(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080811
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20240610BHJP
A01G 7/02 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
A01G31/00 612
A01G7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194062
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 信弥
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022DA11
2B314MA33
2B314MA38
2B314MA42
2B314MA55
2B314ND07
2B314ND10
2B314ND27
2B314ND32
2B314PB02
2B314PB47
2B314PB64
2B314PD54
2B314PD59
(57)【要約】
【課題】栽培効率のよい栽培システムを提供する。
【解決手段】栽培システム(1)は、植物を水受け上で水耕栽培する栽培部(2)と、栽培部に隣接して設けられ、藻類を培養する培養部(3)と、栽培部内に設けられ、植物および藻類に向けて光を照射する光照射手段と、水受けに水を供給する第1給水手段と、水受けから排出された水を回収して貯留する貯水タンク(6)と、貯水タンク内の水を培養部に送り込む第2給水手段あ(7)とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を水受け上で水耕栽培する栽培部と、
前記栽培部に隣接して設けられ、藻類を培養する培養部と、
前記栽培部内に設けられ、前記植物および藻類に向けて光を照射する光照射手段と、
前記水受けに水を供給する第1給水手段と、
前記水受けから排出された水を回収して貯留する貯水タンクと、
前記貯水タンク内の水を前記培養部に送り込む第2給水手段とを備える、栽培システム。
【請求項2】
前記培養部は、藻類に二酸化炭素を供給する曝気手段を備える、請求項1に記載の栽培システム。
【請求項3】
前記培養部は、前記光照射手段の光を透過して、藻類に光を供給するように形成される透光部を備える、請求項1に記載の栽培システム。
【請求項4】
前記培養部内の藻類を含む液分を回収して、固形分である藻類と、液分とに分離する固液分離装置をさらに備える、請求項1に記載の栽培システム。
【請求項5】
前記栽培部は、前記光照射手段および前記水受けを支持する栽培棚を有しており、
前記培養部は、前記栽培棚の側面の少なくとも一部を覆うように形成された透光パネルを含む容器である、請求項1に記載の栽培システム。
【請求項6】
前記培養部は、その一端が前記栽培棚に回動可能に支持される、請求項5に記載の栽培システム。
【請求項7】
栽培部で栽培される植物は着生植物である、請求項1に記載の栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物を水耕栽培する栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
植物を水耕栽培するシステムとして、特許第6993370号公報(特許文献1)が知られている。特許文献1は、建物内で水耕栽培を行う栽培装置であり、植物が収容された水受けに水を供給し、植物の上方に配置された照明器具で光を供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の栽培装置は、植物に供給される養分を含有する水をすぐに排水していた。また、植物に供給される光は装置外へ漏れ出ていた。このように、まだ使える水および光エネルギーが活用できておらず、これらの有効活用が望まれていた。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、植物の水耕栽培に用いられる水および光を有効活用することのできる栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る栽培システムは、植物を水受け上で水耕栽培する栽培部と、栽培部に隣接して設けられ、藻類を培養する培養部と、栽培部内に設けられ、植物および藻類に向けて光を照射する光照射手段と、水受けに水を供給する第1給水手段と、水受けから排出された水を回収して貯留する貯水タンクと、貯水タンク内の水を培養部に送り込む第2給水手段とを備える。
【0007】
好ましくは、培養部は、藻類に二酸化炭素を供給する曝気手段を備える。
