(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008078
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】生コンクリートの品質予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109622
(22)【出願日】2022-07-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第76回セメント技術大会 講演要旨、発行日:2022年4月20日 第76回セメント技術大会、開催日:2022年5月18日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TENSORFLOW
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正智
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
(57)【要約】
【課題】人間の感覚や経験によらなくても、短時間でかつ高い精度で生コンクリートの品質を予測する方法を提供することである。
【解決手段】予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測する方法であって、画像データを含む予測用入力データを予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測し、画像データがミキサ内を撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものであり、予め定められた領域は、(i)ミキサ内を撮影して撮影画像を得る工程、(ii)撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する工程、(iii)色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる任意に定められた領域を、予め定められた領域として選択する工程によって定められた領域である生コンクリートの品質予測方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、
上記予測モデルは、生コンクリートの画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、
上記生コンクリートの品質の予測は、予測対象の生コンクリートの画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから、上記予測対象の生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて行うものであり、
上記学習用入力データに含まれる画像データ、及び、上記予測用入力データに含まれる画像データは、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものであり、
上記予め定められた領域は、以下の(i)~(iii)の工程によって定められた領域であることを特徴とする生コンクリートの品質予測方法。
(i) 上記予め定められた領域を選択するための領域選択用生コンクリートを用いて、上記ミキサ内を、水と水以外の上記領域選択用生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影して撮影画像を得る撮影工程
(ii) 上記撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する数値データ取得工程
(iii) 取得した上記色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる上記任意に定められた領域を、上記予め定められた領域として選択する領域選択工程
【請求項2】
上記色に関する数値データが、輝度値、明度又は色度である請求項1に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項3】
上記生コンクリートが、即時脱型コンクリートである請求項1又は2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項4】
上記予測用入力データに含まれる画像データが、上記生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から切り取った、複数の画像データであり、上記複数の画像データの各々について、画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの移動平均値を用いて生コンクリートの品質を予測する請求項1又は2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項5】
上記機械学習が、畳み込みニューラルネットワークを用いた学習である請求項1又は2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【請求項6】
上記生コンクリートの品質に関する学習用出力データ及び上記生コンクリートの品質に関する予測用出力データが、生コンクリートの充填率である請求項1又は2に記載の生コンクリートの品質予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生コンクリートの品質予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生コンクリートは、目的とする生コンクリートの品質に合わせて調整された配合に基づいて、ミキサ内で各材料を所定の時間練り混ぜることで製造される。
一方で、配合や練り混ぜ時間が同じであっても、骨材の表面水率等の生コンクリート材料の物性や保管状態、あるいは製造時の外気温等の変動によって、製造された生コンクリートの品質も変動する。このため、通常、ミキサ内に設置されたカメラによって撮影されたモニタ画像の目視による確認、作業者による触感評価(作業者が手で生コンクリートを握る、あるいは擦る等した際の触感等の感覚に基づく評価)、及びミキサの電力負荷値等に基いて、所望の品質を有する生コンクリートを製造できるか否かを判断して、適宜、製造条件を調整している。
