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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080728
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】鉄道車両用の推定方法及び推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/10 20060101AFI20240610BHJP
   B61K 9/08 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01M17/10
B61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193902
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(71)【出願人】
【識別番号】504158881
【氏名又は名称】東京地下鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】品川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】緒方 正剛
(72)【発明者】
【氏名】一柳 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽
(72)【発明者】
【氏名】松田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】福島 知樹
(72)【発明者】
【氏名】谷本 益久
(57)【要約】
【課題】内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定することができる、鉄道車両用の推定方法を提供する。
【解決手段】鉄道車両用の推定方法は、鉄道車両が曲線路を走行するとき、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器の各々から検出データを取得して、曲線路の内軌側における車輪(3i)に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する測定ステップと、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する導出ステップと、横圧輪重比κi及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪(3o)とレール(5o)との間の摩擦状態を推定する推定ステップと、を備える。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、鉄道車両用の推定方法であって、
当該鉄道車両用の推定方法は、
前記鉄道車両が曲線路を走行するとき、前記接線力検出器、前記横圧検出器、及び前記輪重検出器の各々から検出データを取得して、前記曲線路の内軌側における前記車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する測定ステップと、
前記接線力Ti、前記横圧Qi、及び前記輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する導出ステップと、
前記横圧輪重比κi、及び前記接線力横圧比Yiに基づいて、前記曲線路の外軌側における前記車輪と前記レールとの間の摩擦状態を推定する推定ステップと、を備える、鉄道車両用の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用の推定方法であって、
前記推定ステップは、前記接線力横圧比Yiが0.1以上である場合、前記外軌側における前記摩擦状態が不適当であると推定し、前記接線力横圧比Yiが0.1未満である場合、前記外軌側における前記摩擦状態が適当であると推定する、鉄道車両用の推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用の推定方法であって、
前記推定ステップは、前記横圧輪重比κiが0.3以上である場合、前記内軌側における前記車輪と前記レールとの間の摩擦状態が不適当であると推定し、前記横圧輪重比κiが0.3未満である場合、前記内軌側における前記摩擦状態が適当であると推定する、鉄道車両用の推定方法。
【請求項4】
先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、鉄道車両用の推定装置であって、
当該鉄道車両用の推定装置は、
前記鉄道車両が曲線路を走行するとき、前記接線力検出器、前記横圧検出器、及び前記輪重検出器の各々から検出データを取得して、前記曲線路の内軌側における前記車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する測定部と、
前記接線力Ti、前記横圧Qi、及び前記輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する導出部と、
前記横圧輪重比κi、及び前記接線力横圧比Yiに基づいて、前記曲線路の外軌側における前記車輪と前記レールとの間の摩擦状態を推定する推定部と、を備える、鉄道車両用の推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両用の推定装置であって、