【0008】
好ましくは、培養部は、光照射手段の光を透過して、藻類に光を供給するように形成される透光部を備える。
【0009】
好ましくは、培養部内の藻類を含む液分を回収して、固形分である藻類と、液分とに分離する固液分離装置をさらに備える。
【0010】
好ましくは、栽培部は、光照射手段および水受けを支持する栽培棚を有しており、培養部は、栽培棚の側面の少なくとも一部を覆うように形成された透光パネルを含む容器である。
【0011】
好ましくは、培養部は、その一端が栽培棚に回動可能に支持される。
【0012】
好ましくは、栽培部で栽培される植物は着生植物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水および光を有効活用することのできる栽培システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る栽培システムの栽培部を主に示す正面視概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る栽培システムの培養部を主に示す正面視概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る栽培システムを示す側方視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0016】
(栽培システムについて)
本実施の形態に係る栽培システム1は、植物20を水受け21上で水耕栽培する栽培部2と、栽培部2に隣接して設けられ、藻類を培養する培養部3と、栽培部2内に設けられ、植物20および藻類に向けて光を照射する光照射手段4と、水受け21に水を供給する第1給水手段5と、水受け21から排出された水を回収して貯留する貯水タンク6と、貯水タンク6内の水を培養部3に送り込む第2給水手段7と、培養部3内の藻類を含む液分を回収して、固形分である藻類と、液分とに分離する固液分離装置8とを備える。
【0017】
〈栽培部について〉
図1を特に参照して、本実施の形態に係る栽培部2について説明する。
図1は、本実施の形態に係る栽培システム1の栽培部2を主に示す正面視概略図である。栽培部2は、植物20を水耕栽培するための水受け21と、水受け21を支持する栽培棚22とを有している。
【0018】
本実施の形態の植物20は、たとえばラン科、パイナップル(アナナス)科、ユリ科などの着生植物20である。しかしながら、植物20は水耕栽培で栽培される植物であればよく、たとえば野菜や果物などであってもよい。
【0019】
水受け21は、上面開放型の箱型形状である。水受け21は、着生植物20の生育に必要な水を溜めるために用いられる。水受け21の下方領域には、1つ以上の排水口23が設けられている。
【0020】
本実施の形態の栽培棚22は、複数の棚24を有する多段状栽培棚22である。多段状とは、着生植物20が配置される棚24が、鉛直方向に複数設けられた形態や、階段状にずれて配置された形態などを指す。本実施の形態の栽培棚22は、2~6段の棚24で構成された栽培棚を有している。また、上下方向に隣接する各棚24の間隔は、栽培される植物の背丈により適宜調節することができる。これにより、面積あたりの栽培効率を向上させることができる。
【0021】
光照射手段4は、たとえばLED、蛍光灯、電球などであるが、温度上昇を防ぐ観点からLEDを用いることが好ましい。光照射手段4は、着生植物20の生長に合わせて照射する光の波長を限定してもよい。光照射手段4は、着生植物20の上方領域に位置していればよい。これにより、着生植物20の草姿を整えることができる。
【0022】
第1給水手段5は、水受け21の上方領域から水を供給する管路であり、第1給水弁51を有している。供給される水は典型的には汲み置きタンクまたは上水道から供給される水、井戸水などであるが、着生植物20の生長に必要な養分を含んだ培養液であってもよい。
【0023】
第1給水弁51は、第1給水手段5から水受け21へ供給される水の給水量を調節するものであり、たとえばバルブである。第1給水弁51を開けることで、第1給水手段5の水を、水受け21へ供給し、第1給水弁51を閉めることで、水の供給を停止する。
【0024】
第1排水手段52は、水受け21の下方領域に設けられた排水口23と貯水タンク6とを接続する管路であり、第1排水弁53を有している。排水される水は、水受け21内の植物20の給水に用いられた後の水である。本実施の形態の排水口23は、水受け21の底面に1つ配置したが、水受け21の下方領域に1つ以上設けられてもよい。本実施の形態の第1排水手段52は、第1給水手段5による給水が行われ、水受け21に所定量溜められた後に排水する。
