(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080710
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】伸縮性を有する両面雌型面ファスナーの製造方法及び両面雌型面ファスナー
(51)【国際特許分類】
A44B 18/00 20060101AFI20240610BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20240610BHJP
D03D 27/08 20060101ALI20240610BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20240610BHJP
【FI】
A44B18/00
D03D1/00 Z
D03D27/08
D03D15/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193864
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】501117834
【氏名又は名称】マエダウェーブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】前多 恒義
【テーマコード(参考)】
3B100
4L048
【Fターム(参考)】
3B100DA01
3B100DB01
3B100DB05
3B100DB07
3B100DB08
4L048AA15
4L048AA16
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA26
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB10
4L048AC12
4L048BA24
4L048BA29
4L048CA04
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】伸縮性を有し、且つ表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法及び両面雌型面ファスナーを提供する。
【解決手段】 経方向にテンションを掛けた状態で、緯糸11に対してゴム紐12を上下に浮沈させながら経方向に織りこむことで平板状基材を形成するステップ。第1経糸20に関して浮き数Mを一回に対して沈み数Nと浮き数Nを交互に行いながら緯糸に織りこんでいくステップ。第2経糸30に関して沈み数Mを一回に対して浮き数Nと沈み数Nを交互に行いながら緯糸に織りこんでいくステップ。テンションを解除することで第1経糸のうち浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子40に成り、第2経糸のうち沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子41に成るステップを備える。経方向に掛けたテンションを解除すると、第1経糸のうち浮き数Mの範囲及び第2経糸のうち沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子(ループ)になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有し、且つ平板状基材の表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法であり、
経方向にテンションを掛けた状態で、複数の緯糸に対してゴム紐を上下に浮沈させながら経方向に織りこむことで前記平板状基材を形成するステップと、
第1経糸に関して浮き数Mを一回に対して沈み数Nと浮き数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこんでいくステップと、
前記第1経糸とは異なる第2経糸に関して沈み数Mを一回に対して浮き数Nと沈み数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこんでいくステップと、
前記テンションを解除することで前記第1経糸のうち前記浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子に成り、前記第2経糸のうち前記沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子に成るステップを少なくとも備えることを特徴とする両面雌型面ファスナーの製造方法。
(M及びNは正の整数であり、M>Nである。)
【請求項2】
前記第1経糸が前記平板状基材と交差する箇所に対して、前記第2経糸が前記平板状基材と交差する箇所が経方向に前記緯糸N本分ずれていることを特徴とする請求項1に記載の両面雌型面ファスナーの製造方法。
【請求項3】
下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の両面雌型面ファスナーの製造方法。
6≦M≦8・・・(1)
N=2・・・(2)
【請求項4】
伸縮性を有し、且つ平板状基材の表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーであり、
前記平板状基材は複数の緯糸に対してゴム紐が上下に浮沈しながら経方向に織りこまれて成るものであり、
第1経糸は浮き数Mを一回に対して沈み数Nと浮き数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこまれており、
前記第1経糸とは異なる第2経糸は沈み数Mを一回に対して浮き数Nと沈み数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこまれており、
前記第1経糸のうち前記浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子に成り、前記第2経糸のうち前記沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子に成ることを特徴とする両面雌型面ファスナー。
(M及びNは正の整数であり、M>Nである。)
【請求項5】
前記第1経糸が前記平板状基材と交差する箇所に対して、前記第2経糸が前記平板状基材と交差する箇所が経方向に前記緯糸N本分ずれていることを特徴とする請求項4に記載の両面雌型面ファスナー。
