(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080839
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】制駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240610BHJP
B60W 40/068 20120101ALI20240610BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/068
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194124
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA18
3D241BC01
3D241CA03
3D241CA08
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB32Z
3D241DB47Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
【課題】想定される路面摩擦係数の範囲に幅がある場合であっても車両の安定性を確保することができる制駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】前輪FWの前後力を発生する前輪前後力発生部10と、後輪RWの前後力を発生する後輪前後力発生部20とを備える車両1に設けられる制駆動力制御装置であって、第1の路面摩擦係数を設定する第1の路面摩擦係数設定部140と、第1の路面摩擦係数よりも大きい第2の路面摩擦係数を設定する第2の路面摩擦係数設定部150と、前輪前後力発生部及び後輪前後力発生部の出力分担比を制御する制駆動力配分制御部130とを備え、駆動時には第1の路面摩擦係数を用いて出力分担比を制御し、制動時には第2の路面摩擦係数を用いて出力分担比を制御する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪の前後力を発生する前輪前後力発生部と、
後輪の前後力を発生する後輪前後力発生部と
を備える車両に設けられる制駆動力制御装置であって、
第1の路面摩擦係数を設定する第1の路面摩擦係数設定部と、
前記第1の路面摩擦係数よりも大きい第2の路面摩擦係数を設定する第2の路面摩擦係数設定部と、
前記第1の路面摩擦係数及び前記第2の路面摩擦係数を用いて前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部の出力分担比を制御する制駆動力配分制御部とを備え、
前記制駆動力配分制御部は、前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部が駆動力を発生する場合には前記第1の路面摩擦係数を用いて前記出力分担比を制御し、前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部が制動力を発生する場合には前記第2の路面摩擦係数を用いて前記出力分担比を制御すること
を特徴とする制駆動力制御装置。
【請求項2】
前記制駆動力配分制御部は、前記出力分担比の制御に用いる路面摩擦係数において発生し得る前記前輪と前記後輪の接地荷重変動に応じて前記出力分担比を制御すること
を特徴とする請求項1に記載の制駆動力制御装置。
【請求項3】
前記第1の路面摩擦係数設定部は、前記前輪と前記後輪との少なくとも一方のタイヤが発生するタイヤ力に基づいて推定された路面摩擦係数を前記第1の路面摩擦係数として設定し、
前記第2の路面摩擦係数設定部は、路面の性状を検出する路面性状検出部を有し、検出された前記路面の性状に基づいて推定された路面摩擦係数を前記第2の路面摩擦係数として設定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制駆動力制御装置。
【請求項4】
前記第1の路面摩擦係数設定部は、車両が旋回する際の横加速度に基づいて路面摩擦係数を推定し、
前記第2の路面摩擦係数設定部の前記路面性状検出部は、前記路面の性状を光学的又は音響的に検出すること
を特徴とする請求項3に記載の制駆動力制御装置。
【請求項5】
ユーザが複数の走行モードから一の走行モードを選択する走行モード選択操作部を有し、
