(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080840
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/14 20200101AFI20240610BHJP
【FI】
B60W50/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194125
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】島 佳希
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA60
3D241CE03
3D241DA04Z
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB22Z
3D241DB27Z
3D241DB40Z
(57)【要約】
【課題】旋回時にタイヤ力限界を超過することを防止する運転操作を運転者に提示する運転支援装置を提供する。
【解決手段】運転支援装置を、車両の旋回時に旋回内前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともにタイヤ力限界及びタイヤ力現在値からタイヤ力余裕度を算出する旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部151と、旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じてタイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を出力する運転操作指示出力部152と、運転操作指示出力部が出力する運転操作指示に関する情報を運転者に提示する情報提示部160とを備える構成とする。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の旋回時に旋回内前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値からタイヤ力余裕度を算出する旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部と、
前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて前記タイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を出力する運転操作指示出力部と、
前記運転操作指示出力部が出力する前記運転操作指示に関する情報を運転者に提示する情報提示部と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
第1の車両の旋回時に旋回内前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値からタイヤ力余裕度を算出する旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部と、
前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて前記タイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を出力する運転操作指示出力部と、
前記運転操作指示出力部が出力する前記運転操作指示に関する情報を前記第1の車両に後続して走行する第2の車両の運転者に提示する情報提示部と
を備えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
前記情報提示部は、前記旋回内前輪の前記タイヤ力余裕度に関する情報を前記運転操作に関する情報とともに前記運転者に提示すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記運転操作指示出力部は、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて、駆動力の低下、制動力の増加、前輪舵角の減少の少なくとも一つを含む運転操作指示を出力すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項5】
車両の旋回時に旋回外前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値の差分からタイヤ力余裕度を算出する旋回外前輪タイヤ力余裕度算出部を備え、
前記運転操作指示出力部は、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した際に出力される運転操作指示の内容を、前記旋回外前輪のタイヤ力余裕度の低下状態に応じて変化させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者にタイヤ力限界を超過しない運転操作を提示する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両のタイヤの状態推定、及び、推定結果に基づく制御等に関する技術として、例えば、特許文献1には、旋回力の制御状況を瞬時に認識させるための旋回挙動表示装置において、ヨーモーメント表示部の基準部から旋回方向に向かうセグメントの表示数を旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に応じて円弧状態に増減させ、車両の旋回挙動の制御状況を直感的に視認可能としたものが記載されている。