前記推定部は、前記接線力横圧比Yiが0.1以上である場合、前記外軌側における前記摩擦状態が不適当であると推定し、前記接線力横圧比Yiが0.1未満である場合、前記外軌側における前記摩擦状態が適当であると推定する、鉄道車両用の推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用の推定装置であって、
前記推定部は、前記横圧輪重比κiが0.3以上である場合、前記内軌側における前記車輪と前記レールとの間の摩擦状態が不適当であると推定し、前記横圧輪重比κiが0.3未満である場合、前記内軌側における前記摩擦状態が適当であると推定する、鉄道車両用の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用の推定方法及び鉄道車両用の推定装置に関する。より詳細には、本開示は、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、鉄道車両用の推定方法及び鉄道車両用の推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車上に支持された車体とを備える。台車は、前と後にそれぞれ輪軸を備え、輪軸の左と右にそれぞれ車輪が設けられている。車両は、レール上を走行する。
【0003】
地下鉄等のような都市内の鉄道では、地形的な制約により、曲線路が多い。車両が曲線路を走行するとき、特に先頭輪軸の外軌側において、車輪がレールと激しく接触する。このとき、外軌側の車輪及びレールに関し、潤滑が不十分なために摩擦状態が不適当な状態となっていると、脱線に対する余裕度が低下するだけでなく、車輪及びレールが摩耗しやすい。車輪とレールとの間の摩擦状態は、潤滑剤(例:グリス)によって適当な状態にされる。摩擦状態が適当な状態とは、潤滑が十分なウェット状態を意味し、摩擦状態が不適当な状態とは、潤滑が不十分なドライ状態を意味する。したがって、脱線に対する余裕度を確保するとともに、外軌側で車輪及びレールの摩耗を低減するため、車輪とレールとの間の摩擦状態を把握することが求められる。
【0004】
非特許文献1には、摩擦状態図によって車輪とレールとの間の摩擦状態を把握する技術が記載されている。非特許文献1の技術で用いられる摩擦状態図は、内軌側の輪重Piに対する横圧Qiの比で表される横圧輪重比κi(=Qi/Pi)と、内軌側の輪重Piに対する接線力Tiの比で表される接線力輪重比Ti/Piとの関係を示している。この摩擦状態図において、内軌側の摩擦状態がドライ状態であると、横圧輪重比κiが高くなり、内軌側の摩擦状態がウェット状態であると、横圧輪重比κiが低くなる。ここで、内軌側の摩擦状態がドライ状態である場合、すなわち横圧輪重比κiが高い場合、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると、接線力輪重比Ti/Piが高くなり、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると、接線力輪重比Ti/Piが低くなる。
【0005】
したがって、非特許文献1の技術によれば、曲線路の走行時に内軌側の輪重Pi及び横圧Qiを測定すれば、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)の大小により、内軌側の摩擦状態が不適当な状態(ドライ状態)か適当な状態(ウェット状態)かを判別することができる。また、曲線路の走行時に内軌側の輪重Pi及び接線力Tiを測定すれば、内軌側の摩擦状態がドライ状態のために横圧輪重比κiが高い場合、接線力輪重比Ti/Piの大小により、外軌側の摩擦状態が不適当な状態(ドライ状態)か適当な状態(ウェット状態)かを判別することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】松田卓也、外12名、「PQモニタリング台車を用いた各曲線で発生するフランジ摩耗量の推定方法について」、第26回鉄道技術連合シンポジウム(J-Rail 2019)、2019年12月4日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載される通り、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合、すなわち横圧輪重比κiが低い場合、外軌側の摩擦状態がドライ状態であってもウェット状態であっても、接線力輪重比Ti/Piは、同程度に低くなる。そのため、内軌側の摩擦状態がウェット状態のために横圧輪重比κiが低い場合、外軌側の摩擦状態が不適当な状態か適当な状態かを判別することは難しい。
【0008】
本開示の目的は、内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定することができる、鉄道車両用の推定方法及び鉄道車両用の推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る鉄道車両用の推定方法は、先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、方法である。当該鉄道車両用の推定方法は、測定ステップと、導出ステップと、推定ステップと、を備える。測定ステップは、鉄道車両が曲線路を走行するとき、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器の各々から検出データを取得して、曲線路の内軌側における車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。導出ステップは、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する。推定ステップは、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する。
