(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080703
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用非水電解液およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240606BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240606BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058591
(22)【出願日】2024-04-01
(62)【分割の表示】P 2023555687の分割
【原出願日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022107065
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】321011907
【氏名又は名称】エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】トドロフ ヤンコ マリノフ
(72)【発明者】
【氏名】張勍
(72)【発明者】
【氏名】李家玉
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB29
(57)【要約】
【課題】 電気自動車など車載用二次電池で重要とされるサイクル特性(サイクル寿命)に優れ、さらに4.2Vを超える高電圧または高温での耐腐食性にも優れたリチウムイオン二次電池用非水電解液およびリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 本発明のリチウムイオン二次電池用非水電解液は、正極、負極、セパレータ、および非水溶媒に電解質塩が溶解されてなる非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池において使用する非水電解液であって、5員環ホスホン酸エステル化合物(I)を0.01重量%~10重量%含有することを特徴とする。
式中、Rは-CH
2C≡CH基、-CH(CH
3)C≡N基、-C(CH
3)
2C≡N基または-CH
2CH
2C≡N基を表わす。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、および非水溶媒に電解質塩が溶解されてなる非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池において使用する非水電解液であって、下記式(I)で表わされる5員環のホスホン酸エステル化合物を0.01重量%~10重量%の範囲内で含有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池用非水電解液。
【化1】
式中、Rは-CH
2C≡CH基、-CH(CH
3)C≡N基、-C(CH
3)
2C≡N基または-CH
2CH
2C≡N基を表わす。
【請求項2】
前記式(I)で表わされる5員環のホスホン酸エステル化合物のRが-CH2C≡CH基であって、前記電解質塩はLiPF6およびLiB(C2O4)2を含まないことを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項3】
1,3-ジオキサンを0.01重量%~5重量%の範囲内で含有することを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項4】
1,3-プロパンスルトン、メタンスルホン酸2-プロパルギル、および、メタンスルホン酸2-シアノエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種のSO3基を含有する化合物を、0.01重量%~5重量%の範囲内で含有することを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液。
【請求項5】
正極、負極、セパレータ、および非水溶媒に電解質塩が溶解されてなる非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記非水電解液が、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用非水電解液であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極がケイ素系酸化物を含んでいることを特徴とする、請求項5記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池のサイクル寿命などの電池特性に優れ、電池の耐腐食性のような安全性も兼ね備えたリチウムイオン二次電池用非水電解液およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池(LIB)は、高容量化、高電圧化が進み、サイクル寿命や高温保存特性などの改良が行われている。正極活物質にはNiを含有したリチウム複合酸化物、負極活物質には黒鉛材料やこれにSi含有化合物、電解質にはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を含む非水電解液を用いたLIBが車載用二次電池に使用されるようになってきた。
