(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080752
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】竪型炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20240610BHJP
C21B 7/18 20060101ALI20240610BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C21B5/00 302
C21B7/18 301
C22B1/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193941
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】佐名木 義之
【テーマコード(参考)】
4K001
4K015
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001CA02
4K001GA01
4K001GB01
4K015GA01
(57)【要約】
【課題】竪型炉への原料の供給過程におけるスクリーンにおいて、含有水分の高い原料の使用時にスクリーンが目詰まりすることを防止し、また微粒子が少なくかつ強度の高い塊状の装入原料を歩留まりよく竪型炉に供給することのできる技術を提供する。
【解決手段】湿潤状態の鉱石原料に粉状の水分吸収剤を添加して混合し、混合した状態で篩い分けを行い、湿潤鉱石原料を篩い下粉と、微粉除去後の竪型炉行き原料とに分離し、微粉が除去された竪型炉行き原料である篩い上の鉱石原料を竪型炉に装入する際に、
前記水分吸収剤の膨潤後の粒径を篩い分けに用いる篩いの目開きの1/2以下とする、竪型炉の操業方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤状態の鉱石原料に粉状の水分吸収剤を添加して混合し、混合した状態で篩い分けを行い、湿潤鉱石原料を篩い下粉と、微粉除去後の竪型炉行き原料とに分離し、微粉が除去された竪型炉行き原料である篩い上の鉱石原料を竪型炉に装入する際に、
前記水分吸収剤の膨潤後の粒径を篩い分けに用いる篩いの目開きの1/2以下とする、竪型炉の操業方法。
【請求項2】
水分吸収剤として、高分子吸水剤を用いる、請求項1に記載の竪型炉の操業方法。
【請求項3】
ベルトコンベア上の鉱石原料上に水分吸収剤を添加し、前記ベルトコンベアの乗り継ぎ落差における衝撃を利用して前記鉱石原料と前記水分吸収剤とを混合する、請求項1または2に記載の竪型炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プロセスにおいて、鉄鉱石等の原料を篩い分けし、微粉を事前除去して竪型炉の操業を効率的に行う手法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉を始めとする竪型炉による製鉄プロセスにおいては、炉内の原料充填層内に還元ガスを流通させて原料を還元する必要がある。そのため、効率的かつ低コスト操業を行うためにガスが流通可能な空隙を確保する必要がある。鉄鉱石、コークス、焼結鉱等の竪型炉装入原料は事前に微粉を除去してから竪型炉へ装入することが望ましい。このため、各製鉄所においてはこれらの原料から微粉を除去する篩設備(振動篩い)を設置している。しかし野外であるヤードで保管する原料等は、原料の保管の際、雨天等により水分含有率が高くなると微粉の付着力が高まるため、従来の篩による粉除去は十分ではなかった。特に鉄鉱石は水分との親和性が高く、湿潤時の微粉の除去が非常に困難である。また、原料の水分含有率が高い場合、篩いのスクリーン上に粘土質の原料が付着し目詰まりを発生させる要因となっている。
【0003】
このため水分付着性の高い原料の篩設備においては、たとえば通常目開きが大きいふるいが使用されてきた。たとえば、同じ高炉原料でも、焼結工場から直接送られる焼結鉱は殆ど水分を含まず粉が落下しやすいため、微粉除去のために通常目開き4mm程度の篩が使用されている。一方、ヤードに保管していたため水分を含み粉が付着していることが多い焼結鉱の場合、粉の除去性能を高めるとともに目詰まりを抑制するため目開き5mm程度の篩が使用されている。つまり通常高炉原料としてそのまま使用できる4~5mmの範囲の原料も篩い落とすことになり、歩留まりを低下させる要因となっている。また、目開き5mmの篩いを使用しても依然1mm以下の粉の一部は5mm以上の原料に付着して落下せず、粉除去効率は大幅には向上していない。
【0004】
鉄鉱石のような湿潤状態の原料の粉除去効率を向上させることのできる篩い分け手段としては、伸縮可能な篩網と、これを上下左右に連動させて変形しながら原料を運搬する可動機構を有する特殊スクリーン、例えばジャンピングスクリーン( 登録商標) が知られている。ジャンピングスクリーン( 登録商標) では、ウレタン製の網目に対して引っ張り・ゆるめの繰り返し運動を与える事により原料を跳ね上げ、落下の際の衝撃力で付着粉を分散させる効果が期待できる。また、網目が常に変形する為、湿潤原料を使用しても目詰まりが起こりにくいとされている。