【0010】
本開示に係る鉄道車両用の推定装置は、先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、装置である。当該鉄道車両用の推定装置は、測定部と、導出部と、推定部と、を備える。測定部は、鉄道車両が曲線路を走行するとき、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器の各々から検出データを取得して、曲線路の内軌側における車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。導出部は、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する。推定部は、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る鉄道車両用の推定方法及び鉄道車両用の推定装置によれば、内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、曲線路を走行する鉄道車両の先頭輪軸の車輪に作用する力を示す模式図である。
図1B図1Bは、曲線路を走行する鉄道車両の先頭輪軸の車輪に作用する力を示す模式図である。
図1C図1Cは、曲線路を走行する鉄道車両の先頭輪軸の車輪に作用する力を示す模式図である。
図1D図1Dは、曲線路を走行する鉄道車両の先頭輪軸の車輪に作用する力を示す模式図である。
図2図2は、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)と接線力輪重比Ti/Piとの関係を示す図である。
図3図3は、相互に摩擦状態が異なる曲線路を鉄道車両が走行するときの摩擦円を示す模式図である。
図4図4は、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)と接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)との関係を示す図である。
図5図5は、本実施形態に係る鉄道車両用の推定装置の全体構成を示す模式図である。
図6図6は、推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図7図7は、推定装置が実行する処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意検討を重ね、下記の知見を得た。
【0014】
まず、図1A図1Dを参照して、相互に摩擦状態が異なる曲線路を鉄道車両が走行するときの様子を説明する。図1A図1Dは、台車1の先頭輪軸2の各車輪3i,3oに作用する力を示す模式図である。各図には、内軌側レール5i及び外軌側レール5oからなる曲線路を走行する台車1の上面図が示される。図1A図1D中の点線矢印は、鉄道車両が進む方向を示している。
【0015】
図1Aには、内軌側及び外軌側の摩擦状態がいずれもドライ状態である場合が示される。図1Bには、内軌側の摩擦状態がドライ状態で、外軌側の摩擦状態がウェット状態である場合が示される。図1Cには、内軌側の摩擦状態がウェット状態で、外軌側の摩擦状態がドライ状態である場合が示される。図1Dには、内軌側及び外軌側の摩擦状態がいずれもウェット状態である場合が示される。各図には、理解を容易にするため、ウェット状態のレール5i,5oにハッチングを付している。
【0016】
鉄道車両が曲線路を走行するとき、内軌側車輪3iは内軌側レール5i上を転がり、外軌側車輪3oは外軌側レール5o上を転がる。このとき、内軌側では、車輪3iはレール5iと比較的緩やかに接触する。一方、外軌側では、車輪3oはレール5oと激しく接触する。その際、内軌側車輪3iには、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piが作用する。外軌側車輪3oには、接線力To、横圧Qo、及び輪重Poが作用する。
【0017】
本明細書において、接線力Ti,To、横圧Qi,Qo、及び輪重Pi,Poそれぞれの意味は、以下の通りである。接線力Ti,Toは、レール5i,5oが車輪3i,3oを前後方向に押す力を意味する。接線力Ti,Toは、レール5i,5oが車輪3i,3oから受ける前後方向の力とも言える。横圧Qi,Qoは、レール5i,5oが車輪3i,3oを左右方向に押す力を意味する。横圧Qi,Qoは、レール5i,5oが車輪3i,3oから受ける左右方向の力とも言える。輪重Pi,Poは、レール5i,5oが車輪3i,3oを上下方向に押す力を意味する。輪重Pi,Poは、レール5i,5oが車輪3i,3oから受ける上下方向の力とも言える。ここで、前後方向は、鉄道車両が走行する方向であり、輪軸2の軸方向に垂直な水平方向である。左右方向は、輪軸2の軸方向と平行な方向である。上下方向は、輪軸2の軸方向に垂直な鉛直方向である。
【0018】
内軌側の横圧Qiは、外軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかによらず、内軌側の摩擦状態がドライ状態である場合に大きく(図1A及び図1B参照)、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合に小さい(図1C及び図1D参照)。要するに、内軌側の横圧Qiは、内軌側の摩擦状態に依存し、内軌側の車輪3iとレール5iとの間の摩擦係数に応じて大きく変化する。したがって、非特許文献1に記載されるような内軌側の横圧輪重比κi(=Qi/Pi)を指標にすれば、内軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかを判別することが可能である。