特許文献2には、ユーザの運転操作による制駆動力の余裕度合いを提示する情報提示装置等において、車両情報に基づいて車両の制駆動力及び基準制駆動力を算出し、基準制駆動力に対する制駆動力の余裕度を求め、算出された余裕度を提示する提示制御機能を実行させることが記載されている。
特許文献3には、車輪に対する横方向のタイヤ力の程度を表すグリップ度を推定する車両のグリップ度推定装置において、操舵トルク又は操舵力に基づき前輪のセルフアライニングトルクを推定すると共に、車両状態量に基づき前輪のサイドフォース又はスリップ角を推定し、サイドフォース又はスリップ角に対するセルフアライニングトルクの変化に基づき、前輪のグリップ度を推定することが記載されている。
また、グリップ度が所定値未満である場合には、インジケータあるいは音を発する手段により運転者に報知されること、及び、アクセル操作を緩め、あるいは、ブレーキ操作を促す音声を出力することが記載されている。
特許文献4には、4輪駆動車の制御装置において、各車輪についてタイヤ摩擦円の大きさに対する前後力、横力の合成力の割合であるタイヤ摩擦力使用率を演算するタイヤ摩擦力使用率演算手段と、各車輪に作用する駆動力又は制動力を調節する制駆動力調節制御手段とを備え、いずれかの車輪のタイヤ摩擦力使用率が閾値を超えたとき、当該車輪の駆動力又は制動力の上昇を抑制すると共に、運転者による運転操作の状況に基づいて選択された他の車輪の駆動力又は制動力を上昇させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-029181号公報
【特許文献2】特開2010-173452号公報
【特許文献3】特開2003-312465号公報
【特許文献4】特開2019-217838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載された技術においては、旋回外輪と旋回内輪のトルクの相対的な差に関する情報が運転者に提示されても、その情報をもとに運転者がどのような操作を行うべきなのか理解することができない。
また、特許文献2に記載された技術においては、駆動輪の平均のタイヤ力余裕度を提示するため、個々の車輪のタイヤ力余裕度は提示されない。特に、旋回中において、旋回内前輪は、4輪のなかでもっともタイヤ横すべり角が大きく、かつ、車体の荷重移動によって接地荷重が減少するため、早期にタイヤ力が限界に達する傾向を有する。しかし、特許文献2の技術では、旋回内前輪固有のタイヤ力余裕度を運転者が知ることができず、提示されたタイヤ力限界を超えていない場合でも、旋回内前輪にスリップが生じてしまう状況が考えられる。
特許文献3に記載された技術においても、左右前輪のグリップ度をセルフアライニングトルクに基づいて一括して求めていることから、特許文献2と同様に、旋回内前輪の状態を適切に運転者に提示することができない。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、旋回時にタイヤ力限界を超過することを防止する運転操作を運転者に提示する運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る運転支援装置は、車両の旋回時に旋回内前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値からタイヤ力余裕度を算出する旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部と、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて前記タイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を出力する運転操作指示出力部と、前記運転操作指示出力部が出力する前記運転操作指示に関する情報を運転者に提示する情報提示部とを備えることを特徴とする。
これによれば、旋回時に最もタイヤ力余裕度がシビアとなる旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した際(タイヤ力が限界に近付いた際)に、運転者に対してタイヤ力余裕度を回復するよう運転操作指示を提示することにより、旋回内前輪のタイヤ力余裕度がさらに低下してタイヤ力現在値がタイヤ力限界に到達し、車両に不安定な挙動が発生することを防止できる。
【0006】
また、本発明の他の一態様に係る運転支援装置は、第1の車両の旋回時に旋回内前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値からタイヤ力余裕度を算出する旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部と、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて前記タイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を出力する運転操作指示出力部と、前記運転操作指示出力部が出力する前記運転操作指示に関する情報を前記第1の車両に後続して走行する第2の車両の運転者に提示する情報提示部とを備えることを特徴とする。
これによれば、第1の車両(先行車両)において旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した場合には、後続して走行する第2の車両(後続車両)においても同様の事態が生じる可能性が高いことから、第2の車両の運転者に対してタイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示に関する情報を提示することにより、第2の車両において旋回内前輪のタイヤ力がタイヤ力限界を超過することを未然に防止できる。