【0005】
篩い分け以外の湿潤状態の原料の付着粉除去方法として、微粉が付着した鉄鉱石をスクリーン式ジェット洗浄機で水洗処理して付着粉を除去する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。洗浄水をスクリーン上で勢い良く噴射するため鉄鉱石付着粉がきれいに洗浄され、付着粉を含んだ洗浄液はスクリーン式脱水機と液体サイクロンによって効
率的に処理が可能であるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、湿潤状態の高炉原料に水分吸収剤を添加して混合し、篩い分けを行った篩い上を高炉に装入する高炉の操業方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07-113127号公報
【特許文献2】特開2009-114516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
湿潤時の付着粉が多い高炉原料は目開きの大きな篩い目を有する篩いで分級されてきたが、歩留が大幅に低下するものの依然篩い上に付着粉が混入し、付着粉除去効果は大きくなかった。
【0009】
また、特殊スクリーンを用いた篩い分け法では、湿潤状態の原料の付着粉の分離性能は期待できるものの、スクリーン材質がウレタン等の樹脂材質で構成されており、さらに常に変形・伸縮するため、特に鉄鉱石などの硬質で比重の大きい材料を用いる場合、耐久性に問題がある。スクリーンの耐久性が低いと、スクリーン交換に伴うランニングコストが高額になるばかりでなく、交換のためにラインを止める頻度が高くなり、生産性悪化の大きな要因となる可能性が有る。また、従来製鉄所内で用いられている振動スクリーンとは形式が大きく異なるため、従来のスクリーンを撤去して新たに特殊スクリーンの設備を建設する必要があり、莫大な設備費用が必要になると予測される。従って、特殊スクリーンは製鉄原料用の篩い分け方法としてあまり普及していない。
【0010】
特許文献1に記載のスクリーン式ジェット洗浄機を用いて鉄鉱石を水洗処理する方法では、スクリーン式ジェット洗浄機、スクリーン式脱水機、液体サイクロン等の設備を新たに建設するために巨額の建設コストが必要となる。また特に鉄鉱石微粉を含んだ水処理に際しては、設備の磨耗が激しいためメンテナンスコストが高額になるという問題がある。さらに洗浄後の鉄鉱石に付着した水分による高炉への持ち込み水分が増加し、高炉炉頂温度を低下させ、操業を不安定化する要因となる可能性が有る。
【0011】
特許文献2に記載の技術は、10mm程度の目開きの篩いを用いており、水分吸収剤の粒径を特定していないため、たとえば、5mmの目開きの篩いを用いた場合に、篩上に水分吸収剤が残ってしまうおそれがある。
【0012】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、竪型炉への原料の供給過程におけるスクリーンにおいて、含有水分の高い原料の使用時にスクリーンが目詰まりすることを防止し、また微粒子が少なくかつ強度の高い塊状の装入原料を歩留まりよく竪型炉に供給することのできる竪型炉の操業方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる竪型炉の操業方法は、湿潤状態の鉱石原料に粉状の水分吸収剤を添加して混合し、混合した状態で篩い分けを行い、湿潤鉱石原料を篩い下粉と、微粉除去後の竪型炉行き原料とに分離し、微粉が除去された竪型炉行き原料である篩い上の鉱石原料を竪型炉に装入する際に、前記水分吸収剤の膨潤後の粒径を篩い分けに用いる篩いの目開きの1/2以下とすることを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかる竪型炉の操業方法は、
(a)水分吸収剤として、高分子吸水剤を用いること、
(b)ベルトコンベア上の鉱石原料上に水分吸収剤を添加し、前記ベルトコンベアの乗り継ぎ落差における衝撃を利用して前記鉱石原料と前記水分吸収剤とを混合すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、竪型炉への原料の供給過程におけるスクリーンにおいて、含有水分の高い原料の使用時にスクリーンが目詰まりすることを防止し生産性が向上する。また微粒子が少なくかつ強度の高い塊状の装入原料を歩留まりよく竪型炉に供給することができるので、竪型炉内の通気性が確保され操業安定性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】鉱石中の粒径-5mm以下の比率と鉱石スクリーンの閉塞率との関係に与える水分吸収剤の添加の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
本発明では、竪型炉の原料に水分吸収剤を添加して混合し、篩い分けを行うことで、水分の存在により湿潤状態にある高炉原料から水分を除去し、水分架橋による微粉の付着を少なくできる為、鉱石スクリーンの目詰まりを防止しながら容易に微粉を除去できるようになる。そして、篩い分けにより微粉が除去された竪型炉の原料である篩い上を、竪型炉に装入して操業を行ない、たとえば、銑鉄を製造する。本発明は湿潤状態にある全ての竪型炉の原料に対して適用可能であるが、特に水分の付着性が強い鉄鉱石、石炭、コークス、焼結鉱、石灰石等の篩い分けに適用した場合に顕著な効果を示す。
