(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080798
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】金属ベース回路基板及びパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H05K 1/05 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
H05K1/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194031
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 克美
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 知典
【テーマコード(参考)】
5E315
【Fターム(参考)】
5E315AA03
5E315BB03
5E315BB04
5E315BB05
5E315BB14
5E315BB15
5E315BB16
5E315DD13
5E315DD16
5E315GG05
5E315GG13
(57)【要約】
【課題】縁層と回路パターンとの密着耐熱性に優れる金属ベース回路基板、及びこの金属ベース回路基板を備えるパワーモジュールを提供する。
【解決手段】金属ベース回路基板は、樹脂を含む絶縁層と、前記絶縁層上に直接接して設けられ、金属で構成される回路形成用層又は回路パターンと、を有し、前記絶縁層は、2つのガラス転移温度Tg
1(℃)及びTg
2(℃)を有し、且つ式:14≧(α
Tg1+α
Tg2)
0.5/10
3×(300-25)×(E
Tg1+E
Tg2)
2/(Tg
2-Tg
1)
2を満たす。α
Tg1(/℃)は、低温側Tg
1での絶縁層の線膨張係数であり、α
Tg2(/℃)は、高温側Tg
2での絶縁層の線膨張係数であり、E
Tg1(MPa)は低温側Tg
1での絶縁層の貯蔵弾性率であり、E
Tg2(MPa)は高温側Tg
2での絶縁層の貯蔵弾性率である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられ、金属で構成される回路形成用層又は回路パターンと、
を有し、
前記絶縁層は、2つのガラス転移温度Tg1(℃)及びTg2(℃)を有し、且つ式:14≧(αTg1+αTg2)0.5/103×(300-25)×(ETg1+ETg2)2/(Tg2-Tg1)2を満たす、金属ベース回路基板。
[αTg1(/℃)は、低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数であり、αTg2(/℃)は、高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数であり、ETg1(MPa)は低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率であり、ETg2(MPa)は高温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率である。]
【請求項2】
前記金属が銅である、請求項1に記載の金属ベース回路基板。
【請求項3】
前記絶縁層と前記回路パターンとを有する請求項1又は2に記載の金属ベース回路基板と、
前記回路パターン上に設けられるパワーデバイスと、
を備えるパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ベース回路基板及びパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクス技術の発達は目覚しく、電気電子機器の高性能化及び小型化は急速に進行している。これに伴い、電気素子、電子素子等を実装した部品の発熱量は益々大きくなっている。このような背景のもと、電気素子、電子素子等を実装する金属ベース回路基板には、充分な放熱性及び耐熱性が求められている。特に、発熱量の大きいパワーデバイスを搭載する場合には、より高い放熱性及び耐熱性が求められている。
【0003】
金属ベース回路基板は、基本的に、金属基板上に絶縁層と回路パターンとがこの順に積層された構造を有している。絶縁層としては、セラミックス、無機粉体等を含有する樹脂絶縁層、ガラス繊維を含有する樹脂絶縁層、および耐熱性樹脂絶縁層などが使用されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-254919号公報
【特許文献2】特開2003-23223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、従前は絶縁層等の各部材の放熱性及び耐熱性を高めることで、金属ベース回路基板の全体としての放熱性及び耐熱性の向上を図っていたが、このような改良だけでは耐熱性が充分ではないことが明らかとなった。さらなる検討により、金属ベース回路基板の放熱性及び耐熱性の向上には、高温時における絶縁層と回路パターンとの密着耐熱性の向上が重要であることが見出された。
