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特開2024-80793温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法
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  • 特開-温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法 図1
  • 特開-温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080793
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194025
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000152321
【氏名又は名称】株式会社日さく
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸井 敦尚
(72)【発明者】
【氏名】若林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直人
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA05
2D043AA07
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】温泉噴出量が減少する大きな原因の一つである温泉の枯渇をはじめとして、深部地下水の枯渇可能性と枯渇までの期間を推定し、その継続的な利用の可能性を評価することができる新規な方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、採取している地下水体における深部地下水の地下水年代を推定し、深部地下水が化石水であるか流動系の地下水であるかを判別する工程、地下水体へ鉛直浸透する新規降水の混入について、鉛直浸透速度を求め、深部地下水の採取後に地下水体への新規混入水の混入があるか否かを判別する工程、深部地下水が化石水であり、かつ地下水体への新規混入水の混入ない場合には、深部地下水が滞留している堆積層の3次元的な体積と平均的な有効間隙率から深部地下水の総量を推定する工程、深部地下水の総量と単位時間当たりの採取量から、深部地下水の継続的な利用時間を推定する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取している地下水体における深部地下水の地下水年代を推定し、前記深部地下水が化石水であるか流動系の地下水であるかを判別する工程、
前記地下水体へ鉛直浸透する新規降水の混入について、鉛直浸透速度を求め、前記深部地下水の採取後に前記地下水体への新規混入水の混入があるか否かを判別する工程、
前記深部地下水が化石水であり、かつ前記地下水体への新規混入水の混入ない場合には、前記深部地下水が滞留している堆積層の3次元的な体積と平均的な有効間隙率から前記深部地下水の総量を推定する工程、及び
前記深部地下水の総量と単位時間当たりの採取量から、前記深部地下水の継続的な利用時間を推定する工程
を含む、深部地下水の継続利用の可能性評価方法。
【請求項2】
前記深部地下水に溶解している放射性物質の濃度を測定し、その半減期に基づいて前記地下水年代を推定する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な温泉においては、噴出量が減るなどの影響で営業に支障が出ることがある。この原因として、施設の老朽化や温泉井戸の目詰まりが挙げられるほか、地下深部の温泉水(深部地下水)の枯渇が大きな問題となる。
【0003】
温泉噴出量の減少には、大きくこの二つの問題があるが、施設の老朽化や温泉井戸の目詰まりに関しては、ボアホールカメラ等で確認することができ、その解消方法も既に確立されている。
【0004】
しかしながら、地下深部の温泉水(深部地下水)の枯渇に関しては、これまでに解消する方法がなく、問題視されてきたが未解決であった。従来、深部地下水の状況を探索すべく多くの研究がなされ、地下水の賦存に関連する堆積物や、地下水の年代測定などについて報告されており、基盤データや技術が蓄積されている(非特許文献1~4)。また水文環境図は、地域の地下水や地中熱などの地下水資源の有効利用と、地下水の環境保護を目的として作成されたもので、地形、地質、地下水位、水質、同位体組成、地下温度などが階層化されて収録され、電子媒体で出版されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】丸井敦尚(2017)地下水調査法(その1)地下水学の必要性と基礎知識~水科学の歴史から~、地下水技術、58-3.4、29-38p
