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特開2024-80762皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材及びその製造方法、並びに水系表面処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080762
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材及びその製造方法、並びに水系表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
C23C22/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193959
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏志
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐補
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 葵
(72)【発明者】
【氏名】野尻 圭太郎
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA09
4K026AA22
4K026BA08
4K026BB08
4K026BB10
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA19
4K026CA28
4K026CA38
4K026DA02
4K026DA03
4K026DA06
(57)【要約】
【課題】耐熱耐食性に優れた表面処理皮膜付きアルミニウム材又はアルミニウム合金材を提供する。
【解決手段】アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、クロム、ジルコニウム、亜鉛、及び炭素を含む皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材であり、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の正反射法にて測定された該皮膜の赤外スペクトルにおいて、ピークが3600cm-1~3000cm-1と1750cm-1~1700cm-1とに現れる、アルミニウム材又はアルミニウム合金材により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、クロム、ジルコニウム、亜鉛、及び炭素を含む皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の正反射法にて測定された該皮膜の赤外スペクトルにおいて、ピークが3600cm-1~3000cm-1と1750cm-1~1700cm-1とに現れる、アルミニウム材又はアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記皮膜は、クロムの含有量が5mg/m~100mg/mの範囲内であり、ジルコニウムの含有量が2mg/m~150mg/mの範囲内であり、炭素の含有量が2mg/m~20mg/mの範囲内であり、かつX線光電子分光法(XPS)により測定されるクロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計を100原子%として、亜鉛の含有量が2原子%~60原子%である、請求項1に記載のアルミニウム材又はアルミニウム合金材。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面処理に用いられる水系表面処理剤であり、クロムを含有するイオン(A)と、ジルコニウムを含有するイオン(B)と、亜鉛を含有するイオン(C)と、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)と、を含有する水系表面処理剤。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理剤をアルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に接触させる接触工程、を含む皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱耐食性に優れた表面処理皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材及びその製造方法に関する。また、アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、耐熱耐食性に優れた表面処理皮膜を形成し得る水系表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機材料、建築材料、自動車部品等の広い分野で、耐食性付与を目的にクロムイオンを含む表面処理剤を用いて表面処理された、皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材が使用されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、水溶性3価クロム化合物からなる成分(A)と、水溶性チタン化合物及び水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種からなる成分(B)と、水溶性硝酸塩化合物からなる成分(C)と、水溶性アルミニウム化合物からなる成分(D)と、フッ素化合物からなる成分(E)とを含有し、且つ、pH2.3から5.0の範囲にコントロールされている金属材料用化成処理液が開示されている。
【0004】
