(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080687
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】太陽光発電シート及びこれを備えた太陽光発電シートの設置構造
(51)【国際特許分類】
H01L 31/049 20140101AFI20240606BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20240606BHJP
【FI】
H01L31/04 562
H01L31/04 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203768
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2022193167
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 明伸
(72)【発明者】
【氏名】新井 希
(72)【発明者】
【氏名】藤森 悠司
(72)【発明者】
【氏名】横田 生吹樹
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA10
5F251AA11
5F251BA03
5F251BA15
5F251EA03
5F251JA05
5F251JA14
5F251JA15
(57)【要約】
【課題】設置面の角度によらず、太陽光発電シートの受光面の角度を調整できること。
【解決手段】太陽光発電シート10は、可撓性を有する発電部7と、発電部7を覆い可撓性を有するバリアシート17と、発電部7及びバリアシート17を変形させた状態に保持可能な形状保持部2と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する発電部と、
前記発電部を覆い可撓性を有するバリアシートと、
前記発電部及び前記バリアシートを変形させた状態に保持可能な形状保持部と、
を備える、
太陽光発電シート。
【請求項2】
前記形状保持部は、太陽光発電シートの厚さ方向において、前記発電部よりも前記バリアシートとは反対側に位置している、
請求項1に記載の太陽光発電シート。
【請求項3】
前記形状保持部は、塑性変形することで、前記発電部及び前記バリアシートを変形させた状態に保持可能である、
請求項1に記載の太陽光発電シート。
【請求項4】
前記形状保持部は、前記発電部における受光側とは反対側に配置されたバックシートである、
請求項1に記載の太陽光発電シート。
【請求項5】
前記バックシートは、塑性変形可能な金属製の材料を含む、
請求項4に記載の太陽光発電シート。
【請求項6】
前記形状保持部は、前記太陽光発電シートの設置面と前記発電部との間において、部分的に配置されるスペーサである、
請求項1に記載の太陽光発電シート。
【請求項7】
前記スペーサは、前記発電部に電気的に接続された電気ケーブルを含む、
請求項6に記載の太陽光発電シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の太陽光発電シートと、
前記太陽光発電シートが設置される設置面と、
を備え、
前記太陽光発電シートの一部分である第1部分は前記設置面上に取り付けられ、その他の部分である第2部分のうちの少なくとも一部は、前記設置面に対して傾斜している、太陽光発電シートの設置構造。
【請求項9】
前記太陽光発電シートのうちの最も低い部分に、厚さ方向に貫通した排水孔を有する、請求項8に記載の太陽光発電シートの設置構造。
【請求項10】
前記排水孔は前記第1部分に形成されている、
請求項9に記載の太陽光発電シートの設置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電シート及びこれを備えた太陽光発電シートの設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、フレキシブルな太陽光発電シートを屋根に設置することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、屋根の一面に対し、支持部材によって太陽光発電シートが設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の太陽光発電シートの設置構造では、太陽光発電シートを屋根の一面に載せて設置するだけである。このため、設置された状態の太陽光発電シートの勾配は、屋根勾配等の設置面の勾配に依存する。したがって、設置面の勾配が小さいと、太陽光発電シートに対して塵や埃等の汚れが堆積しやすいうえに、設置面の勾配によっては、太陽光に対して適切な受光面の角度が得られない場合がある。
【0005】
本発明の目的は、設置面の角度によらず、太陽光発電シートの受光面の角度を調整できる太陽光発電シート及びこれを備えた太陽光発電シートの設置構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0007】
項1.可撓性を有する発電部と、
前記発電部を覆い可撓性を有するバリアシートと、
前記発電部及び前記バリアシートを変形させた状態に保持可能な形状保持部と、
を備える、太陽光発電シート。
【0008】
項2.前記形状保持部は、太陽光発電シートの厚さ方向において、前記発電部よりも前記バリアシートとは反対側に位置している、
項1に記載の太陽光発電シート。
【0009】
項3.前記形状保持部は、塑性変形することで、前記発電部及び前記バリアシートを変形させた状態に保持可能である、
項1又は項2に記載の太陽光発電シート。
【0010】
項4.前記形状保持部は、前記発電部における受光側とは反対側に配置されたバックシートである、
項1から項3のいずれか一項に記載の太陽光発電シート。
【0011】
項5.前記バックシートは、塑性変形可能な金属製の材料を含む、
項4に記載の太陽光発電シート。
【0012】
項6.前記形状保持部は、前記太陽光発電シートの設置面と前記発電部との間において、部分的に配置されるスペーサである、
項1から項5のいずれか一項に記載の太陽光発電シート。
【0013】
項7.前記スペーサは、前記発電部に電気的に接続された電気ケーブルである、
項6に記載の太陽光発電シート。
【0014】
項8.項1から7のいずれか一項に記載の太陽光発電シートと、
前記太陽光発電シートが設置される設置面と、を備え、
前記太陽光発電シートの一部分である第1部分は前記設置面上に取り付けられ、その他の部分である第2部分のうちの少なくとも一部は、前記設置面に対して傾斜している、太陽光発電シートの設置構造。
【0015】
項9.前記太陽光発電シートのうちの最も低い部分に、厚さ方向に貫通した排水孔を有する、
項8に記載の太陽光発電シートの設置構造。
【0016】
項10.前記排水孔は前記第1部分に形成されている、
項9に記載の太陽光発電シートの設置構造。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、設置面の角度によらず、太陽光発電シートの受光面の角度を調整できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図である。
【
図2】実施形態に係る太陽光発電シートの模式図であり、(A)は平面図、(B)は背面図、(C)は(A)のA-A線断面図、(D)は正面図である。
【
図3】(A)は、発電シート本体のみの
図2(A)におけるA-A線断面図、(B)は、
図2(A)のB部分の拡大図、