【0019】
接線力Ti,Toは、内軌側車輪3iと外軌側車輪3oに偶力として対称に作用する。摩擦状態がウェット状態であれば、車輪3i,3oとレール5i,5oとの間の摩擦係数が低く、接線力Ti,Toは小さい。そのため、図1B図1Dに示すように、内軌側及び外軌側の少なくとも一方の摩擦状態がウェット状態であると、接線力Ti,Toは小さい。具体的には、内軌側の接線力Tiは、内軌側及び外軌側の両方の摩擦状態がドライ状態である場合に最も大きく(図1A参照)、内軌側及び外軌側の一方の摩擦状態がウェット状態である場合に小さく(図1B及び図1C参照)、内軌側及び外軌側の両方の摩擦状態がウェット状態である場合に最も小さい(図1D参照)。
【0020】
要するに、図1A及び図1Bに示すように、内軌側の摩擦状態がドライ状態である場合、接線力Ti,Toは、外軌側の摩擦状態に依存し、外軌側の車輪3oとレール5oとの間の摩擦係数に応じて大きく変化する。したがって、内軌側の摩擦状態がドライ状態である場合、非特許文献1に記載されるような内軌側の接線力輪重比Ti/Piを指標にすれば、外軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかを判別することが可能である。
【0021】
しかしながら、図1C及び図1Dに示すように、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合は、そもそも接線力Ti,Toが小さい。そのため、外軌側の摩擦係数の影響で接線力Ti,Toが変化しても、その変化量は非常に小さい。したがって、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合、非特許文献1に記載されるような内軌側の接線力輪重比Ti/Piを指標にしても、外軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかを判別することは難しい。
【0022】
[従来の指標の検証]
以下、従来の指標について、実例を挙げて説明する。ある1つの曲線路について、PQモニタリング台車を備えた鉄道車両を一定期間走行させ、先頭輪軸2の内軌側車輪3iに作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定した。PQモニタリング台車は、先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた台車であり、内軌側車輪3iに作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定することが可能な台車である。図2に測定結果を示す。
【0023】
図2は、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)と接線力輪重比Ti/Piとの関係を示す図である。図2は、非特許文献1に記載された技術で用いられる摩擦状態図に相当する。図2を参照して、横圧輪重比κiが大きい領域、例えば横圧輪重比κiが0.3以上の領域では、内軌側の摩擦状態がドライ状態である。逆に、横圧輪重比κiが小さい領域、例えば横圧輪重比κiが0.3未満の領域では、内軌側の摩擦状態がウェット状態である。
【0024】
横圧輪重比κiが大きい領域では、互いに離れた2つのクラスタが存在する。接線力輪重比Ti/Piの大きいクラスタは、外軌側の摩擦状態がドライ状態であることを意味し、接線力輪重比Ti/Piの小さいクラスタは、外軌側の摩擦状態がウェット状態であることを意味する。
【0025】
そのため、図2より、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)が大きくて、接線力輪重比Ti/Piが、大きいクラスタ内に含まれていれば、内軌側及び外軌側の両方の摩擦状態がドライ状態であると認識できる。また、横圧輪重比κiが大きくて、接線力輪重比Ti/Piが、小さいクラスタ内に含まれていれば、内軌側の摩擦状態がドライ状態であり、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識できる。したがって、内軌側の摩擦状態がドライ状態であれば、接線力輪重比Ti/Piによって外軌側の摩擦状態を判別することができる。
【0026】
一方、横圧輪重比κiが小さい領域、例えば横圧輪重比κiが0.2の付近では、2つのクラスタが互いに接近している。したがって、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合、接線力輪重比Ti/Piによって外軌側の摩擦状態を判別することは難しい。
【0027】
そこで、内軌側の摩擦状態がドライ状態であってもウェット状態であっても、外軌側の摩擦状態を判別できる新たな指標を検討した。
【0028】
[新たな指標の検討]
車輪3i,3oとレール5i,5oとの接触関係において、クリープ力(すなわち摩擦力)の大きさには限界がある。摩擦係数を評価したい急曲線路を鉄道車両が走行するとき、内軌側の車輪3iとレール5iとの間のクリープ力は飽和している。この場合のクリープ力は、接線力Tiと横圧Qiの合力となり、接線力Tiの大きさと横圧Qiの大きさとの比率により円を描く。この円は、いわゆる摩擦円に相当する。摩擦円は、本来、自動車が旋回しているときのタイヤと路面との間の動的相互作用を考えるときに利用される。鉄道車両は固定のレール上を走行するため、鉄道車両に対して摩擦円が利用されることはなかった。