前記第1の路面摩擦係数設定部及び前記第2の路面摩擦係数設定部は、選択された前記走行モードに応じて、予め設定された摩擦係数を前記第1の路面摩擦係数及び前記第2の路面摩擦係数として設定すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪及び後輪の制駆動力を制御する制駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における路面摩擦係数の推定、及び、推定結果を用いた制御等に関する技術として、例えば特許文献1には、車輪が接触している路面の摩擦係数である第1の路面摩擦係数を算出する第1の路面摩擦係数算出部と、路面状態を非接触で検出する非接触センサからの検出値に基づいて第2の路面摩擦係数を算出する第2の路面摩擦係数算出部と、通常時は第1の路面摩擦係数に基づいて車両の制駆動力を制御し、第2の路面摩擦係数に基づいて車両前方に摩擦係数が低い低摩擦路面が存在すると判定された場合は、第2の路面摩擦係数に基づいて車両の制駆動力を制御する制駆動力制御部とを備える車両の制御装置が記載されている。
特許文献2には、自車または他車両の前後Gおよび横Gに基づいて、路面μの上限および下限を設定し、路面μの上限以下の範囲で、または、下限以上の範囲で路面μを算出することにより、運転計画の生成や車両制御を行う車両制御装置が記載されている。
特許文献3には、セルフアライニングトルクに基づいて路面摩擦係数を推定するとともに、グリップマージンに基づいて路面摩擦係数の上限値、下限値を設定することが記載されている。
特許文献4には、車輪速、スロットル開度、速度を含むパラメータに基づいて走行中の路面の路面摩擦係数に関する第1データを推定する路面摩擦係数推定手段と、前後輪の駆動力配分率を可変制御する駆動力配分制御手段とを備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、駆動力配分制御装置と異なる4輪駆動車内の電子制御装置から路面摩擦係数に関する第2データを取得する取得手段を備え、駆動力配分制御手段は、第1データと、第2データとに基づいて駆動力配分率を可変制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-172078号公報
【特許文献2】特開2011- 63105号公報
【特許文献3】特開2007-308027号公報
【特許文献4】特開2003-136992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
路面の摩擦係数を推定する手法は多数知られており、例えば上述した特許文献4のように複数の路面摩擦係数推定値を用いて制御を行うことも提案されている。
しかし、路面摩擦係数を推定する技術には、それぞれの推定原理毎に異なる誤差範囲(上振れ、下振れ)が存在し、これらを一つの推定値に統合することは困難である。
また、路面摩擦係数の推定結果に基づいて、四輪駆動車の駆動力や回生力(制動力)の前後配分を設定する場合、車両の加速時(駆動時)に路面摩擦係数の推定値が上振れすると、後輪の駆動力が過大となって後輪がスリップし、車両に不安定な挙動が発生することが懸念される。
同様に、車両の減速時(回生時)に路面摩擦係数の推定値が下振れすると、後輪の回生力が過大となって後輪がロックし、車両に不安定な挙動が発生することが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、想定される路面摩擦係数の範囲に幅がある場合であっても車両の安定性を確保することができる制駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る制駆動力制御装置は、前輪の前後力を発生する前輪前後力発生部と、後輪の前後力を発生する後輪前後力発生部とを備える車両に設けられる制駆動力制御装置であって、第1の路面摩擦係数を設定する第1の路面摩擦係数設定部と、前記第1の路面摩擦係数よりも大きい第2の路面摩擦係数を設定する第2の路面摩擦係数設定部と、前記第1の路面摩擦係数及び前記第2の路面摩擦係数を用いて前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部の出力分担比を制御する制駆動力配分制御部とを備え、前記制駆動力配分制御部は、前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部が駆動力を発生する場合には前記第1の路面摩擦係数を用いて前記出力分担比を制御し、前記前輪前後力発生部及び前記後輪前後力発生部が制動力を発生する場合には前記第2の路面摩擦係数を用いて前記出力分担比を制御することを特徴とする。
これによれば、車両の加速時(駆動時)には、第2の路面摩擦係数よりも小さい第1の路面摩擦係数を用いて前輪駆動力発生部、後輪駆動力発生部の出力分担比(駆動力分担比)を制御することにより、後輪の駆動力が過大となって後輪のスリップが生じ、車両に不安定な挙動が発生することを防止できる。