【0003】
現在の電気自動車用LIBの正極材料は、よりニッケル含有量の多い方向、負極は以前から用いられている黒鉛材料にシリコン系材料を混合し、さらにシリコン系材料の配合比を高める方向に技術進化している。このようにする目的は、電池全体のエネルギー密度を高め、電気自動車への航続距離を伸ばすことにある。
【0004】
現在の電気自動車用LIBは、多様な環境の中で優れた性能を発揮する必要がある。その中で特に重要なのは、高温時の性能である。車載用LIBは内外からの熱の影響によりセルが高温に晒されると、電解液の分解に伴うガス生成が加速すると同時に、正極からの金属イオンが溶出し、それが負極に析出して電池性能の劣化をもたらす。
【0005】
一方、負極では、保護被膜層が熱劣化すると高活性の負極表面が直接溶媒と接触して自己放電し、電池性能を低下させる。これは、自身の構造安定性と高温性能に劣る高Ni正極及びSi系材料の負極にとっては、より顕著な悪影響を及ぼす懸念がある。
【0006】
特許文献1では、LiFSI等のイミド系リチウム塩を電解質とする非水電解液において、4.2Vを超える高電圧下で作動させると、LIBの正極集電体として用いられるアルミニウムを腐食させてしまう問題が指摘されている。
【0007】
また、特許文献2では、エチレン(2-プロピニル)フォスフェートなどの環状リン酸エステル化合物(A)とLiPF6などのシュウ酸構造を有さないリチウム塩化合物(B)と、LiB(C2O4)2(LiBOB)などのシュウ酸構造を有するリチウム塩化合物(C)と非水溶媒とを含有する非水電解液を用いることにより、優れた容量維持率や連続充電後のガス発生が少なくなるLIBが提案されている。
【0008】
しかし、この技術においても、電池のサイクル寿命や高電圧下または高温下での使用における耐腐食性などの電池特性は十分なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-203748号
【特許文献2】特開2015-99660号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電気自動車など車載用二次電池で重要とされるサイクル特性(サイクル寿命)に優れ、さらに4.2Vを超える高電圧または高温での耐腐食性にも優れたリチウムイオン二次電池用非水電解液およびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者により鋭意検討した結果、正極、負極、セパレータ、および非水溶媒に電解質塩が溶解されてなる非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池において使用する非水電解液は、下記式(I)で表わされる5員環のホスホン酸エステル化合物を0.01重量%~10重量%の範囲内で含有する。前記構成を有することにより、電池のサイクル特性を向上させるとともに、4.2Vを超える高電圧または高温での耐腐食性に優れたリチウムイオン二次電池用非水電解液が得られることを見出した。
【化1】
式中、Rは-CH
2C≡CH基、-CH(CH
3)C≡N基、-C(CH
3)
2C≡N基または-CH
2CH
2C≡N基を表わす。
【0012】
前記式(I)で表わされる5員環のホスホン酸エステル化合物のRが-CH2C≡CH基である場合、前記電解質塩はLiPF6およびLiBOBを含まないことが好ましい。
【0013】
さらに、前記式(I)で表わされる5員環のホスホン酸エステル化合物を含有した非水電解液に、1,3-ジオキサン(DOX、CAS RN:505-22-6)を0.01重量%~5重量%の範囲内で含有させることが好ましい。DOXを含有させることにより、4.2Vを超える高電圧または高温でのサイクル特性や耐腐食性を、さらに向上させることができる。この効果は、特に電解質としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を用いた場合に顕著である。
【0014】