【0029】
図3は、相互に摩擦状態が異なる曲線路を鉄道車両が走行するときの摩擦円を示す模式図である。図3の左上欄には、内軌側及び外軌側の摩擦状態がいずれもドライ状態である場合が示され、これは図1Aの摩擦状態に対応する。図3の右上欄には、内軌側の摩擦状態がドライ状態で、外軌側の摩擦状態がウェット状態である場合が示され、これは図1Bの摩擦状態に対応する。図3の左下欄には、内軌側の摩擦状態がウェット状態で、外軌側の摩擦状態がドライ状態である場合が示され、これは図1Cの摩擦状態に対応する。図3の右下欄には、内軌側及び外軌側の摩擦状態がいずれもウェット状態である場合が示され、これは図1Dの摩擦状態に対応する。
【0030】
曲線路を走行する鉄道車両において、摩擦円Ciの半径は、摩擦係数μiと輪重Piの積となる。そのため、内軌側の摩擦状態がドライ状態であり、その摩擦係数μiが大きい場合、摩擦円Ciは大きい(図3の左上欄及び右上欄参照)。一方、内軌側の摩擦状態がウェット状態であり、その摩擦係数μiが小さい場合、摩擦円Ciは小さい(図3の左下欄及び右下欄参照)。
【0031】
図3の左下欄及び右下欄に示すように、内軌側の摩擦状態がウェット状態である場合、外軌側の摩擦係数μoの影響で接線力Ti,Toが変化しても、接線力Tiの絶対値の変化量は小さい。ただし、この場合、横圧Qiに対する接線力Tiの比で表される接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)は、大きく変化している。接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)は、合力ベクトルの方向を意味する。この場合、接線力横圧比Ti/Qiの大小に、外軌側の摩擦係数の影響が大きく表れる。したがって、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を指標にすれば、内軌側の摩擦状態がウェット状態で、接線力Tiの絶対値が小さくても、外軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかを判別することができる。
【0032】
また、図3の左上欄及び右上欄に示すように、内軌側の摩擦状態がドライ状態である場合、外軌側の摩擦係数μoの影響で接線力Ti,Toが変化すれば、接線力Tiの絶対変化量も大きい。この場合、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)は、当然に大きく変化している。したがって、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を指標にすれば、内軌側の摩擦状態がドライ状態であっても、外軌側の摩擦状態がドライ状態であるかウェット状態であるかを判別することができる。
【0033】
[新たな指標の検証]
以下、図4を参照して、新たな指標について、実例を挙げて説明する。図4は、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)と接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)との関係を示す図である。図4は、図2で用いた接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを新たな指標で整理したものである。
【0034】
図4を参照して、横圧輪重比κiの全域にわたって、互いに明確に分離した2つのクラスタが存在する。横圧輪重比κiが小さい領域、例えば横圧輪重比κiが0.2の付近でも、2つのクラスタは互いに明確に分離している。具体的には、横圧輪重比κiと接線力横圧比Yiとの関係は、外軌側の摩擦状態に応じて、接線力横圧比Yiが大きいところに分布するものと、接線力横圧比Yiが小さいところに分布するものとに明確に区分される。接線力横圧比Yiの大きいクラスタは、外軌側の摩擦状態がドライ状態であることを意味し、接線力横圧比Yiの小さいクラスタは、外軌側の摩擦状態がウェット状態であることを意味する。
【0035】
そのため、図4より、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)が、大きいクラスタ内に含まれていれば、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識できる。また、接線力横圧比Yiが、小さいクラスタ内に含まれていれば、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識できる。したがって、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)によって外軌側の摩擦状態を判別することができる。
【0036】
図4に示す例では、接線力横圧比Yiが0.1以上であるか否かで外軌側の摩擦状態を判別することができる。具体的には、接線力横圧比Yiが0.1以上である場合、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると判定し、外軌側の摩擦状態が不適当であると推定することができる。逆に、接線力横圧比Yiが0.1未満である場合、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると判定し、外軌側の摩擦状態が適当であると推定することができる。
【0037】