また、車両の減速時(回生時)には、第1の路面摩擦係数よりも大きい第1の路面摩擦係数を用いて前輪駆動力発生部、後輪駆動力発生部の出力分担比(回生による制動力分担比)を制御することにより、後輪の制動力が過大となって後輪のロックが生じ、車両に不安定な挙動が発生することを防止できる。
【0006】
本発明において、前記制駆動力配分制御部は、前記出力分担比の制御に用いる路面摩擦係数において発生し得る前記前輪と前記後輪の接地荷重変動に応じて前記出力分担比を制御する構成とすることができる。
これによれば、路面摩擦係数とともにタイヤ力の限界と密接に関連する前輪、後輪の接地荷重変動を考慮して、適切に前後輪前後力の出力分担比を制御することができる。
【0007】
本発明において、前記第1の路面摩擦係数設定部は、前記前輪と前記後輪との少なくとも一方のタイヤが発生するタイヤ力に基づいて推定された路面摩擦係数を前記第1の路面摩擦係数として設定し、前記第2の路面摩擦係数設定部は、路面の性状を検出する路面性状検出部を有し、検出された前記路面の性状に基づいて推定された路面摩擦係数を前記第2の路面摩擦係数として設定する構成とすることができる。
これによれば、タイヤ力に基づき推定された路面摩擦係数と、これより通常大きくなる傾向を示す路面の性状に基づいて推定された路面摩擦係数とを、第1、第2の路面摩擦係数として設定することにより、上述した効果を適切に得ることができる。
【0008】
本発明において、前記第1の路面摩擦係数設定部は、車両が旋回する際の横加速度に基づいて路面摩擦係数を推定し、前記第2の路面摩擦係数設定部の前記路面性状検出部は、前記路面の性状を光学的又は音響的に検出する構成とすることができる。
これによれば、簡単な構成により適切に第1、第2の路面摩擦係数を設定することができる。
【0009】
本発明において、ユーザが複数の走行モードから一の走行モードを選択する走行モード選択操作部を有し、前記第1の路面摩擦係数設定部及び前記第2の路面摩擦係数設定部は、選択された前記走行モードに応じて、予め設定された摩擦係数を前記第1の路面摩擦係数及び前記第2の路面摩擦係数として設定する構成とすることができる。
これによれば、簡単な構成によりユーザ(典型的には運転者)の意図を反映させた第1、第2の路面摩擦係数の設定を行なうことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、想定される路面摩擦係数の範囲に幅がある場合であっても車両の安定性を確保することができる制駆動力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した制駆動力制御装置の第1実施形態を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【
図2】第1実施形態の制駆動力制御装置における制駆動力制御の概略を示すフローチャートである。
【
図3】車両が加速によりノーズアップ方向のピッチング挙動を示す場合の状態を模式的に示す図である。
【
図4】車両の理想駆動力/回生力配分線図の一例を示す図である。
【
図5】本発明を適用した制駆動力制御装置の第2実施形態を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した制駆動力制御装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の制駆動力制御装置は、例えば、前輪駆動用、後輪駆動用として独立した制駆動用モータ(モータジェネレータ)を有する車両(一例として乗用車等)に設けられる。
【0013】
図1は、第1実施形態の制駆動力制御装置を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
車両1は、左右一対の前輪FW、及び、後輪RWを有する4輪の車両である。
車両1は、フロントモータ10、リアモータ20、バッテリ30、フロントインバータ110、リアインバータ120、駆動制御ユニット130、第1路面μ推定部140、第2路面μ推定部150等を備えている。
【0014】
フロントモータ10は、前輪FWの駆動力を発生する回転電機である。
フロントモータ10として、例えば、永久磁石同期電動機(PMモータ)や誘導電動機を用いることができる。
フロントモータ10は、バッテリ30から電力を供給され前輪FWの駆動力を発生するとともに、前輪FW側から伝達されるトルクにより回生発電を行ってバッテリ30に充電するモータジェネレータとして機能する。
フロントモータ10は、本発明の前輪前後力発生部である。
【0015】
フロントモータ10の出力は、フロントディファレンシャル11、フロントドライブシャフト12を介して前輪FWに伝達される。
フロントディファレンシャル11は、フロントモータ10の出力を左右のフロントドライブシャフト12に伝達するとともに、例えば旋回等による左右の前輪FWの差回転を吸収する差動機構である。