【0006】
本開示はこのような状況に鑑みなされたものであって、絶縁層と回路パターンとの密着耐熱性に優れる金属ベース回路基板、及びこの金属ベース回路基板を備えるパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。
<1> 樹脂を含む絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられ、金属で構成される回路形成用層又は回路パターンと、
を有し、
前記絶縁層は、2つのガラス転移温度Tg1(℃)及びTg2(℃)を有し、且つ式:14≧(αTg1+αTg2)0.5/103×(300-25)×(ETg1+ETg2)2/(Tg2-Tg1)2を満たす、金属ベース回路基板。
[αTg1(/℃)は、低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数であり、αTg2(/℃)は、高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数であり、ETg1(MPa)は低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率であり、ETg2(MPa)は高温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率である。]
<2> 前記金属が銅である、<1>に記載の金属ベース回路基板。
<3> 前記絶縁層と前記回路パターンとを有する<1>又は<2>に記載の金属ベース回路基板と、
前記回路パターン上に設けられるパワーデバイスと、
を備えるパワーモジュール。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、絶縁層と回路パターンとの密着耐熱性に優れる金属ベース回路基板、及びこの金属ベース回路基板を備えるパワーモジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様における金属ベース回路基板を概略的に示す断面図である。
【
図2】本開示の他の態様における金属ベース回路基板を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示の実施形態は以下の実施形態に限定されるものではない。
本開示における実施形態について図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。また、各図面において、実質的に同じ機能を有する部材には、全図面同じ符号を付与し、重複する説明は省略する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0011】
<金属ベース回路基板>
本開示の金属ベース回路基板は、樹脂を含む絶縁層と、前記絶縁層上に設けられ、金属で構成される回路形成用層又は回路パターンと、を有し、前記絶縁層は、2つのガラス転移温度Tg1(℃)及びTg2(℃)を有し、且つ下記式を満たす。
【0012】
14≧(αTg1+αTg2)0.5/103×(300-25)×(ETg1+ETg2)2/(Tg2-Tg1)2
【0013】
αTg1(/℃)は、低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数であり、αTg2(/℃)は、高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数であり、ETg1(MPa)は低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率であり、ETg2(MPa)は高温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率である。
【0014】
金属ベース回路基板は、樹脂を含む絶縁層と、金属で構成される回路パターンとが接して積層されている。樹脂と金属とでは熱膨張係数の差が大きいため、このような積層体が高温に晒されると、樹脂を含む絶縁層と、金属で構成される回路パターンとの間での熱膨張差により熱応力が生じ、この界面で剥離が起こりやすい。
特に、絶縁層がガラス転移温度の異なる2種の樹脂を含む場合には、樹脂間でのバランスを図る必要があることを見出している。
【0015】
本開示の金属ベース回路基板では、絶縁層が2つのガラス転移温度Tg2及びTg1を有し、且つ上記式を満たすものである。これにより、高温時における絶縁層と回路パターンとの密着耐熱性を向上させている。
ここで、式中の「300」の数値は、はんだリフローで想定される最高温度(℃)であり、最も厳しい条件としての温度を式に代入している。また式中の「25」の数値は、はんだリフローが実施される一般的な室温(℃)を想定して採用した値である。