しかし、上記判断は、感覚と経験に基づいて、人間が行うものであるため、作業者によって判断が異なる場合があり、安定した品質の生コンクリートを製造することは困難である。
【0003】
熟練者ではなくてもコンクリートの品質管理を行うことが可能なシステムとして、例えば、特許文献1には、予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、上記予測モデルは、画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから 生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測し、上記学習用入力データ及び上記予測用入力データに含まれる画像データが、上記生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を撮影した画像から、撮影されたミキサの略中央部分であり、かつ、上記ミキサの回転軸と該回転軸に固着してなる撹拌羽根からなる混練用部材の、以下の(1)~(3)のすべての部分についてその近傍に位置する生コンクリートの材料が映りこむ可能性のある範囲を切り取ったものであることを特徴とする生コンクリートの品質予測方法。 (1) 上記回転軸の少なくとも一部分
(2) 上記撹拌羽根の先端部分
(3) 上記回転軸と上記撹拌羽根の固着部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生コンクリートの品質について、人間の感覚や経験によらなくても、短時間でかつ高い精度で予測することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、画像データを含む予測用入力データを予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測し、上記画像データがミキサ内を撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものであり、上記予め定められた領域は、(i)ミキサ内を撮影して撮影画像を得る工程、(ii)撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する工程、(iii)色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる任意に定められた領域を、予め定められた領域として選択する工程によって定められた領域である生コンクリートの品質予測方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] 予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、上記予測モデルは、生コンクリートの画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、上記生コンクリートの品質の予測は、予測対象の生コンクリートの画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから、上記予測対象の生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて行うものであり、上記学習用入力データに含まれる画像データ、及び、上記予測用入力データに含まれる画像データは、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものであり、上記予め定められた領域は、以下の(i)~(iii)の工程によって定められた領域であることを特徴とする生コンクリートの品質予測方法。
(i) 上記予め定められた領域を選択するための領域選択用生コンクリートを用いて、上記ミキサ内を、水と水以外の上記領域選択用生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影して撮影画像を得る撮影工程
(ii) 上記撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する数値データ取得工程
(iii) 取得された上記色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる上記任意に定められた領域を、上記予め定められた領域として選択する領域選択工程
【0007】
[2] 上記色に関する数値データが、輝度値、明度又は色度である前記[1]に記載の生コンクリートの品質予測方法。
[3] 上記生コンクリートが、即時脱型コンクリートである前記[1]または[2]に記載の生コンクリートの品質予測方法。
[4] 上記予測用入力データに含まれる画像データが、上記生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から切り取った、複数の画像データであり、上記複数の画像データの各々について、画像データを含む予測用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの移動平均値を用いて生コンクリートの品質を予測する前記[1]~[3]のいずれかに記載の生コンクリートの品質予測方法。
[5] 上記機械学習が、畳み込みニューラルネットワークを用いた学習である前記[1]~[4]のいずれかに記載の生コンクリートの品質予測方法。