【0007】
本発明において、前記情報提示部は、前記旋回内前輪の前記タイヤ力余裕度に関する情報を前記運転操作に関する情報とともに前記運転者に提示する構成とすることができる。
これによれば、運転操作指示に関する情報とともにタイヤ力余裕度に関する情報を提示することにより、運転操作指示に関する情報の提示に先立ちタイヤ力余裕度がひっ迫していることを事前に察知することができる。
【0008】
本発明において、前記運転操作指示出力部は、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて、駆動力の低下、制動力の増加、前輪舵角の減少の少なくとも一つを含む運転操作指示を出力する構成とすることができる。
これによれば、駆動力の低下、前輪舵角の減少によるタイヤ力現在値の低下や、車両の減速に伴う旋回求心加速度の低下(タイヤ横力の低下)によってタイヤ力余裕度を適切に回復(増加)させることができる。
【0009】
本発明において、車両の旋回時に旋回外前輪のタイヤ力限界及びタイヤ力現在値をそれぞれ推定するとともに前記タイヤ力限界及び前記タイヤ力現在値の差分からタイヤ力余裕度を算出する旋回外前輪タイヤ力余裕度算出部を備え、前記運転操作指示出力部は、前記旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した際に出力される運転操作指示の内容を、前記旋回外前輪のタイヤ力余裕度の低下状態に応じて変化させる構成とすることができる。
これによれば、タイヤ力余裕度が旋回内前輪だけでひっ迫しているのか、あるいは旋回外前輪に同時にひっ迫しているのかに応じて適切な運転操作指示を提示することにより、各車輪のタイヤ力余裕度を適切な状態に維持し、車両が不安定な状態となることを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、旋回時にタイヤ力限界を超過することを防止する運転操作を運転者に提示する運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した運転支援装置の第1実施形態を有する車両の構成を模式的に示す図である。
【
図2】タイヤのタイヤ力限界とタイヤ力現在値との関係の一例を示す図である。
【
図3】マスタシリンダ液圧からブレーキ液圧を求めるマップの一例を示す図である。
【
図4】タイヤの速度、路面の速度、すべり角の関係を示す図である。
【
図5】タイヤのスリップ率と制駆動力との相関の一例を示す図である。
【
図6】制駆動力を接地荷重で割った一般的なμ-s特性を示す図である。
【
図7】コーナリング時のブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネス)をタイヤモデルで試算した例を示す図であって、ドライ路面の例を示している。
【
図8】コーナリング時のブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネス)をタイヤモデルで試算した例を示す図であって、ウェット路面の例を示している。
【
図9】トルクコンバータのトルク比特性の一例を示す図である。
【
図10】車両が加速によりノーズアップ方向のピッチング挙動を示す場合の状態を模式的に示す図である。
【
図11】4輪自動車の等価的な2輪モデルの一例を示す図である。
【
図12】ドライビングスティフネスをタイヤ接地荷重で除した値のタイヤすべり角との相関を示す図である。
【
図13】トランスファクラッチの前後軸の実回転速度差の測定結果の一例を示す図である。
【
図14】第1実施形態における駆動力推定処理を示すフローチャートである。
【
図15】第1実施形態の運転支援装置におけるタイヤ力余裕度の算出動作を示すフローチャートである。
【
図16】運転支援制御ユニットにおける運転操作指示出力動作を示すフローチャートである。
【
図17】第1実施形態の運転支援装置における画像表示の一例を示す図である。
【
図18】第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
【
図19】第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
【
図20】第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
【
図21】本発明を適用した運転支援装置の第2実施形態のシステム構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した運転支援装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の運転支援装置は、一例として、左右前輪及び左右後輪を駆動する四輪駆動の乗用車等の自動車に設けられる。
運転支援装置は、車両が旋回する際の左右前輪のタイヤ力余裕度を算出し、旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて、運転者にタイヤ力余裕度を回復可能な運転操作指示の提示等を行うものである。
図1は、第1実施形態の運転支援装置が設けられる車両の構成を模式的に示す図である。
【0013】
車両1は、左右一対の前輪FW及び後輪RW、エンジン10、変速機20、前輪駆動力伝達機構30、トランスファ40、後輪駆動力伝達機構50、エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130、トランスファクラッチ駆動部140、運転支援制御ユニット150、表示装置160等を有する。
【0014】
エンジン10は、車両の走行用動力源である。
