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特開2024-80765ボールジョイントのソケット、ボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法
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  • 特開-ボールジョイントのソケット、ボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080765
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ボールジョイントのソケット、ボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
F16C11/06 N
F16C11/06 A
F16C11/06 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193966
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】市川 久
(72)【発明者】
【氏名】奥津 守裕
(72)【発明者】
【氏名】村松 雅広
(72)【発明者】
【氏名】姫野 大一郎
【テーマコード(参考)】
3J105
【Fターム(参考)】
3J105AA23
3J105AA33
3J105AB03
3J105AB41
3J105AC03
3J105CA05
3J105CA17
3J105CB43
3J105CD01
3J105CE02
3J105CE03
(57)【要約】
【課題】ベアリングシートを強固に保持できるボールジョイントのソケット、これを備えたボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法を提供する。
【解決手段】ソケット4は、ベアリングシートを保持する円筒状に形成された金属製の本体部20と、本体部20の内周面25に形成された少なくとも一つの凹部37と、凹部37の縁部に形成され、内周面25から立ち上がる凸部38と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングシートを保持する円筒状に形成された金属製の本体部と、
この本体部の内周面に形成された少なくとも一つの凹部と、
前記凹部の縁部に形成され、前記内周面から立ち上がる凸部と、
を備えることを特徴とするボールジョイントのソケット。
【請求項2】
本体部は、ベアリングシートを保持するように変形される屈曲部を有し、
凹部及び凸部は、少なくとも前記屈曲部の内周面に位置する
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイントのソケット。
【請求項3】
凹部及び凸部は、少なくとも屈曲部の内周面の全周に亘り位置する
ことを特徴とする請求項2記載のボールジョイントのソケット。
【請求項4】
凹部は、内周面に規則的に形成されている
ことを特徴とする請求項1記載のボールジョイントのソケット。
【請求項5】
円筒状のベアリングシートと、
このベアリングシート内に回動可能に保持されたボール部と、
このボール部を保持した前記ベアリングシートを保持する請求項1ないし4いずれか一記載のソケットと、
を備えることを特徴とするボールジョイント。
【請求項6】
金属により円筒状の本体部を形成し、
前記本体部の内周面へのレーザ照射により、少なくとも一つの凹部と、この凹部からこの凹部の縁部に押し出された溶融材料の凝固による凸部と、を形成する
ことを特徴とするボールジョイントのソケットの製造方法。
【請求項7】
本体部の内周面の同位置にレーザを少なくとも2回照射する
ことを特徴とする請求項6記載のボールジョイントのソケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベアリングシートを保持する円筒状のボールジョイントのソケット、これを備えたボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールジョイントとして、ボールスタッドのボール部を回動可能に保持した円筒状のボールシートを円筒状のソケットに収容したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-210027号公報(第3-9頁、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば自動車の操舵装置のラックエンド等に用いられるボールジョイントにおいては、ボールスタッドからソケットに加わる圧縮方向・引張方向及び回転方向の荷重に対して、ボールシートをソケットに強固に保持することで、要求される耐久性能を満たすようにすることが求められる。