【非特許文献2】丸井敦尚・安原正也・林武司・樋口宏之(2001)東京湾岸に深層地下水、日本水文科学会誌、31-3、1-9p
【非特許文献3】越谷賢・丸井敦尚(2012)日本列島における地下水賦存量の試算に用いた堆積物の地質境界面と層厚の三次元モデル、地質調査総合センター研究資料集、no.564
【非特許文献4】長谷川琢磨・中田弘太郎・近藤浩文・五嶋慶一郎・村元茂則・富岡祐一・後藤和幸・柏谷公希(2013)沿岸域における地下水流動性の年代測定による評価、地学雑誌、122-1、116-138p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの研究や基盤データによっても深部地下水の状況を完全に予測、把握することはできず、これらの研究や基盤データの活用も視野に入れつつ精度良く深部地下水の状況、特に温泉水の枯渇可能性を予測する手段が望まれていた。
【0007】
温泉など深部地下水の継続的な利用可能性が評価されれば、将来的な温泉枯渇に備えて、新規温泉井の掘削などの営業継続手段が講じられる。また、地下水の熱利用や廃棄物処分などの深部地下水の利活用に対しても大きな情報を提言できる。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、温泉噴出量が減少する大きな原因の一つである温泉の枯渇をはじめとして、深部地下水の枯渇可能性と枯渇までの期間を推定し、その継続的な利用の可能性を評価することができる新規な方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、温泉水などの化学分析方法や地下水流動解析手法を駆使した深部地下水に係る継続利用の可能性評価方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の深部地下水の継続利用の可能性評価方法は、以下の工程(A)から(D)を含むことを特徴としている。
(A)採取している地下水体における深部地下水の地下水年代を推定し、前記深部地下水が化石水であるか流動系の地下水であるかを判別する工程、
(B)前記地下水体へ鉛直浸透する新規降水の混入について、鉛直浸透速度を求め、前記深部地下水の採取後に前記地下水体への新規混入水の混入があるか否かを判別する工程、
(C)前記深部地下水が化石水であり、かつ前記地下水体への新規混入水の混入ない場合には、前記深部地下水が滞留している堆積層の3次元的な体積と平均的な有効間隙率から前記深部地下水の総量を推定する工程、及び
(D)前記深部地下水の総量と単位時間当たりの採取量から、前記深部地下水の継続的な利用時間を推定する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温泉など深部地下水の継続的な利用可能性を評価することができ、将来的な温泉枯渇に備えて、新規温泉井の掘削などの営業継続手段が講じられる。また、本発明は地下水の熱利用や廃棄物処分などの深部地下水の利活用に対しても大きな情報を提言できる。
この手法を用いることで、同位体分析のような化学分析方法と図学的な手法のような地下水流動解析手法により簡便に温泉水などの深部地下水に係る継続利用の可能性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】温泉水など深部化石地下水が降水を起源とする地下水の深部浸透で涵養されている場合の概略図である。
図2】温泉胚胎層へ新規水が混入するまでの推定時間を求める例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
図1は、温泉水など深部化石地下水が降水を起源とする地下水の深部浸透で涵養されている場合の概略図であり、水の大循環を示している。
【0013】
地下水は、地球上の水の大循環の一部として存在しており、山から海に向かって流動している。一般的に、表層から降水がしみ込んで、地下に滞留する水が形成されるが、その下位には遠くの山々など標高な所から流動してくる地下水が通過する。水の大循環は、地球上において太陽エネルギーと重力を主たる原動力として起こり、海洋における蒸発、大気圏を通じた陸域への輸送、降水、表流水・地下水形成、海洋への流出の一連のプロセスを経る。一般に、降水、湖沼水・河川水、貯水池・浸透ますなどの水が地下へ浸透すること、すなわち地下水となることを涵養といい、降水や地表水が地下に浸透して地下水流動系に付加される作用を地下水涵養という。一般には、降水による涵養がその大半を占めるが、河川水・湖沼水の浸透、水田からの浸透、人工涵かん養施設(浸透ます、涵かん養池、還元井など)からの浸透、上下水道の漏水なども含まれる。