フロントドライブシャフト12は、フロントディファレンシャル11から、左右の前輪FWに駆動力を伝達する回転軸である。
フロントドライブシャフト12には、前輪FWの転舵やフロントサスペンションのストロークに追従するため、等速ジョイントなどが設けられている。
【0016】
リアモータ20は、後輪RWの駆動力を発生する回転電機である。
リアモータ20として、例えば、永久磁石同期電動機や誘導電動機を用いることができる。
リアモータ20は、バッテリ30から電力を供給され後輪RWの駆動力を発生するとともに、後輪RW側から伝達されるトルクにより回生発電を行ってバッテリ30に充電するモータジェネレータとして機能する。
リアモータ20は、本発明の後輪前後力発生部である。
【0017】
リアモータ20の出力は、リアディファレンシャル21、リアドライブシャフト22を介して後輪RWに伝達される。
リアディファレンシャル21は、リアモータ20の出力を左右のリアドライブシャフト22に伝達するとともに、例えば旋回等による左右の後輪RWの差回転を吸収する差動機構である。
リアドライブシャフト22は、リアディファレンシャル21から、左右の後輪RWに駆動力を伝達する回転軸である。
リアドライブシャフト22には、リアサスペンションのストロークに追従するため、等速ジョイントなどが設けられている。
【0018】
バッテリ30は、車両1の主に走行用に用いられる電力を貯蔵する二次電池である。
バッテリ30として、例えば、リチウムイオン電池などを用いることができる。
【0019】
フロントインバータ110は、駆動制御ユニット130からの指令に応じて、バッテリ30から供給されるDC電流をAC電流化し、フロントモータ10に駆動用電力として供給する。
また、フロントインバータ110は、フロントモータ10による回生発電時に、フロントモータ10から供給されるAC電流をDC電流化してバッテリ30を充電する回生インバータとしても機能する。
【0020】
リアインバータ120は、駆動制御ユニット130からの指令に応じて、バッテリ30から供給されるDC電流をAC電流化し、リアモータ20に駆動量電力として供給する。
また、リアインバータ120は、リアモータ20による回生発電時に、リアモータ20から供給されるAC電流をDC電流化してバッテリ30を充電する回生インバータとしても機能する。
フロントインバータ110、リアインバータ120は、駆動制御ユニット130から指令される前輪FW、後輪RWの目標駆動力又は目標制動力に応じて、フロントモータ10、リアモータ20の出力トルク又は吸収トルクを制御する機能を有する。
【0021】
駆動制御ユニット130は、例えばドライバのアクセル操作等に基づいて設定されるドライバ要求トルクに応じて、フロントインバータ110、リアインバータ120に指令を与え、フロントモータ10、リアモータ20の出力を制御する。
また、駆動制御ユニット130は、例えばドライバのブレーキ操作等に応じて、回生発電ブレーキと液圧式ブレーキの制動力分担比を設定する。
このとき、駆動制御ユニット130は、回生発電ブレーキによる制動要求に応じて、フロントインバータ110、リアインバータ120に指令を与え、フロントモータ10、リアモータ20に回生発電を行わせ、制動力を発生させる。
駆動制御ユニット130は、本発明の制駆動力配分制御部として機能する。
【0022】
駆動制御ユニット130、第1路面μ推定部140、第2路面μ推定部150は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成することができる。
各ユニットは、直接に、あるいは、例えばCAN通信システム等の車載ネットワークを介して、相互に通信可能に接続されている。
【0023】
駆動制御ユニット130には、車速センサ131,132、舵角センサ133、加速度センサ134、ヨーレートセンサ135等が接続されている。
車速センサ131,132は、前輪FW,後輪RWを回転可能に支持するハブ部に設けられる。
車速センサ131,132は、左右の前輪FW,後輪RWにそれぞれ設けられている。
車速センサ131,132は、各車輪の回転速度に応じた車速信号を出力する。
駆動制御ユニット130は、車速信号に応じて各車輪の車輪速を演算する。
【0024】
舵角センサ133は、乗員(ドライバ)が操舵操作を行うステアリングホイールの角度位置(ハンドル角θH)を検出するセンサである。
駆動制御ユニット130は、舵角センサ133が検出するハンドル角θH、及び、図示しないステアリングギヤボックスのギヤ比(定数)nに基づいて、前輪FWの舵角を演算可能となっている。
加速度センサ134は、車体に作用する前後方向、及び、左右方向(車幅方向)の加速度を検出するセンサである。
ヨーレートセンサ135は、車体の鉛直軸回りの自転速度であるヨーレートを検出するセンサである。