図3(A)のB-B線断面図である。
【
図4】第1変形例に係る太陽光発電シートの模式図であり、(A)は平面図、(B)は背面図、(C)は(A)のC-C線断面図である。
【
図5】第2変形例に係る太陽光発電シートの模式図であり、(A)は平面図、(B)は背面図、(C)は(A)のD-D線断面図である。
【
図6】第3変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図である。
【
図7】第4変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図8】第5変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図9】第5変形例の更なる変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図10】第6変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図11】第7変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図12】第7変形例の更なる変形例に係る太陽光発電シートの設置構造の概略模式図であり、(A)は正面図、(B)は平面図である。
【
図13】(A)(B)はその他の変形例に係る太陽光発電シートの設置構造における太陽光発電シートの固定方法を説明する概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
太陽光発電シート10は、太陽光を受けて発電するシート材である。太陽光発電シート10は、
図1に示すように、発電シート本体1と、形状保持部2と、を備える。発電シート本体1は可撓性を有する。形状保持部2は、発電シート本体1を変形した状態に保持できる。太陽光発電シート10の設置構造100では、変形した状態に維持された太陽光発電シート10は、設置面51上に設置される。
【0020】
このようにすることで、太陽光発電シート10の受光面の角度を、所望の角度に調整した位置に維持することができるため、太陽光発電シート10の上面を水が流れやすく、塵や埃等の汚れが堆積しにくい。また、太陽光に対する受光面の角度を発光効率のよい角度に調整しやすい。
【0021】
設置面51は、設置材5の上面を意味する。設置材5は、太陽光発電シート10が取り付けられる構造体である。設置材5としては、例えば、屋根、壁材、床材、道路、沈殿池などの覆蓋、ビニルハウス、自動車、航空機、トラックの荷台、船舶等が挙げられる。
【0022】
以下の説明では、設置面51は水平面であるとして説明する。設置面51に直交する方向を「上下方向」とする。設置面51に平行な方向を「横方向」とする。また、本明細書において「平面視」とは、上下方向に沿って対象物を見ることを意味する。本明細書において「平行」とは、2つの直線、辺、面等が延長しても交わらない場合だけでなく、2つの直線、辺、面等がなす角度が10°以内の範囲で交わる場合も含む。ただし、設置面51は、水平面でなくてもよく、水平面に対して傾斜してもよいし、鉛直面であってもよい。
【0023】
以下、本実施形態に係る太陽光発電シート10の詳細について、図面を参照にして詳細に説明する。
図2(A)から
図2(D)は、本実施形態における変形前の太陽光発電シート10の模式図である。
図3には、
図2(C)において発電シート本体1のみの拡大図を示す。また、
図3(B)には、
図3(A)のB部分の拡大図を示す。
【0024】
(発電シート本体1)
発電シート本体1は、太陽光を受けることで発電を行うことができる。発電シート本体1は、シート状であり、厚さ方向の少なくとも一方の面に受光面を有する。受光面は、太陽光が入射する面である。発電シート本体1は、
図3に示すように、バックシート11と、少なくとも1つの発電部7と、バリアシート17と、封止層18と、封止縁材19と、を備える。発電部7及び封止層18は、バックシート11とバリアシート17との間に配置されている。封止縁材19は、バックシート11とバリアシート17との間に複数の発電部7及び封止層18を配置した状態で、外縁を全長にわたって封止する。
【0025】
本実施形態に係る発電シート本体1は、
図2(A)に示すように、平面視略矩形状に形成されている。ただし、本発明では、発電シート本体1の形状としては、例えば、平面視略円形状、平面視楕円形状、平面視多角形状等であってもよく、特に制限はない。
【0026】
本明細書でいう「シート」「シート状」は、その物体の厚さが、平面視における外縁の間の最大長さに対して、10%以下である形状を意味する。平面視における形状が矩形状である場合、「平面視における外縁の間の最大長さ」は、対角線の長さを意味する。また、平面視における形状が円形状である場合、「平面視における外縁の間の最大長さ」は、直径の長さを意味する。本明細書では、膜状、箔状、フィルム状等も、「シート状」に含まれる。
【0027】
発電シート本体1は、上述したように、可撓性を有する。本明細書における「可撓性を有する」とは、対象物が撓み得る性質を意味する。本実施形態に係る発電シート本体1の曲げ強さは、特に限定されないが、好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは20MPa以上である。また、太陽光発電シート10の曲げ強さは、好ましくは150MPa以下であり、より好ましくは50MPa以下である。また、太陽光発電シート10は曲げ弾性率で定義されていてもよく、太陽光発電シート10の曲げ弾性率は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは500MPa以上である。一方、太陽光発電シート10の曲げ弾性率は、好ましくは10000MPa以下であり、より好ましくは5000MPa以下である。太陽光発電シート10を曲げ弾性率で定義する場合、曲げ強さは必ずしも上記の範囲に含まれなくてもよい。発電シート本体1の曲げ強さの測定方法は、JIS K 7171に準拠して測定される。
【0028】
(バックシート11)
バックシート11は、発電部7の背面を保護する。すなわち、バックシート11は、背面保護層である。バックシート11は、発電シート本体1の受光面とは反対側に配置される。バックシート11は、水蒸気に対するバリア性能、及び外力に対する保護性能を有する。バックシート11は、透光性があってもよいが、必ずしも透光性は必要ではない。本明細書でいう「透光性がある」とは、光の透過率が、入射前の光のピーク波長に対して、10%以上であることを意味する。
【0029】
バックシート11は、可撓性を有する。バックシート11に用いられる材料としては、縦弾性係数が、2400MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3000MPa以上である。また、バックシート11の縦弾性係数は、4200MPa以下であることが好ましく、より好ましくは2100MPa以下である。バックシート11の材料としては、例えば、プラスチックフィルム、プラスチック基板等の合成樹脂、ゴム、金属、カーボン、パルプ等が挙げられる。
【0030】
バックシート11の厚さは、50μm以上であることが好ましく、より好ましくは、100μm以上である。また、バックシート11の厚さは、2000μm以下であることが好ましく、より好ましくは、1000μm以下である。
【0031】
(発電部7)
発電部7は、光起電力効果を利用し、太陽光により発電する。発電部7は、可撓性を有する。本実施形態において、1つの発電部7では、複数の発電セル12が、発電シート本体1の面方向のうちの一方向(例えば、