特許文献2には、特定の3価クロム化合物と特定のジルコニウム化合物と特定のジカルボン酸化合物とを所定量含む化成処理液が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には3価クロムを含有するイオン(A)と、チタンを含有するイオン及びジルコニウムを含有するイオンから選択される少なくとも1種のイオン(B)と、亜鉛を含有するイオン(C)と、遊離フッ素イオン(D)と、硝酸イオン(E)とを含有するアルミニウム又はアルミニウム合金用表面処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-328501号公報
【特許文献2】特開2006-316334号公報
【特許文献3】特許第6910543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウム材又はアルミニウム合金材は、その用途によっては高温環境に曝される場合がある。しかしながら、特許文献1~2に係る表面処理剤を用いてアルミニウム材又はアルミニウム合金材に対して形成した皮膜は、高温環境に曝されることにより耐食性が低下する点(耐熱耐食性)に改善の余地を残している。また、特許文献3に係る表面処理剤を用いた場合でも、耐熱耐食性は向上しているものの、未だ十分であるとはいえない。
【0008】
本発明は、優れた耐熱耐食性を有する表面処理皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材を提供することを課題とする。また、当該表面処理皮膜を形成し得る表面処理剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、クロム、ジルコニウム、亜鉛、及び炭素を含む皮膜であって、且つ特徴的な赤外反射ピークを有する皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム
合金材が、優れた耐食性を有し且つ優れた耐熱耐食性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)アルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、クロム、ジルコニウム、亜鉛、及び炭素を含む皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材であり、
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の正反射法にて測定された該皮膜の赤外スペクトルにおいて、ピークが3600cm-1~3000cm-1と1750cm-1~1700cm-1とに現れる、アルミニウム材又はアルミニウム合金材;
(2)前記皮膜は、クロムの含有量が5mg/m~100mg/mの範囲内であり、ジルコニウムの含有量が2mg/m~150mg/mの範囲内であり、炭素の含有量が2mg/m~20mg/mの範囲内であり、かつX線光電子分光法(XPS)により測定されるクロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計を100原子%として、亜鉛の含有量が2原子%~60原子%である、(1)記載のアルミニウム材又はアルミニウム合金材;
(3)アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面処理に用いられる水系表面処理剤であり、クロムを含有するイオン(A)と、ジルコニウムを含有するイオン(B)と、亜鉛を含有するイオン(C)と、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)と、を含有する水系表面処理剤;
(4)(3)に記載の表面処理剤をアルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に接触させる接触工程、を含む皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材の製造方法;などを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた耐熱耐食性を有する表面処理皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材を提供できる。また、当該表面処理皮膜を形成し得る表面処理剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本実施形態に係る表面処理皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材、該表面処理皮膜を形成し得る表面処理剤及びそれらの製造方法について以下の順で説明する。
(1)アルミニウム材又はアルミニウム合金材
(2)表面処理皮膜
(3)表面処理剤
(4)製造方法
【0013】
(1)アルミニウム材又はアルミニウム合金材
アルミニウム材又はアルミニウム合金材は、アルミニウムを含む金属材料であれば特に限定されるものではない。特に、表面の酸化膜が厚く、合金成分が偏析していることにより耐食性付与が難しいアルミニウムダイキャスト材が、本実施形態の表面処理皮膜を形成する材料として効果的である。表面処理皮膜を備えるアルミニウム材又はアルミニウム合金材の用途は特に限定されないが、エンジン回り部品やECU筐体等の、使用状況によっては高温環境に曝される部品として用いられることが、耐熱耐食性が低下しにくいことから好ましい。当該表面処理皮膜を備えるアルミニウム材又はアルミニウム合金材は、耐熱耐食性が向上することで長寿命化が可能となり、もって資源の有効活用を図ることができる。
【0014】
(2)表面処理皮膜
本実施形態に係る表面処理皮膜はアルミニウム材又はアルミニウム合金材の表面又は表
面上に形成され、クロム、ジルコニウム、亜鉛、及び炭素を含有するものである。これらの元素のみから形成されていてもよいが、その他の成分を含有していてもよい。以下、各皮膜成分、組成(含有量)を詳述する。
【0015】
(2-1)クロム