【請求項6】
下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする請求項4又は5に記載の両面雌型面ファスナー。
6≦M≦8・・・(1)
N=2・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸縮性を有し、且つ表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法及び両面雌型面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な雌型面ファスナーとして繊維糸条を経糸及び緯糸にして織り上げて成る平板状基材の表面に雌型係合素子としてのループを形成したものが知られている(特許文献1)。雌型係合素子は雄型面ファスナーが備えるフック状又はキノコ状の雄型係合素子と係合するものであり、雌型面ファスナーと雄型面ファスナーとで一対の面ファスナーを構成する。
また、平板状基材にゴム紐を編み込むことで伸縮性を持たせた雌型面ファスナーも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-244010号公報
【特許文献2】特許第5393860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献を含む従来の技術では平板状基材の表面のみに雌型係合素子を備えている。したがって、例えば伸縮性を持つベルト状の面ファスナーを対象物の周囲に巻き付けて拘束しようとするとき、使用者はまず雌型係合素子を備える表面を見つけて、表面を露出させた状態で対象物に巻き付ける必要があるため作業に手間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題を考慮して、伸縮性を有し、且つ表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法及び両面雌型面ファスナーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の両面雌型面ファスナーの製造方法は、伸縮性を有し、且つ平板状基材の表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法であり、経方向にテンションを掛けた状態で、複数の緯糸に対してゴム紐を上下に浮沈させながら経方向に織りこむことで前記平板状基材を形成するステップと、第1経糸に関して浮き数Mを一回に対して沈み数Nと浮き数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこんでいくステップと、前記第1経糸とは異なる第2経糸に関して沈み数Mを一回に対して浮き数Nと沈み数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこんでいくステップと、前記テンションを解除することで前記第1経糸のうち前記浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子に成り、前記第2経糸のうち前記沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子に成るステップを少なくとも備えることを特徴とする。(M及びNは正の整数であり、M>Nである。)
また、前記第1経糸が前記平板状基材と交差する箇所に対して、前記第2経糸が前記平板状基材と交差する箇所が経方向に前記緯糸N本分ずれていることを特徴とする。
また、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
6≦M≦8・・・(1)
N=2・・・(2)
【0007】
本発明の両面雌型面ファスナーは、伸縮性を有し、且つ平板状基材の表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーであり、前記平板状基材は複数の緯糸に対してゴム紐が上下に浮沈しながら経方向に織りこまれて成るものであり、第1経糸は浮き数Mを一回に対して沈み数Nと浮き数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこまれており、前記第1経糸とは異なる第2経糸は沈み数Mを一回に対して浮き数Nと沈み数Nを交互に行いながら複数の前記緯糸に織りこまれており、前記第1経糸のうち前記浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子に成り、前記第2経糸のうち前記沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子に成ることを特徴とする。(M及びNは正の整数であり、M>Nである。)
また、前記第1経糸が前記平板状基材と交差する箇所に対して、前記第2経糸が前記平板状基材と交差する箇所が経方向に前記緯糸N本分ずれていることを特徴とする。
また、下記式(1)及び(2)を満たすことを特徴とする。
6≦M≦8・・・(1)
N=2・・・(2)
【発明の効果】
【0008】
本発明では経方向に掛けたテンションを解除すると、ゴム紐が元の長さに戻り、複数の緯糸の間隔が狭くなる。これにより第1経糸のうち浮き数Mの範囲が表面側の雌型係合素子(ループ)になり、第2経糸のうち沈み数Mの範囲が裏面側の雌型係合素子(ループ)になり、伸縮性を有する両面雌型面ファスナーを得ることができる。
第1経糸が平板状基材と交差する箇所に対して、第2経糸が平板状基材と交差する箇所を経方向に緯糸N本分(N=2)ずらすことにより、完成した両面雌型面ファスナーが丸まってしまうことを防止できる。
M及びNに関して式(1)及び(2)を満たす範囲にすることで経糸がほつれることなく、また、雌型係合素子を表裏両面に均等に見栄えよく配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】両面雌型面ファスナーを経方向に切断した状態を概略的に示す断面図
【
図2】両面雌型面ファスナーの製造方法を示す断面図
【
図3】両面雌型面ファスナーの製造方法を示す断面図
【
図4】両面雌型面ファスナーの製造方法を示す断面図
【
図5】経方向にテンションを掛けた状態の両面雌型面ファスナーを概略的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の両面雌型面ファスナー及び両面雌型面ファスナーの製造方法の実施の形態について説明する。