このような課題は、自動車用のボールジョイント以外のボールジョイントにおいても生じる。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ベアリングシートを強固に保持できるボールジョイントのソケット、これを備えたボールジョイント、及び、ボールジョイントのソケットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のボールジョイントのソケットは、ベアリングシートを保持する円筒状に形成された金属製の本体部と、この本体部の内周面に形成された少なくとも一つの凹部と、前記凹部の縁部に形成され、前記内周面から立ち上がる凸部と、を備えるものである。
【0007】
請求項2記載のボールジョイントのソケットは、請求項1記載のボールジョイントのソケットにおいて、本体部は、ベアリングシートを保持するように変形される屈曲部を有し、凹部及び凸部は、少なくとも前記屈曲部の内周面に位置するものである。
【0008】
請求項3記載のボールジョイントのソケットは、請求項2記載のボールジョイントのソケットにおいて、凹部及び凸部は、少なくとも屈曲部の内周面の全周に亘り位置するものである。
【0009】
請求項4記載のボールジョイントのソケットは、請求項1記載のボールジョイントのソケットにおいて、凹部は、内周面に規則的に形成されているものである。
【0010】
請求項5記載のボールジョイントは、円筒状のベアリングシートと、このベアリングシート内に回動可能に保持されたボール部と、このボール部を保持した前記ベアリングシートを保持する請求項1ないし4いずれか一記載のソケットと、を備えるものである。
【0011】
請求項6記載のボールジョイントのソケットの製造方法は、金属により円筒状の本体部を形成し、前記本体部の内周面へのレーザ照射により、少なくとも一つの凹部と、この凹部からこの凹部の縁部に押し出された溶融材料の凝固による凸部と、を形成するものである。
【0012】
請求項7記載のボールジョイントのソケットの製造方法は、請求項6記載のボールジョイントのソケットの製造方法において、本体部の内周面の同位置にレーザを少なくとも2回照射するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベアリングシートをソケットに強固に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態のボールジョイントのソケットを示し、(a)は屈曲部の屈曲前の本体部を示す断面図、(b)は(a)の平面図、(c)は本体部の内周面の一部を拡大して示す断面図である。
図2】(a)は同上ソケットの内周面の一例を示す正面図、(b)は同上ソケットの内周面の他の例を示す正面図である。
図3】同上ソケットを備えるボールジョイントを示す断面図である。
図4】同上ソケットの製造装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図3において、1はボールジョイントを示す。ボールジョイント1は、例えば自動車の操舵装置に用いられる自動車用のボールジョイントである。本実施の形態のボールジョイント1としては、操舵装置のラックエンドに用いられて、ハンドル側から伝わった操舵量を、タイヤ側に伝えるボールジョイント(インナーボールジョイント(IBJ))を例に挙げて説明する。
【0017】
ボールジョイント1は、ボール側部材であるボールスタッド2と、摺動部材(ボールシート)であるベアリングシート3と、受け側部材であるソケット4とを備えている。また、このボールジョイント1は、図示しないが、ダストカバーを備えていてもよい。
【0018】
ボールスタッド2は、球状のボール部10を一端部に備え、ボール部10から他端部に、軸状のスタッド部11が連結されている。ボールスタッド2は、鋼鉄などにより形成されている。なお、以下、ボールスタッド2は、中立状態(ニュートラル状態)にある位置を基準として説明する。
【0019】
ボール部10は、外周面の一部がベアリングシート3に摺動または回動可能に保持される。
【0020】
スタッド部11は、外部の被接続部材に接続されて荷重が加わる部分である。本実施の形態では、スタッド部11は、タイヤ側(タイロッドエンド)と接続される部分である。スタッド部11は、ボール部10と一体に成形されてもよいし、ボール部10と別体で成形された後、ボール部10に溶接などにより一体化されてもよい。
【0021】