図3(A)の紙面奥手前方向)に並んでモノリシック化されており、1つのユニットを構成する。すなわち、本実施形態に係る発電部7は、複数の発電セル12が1つのモジュールを構成したモノリシック構造をなしている。なお、発電部7としては、1つの太陽光発電シート10に対して、1つのみ設けられてもよいし、複数箇所に区画されてもよい。
【0032】
本明細書において、発電セル12は、光起電力効果を利用した光電変換素子であり、発電し得る最小単位の素子である。発電部7は、複数の発電セル12同士が機械的に接合されると共に電気的に接続された1つのユニットである。発電シート本体1の発電量は、発電部7としての数量を増減することで容易に変更し得る。ただし、本発明では、発電部7は、1つの発電セル12によって構成されてもよい。
【0033】
発電セル12は、
図3(A)に示すように、透光性基材13と、透光性導電層14と、発電層15と、電極16と、を備える。透光性基材13、透光性導電層14、発電層15、及び電極16は、バリアシート17からバックシート11に向かう方向に沿って、この順で積層されている。すなわち、透光性基材13がバリアシート17に対向し、電極16がバックシート11に対向するように配置される。
【0034】
(透光性基材13)
透光性基材13は、透光性導電層14、発電層15、及び電極16を支持する。透光性基材13は、透光性を有する。透光性基材13の透光性は、光の透過率が、入射前の光のピーク波長に対して、10%以上であればよいが、好ましくは、50%以上であり、より好ましくは、80%以上である。本明細書では、光の透過率が、入射前の光のピーク波長に対して、80%以上であることを、「透明」であるとする。
【0035】
透光性基材13の材料としては、例えば、無機材料、有機材料、金属材料等が挙げられる。無機材料としては、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。有機材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET; polyethylene terephthalate)、ポリエチレンナフタレート(PEN; polyethylene naphthalene)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム等が挙げられる。金属材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン、シリコン等が挙げられる。
【0036】
透光性基材13の厚さは、透光性導電層14、発電層15及び電極16を支持することができれば、特に制限はなく、例えば、10μm以上300μm以下が挙げられる。
【0037】
透光性基材13は、発電セル12の製造過程で必要になる基材である。このため、発電シート本体1の製品としては、必ずしも必要な構成ではない。透光性基材13は、例えば、発電シート本体1の製造途中にだけ利用されてもよく、製造後又は製造途中に取り除かれてもよい。なお、取り除かれる場合、透光性基材13に代えて、透光性を有さない基材を用いてもよい。
【0038】
(透光性導電層14)
透光性導電層14は、導電性を有する層であり、カソードとして機能する。透光性導電層14は、透光性を有する。透光性導電層14は、透明であることが好ましい。
【0039】
透光性導電層14としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO; Indium Tin Oxide)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO; F-doped Tin Oxide)、ネサ膜等の透明な材料が挙げられる。透光性導電層14は、透光性基材13の表面に対して、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等により形成される。
【0040】
また、透光性導電層14としては、不透光性材料を用いつつ、光を透過可能なパターンを形成することで、透光性を有するように構成してもよい。不透光性材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、ニッケル、スズ、亜鉛、又はこれらを含む合金等が挙げられる。光を透過可能なパターンとしては、例えば、格子状、線状、波線状、ハニカム状、丸穴状等が挙げられる。
【0041】
透光性導電層14の厚さは、例えば、30nm以上300nm以下であることが好ましい。透光性導電層14が、30nm以上300nm以下であると、可撓性を高く保ちながら、良好な導電性を得ることができる。
【0042】
(発電層15)
発電層15は、光の照射によって光電変換を生じさせる層であり、光を吸収することで生成された励起子から、電子と正孔とを生じさせる。発電層15は、
図3(B)に示すように、正孔輸送層151と、光電変換層152と、電子輸送層153と、を備える。正孔輸送層151、光電変換層152、及び電子輸送層153は、透光性導電層14から電極16に向かう方向に沿って、この順で積層されている。
【0043】
(正孔輸送層151)
正孔輸送層151は、光電変換層152で発生した正孔を、透光性導電層14へ抽出し、かつ光電変換層152で発生した電子が、透光性導電層14へ移動するのを妨げる。正孔輸送層151の材料としては、例えば、金属酸化物を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化セシウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。また、その他、デラフォサイト型化合物半導体(CuGaO2)、酸化銅、チオシアン酸銅(CuSCN)、五酸化バナジウム(V2O5)、酸化グラフェン等が用いられてもよい。また、正孔輸送層151の材料として、p型有機半導体又はp型無機半導体を用いることもできる。
【0044】
正孔輸送層151の厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは、10nm以上500nm以下であり、更に好ましくは、10nm以上50nm以下である。正孔輸送層151の厚さが、1nm以上1000nm以下であれば、正孔の輸送が実現できる。
【0045】
(光電変換層152)
光電変換層152(光活性層)は、吸収した光を光電変換する層である。光電変換層152の材料としては、吸収した光を光電変換することができれば特に制限はなく、例えば、アモルファスシリコン、ペロブスカイト、非シリコン系材料(半導体材料CIGS)等が用いられる。また、光電変換層152は、これらを複合したタンデム型の積層構造としてもよい。非シリコン系材料が用いられた光電変換層152は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を含む半導体材料CIGSが用いられており、光電変換層152の厚さを薄くしやすい。
【0046】
以下では、光電変換層152の一例として、ペロブスカイトが用いられる光電変換層152を挙げて説明する。ペロブスカイト化合物を含む光電変換層152は、入射光の角度に対する発電効率の依存性(以下、入射角依存性という場合がある)が比較的低いという利点がある。これにより、本実施形態に係る太陽光発電シート10は、入射角依存性が低く、すなわち、設置面の勾配に対する依存性が少ないため、他の太陽電池と比較して、より広い箇所に設置できる。これにより、本実施形態では、より高い発電効率を得ることができる。加えて、ペロブスカイトが用いられる太陽光発電シート10は高い発電効率を有するため、比較的薄く形成できかつ有機物のため非常に撓みやすい。よって外装材3に沿うように曲げた状態で設置したとしても長期間発電効率を維持することができる。