[6] 上記生コンクリートの品質に関する学習用出力データ及び上記生コンクリートの品質に関する予測用出力データが、生コンクリートの充填率である前記[1]~[5]のいずれかに記載の生コンクリートの品質予測方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生コンクリートの品質予測方法によれば、人間の感覚や経験によらなくても、短時間でかつ高い精度で生コンクリートの品質を予測することができ、目的とする品質の生コンクリートを効率的かつ安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例において、ミキサの上方からミキサ内を撮影した静止画像及び該静止画像の任意に定められた領域A及びBを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の生コンクリートの品質予測方法は、予測モデルを用いて、生コンクリートの品質を予測するための方法であって、予測モデルは、生コンクリートの画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成されたものであり、生コンクリートの品質の予測は、予測対象の生コンクリートの画像データを含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルから、予測対象の生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力して、該予測用出力データを用いて行うものであり、学習用入力データに含まれる画像データ、及び、予測用入力データに含まれる画像データは、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものであり、予め定められた領域は、以下の(i)~(iii)の工程によって定められた領域であるものである。
(i) 予め定められた領域を選択するための領域選択用生コンクリートを用いて、ミキサ内を、水と水以外の領域選択用生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影して撮影画像を得る撮影工程
(ii) 撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する数値データ取得工程
(iii) 取得した色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる任意に定められた領域を、予め定められた領域として選択する領域選択工程
以下、詳しく説明する。
【0011】
予測モデルは、機械学習によって作成されたものである。
機械学習に用いられる学習方法は、特に限定されず、既知の方法を用いることができるが、予測精度の向上の観点からは、畳み込みニューラルネットワークが好ましい。畳み込みニューラルネットワークを用いた機械学習によれば、画像データから特徴量を検出し、該特徴量を用いて、分類または回帰を行うことが可能な予測モデルを作成することができ、予測精度をより向上できる。
【0012】
予測モデルは、生コンクリートの画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いた機械学習によって作成される。
学習用入力データとして用いられる生コンクリートの画像データは、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影した画像であって、予め定められた領域を切り取った画像に関するものである。
上記予め定められた領域は、以下の(i)~(iii)の工程によって定められる。
(i) 予め定められた領域を選択するための領域選択用生コンクリートを用いて、ミキサ内を、水と水以外の領域選択用生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影して撮影画像を得る撮影工程
(ii) 撮影画像の全領域の一部であって、任意に定められた領域を構成する画素の色に関する数値データを取得する数値データ取得工程
(iii) 取得した色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上となる任意に定められた領域を、予め定められた領域として選択する領域選択工程
【0013】
撮影工程で用いられる領域選択用生コンクリートとしては、特に限定されないが、予測対象の生コンクリート(予測の対象となる生コンクリート)と同じ種類の生コンクリートであることが好ましい。例えば、予測対象の生コンクリートが即時脱型コンクリートである場合、領域選択用生コンクリートとして即時脱型コンクリートを用いることが好ましい。また、領域選択用生コンクリートとしては、生コンクリートの種類に加え、生コンクリートを構成する材料の配合、及び該材料の保管状態、生コンクリートの製造条件等も、予測対象の生コンクリートと同じであることがより好ましい。
領域選択用生コンクリートは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、領域選択用生コンクリートは、学習データ(後述)を得るためのサンプルを兼ねていてもよい。
撮影によって得られた画像(撮影画像)は、ミキサ内において、水と水以外の領域選択用生コンクリートの材料を練り混ぜている状態が映り込んでいればよく、ミキサの外部が映り込んでいてもよい。
【0014】
得られる撮影画像は一枚であってもよく、二枚以上であってもよい。また、撮影画像は、同じ領域選択用生コンクリートから得られた画像でもよく、異なる領域選択用生コンクリートから得られたものであってもよい。中でも、より高い精度で生コンクリートの品質を予測する観点から、同じ領域選択用生コンクリートから得られた二枚以上の撮影画像が好ましく、同じ領域選択用生コンクリートを、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した二枚以上の撮影画像がより好ましい。
【0015】
数値データ取得工程において、任意に定められた領域(撮影画像の全領域(全範囲)から、適宜定められる一部の領域(特定の範囲):以下、「仮領域」ともいう。)の数は、1つでもよいが、一枚の撮影画像から複数の画像データを得ることで、データの個数を増加させ、より高い精度の予測モデルを作成する観点から、好ましくは2つ以上、より好ましくは4つ以上である。上記数は、撮影にかかる労力の軽減等の観点からは、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
仮領域として、複数の領域を定めた場合、上記標準偏差は、仮領域ごとに算出される。また、領域選択工程において、上記標準偏差が特定の数値以上である仮領域であれば、いずれを選択してもよいが、より高い精度で生コンクリートの品質を予測する観点から、上記標準偏差の数値が最も大きい仮領域を、予め定められた領域として選択することが好ましい。
また、領域決定工程において、予め定められた領域として、複数の仮領域を選択してもよい。この場合、通常、上記標準偏差の数値の大きい順に、仮領域を選択することが好ましい。