【0025】
駆動制御ユニット130は、フロントモータ10、リアモータ20の駆動時に、各モータの出力配分(前輪FWと後輪RWとの駆動力前後配分(分担比))を設定する機能を有する。
また、駆動制御ユニット130は、フロントモータ10、リアモータ20の回生発電時に、各モータの発電量配分(前輪FWと後輪RWとの回生発電ブレーキによる制動力前後配分)を設定する機能を有する。
これらの制駆動力の制御に関しては、後に詳しく説明する。
【0026】
第1路面μ推定部140は、車両1の前輪FW、後輪RWが発生するタイヤ力に基づいて、車両1が走行する路面の摩擦係数(μ)を推定するものである。
第1路面μ推定部140は、車両1が旋回状態にあるときに、加速度センサ134が検出した横加速度に基づいて推定路面μを出力する。
車両1の旋回状態は、例えば、舵角センサ133、加速度センサ134、ヨーレートセンサ135の出力に基づいて検出することができる。
第1路面μ推定部140は、例えば、路面μによるタイヤ力の変化を検出し、その検出原理に応じた所定の係数を横加速度に乗じた以下の式1を用いて推定路面μを算出する。
推定路面μ=2×横加速度(絶対値)/9.8 (式1)
ここで、車体の横加速度は、前輪FW及び後輪RWのタイヤが実際に発生しているタイヤ力と相関するパラメータである。
第1路面μ推定部140は、前輪FW及び後輪RWのタイヤ力に基づいて路面μを推定する。
第1路面μ推定部140が算出した推定路面μは、本発明の第1の路面摩擦係数として利用される。
第1路面μ推定部140は、本発明の第1の路面摩擦係数設定部として機能する。
【0027】
第2路面μ推定部150は、例えばカメラ等の光学的な手法によって路面の輝度を検出し、検出された輝度に基づいて、車両1が走行する路面のμを非接触状態で推定するものである。
第2路面μ推定部150は、例えば、カメラ等の撮像装置、撮像された画像を画像処理する画像処理装置、外気温センサなどを有して構成される。
第2路面μ推定部150は、カメラにより撮像された画像から路面に相当する画素領域の平均輝度を算出する機能を有する。
また、第2路面μ推定部150は、路面に相当する画素領域に、光線の反射により局所的に高輝度の領域があるか否かに基づいて、路面上の水分の有無を検出する機能を有する。
カメラ及び外気温センサは、本発明の路面性状検出部として機能する。
【0028】
第2路面μ推定部150は、路面の輝度、外気温、路面上の水分の有無に応じて、例えば表1の通り路面状況及び路面μを推定する。
【表1】
第2路面μ推定部150は、第1路面μ推定部140に対して、推定路面μを大きい値に推定する傾向を有する。
第2路面μ推定部150が算出した推定路面μは、本発明の第2の路面摩擦係数として利用される。
第2路面μ推定部150は、本発明の第2の路面摩擦係数設定部として機能する。
【0029】
駆動制御ユニット130は、第1路面μ推定部140、第2路面μ推定部150がそれぞれ出力する推定路面μを用いて、フロントモータ10、リアモータ20の出力分担比(駆動時においては前後駆動力配分、制動時においては前後回生力配分)を制御する。
この点について以下詳細に説明する。
【0030】
図2は、第1実施形態の制駆動力制御装置における制駆動力制御の概略を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:第1路面μ推定部出力取得>
駆動制御ユニット130は、第1路面μ推定部140から、タイヤ力に基づいて推定された推定路面μを取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0031】
<ステップS02:第2路面μ推定部出力取得>
駆動制御ユニット130は、第2路面μ推定部150から、路面の性状に基づいて推定された推定路面μを取得する。
その後、ステップS03に進む。
【0032】
<ステップS03:推定路面μ上限値・下限値設定>
駆動制御ユニット130は、第1路面μ推定部140から取得した推定路面μを、推定路面μ下限値として設定する。
また、駆動制御ユニット130は、第2路面μ推定部150から取得した推定路面μを、推定路面μ上限値として設定する。
その後、ステップS04に進む。
【0033】
<ステップS04:駆動状態・制動状態判別>
駆動制御ユニット130は、フロントモータ10、リアモータ20が駆動力を発生している状態か、回生発電によって制動力を発生している状態であるかを判別する。
各モータが駆動力を発生している状態の場合はステップS05に進み、その他の場合(制動力を発生している状態の場合)はステップS06に進む。
【0034】
<ステップS05:推定路面μ下限値に基づき前後接地荷重演算>