【0014】
これらの地下水は、通常完全に混合することは少なく、塊状になって地形に沿って流下している。これらを、自由地下水(不圧地下水)や被圧地下水と称し、水源(地下水資源)として利用される。
さらに、その下位には、流動性の低い停滞した地下水があり、一般的には第三紀層など、より緻密な地層内に存在することが多い。また、ごく深部には、温泉水や化石水など様々な特性を持つ地下水が存在している。化石水は地下水流動に関与していない地下水、塩分濃度が海水と同程度以上の地下水である化石海水などがある。深部地下水とは通常(農業用や雑用水)の利用範囲を超える水のことをいう。
【0015】
温泉など深部地下水の起源には大きく三つの要素がある。一つは火山地域などで処女水と呼ばれる深部流体から供給された水、二つ目は地層が形成されるときに取り込まれた地層水と呼ばれる化石地下水であり、三つ目は降水を起源として地表から浸透して地熱で高温化した地下水である(非特許文献1)。
【0016】
雨水などが地下に浸透して地下水になるが、その滞留年数は非常に異なる。例えば、浸透性の大きい火山斜面では、数年以内で平野部まで流動して、大部分が地表に湧出するので、地下水の滞留時間は僅か数年と極めて短くなっており、一方、平野部の海岸デルタ地帯の地下深層水は、殆ど帯水層の中に閉じ込められ、数千年~数万年というものが多くなっている。
【0017】
陸域の地下水流動は、地質構造に大きく左右されると考えられている。しかし、地下水流動の末端に当たる沿岸部の地下水、特に深層の地下水は、複雑な賦存状態を呈している。これは、沿岸体積平野の地質が、深海性の体積物の上位に浅海性の堆積物、沖積層を持つものが一般的であり、かつては塩水で満たされていたこと、氷期を経して大きな海水準変動の影響を受けたため、塩水層と淡水層が重なっていることが多いことが原因である。すなわち、流動性の高い淡水地下水帯の下位に、現海水が侵入した塩水帯や非流動性の淡水地下水帯、化石塩水帯等が層状に賦存しているのが一般的である。
【0018】
工程(A)
本実施形態における深部地下水の継続利用の可能性評価方法において、工程(A)では、採取している地下水体における深部地下水の地下水年代を推定し、深部地下水が化石水であるか流動系の地下水であるかを判別する。
【0019】
地下水年代は、雨、雪などの降水が地下に浸透し、地下水になってからの時間であり、滞留時間とも呼ばれる。地下水は、降水が地下に浸透して造られる。その過程で浸透してきた降水が地下水面に到達して、大気との接触を遮断されてからの経過時間である。
【0020】
従来、地下水年代調査が行われている。地下水年代の測定方法には、大気起源で地下水に、あるいは地殻起源で地下水に含まれる放射能の壊変速度、蓄積速度ならびに非平衡を活用する方法や、地下水中での化学物質の分解・変化速度を活用する方法や、古気候あるいは、すでに年代決定がなされている地質学的イベントとの関係を活用する方法などが知られている、例えば、地下水に溶解している放射性物質の濃度変化に着目する方法(3H、14C、36Clなど)、地下水中に蓄積する物質の濃度変化に着目する方法(4He、Arなど)、人為的な影響・古気候などによる地下水中の濃度変化に着目する方法(フロンガス、水同位体など)が知られている。
【0021】
これらのうちで、最も直接的な方法は、地下水中の放射能を活用するものである。放射能を用いた地下水年代決定法の基本は、放射能が一定時間を経過することに元の量の半分に減衰する(λ:壊変定数,t:経過時間)という放射性核種の放射壊変を活用することにある。地下水中の初期濃度C0が何らかの方法によって決定することが可能な場合において、周辺岩盤からの核種の供給がなく、地下水系が閉じた系の場合に、地下水の流れが単一流路を混合のない分散・拡散を伴わないピストン流で流れていると仮定すると、Tは地下水年代、C0は初期の放射能(T=0)、Cは時間Tでの放射能、λは放射性核種の壊変定数として、次式から地下水年代Tを推定できる。
C=C0-λT
【0022】
すなわち、深部地下水に溶解している放射性物質の濃度を測定し、その半減期に基づいて地下水年代を推定することができる。
地下水年代測定に活用される代表的な放射性核種(同位体)とその半減期、測定の信頼範囲を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