また、仮領域として、複数の領域を定める場合に、上記標準偏差が特定の数値以上である仮領域を基準として、縦方向及び横方向(上下の方向及び左右の方向)の少なくとも一つの方向に、1~10ピクセル単位でずらした領域を仮領域としてもよい。これらの領域は、上記標準偏差が特定の数値以上である可能性が高い領域である。
【0016】
仮領域の形状は、特に限定されず、ミキサの形状や種類に応じて適宜変形させてもよい。中でも、画像処理の容易性等の観点からは、上記形状を長方形にすることが好ましい、また、ミキサの形状等に応じて適切な仮領域を設定する観点から、例えば、円形、楕円形、半円形等の円弧形状を有する領域や三角形等の多角形状を有する領域を、仮領域の形状としてもよい。なお、本明細書中、長方形には正方形が含まれるものとする。
仮領域が長方形である場合の一辺の大きさは、撮影画像の解像度等によっても異なるが、好ましくは50~300ピクセル、より好ましくは80~250ピクセル、特に好ましくは100~200ピクセルである。上記一辺の大きさが50ピクセル以上であれば、仮領域の面積が大きくなり、より高い精度で生コンクリートの品質を予測することができる。上記一辺の大きさが300ピクセル以下であると、生コンクリートの材料以外の物(例えば、ミキサーアーム等の部材)が映り込む可能性がより少なくなる。生コンクリートの材料以外の物が仮領域に映り込んでいる場合、生コンクリートの品質を予測する精度が低下する。
【0017】
仮領域内において、生コンクリートの材料が占める割合(任意に定められた領域の全範囲中の生コンクリートの材料が映り込んでいる範囲の割合)は、より高い精度で生コンクリートの品質を予測する観点からは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは100%である。
【0018】
仮領域を構成する画素の色に関する数値データとしては、画素(ピクセル)に含まれる色情報であって、数値として表すことができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、輝度値、明度、及び色度(彩度)等が挙げられる。
中でも、一般的な画像ソフトを用いて容易に入手することができる観点から、輝度値が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
領域選択工程では、上記色に関する数値データの標準偏差の特定の値を閾値とし、上記色に関する数値データの標準偏差が特定の値以上である仮領域を、予め定められた領域として選択する。上記特定の値は、任意に定められる数値であり、色に関する数値データの種類、生コンクリートの配合、生コンクリートの製造条件、ミキサの種類、及び撮影環境(光源の有無)等によっても異なるが、好ましくは60.0以上、より好ましくは65.0以上、さらに好ましくは70.0以上、さらに好ましくは75.0以上、特に好ましくは80.0以上の数値である。上記標準偏差が60.0未満の領域は、生コンクリートの材料を練り混ぜる際に、撮影画像(経時的に連続する複数の静止画像、または、動画像)に映りこむ生コンクリートの材料の表面の動き(変化)が小さい範囲(材料の挙動が表れにくい範囲)であり、該領域を切り取った画像を、画像データとして用いた場合、生コンクリートの品質を高い精度で予測することができない。上記標準偏差は、実際に得られる標準偏差の数値を考慮すると、好ましくは98.0以下、より好ましくは95.0以下、特に好ましくは90.0以下である。
ここで、「特定の値以上」の語は、特定の値を基準にして、2つの区分に分けるために便宜上、用いたものであるので、本発明において、「特定の値を超える」の語に置き換えることができるものとする。
【0020】
また、より高い精度で生コンクリートの品質を予測する観点から、ミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で撮影した撮影画像として、複数の撮影画像(例えば、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の撮影画像)を用いてもよい。複数の撮影画像を用いる場合、一つの仮領域は、各撮影画像の同じ位置に定められ、各撮影画像の仮領域を構成する画素の色に関する数値データの全てを用いて上記標準偏差を算出すればよい。
【0021】
学習用入力データとして用いられる画像データの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは1,000以上、さらに好ましくは1万以上、特に好ましくは3万以上である。
画像データは、動画像のデータであっても静止画像のデータであってもよい。また、画像は2次元画像であってもよく3次元画像であってもよい。
画像データの撮影は、ミキサ内やミキサ周辺等に適宜設置されたカメラによって行われる。例えば、ミキサ内の上部に、練り混ぜられている各材料が良く映るように、カメラを設置する。
また、練り混ぜられている各材料の挙動がより大きく現れるようにする目的で、練り混ぜられている各材料の側面あるいは斜め上方からライト等の光源を用いて光を当てて、影がより濃く生じるようにしてもよい。この場合、光の照射条件を、学習用入力データの取得時と、予測対象の生コンクリートの予測用入力データの取得時で合せることで、予測精度をより向上させることができる。
【0022】
ミキサ内を撮影した画像は、畳み込みニューラルネットワークなどの機械学習により適した画像データにする観点から、1ピクセルを0から255の256階調の数値で表すグレースケール画像、または、1ピクセルをR(赤)G(緑)、B(青)をそれぞれ0から255の256階調の数値で表すカラー画像に変換してもよい。
また、練り混ぜられている各材料の挙動がより大きく現れるようにする目的で、画像ソフトを用いて、画像データの明るさやコントラストを調整してもよい。
【0023】
撮影された二つ以上の画像データから任意に選択された二つの画像データから得られる差分データを、学習用入力データとして用いられる画像データとして用いてもよい。例えば、ミキサ内の任意に定めた二か所の場所にミキサ羽根が位置した際に撮影された二つの画像データの差分データを、学習用入力データとして用いられる画像データとして用いてもよい。
なお、本明細書中、差分データとは、二つの画像データを比較して、異なる部分のみを抽出した画像データをいう。
【0024】