また、図4を参照して、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)が大きい領域、例えば横圧輪重比κiが0.3以上の領域では、内軌側の摩擦状態がドライ状態である。逆に、横圧輪重比κiが小さい領域、例えば横圧輪重比κiが0.3未満の領域では、内軌側の摩擦状態がウェット状態である。
【0038】
そのため、図4より、横圧輪重比κiが大きければ、内軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識できる。また、横圧輪重比κiが小さければ、内軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識できる。したがって、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)によって内軌側の摩擦状態を判別することができる。
【0039】
図4に示す例では、横圧輪重比κiが0.3以上であるか否かで内軌側の摩擦状態を判別することができる。具体的には、横圧輪重比κiが0.3以上である場合、内軌側の摩擦状態がドライ状態であると判定し、内軌側の摩擦状態が不適当であると推定することができる。逆に、横圧輪重比κiが0.3未満である場合、内軌側の摩擦状態がウェット状態であると判定し、内軌側の摩擦状態が適当であると推定することができる。
【0040】
本実施形態に係る鉄道車両用の推定方法及び推定装置は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0041】
本実施形態に係る鉄道車両用の推定方法は、先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、方法である。当該鉄道車両用の推定方法は、測定ステップと、導出ステップと、推定ステップと、を備える。測定ステップは、鉄道車両が曲線路を走行するとき、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器の各々から検出データを取得して、曲線路の内軌側における車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。導出ステップは、輪重Pi、横圧Qi、及び接線力Tiより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する。推定ステップは、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する。
【0042】
本実施形態の推定方法では、鉄道車両が曲線路を走行するとき、測定ステップにおいて、先頭輪軸の内軌側車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。さらに、導出ステップにおいて、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)、及び接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を導出する。そして、推定ステップにおいて、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、外軌側の摩擦状態を推定する。ここで、横圧輪重比κiと接線力横圧比Yiとの関係は、外軌側の摩擦状態に応じて、接線力横圧比Yiが大きいところに分布するものと、接線力横圧比Yiが小さいところに分布するものとに明確に区分される。導出ステップで導出された接線力横圧比Yiが大きければ、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識することができる。逆に、導出ステップで導出された接線力横圧比Yiが小さければ、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識することができる。このような判別は、内軌側の摩擦状態がドライ状態であってもウェット状態であっても変わらない。したがって、内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側の摩擦状態を判別して、推定することができる。
【0043】
上記推定方法において、例えば、推定ステップは、接線力横圧比Yiが0.1以上である場合、外軌側における摩擦状態が不適当であると推定し、接線力横圧比Yiが0.1未満である場合、外軌側における摩擦状態が適当であると推定する。この場合、導出ステップで導出された接線力横圧比Yiが0.1以上であるか否かにより、外軌側の摩擦状態を推定することができる。
【0044】
上記推定方法において、例えば、推定ステップは、横圧輪重比κiが0.3以上である場合、内軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態が不適当であると推定し、横圧輪重比κiが0.3未満である場合、内軌側における摩擦状態が適当であると推定する。この場合、導出ステップで導出された横圧輪重比κiが0.3以上であるか否かにより、内軌側の摩擦状態を推定することができる。
【0045】
本実施形態に係る鉄道車両用の推定装置は、先頭輪軸の左右の車輪それぞれに対して、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器を備えた鉄道車両を用い、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する、装置である。当該鉄道車両用の推定装置は、測定部と、導出部と、推定部と、を備える。測定部は、鉄道車両が曲線路を走行するとき、接線力検出器、横圧検出器、及び輪重検出器の各々から検出データを取得して、曲線路の内軌側における車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。導出部は、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、Qi/Piで表される横圧輪重比κi、及びTi/Qiで表される接線力横圧比Yiを導出する。推定部は、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態を推定する。