表面処理皮膜に含有されるクロムの形態は、金属クロムであってもよく、6価のクロム酸化物や3価のクロム酸化物などのクロム酸化物であってもよく、表面処理剤中に含有される成分と結合したクロム化合物であってもよく、特に制限されるものではない。これら1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。表面処理皮膜中のクロム含有量は、金属クロム換算で通常5mg/m~100mg/mの範囲内であり、好適には10mg/m~50mg/mの範囲内であり、さらに好適には10mg/m~30mg/mの範囲内である。表面処理皮膜中のクロム含有量は蛍光X線分析装置を用いて測定する。
【0016】
(2-2)ジルコニウム
表面処理皮膜に含有されるジルコニウムの形態は、金属ジルコニウムであってもよく、ジルコニウム酸化物であってもよく、表面処理剤中に含有される成分と結合したジルコニウム化合物であってもよく、特に制限されるものではない。これら1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。表面処理皮膜中のジルコニウム含有量は、金属ジルコニウム換算で通常2mg/m~150mg/mの範囲内であり、好適には5mg/m~100mg/mの範囲内であり、さらに好適には5mg/m~50mg/mの範囲内である。表面処理皮膜中のジルコニウム含有量は蛍光X線分析装置を用いて測定する。
【0017】
(2-3)亜鉛
表面処理皮膜に含有される亜鉛の形態は、金属亜鉛であってもよく、亜鉛酸化物であってもよく、表面処理剤中に含有される成分と結合した亜鉛化合物であってもよく、特に制限されるものではない。これら1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0018】
(2-4)クロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計に対する亜鉛の含有量の割合
表面処理皮膜中に含有されるクロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計を100原子%として、亜鉛の含有量の割合(Zn/(Cr+Zr+Zn))は、通常2原子%~60原子%の範囲内であることが好ましく、より好適には10原子%~40原子%の範囲内であり、さらに好適には10原子%~30原子%の範囲内である。
クロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計に対する亜鉛の含有量の割合(Zn/(Cr+Zr+Zn))を求めるための表面処理皮膜中の各成分の含有量の測定は、X線光電子分光装置を用いて、スパッタリングとX線光電子分光法(XPS)による元素量測定を複数回繰り返すことで行う。なお、XPSにおける深さ位置はArイオンによってSiOがスパッタされる距離で管理する。詳細には、0.25分(スパッタレート:SiO換算で11.0nm/min)スパッタを行い、単色化Al Kα線を分析径100
μmで試料表面に照射し、それによって得られる光電子を測定する。これを繰り返し、表面処理皮膜の厚さ方向における各深さで得られたクロム、ジルコニウム及び亜鉛の含有量を測定する。それらの合計を100原子%として、亜鉛の含有量の割合(Zn/(Cr+Zr+Zn))を算出する。
【0019】
(2-5)炭素
表面処理皮膜に含有される炭素の全部又は一部は、表面処理剤に配合された水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物に由来するものである。表面処理皮膜中の炭素の含有量は、通常2mg/m~20mg/mの範囲内であり、好適には3mg/m~15mg/mの範囲内であり、さらに好適には4mg/m~12mg/mの範囲内であ
る。表面処理皮膜中の炭素の含有量は、全有機炭素計によって測定する。
【0020】
(2-6)赤外スペクトルにおけるピーク
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の正反射法にて表面処理皮膜を測定することで、該皮膜の赤外スペクトルが得られる。本形態の表面処理皮膜を測定して得られる赤外スペクトルは、特定の波長範囲内にピークを有する。水酸基に由来するピークが3600cm-1~3000cm-1に現れ、カルボキシル基に由来するピークが1750cm-1~1700cm-1に現れる。
赤外スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて、赤外スペクトルを測定波数=4000cm-1~400cm-1、分解能=4cm-1、128回スキャンの条件にて測定することで得られる。バックグラウンドには表面処理皮膜を備えていないアルミニウム又はアルミニウム合金材を使用する。
以上、本実施形態に係る表面処理皮膜を備えたアルミニウム材又はアルミニウム合金材について説明したが、なかでも表面処理皮膜中の亜鉛の含有量が上記範囲内にあることと、表面処理皮膜を測定した赤外スペクトルにおいて、上記波長範囲内にピークを有することとで、耐熱耐食性を向上させることができる。
【0021】
(3)表面処理剤
本実施形態に係る表面処理剤は、アルミニウム又はアルミニウム合金材を表面処理するために用いられる表面処理剤である。当該表面処理剤は化成処理剤として利用できる。
表面処理剤はクロムを含有するイオン(A)と、ジルコニウムを含有するイオン(B)と、亜鉛を含有するイオン(C)と、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)と、を含有するものである。表面処理剤は、これらイオン(A)~(C)の供給源及び有機化合物(D)のみを水性媒体に配合して調製したものであってもよく、これらに加えてその他の成分を配合して調製したものであってもよい。以下、各成分、組成(含有量)及び液性を詳述する。
【0022】
(3-1)水性媒体