エンジン10として、例えば、4ストロークガソリンエンジンを用いることができる。
なお、車両1の走行用動力源は、エンジン10に限定されず、エンジン10及びモータジェネレータを有するエンジン-電気ハイブリッドシステムや、モータジェネレータのみを有する構成としてもよい。
【0015】
変速機20は、エンジン10の出力軸の回転速度を所定の変速比で減速又は増速する変速機構部を備えている。
変速機構部として、例えば、チェーン式、ベルト式などのCVTバリエータや、複数のプラネタリギヤセット等を有する構成とすることができる。
【0016】
エンジン10と変速機20との間には、トルクコンバータ21が設けられる。
トルクコンバータ21は、車速ゼロからの発進を可能とする発進デバイスとして機能する流体継ぎ手である。
トルクコンバータ21には、所定の条件下で入力部(インペラ)と出力部(タービン)との相対回転を拘束するロックアップクラッチが設けられる。
【0017】
前輪駆動力伝達機構30は、変速機20の出力軸の回転を、左右の前輪FWに伝達する動力伝達機構である。
前輪駆動力伝達機構30は、ドライブギヤ31、ドリブンギヤ32、ピニオンシャフト33、フロントディファレンシャル34、フロントドライブシャフト35等を有する。
【0018】
ドライブギヤ31、ドリブンギヤ32は、平行軸に設けられた一対のヘリカルギヤである。
ドライブギヤ31は、変速機20の出力軸に直結されている。
ドリブンギヤ32は、ピニオンシャフト33に設けられている。
ピニオンシャフト33は、変速機20からドライブギヤ31、ドリブンギヤ32を介して伝達されるトルクを、フロントディファレンシャル34に伝達する回転軸である。
ピニオンシャフト33には、フロントディファレンシャル34の外周部分に設けられる図示しないリングギヤに駆動力を伝達するピニオンギヤが設けられる。
ピニオンシャフト33のピニオンギヤと、フロントディファレンシャル34のリングギヤは、最終減速装置として機能する。
【0019】
フロントディファレンシャル34は、ピニオンシャフト33から伝達される駆動力を、左右のフロントドライブシャフト35に伝達するとともに、左右の前輪FWの回転速度差を吸収する差動機構である。
フロントドライブシャフト35は、フロントディファレンシャル34から左右の前輪FWに駆動力を伝達する回転軸である。
フロントドライブシャフト35には、サスペンションのストローク及び前輪FWの転舵に追従するため、回転方向を変換するユニバーサルジョイント等が設けられている。
【0020】
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸と、後輪駆動力伝達機構50のプロペラシャフト51の前端部との間に設けられた締結要素である。
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸からプロペラシャフト51に伝達されるトルクを、拘束力の調整によって変更可能な油圧式あるいは電磁式などの湿式多板クラッチを有する。
トランスファクラッチ40は、変速機20の出力軸に接続された前軸と、プロペラシャフト51の前端部に接続された後軸との拘束力を、ロック状態(直結状態)から、不可避的に生じるフリクション以外にはトルク伝達が行われないフリー状態(解放状態)までの間で、連続的に変化させることが可能である。
【0021】
前輪駆動力伝達機構30のドライブギヤ31、ドリブンギヤ、ピニオンシャフト33、フロントディファレンシャル34、及び、トランスファクラッチ40は、変速機20と共通の筐体である図示しないトランスミッションケースの内部に収容される。
【0022】
後輪駆動力伝達機構50は、トランスファクラッチ40を介して伝達される変速機20の出力軸の回転を、左右の後輪RWに伝達する動力伝達機構である。
後輪駆動力伝達機構50は、プロペラシャフト51、リアディファレンシャル52、リアドライブシャフト53等を有する。
【0023】
プロペラシャフト51は、トランスファクラッチ40の後軸からリアディファレンシャル52へ駆動力を伝達する回転軸である。
リアディファレンシャル52は、プロペラシャフト51から伝達される駆動力を、左右のリアドライブシャフト53に伝達するとともに、左右の後輪RWの回転速度差を吸収する差動機構である。
リアディファレンシャル52には、プロペラシャフト51の回転速度を所定の最終減速比で減速してリアドライブシャフト53に伝達する最終減速装置が設けられている。
リアドライブシャフト53は、リアディファレンシャル52から左右の後輪RWに駆動力を伝達する回転軸である。
リアドライブシャフト53には、サスペンションのストロークに追従するため、回転方向を変換するユニバーサルジョイント等が設けられている。
【0024】
エンジン制御ユニット110は、エンジン10及びその補機類を統括的に制御する装置である。
エンジン制御ユニット110は、例えば運転者のアクセル操作量などに応じて要求トルクを設定し、エンジン10が実際に発生するトルク(実トルク)が要求トルクに一致するようエンジン10の出力を制御する。
エンジン制御ユニット110は、エンジン10の実トルクの推定値(通常は要求トルクと一致する)を、駆動力配分制御ユニット130に伝達する。
【0025】
トランスミッション制御ユニット120は、変速機20及びその補機類を統括的に制御する装置である。
トランスミッション制御ユニット120は、変速機20における変速比や、トルクコンバータ21におけるロックアップクラッチの締結力を制御する機能を有する。
トランスミッション制御ユニット120は、変速比20の変速比、及び、トルクコンバータ21がトルク増幅作用を発生している場合にはトルク比に関する情報を、駆動力配分制御ユニット130に伝達する。