また、本発明の前記非水電解液は、1,3-プロパンスルトン、メタンスルホン酸2-プロパルギル、および、メタンスルホン酸2-シアノエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種のSO3基を含有する化合物を、0.01重量%~5重量%の範囲内で含有することができる。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水溶媒に電解質塩が溶解されてなる非水電解液を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記非水電解液が、前記本発明のリチウムイオン二次電池用非水電解液であることを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池において、前記負極がケイ素系酸化物を含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、電気自動車など車載用二次電池で重要とされるサイクル特性(サイクル寿命)に優れ、さらに4.2Vを超える高電圧または高温での耐腐食性にも優れたリチウムイオン二次電池用非水電解液およびリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の形態・構成について例示するが、本発明はこれらに限定されることはなく、請求項記載事項、課題解決手段、発明の効果等の記載の意図に沿ったものであれば全て本発明に含まれる。
【0019】
非水電解液は電解質塩と非水溶媒とから成り立つ。電解質塩としては、例えば、SO2基を持つLiN(SO2F)2(LiFSI)、SO3基を持つLiOSO2F、SO4基を持つLiOSO3CH3、LiOSO3C2H5、リン(P)を持つLiPF6、LiPO2F2等のリチウム塩を使用することができる。但し、本発明において、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料にSiO、SiO2のようなケイ素系酸化物を含有する場合、LiPF6、および、シュウ酸骨格を持つLiBOBを除く電解質塩を用いることが好ましい。前記リチウム塩は、単独で用いてもいいし、2種以上でもよい。LiFSI以外のLi塩には、低温での電池性能を補助的に向上させる効果があるため一定量加えることが好ましい。これらのリチウム塩の好適な組合せとしては、SO2基を持つリチウム塩:リン(P)の2種類の組み合わせ、SO3基を持つリチウム塩:SO4基を持つリチウム塩:リン(P)を持つリチウム塩の3種類の組み合わせが好ましい。具体的には、LiFSI:LiPO2F2の2種類の組み合わせ、LiFSI、:LiOSO3CH3:LiPO2F2の3種類の組み合わせがより好ましい。LiFSI/その他のLi塩のモル比は100/0~1/99が好ましく、更に好ましくは100/0~60/40、最も好ましくは100/0~80/20の範囲にあることである。また、トータルの電解質塩の濃度(mol/L)は0.5~3の範囲で溶解されていることが好ましく、更に好ましくは1~2の範囲である。
【0020】
電解液溶媒としては、主溶媒に5員環カーボネートや鎖状カーボネートを用いることができる。5員環カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)が好適に挙げられる。鎖状カーボネートを用いる場合には、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)が好適に挙げられる。
【0021】
これらの溶媒は一種類で使用してもよく、また二種類以上を組合せて使用してもよい。本発明のリチウムイオン二次電池が、Niを含有する正極活物質やSiを含有する負極活物質を備える場合、5員環カーボネートの好適な組合せとしては、EC:FEC、EC:PC:FECのようにフッ素含有のFECを含むことが腐食抑制の観点から好ましく、鎖状カーボネートの好適な組合せとしては、DMC:EMC、DEC:EMCのように非対称鎖状カーボネートを含むことが、45℃以上の高温領域や-20℃以下の低温領域での電気化学特性向上の観点から好ましい。
【0022】
本発明に係る非水電解液の非水溶媒として5員環カーボネートを用い、前記5員環カーボネートに鎖状エステル(鎖状カーボネート)を含む場合、5員環カーボネートと鎖状カーボネートの割合は45℃以上の高温領域や-20℃以下の低温領域の電気化学特性向上の観点から、5員環カーボネート:鎖状カーボネート=10:90~50:50(容量比)が好ましく、20:80~40:60がより好ましい。
【0023】
本発明の非水電解液は、下記式(I)で表される5員環のホスホン酸エステル化合物を0.01重量%~10重量%の範囲内で含有している。式中、Rは-CH
2C≡CH基、-CH(CH
3)C≡N基、-C(CH
3)
2C≡N基または-CH
2CH
2C≡N基を表わす。前記5員環のホスホン酸エステル化合物の添加により、アルミなどの金属に対して耐腐食性が向上するため、化学的な熱安定性が高く、高温での電池性能を向上させることができるLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)を多く用いることもできる。なお、前記5員環のホスホン酸エステル化合物としては、式中のRが-CH
2C≡CH基である化合物、-CH(CH
3)C≡N基である化合物、-C(CH
3)
2C≡N基である化合物および式中のRが-CH
2CH
2C≡N基である化合物のいずれかを用いてもよいし、これらの複数を混合して用いることもできる。
【化2】
【0024】