水性媒体は、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に制限されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水と混合させてもよい。
【0023】
(3-2)クロムを含有するイオン(A)
表面処理剤におけるクロムを含有するイオン(A)の供給源は、水性媒体に混合させることによりイオン(A)を提供できれば、特に制限されるものではない。例えば、フッ化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、リン酸クロムなどが挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いてもよい。表面処理剤におけるイオン(A)の含有量は特に限定されないが、クロム換算質量濃度で通常5~1000mg/Lの範囲内であり、好適には50~500mg/L範囲内であってよく、さらに好適には100~200mg/Lの範囲内である。イオン(A)は、3価クロムを含有するイオンであってもよい。
【0024】
(3-3)ジルコニウムを含有するイオン(B)
表面処理剤におけるジルコニウムを含有するイオン(B)の供給源は、水性媒体に混合させることによりイオン(B)を提供できれば、特に制限されるものではない。例えば、
硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロジルコニウム錯塩、酢酸ジルコニウム、乳酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、テトラノルマルブトキシジルコニウム、テトラノルマルプロポキシジルジルコニウム等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いてもよい。表面処理剤におけるイオン(B)の含有量は特に限定されないが、ジルコニウム換算質量濃度で通常は5~1000mg/Lの範囲内であり、好適には30~300mg/Lの範囲内であってよく、さらに好適には70~200mg/Lの範囲内である。
【0025】
(3-4)亜鉛を含有するイオン(C)
表面処理剤における亜鉛を含有するイオン(C)の供給源は、水性媒体に混合させることによりイオン(C)を提供できれば、特に制限されるものではない。例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、フッ化亜鉛、ヨウ化亜鉛、リン酸二水素亜鉛、亜鉛アセチルアセトナート等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いてもよい。表面処理剤におけるイオン(C)の含有量は特に限定されないが、亜鉛換算質量濃度で通常500~10000mg/Lの範囲内であり、好適には1000~5000mg/Lの範囲内であってよく、さらに好適には1500~2000mg/Lの範囲内である。
【0026】
(3-5)水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)
水酸基及びカルボキシル基を含有する有機化合物(D)は、水性媒体に混合させることができれば、特に制限されるものではない。例えば、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸、グルカル酸、ガラクタル酸、マンナル酸、アラビノン酸、フルクツロン酸、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、グルロン酸等の有機酸及びその塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いてもよい。表面処理剤における水酸基及びカルボキシル基を含有する有機化合物の配合量は特に限定されないが、通常で2~2000mg/Lの範囲内であり、好適には10~1000mg/Lの範囲内であってよく、さらに好適には100~300mg/Lの範囲内である。
【0027】
(3-6)遊離フッ素イオン(E)
表面処理剤は、遊離フッ素イオン(E)を含んでいてもよい。表面処理剤における遊離フッ素イオン(E)の供給源は、水性媒体に混合させることにより遊離フッ素イオン(E)を提供できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化クロム、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロチタン錯塩、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロジルコニウム錯塩、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、ヘキサフルオロケイ酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化亜鉛、ホウフッ化水素酸、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化アンモニウムなどを上げることができる。これらは1種のみを用いてもよいが、2種以上を用いてもよい。また、遊離フッ素イオン(E)は、上記イオン(A)、(B)及び/又は(C)の供給源と、同一の化合物により提供してもよく、異なる化合物により提供してもよい。表面処理剤における遊離フッ素イオン(E)のフッ素換算質量濃度は、特に制限されるものではないが、好適には70~200mg/Lであり、より好適には80~150mg/Lである。
本明細書における遊離フッ素イオン濃度は、アルミニウム材又はアルミニウム合金材表面又は表面上に、表面処理剤を接触させる際の温度における値を意味する。遊離フッ素イオン濃度の測定は、周知手法に従い測定された値であり、例えば市販のイオン計で行うことができる。
【0028】
本実施形態の表面処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲内であれば各種の金属成