とりわけ14Cの半減期は5730年であり(表1、非特許文献4)、14Cの放射壊変の速度から、これを用いて効率的に温泉深度にある地下水体の滞留時間を判断することができる。土壌中のCO2は、根の呼吸や土壌有機物の分解などの生物活動に由来し、植物が大気から摂取した14Cを含んでいる。この生物起源の14CO2が地表からの浸透水に溶解し、地下水に供給されて炭素循環がなされている。地下で14Cが生成されず、新たな供給がなければ5730年の半減期でβ崩壊しながら減少する。地下水に溶存する14C濃度より地下水の年代が決定でき、多くの研究が報告されている。
【0025】
温泉が枯渇する可能性がある条件としては、その温泉水は一定の滞留水ゾーンに貯まっていて、その地下水体に新規地下水の混入がなく、しかも一定の容量に限られる場合が挙げられる。
わが国の場合、地表面付近の平均気温は(地方や標高によるが)、おおむね摂氏10度から20度であり、100m当たりの地温勾配が2~3度程度であることから、温泉深度は数百mから2千m程度であり、その水温は摂氏30度から70度程度であることが多い(温泉法によれば摂氏25度以上の水温が必要)。
また非特許文献2によれば、その滞留時間の代表的な値は数千年から数万年に及ぶことも知られている。
【0026】
地下水年代測定により、地下水の流れが十分に遅いか否かを示すことができる。測定された地下水年代が、採取を見込む期間に比べて著しく長い時間スケールでであれば、地下水は堆積時からほとんど動いておらず、一定の滞留水ゾーンに貯まっていると推定される。すなわち堆積時に取り込まれた化石水が残留していると推定される。地下水年代が若ければ、地下水が流れている可能性を示唆することができる。すなわち、対象となる地下水体が化石水によって構成されるか流動系の地下水かが判別できる。
【0027】
工程(B)
本実施形態における深部地下水の継続利用の可能性評価方法において、工程(B)では、地下水体へ鉛直浸透する新規降水の混入について、鉛直浸透速度を求め、深部地下水の採取後に地下水体への新規混入水の混入があるか否かを判別する。
【0028】
地下水体に新規降水が混入するまでには図1のように複数の帯水層や難透水層を超えて深部浸透しなければならない。帯水層は、透水性と貯留性が比較的良い地層であり、井戸での取水や湧水として連続して地下水を供給し得る地層であり、代表的な地層として砂礫層、砂層がある。一般に帯水層は自由地下水面をもつ不圧帯水層と上下を加圧層、つまり帯水層の上部又は下部に位置する、それに比べて著しく透水性が低い地層に挟まれた被圧帯水層とに分けられる。難透水層は、粘土やシルトなどの粒径の小さなものからなり、透水性が非常に小さく、地下水を通しにくいか、又は通さない地層であり、難透水層と非透水層に区分される場合がある。代表的な地層として粘土層がある。
【0029】
本邦における堆積岩地域の地層をおおむね水平堆積と考えて(堆積岩地域は隆起して形成されているため)、大型帯水層の流動の異方性を考慮すれば、水平移動については鉛直移動の流速をはるかに超えた素早い流れとなるため、新規降水の混入については鉛直浸透を考慮すればよいことになる。
【0030】
重力の作用によって下方へ輸送され地下水を涵養する成分となる地盤や土構造物の透水係数は、一般的に不均質であり透水係数が方向によって変化する異方性を持つ。透水係数は水平の方が鉛直のものより大きい。層状地盤の層に平行及び垂直な方向の等価透水係数を求めることができる。
【0031】
透水係数は、水で飽和した土や岩石の透水性(水の通しやすさ)を表す値であり、多孔質媒体の透水性を扱う場合に広く用いられている。粘性土は10-7~10-9cm/secで実質上不透水、微細砂、シルト砂-シルト-粘度混合土は10-3~10-7cm/secで透水性が非常に低く、砂及び瓦礫は100~10-3cm/secで中位、清浄な瓦礫は102~100と高い。透水係数×動水勾配で地下水の見かけの流速が求まる。
【0032】
地下水の見かけの流速は、多孔質媒体中の流動における流量を通過断面積で除して表わした断面平均流速をいう。地下水では、一般的に流速とは見かけの流速のことを指す。多孔質材料中の水の流れを表現する経験式で、地下流体を扱う分野で広く利用されている基本則としてダルシーの法則が知られている。例えば、砂カラム中を通過する水の流量Qは、入口と出口の水頭差をΔh、試料の長さをL、断面積をAとしたとき、Q=KAΔh/Lの関係となる。Kは比例定数で透水係数と呼ばれる。
【0033】
非特許文献3など従来の研究や基盤データにより、日本列島の堆積岩地域の堆積層分布が分かる。このことから、堆積層の物性を考慮して各層の透水係数を推定し、鉛直浸透速度を求めることができる。