【0046】
本実施形態の推定装置では、鉄道車両が曲線路を走行するとき、測定部は、先頭輪軸の内軌側車輪に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。さらに、導出部は、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)、及び接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を導出する。そして、推定部は、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、外軌側の摩擦状態を推定する。ここで、上述の通り、横圧輪重比κiと接線力横圧比Yiとの関係は、外軌側の摩擦状態に応じて、接線力横圧比Yiが大きいところに分布するものと、接線力横圧比Yiが小さいところに分布するものとに明確に区分される。導出部で導出された接線力横圧比Yiが大きければ、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識することができる。逆に、導出部で導出された接線力横圧比Yiが小さければ、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識することができる。このような判別は、内軌側の摩擦状態がドライ状態であってもウェット状態であっても変わらない。したがって、内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側の摩擦状態を判別して、推定することができる。
【0047】
上記推定装置において、例えば、推定部は、接線力横圧比Yiが0.1以上である場合、外軌側における摩擦状態が不適当であると推定し、接線力横圧比Yiが0.1未満である場合、外軌側における摩擦状態が適当であると推定する。この場合、導出部で導出された接線力横圧比Yiが0.1以上であるか否かにより、外軌側の摩擦状態を推定することができる。
【0048】
上記推定装置において、例えば、推定部は、横圧輪重比κiが0.3以上である場合、内軌側における車輪とレールとの間の摩擦状態が不適当であると推定し、横圧輪重比κiが0.3未満である場合、内軌側における摩擦状態が適当であると推定する。この場合、導出部で導出された横圧輪重比κiが0.3以上であるか否かにより、内軌側の摩擦状態を推定することができる。
【0049】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、重複する説明を繰り返さない。
【0050】
[鉄道車両用の推定方法及び推定装置]
図5は、本実施形態に係る鉄道車両用の推定装置の全体構成を示す模式図である。図5には、鉄道車両100を前後方向に沿って見たときの様子が示される。図5を参照して、鉄道車両100は、台車1と、台車1に支持された車体10とを含む。1つの車体10の前と後にそれぞれ台車1が配置されている。台車1は、前と後にそれぞれ輪軸2を備える。輪軸2の左と右にそれぞれ車輪3が設けられている。鉄道車両100はレール5上を走行する。
【0051】
本実施形態で用いられる台車1は、PQモニタリング台車である。台車1は、先頭輪軸2の左右の車輪3それぞれに対して、接線力検出器6、横圧検出器7、及び輪重検出器8を備える。接線力検出器6としては、ひずみゲージを用いることができる。横圧検出器7としては、渦電流式変位センサを用いることができる。横圧検出器7は、例えば、車輪3の板部の変形量を検出する。輪重検出器8としては、磁歪式変位センサを用いることができる。輪重検出器8は、例えば、軸ばねのたわみ量を検出する。
【0052】
鉄道車両100は、推定装置20を備える。接線力検出器6、横圧検出器7、及び輪重検出器8は、推定装置20に接続されている。推定装置20は、測定部21、導出部22、及び推定部23を含む。推定装置20は、例えば、後述する各処理を実行するプログラムがインストールされたコンピュータである。
【0053】
測定部21は、接線力検出器6、横圧検出器7、及び輪重検出器8の各々から検出データを取得して、内軌側の車輪3に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。導出部22は、接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)、及び接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を導出する。推定部23は、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、外軌側の車輪3とレール5との間の摩擦状態を推定する。
【0054】
図6は、推定装置20のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図6に示すように、推定装置20は、CPU(Central Processing Unit)31と、主記憶装置32と、インタフェース(I/F)33と、補助記憶装置34と、を備える。CPU31、主記憶装置32、インタフェース33、及び補助記憶装置34は、バス35により互いに通信可能に接続されている。