分や添加剤を添加してもよい。金属成分としてはバナジウム、モリブデン、タングステン、マンガン、セリウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、ストロンチウム、リチウム、ニオブ、イットリウム、ビスマス等を挙げることができる。添加剤としてはホルミル基を有する化合物、ベンゾイル基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、イミノ基を有する化合物、シアノ基を有する化合物、アゾ基を有する化合物、チオール基を有する化合物、スルホ基を有する化合物、ニトロ基を有する化合物、アミジノ基を有する化合物、ウレタン結合を有する化合物、芳香族環を有する化合物が挙げられる。これらの金属成分や添加剤は1種のみを用いてもよいが2種以上を用いてもよい。これら金属成分及び添加剤は本発明の効果を損なわない範囲内で添加することから、その含有量は多くても表面処理剤全量に対して数質量%程度である。
【0029】
(3-7)表面処理剤のpH
本実施形態に係る表面処理剤のpHは、特に制限されるものではないが、好適には3.0~6.0であり、より好適には4.0~5.0である。本明細書におけるpHは、アルミニウム材又はアルミニウム合金材表面又は表面上に、表面処理剤を接触させる際の温度における値を意味する。pHの測定は、周知手法に従い測定された値であり、例えば市販のpH計で行うことができる。
【0030】
以上、本実施形態に係る表面処理剤の組成について説明したが、本発明の別の側面としては、クロムを含有するイオン(A)の供給源と、ジルコニウムを含有するイオン(B)の供給源と、亜鉛を含有するイオン(C)の供給源と、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)とを水性媒体に配合してなる、アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面処理に用いられる表面処理剤である。供給源となる化合物はそれぞれ1種又は2種以上を用いてもよい。
【0031】
(4-1)表面処理剤の製造方法
本実施形態に係る表面処理剤は、クロムを含有するイオン(A)の供給源と、ジルコニウムを含有するイオン(B)の供給源と、亜鉛を含有するイオン(C)の供給源と、水酸基及びカルボキシル基を有する有機化合物(D)とを水性媒体に適量配合して撹拌することによる得ることができる。なお、製造に際しては、固体の供給源を水性媒体に配合してもよく、当該固体の供給源をあらかじめ水性媒体に溶解させた後に水性媒体溶液として配合してもよい。また、表面処理剤のpHの範囲は上述した通りであり、硝酸、硫酸、フッ化水素酸、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpHを調整することが好ましいが、これらの成分に限定されるものではない。なお、pH調整剤は、1種又は2種以上を用いてもよい。
【0032】
(4-2)表面処理皮膜を備えたアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法
本実施形態に係る表面処理剤によって形成される表面処理皮膜を備えたアルミニウム又はアルミニウム合金材の製造方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、本実施形態に係る表面処理剤を接触させる工程を含む。これにより、アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に、表面処理皮膜が形成される。接触工程の前に洗浄工程や酸洗工程等の前処理工程を行ってもよい。なお、各工程の後に水洗工程を行ってもよいし、水洗工程の後に乾燥工程を行ってもよい。
【0033】
(4-3)アルミニウム又はアルミニウム合金材
表面処理剤が対象とするアルミニウム又はアルミニウム合金材は、特に限定されるものではないが、特に、表面の酸化膜が厚く、合金成分が偏析しているアルミニウムダイキャスト材に対して有効である。アルミニウム又はアルミニウム合金材の用途は特に限定されないが、例えば、エンジン周辺機器類、ECU筐体等が挙げられる。
【0034】
(4-4)洗浄工程
本実施形態の製造方法において、接触工程を行う前に、アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に公知の洗浄剤を接触させる洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄方法は特に限定されないが、例えば、溶剤脱脂、アルカリ脱脂等が挙げられる。
【0035】
(4-5)酸洗工程
本実施形態の製造方法において、接触工程を行う前に、アルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に公知の酸洗剤を接触させる酸洗工程を行ってもよい。酸洗剤は特に限定されないが、例えば、硝酸やフッ化水素酸等が挙げられる。
【0036】
(4-6)接触工程
本実施形態の製造方法における接触工程において、接触温度、接触時間は特に限定されないが、通常、表面処理剤をアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に30~80℃、好ましくは40~60℃で、10~1200秒間接触させる。なお、当該工程後は必要に応じて、水洗し、脱イオン水洗を行い、その後乾燥させてもよい。乾燥温度は特に制限はないが、15~100℃が好ましい。なお、表面処理剤をアルミニウム又はアルミニウム合金材の表面又は表面上に接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、浸漬法、スプレー法、フローコート法等を挙げることができる。
【0037】
(後処理工程)
上記製造方法により製造された、表面処理皮膜を備えたアルミニウム又はアルミニウム合金材を、さらに熱水、防錆剤、後処理剤、pH調整剤、カップリング剤などにより後処理してもよい。上記後処理後には水洗してから乾燥しても、水洗せずに乾燥してもよい。