【0026】
駆動力配分制御ユニット130は、トランスファクラッチ駆動部140を介してトランスファクラッチ40の締結力を制御することにより、前後軸の駆動力配分を制御する装置である。
駆動力配分制御ユニット130は、現在の車両1の走行状態(例えば、加減速状態、旋回状態等)に応じて、前後駆動力配分の目標値を設定するとともに、この目標値に応じてトランスファクラッチ40の締結力を制御する。
また、駆動力配分制御ユニット130は、現在の前輪FW,後輪RWの駆動力を実時間で推定する駆動力推定装置としての機能を有する。この機能については、後に詳しく説明する。
【0027】
駆動力配分制御ユニット130には、車速センサ131,132、舵角センサ133、加速度センサ134、ヨーレートセンサ135等が接続されている。
車速センサ131,132は、それぞれ前輪FW、後輪RWの回転速度(角速度)に応じた車速信号を出力するセンサである。
車速センサ131,132は、前輪FW,後輪RWを回転可能に支持するハブ部に設けられる。
車速センサ131,132は、左右の前輪FW,後輪RWにそれぞれ設けられている。
【0028】
舵角センサ133は、運転者が操舵操作を行う操舵装置の入力部材であるステアリングホイールの角度位置(ハンドル角θH)を検出するセンサである。
駆動力配分制御ユニット130は、舵角センサ133が検出するハンドル角θH、及び、図示しないステアリングギヤボックスのギヤ比(定数)nに基づいて、前輪FWの舵角を演算可能となっている。
加速度センサ134は、車体に作用する前後方向、及び、左右方向(車幅方向)の加速度を検出するセンサである。
ヨーレートセンサ135は、車体の鉛直軸回りの自転速度であるヨーレートを検出するセンサである。
【0029】
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130、及び、後述する運転支援制御ユニット150は、例えば、CPUなどの情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成することができる。
エンジン制御ユニット110、トランスミッション制御ユニット120、駆動力配分制御ユニット130、運転支援制御ユニット150は、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは、直接に、通信可能に接続されている。
【0030】
トランスファクラッチ駆動部140は、トランスファクラッチ40の締結力を制御する装置である。
トランスファクラッチ駆動部140は、例えばトランスファクラッチ40が油圧式である場合には、トランスファクラッチ40において締結力の発生源となる油圧を調整する機能を有する。
トランスファクラッチ駆動部140は、変速機20に設けられた図示しないオイルポンプから供給される油圧を、調圧してトランスファクラッチ40に供給する調圧弁を備えている。
トランスファクラッチ駆動部140は、駆動力配分制御ユニット130からの指示値に応じて、トランスファクラッチ40の油圧を制御することで、トランスファクラッチ40の拘束力(伝達トルク)を制御する。
【0031】
運転支援制御ユニット150は、タイヤ力余裕度算出部151、運転操作指示出力部152等を有する。
タイヤ力余裕度算出部151は、他のユニット等から取得した車両の走行状態に関する情報から、左右前輪のタイヤのタイヤ力(タイヤ発生力、グリップ)限界、タイヤ力現在値、及び、タイヤ力余裕度を算出する。
タイヤ力余裕度算出部151は、本発明の旋回内前輪タイヤ力余裕度算出部、旋回外前輪タイヤ力余裕度算出部として機能する。
運転操作指示出力部152は、主に旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて、タイヤ力余裕度が回復される(タイヤ力余裕度が増加する)運転操作指示を出力するものである。
これらの機能については、後に詳細に説明する。
【0032】
表示装置160は、運転支援制御ユニット150が出力する運転操作指示に関する情報等を、車両の運転者に提示する例えば画像表示装置である。
表示装置160は、本発明の情報提示部として機能する。
表示装置160における具体的な表示態様については、後に詳しく説明する。
【0033】
以下、タイヤ力余裕度算出部151におけるタイヤのタイヤ力限界、タイヤ力余裕度の算出方法について説明する。
<タイヤ力限界算出>
タイヤのタイヤ力限界は最大の制駆動力F
maxとなり、クーロンの摩擦法則に基づいて、以下の式1を用いて算出する。
F
max=μWg (式1)
ただし、W:旋回内前輪にかかる荷重であり、以下の式2、式3で旋回中の横方向の荷重移動量ΔW
y、前後方向の荷重移動量ΔW
xを補正する。
【数1】
【数2】
:横加速度
W
S:車両重量
d
f:前輪トレッド
h
S:車体重心点とロール軸間距離
h
g:重心高
h
f:前輪サスペンションのロールセンタ高さ
l:ホイールベース
l
f:重心点と前輪軸の距離
l
r:重心点と後輪軸の距離
K
φf:前輪サスペンションのロール剛性
K
φr:後輪サスペンションのロール剛性
【0034】
<タイヤ力余裕度>
タイヤ力余裕度は、現在タイヤが発生している力であるタイヤ力現在値Fを、上述したタイヤ力限界F
maxで除した値を、1から減じることで算出される。
タイヤ力余裕度は、0から1までの値をとり得るとともに、0に近付くことは、タイヤ力がひっ迫している(限界に近付いている)ことを示している。
タイヤ力現在値Fは、前後制駆動力F
xと横力F
yから、以下の式4を用いて算出される。
【数3】
ここで、前後制駆動力F
xは、制動力と駆動力の和である。
横力F