駆動制御ユニット130は、ステップS03で設定した推定路面μ下限値に基づいて、車両1の前後接地荷重を演算する。
図3は、車両が加速によりノーズアップ方向のピッチング挙動を示す場合の状態を模式的に示す図である。
車両1の前後荷重移動を考慮した前後輪の接地荷重は、以下の式2、式3によって表すことができる。
【数1】
【0035】
上述した加速による荷重移動量は、以下の式4によって表すことができる。
【数2】
【0036】
上述した前後加速度は、以下の式5、式6によって表すことができる。
【数3】
推定路面μ下限値に基づく前後接地荷重を演算した後、ステップS07に進む。
【0037】
<ステップS06:推定路面μ上限値に基づき前後接地荷重演算>
駆動制御ユニット130は、ステップS03で設定した推定路面μ上限値に基づいて、ステップS05と同様の手法により、車両1の前後接地荷重を演算する。
その後、ステップS07に進む。
【0038】
<ステップS07:制駆動力目標前後配分演算>
駆動制御ユニット130は、フロントモータ10、リアモータ20の制駆動力目標前後配分を演算する。
制駆動力目標前後配分の演算は、例えば、以下説明する理想駆動力/回生力配分線図を用いて行うことができる。
【0039】
図4は、車両の理想駆動力/回生力配分線図の一例を示す図である。
図4において、横軸は前輪の前後力(駆動力又は回生力)Fxを接地荷重Fzで除した値を示し、縦軸は後輪の前後力Fxを接地荷重Fzで除した値を示している。
また、原点に対して右上側の領域は駆動側を示し、左下側の領域は制動側を示している。
図4に示す直進時の理想駆動力/回生力配分においては、想定される路面μにおいて発生し得る最大の前後荷重移動の影響を加味し、前輪FW、後輪RWの接地荷重の増減に応じて駆動力又は回生力の配分が増減するよう設定されている。
【0040】
駆動側においては、想定される路面μの増加に応じて、前後駆動力配分が後輪偏重(後輪駆動力が前輪駆動力に対して相対的に大きくなる傾向)となるように設定されている。
制動側においては、想定される路面μの増加に応じて、前後制動力(回生力)配分が前輪偏重(前輪制動力が後輪制動力に対して相対的に大きくなる傾向)となるように設定されている。
例えば、前輪FWと後輪RWの駆動力/回生力配分(目標前後配分)は、当該路面μで発生し得る最大駆動力、最大制動力時における前後接地荷重配分FZF:FZRと一致するよう設定することができる。
制駆動力目標前後配分の演算後、ステップS08に進む。
【0041】
<ステップS08:モータジェネレータ制御実行>
駆動制御ユニット130は、ステップS07において演算した制駆動力目標前後配分を用いて、フロントモータ10、リアモータ20の駆動又は回生を制御する。
その後、一連の処理を終了する。
【0042】
以下、本実施形態の効果について説明する。
ここでは、推定路面μ下限値が0.3であり、推定路面μ上限値が0.6である場合を例として説明する。
図4に示す理想駆動力配分に応じて駆動力を設定する場合、車両1が駆動する場合においては、例えば推定路面μ=0.3の場合、前後駆動力配分は、53:47に設定される。(線図上の点P1)
一方、例えば推定路面μ=0.6の場合、前後駆動力配分は、47:53に設定される。(P2)
このように、車両1が駆動を行う際に、推定路面μが高く見積もられると、低く見積もられた場合に対して駆動力配分が後輪偏重(前輪FWに対して相対的に後輪RWの駆動力が大)となる。
これにより、実際の路面μが低かった場合には後輪の駆動力が過大となって後輪がスリップし、車両1に不安定な挙動が発生することが懸念される。
【0043】
また、
図4に示す理想回生力配分に応じて回生力を設定する場合、車両1が制動(回生発電)を行う場合においては、例えば推定路面μ=0.6の場合、前後制動力(回生力)配分は、71:29に設定される。(P3)
一方、例えば推定路面μ=0.3の場合、前後制動力配分は、65:35に設定される。(P4)
このように、車両1が制動(回生発電)を行う際に、推定路面μが低く見積もられると、高く見積もられた場合に対して制動力配分が後輪偏重(前輪FWに対して相対的に後輪RWの制動力が大)となる。
これにより、実際の路面μが高かった場合には、後輪RWの制動力が過大となって後輪がロックし、車両1に不安定な挙動が発生することが懸念される。
【0044】
この点、第1実施形態によれば、車両1が駆動を行う際には、推定路面μ下限値(第1路面μ推定部140が出力する推定路面μ)を用いて駆動力前後配分を制御することにより、後輪の駆動力が過大となって後輪RWのスリップが生じ、車両1に不安定な挙動が発生することを防止できる。
一方、車両1が制動を行う際には、推定路面μ上限値(第2路面μ推定部150が出力する推定路面μ)を用いて制動力前後配分を制御することにより、後輪RWの制動力が過大となって後輪RWのロックが生じ、車両1に不安定な挙動が発生することを防止できる。