ベアリングシート3は、合成樹脂により円筒状に形成されている。ベアリングシート3は、円筒状の保持部材本体部であるシート本体部13と、シート本体部13の端部に連なる荷重受け部14と、を一体的に備えている。そして、ベアリングシート3は、少なくとも一端部に、一方の保持部材開口部である一方のシート開口部15を備えている。一方のシート開口部15は、シート本体部13またはベアリングシート3の一端部に位置する。また、本実施の形態のベアリングシート3は、他端部に、他方の保持部材開口部である他方のシート開口部16を備えている。他方のシート開口部16は、荷重受け部14を貫通して形成されている。また、ベアリングシート3の内周面は、ボール部10との摺接面となる。このベアリングシート3の内周面には、溝部、凹部、凸部などが必要に応じて形成されていてもよい。ベアリングシート3は、耐摩耗性に優れ弾性率が高い合成樹脂などにより形成されている。つまり、ベアリングシート3は、ソケット4よりも軟質の部材により形成されている。なお、ベアリングシート3は、1枚で一体的に形成されたものに限らず、例えば2ピースタイプなど、複数のシート部材を組み合わせて形成されていてもよい。
【0022】
シート本体部13は、一定または略一定の内径寸法を有する直円筒状に予め形成されており、ベアリングシート3がソケット4の内部に収容された状態で、ソケット4の変形に応じて、荷重受け部14から離れる側である一端部に向かい、ボール部10の外周面に沿って徐々に縮径されるように変形される。シート本体部13は、ソケット4に収容された状態で、軸方向の所定位置、本実施の形態ではボール部10の赤道位置Eを含む平面と交差する位置を屈曲点として、赤道位置Eから一方のシート開口部15の周縁部である一端部に亘る部分が、一端部に向かい徐々に縮径されるように屈曲された保持部材屈曲部であるシート屈曲部18となっている。
【0023】
荷重受け部14は、シート本体部13から離れる方向、すなわちベアリングシート3の他端部に向かい徐々に縮径されて形成されている。荷重受け部14の外周面は、截頭円錐状に形成されている。
【0024】
一方のシート開口部15は、ボール部10よりも大きい径寸法に予め形成されているとともに、ベアリングシート3がソケット4に収容された状態では、シート屈曲部18によってボール部10よりも小さい径寸法に縮径される。
【0025】
ソケット4は、ハウジング等とも呼ばれるもので、鍛造、あるいは鋳造等により形成された金属製である。本実施の形態において、ソケット4は、有底円筒状の本体部20を有する。すなわち、本体部20は、円筒状の受け側部材本体である側壁部22と、側壁部22の端部を閉塞する閉塞部23と、を一体に有している。そして、本体部20の内部には、側壁部22と閉塞部23とによって、ベアリングシート3を収容する内室24が形成され、この内室24がソケット4の内周面25により囲まれている。また、本体部20の軸方向において閉塞部23と反対側の端部、すなわち側壁部22の先端部側である一端部には、内室24をソケット4の外部と連通する開口部26が形成されている。なお、ソケット4には、ダストカバーを固定するカバー取付部としてのカバー固定溝が形成されていてもよい。
【0026】
側壁部22は、図1(a)に示すように、一定または略一定の内径寸法を有する直円筒状に予め形成されており、図3に示すように、ベアリングシート3がソケット4または本体部20の内部(内室24)に収容された状態で、軸方向の所定位置、本実施の形態ではボール部10の赤道位置Eを含む平面と交差する位置を屈曲点として、この屈曲点から開口部26の周縁部である一端部に亘る部分が、一端部に向かい徐々に縮径されるように屈曲されて屈曲部28となっている。つまり、屈曲部28の位置で内室24が狭くなるように形成されている。すなわち、屈曲部28の位置において、ソケット4の内周面25が一端部に向かい徐々に縮径される。この屈曲部28により、ボール部10を保持したベアリングシート3がソケット4に対して抜け止めされている。一例として、屈曲部28は、側壁部22の一端部側を中心軸側にかしめ変形することにより形成されるかしめ部である。
【0027】
また、屈曲部28は、側壁部22またはソケット4の一端部に位置しており、他端部には形成されていない。すなわち、側壁部22の他端部側は、直円筒状の非屈曲部30となっている。非屈曲部30は、ボール部10の赤道位置Eを含む平面と交差する位置から閉塞部23に亘る部分をなしている。非屈曲部30の位置では、ソケット4の内周面25の径寸法が一定または略一定となっている。
【0028】
閉塞部23は、側壁部22の他端部に連なって形成されている。閉塞部23は、側壁部22の軸方向に対して交差する方向に形成され、側壁部22の他端部を閉塞している。閉塞部23は、ベアリングシート3を介してボール部10と軸方向に対向する位置にあり、ソケット4においてボールスタッド2側から最も大きな荷重を受ける部分である。また、閉塞部23の外部には、例えばハンドル側(ラック軸)などの外部の被接続部と接続される接続部32が本体部20と同軸状に形成されていてもよい。本実施の形態において、接続部32は、例えば雄ねじ状に形成されている。接続部32は、必須の構成ではない。