【0019】
尚、湿潤状態とは、鉄鉱石等の粒子表面に水分が存在する状態である。焼結鉱等の原料の含有水分量に対する界面活性剤の効果は、原料の粒子内部の気孔分布により異なるが(対象粒子内部の気孔に水分が吸収された後の粒子表面の水分が問題となるため)、原料の水分含有量が5mass%以上の場合に効果が大きい。
【0020】
本発明に用いる水分吸収剤としては、水分吸収速度が非常に早く、また水分吸収後に分子構造内に水分を捕獲する事により粘着性を示さない物質が好ましい。これらの物質の一例としてシリカゲルや各種高分子吸水剤が挙げられる。特にポリアクリル酸塩(ナトリウム、カリウム)樹脂などの高分子吸水剤が好適である。この高分子吸水剤は自重の数百倍以上の水分を取り込む事が可能であり、また水分吸収速度も格段に速いため、より適している。従って、水分吸収剤としては、高分子吸水剤を用いることが特に好ましい。また、無機系のシリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、活性炭などを併せて用いることも特に好ましい。
【0021】
高分子吸水剤というのは、自重の数百倍以上の水分を取り込んで膨潤する薬である。例えば、高分子吸水剤(吸水性高分子ポリマー)は、純水中では約400倍に膨潤する特性をもっている。たとえば、粉体と湧水とが懸濁状態にある懸濁湧水では約200倍程度と考えるのが実用上の限界であることを確認している。なお、添加した高分子吸水剤の膨潤率が小さい時、その膨潤体は跳ねやすくなるためベルトコンベアなどによる輸送時、コンベア外への飛散することが予想されるため、膨潤率にして30倍以上となるようにすることが好ましい。そして、膨潤後の高分子吸水剤の粒径が篩いの目開きの1/2以下となるようにする。好ましくは、1/3以下である。これにより、膨潤後の高分子吸水剤を篩い下に確実に落とすことができ、縦型炉に高分子吸水剤が混入するのを防ぐことができる。
【0022】
竪型炉の原料へ水分吸収剤を添加する方法としては、ヤード上で添加し重機で混合する方法、もしくはベルトコンベア上で高炉原料上に添加し、ベルトコンベアの乗り継ぎシュートにおける落下衝撃を利用して混合する方法などがあるが、混合効果が十分であれば後者の方法がより低コストであるため望ましい。また、ベルトコンベア上で水分吸収剤を添加する位置は、篩いからなるべく離れていることが好ましく、原料ヤード側に近い位置とすることが好ましい。これは乗り継ぎ落差をより多く通過し、より多くの時間をかけて搬送されたほうが、水分吸水剤が対象物全体に行き渡りやすくなり、また吸水に必要な時間をより多く確保する事が可能となるためである。
【0023】
さらに、水分吸収剤を竪型炉の原料に添加する際の水分吸収剤の切り出し方法としては、振動フィーダーによる切り出しなど、各種粉体定量切出し方法を適用可能である。水分吸収剤は空気中の水分を取り込み、劣化もしくは凝結する可能性があるため、竪型炉の原料への添加直前まで外気と遮断された密閉状態にある事が好ましい。よって以上の観点から、密閉状態にある貯留タンクから圧力により配管中を気送運搬し、圧力を利用して竪型炉の原料に吹き付ける手法が最も適している。水分吸収剤を添加、混合後、従来の篩い設備にて篩い分けをおこなう。篩い設備は従来と同様の運転条件で操業可能であり、特別な操作を必要としない。
【実施例0024】
本発明による効果を確認する為に、以下の条件で試験を行った。各種銘柄の鉱石および焼結鉱を用い、水分吸収剤として高吸水性ポリマー(SAP)を添加した場合と添加しなかった場合とで5mmの目開きの鉱石スクリーン(篩い)の閉塞率の差を比較した。各銘柄、焼結鉱は、十分に乾燥した後、粒径-5mmの比率を5mm目開きの篩い下の質量比率百分率で調査した。また鉱石スクリーンの閉塞率(%)は、目視で、閉塞した篩い目の数を百分率で表す。
図1に鉱石スクリーンの閉塞率と各鉱石の粒径-5mmの比率(mass%)との関係に与える水分吸収剤の添加有無の影響を示す。このとき、鉱石の水分率は7~9mass%の範囲であった。水分吸収剤は鉱石の水分量に対し膨潤率100倍となる量を添加し、膨潤後の水分吸収剤の粒子径は最大でも目開きの30%程度であった。鉱石量は約200トン通過後に鉱石スクリーンの閉塞率を調査した。
【0025】
図1から明らかなように、鉱石の粒径-5mmの比率が増加するとともに、鉱石スクリーンの閉塞率も増加する。同じ粒径-5mmの比率の鉱石で比較すると水分吸収剤の添加により、鉱石スクリーンの閉塞率が20%程度向上することがわかる。通常、鉱石スクリーンの閉塞率が20%を超えると、スクリーンの清掃や交換が必要となる。水分吸収剤の添加により、この清掃や交換の頻度が大幅に軽減され、生産性が向上した。また、水分吸収剤の添加のない場合には、鉱石スクリーンの篩い上の鉱石に粒径-5mmの微粉が大量に付着していることが観察された。一方、水分吸収剤を添加した場合には、5mm目の篩い下に粒径-5mmの微粉が9割以上回収されていた。つまり、微粉が除去された強度の高い塊状の鉱石を竪型炉に搬送することが可能となった。