【0045】
また、駆動制御ユニット130は、駆動力、制動力の前後配分(フロントモータ10、リアモータ20の出力分担比)の制御に用いる路面摩擦係数において発生し得る前輪FWと後輪RWの接地荷重変動に応じて駆動力、制動力の前後配分を制御することにより、路面摩擦係数とともにタイヤ力の限界と密接に関連する前輪FW、後輪RWの接地荷重変動を考慮して、適切に前後輪前後力の出力分担比を制御することができる。
また、第1路面μ推定部140は、前輪FW、後輪RWのタイヤが発生するタイヤ力に基づいて路面μを推定し、第2路面μ推定部150は水分の有無、外気温(路面温度に近似すると考えられる)などの路面の性状に基づいて路面μを推定することにより、タイヤ力に基づき推定された路面摩擦係数と、これより通常大きくなる傾向を示す路面の性状に基づいて推定された路面摩擦係数とを、それぞれ推定路面μ下限値、推定路面μ上限値として設定することにより、上述した効果を適切に得ることができる。
また、第1路面μ推定部140は、車両1が旋回する際の横加速度に基づいて路面摩擦係数を推定し、第2路面μ推定部150は、路面の性状を光学的に検出することにより、簡単な構成により推定路面μ下限値、推定路面μ上限値を設定することができる。
【0046】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した制駆動力制御装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図5は、第2実施形態の制駆動力制御装置を有する車両の駆動系の構成を模式的に示す図である。
【0047】
第2実施形態においては、第1実施形態の第1路面μ推定部140、第2路面μ推定部150に代えて、以下説明する走行モード設定部160を備えている。
走行モード設定部160は、例えばドライバ等のユーザが、想定される路面μが異なる複数の走行モードから任意の一つを設定するものである。
走行モードの選択は、例えば、図示しないスイッチ等の操作装置により行うことができる。
【0048】
第2実施形態では、例えば、表2に示す3つの走行モードを有し、各走行モードには、それぞれ表1に示す路面μ上限値、下限値が設定されている。
【表2】
【0049】
走行モード設定部160は、本発明の第1の路面摩擦係数設定部、第2の路面摩擦係数設定部として機能する。
第2実施形態においては、駆動制御ユニット130は、走行モード設定部160により設定された走行モードに応じた路面μ下限値、路面μ上限値を用いて、駆動力、制動力の前後配分制御を行う。
【0050】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に後輪の駆動力、制動力が過大となって車両に不安定な挙動が発生することを防止できるとともに、簡単な構成によりユーザ(典型的には運転者)の意図を反映させた第1、第2の路面摩擦係数の設定を行なうことができる。
また、路面摩擦係数を推定するためのハードウェアやロジックが不要となり、装置構成を簡素化することができる。
【0051】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)制駆動力制御装置及び車両の構成は、上述した各実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。
(2)第1実施形態における路面摩擦係数の推定手法は一例であって、適宜変更することが可能である。
例えば、旋回時に車体に作用する横加速度に代えて、例えば操舵装置のセルフアライニングトルクに基づいて、タイヤ力に基づく路面摩擦係数を推定するようにしてもよい。
また、路面の湿潤状態等の性状を、光学的な手法に代えて、あるいは、光学的な手法とともに、例えば車両の走行音から音響的に、非接触で取得する構成としてもよい。
(3)第2実施形態における走行モード選択に応じた路面摩擦係数上限値、下限値の設定は一例であって、適宜変更することが可能である。
例えば、選択可能な走行モードの個数や、各走行モードにおいて設定される路面摩擦係数上限値、下限値は、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
FW 前輪 RW 後輪
10 フロントモータ 11 フロントディファレンシャル
12 フロントドライブシャフト 20 リアモータ
21 リアディファレンシャル 22 リアドライブシャフト
30 バッテリ
110 フロントインバータ 120 リアインバータ
130 駆動制御ユニット 131,132 車速センサ
133 舵角センサ 134 加速度センサ
135 ヨーレートセンサ 140 第1路面μ推定部
150 第2路面μ推定部 160 走行モード設定部