【0034】
図2は、温泉胚胎層へ新規水が混入するまでの推定時間を求める例を説明するための図である。帯水層A1~A3、難透水層C1~C3、その直下に温泉胚胎層がある場合を考える。浸透時間は各層の透水係数で決まる。動水勾配を1とし、層厚の最薄値をH、各層の透水係数をkとすると、ΣH/kで浸透に要する時間が推定できる。温泉胚胎層の大きさは、堆積層データベースから推定し、砂泥比により間隙率を推定する。涵養に要する時間は概ね難透水層を通過する時間で決まる。
【0035】
このようにして、地下水体へ鉛直浸透する新規降水の混入について、鉛直浸透速度を求め、深部地下水の採取後に地下水体への新規混入水の混入があるか否かを判別することができる。例えば、鉛直浸透速度が著しく遅いため地下水体への新規混入水の混入が全くないと見込まれる場合や、化石水の単位時間当たりの採取量に比べて鉛直浸透速度から見積もられる地下水体への新規混入水の混入量が著しく少ない場合が該当する。
【0036】
工程(C)
本実施形態における深部地下水の継続利用の可能性評価方法において、工程(C)では、深部地下水が化石水であり、かつ地下水体への新規混入水の混入ない場合には、深部地下水が滞留している堆積層の3次元的な体積と平均的な有効間隙率から深部地下水の総量を推定する。
【0037】
温泉水が滞留している堆積層は非特許文献3のとおり限りある大きさのものである。温泉水などの深部地下水が滞留している堆積層の3次元的な体積は、非特許文献3など従来の研究や基盤データに基づいて推定できる。
【0038】
岩石などの多孔質体の間隙率は、多孔質体中の固体以外の部分である間隙(あるいは空隙、孔隙)から、間隙部分の体積の全体積(間隙部分の体積+固体部分の実体積)に対する割合で表わされる。例えば、地質調査や温泉などの地下水掘り揚げに用いられる方法で地層を掘削して堆積層の試料を採取することで、また必要に応じて従来の研究や基盤データを活用し、堆積層の平均的な有効間隙率を得ることができる。例えば、砂泥比により間隙率を推定することもできる。
【0039】
地下水体の堆積層における固体部分の間隙に水が満たされていると仮定すれば、その3次元的な体積と平均的な有効間隙率から対象となる温泉水などの深部地下水の総量が推定できる。地下水盆単位や帯水層単位などで推定される地下水の存在量を地下水賦存量といい、対象地域の地下水位分布、帯水層の形状から推定される容積および間隙率などの情報から見積もることが知られている。
【0040】
工程(D)
本実施形態における深部地下水の継続利用の可能性評価方法において、工程(D)では、深部地下水の総量と単位時間当たりの採取量から、深部地下水の継続的な利用時間を推定する。
【0041】
深部地下水が化石水である場合、岩石の隙間部分である間隙には、飽和状態では水が含まれ、不飽和状態では他に気体(一般に空気)が含まれる。温泉や地熱利用などによって化石水を採取する場合、その採取後に鉛直浸透による地下水体への新規混入水の混入がなければ、採取した分だけ地下水賦存量が減少し、採取した化石水の量が深部地下水の総量に達すれば枯渇すると推定される。従って、化石水の採取量を年間や月間などで平均し単位時間当たりの採取量を求め、化石水が滞留している堆積層の3次元的な体積と平均的な有効間隙率から推定した化石水の総量を単位時間当たりの採取量で除することによって、深部地下水の継続的な利用時間を推定できる。これにより、温泉営業などにおいて営業日数や営業時の採取量から単位時間の使用量が分かっていれば、新規混入水がない場合の継続的な利用時間が推定できる。
【実施例0042】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
参考事例として示すのは、北海道北西部のT温泉である。
温泉深度が1,200m程度であることから、この温泉は下部新第3紀層内の地下水を採取していると推定され、その層厚は平均して300m程度であり、150km2の広がりを持って堆積している。平均的な間隙率を8%として、滞留している温泉水は、3,600,000m3となる。
【0044】
鉛直方向の透水係数の積算値から、動水勾配を最大に見積もり鉛直浸透時間を推定すると(平均的な透水係数が1×10-5cm/secであることから)、降水が温泉滞留層に達するまでに15万年かかることになる。
【0045】
ここでの地下水年代は3万年程度と推定されていることから、新規水の涵養は見込まれず、日量100トン程度の利用があれば、100年で枯渇することになる。実際には日量数千トンの利用があり、創業から70年程度経過しているため、近い将来対策を講じる必要がある。
図1
図2