【0016】
絶縁層の低温側Tg1が低いほど、Tg1から高温側Tg2に至るまでの温度域での熱膨張が低くなる。そして、高温側Tg2よりも高い温度域では熱膨張が急に大きくなるため、高温側Tg2が高いほど低膨張の状態を維持することができる。つまり、低温側Tg1と高温側Tg2との差がより大きいことは、例えば、はんだリフロー工程などの高温処理時において、絶縁層が高温側Tg2の温度に至るまでの熱膨張をより抑制できることとなる。
【0017】
このように、上記式により熱膨張係数や貯蔵弾性率を勘案した絶縁層全体としての応力指数が求められ、その応力指数が特定の数値以下である。これにより、絶縁層と、これに接する回路パターンとの間の熱応力が低減され、この界面での剥離が抑えられ、密着性が向上する。
【0018】
上記では、絶縁層と回路パターンとを有する金属ベース回路基板を例に説明したが、回路パターンを、回路を形成する前の回路形成用層(金属層)に置き換えても同様である。
【0019】
以下、本開示の金属ベース回路基板の詳細を
図1又は
図2を参照しながら説明する。なお、本開示の金属ベース回路基板は、
図1及び
図2の形態に限定されない。
【0020】
図1は、本開示の一態様に係る金属ベース回路基板を概略的に示す断面図である。
金属ベース回路基板10は、発熱体の電子部品等を実装する回路基板であって、金属基板12と、絶縁層11と、回路パターン20とがこの順で積層された積層体である。回路パターン20の上に電子部品等が実装される。
【0021】
本開示の金属ベース回路基板は、回路パターン20が回路形成前の回路形成用層20A(金属層)であってもよい。この場合、
図2に示すように、金属ベース回路基板10Aは、金属基板12と、絶縁層11と、回路形成用層20Aとが積層された積層体である。
以下、適宜、金属ベース回路基板10は金属ベース回路基板10Aに読み替え、回路パターン20は回路形成用層20Aに読み替えてもよい。
【0022】
金属ベース回路基板10の総厚は、特に限定されないが、例えば、300μm~5000μmであることが好ましく、2000μm~4000μmであることがより好ましい。
【0023】
(金属基板12)
金属基板12は、金属で構成された層であって、本開示では、金属基板12の一方の面に絶縁層11が形成され、他方の面に放熱手段(図示せず)が適宜取り付けられる。
【0024】
金属基板12を構成する金属材料としては、特定の種類に限定されないが、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを用いることができ、ヒートシンク、ベイパーチャンバー等の高放熱部材でもよい。
【0025】
金属基板12の厚みは、特に限定されず、金属ベース回路基板10の総厚に対して10~90%が好ましい。
【0026】
金属基板12の厚みは、例えば、20.0mm以下であってもよく、5.0mm以下であることが好ましい。20.0mm以下の厚みの金属基板12を用いると、金属ベース回路基板10全体としての薄型化が図られる。また、金属ベース回路基板10の外形加工や切り出し加工等における加工性が向上する傾向にある。
また、金属基板12の厚みは、例えば、0.1mm以上であってもよく、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。0.1mm以上の厚みの金属基板12を用いると、金属ベース回路基板10全体としての放熱性が向上する傾向にある。
【0027】
(絶縁層11)
絶縁層11は、2つのガラス転移温度Tg1及びTg2を有する樹脂層であって、金属基板12と回路パターン20とを絶縁する機能を有する。
【0028】
絶縁層11は、低温側Tg1を有する化合物と高温側Tg2を有する化合物とが相分離していてもよい。絶縁層11が相分離構造を有することは、損失正接(tanδ)を表すスペクトルにおいて、低温側Tg1のピークと、高温側Tg2のピークとが互いに重なり合っていないことにより確認することができる。また、相分離構造を有することは、損失正接(tanδ)以外にも、顕微鏡観察、散乱測定等により確認することも可能である。顕微鏡観察の場合、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡等により相分離構造を確認することができる。また、散乱測定の場合、微小角入射小角X線散乱測定、元素分析、エネルギー分散型X線分析、電子線プローブマイクロアナライザ、X線光電子分光法等により、相分離構造を確認することができる。
【0029】
絶縁層11を構成する樹脂の種類は限定されないが、耐熱性の観点から熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂としてはポリアミドイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0030】
