(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080820
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】車両用消音器
(51)【国際特許分類】
F01N 1/04 20060101AFI20240610BHJP
F01N 13/00 20100101ALI20240610BHJP
F01N 1/02 20060101ALI20240610BHJP
F01N 1/08 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
F01N1/04 J
F01N13/00 B
F01N1/02 K
F01N1/08 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194079
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 和也
【テーマコード(参考)】
3G004
【Fターム(参考)】
3G004AA01
3G004BA01
3G004CA06
3G004CA13
3G004DA08
3G004DA23
3G004FA01
3G004FA04
(57)【要約】
【課題】吸音材を使用する車両用消音器において、消音性能の低下を抑制しつつ、排水性能を向上させる構造を実現する。
【解決手段】車両用消音器は、壁面に複数の孔28が設けられた管体24と、前記管体24の外周を覆うケース26であって、当該ケース26の内壁と前記管体24の外側との間に環状空間を形成するケース26と、を備え、前記ケース26は、前記環状空間において、車両搭載状態での車両前後方向の前方に位置する上流側空間S1と後方に位置する下流側空間S2とを仕切る仕切板30を備え、前記上流側空間S1は、その内部が中空状であり、前方の外側面に外部と連通する排水孔32が、車両搭載状態での下方に穿設され、前記下流側空間S2は、その内部に吸音材34が設けられる、ことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に複数の孔が設けられた管体と、
前記管体の外周を覆うケースであって、当該ケースの内壁と前記管体の外側との間に環状空間を形成するケースと、
を備え、
前記ケースは、前記環状空間において、車両搭載状態での車両前後方向の前方に位置する上流側空間と後方に位置する下流側空間とを仕切る仕切板を備え、
前記上流側空間は、その内部が中空状であり、前方の外側面に外部と連通する排水孔が、車両搭載状態での下方に穿設され、
前記下流側空間は、その内部に吸音材が設けられる、
ことを特徴とする車両用消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用消音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の排気システムの中間部に車両用消音器を設けて、排気音を低減する様々な構造が提案されている。特に近年、車両の快適性を損ねる要因となるNVH(騒音、振動、ハーシュネス)への対応の一つとして、排気系の消音性能の向上がより求められている。
【0003】
排気音を低減するために、排気ガスの通路に吸音材を設けた排気システムが知られている。例えば、特許文献1には、排気ガスが流通する管体の外周に、内側へ突出形成され、かつ、排気ガスの下流側へ向かって開口した小穴を有する開口突起部と、管体の外周に吸音材と、を備える車両用消音器が開示されている。当該車両用消音器は、吸音材が排気ガスを直接受けることを回避させて吸音材の耐久性を向上するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、吸音材を使用する車両用消音器において、排気管内を流れる排気ガスには水蒸気が含まれるため、発生した水が吸音材を設けた空間内に溜まり、吸音材が湿気を多く含むことがある。湿気を多く含んだ吸音材は質量が多くなることで音を伝え易くなり、その分、吸音する能力が下がる。すなわち、吸音材は湿気を多く含むことで、消音性能が低下することになる。
【0006】
また、車両用消音器において排水性能が低い場合に、排気管内に発生した水が外に排出されずに排気管内に溜まることがある。この場合、極低温時には、溜まった水が凍結し排気ガスの排出が妨げられる。その結果、エンジンの再始動ができない状況に陥る可能性がある。このような点から、車両用消音器の排水構造には工夫が必要となる。
【0007】