yは、後述するタイヤ横すべり角(スリップアングル)と、コーナリングパワーから算出することができる。
【0035】
図2は、タイヤのタイヤ力限界とタイヤ力現在値との関係の一例を示す図である。
図2において、横軸は前後力(右側が駆動側・左側が制動側)を示し、縦軸は横力(上方が左側・下方が右側)を示している。
最大制駆動力F
maxは、略一定の半径を有するいわゆる摩擦円として表現することができる。
タイヤ力現在値Fは、前後制駆動力F
xと横力F
yとのベクトル和であって、最大制駆動力F
maxを超過することはできない。
【0036】
<制動力算出>
タイヤの前後の制動力をF
bとすると、以下の式5が成り立つ。
【数4】
BP
f:前輪ブレーキ圧
DW
f:前輪ホイルシリンダ半径
BF
f:前輪ブレーキファクタ
DR
f:前輪ブレーキロータ半径
Wr
f:前輪タイヤ半径
【0037】
前輪ブレーキ圧は、マスタシリンダ液圧に応じて、予め設定された特性マップから求めることができる。
図3は、マスタシリンダ液圧からブレーキ液圧を求めるマップの一例を示す図である。
図3において、横軸はマスタシリンダ液圧を示し、縦軸はブレーキ液圧(前後輪のホイルシリンダ液圧)を示している。
ここで、ブレーキファクタとは、ブレーキ入力と出力との比を示す係数であり、ブレーキパッドやロータに使用される摩擦材とブレーキ形式で決定される。
ブレーキファクタは、一般的にはディスクブレーキでは0.6乃至0.9程度であり、ドラムブレーキでは1.5乃至8程度である。
【0038】
<駆動力算出>
タイヤのスリップ率を、ホイールロック時(V
B=0)や、ゼロ発進(V
R=0)時のゼロ割算を防止するため、以下の式6の通り定義する。
【数5】
λ:スリップ率
V
R:路面の速度=Vf_free,Vr_free
V
B:トレッドベースの接地面内における平均速度
α:タイヤのすべり角(スリップアングル)
図4は、タイヤの速度、路面の速度、すべり角の関係を示す図である。
図4(a)は駆動時の状態を示し、
図4(b)は制動時の状態を示している。
【0039】
ここで、トレッドベースの接地面内における平均速度VBは、以下の式7により表される。
VB=r・ω (式7)
r:タイヤの転がり半径
ω:回転角速度
【0040】
タイヤの制駆動力Fは、以下の式8により表すことができる。
F=K
x・λ (式8)
K
x:タイヤのブレーキングスティフネス
λ:スリップ率
図5は、タイヤのスリップ率と制駆動力との相関の一例を示す図である。
図5において、横軸はスリップ率を示し、縦軸は制動力又は駆動力を示している。
図5において、スリップ率が比較的小さい領域においては、制駆動力はスリップ率に対してほぼ比例して増加する。このような領域での傾きがブレーキングスティフネスK
xとなる。
【0041】
タイヤの接地幅w、接地長lは、以下の式9,10により表すことができる。
【数6】
w:接地幅
w
0:接地荷重F
z0時の接地幅
l:接地長さ
l
0:接地荷重F
z0時の接地長さ
F
z:接地荷重
【0042】
タイヤ構造のモデルで考えると、ブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネスとほぼ一致する)は、接地長の2乗×接地幅に比例するので、接地荷重の1
1/4乗(1乗として取り扱っても特に問題ない)に比例することになる。
図6は、制駆動力を接地荷重で割った一般的なμ-s特性を示す図である。
横軸はスリップ率を示し、縦軸は摩擦係数を示している。
このように、ブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネス)は、接地荷重の変化に関わらず、ほぼ一定であることがわかる。
【0043】
図7、
図8は、コーナリング時のブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネス)をタイヤモデルで試算した例を示す図である。
図7は、路面μ=1.0(ドライ舗装路面に相当)の例を示し、
図8は、路面μ=0.65(ウェット舗装路面に相当)の例を示している。
これらの図からわかるように、タイヤのすべり角α=0でのブレーキングスティフネス(ドライビングスティフネス)Kx(スリップ率λ=0でのスリップ率に対する制駆動力の勾配)は、タイヤ構造の特性で決まるため、路面μには依存しないが、コーナリングに伴うタイヤのすべり角(スリップアングル)αの増加に応じて小さくなる。
タイヤのすべり角αは、車両モデルで推定した車体すべり角βから算出できる。
【0044】
車両の総駆動力FxEGは、以下の式11により表すことができる。
総駆動力FxEG=
(エンジン出力トルク-引き摺りトルク-変速機油圧ポンプロス)
×トルクコンバータトルク比×変速機変速比 (式11)
エンジン出力トルクは、エンジン10の運転状態から推定することができる。
引き摺りトルク(フリクショントルク)は定数である。
変速機油圧ポンプロス、トルクコンバータトルク比、変速機変速比は、トランスミッション制御ユニット120から取得することができる。
【0045】
図9は、トルクコンバータのトルク比特性の一例を示す図である。
図9において、横軸はトランスミッション入力軸回転速度をエンジン出力軸回転速度で除した値(回転速度比)を示し、縦軸はトルク比(トルクの増幅比)を示している。
図9に示すように、回転速度比の低下に応じて、トルク比は増大する。
【0046】
前輪FW、後輪RWの周速Vwf、Vwrは、以下の式12により表すことができる。
Vwf、Vwr=
左右輪の平均車輪速×前後輪のタイヤ径(実値)/前後輪のタイヤ径(設定値) (式12)
ここで、タイヤ径の設定値とは、車速センサ131,132の出力に基づいて車速を演算する際に用いられるタイヤ径を指すものとする。
【0047】