絶縁層11は、これらの樹脂を1種単独で用いても、2種類以上の樹脂を含んでもよい。2種類の樹脂を含むことで、2つのガラス転移温度Tg2及びTg1を有する絶縁層11としてもよい。2種類の樹脂が相分離し相分離構造を形成していてもよい。この場合には、樹脂1が連続相(海成分)、樹脂2が非連続相(島成分)となっていてもよい。樹脂2としては、ポリブタジエン、エポキシ変性ポリブタジエン化合物、アクリルゴム、フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
相分離構造を有する絶縁層11の例としては、エポキシ樹脂とエポキシ変性ポリブタジエン化合物とを含む絶縁層が挙げられる。この場合、エポキシ樹脂が高温側Tg2を有する化合物に対応し、エポキシ変性ポリブタジエン化合物が低温側Tg1を有する化合物に対応してもよい。相分離構造を有する絶縁層11の他の例としては、エポキシ樹脂とアクリルゴムとを含む絶縁層が挙げられる。
【0032】
絶縁層11において、低温側Tg1を有する化合物の含有比率は、低温側Tg1を有する化合物と高温側Tg2を有する化合物の合計量を100質量部としたときに、5質量部~40質量部であってもよく、10質量部~30質量部であってもよい。
【0033】
絶縁層11は、無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーは、電気絶縁性及び高熱伝導性を有する粒子であることが好ましい。フィラーは、例えば、アルミナ等の金属酸化物、窒化ホウ素等の窒化物で構成されてもよい。
【0034】
絶縁層11は、硬化剤、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、カップリング剤、着色剤、粘度調整剤、イオン吸着剤、酸化防止剤などを含んでもよい。これらの成分は、当分野において知られているものを適宜用いることができる。
【0035】
絶縁層11の厚みは目的に合わせて適宜設定され、40μm~200μmが好ましく、50μm~150μmがより好ましい。絶縁層11の厚みを200μm以下とすると、絶縁層11を介しての電子部品から金属基板12への熱伝導性に優れる傾向にある。絶縁層11の厚みを40μm以上とすると、金属基板12と絶縁層11との熱膨張率差による熱応力の発生を絶縁層11で緩和しやすい傾向にあり、また、金属ベース回路基板10の絶縁性が向上する。
絶縁層11の厚みは、絶縁層11が露出した箇所で渦電流式厚み計などにより測定され、任意の3箇所を測定した値の平均値である。
【0036】
絶縁層11の厚み方向の熱伝導率は、3.0W/m・K以上であることが好ましく、5.0W/m・K以上であることがより好ましい。これにより、絶縁層11を介しての電子部品から金属基板12への熱伝導性に優れる傾向にある。
【0037】
絶縁層11について、上記式の右辺で求められる数値は、14以下であり、13以下であることが好ましく、11以下であることがさらに好ましい。
式の右辺で求められる数値の下限値は特に制限されず、5以上であってもよく、8以上であってもよい。
【0038】
絶縁層11の低温側ガラス転移温度Tg1、高温側ガラス転移温度Tg2、低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数αTg1、高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数αTg2、低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率ETg1、低温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率ETg2のそれぞれの値は、上記式を満たせば特に限定されないが、好ましい範囲としては以下が挙げられる。
【0039】
上述のとおり、(Tg2-Tg1)が大きいほど、高温処理時の特定の温度まで絶縁層の熱膨張が抑えられることから、(Tg2-Tg1)は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。
(Tg2-Tg1)の上限値は特に制限されないが、300℃以下であってもよく、270℃以下であってもよく、250℃以下であってもよい。
【0040】
(Tg2-Tg1)の値を大きくして絶縁層の熱膨張を抑える観点から、低温側Tg1は、0℃以下であることが好ましく、-5℃以下であることがより好ましく、-7℃以下であることがさらに好ましい。
また、低温側Tg1は、-20℃以上であってもよく、-17℃以上であってもよく、-15℃以上であってもよい。
【0041】
(Tg2-Tg1)の値を大きくして絶縁層の熱膨張を抑える観点から、高温側ガラス転移温度Tg2は、175℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましい。