そこで、本明細書では、吸音材を使用する車両用消音器において、消音性能の低下を抑制しつつ、排水性能を向上させる構造を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する車両用消音器は、壁面に複数の孔が設けられた管体と、前記管体の外周を覆うケースであって、当該ケースの内壁と前記管体の外側との間に環状空間を形成するケースと、を備え、前記ケースは、前記環状空間において、車両搭載状態での車両前後方向の前方に位置する上流側空間と後方に位置する下流側空間とを仕切る仕切板を備え、前記上流側空間は、その内部が中空状であり、前方の外側面に外部と連通する排水孔が、車両搭載状態での下方に穿設され、前記下流側空間は、その内部に吸音材が設けられる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本明細書で開示の車両用消音器によれば、ケースの上流側空間の前方外側面に排水孔を設けたことで、排水を促すことができる。また、排水孔からの排水により、排気管内に溜まる水が減少するため、消音器内の吸音材が湿気を多く含むことを抑制でき、ひいては、消音器における消音性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】排気システムの構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1の車両用消音器の概略的な垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して車両用消音器について説明する。なお、各図において、「Fr」、「Up」、および、「Rh」は、それぞれ、車両前方、上方、および、右側方を示している。
【0012】
図1は、排気システムの構成を模式的に示す図である。排気システム10は、エンジンから排出される排気ガスの排出通路を構成する。
図1に示すように、排気システム10は、エンジンルームから車両後方に向かって延びており、車両前方から、エキゾーストマニホールド12と、第1排気管14と、触媒担体を内装する排気浄化装置16と、第2排気管18と、消音器20と、第3排気管22と、を含んで構成される。なお、
図1に示す排気システム10は、従来の排気システムを概略的に示したものであり、構成要素も適宜省略して示している。例えば、
図1では、消音器はメインマフラ1つのみとしているが、メインマフラの他にも、サブマフラやプリマフラを設けてもよい。
【0013】
エキゾーストマニホールド12は、排気システム10において最もエンジンに近い部分である。エキゾーストマニホールド12は、各気筒からの排気ガスを集合させる。例えば自然吸気エンジンを搭載する車両では、集合させた排気ガスは排気浄化装置16へ送られる。
【0014】
排気浄化装置16は、排気ガスの浄化装置であり、フィルターの役割を果たす。エンジンから排出された排気ガスは、排気浄化装置16において有害な成分が浄化・分解され低害な成分に変換される。
【0015】
消音器20は、排気音を低減するための消音装置である。エンジンから排出される排気ガスは高温で高圧力なため、大気に触れると急激に膨張し、その結果、空気を震わせて大きな音が発生する。このような騒音を低減させるために、消音器20が排気システム10の中間部に設けられる。
【0016】
第1排気管14は、エキゾーストマニホールド12と排気浄化装置16とを繋ぐ排気管であり、第2排気管18は、排気浄化装置16と消音器20とを繋ぐ排気管である。第3排気管22は、消音器20から延びており、排気システム10の各部を経た排気ガスを大気中に排出する排出管である。
図1に示すように、第3排気管22は、車両後方に延びるに伴い上方にカーブを描くように湾曲する(すなわち、キックアップする)キックアップ部22aを有する。本例のように、排気システムにおいては、車両後方部分の排気管がキックアップする形状の場合、車両が前傾姿勢のときに特に排水性能が低下する。本明細書で開示する車両用消音器は、上記のようにキックアップ部を有する排気システムにおいても排水性能を低下させないような構成とする。以下、
図2を参照して、消音器20についてより詳しく説明する。
【0017】
図2は、
図1の車両用消音器の概略的な垂直断面図である。
図2に示すように、消音器20は、管体24と、管体24の外周を覆うケース26と、を備える。管体24は、ステンレスなどの金属により形成された円筒形状の部材である。管体24は、車両の前方に位置する上流側で第2排気管18と繋がっており、車両の後方に位置する下流側で第3排気管22と繋がっている。したがって、排気システム10の上流側で発生した水や通過してきた排気ガスは、消音器20において、まず管体24に流し込まれる。
【0018】
図2に示すように、管体24の壁面には、当該管体24の軸直方向に開口された複数のパンチング孔28が設けられる。本例のように、管体24に複数のパンチング孔28を設けることで、管体24に流し込まれる排気ガスや水の全量がそのまま第3排気管22へ送り込まれることがなくなる。すなわち、排気ガスや水の一部は、パンチング孔28を介して、ケース26の内壁と管体24の外側との間に形成される環状空間に流れ込む。なお、どの程度の排気ガスや水を当該環状空間に流し込むようにするかは、管体24の太さやパンチング孔28の個数を考慮して、適宜変更すればよい。