【0047】
ぺロブスカイト化合物は、ペロブスカイト結晶構造体及びこれに類似する結晶を有する構造体である。ペロブスカイト結晶構造体は、組成式 ABX3 で表される。この組成式において、例えば、Aは有機カチオン、Bは金属カチオン、Xはハロゲンアニオンを示す。ただし、Aサイト、Bサイト及びXサイトはこれに限定されない。
【0048】
Aサイトを構成する有機カチオンの有機基としては、特に制限はなく、例えば、アルキルアンモニウム誘導体、ホルムアミジニウム誘導体等が挙げられる。Aサイトを構成する有機カチオンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0049】
Bサイトを構成する金属カチオンの金属としては、特に制限はなく、例えば、Cu、Ni、Mn、Fe、Co、Pd、Ge、Sn、Pb、Eu等が挙げられる。Bサイトを構成する金属カチオンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0050】
Xサイトを構成するハロゲンアニオンのハロゲンには、特に制限はなく、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。Xサイトを構成するハロゲンアニオンは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0051】
光電変換層152の厚さは、例えば、1nm以上1000000nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上50000nm以下であり、更に好ましくは、300nm以上1000nm以下である。光電変換層152の厚さが、1nm以上1000000nm以下であると、光電変換効率が向上する。
【0052】
(電子輸送層153)
電子輸送層153は、光電変換層152で発生した電子を電極16へ抽出し、かつ光電変換層152で発生した正孔が、電極16へ移動するのを妨げる。電子輸送層153としては、例えば、ハロゲン化合物又は金属酸化物のいずれかを含むことが好ましい。
【0053】
ハロゲン化合物としては、例えば、ハロゲン化リチウム(LiF、LiCl、LiBr、LiI)、ハロゲン化ナトリウム(NaF、NaCl、NaBr、NaI)等が挙げられる。金属酸化物を構成する元素としては、チタン、モリブデン、バナジウム、亜鉛、ニッケル、リチウム、カリウム、セシウム、アルミニウム、ニオブ、スズ、バリウム等が挙げられる。また、電子輸送層153の材料として、n型有機半導体又はn型無機半導体を用いることもできる。
【0054】
電子輸送層153の厚さは、例えば、1nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは、10nm以上500nm以下であり、更に好ましくは、10nm以上50nm以下である。電子輸送層153の厚さが、1nm以上1000nm以下であれば、電子の輸送が実現できる。
【0055】
電極16は導電性を有し、アノードとして機能する。電極16は、光電変換層152によって生じた光電変換に応じて、光電変換層152から電子を取り出すことができる。電極16は、透光性を有していてもよいし、不透光性材料で構成されてもよい。電極16の材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、ニッケル、スズ、亜鉛、又はこれらを含む合金等が挙げられる。
【0056】
(発電セル12の作用)
発電セル12に光が照射されると、発電層15の光電変換層152が光を吸収して光電変換を行うことで、光電変換層152で電子と正孔とが生じる。当該電子が電子輸送層153を介して電極16(アノード)へ抽出され、正孔が正孔輸送層151を介して透光性導電層14(カソード)へ抽出されることで、透光性導電層14および電極16から電流が取り出される(すなわち発電が行われる)。
【0057】
(複数の発電セル12の接合構造等)
発電部7は、複数の発電セル12が一方向に接合されている。ここで、
図3(C)には、
図3(A)のA-A線断面図を示す(ただし、封止層18、バックシート11及びバリアシート17は省略している)。
図3(C)に示すように、各発電セル12の電極16(アノード)は、電子輸送層153に積層された部分から延びる延長部161を有する。延長部161は、隣接する発電セル12の透光性導電層14にまで延びており、隣接する発電セル12の透光性導電層14に対して、機械的に接合されると共に電気的に接続される。隣り合う発電セル12が、延長部161によって接合されることにより、発電部7の一端にある透光性導電層14と、発電部7の他端にある電極16とが導通する。
【0058】
発電部7が、複数の発電セル12を備えることで、一部の発電セル12で不具合が生じても、発電部7からの電気取り出し量を安定化させることができる。
【0059】
なお、延長部161は電極16が有していたが、透光性導電層14(カソード)が、隣接する電極16にまで延びる延長部161を有してもよい。
【0060】
また、発電部7に透光性基材13を設ける場合、発電部7の製造を容易にする観点から、
図3(C)に示すように、各発電セル12の透光性導電層14、発電層15及び電極16を、共通の透光性基材13に支持させることが好ましい。
【0061】
発電シート本体1には、複数の発電部7が含まれていてもよい。この場合、複数の発電部7は、発電シート本体1の一面に沿うように配置される。複数の発電部7は、直列又は並列に電気的に接続される。複数の発電部7は、バックシート11とバリアシート17との間に配置された配電線によって電気的に接続される。
【0062】
複数の発電部7を直列に接続する場合、隣り合う発電部7において、一方の発電部7の端にある透光性導電層14と、他方の発電部7の端にある電極16とを、配電線を介して接続する。複数の発電部7を並列に接続する場合、隣り合う発電部7において、透光性導電層14同士を配電線で接続し、電極16同士を配電線で接続する。
【0063】
発電シート本体1において、複数の発電部7は、一方向に間隔をおいて配置されている。隣り合う発電部7の間の距離は、0mm超であればよく、好ましくは2mm以上であり、より好ましくは10mm以上であり、更に好ましくは、15mm以上である。また、隣り合う発電部7の間の距離は、100mm以下が好ましく、より好ましくは50mm以上であり、更に好ましくは、20mm以下である。
【0064】
(バリアシート17)
バリアシート17は、発電部7の表面側の面を保護する。すなわち、バリアシート17は、表面保護層である。バリアシート17は、発電シート本体1の厚さ方向において、バックシート11とは反対側に配置される。バリアシート17は、発電シート本体1の受光面を含む。バリアシート17は、透光性を有しているが、透明であることが好ましい。バリアシート17は、水蒸気に対するバリア性能、及び外力に対する保護性能を有する。
【0065】
バリアシート17は、可撓性を有する。バリアシート17の縦弾性係数は、2400MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3000MPa以上である。また、バリアシート17の縦弾性係数は、4200MPa以下であることが好ましく、より好ましくは4000MPa以下である。バリアシート17の材料として、具体的には、例えば、プラスチックフィルム、ビニルフィルム等の合成樹脂製の材料が挙げられる。