トランスファクラッチ40の前後軸の回転数を、タイヤの周速に換算した値Vtf,Vtrは、以下の式13により表すことができる。
Vtf,Vtr=
左右輪の平均車輪速×タイヤ径(実値)の前後輪平均/前後輪のタイヤ径(設定値)
(式13)
【0048】
車両1の車体の対地速度である車速Vは、車速センサにより検出される車輪速の4輪平均とする。
図10は、車両が加速によりノーズアップ方向のピッチング挙動を示す場合の状態を模式的に示す図である。
加速時においては、ノーズアップ方向のピッチングモーメントが重心CG回りに作用するとともに、前輪FWの軸重は減少し、後輪RWの軸重は増加する。
【0049】
加減速による前後荷重移動ΔFzは、以下の式14により表すことができる。
ΔFz=車両質量×前後加速度×重心高/(2×ホイールベース) (式14)
車両質量、重心高、ホイールベースは、車両固有の定数である。
前後加速度は、前後加速度センサを用いて検出することができる。
前後軸の接地荷重Fzf、Fzrは、基準荷重(静止時の接地荷重)に、上述した前後荷重移動ΔFzを加減したものとなり、以下の式15,16により表すことができる。
Fzf=Fzf0-ΔFzx (式15)
Fzr=Fzr0+ΔFzx (式16)
Fzf:前輪の接地荷重
Fzr:後輪の接地荷重
Fzf0:静止時の前輪の接地荷重
Fzr0:静止時の後輪の接地荷重
ΔFzx:加速による荷重移動量
【0050】
加速による荷重移動量ΔF
zxは、以下の式17により表すことができる。
【数7】
【0051】
図11は、4輪自動車の等価的な2輪モデルの一例を示す図である。
車体すべり角(スリップアングル)βは、以下の式18により表すことができる。
車体すべり角β =
((1-(車両質量m/(2×ホイールベースl))×(前軸-重心間距離l
f
/(後軸-重心間距離l
r×後輪のコーナリングパワーKr))×(車速V
2)))
/(1+スタビリティファクタA×車速V
2)×(後軸-重心間距離l
r/ホイールベースl)
×(ハンドル角θ
H/ステアリングギヤ比n) (式18)
車両質量m、前軸-重心間距離l
f、後軸-重心間距離l
r、後輪のコーナリングパワーK
r、スタビリティファクタA、ホイールベースl、ステアリングギヤ比nは、車両固有の定数である。
車速Vは車速センサ、ハンドル角θ
Hは舵角センサ133から取得することができる。
【0052】
車体すべり角βは、下記の式19により表すことができる。
【数8】
【0053】
前後軸(左右輪の中央位置)の対地速度V
f,V
rは、以下の式20,21により表すことができる。
対地速度V
f,V
rは、車速Vに対して前後軸-重心間距離(l
f又はl
r)×車体すべり角β×ヨーレートγを加減した値となる。
【数9】
V
f:前輪タイヤ接地点の路面速度[m/s]
V
r:後輪タイヤ接地点の路面速度[m/s]
ρ:重心点の旋回半径[m]
γ:ヨーレート[rad/s]
【0054】
前後輪のすべり角αf,αrは、以下の式22,22により表すことができる。
αf=ハンドル角θH/ステアリングギヤ比n
-車体すべり角β-前軸-重心間距離lf×ヨーレートγ/車速V (式22)
αr=-車体すべり角β-後軸-重心間距離lr×ヨーレートγ/車速V (式23)
前輪舵角δfは、以下の式24により表される。
δf=θH/n (式24)
【0055】
前後輪のすべり角α
f,α
rは、以下の式25,26により表すことができる。
【数10】
α
f:前輪のすべり角[rad]
α
r:後輪のすべり角[rad]
δ
f:前輪舵角[rad]
β:車体すべり角[rad]
l
f:前軸-重心間距離[m]
l
r:後軸-重心間距離[m]
γ:ヨーレート[rad/s]
V:車速[m/s]
【0056】
前輪FW,後輪RWの自由転動速度Vf_free, Vr_freeは、以下の式27,28により表すことができる。
【数11】
【0057】
前輪FW,後輪RWのスリップ率λ(λ
f,λ
r)は、以下の式29,30により表わすことができる。
【数12】
λ:スリップ率
V
R:路面の速度=Vf_free, Vr_free
V
B:トレッドベースの接地面内における平均速度
【0058】
前輪FW,後輪RWのドライビングスティフネス(ブレーキングスティフネスと実質的に等しい)Kxf、Kxyは、以下の式31により表わすことができる。
Kxf, Kxr=
MAX(ドライビングスティフネス/接地荷重の基準値(定数:α=0時)
×前後軸の接地荷重Fzf,Fzr×cos(rBx1(モデル定数)
×Atan(tKxf,tKxr))),最小値(定数))
tKxf,tKxr)
=rBx1(MF定数)×cos(Atan(rBx2(モデル定数)×スリップ率(定数:0.01)))
×前,後輪のすべり角αf,αr (式31)
上述したモデル定数は、タイヤの数値計算モデルの演算において用いられる定数である。
このようなタイヤの数値計算モデルとして、例えば、Magic Formula(MF)を用いることができる。
【0059】
タイヤのスリップ率から計算した前輪FW,後輪RWの駆動力FxDf,FxDrは、以下の式32により表すことができる。
駆動力FxDf,FxDr=
前輪FW,後輪RWのドライビングスティフネスKxf,Kxr
×前輪FW,後輪RWのスリップ率λf,λr×100 (式32)
ここで、前輪FW,後輪RWのドライビングスティフネスKxf,Kxrは、タイヤの横すべり角(スリップアングル)に応じて変動する。
【0060】
図12は、ドライビングスティフネスをタイヤ接地荷重で除した値のタイヤすべり角との相関を示す図である。
横軸はタイヤすべり角α
f又はα
rを示し、縦軸はドライビングスティフネスK
xf又はK
xrを接地荷重Fzで除した値を示している。