図1に示すように両面雌型面ファスナー1は平板状基材10、第1経糸20及び第2経糸30で概略構成されており、平板状基材10の表裏両面に雌型係合素子40,41を備える。
平板状基材10は緯方向にのびる複数の緯糸11に対してゴム紐12を上下に浮沈させながら経方向に織りこむことで形成される。なお、両面雌型面ファスナー1は一般的な面ファスナーを製造する際に使用する自動織機をそのまま使用でき、当該自動織機の使用方法は周知であるため説明を省略する。
【0011】
詳しい説明は後述するが、第1経糸20は浮き数M(本実施の形態ではM=8)を一回に対して沈み数N(本実施の形態ではN=2)と浮き数N(N=2)を交互に行いながら複数の緯糸11に織りこまれる。但し、M及びNは正の整数であり、M>Nである。
浮き数とは経糸が緯糸11に対して浮いた状態で、経方向に前後する緯糸11との2箇所の交差点までに拘束を受けない数、換言すると経糸が経方向に前後する緯糸11との2箇所の交差点の間に存在する緯糸11の数を指す。沈み数とは経糸が緯糸11に対して沈んだ状態で、経方向に前後する緯糸11との2箇所の交差点までに拘束を受けない数、換言すると経糸が経方向に前後する緯糸11との2箇所の交差点の間に存在する緯糸11の数を指す。
【0012】
第2経糸30は第1経糸20とは異なる糸であり、沈み数M(M=8)を一回に対して浮き数N(N=2)と沈み数N(N=2)を交互に行いながら複数の緯糸11に織りこまれている。
なお、当然のことながら両面雌型面ファスナー1は第1経糸20と第2経糸30の2本の経糸のみで形成されるものではなく、緯方向に広がる多数の経糸で形成される。「第1経糸20」及び「第2経糸30」とは、多数の経糸のうちの一本を「第1経糸20」とした場合に、当該第1経糸20の隣りに位置する経糸を「第2経糸30」として、第1経糸20と第2経糸30が複数の緯糸11に対してどのような位置関係で織りこまれているかを説明するための便宜上の表現である。
【0013】
第1経糸20、第2経糸30及び緯糸11の材質としては特に制限されないが伸縮性を持たないのが好ましく、例えばナイロン、レーヨン、アクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料を使用すればよい。また、第1経糸20、第2経糸30及び緯糸11としてモノフィラメントや、細い多数の繊維状フィラメント群を一本の糸条としたマルチフィラメントを使用しても良い。
ゴム紐12の材質としては伸縮性を有し、且つ緯糸11に織りこむことができれば特に限定されない。
【0014】
次に、両面雌型面ファスナー1の製造方法について説明する。
図2に示すように周知の自動織機を用いて経方向にテンション(図中の矢印参照)を掛けた状態で複数の緯糸11に対してゴム紐12を上下に浮沈させながら経方向に織りこむことで平板状基材10を形成する(第1ステップ)。経方向にテンションが掛かっているので経方向に連続する複数の緯糸11の間隔Dは拡がっている。
【0015】
第1ステップを行いながら、
図3に示すように第1経糸20に関して浮き数M(M=8)を一回に対して沈み数N(N=2)と浮き数N(N=2)を交互に行いながら複数の緯糸11に織りこんでいく(第2ステップ)。本実施の形態では沈み数N(N=2)を3回と浮き数N(N=2)を2回行い、その後再び浮き数M(M=8)を行っている。つまり、第1経糸20について浮き数M1回、沈み数N3回、浮き数N2回を1セットとしてこれを2,3,4セット・・・と所望の長さになるまで繰り返していく。
更に、第1及び第2ステップを行いながら、
図4に示すように第2経糸30に関して沈み数M(M=8)を一回に対して浮き数N(N=2)と沈み数N(N=2)を交互に行いながら複数の緯糸11に織りこんでいく(ステップ3)。本実施の形態では浮き数N(N=2)を3回と沈み数N(N=2)を2回行い、その後再び浮き数M(M=8)を行っている。つまり、第2経糸30について浮き数M1回、浮き数N3回、沈み数N2回を1セットとしてこれを2,3,4セット・・・と所望の長さになるまで繰り返していく。
【0016】
図5に第1~第3ステップを同時に行った状態を示す。
第1経糸20が平板状基材10と交差する箇所に対して、第2経糸30が平板状基材10と交差する箇所が経方向に緯糸11のN本分(N=2)ずれている。このように、第1経糸20に対して第2経糸30を緯糸11のN本分ずらすことにより、完成した両面雌型面ファスナー1が丸まってしまうことを防止できることが実験から分かっている。
適当なタイミングで経方向に掛けたテンションを解除すると、
図1に示すようにゴム紐12が元の長さに戻り、複数の緯糸11の間隔Dがほぼゼロになる。これにより第1経糸20のうち浮き数Mの範囲に撓みが生じて表面側の雌型係合素子40(ループ)になり、第2経糸30のうち沈み数Mの範囲に撓みが生じて裏面側の雌型係合素子41(ループ)になる。
このようにして両面雌型面ファスナー1が製造される。
【0017】
第1経糸20のうち沈み数Nと浮き数Nを交互に繰り返した範囲及び第2経糸30のうち浮き数Nと沈み数Nを交互に繰り返した範囲は緯糸11と隙間なく接触して基材の一部を構成する。第1経糸20及び第2経糸30は摩擦力により平板状基材10に対して強固に固定されることになるので、係合した状態の雄型係合素子と雌型係合素子40,41とを引き剥がす際に第1経糸20及び第2経糸30に引張力が作用した場合でも第1経糸20及び第2経糸30が平板状基材10から抜けたり、ほつれたりする事態を防止できる。
縦方向にゴム紐12を織りこんでいるので両面雌型面ファスナー1は経方向に伸縮性を有する。
本実施の形態ではM=8、N=2の場合について説明したが、以下の式(1)及び(2)を満たしているのが特に好ましい。
6≦M≦8・・・(1)
N=2・・・(2)
但し、M≧9、N≧3であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、伸縮性を有し、且つ表裏両面に雌型係合素子を備える両面雌型面ファスナーの製造方法及び両面雌型面ファスナーであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0019】
D 間隔
1 両面雌型面ファスナー
10 平板状基材
11 緯糸
12 ゴム紐
20 第1経糸
30 第2経糸
40 雌型係合素子
41 雌型係合素子