また、より高い精度で品質を予測する観点から、学習用入力データとして、さらに他のデータを用いてもよい。
他のデータとしては、生コンクリートの配合条件に関するデータ、目的とする生コンクリートの品質に関するデータ、セメントに関するデータ、セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ、練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、練り混ぜ時の環境に関するデータ、及びコンクリートの成型に関するデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
生コンクリートの配合条件に関するデータの例としては、生コンクリートに配合される、配合要素(材料等)の配合割合や配合量等が挙げられる。上記データは、配合条件を指標するデータであれば特に限定されず、これらの数値データでなくともよい。
配合要素の配合割合としては、例えば、セメント、細骨材、粗骨材、水、各種混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、凝結遅延剤等)、及び各種混和材等の配合割合(例えば、セメント100質量%に対する混和剤の量(質量%))等を用いることができる。また、配合量としては、示方配合表の項目である、水セメント比、空気量、細骨材率、単位水量、単位セメント量、単位細骨材量、単位粗骨材量、単位混和剤量、及び単位混和材量等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
目的とする生コンクリートの品質に関するデータの例としては、目的とする生コンクリートの物性値や作業者の五感による評価等が挙げられる。上記データは、品質を指標するデータであれば、特に限定されず、これらの数値データや評価値でなくともよい。例えば、目標とする生コンクリートの設計上の、充填率、触感評価、目視、嗅覚の情報、強度(呼び強度、圧縮強度、曲げ強度等)、スランプ、スランプフロー、空気量、塩化物含有量、ひび割れ抵抗性、動弾性係数、動せん断弾性係数、動ポアソン比、硬化体空隙量及び空隙径分布、耐久性、色調等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
セメントに関するデータの例としては、(1)生コンクリートの材料として用いられるセメントの、種類、化学組成、鉱物組成、湿式f.CaO、強熱減量、ブレーン比表面積、粒度分布、ふるい試験残分量、色調や、セメントに含まれる各鉱物の鉱物学的性質及び結晶学的性質や、セメントに含まれる石膏の半水化率等の、セメント全体に関するデータ、(2)セメントクリンカーの調合原料の、化学組成、水硬率、ふるい試験残分量、ブレーン比表面積(粉末度)、強熱減量、供給量、副原料(廃棄物のような特殊な原料)の供給量、ブレンディングサイロの貯留量(残量)、ストレージサイロの貯留量(残量)や、原料ミルと調合原料のブレンディングサイロの間に位置するサイクロンの電流値(サイクロンの回転数を表し、サイクロンを通過する原料の速度と相関関係があるもの)や、キルンへの投入時から所定の時間前の時点(例えば、5時間前の1つの時点や、3時間前、4時間前、5時間前、及び6時間前の4つの時点のような複数の時点)のセメントクリンカーの原料(搬送中に向流する空気流によって微粒分等が抜き取られたセメントクリンカーの調合原料。以後、セメントクリンカーの窯入原料と称す。)の化学組成及びその水硬率や、セメントクリンカーの窯入原料と副原料を混合してなる原料の化学組成、水硬率、ブレーン比表面積、ふるい試験残分量、脱炭酸率、及び水分量等の、セメントクリンカーの原料に関するデータ、(3)セメントクリンカーの焼成時における、セメントクリンカーの原料のキルンへの挿入量、キルン回転数、落口温度、焼成帯温度、セメントクリンカー温度、キルン平均トルク、O2濃度、NOX濃度や、クリンカークーラー温度、及び、プレヒーターのガスの流量(プレヒーターの温度と相関関係があるもの)等の、セメントクリンカーの焼成条件に関するデータ、(4)粉砕温度、仕上ミル内の散水量、セパレーター風量、石膏の種類、石膏の添加量、セメントクリンカーの投入量、仕上ミルの回転数、仕上ミルから排出される粉体の温度、仕上ミルから排出される粉体の量、仕上ミルから排出されない粉体の量等の、セメントの粉砕条件に関するデータ、(5)セメントクリンカーの、鉱物組成、化学組成、湿式f.CaO(フリーライム)、及び、容重や、セメントクリンカーに含まれる各鉱物の結晶学的性質(格子定数や結晶子径など)や、セメントクリンカーに含まれる2種以上の鉱物組成の比等の、セメントクリンカーに関するデータ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータの例としては、骨材(細骨材や粗骨材)の、種類、密度、吸水率、含水率、表面水率、粒度分布、最大寸法、及び、粒形や、混和剤の種類や、混和材の種類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
練り混ぜの手段及び方法に関するデータの例としては、ミキサの、種類、形式、容量や、材料の投入順序や、材料の練り混ぜ量や、練り混ぜ時間等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
練り混ぜ時の環境に関するデータの例としては、温度(外気温、ミキサ内の温度、生コンクリートの温度)や、練り混ぜ水、セメント、骨材等の使用材料の各温度や、保管する場所(容器内)の温度及び湿度等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
コンクリートの成型に関するデータの例としては、成型方法の種類(振動締固め、加圧締固め、振動・加圧締固め、遠心力締固め等)、成型時に使用する加圧振動機の圧力、振動数、養生方法の種類(蒸気養生、オートクレーブ養生等)、養生時の温度、湿度等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述の「セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ」、「練り混ぜの手段及び方法に関するデータ」、「練り混ぜ時の環境に関するデータ」、および「コンクリートの成型に関するデータ」としては、これらを指標するデータであれば、特に限定されず、数値データでなくてもよい。