【0025】
第1排水弁53は、水受け21から排出される水の排水量を調節するものであり、たとえばバルブである。第1排水弁53を開けることで、水受け21に溜まった水を第1排水手段52へ排出し、第1排水弁53を閉めることで、水の排出を停止する。
【0026】
貯水タンク6は、栽培棚22の下方領域に配置され、水受け21から排出された水を貯留する。貯水タンク6は、水受け21に溜められた水を収容するだけの容積を有していればよく、その形状については問わない。なお、貯水タンク6の容量を超える水は、たとえば貯水タンク6に設けられた図示しない排水口によって外部へ排出することができる。
【0027】
〈培養部について〉
図2、3を参照して、本実施の形態に係る培養部3について説明する。培養部3は、藻類に二酸化炭素を供給する曝気手段31と、藻類培養液の一部を採取する点検口32と、光照射手段4の光を透過して、藻類に光を供給するように形成される透光部33と、培養部3の一端を栽培棚22に回動可能に支持する支持部34とを備える。
【0028】
培養部3は、藻類を培養することのできるパネル状の容器である。
図3に示すように、本実施の形態の培養部3は、栽培部2の側方を覆うように設けられる。培養部3の容器の形態については特に限定されず、たとえばチューブ状、シート状など、種々の形態を採用することができる。培養部3で培養される藻類は、栽培部2で栽培される着生植物20の給排水タイミングと同期間内に容器内で十分増加し、着生植物20の給排水タイミングと同時期に培養が終了するように調節されることが望ましい。
【0029】
曝気手段31は、培養部3内の藻類の炭素源となる空気を送り込む。本実施の形態では曝気手段31を1つ設ける例を示したが、培養液中に空気が行き渡るように複数設けられてもよい。
【0030】
点検口32は、培養部3の上方領域において、培養液を採取可能に設けられるキャップ付きの開口である。採取された培養液は、培養部3内の藻類の濃度を調べたり、異物混入の有無を調べる際に用いる。
【0031】
本実施の形態の透光部33は、栽培棚22の側面の少なくとも一部を覆うように形成された透光パネル33である。透光パネル33は、藻類が光合成できるだけの透光性を有していればよく、半透明であってもよい。また、
図3に示すように、透光パネル33は栽培部2に面する裏面33aと、作業者側に面する表面33bとを有している。藻類の光合成を行う観点から、透光パネル33は少なくとも裏面33aが透光性を有していればよい。
【0032】
透光パネル33は、アクリル板、ガラス板、樹脂製板など、種々の材質で形成される。また、本実施の形態の透光部33は容器を形成する透光パネル33であるが、透光部33はチューブ形状であってもよい。この場合、たとえば半透明のシリコン製チューブなど、伸縮性のある素材であってもよい。
【0033】
支持部34は、栽培棚22の外部に位置する作業者が、培養部3を動かして栽培部2内での作業を可能にする構成であればよく、典型的には培養部3を回動可能に支持する金具、フックなどである。本実施の形態の支持部34は、培養部3の上端部に設けたが、側部あるいは下端部に設けてもよい。
【0034】
なお、培養部3は、藻類が光合成を行った結果生じた酸素や、曝気手段31により送り込まれた空気を排出するための空気弁(図示せず)を有していてもよい。これにより、培養部3を閉鎖型とすることができ、異物混入を防止することができる。
【0035】
第2給水手段7は、培養部3に水を供給する管路であり、第2給水弁71を有している。供給される水は、着生植物20に一度供給した後に回収された水である。本実施の形態の第2給水手段7は、第1給水手段5と略同じ時期に給水する。
【0036】
第2給水弁71は、第2給水手段7から培養部3へ供給される水の給水量を調節するものであり、たとえばバルブである。第2給水弁71を開けることで、第2給水手段7の水を培養部3へ供給し、第2給水弁71を閉めることで、水の供給を停止する。
【0037】
培養部3にて藻類が一定期間培養された後、培養部3内の培養液は第2排水手段72を介して固液分離装置8へ送り込まれる。第2排水手段72は、培養部3の下方領域に設けられ、培養部3と固液分離装置8とを接続する管路であり、第2排水弁73を有している。排水される水は、培養された藻類を含む培養液である。本実施の形態では、1つの培養部3につき1つの第2排水手段72を備えることとしたが、複数備えていてもよい。本実施の形態の第2排水手段72は、第1排水手段52と略同じ時期に排水する。
【0038】