【0055】
主記憶装置32は、CPU31のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。インタフェース33は、接線力検出器6、横圧検出器7、及び輪重検出器8(図5参照)に接続されている。インタフェース33は、表示器(図示略)に接続されていてもよい。補助記憶装置34は、各種データやプログラム等が記憶されるHDD(Hard Disk Drive)である。補助記憶装置34は、SSD(Solid State Drive)等のような記憶媒体であってもよい。補助記憶装置34には、輪重Pi、横圧Qi、及び接線力Tiを算出する処理を実行するプログラム、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiを導出する処理を実行するプログラム、及び車輪3とレール5との間の摩擦状態を推定する処理を実行するプログラムが格納されている。各種のプログラムが主記憶装置32にロードされて、CPU31がプログラムを実行し、その結果が表示器に表示される。
【0056】
以下、図5図6、及び図7を参照して、推定装置20による処理を詳細に説明する。図7は、推定装置20が実行する処理を説明するフローチャートである。図7に示すように、推定装置20は、測定処理(#5)と、導出処理(#10)と、推定処理(#15)とを実行するように構成される。
【0057】
まず、図7のステップ#5に示すように、推定装置20のうちの測定部21は、鉄道車両100が曲線路を走行するとき、各検出器から検出データを取得する。具体的には、推定装置20において、測定部21は、接線力検出器6から接線力に関する検出データを取得する。測定部21は、横圧検出器7から横圧に関するデータを取得する。さらに、測定部21は、輪重検出器8から輪重に関するデータを取得する。測定部21は、取得した各種の検出データに対して演算処理を行う。これにより、曲線路の内軌側における車輪3に作用する接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piを測定する。
【0058】
次に、図7のステップ#10に示すように、推定装置20のうちの導出部22は、測定部21で測定した接線力Ti、横圧Qi、及び輪重Piより、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)、及び接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)を導出する。
【0059】
次に、図7のステップ#15に示すように、推定装置20のうちの推定部23は、横圧輪重比κi、及び接線力横圧比Yiに基づいて、曲線路の外軌側における車輪3とレール5との間の摩擦状態を推定する。
【0060】
例えば、推定部23は、接線力横圧比Yi(=Ti/Qi)が所定の閾値以上であるか否かを判断する。ここで、横圧輪重比κiと接線力横圧比Yiとの関係は、外軌側の摩擦状態に応じて、接線力横圧比Yiが大きいところに分布するものと、接線力横圧比Yiが小さいところに分布するものとに明確に区分される。その境界を閾値とすればよい。例えば、その閾値として、0.1を設定することができる。導出部22で導出された接線力横圧比Yiが閾値以上であれば、外軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識することができる。この場合、外軌側の摩擦状態が不適当であると推定し、その旨を例えば表示器に出力する。摩擦状態が不適当であると推定された曲線路の外軌側レール5oには、潤滑剤を供給すればよい。
【0061】
逆に、導出部22で導出された接線力横圧比Yiが閾値未満であれば、外軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識することができる。この場合、外軌側の摩擦状態が適当であると推定し、その旨を例えば表示器に出力する。
【0062】
このような判別は、内軌側の摩擦状態がドライ状態であってもウェット状態であっても変わらない。したがって、内軌側の摩擦状態が如何なる状態であっても、外軌側の摩擦状態を判別して、推定することができる。
【0063】
さらに、推定部23は、横圧輪重比κi(=Qi/Pi)が所定の閾値以上であるか否かを判断してもよい。例えば、その閾値として、0.3を設定することができる。導出部22で導出された横圧輪重比κiが閾値以上であれば、内軌側の摩擦状態がドライ状態であると認識することができる。この場合、内軌側の摩擦状態が不適当であると推定し、その旨を例えば表示器に出力する。摩擦状態が不適当であると推定された曲線路の内軌側レール5iには、潤滑剤を供給すればよい。
【0064】
逆に、導出部22で導出された横圧輪重比κiが閾値未満であれば、内軌側の摩擦状態がウェット状態であると認識することができる。この場合、内軌側の摩擦状態が適当であると推定し、その旨を例えば表示器に出力する。
【0065】
以上、本開示に係る実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
100:鉄道車両
1:台車
2:先頭輪軸
3:車輪
3i:内軌側車輪
3o:外軌側車輪
5:レール
5i:内軌側レール
5o:外軌側レール
6:接線力検出器
7:横圧検出器
8:輪重検出器
20:推定装置
Ti:接線力
Qi:横圧
Pi:輪重
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6
図7