【0029】
生コンクリートの品質に関するデータの例としては、ミキサによる練り混ぜ直後又はアジテータトラックを用いた運搬終了時点(荷卸時)における生コンクリートの、充填率、触感評価、塩化物イオン濃度、スランプ、スランプフロー、空気量、単位水量、温度、施工性(例えば、締固め性)、練り上がり時の色、練り上がり時の状態、生コンクリートを構成する各材料の分離状況、流動性、レオロジーに関する値(塑性粘度、降伏値など)、硬化後の強度(圧縮強度、曲げ強度、ヤング係数等)や耐久性(ひび割れ、剥離、収縮、凍結融解抵抗性、中性化など)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本発明における機械学習は、生コンクリートの画像データを含む学習用入力データと生コンクリートの品質に関する学習用出力データの組み合わせである学習データを複数用いて、機械学習の従来知られている一般的な方法に従って行われる。
なお、学習データとして用いられる学習用入力データ及び学習用出力データは、実際に学習データ用のサンプルとして、生コンクリートを製造した際に得られる画像や実測値等のデータである。
学習データ用のサンプルの数は、必要とされる学習用入力データ及び学習用出力データの種類によっても異なるが、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。
【0031】
また、一つのサンプルから得られる画像データの数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000枚以上、より好ましくは1,500枚以上、特に好ましくは2,000枚以上である。
学習回数は、より高い精度で品質を予測することができる観点から、好ましくは1,000回以上、より好ましくは8,000回以上、特に好ましくは1万回以上である。
一回の学習において、サンプルから得られた学習データの全てを使用する必要はなく、全ての学習データから選択された複数の学習データを使用してもよい。
一回の学習で使用される学習データの選択は、特に限定されるものではなく、特定の条件(例えば、撮影した順序)によって並べられた学習データを上から順番に選択してもよく、ランダムに選択してもよい。また、学習データ用のサンプルが複数ある場合には、各サンプルの学習データが少なくとも一つ入るように選択してもよい。
また、本明細書中、「機械学習」とは、人間による思考を介さずに、機械(特に、コンピュータ)のみによって学習するこという。
【0032】
また、学習データ(学習用入力データと学習用出力データの組み合わせ)の一部(例えば、全学習データのうち、15~25%の学習データ)については、機械学習において使用せず、機械学習によって作成された予測モデルの信頼性を確認するためのテストデータとして用いてもよい。具体的には、予測モデルを作成した後、該予測モデルに、テストデータから得られる予測用入力データを入力し、予測モデルから得られた予測用出力データ(予測値)と、テストデータから得られた実測値を比較することで、得られた予測モデルの信頼性を推し測ることができる。
通常、機械学習は、学習データとして使用されるデータの種類、学習データの個数、及び学習回数等を適宜変更しながら行われ、信頼性に優れた予測モデルが得られるまで行われる。
【0033】
機械学習によって作成された予測モデルに、生コンクリートの画像データを含む予測用入力データを入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、該予測用出力データを用いて生コンクリートの品質を予測することができる。
より高い精度で品質を予測することができる観点から、予測用入力データとして、さらに、練り混ぜ時におけるミキサの電力負荷値に関するデータ、生コンクリートの配合条件に関するデータ、目的とする生コンクリートの品質に関するデータ、セメントに関するデータ、セメント以外の生コンクリートの材料に関するデータ、練り混ぜの手段及び方法に関するデータ、練り混ぜ時の環境に関するデータ、コンクリートの成型に関するデータ、及び生コンクリートの運搬に関するデータ等を用いてもよい。これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのデータは、生コンクリートの製造において、リアルタイムに得られるデータである。
予測用入力データとして用いられる生コンクリートの画像データ等の詳細は、上述した学習用入力データとして用いられる生コンクリートの画像データ等と同じである。
また、生コンクリートの品質に関する予測用出力データの詳細は、上述した生コンクリートの品質に関する学習用出力データと同じである。
【0034】
本発明の生コンクリートの品質予測方法によれば、生コンクリートの製造において、予め作成した予測モデルに、製造中の生コンクリートの画像データ等を入力することで、得られる生コンクリートの品質(例えば、生コンクリートの充填率)を、人間の判断によらずに、高い精度で迅速に予測することができる。例えば、生コンクリート(例えば、即時脱型コンクリート)の充填率は、簡易に判断する等の観点から、人間による触感評価(充填率と相関関係が高いもの)を用いることで、間接的に判断がなされていたが、本発明によれば、熟練した作業者ではなくても生コンクリートの充填率を高い精度で予測することができる。なお、「生コンクリートの品質」には、生コンクリートが硬化してなる硬化体の品質が含まれるものとする。
【0035】
本発明において、予測の対象となる生コンクリートは特に限定されるものではないが、学習用入力データ及び予測用入力データとして用いられる画像データに材料の挙動が表れやすく、より高い精度で品質を予測することができる観点から、流動性の低い生コンクリート(具体的には、「JIS A 1101:2020(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して測定されるスランプ値が1.0cm以下であるコンクリートや、「JIS A 1150:2020(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠して測定されるスランプフロー値が1.0cm以下であるコンクリート)が好ましい。