Tg2の上限値は特に限定されないが、240℃以下であってもよく、220℃以下であってもよく、200℃以下であってもよい。
【0042】
及び
ガラス転移温度Tg1及びTg2は、JIS C 6481:1996に準拠する方法により測定される。具体的には、DMA( Dynamic Mechanical Analysis)で測定し、 tanδのピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)とする。
【0043】
低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数αTg1は、40×10-6/℃以下であることが好ましく、30×10-6/℃以下であることがより好ましく、20×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。
また、線膨張係数αTg1は、0.1×10-6/℃以上であってもよく、0.5×10-6/℃以上であってもよく、1×10-6/℃以上であってもよい。
なお、線膨張係数αTg1は、ガラス転移温度Tg1における絶縁層の線膨張係数をいう。
【0044】
高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数αTg2は、60×10-6/℃以下であることが好ましく、50×10-6/℃以下であることがより好ましく、40×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。
また、線膨張係数αTg2は、20×10-6/℃以上であってもよく、30×10-6/℃以上であってもよく、40×10-6/℃以上であってもよい。
なお、線膨張係数αTg2は、ガラス転移温度Tg2における絶縁層の線膨張係数をいう。
【0045】
30℃での絶縁層の線膨張係数α30℃は、20×10-6/℃以下であることが好ましく、16×10-6/℃以下であることがより好ましく、14×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。
また、線膨張係数α30℃は、5×10-6/℃以上であってもよく、7×10-6/℃以上であってもよく、10×10-6/℃以上であってもよい。
【0046】
線膨張係数αTg1、αTg2及びα30℃は、次の方法により測定される。
金属ベース回路基板10から回路形成用層20又は回路パターン20Aをエッチングで除去して絶縁層11を取り出し、絶縁層11を15mm×5mmに切り出し試験片を得る。この試験片を用いて、熱機械分析装置(TMA)を用い、圧縮モードで昇温速度は5℃/min、窒素雰囲気-50~300℃の範囲で線膨張係数αRの測定を行う。参照試料としてSiO2を用いる。そして、Tg1での線膨張係数αTg1、Tg2での線膨張係数αTg2及び30℃での線膨張係数α30℃をそれぞれ求める。
【0047】
低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率ETg1は、低いほど好ましく、30000MPa以下であることが好ましく、20000MPa以下であることがより好ましく、15000MPa以下であることがさらに好ましい。貯蔵弾性率ETg1の下限値は特に限定されず、5000MPa以上であってもよい。
【0048】
高温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率ETg2は、4000MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることがより好ましく、2000MPa以下であることがさらに好ましい。貯蔵弾性率ETg2の下限値は特に限定されず、1000MPa以上であってもよい。
【0049】
30℃での絶縁層の貯蔵弾性率E30℃は、15000MPa以下であることが好ましく、12000MPa以下であることがより好ましく、11000MPa以下であることがさらに好ましい。貯蔵弾性率E30℃の下限値は特に限定されず、5000MPa以上であってもよい。
【0050】
貯蔵弾性率ETg1、ETg2及びE30℃は、次の方法により測定される。
金属ベース回路基板10から回路形成用層20又は回路パターン20Aをエッチングで除去して絶縁層11を取り出し、絶縁層11を幅2mm、長さ60mm、膜厚120μmに切り出し試験片を得る。この試験片を用いて、下記条件で貯蔵弾性率Eの測定を行う。そして、Tg1での貯蔵弾性率ETg1、Tg2での貯蔵弾性率ETg2及び30℃での貯蔵弾性率E30℃をそれぞれ求める。
・装置:動的粘弾性測定装置(例えば、TAインスツルメント社製)
・測定モード:引張モード
・昇温速度:2℃/min
・周波数:1Hz
・雰囲気:N2
・温度範囲:-50℃~300℃
【0051】
(回路パターン20)