【0019】
ケース26は、ステンレスなどの金属により形成された略円筒形状の部材である。
図2に示すように、ケース26は、前部26aと、中間部26bと、後部26cと、を有する。前部26aは、ケース26の前端部であり、管体24の前端の外壁と接合した状態で固定されている。後部26cは、ケース26の後端部であり、管体24の後端の外壁と接合した状態で固定されている。中間部26bは、前部26aと後部26cとの間に配置された部分である。
図2においては、中間部26bは、その中央部分と両端とで径が異なるため、両端部分が座面形状となっているが、これに限定されない。
【0020】
次に、
図2に示すように、消音器20が車両搭載状態において、ケース26の環状空間には、上流側空間S1と下流側空間S2とを仕切る仕切板30が設けられる。したがって、ケース26の環状空間は、仕切板30を境として、上流側に位置する上流側空間S1と、下流側に位置する下流側空間S2と、の2つの空間に分割される。上流側空間S1は、その内部を中空状とし、水抜き部屋として機能させる。下流側空間S2は、その内部に吸音材34が設けられる。吸音材34は、音を吸収するために使用される素材であり、繊維の隙間にある空気の粘性によって音を吸収する。すなわち、下流側空間S2は、吸音のための部屋として機能させる。
【0021】
また、上流側空間S1においては、前方の外側面に排水孔32が設けられる。排水孔32は、消音器20が車両搭載状態での下方に穿設される。当該排水孔32の位置および形状を示すために、
図2において、管体24の軸に平行な方向の矢視Aを、点線で囲んだB部で示している。
【0022】
このような構成により、消音器20では、管体24内の排気が高圧であることで、管体24に設けられたパンチング孔28を介し、上流側空間S1および下流側空間S2に排気が流れ込む。下流側空間S2は、下流側に位置しかつ吸音材34が配置されているため、排気は上流側空間S1に入り込みやすく、ここにおいて壁面などで温度低下して水分が凝縮する。したがって、上流側空間S1において、その底部に凝縮水が溜まる。溜まった凝縮水は、排水孔32から外部に排出される。特に、車両の前傾姿勢時に、排水孔32から排水を促すことができる。すなわち、上記したようなキックアップ部22aを有する場合であっても、車両の前傾姿勢時における排水性能の低下を回避することができる。また、管体24内の排気は、パンチング孔28を介し、下流側空間S2に流入し、吸音材34により圧力変動が吸収される。
【0023】
以上のように、本明細書で開示する車両用消音器においては、ケース26に仕切板30を設けて上流側空間S1と下流側空間S2を区切ったことで、吸音材34が設けられた下流側空間S2に流れ込む水を減らすことができるため、吸音材34が湿気を多く含むことによる消音性能の低下を回避することができる。また、上流側空間S1の前方の外側面に排水孔32を設けたことで、排水が促されるため、消音器20内に溜まる水の全体量、ひいては、排気システム10内に溜まる水の全体量が減少する。したがって、極低温時において、溜まった水が凍結し排気ガスの排出が妨げられるという事態を回避することができる。なお、消音器20内に溜まる水の全体量の減少に伴い、吸音材34に流し込まれる水の量はさらに減少するため、排水性能の向上と消音性能の低下の抑制との両立が可能となる。
【0024】
なお、これまでの説明は一例であり、本明細書で開示する車両用消音器においては、ケースの環状空間において、上流側空間と下流側空間とを仕切る仕切板を設け、上流側空間は、その内部が中空状であり、前方の外側面に排水孔が設けられ、下流側空間は、その内部に吸音材が設けられる構成であればよい。したがって、車両用消音器のその他の構成は、適宜、変更されてもよい。
【0025】
例えば、
図2においては、仕切板30には孔を設けていないが、上流側空間S1と下流側空間S2とを仕切る仕切板30の下部に孔を設けてもよい。この場合、上流側空間S1の前側に排水孔32が設けられており、ここから上流側空間S1の下部に溜まった水が排出される際に、下流側空間S2の下部に溜まった水も仕切板30に設けられた孔を通って上流側空間S1の方に流れる。その結果、かかる構成においては、下流側空間S2内の吸音材34が含む湿気をさらに減らすことができ、排水性能をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0026】
10 排気システム、20 消音器、24 管体、26 ケース、28 パンチング孔、30 仕切板、32 排水孔、34 吸音材、S1 上流側空間、S2 下流側空間。