このような流動性の低い生コンクリートとしては、即時脱型コンクリートが挙げられる。
流動性の低い生コンクリートは、一般的な流動性を有するコンクリートや高流動コンクリートと比較して、コンシステンシー等の物性に違いがある。特に、上記スランプ値が1.0cm以下、あるいは、上記スランプフロー値が1.0cm以下である生コンクリート(以下、「硬練りコンクリート」ともいう。)の場合には、上記コンシステンシーの違いに起因して、品質管理手法が異なる。
具体的には、硬練りコンクリートは、スランプ試験、スランプフロー試験ではなく、生コンクリート全体を加圧振動させるVC(バイブレーション・コンパクション)試験によって評価されている。これは、硬練りコンクリートは固すぎるため、スランプ試験やスランプフロー試験でのコンシステンシーの評価ができないためである。
【0036】
また、硬練りコンクリートは、凝集性が比較的大きく、一体的に練り混ぜられるため、練り混ぜ時(水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜる際)の挙動の変化が、目視又は撮影した画像のみからは明確に表れにくい。
本発明によれば、挙動が現れやすい領域を、色に関する数値データの標準偏差に基づいて、予め定められた領域として選択し、この領域を学習用入力データ、予測用入力データとすることで、硬練りコンクリートであっても精度よく推定することができる。
ここで、硬練りコンクリートを練り混ぜるためのミキサの構成は、特に限定されず、どのような構成のミキサでも、本発明は適用可能であるが、例えば、生コンクリートにせん断応力を与えるような羽根が備えられているものが挙げられる。
【0037】
品質の予測は、製造時に取得された複数の画像データ毎に行われるので、複数の画像データから、複数の出力データ(例えば、生コンクリートの充填率等の予測値)を得ることができる。
また、得られた複数の出力データから算出された予測値(数値で表されるもの)の平均値を、予測用出力データとしてもよい。
例えば、学習用入力データとして用いられる画像データが、生コンクリートの材料を練り混ぜるためのミキサ内を、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態で、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる、複数の画像データであり、上記複数の画像データの各々について、画像データを含む予測用入力データを、予測モデルに入力し、予測モデルから生コンクリートの品質に関する予測用出力データを出力した後、出力された複数の予測用出力データの移動平均値を用いて生コンクリートの品質を予測してもよい。
移動平均値は、連続的(経時的に)に撮影した複数の画像の各々から得られる、複数の画像データを用いて得られた、全ての予測用出力データの平均値であってもよく、連続的に撮影した複数の画像の各々から得られる、複数の画像データのうち、品質の予測を行う時から直近に得られた任意の数(例えば、5)の画像データを用いて得られた、複数(任意の数)の予測用出力データの平均値であってもよい。
【0038】
また、練り混ぜ中に、連続的に撮影することで得られた複数の画像データの各々について予測値を出力した場合等において、得られた複数の出力データ(例えば、スランプ等の予測値)のうち、明らかに他の出力データと異なる出力データが得られた場合、該データを予測用出力データから排除してもよい。
得られた出力データを、予測用出力データから排除する方法の例としては、データ集合の標準偏差σを算出し、そのデータ集合の平均値から±σまたは±2σである数値範囲から外れる出力データを、明らかに他の出力データと異なる出力データと判断して、排除する方法等が挙げられる。
得られる生コンクリートの品質が、目的とする生コンクリートの品質を満たさないと予測される場合には、生コンクリートの製造条件を変える等の対応を適宜行うことによって、効率的かつ安定的に生コンクリートを製造することができる。
【0039】
例えば、予測モデルから得られたスランプの予測値が、目標とするスランプの数値(以下、「目標値」ともいう。)と大きく異なる場合には、生コンクリートの材料として使用した、セメント、骨材、混和剤等の品質の異常や、これらの材料の計量値が誤っていた可能性が考えられるため、直ちに製造工程を見直す必要がある。また、骨材の表面水の設定値が実際の値と異なることも想定され、ミキサから排出される前に補正値を算出し、補正値に基いて適切な量の追加の水をミキサ内に注水することもできる。
また、定期的にスランプの予測を行い、得られたスランプの予測値が、目標値と少しずつずれていく場合には、骨材の表面水率の変動が考えられるため、表面水の設定値を見直す等の対応を行えばよい。
【0040】
また、生コンクリートの製造を制御するコンピュータと、本発明の生コンクリートの品質予測方法を実施するために用いられるコンピュータを接続することによって、制御システムの自動化を図ることができる。例えば、スランプの予測値と目標値の差の変動から、表面水の設定を自動制御で行う方法が挙げられる。
さらに、複数の工場における生コンクリートの製造における各種データを、インターネットを経由して送信し、一か所において本発明の生コンクリートの品質予測方法を用いてリアルタイムで集中的に管理、制御してもよい。
また、実際の生コンクリート工場において生コンクリートを製造する際に、本発明の品質予測方法を用いて生コンクリートの品質を予測する場合、リアルタイムの画像を用いて予測してもよい。具体的な予測方法としては、カメラとコンピュータを接続し、生コンクリート製造中の練り混ぜ画像をリアルタイムで抽出しながら、予め作成した学習モデルを組み込んだコンピュータでリアルタイムに予測する方法等が挙げられる。
また、実際の生コンクリート工場において生コンクリートを製造する際に得られた、生コンクリートの練り混ぜ画像を学習用入力データとし、練り混ぜ後に測定したスランプ等を学習用出力データとし、上記学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データを用いて、予め作成した学習モデルを、随時、再学習させて、最新の学習モデルを得ることによって、予測値の精度をより高めることができる。
【0041】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