回路パターン20は、導電性を有する金属で構成されており、はんだ等により発熱体の電子部品(LED等)と電気的に接続される。回路パターン20を構成する金属としては、例えば、銅、アルミ、アルミ合金が挙げられ、銅を用いることが好ましい。回路パターン20を銅で構成することにより、抵抗値が比較的小さくなる。なお、回路パターン20は、少なくとも一部がソルダーレジスト層で覆われていてもよい。銅は、圧延銅であってもよい。
【0052】
回路パターン20は、例えば、絶縁層11の絶縁層に積層された金属層20Aを切削及びエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成される。
【0053】
回路パターン20の厚みは、例えば、30μm以上であってもよい。回路パターン20の厚みが30μm以上であると、高電流が流れても、回路パターン20の発熱が抑えられる傾向にある。
回路パターン20の厚みは、5.0mm以下であってもよく、4.0mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましい。回路パターン20の厚みが5.0mm以下であると、回路加工性が向上する傾向にあり、また、金属ベース回路基板10全体としての薄型化を図ることができる。
回路パターン20の厚みは、次の方法によって測定される。
金属ベース回路基板10全体の厚みをマイクロメータにより任意の3箇所で測定し、その平均値を求める。そして、絶縁層11が露出した箇所の厚み(絶縁層11と金属基板12の総厚み)の平均値を差し引いて、回路パターン20の厚み(平均値)を求める。
【0054】
回路パターン20又は回路形成用層20Aにおける金属の線膨張係数αMは、回路パターン20又は回路形成用層20Aが銅で構成されている場合には16.5×10-6/℃であり、アルミニウムで構成される場合には、23.5×10-6/℃である。
【0055】
回路パターン20又は回路形成用層20Aにおける金属の線膨張係数αMは、JIS Z2285:2003に準拠した測定方法により得られる。
【0056】
(その他の部材)
本開示の金属ベース回路基板は、金属基板12、絶縁層11、及び回路パターン20又は回路形成用層20Aに加えて、その他の部材を有してもよい。その他の部材としては、当分野で知られている部材を適宜採用することができる。
【0057】
<パワーモジュール>
本開示のパワーモジュールは、絶縁層と回路パターンとを有する本開示の金属ベース回路基板と、前記回路パターン上に設けられるパワーデバイスと、を備える。
本開示のパワーモジュールは、本開示の金属ベース回路基板を備えるため耐熱性に優れる。したがって、パワーデバイスの高性能化に伴い発熱量が増大傾向にある現状においても、本開示のパワーモジュールは好適に用いることができる。
【0058】
金属ベース回路基板における回路パターンとパワーデバイスとの接続はいずれの方法で行われてもよく、例えば、はんだで接合されてもよい。
【0059】
本開示のパワーモジュールは、金属ベース回路基板とパワーデバイス以外の、他の部材を有してもよい。他の部材としては、当分野で知られている部材を適宜採用することができる。
【実施例0060】
<金属ベース回路基板の作製>
絶縁層を備える金属基板を準備し、絶縁層の上に銅の回路パターンを形成し、金属ベース回路基板を得た。絶縁層の成分、組成は種々変更した。絶縁層は樹脂と無機フィラーを含有し、No.1の絶縁層はエポキシ樹脂とアクリルゴムを用い、No.2~9の絶縁層はエポキシ樹脂とポリブタジエンとを用いた。No.2~5は同じポリブタジエンAを用い添加量を変え、No.6~9は同じポリブタジエンBを用い添加量を変えた。
【0061】
絶縁層における樹脂について、上述の方法により、低温側Tg1、高温側Tg2、低温側Tg1での絶縁層の線膨張係数αTg1、高温側Tg2での絶縁層の線膨張係数αTg2、30℃での絶縁層の線膨張係数α30℃、低温側Tg1での絶縁層の貯蔵弾性率ETg1、低温側Tg2での絶縁層の貯蔵弾性率ETg2、及び30℃での絶縁層の貯蔵弾性率E30℃を測定した。これらの値から、上記式の値を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0062】
<密着耐熱性の評価>
得られた金属ベース回路基板をはんだ浴に浮かべて加熱し、金属ベース回路基板の温度が300℃に到達した後、300℃で5分間保持してから取り出し、自然冷却した。その後、超音波探傷装置(Scanning acoustic tomograph;SAT)にて絶縁層と回路層との接着界面の剥離の有無を確認した。上記操作を繰り返し行い、下記の基準で評価した。得られた結果を表1に示す。
-密着耐熱性の評価基準-
A:3回以上剥離が生じず、SAT画像に変化がない。
B:1回~2回で剥離が生じず、SAT画像の変化(剥離状態)が非常に小さい。
C:1回で剥離が生じる。
【0063】
【0064】
表1に示されるように、式を満たす金属ベース回路基板は、絶縁層と回路パターンとの密着耐熱性に優れている。