【0066】
また、バリアシート17の厚さは、50μm以上であることが好ましく、より好ましくは、100μm以上である。また、バリアシート17の厚さは、2000μm以下であることが好ましく、より好ましくは、1000μm以下である。
【0067】
発電シート本体1が加熱又は冷却された際、バリアシート17の熱伸縮量は、バックシート11の熱伸縮量に近いことが好ましい。すなわち、バックシート11に対するバリアシート17の熱膨張係数の比は、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは、3.0以下であり、更に好ましくは、1.0以下である。一方、バックシート11に対するバリアシート17の熱膨張係数の比の下限値としては、0.8以上であることが好ましく、より好ましくは、0.9以上であり、更に好ましくは、0.95以上である。
【0068】
これによって、設置した後において、太陽光の影響で温度が上がったり、冬期に温度が下がったりしても、発電シート本体1に生じる熱伸縮の影響を軽減できる。この結果、バックシート11と封止層18との界面、及びバリアシート17と封止層18との界面に生じるせん断応力を軽減できる。
【0069】
(封止層18)
封止層18は、バリアシート17とバックシート11との間に発電部7を配置した状態で、バリアシート17とバックシート11との間に充填される。発電部7は、封止層18に埋め込まれており、封止層18によって覆われる。したがって、封止層18は、発電部7に対して、発電部7の周囲から浸水するのを妨げる。封止層18は、透光性を有しており、好ましくは、透明である。
【0070】
封止層18の材料としては、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA; Ethylene-vinyl acetate)、ポリオレフィン、ブチルゴム、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、SBS樹脂、SIBS樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0071】
封止層18の横弾性率は、0.01MPa以上が好ましく、より好ましくは、0.05MPa以上であり、更に好ましくは0.1MPa以上である。一方、封止層18の横弾性率は、500MPa以下が好ましく、より好ましくは、250MPa以上であり、更に好ましくは100MPa以上である。このようにすることで、バックシート11とバリアシート17の温度差で生じる熱伸縮による面方向のせん断応力を、封止層18が面方向に変形することにより吸収できる。これにより、バックシート11とバリアシート17とにおいて、熱伸縮により発生するせん断応力により、剥離が生じることを抑制できる。
【0072】
封止層18を介してバックシート11とバリアシート17は接着されているが、その接着強度はピール試験にて、0.1N/10mm以上10N/10mm以下であることが好ましい。特に、曲げた状態で施工される場合は、太陽光発電シート10に生じるせん断応力はより大きくなるため、ピール試験における上記範囲の接着強度を採用することで、長期間剥離を効果的に抑制することができる。ピール試験は、JIS Z 0237に準拠して行われる。ピール試験は、90℃の環境下で行われる。
【0073】
剥離抑制の効果を高める観点より、封止層18の厚さとしては、10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上が挙げられる。一方、封止層18の厚さとしては、300μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下であり、更に好ましくは100μm以下である。封止層18の厚さを10μm以上とすることで、熱伸縮時のせん断応力の逃げしろを十分に確保することができる。封止層18の厚さを、300μm以下とすることで、太陽光発電シート10の重量を軽量化できるため、施工性・作業性を向上することができる。
【0074】
(封止縁材19)
封止縁材19は、バックシート11とバリアシート17との間に複数の発電部7及び封止層18を配置した状態で、外縁を全長にわたって封止する。封止縁材19は、
図3(A)に示すように、第1接着部191と、第2接着部192と、第1接着部191と第2接着部192とをつなぐ封着部193と、を備える。第1接着部191は、バリアシート17のおもて面(図では上面)に接着される。第2接着部192は、バックシート11のうら面(図では下面)に接着される。第1接着部191、封着部193及び第2接着部192は、一体に形成されている。
【0075】
封止縁材19の材料としては、例えば、ブチルゴム、シリコーンゴム等からなるテープ材が挙げられる。
【0076】
なお、本実施形態において、封止縁材19は、必ずしも必要ではない。例えば、封止縁材19に代えて、バリアシート17の縁部をバックシート11側に折り曲げ、折り曲げた先端をバックシート11に接合すれば、封止縁材19は不要である。
【0077】
(形状保持部2)
形状保持部2は、発電部7及びバリアシート17を変形させた状態に保持させることができる。本実施形態に係る形状保持部2は、
図2(B)に示すように、発電シート本体1に取り付けられた複数の棒体21を備える。複数の棒体21は、発電シート本体1のバリアシート17の背面(下面)に取り付けられている。複数の棒体21は、本実施形態では、発電シート本体1の外周縁の全周に沿って配置されている。
【0078】
ただし、複数の棒体21は、バリアシート17の背面に取り付けられる必要はなく、例えば、発電シート本体1の外周端面に対向する位置に設けられてもよい。外周端面に対向する位置に設けられる場合、設置面に対して発電シート本体1を取り付けるための枠材と兼用してもよい。
【0079】
形状保持部2は、可撓性を有していることが好ましい。ただし、形状保持部2の弾性率は、発電シート本体1の弾性率よりも高い。形状保持部2の弾性率は、発電シート本体1の弾性率に対して、1.1倍以上が好ましく、より好ましくは1.3倍であり、更に好ましくは1.5倍以上である。具体的には、形状保持部2の弾性率は、好ましくは110MPa以上であり、より好ましくは550MPa以上である。一方、太陽光発電シート10の弾性率は、好ましくは15000MPa以下であり、より好ましくは7500MPa以下である。
【0080】
このようにすることで、太陽光発電シート10を設置した状態において、太陽光発電シート10の受光面の角度を調整した位置に維持しやすい。本実施形態では、各棒体21が可撓性を有している。1つの棒体21は、長手方向に連続した1つの棒体であってもよいし、複数の部品が軸方向に組み合わされて1つの棒体21を構成してもよい。長手方向に連続した1つの棒体21は、塑性変形することで、無段階で形状を保持することができる。複数の部品が軸方向に組み合わされた棒体21は、隣り合う部品同士のなす角度を変えることで撓むことができ、隣り合う部品同士の角度を維持することで、形状を保つことができる。棒体21としては、例えば、針金、コルゲートパイプ、フレキシブルチューブ等が挙げられる。棒体21としては、中実であってもよいし、中空であってもよい。
【0081】