5員環のホスホン酸エステル化合物(I)の添加量は、少な過ぎると負極の保護被膜の形成が不十分となるためにサイクル特性の低下や高温保存特性に影響を及ぼす。そのため、好適な使用範囲は、非水溶媒に対して0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。また、上限値は非水溶媒に対して5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましい。
【0025】
本発明で使用する5員環のホスホン酸エステル化合物(I)のサイクル特性や耐腐食性をより向上させるため、本発明の電解液中に、6員環エーテルの1,3-ジオキサン(DOX)を0.01重量%~5重量%の範囲内で含有することができる。このことにより、サイクル特性と4.2Vを超える高電圧および/または常温を超える耐腐食性を、より高いレベルで併せ持つことができる。
【0026】
上記のDOXの併用が好ましい理由は憶測の域を出ないが、R=-CH2C≡CH基、-CH(CH3)C≡N基、-C(CH3)2C≡N基または-CH2CH2C≡N基を含有する5員環のホスホン酸エステル化合物(I)が開環重合した際、6員環エーテルのDOXも開環重合され、正極活物質や負極活物質の界面に相乗効果の強いポリマー吸着層を形成し、電解液の主溶媒との接触を防止しているものと考えられる。DOXの使用範囲は、非水溶媒に対して0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上が最も好ましい。また、上限値は非水溶媒に対して5重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下が最も好ましい。
【0027】
本発明により、サイクル寿命向上の観点からは使用が好ましいものの、腐食性が高く、通常は使用が躊躇されてきたSO3基を含有する化合物である、1,3-プロパンスルトン(CAS RN:1120-71-4)、メタンスルホン酸2-プロパルギル(CAS RN:16156-58-4)、メタンスルホン酸2-シアノエチル(CAS RN:65885-27-0)を0.01重量%~5重量%含有した非水電解液も、LIBの耐腐食性を損なうことなく使用可能になる。
【0028】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いるセパレータとしては、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン材料から形成された微多孔膜(多孔シート)からなるセパレータを用いることが最も好ましいが、不織布からなるセパレータを用いることもできる。多孔シートや不織布は、単層であっても、多層構造であってもよく、セパレータ表面に、アルミナなどの酸化物をコーティングしていてもよい。セパレータの厚みは、電池の体積エネルギー密度を上げるためには極力薄くする必要がある。そのため、20ミクロン以下が好ましく、特に好ましくは10ミクロン以下である。
【0029】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる負極活物質として、体積エネルギー密度を上げるためには、リチウムイオンを可逆に吸蔵・放出可能な天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛材料が好適に挙げられる。また、容量を上げるために、SiO、SiO2のようなケイ素系酸化物を好適に加えることができる。黒鉛と少なくとも一種類のケイ素系酸化物とを含有する場合、ケイ素系酸化物が負極活物質に占める重量は1~30%が好ましく、5~20%がより好ましい。
【0030】
負極合材としては、前記負極活物質にエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤を混練してスラリー状の負極合剤とした後、この負極材料を集電体の銅箔もしくはアルミニウム箔に塗布して、乾燥、加圧成型後、例えば真空下、80℃で加熱処理することにより作製される。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる正極活物質としては、例えば、LiCoO2(LCO)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2(NCM111)、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2(NCM523)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2(NCM622)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM811)等が挙げられる。体積エネルギー密度を上げるためには、原子比率としてNiが50%以上のリチウム複合酸化物を含む正極活物質として、NCM811が好適に使用される。また、急速充放電を良くするためには、スピネル型構造を持つLiMn2O4(LMO)、オリビン型構造を持つLiFePO4(LFP)が好適に使用される。
【0032】