【0038】
また、表面処理皮膜を備えたアルミニウム又はアルミニウム合金材は、表面処理皮膜の上に塗装する塗装工程を行わなくても優れた耐食性を有し、且つ表面処理皮膜が高温に晒された場合でも優れた耐食性(耐熱耐食性)を有するが、塗装工程を行ってもよい。
前記塗装工程は、特に限定されないが、例えば、公知の塗装組成物を用いて、水系塗装、溶剤塗装、粉体塗装、アニオン電着塗装、カチオン電着塗装などの塗装方法により行うことができる。
【実施例0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を説明する。なお、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0040】
<アルミニウム材料>
アルミニウムダイキャスト材(JIS-ADC12)
<表面処理剤>
表1に示した原料を用いて且つ表1に示した濃度となるよう、各原料を水に添加し混合し、実施例及び比較例に係る表面処理剤を得た。なお、pH調整剤としてアンモニア水又は硝酸を用いた。なお、pH及び遊離フッ素イオン濃度(表1中ではFFと表す。)は、ポータブルイオン・pH計[IM-32P(東亜ディーケーケー株式会社製)、pH電極:GST-2729C(東亜ディーケーケー株式会社製)、イオン電極:フッ化物イオン複合電極F-2021(東亜ディーケーケー株式会社製)]を用いて測定した。
【0041】
<処理方法>
具体的には、アルカリ脱脂剤[ファインクリーナー315E(日本パーカライジング株式会社製)の20g/L水溶液]中に上記アルミニウムダイキャスト材を50℃で2分間浸漬し、次いで水道水にて表面をすすいで清浄化した。その後、上記表面処理剤を当該アルミニウムダイキャスト材の表面又は表面上に、表1に記載した接触温度にて浸漬するこ
とにより、接触工程を行った。その後、水道水にて流水洗(常温-30秒)し、脱イオン水にて流水洗(常温-30秒)した後にエアーブロワーにて乾燥(常温-30秒)し、表面処理皮膜を備えたアルミニウムダイキャスト材(試験片1~39)を得た。
【0042】
<表面処理皮膜の測定>
上記表面処理方法により得られた表面処理皮膜を備えたアルミニウムダイキャスト材の表面処理皮膜中の各成分の含有量と表面処理皮膜の赤外ピークを下記方法により測定した。測定結果を表2に示す。
【0043】
<金属含有量>
金属含有量(クロム、ジルコニウム)は蛍光X線分析装置[ZSX PrimusIV(株式会社リガク製)]を用いて測定した。
【0044】
<クロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計に対する亜鉛の含有量の割合>
クロム、ジルコニウム、及び亜鉛の含有量の合計に対する亜鉛の含有量の割合(Zn/(Cr+Zr+Zn))を求めるための表面処理皮膜中の各成分の含有量の測定は、X線光電子分光装置[PHI5000VersaProbeIII(アルバック・ファイ製)]を用いて、スパッタリングとXPSによる元素量測定を複数回繰り返すことで行った。なお、XPSにおける深さ位置はArイオンによってSiOがスパッタされる距離で管理した。詳細には、0.25分(スパッタレート:SiO換算で11.0nm/min)スパッタを行い、単色化Al Kα線を分析径100μmで試料表面に照射し、それに
よって得られる光電子を測定した。これを繰り返し、表面処理皮膜の厚さ方向における各深さで得られたクロム、ジルコニウム及び亜鉛の含有量を測定した。それらの合計を100原子%として、亜鉛の含有量の割合(Zn/(Cr+Zr+Zn))を算出した。
【0045】
<炭素含有量>
炭素含有量(全有機炭素付着量)は、全有機炭素計[TOC-L(株式会社島津製作所製)]によって測定した。
【0046】
<赤外ピーク>
フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)の正反射法にて表面処理皮膜を測定することで、該皮膜の赤外スペクトルを得た。具体的には、フーリエ変換赤外分光光度計[ALPHA(Bruker製)]を用いて、赤外スペクトルを測定波数=4000cm-1~400cm-1、分解能=4cm-1、128回スキャンの条件にて測定することで得た。バックグラウンドには表面処理皮膜を備えていないアルミニウムダイキャスト材を使用した。得られた赤外スペクトルが3600cm-1~3000cm-1の波長範囲内及び1750cm-1~1700cm-1の波長範囲内にピークを有しているか否かを確認した。
【0047】
<試験片の評価>
さらに、試験片について、以下に示す通り各試験を実施し、表面処理皮膜を備えたアルミニウムダイキャスト材の耐食性及び加熱後耐食性(耐熱耐食性)を評価した。結果は表3に示す。
【0048】
≪評価方法≫
<耐食性>
試験片1~39に中性塩水噴霧試験(JIS-Z2371:2015)を360時間行った。乾燥後、試験片の表面に発生した白錆の割合を目視で測定した。白錆の割合は、観察部位の面積に対する白錆が発生した面積の割合である。評価基準は以下の通りである。評価結果を表3に示す。
<評価基準>
5 白錆の割合 5%以下
4 白錆の割合 5%超~10%以下
3 白錆の割合 10%超~30%以下
2 白錆の割合 30%超~50%以下
1 白錆の割合 50%超
【0049】
<耐熱耐食性>
各試験片を電気オーブンにて加熱(150℃-6時間)後、中性塩水噴霧試験(JIS-Z2371:2015)を240時間行った。乾燥後、試験片の表面に発生した白錆の割合を目視で測定した。観察部位の面積に対する白錆が発生した面積の割合である。評価基準は以下の通りである。評価結果を表3に示す。
<評価基準>
5 白錆の割合 5%以下
4 白錆の割合 5%超~10%以下
3 白錆の割合 10%超~30%以下
2 白錆の割合 30%超~50%以下
1 白錆の割合 50%超
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】