ただし、棒体21は可撓性を有さなくてもよい。この場合、棒体21は、角度可変機構を有することが好ましい。角度可変機構として、例えば、棒体21の長手方向の一部に設けられるボールジョイント、ユニバーサルジョイント、一軸の可動ジョイント等が挙げられる。また、棒体21は、作業現場で変形できるようなものでなくてもよく、例えば、予め屈曲した継手を用いて、棒体を軸方向に接続してもよい。
【0082】
形状保持部2は、太陽光発電シート10の厚さ方向において、発電部7よりもバリアシート17とは反対側に位置することが好ましい。本実施形態では、上述したように、形状保持部2は、バリアシート17の背面に取り付けられている。形状保持部2とバリアシート17との取付けは、例えば、接着、ねじ留め、嵌め込み、溶接、溶着、リベット止め、ろう付け、スナップフィット構造等により実現される。このようにすることで、形状保持部2の影によって発電部7における発電効率が低下することを低減できる。
【0083】
(太陽光発電シート10の設置方法)
このように構成された太陽光発電シート10は、
図1に示すように、例えば、作業者が作業現場において湾曲した状態に変形させると、その状態に維持される。変形が維持された状態で、太陽光発電シート10を設置面51に載せることで、太陽光発電シート10が設置される。
【0084】
設置された太陽光発電シート10の一部は、設置面51上に載る。本明細書では、太陽光発電シート10において、設置面51に対して取り付けられる部分を「第1部分31」という。第1部分31は、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。本実施形態では、太陽光発電シート10の幅方向の両端部が第1部分31である。第1部分31は、設置面51に対して固定されることが好ましい。設置面51に対する第1部分31の固定方法としては、例えば、接着剤、粘着剤、両面テープ、磁石、ねじ、ボルト等が挙げられる。なお、太陽光発電シート10の長さ方向の端部が第1部分31であってもよい。設置面51に対する太陽光発電シート10の固定は、局所的な固定であってもよいし、一定以上の幅のある面での固定であってもよい。固定部分を最小化することで、太陽光発電シート10の受光面積を最大化できる。一方、面での固定を行うことで、風等で太陽光発電シート10における第1部分31の近辺に生じる応力を緩和でき、局所的に応力が発生することを抑制することができる。
【0085】
太陽光発電シート10における第1部分31以外の部分を第2部分32という。第2部分32の少なくとも一部は、設置面51に対して傾斜している。第2部分32の全面が設置面51に対して傾斜していてもよいし、第2部分32の一部のみが傾斜していてもよい。第2部分32は、アーチ状に湾曲していてもよいし、球面状に湾曲していてもよい。また第2部分32は、凹凸が繰り返すように断面波板状に湾曲していてもよいし、平面状であってもよい。
【0086】
第2部分32における傾斜した部分は、設置面51に対して離れていることが好ましい。このようにすることで、作業者は、第2部分32と設置面51との間に手を差し入れやすい。これにより、作業者は、太陽光発電シート10を設置面に設置した後でも、太陽光発電シート10の設置面51に対する角度を調整しやすい。
【0087】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る太陽光発電シート10は、形状保持部2を備えるため、太陽光発電シート10の受光面の角度を、所望の角度に調整した状態に維持することができる。このため、太陽光発電シート10の上面を水が流れやすく、塵や埃等の汚れが堆積しにくくできる。また、太陽光に対する受光面の角度を発光効率のよい角度に調整しやすくなる。
【0088】
また、形状保持部2は、太陽光発電シート10の厚さ方向において、発電部7よりもバリアシート17とは反対側に位置しているため、発電効率を損なうことが軽減される。
【0089】
また、本実施形態に係る太陽光発電シート10の設置構造100は、太陽光発電シート10の第1部分31は設置面51上に取り付けられ、その他の部分のうちの少なくとも一部は、設置面51に対して傾斜している。このため、太陽光発電シート10の上面を水が流れやすく、塵や埃等の汚れが堆積しにくくできる。
【0090】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0091】
(第1変形例)
上記実施形態では、複数の棒体21は、バックシート11の外周縁に沿って配置されたが、
図4に示すように、外周縁以外の部分に配置された第1の棒体211と第2の棒体212とを備えてもよい。
【0092】
第1の棒体211は、発電シート本体1の幅方向に平行に配置される。複数の第1の棒体211は、発電シート本体1の長さ方向に沿って一定の間隔をおいて配置されている。第2の棒体212は、発電シート本体1の幅方向の中央に配置される。第2の棒体212は、複数であってもよい。第2の棒体212が複数の場合、第2の棒体212は発電シート本体1の幅方向に間隔をおいて配置される。第2の棒体212は、
図4(C)に示すように、第1の棒体211に対し、発電シート本体1とは反対側に固定される。第1の棒体211と第2の棒体212との固定は、例えば、溶接、接着、締結、ボルト止め等により実現される。
【0093】
なお、第1の棒体211及び第2の棒体212は、実施形態のようにバックシート11の外周縁に沿って配置された棒体21に加えて適用されてもよい。
【0094】
(第2変形例)
形状保持部2は、
図5に示すように、バックシート11であってもよい。バックシート11は、塑性変形することで、発電部7及びバリアシート17を変形させた状態に保持することができる。バックシート11としては、例えば、金属板、メリヤス金網、金属シート等の金属製の材料が挙げられる。また、バリアシート17としては、例えば、合成樹脂製、カーボン製等であってもよい。形状保持部2が発電部7及びバリアシート17の下面の全面を覆うことで、発電部7を部分的に凸状に変形させる等のより自由度の高い変形の形状を保持することができる。
【0095】
金属製のバックシート11を用いる場合、バックシート11の下面は、保護層で覆われることが好ましい。保護層としては、例えば、樹脂膜、ゴム膜等をコーティングすることが挙げられる。
【0096】
また、バックシート11に、形状記憶樹脂又は金属を用いてもよい。搬送・施工時は平坦のため輸送性を向上させることができ、現場で加熱処理を行うことで、特定の形状に復元することができるため施工性を向上できる。
【0097】
(第3変形例)
形状保持部2は、
図6に示すように、設置面51と発電部7との間に配置されたスペーサ4であってもよい。スペーサ4は、太陽光発電シート10の第2部分32において、設置面51とバックシート11との間の距離を保つ。発電シート本体1は可撓性を有するため、第1部分31が設置面51に取り付けられ、第2部分32が設置面51から離れると、第2部分32の少なくとも一部が設置面51に対して傾斜する。すなわち、スペーサ4は、第2部分32と設置面51との間の距離を維持することで、発電部7及びバリアシート17を変形させた状態に保持することができる。
【0098】
スペーサ4としては、例えば、棒状、ブロック状、箱状、平板状等が挙げられる。スペーサ4としては、発電部7に電気的に接続された電気ケーブル41であることが好ましい。電気ケーブル41は、バックシート11の下面に固定されてもよいし、固定されていなくてもよいし、バックシート11と発電部7との間に配置されてもよい。電気ケーブル41がバックシート11と発電部7との間に配置される場合、バックシート11は、電気ケーブル41に対応する部分が、その他の部分よりも下方に隆起する。この隆起した部分がスペーサ4となる。