正極合材としては、前記正極活物質にアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等の公知または市販の導電助剤を使用することができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVFF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤を混練してスラリー状の正極合剤とした後、この正極材料を集電体としてのアルミニウム箔に塗布して、乾燥、加圧成型後、例えば真空下、80℃で加熱処理することにより作製される。
【0033】
本発明のリチウムイオン二次電池において、正極活物質と負極活物質の組み合わせとしては、体積エネルギー密度を上げるため、LCO/黒鉛、NCM523/黒鉛、NCM811/黒鉛などの組み合わせる方法が好適に挙げられる。
【0034】
本発明に使用される集電体としては、特に制限されないが、アルミニウム箔や銅箔が好適であり、電解液の浸透性を更に良くするために多孔質の集電体を用いても良い。
【0035】
本発明においては、結着剤に用いられる溶媒も特に制限はなく、使用する活物質あるいは結着剤によって種々の溶媒を選択することができる。具体的には、結着剤としてPVDFを用いる場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いることが好ましく、一方、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のゴム系結着剤を用いる場合には、溶媒として水が好適に挙げられる。
【0036】
本発明のリチウム二次電池の構造は、特に限定されるものではないが、正極、負極およびセパレータを有する二次電池の形状については、コイン型電池、円筒型電池、角型電池、パウチ型電池などが挙げられる。中でも、放熱性に優れるパウチ型電池が好適に挙げられる。
【実施例0037】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0038】
[実施例1-1]
〔電解液の調製〕
1M LiFSI PC/DMC=1/2(体積比)の電解液100体積%に対し、ホスホン酸エステル化合物(I)のR=CH2CH2C≡Nを1重量%となるように非水電解液を調製した。
【0039】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
NCM811(正極活物質)を93重量%、アセチレンブラック(導電助剤)を3重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を4重量%の割合で混合し、これに1-メチル-2-ピロリドンを加えてスラリー状にしてアルミ箔上に塗布した。その後、乾燥、加圧成型して正極を調製した。同様に、人造黒鉛(負極活物質)を98重量%、結着剤のスチレンとブタジエンの共重合体を1質量%、カルボキシメチルセルロース1質量%を水に加えて混合し、スラリー状にして銅箔上に塗布した。その後、乾燥、加圧成型、加熱処理して負極シートを調製した。そして、セパレータはポリエチレンをポリプロピレンで挟んだ3層で20ミクロンの微多孔性フィルムを用い、上記電解液を注入させてコイン電池(直径20mm、厚さ3.2mm)を作製した。その結果を、表1の実施例1-1で示す。
【0040】
このコイン電池を充放電装置ACD-MO1A(アスカ電子製)を用いて、25℃下、定電流及び定電圧の1Cレートで、上限電圧4.3Vまで充電し、次に1Cレートで下限電圧3.0Vまで放電して充放電を繰り返した。5サイクル目の放電容量は、EC/DMC=1/2(容量比)を溶媒として用いた場合(比較例1-2)の5サイクル目の放電容量と比較した相対比として算出し、1.00であった。サイクル特性(%)は得られた容量(mAh/g)の50サイクル目/5サイクル目×100を数値化した。その結果を表1の実施例1-1に示す。
【0041】
【0042】
[実施例1-2~実施例1-3、比較例1-1~比較例1-5]
使用した電解液組成や化合物(I)やDOXを表1のように変えた以外は、実施例1-1と同様のコイン電池を作製し、電池特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0043】
表1の結果から、黒鉛負極を用いた電池において、PC系電解液につき本発明のホスホン酸エステル化合物(I)を含有する非水電解液を用いなければ、黒鉛負極の破壊が起こり、二次電池として満足に充放電できないことが分かった(比較例1-1、比較例1-3~比較例1-5)。また、補助的に本発明記載のDOXを添加することにより相乗効果が得られ(実施例1-3)、初期容量はEC系電解液(比較例1-2)と同等となり、サイクル寿命はEC系電解液よりも優れた非水電解液およびそのLIBが可能になるとなることを見出した。
【0044】
[実施例2-1]
〔耐腐食性の測定〕