【0029】
内室24は、閉塞部23に対応する位置でソケット4の他端部に向かい徐々に縮径されるように形成されている。
【0030】
内周面25は、ベアリングシート3の外周面と接触、または、近接対向する部分である。内周面25には、少なくとも一部に粗面加工部35が形成されている。粗面加工部35は、内周面25が加工されて形成され、ベアリングシート3の外周面と接触し、ベアリングシート3の外周面に食い込む部分である。粗面加工部35により、ソケット4または本体部20に対するベアリングシート3の保持強度が設定される。
【0031】
本実施の形態において、粗面加工部35は、図1(c)に示すように、少なくとも一つの凹部37と、その凹部37の外縁部に形成された凸部38と、を有する。図示される例では、凹部37は、複数形成され、それら凹部37のそれぞれの外縁部に凸部38が形成されている。
【0032】
凹部37は、半球面状の窪み(ディンプル)として形成されている。凹部37の径寸法は、凹部37を形成するレーザLのビーム形状(ビーム径)に応じて設定される。また、本実施の形態において、凹部37は、所定のピッチで規則的な配置、もしくは不規則的な配置に形成されている。規則的な配置の例としては、例えば図2(a)及び図2(b)に示すように、凹部37は、内周面25の周方向に所定のピッチP1で等間隔または略等間隔に並ぶとともに、内周面25の軸方向に所定のピッチP2で等間隔または略等間隔に並んで配置されている。凹部37のピッチP1,P2は、ボールジョイント1(図3)に要求される耐久性能、及び/または、ボールジョイント1(図3)の大きさに応じて設定される。なお、内周面25の周方向のピッチP1と内周面25の軸方向のピッチP2とは、同一でもよいし、異なっていてもよい。凹部37の配置は、図2(a)に示すように、平面正方格子状でもよいし、図2(b)に示すように、平面斜方格子状(千鳥状)でもよい。
【0033】
図1(c)に示す凸部38は、凹部37の外縁部に沿って形成されている。凸部38は、凹部37の形成時に溶融した内周面25の材料の一部が凹部37から押し出されて凝固したものである。好ましくは、凸部38は、凹部37の周縁に亘り連なる円環状であるが、その一部が途切れて円弧状等となっていてもよい。凸部38は、凹部37の窪み量よりも小さい突出量で突出している。また、凸部38は、断面形状において、凹部37を基準としてその両側に突出する山状となっており、各々の山部については、凹部37よりも幅寸法が小さく、図示される例では凹部37の半分未満の幅寸法に形成されている。
【0034】
図1(a)及び図3に示す粗面加工部35が形成される位置及び範囲は、ボールジョイント1に要求される耐久性能に応じて設定される。本実施の形態では、粗面加工部35は、ソケット4の本体部20の内周面25の一端部側に亘る部分全体である。例えば、粗面加工部35は、側壁部22においてボール部10の赤道位置Eを含む平面と交差する位置、すなわち屈曲部28の屈曲点から、開口部26が位置する一端部に亘る内周面25の帯状の領域である。すなわち、粗面加工部35は、ソケット4の本体部20の内周面25において、屈曲部28に対応する領域となっている。つまり、粗面加工部35は、屈曲部28の内周面である。したがって、屈曲部28の内周面の全周に亘り、凹部37と凸部38とが形成されている。そして、粗面加工部35は、凸部38がベアリングシート3のシート屈曲部18の外周面に食い込むようになっている。なお、図3において、粗面加工部35は、説明を明確にするために、凹凸を強調するとともに、形状も模式的に示している。
【0035】
内周面25において、粗面加工部35以外の部分は、粗面加工部35よりも面粗度が小さい非粗面加工部40となっている。つまり、非粗面加工部40は、内周面25の全体が粗面加工されている場合、内周面25には形成されない。本実施の形態では、非粗面加工部40は、ソケット4の本体部20の内周面25において、非屈曲部30ないし閉塞部23に対応する領域となっている。すなわち、非粗面加工部40は、側壁部22においてボール部10の赤道位置Eを含む平面と交差する位置、すなわち屈曲部28の屈曲点から、開口部26とは反対側の閉塞部23に亘る内周面25の領域である。
【0036】