【0099】
太陽光発電シート10とスペーサ4は一体化していても一体化していなくてもよい。太陽光発電シート10とスペーサ4とが一体化している場合は、施工などの取り扱い性を向上させることができる。太陽光発電シート10とスペーサ4とが一体化していない場合は、個別部材ごとに搬送・施工ができるため、現場での管理性・施工自由度を向上させることができる。
【0100】
(第4変形例)
上記実施形態では、太陽光発電シート10は幅方向の中央部が上方に膨らむように湾曲したが、
図7に示すように、下方に反るように湾曲してもよい。第1部分31は、太陽光発電シート10の幅方向の中央部である。第2部分32は、太陽光発電シート10の幅方向において、第1部分31の両側に位置する。
【0101】
第2部分32は、第1部分31から幅方向の外側に向かうに従って上方に位置するように、設置面51に対して傾斜している。第2部分32の上面は、第1部分31に向かって下り傾斜している。また、
図7(B)に示すように、第1部分31の上面は、太陽光発電シート10の長さ方向に沿う方向に勾配を有することが好ましい。第1部分31の上面は、長手方向の一方から他方に向かって下り傾斜してもよいし、長手方向の中央部から、長手方向の両側の端部に向かって下り傾斜してもよい。このようにすることで、第2部分32の上面に落下した雨水は、幅方向の中央部(すなわち第1部分31)に向かって流れ、第1部分31に到達すると、長さ方向のいずれかに向かって流れる。したがって、設置された状態の太陽光発電シート10の上面に、雨水が残ることが軽減される。なお、本変形例において、「幅方向」を「長さ方向」とし、「長さ方向」を「幅方向」としてもよい。
【0102】
(第5変形例)
図8に示すように、第4変形例において、太陽光発電シート10の最も低い部分には、厚さ方向に貫通した排水孔33が形成されてもよい。排水孔33は、1つであってもよいし、複数であってもよい。複数の排水孔33は、太陽光発電シート10の幅方向の中央部に沿って一定の間隔をおいて配置されている。このようにすることで、第2部分32の上面から中央部に向かって流れた雨水は、排水孔33を通って排水される。
【0103】
排水孔33は、
図8に示すように、第1部分31に形成されてもよいし、
図9に示すように、第2部分32に形成されてもよい。
図9に示すように、第1部分31は、太陽光発電シート10の幅方向の両端部であってもよい。第1部分31は、設置面51から立ち上がる支持体8によって支持される。なお、本変形例では、形状保持部2は、発電シート本体1の裏面に取り付けられているが、形状保持部2を発電シート本体1の裏面に設けることなく、支持体8を形状保持部2としてもよい。
【0104】
排水孔33は、発電部7を避けた位置に形成されてもよいし、発電部7のある領域内に形成されてもよい。
【0105】
(第6変形例)
上記実施形態では、第1部分31は、太陽光発電シート10の両端部であったが、
図10に示すように、第1部分31は、一方の端部のみであってもよい。第1部分31は、平板状である。第2部分32は、第1部分31から離れるに従って設置面51との距離が拡がるように、設置面51に対して傾斜している。第2部分32は平板状である。なお、本変形例では、第1部分31は太陽光発電シート10の幅方向の一端部に沿って形成されたが、第1部分31が長さ方向の一端部に形成され、第2部分32が、長さ方向に沿って延びてもよい。
【0106】
(第7変形例)
ペロブスカイト化合物を含む光電変換層152を有する太陽光発電シート10の場合、発電部7は矩形状に限らず設計が容易にできる。この特性を活かし、
図11に示すように、太陽光発電シート10を設置面51の形状に合わせた形状とすることができる。
図11(B)に示すように、例えば、設置面51が平面視で扇形である場合、太陽光発電シート10についても、平面視で扇形状に形成することができる。この場合、発電部7についても、平面視において、設置面51と相似形状に近付けることができるため、できる限り発電部7を大きくすることができる。この結果、発電効率を向上することができる。設置面51の形状としては、扇形に限らず、例えば、円形、楕円形、多角形等が挙げられる。
【0107】
この際に、太陽光発電シート10の端部と発電部7までの最短距離は50mm以下、より好ましくは35mm以下、更に好ましくは25mm以下であることで、発電効率を向上できる。また、最短距離を5mm以上、より好ましくは10mm以上、更に好ましくは15mm以上とすることで、太陽光発電シート10を屋外で使用する際の耐水性を向上させることができる。
【0108】
また、
図12に示すように、設置材5に開口部52がある場合にも、太陽光発電シート10に対して、開口部52に対応する開口34を設けることもできる。すなわち、開口34を除いて発電部7を形成することができるため、できる限り発電部7を大きくすることができる。この結果、発電効率を向上することができる。なお、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層152を有する太陽光発電シート10であれば、発電部7を、設置面51の形状に合わせた形状とすることができるため、形状保持部2の有無を問わず、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層152を有する太陽光発電シート10全般に適用可能である。
【0109】
設置材5に形成される開口部52としては、例えば、天窓、点検口、メンテナンス用扉、出窓等が挙げられる。
【0110】
(その他の変形例)
発電部7に電気的に接続された電気ケーブル(例えば、銅テープ)を形状保持部2としてもよい。電気ケーブルは、塑性変形することで、発電部7及びバリアシート17を変形させた状態に保持することができる。また、電気ケーブルを保護する配線カバーを設け、配線カバーを形状保持部2としてもよい。
【0111】
また、封止縁材19を形状保持部2としてもよい。また、発電シート本体1の外周縁に取り付けられる断面略C字状の縁材を、形状保持部2としてもよい。縁材は、封止縁材19の上から取り付けられてもよいし、封止縁材19に代えて取り付けられてもよい。
【0112】
上述した実施形態及び変形例について、設置面51に対する第1部分31の固定を、面ファスナ、磁石、両面テープ、接着剤等で固定してもよい。例えば、磁石による固定の場合、一方の磁石を太陽光発電シート10の第1部分31の背面に対して、接着剤、粘着剤、両面テープなどを用いて固着し、他方の磁石を設置面51に接着剤、粘着剤、両面テープなどを用いて固着すればよい。なお、設置面51が磁性を有する場合は、太陽光発電シート10にのみ設置面51に引き合う磁石を接着剤、粘着剤、両面テープなどを用いて固着すればよい。磁石の具体例としては、例えばスガツネ社製のネオジウムマグネットテープ(NMS-3-200)などを挙げることができる。
【0113】
接着剤としては、設置面51の場所に応じて、選択することが好ましい。例えば、水処理場等の酸性雰囲気の環境下においては、耐酸性の接着剤が用いられることが好ましく、沿岸の環境下では塩害に対する耐久性を有する接着剤を、高温多湿の環境下では耐湿熱性を有する接着剤を用いることが好ましい。これによって、設置面51に対する第1部分31の固定力の低減が抑制できる。
【0114】
また、設置面51に対する第1部分31の固定は、以下の態様であってもよい。例えば、ボルト等の鍔部を有する鍔部材、挟み込み部材等による固定具6を用いた固定が挙げられる。挟み込み部材61としては、