測定は、作用極(Working electrode)/対極(Counter electrode)/参照極(Reference electrode)=Al/Li/Liの三極式ビーカーセルを用い、1.2M LiFSI EC/EMC/DMC=3/3/4(体積比)にホスホン酸エステル化合物(I)のR=CH2CH2C≡Nを2.8wt%加えたものを用いた。測定条件は、25℃、5mV/秒、4.5~3.0V、サイクリックボルタンメトリー(CV)で10サイクルまでの電流値を求めた。得られた電流値の10サイクル目/2サイクル目×100%を数値化した。その結果を表2の実施例2-1に示す。
【0045】
【0046】
[実施例2-2~実施例2-3、比較例2-1~比較例2-4]
使用した化合物を表2のように変えた以外は、実施例2-1と同様の三極式ビーカーセルを作製し、使用した化合物はホスホン酸エステル化合物(I)のR=CH2CH2C≡Nと等モルとなるように加えて、耐腐食性を測定した。その結果を表2に示す。
【0047】
表2の結果から、電解液にホスホン酸エステル化合物(I)を含有させることにより、耐腐食性を表わす数値が大幅に減少することを見出した(実施例2-1~実施例2-2)。また、補助的に本発明記載のDOXを組み合わせることにより、耐腐食性を表わす数値が更に減少することを見出した(実施例2-3)。
【0048】
一方、5員環ホスホン酸エステル化合物(I)のR部分について、同じ5員環のホスホン酸骨格であっても本発明の範囲外のR=CH2CH3(比較例2-2)、フッ素基を有するR=CH2CF3(比較例2-3)にした場合、いずれも著しく耐腐食性が悪くなることが分かった。このことから、5員環のホスホン酸骨格を有していれば何でもいい訳ではなく、黒鉛負極の破壊を起こさない特定の骨格が重要であると言える。
【0049】
[実施例3-1]
負極活物質として、黒鉛にSiOを添加した負極シートを用い、使用した電解液及び5員環ホスホン酸エステル化合物(I)、DOX、および、SO3含有化合物としてメタンスルホン酸2-プロパルギルを表3のように変えた以外は、実施例1-1と同様のコイン電池を作製し、電池特性を測定した。負極シートは、次のように調製した。人造黒鉛(負極活物質)を93重量%、SiO(負極活物質)5重量%、結着剤のスチレンとブタジエンの共重合体を1質量%、カルボキシメチルセルロース1質量%を水に加えて混合し、スラリー状にして銅箔上に塗布した。その後、乾燥、加圧成型、加熱処理して負極シートを調製した。また、実施例2-1と同様の三極式ビーカーセルを作製し、耐腐食性を測定した。その結果を表3に示す。
【0050】
[実施例3-2~実施例3-4]
5員環ホスホン酸エステル化合物(I)を表3のように変えた以外は、実施例3-1と同様のコイン電池を作製し、電池特性を測定した。また、実施例2-1と同様の三極式ビーカーセルを作製し、耐腐食性を測定した。その結果を表3に示す。
【0051】
【0052】
表3より、腐食性の高いLiFSIの他にも、SO4含有化合物のLiOSO3CH3、SO3含有化合物のメタンスルホン酸2-プロパルギル、フッ素含有化合物のFECを含んだ非水電解液であっても、耐腐食性が改善されることを見出した。これらの結果により、車載用電池のような多くの数のLIBを使用する場合においても、長期間、優れたサイクル特性や耐腐食性を有することが予想される。
【0053】
[実施例4-1、参考例4-1~4-6]
実施例3-1と同じ正極活物質、実施例2-1と同じ溶媒、実施例1-2と同じ5員環ホスホン酸エステル化合物(I)を用い、使用した負極の種類と電解液中のLiPF6とLiFSIの比率やLiBOBの添加を表4のように変えた以外は、実施例1-1と同様のコイン電池を作製した。これらのコイン電池の電池特性は、次のように測定した。充放電装置ACD-MO1A(アスカ電子製)を用いて、25℃下、定電流及び定電圧の1Cレートで、上限電圧4.3Vまで充電し、次に1Cレートで下限電圧3.0Vまで放電して充放電を繰り返した。5サイクル目の放電容量は、比較例1-2の5サイクル目の放電容量と比較した相対比として算出した。サイクル特性(%)は得られた容量(mAh/g)の300サイクル目/5サイクル目×100を数値化した。結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
表4より、負極に黒鉛とSiOを用いた場合、LiFSIよりLiPF6の比率が小さいほどサイクル特性が良くなることが分かった(実施例4-1、参考例4-1~参考例4-4)。負極に黒鉛のみ用いた場合、LiPF6の電解液に1wt%のLiBOBを添加すると、サイクル特性は良化するものの(参考例4-5)、負極に黒鉛とSiOを用いた電池でLiBOBを添加した電解液を用いても参考例4-4と同等以下のサイクル特性しか得られなかった(参考例4-6)。以上のことから、負極の黒鉛にSiOを加えた電池において、5員環ホスホン酸エステル化合物(I)を用いた場合、Li塩として主にLiFSIを用い、LiPF6を極力減らすことによって、LiBOBを加える必要が無くなることを見出した。
本発明の非水電解液を用いることにより、電池のサイクル特性などの電池特性に優れ、耐腐食性のような安全性も兼ね備えることが可能になった。この本発明により、車載用電池のような多数のLIBを長期間使用する場合における本発明の貢献の大きさは計り知れない。