[生コンクリートA-1~A-6、B-1~B-6、C-1~C-6の作製]
セメント、細骨材(山砂)、粗骨材A(砕石5号)、粗骨材B(砕石6号)を二軸ミキサに投入して、空練りした後、水を投入して練り混ぜて、生コンクリートA-1、B-1、及びC-1を作製した。生コンクリートA-1~C-1の配合は、各生コンクリートの水セメント比、及び、単位容積質量が表1に示す数値であり、かつ、 調合管理強度(Fm) 、及び、曲げ強度が表1に示す数値となるような配合に定めた。
また、生コンクリートA-1を基準の配合と定め、練り混ぜ後の生コンクリートを用いたインターロッキングブロックの成型が不可能となるまで、上記配合から水の配合のみを段階的に増減させた生コンクリートA-2~A-4(水の配合を3段階に減らしたもの)、A-5~A-6(水の配合を2段階に減らしたもの)を作製した。
また、生コンクリートB-1及びC-1も基準の配合に定め、コンクリートA-1と同様に基準の配合に基いて、生コンクリートB-2~B-6、及び、C-2~C-6を作製した。
なお、生コンクリートA-1~A-6、B-1~B-6、C-1~C-6は、即時脱型コンクリートであり、「JIS A 1101:2020(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して測定されるスランプ値が0cmであり、かつ、「JIS A 1150:2020(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠して測定されるスランプフロー値が0cmであるものであった。
【0042】
【0043】
ミキサの上方に解像度が720×1,280ピクセルであるデジタルビデオカメラを設置し、ハロゲンライトを用いて、ミキサ内に光を照射しながら、上記生コンクリートの作製を行った。
ミキサ内の撮影は、ミキサ内で水以外の材料を空練りした後、水を添加して練り混ぜを開始し、30秒間経過した後、水と水以外の生コンクリートの材料を練り混ぜている状態の動画像として行った。
生コンクリートA-1を領域選択用生コンクリートとし、該生コンクリートを作製する際に撮影された撮影画像を
図1に示す。該撮影画像の全領域(全ての範囲)の一部であって、ミキサ内の水と水以外の生コンクリートの材料のみが映し出されている112×112ピクセルの領域A及び領域Bを定めた。
次いで、領域A及び領域Bを構成する画素(112×112=12,544個)各々の輝度値(0~255段階)を、色に関する数値データとして取得した。領域Aから得られた輝度地の数値データの標準偏差は、48.0%であり、領域Bの数値データの標準偏差は81.0%であった。標準偏差が80.0%以上である領域Bを、撮影画像から、学習用入力データ及び予測用入力データとして用いられる画像データを切り取る領域(予め定められた領域)として選択した。
また、領域Bから、領域Bと同じ大きさ(112×112ピクセル)の領域を縦横10ピクセルずつ移動した4つの領域についても、該領域を構成する画素各々の輝度値を取得し、領域の数値データの標準偏差を算出したところ、いずれも80.0%以上であった。これらの領域も、上記画像データを切り取る領域(合計5つ)として選択した。
【0044】
学習データ用のサンプルとして、生コンクリートA-1~A-6、B-1~B-6、C-1~C-6を使用した。
各サンプルについて、混練が終了する直前の15秒間に撮影された550画像から、上記選択した5つの領域の画像を切り出して、2,750個の画像データを得た。
得られた合計49,500個の画像データのうち、33,750個の画像データを、学習用入力データとして用いた。なお、残り15,750個の画像データは、検証用の画像データとして用いた。
【0045】
また、各サンプルの充填率を測定し、得られた充填率の実測値を、生コンクリートの品質に関する学習用出力データとした。
充填率は、作製された生コンクリートを用いて、「JIS A 5371:2016(プレキャスト無筋コンクリート製品)の附属書Bに準拠してインターロッキングブロック(100×200×800mm)を、高振動加圧即時脱型方式で作製した後、以下の式に基いて算出した。
(成形後の単位容積質量)/(示方配合から求められる単位容積量)×100%
上記学習用入力データと上記学習用出力データの組み合わせからなる学習データを使用して、予測モデルの機械学習を行い、学習済みの予測モデルを得た。
機械学習には、「TensorFlow」を使用し、5層の畳み込みニューラルネットワークを用いて学習を行った。なお、畳み込み層とプーリング層は、「畳み込み層とプーリング層の組み合わせ」を1層として数えるものとする。
学習回数は1万回とし、一回の学習で入力される画像データ(学習用入力データ)の数は、50個(ランダムに選択されたもの)とした。
【0046】
検証用の15,750個の画像データを予測用入力データとして、上記学習済みの予測モデルに入力し、予測モデルから、生コンクリートの品質に関する予測用出力データとして、生コンクリートの充填率を出力した。
検証用の画像データから得られた15,750個の予測用出力データの、各許容範囲における正解率(予測された充填率のうち、充填率の予測値が、充填率の実測値の許容範囲内の数値であるもの)を算出した。結果を表2に示す。
なお、表2において、例えば、正解率の「±0.4%」の欄は、充填率の実測値の数値±0.4%となる数値範囲を許容範囲に定め、充填率の予測値が、実測値の±0.4%となる数値範囲内の数値である場合を正解とした場合の正解率を示す。表2の「±0.6%」、「±0.8%」、「±1.0%」、及び「±1.2%」も、数値が異なる以外は、上記「±0.4%」と同様である。
【0047】
[比較例1]
上記領域Aを、撮影画像から、学習用入力データ及び予測用入力データとして用いられる画像データを切り取る領域(予め定められた領域)として選択する以外は実施例1と同様にして、検証用の画像データから得られた15,750個の予測用出力データの、各許容範囲における正解率を算出した。結果を表2に示す。
【0048】
【0049】
表2から、画像データとして領域Bを切り取った画像を用いた実施例1の正解率は、画像データとして領域Aを切り取った画像を用いた比較例1の正解率よりも大きく、本発明によれば、より高い精度で、生コンクリートの品質を測定できることがわかる。