開口部26は、屈曲部28により周縁部が囲まれた部分である。開口部26は、円形状に形成されている。開口部26は、側壁部22の内方において、最も内径寸法が小さい部分である。また、開口部26は、ボール部10及びベアリングシート3の外径寸法よりも大きい内径寸法に予め形成され、ベアリングシート3がソケット4の内部に収容された状態では、ボール部10及びベアリングシート3の外径寸法よりも小さい内径寸法となるように屈曲部28により囲まれる。また、開口部26には、拡開部42が連なって形成されていてもよい。拡開部42は、開口部26からソケット4の一端部に向かい、徐々に拡径するように傾斜して形成されている。拡開部42は、ボールスタッド2の揺動時のスタッド部11とソケット4との干渉を避けるためのものである。
【0037】
次に、一実施の形態のボールジョイント1のソケット4の製造方法及びボールジョイント1の製造方法について説明する。
【0038】
まず、形成工程において、図1(a)に示すように、ソケット4の本体部20を、一端部に開口部26を備える有底筒状に形成する。このとき、本体部20は、側壁部22が一端部に亘り屈曲せず、側壁部22が一定または略一定の内径寸法を有する、直円筒状に形成される。
【0039】
次いで、形成工程の後、例えば本体部20を水洗する水洗工程及び水洗した本体部20を乾燥する乾燥工程を経た本体部20に対して、粗面加工工程において、内周面25の必要箇所に粗面加工を施して粗面加工部35を形成する。粗面加工部35は、例えば図4に示す加工装置50を用いて形成される。本実施の形態において、加工装置50は、本体部20を保持する保持台51と、保持台51に保持された本体部20に対してレーザLを照射するレーザ照射部52と、を有するレーザマーカが好適に用いられる。
【0040】
保持台51上には、本体部20が、開口部26を上方に向けた状態で保持される。
【0041】
レーザ照射部52は、例えば可動的に設けられている。図示される例では、レーザ照射部52は、複数、例えば一対設定され、保持台51の中心部を基準として、互いに反対側(図中の左右)に位置する。これに限らず、レーザ照射部52は、1つでもよいし、3つ以上でもよい。
【0042】
そして、加工装置50は、保持台51により照射位置に固定された本体部20に対して、レーザ照射部52から開口部26を介して内周面25へとレーザLを照射する。このとき、レーザ照射部52は、それぞれ本体部20の内周面25において、レーザLを、周方向に所定角度(所定幅)の領域A毎に照射することで、レーザLによる加工精度を確保することが好ましい。つまり、レーザLは焦点距離を有するため、内周面25の広い範囲に亘り所望の強度で照射することが困難であるから、粗面加工の精度を確保するためには、所定の狭い領域A毎にレーザLを照射することが好ましい。
【0043】
図1(b)に示すように、上記の領域Aは、例えば本体部20の内周面25を周方向に所定数、例えば本実施の形態では10~12に均等分割した四角形状の領域である。図4に示す各レーザ照射部52がレーザLを照射する領域A(図1(b))は、好ましくは互いに異なっている。好ましくは、レーザ照射部52は、本体部20の周方向に、レーザ照射部52の数で360°を等分した角度毎に離れた領域A(図1(b))に対してそれぞれレーザLを照射する。本実施の形態では、レーザ照射部52は本体部20の中心軸を基準として互いに反対側、つまり互いに180°離れた領域A(図1(b))に対して、周方向及び軸方向にレーザLを照射する。
【0044】
好ましくは、レーザLは、同位置に対して少なくとも2回照射することで、その位置において本体部20の内周面25の材料に蒸発現象を生じさせる。なお、各レーザ照射部52から照射されるレーザL同士は、互いに位相を異ならせておくことで、交差したとしても干渉しないようになっている。
【0045】
この結果、図1(c)に示すように、レーザLが照射された位置にて内周面25を構成する材料(材料M1)が蒸発するとともにその蒸発した部分の周辺の材料(溶融材料M2)が溶融しつつレーザLの照射圧力によって押し出されて凹部37が形成され、かつ、凹部37から内周面25の表面側に押し出された溶融材料M2が外気に触れて冷えて再び凝固することで凹部37の外縁部に凸部38が形成される。一つの領域A(図1(b))毎に複数ずつの凹部37及びそれに対応する凸部38が、規則的に、もしくは不規則的に形成される。
【0046】
レーザ照射部52は、一つの領域Aに対するレーザLの照射が終了すると、その領域Aに対し本体部20の周方向に隣接した領域Aに対して同様にレーザLを照射することで、すべての領域Aに対して同様に粗面加工を実施する。
【0047】
また、これら凹部37及び凸部38が形成された粗面加工部35を除く内周面25の他の部分が図1(a)に示す非粗面加工部40となる。なお、非粗面加工部40については、粗面加工を施さないものの、非粗面加工部40の面粗度が粗面加工部35の面粗度より小さければ、その他の表面処理が行われてもよい。