第2排水弁73は、培養部3から排出される藻類および培養液の排水量を調節するものであり、たとえばバルブである。第2排水弁73を開けることで、培養部3で培養された藻類を第2排水手段72へ排出し、第2排水弁73を閉めることで、培養液の排出を停止する。培養後の藻類および培養液は、第2排水手段72の1度の使用で全排水されることが望ましい。これにより、培養部3の管理を容易にすることができる。
【0039】
固液分離装置8は、培養部3で培養された藻類を、藻類(固形分)と水(液分)とに分離する。分離方式は種々の構成を採用でき、たとえばフィルタ式、プレス式、遠心分離式など種々の手法を採ることができる。分離された液分は排水として処理され、固形分は回収して工業的に有効利用される。
【0040】
本実施の形態に係る栽培部2は、給水の時期を検知するための含水率センサを備えることができる。また、培養部3は、藻類の培養終了を検知するための濁度センサを備えることができる。これにより、第1、2給水弁51、71および第1、2排水弁53、73の開閉を自動制御することができる。
【0041】
本実施の形態に係る栽培システム1は、栽培部2における着生植物20の栽培に使用される水を回収して藻類の培養液として使用し、栽培部2の上方に設けられる光照射手段4から照射される光のうち栽培棚22の外へ漏れてしまう光を利用して藻類に光合成を行わせる。このように、1つの栽培部2の有する水および光を利用して2種類の生産物(植物20および藻類)を生成することができるため、面積あたりの栽培効率のよい栽培システム1を提供することができる。
【0042】
(栽培施設について)
本実施の形態に係る栽培システム1は、着生植物20である胡蝶蘭20の栽培施設に設けることができる。栽培施設は、幼苗生長期間、花茎生長期間、開花期間、順化期間を経て生長する胡蝶蘭と対応する複数の室を備えており、花茎生長期間の胡蝶蘭を栽培する低温室と、開花期間の胡蝶蘭を栽培する栽培室と、順化期間の胡蝶蘭を栽培する順化室とを備えている。
【0043】
各室において、胡蝶蘭は各生長期間に適した温度条件および照射条件で栽培される。本実施の形態に係る栽培システム1は、胡蝶蘭の栽培に加えて藻類も培養するため、双方の栽培に適した室に設けられ、たとえば栽培室または順化室に設けることができる。本実施の形態の栽培室および順化室では、胡蝶蘭を人工光で栽培する。この場合、室の壁面を遮光性を有する部材で構成することができる。
【0044】
栽培室において、明期に用いる人工光は、具体的には赤色(R)、緑色(G)、青色(B)LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。胡蝶蘭が十分に生長するため、人工光の光量子束密度(PFD)は、160μmolm-2s-1以上であることが好ましい。また、栽培室では、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。
【0045】
栽培室では、開花期間の胡蝶蘭に蕾が形成され、開花するのに好適な環境で胡蝶蘭を栽培する。胡蝶蘭は低温室において低温条件下で栽培した後、栽培温度を上昇させることで開花スピードが速くなるという特性を有している。そのため、栽培室は、低温室の栽培温度よりも相対的に高温条件となる。栽培室では、明期に24~27℃の温度に調節し、暗期に19~22℃の温度に調節するよう栽培する。本実施の形態の胡蝶蘭は、栽培室で約6~8週間程度栽培される。
【0046】
順化室では、管理環境下で栽培された胡蝶蘭が外環境に慣れるように栽培する。順化室において、明期に用いる人工光は、赤色、緑色、青色LEDを含む光であり、その光質はたとえばR:G:B=20:3:2の比率となるように設定される。また、人工光の光量子束密度(PFD)は、たとえば40μmolm-2s-1以上であることが好ましい。また、順化室では、明期12時間、暗期12時間の明暗周期で栽培する。
【0047】
順化室の温度条件は、栽培室の温度から出荷時の外環境の温度帯に近づけていくように調節することが好ましい。すなわち、順化室では、明期に20~30℃、暗期に15~20℃の範囲で栽培する。本実施の形態の胡蝶蘭は、順化室で約2週間程度栽培する。
【0048】
なお、各室には、上記の構成の他、湿度センサ、照度センサなどを設けてもよい。室内の湿度、照度などを計測することで、室内の環境を自動制御することができる。
【0049】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 栽培システム、2 栽培部、3 培養部、4 光照射手段、5 第1給水手段、6 貯水タンク、7 第2給水手段、8 固液分離装置、20 植物、21 水受け、22 栽培棚、31 曝気手段、32 点検口、33 透光部、34 支持部、51 第1給水弁、52 第1排水手段、53 第1排水弁、71 第2給水弁、72 第2排水手段、73 第2排水弁。