図13(A)に示すように、太陽光発電シート10の上面と、設置材5の下面とに圧接されるクランプ、万力等が挙げられる。固定具6は、隣り合う設置材5の間の隙間や穴を通して、太陽光発電シート10の上面と設置材5の下面とを挟み込む。固定具6によって、第1部分31は、設置面51に対して着脱可能に固定される。このようにすることで、太陽光発電シート10を簡易に設置でき、取り外しの際にセルの破損を抑制することができるうえに、より高い固定力が得られる。第1部分31に対する鍔部材又は挟み込み部材の固定は、部分的に固定されてもよいし、全長にわたって固定されてもよい。また、複数の鍔部材又は挟み込み部材を用いる場合、一定のピッチで配置されてもよいし、不等ピッチで配置されてもよい。
【0115】
固定具6は、柔軟性を有する長尺部材であってもよい。長尺部材によって、第1部分31と設置材5とを巻き回すことで、第1部分31を設置面51に対して固定することができる。長尺部材としては、例えば、ゴム、布、皮革、紐、帯等が挙げられる。長尺部材の両端を第1部分31に固定してもよいし、輪状の長尺部材を用いてもよい。長尺部材と第1部分31との固定は、例えば、ファスナ、ボタン、嵌合、留め具等が挙げられる。また、長尺部材によって、第1部分31と設置材5とを巻き回した後、長尺部材の両端同士を締結してもよい。長尺部材として、透明な素材を用いることで、仮に、長尺部材が発電部7の上面に位置しても、発電効率の低下を軽減できる。
【0116】
固定具6の更なる他例として、
図13(B)に示すように、設置材5に一体に形成された突出部材62であってもよい。突出部材62は、設置面から突き出ている。突出部材62は、設置面51から突き出ていればよく、例えば、突出部材62が、溶接やボルト等で取り付けられてもよいし、プレスなどにより一体成形されてもよい。
【0117】
固定具6の更なる他例として、例えば、フレーム、レール、額縁などの枠部材が用いられてもよい。枠部材によって、設置面51に第1部分31を押し付けることにより、着脱可能に固定することができる。また、周縁部を枠部材で囲むことにより、強風等で振動することを抑制することができるため、押さえつけることが無くとも固定力を向上することができる。太陽光発電シート10の平面視における枠部材との被りしろは、1mm以上であればよく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上である。このように構成することで、設置面51に対する太陽光発電シート10の固定力を高めることができる。また、太陽光発電シート10の平面視における枠部材との被りしろは、50mm以下が好ましく、より好ましくは、40mm以下であり、更に好ましくは35mm以下である。このように構成することで、太陽光発電シート10の受光面を広くとることができるため、発電効率を高めることができる。
【0118】
枠部材は取付けの際に、太陽光発電シート10に対して摺動するような構造になっていてもよい。例えば、Uの字形状の枠部材を太陽光発電シート10の長手方向に対して沿うように摺動し取り付けられた後に、残り1辺の枠部材を取り付ける形態等が挙げられる。これにより、設置面51に対して太陽光発電シート10を簡易に設置でき、取り外しの際にセルの破損を抑制することができ、更に、より高い固定力を付与することができる。
【0119】
前述した固定具6の材質は、特に限られないが、例えば、金属、樹脂、複合強化材料などであってもよい。金属にあっては、例えば、アルミ、SUS又は塗装金属部材等が挙げられる。樹脂にあっては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、硬質塩ビ、ポリカーボネート、ポリアミド、PPS等が挙げられる。複合強化材料にあっては、例えば、前記樹脂と炭素、ガラス、金属繊維を含むものが挙げられる。
【0120】
また、固定具6は、設置面51に対して固定される。設置面51に対する固定方法としては、特に制限はなく、例えば、接着、挟み込み、ボルト・ナット、ピン止め、溶接、溶着、設置面51に対するねじ込み等が挙げられる。
【0121】
また、太陽光発電シート10の端部に棒状芯部材が取り付けられていてもよい。棒状芯部材は、その中心軸が太陽光発電シート10の短手方向に平行となるように、太陽光発電シート10の端部に固定されることが好ましい。棒状芯部材を、中心軸を中心に回転させると、棒状芯部材に太陽光発電シート10が巻き付けられる。このため、持ち運びの際にシート形状ではなく棒形状となり、運搬性を向上できる。また、設置後も棒状芯部材に巻き付けることで、一時的に太陽光発電シート10を設置面51から簡易に除去することができ、再設置も容易にすることができる。これにより、暴風等の悪天候時に、一時的に太陽光発電シート10を取り外し、保管することが可能となる。棒状芯部材は、太陽光発電シート10を巻き付けられれば形状は特に限定されないが、中空、中実のいずれでもあってよく、断面形状は円、多角形であってもよい。また、棒状芯部材にハンドルを設け、ハンドルによって棒状芯部材を回転させてもよい。また、棒状芯部材に対して、モータの動力を伝達し、モータによって棒状芯部材を回転させてもよい。
【0122】
なお、棒状芯部材に対して太陽光発電シート10を巻き付ける場合、形状保持部2を取り外し、発電シート本体1のみを巻き付けてもよいし、形状保持部2を備える太陽光発電シート10を巻き付けてもよい。
【0123】
前述の実施形態は、太陽光発電シート10のバックシート11を設置面51に直接的に固定する形態を示したが、バックシート11と設置面51との間に、別のシート部材が介在してもよい。シート部材としては、例えば、合成樹脂シート、繊維強化樹脂シート、ゴム等の弾性シートが挙げられる。シート部材に対して、太陽光発電シート10は固定される。シート部材と太陽光発電シート10との固定は、例えば、接着、固定部材による接合、溶接等が挙げられる。これにより、太陽光発電シート10に穴あけ等の加工をすることなく設置面51に設置でき、また、1つのシート部材に複数の太陽光発電シート10を固定することで、複数の太陽光発電シート10を同時に設置面51に設置することができる。
【0124】
シート部材は、設置面51に対して着脱可能に取り付けられる。これによって、太陽光発電シート10は、設置面51に対して着脱可能に固定される。シート部材と設置面51との固定構造としては、前述した、面ファスナ、磁石、両面テープ、接着剤、鍔部材、挟み込み部材、吊り部材、枠部材からなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。
【0125】
上述した全ての実施形態において、太陽光発電シート10は、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層152を有する太陽光発電シート10を例にして説明をしたが、本発明では、可撓性を有する太陽光発電シート10であれば同等の効果を発揮することができる。また、本発明に係る太陽光発電シート10としては、光により発電効果が得られる太陽電池だけでなく、光エネルギーを別のエネルギーに変換するシート(光エネルギー変換シート)であればよい。光エネルギー変換シートとしては、太陽光発電シート10の他、例えば、光エネルギーを熱エネルギーに変換する光発熱シート(太陽光駆動型熱電変換デバイス)などを挙げることができる。
【符号の説明】
【0126】
10 太陽光発電シート
11 バックシート
7 発電部
2 形状保持部
21 棒体
31 第1部分
32 第2部分
33 排水孔
4 スペーサ
41 電気ケーブル
51 設置面
100 設置構造