【0048】
さらに、粗面加工工程の後、挿入工程として、別途形成されたボールスタッド2のボール部10を回動可能に保持したボールシート3を、開口部26からソケット4の本体部20の内部(内室24)に挿入する。
【0049】
そして、挿入工程に続いて、屈曲工程として、ソケット4の所定位置であるボール部10の赤道位置Eから開口部26を備える一端部までの部分を中心軸側に向かい、かしめ変形などにより屈曲させて屈曲部28を形成し、内部に挿入されたボールシート3を抜け止めする。ソケット4の一端部の端面は、屈曲工程により、拡開部42として形成される。
【0050】
この後、必要に応じてボールスタッド2とソケット4とに亘りダストカバーなどを取り付け、開口部26をダストカバーにより覆うことで、ボールジョイント1が完成する。
【0051】
このように形成することで、ソケット4の粗面加工部35がボールシート3のシート屈曲部18の外周面に食い込み、アンカ効果をもたらし、ソケット4からのボールシート3の脱落、すなわちシートフローを防止する。
【0052】
上述したように、本体部20の内周面25に少なくとも一つの凹部37を形成するとともに、凹部37の縁部に内周面25から立ち上がる凸部38を形成することにより、内周面25の面粗度を粗くして内周面25とベアリングシート3との接触面の摩擦力を増大させることができる。そこで、ボールスタッド2からソケット4に対して圧縮方向及び引張方向に荷重が加わった際にベアリングシート3を摩擦力によりソケット4内に強固に保持できるので、ベアリングシート3がソケット4の本体部20内で動きにくくなり、抜け強度や圧縮強度、すなわち耐久性能を向上できる。
【0053】
また、このような凹部37及び凸部38は、例えば金属により形成した円筒状の本体部20の内周面25へのレーザ照射によって材料を溶融させて凹部37を形成するとともに、この凹部37からこの凹部37の縁部にレーザ照射圧力によって押し出された溶融材料の凝固によって凸部38を形成できる。すなわち、例えばリン酸による皮膜処理によって内周面25の面粗度を粗くする従来の方法の場合、表面処理に時間を要するため、工程内にワークを滞在させワーク投入と同時に処理が終わったワークを排出する必要があり、このような方法では、ワークの種類の段替え(段取り替え)の際に、工程内のワークの全排出と工程内へのワークの再充填とに時間を要するだけでなく、表面処理に使用される薬品の管理、排水処理、表面処理に適した濃度に保つための点検などにも時間を要し、多くの生産エネルギーを必要とする。それに対して、レーザLを用い本体部20の内周面25を構成する材料の溶融と凝固とによって形成できる凹部37及び凸部38であれば、表面処理を短時間で実施できるとともに、従来の方法より工程が少なくなり、ワークの種類の段替えも短時間で容易にでき、薬品などの管理も不要であるなど、生産性を向上しつつ環境に配慮した加工方法によって製造できる。
【0054】
特に、本体部20の内周面25の同位置にレーザLを少なくとも2回照射することで、本体部20の材料を確実に蒸発及び溶融させて、凹部37及び凸部38を容易に形成できる。
【0055】
ベアリングシート3を保持するように変形される本体部20の屈曲部28において、少なくとも屈曲部28の内周面に凹部37及び凸部38を形成することで、屈曲部28を変形させた際に凹部37及び凸部38からなる粗面加工部35がベアリングシート3の外周面に食い込み、ベアリングシート3をソケット4の本体部20内で動きにくくできる。
【0056】
凹部37及び凸部38を、少なくとも屈曲部28の内周面の全周に亘り形成することで、ベアリングシート3を、より確実にソケット4の本体部20内で動きにくくでき、耐久性能をより向上できる。
【0057】
凹部37を内周面25に規則的に形成することで、凹部37及びその縁部に形成される凸部38の配置を制御することによって、耐久性能を容易に制御可能となるとともに、レーザLを用いて凹部37及び凸部38を容易に製造できる。
【0058】
なお、上記一実施の形態において、ボールジョイント1は、車両の操舵装置に限らず、例えば懸架装置や、その他の装置に用いることができる。
【0059】
そして、上記ボールジョイント1は、車両用に限らず、その他の任意の用途に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば自動車などの車両の操舵装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ボールジョイント
3 ベアリングシート
4 ソケット
10 ボール部
20 本体部
25 内周面
28 屈曲部
37 凹部
38 凸部
L レーザ
M2 溶融材料
図1
図2
図3
図4