それぞれ5%エポキシ官能基ベースのp-HSBC改質剤に対する4.2×103Pa.秒及び10%エポキシ官能基ベースのp-HSBC改質剤に対する9.3×104Pa.秒と比較して、106Pa.秒の値を有する。ゼロ剪断粘度におけるこの増加は、エチレンターポリマーベースの化合物から2~3桁の増加であり、加工性の低下を示すものである。エポキシ-g-PHSBCにおけるより高いエポキシ官能性もまた表9に見られるように、エチレンターポリマーを含有する配合物ほどではないが、粘度を増加させる。
【0110】
「含む(comprising)」及び「含む(including)」という用語は様々な態様を記載するために本明細書で使用されているが、「から本質的になる」及び「からなる」という用語は、本開示のより特定の態様を提供するために「含む(comprising)」及び「含む(including)」の代わりに使用することができ、また開示される。
【0111】
【0112】