図12に示すように、接地荷重Fzが同等である場合(縦軸の分母が一定である場合)には、ドライビングスティフネスK
xf,K
xrは、タイヤすべり角α
f,α
rの増加に応じて減少する。
したがって、駆動力の算出時には、車両モデルから求めたタイヤすべり角α
f,α
rに応じたドライビングスティフネスK
xf,K
xrを用いる必要がある。
【0061】
トランスファクラッチ40がロックしていると仮定した場合の前後軸駆動力FxLf,FxLrは、下記の式33により表すことができる。
FxLf,FxLr=
(ドライビングスティフネスの比で前後軸に配分した総駆動力+上記の前,後軸駆動力)
((総駆動力FxEG×最終減速比/前,後輪のタイヤ径(実値))
-(前軸の駆動力FxDf+後軸の駆動力FxDr))×前,後輪のドライビングスティフネスKxf,Kxr
/(前輪のドライビングスティフネスKxf+後輪のドライビングスティフネスKxr)
+ 前,後軸の駆動力FxDf,FxDr (式33)
【0062】
トランスファクラッチ40のロック/スリップ率TRFΔVωは、以下の式34により表すことができる。
TRFΔVω =
MIN(MAX(((前軸回転速度Vtf-後軸回転速度Vtr)
-(前輪自由転動速度Vf_free-後輪自由転動速度Vr_free ) )
/MAX(ABS(前軸回転速度Vtf-後軸回転速度,下限値(ゼロ割算防止定数)) ,
下限値:-1 ) , 上限値:1 ) (式34)
【0063】
図13は、トランスファクラッチの前後軸の実回転速度差の測定結果の一例を示す図である。
横軸は時間を示し、縦軸はトランスファクラッチ40の前軸(前輪駆動力伝達機構30側)と後軸(後輪駆動力伝達機構50側)との回転速度の差を示している。この値は、前輪と後輪との実回転速度差を示している。
このように、実際の車両においては、トランスファクラッチ40の前後軸の差回転には、顕著な振動がみられる。
上記数式においては、割算の分母を、分子と同じ振動を有する実車輪回転速度差とすることにより、前軸と後軸との差回転に著大な振動がある場合であっても、TRFΔVωの計算値の振幅を抑えることができる。
【0064】
TRFΔVωは、トランスファクラッチ40がロック状態にある場合には、平均0から±1の振動を示す。
ここで、TRFΔVωが正値である場合は、前後軸の周速差が自由転動速度差を上回っていることを示し、駆動力配分が前軸偏重(前輪駆動(FWD)車に近い傾向)であることを示している。
また、TRFΔVωが負値である場合は、前後軸の周速差が自由転動速度差を下回っていることを示し、駆動力配分が後軸偏重(後輪駆動(RWD)車に近い傾向)であることを示している。
なお、トランスファクラッチ40が開放され、かつ、総駆動力=0でも平均0からの±1振動になるが、総駆動力の増加に応じて前輪が主駆動輪である場合にはプラス方向、後輪が主駆動輪である場合にはマイナス方向に平均がオフセットした振動値になる
【0065】
トランスファトルク(駆動力換算値)Ftrfは、上述したロック/スリップ率TRFΔVωのプラス度合いに応じて、後軸の制動力からトランスファクラッチ40の伝達力(駆動力)を減算する値である。
前輪のスリップ率λf>後輪のスリップ率λrの場合には、トランスファトルクFtrfは、以下の式35により表すことができる。
Ftrf=
-トランスファクラッチ40のロック/スリップ率TRFΔVω
×トランスファクラッチ40がロックしていると仮定した場合の後輪駆動力FxLr
(式35)
また、上記以外の場合には、Ftrf=0となる。
【0066】
トランスファクラッチ40のロック状態又はスリップ状態を考慮した前軸駆動力FxDfは、トランスファクラッチ40がロックしていると仮定した場合の前軸駆動力FxLfから、トランスファトルク(駆動力換算値)Ftrfを減算した値となる。
トランスファクラッチ40のロック状態又はスリップ状態を考慮した後軸駆動力FxDrは、トランスファクラッチ40がロックしていると仮定した場合の後軸駆動力FxLrに、トランスファトルク(駆動力換算値)Ftrfを加算した値となる。
【0067】
図14は、第1実施形態における駆動力推定処理を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:各パラメータ取得>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した駆動力推定に必要なパラメータのうち、定数以外の値を、各センサから、又は、他のユニットから通信により、取得する。
その後、ステップS02に進む。
【0068】
<ステップS02:総駆動力演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式11を用いて、前輪FW,後輪RWの総駆動力FxEGを演算する。
その後、ステップS03に進む。
【0069】
<ステップS03:前後輪接地荷重演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式15乃至17を用いて、前輪FW、後輪RWの接地荷重Fzf,Fzrを演算する。
その後、ステップS04に進む。
【0070】
<ステップS04:車体すべり角演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式18,19を用いて、車体すべり角βを算出する。
その後、ステップS05に進む。
【0071】
<ステップS05:前後輪対地速度演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式20,21を用いて、前輪FW、後輪RWの対地速度Vf,Vrを算出する。
その後、ステップS06に進む。
【0072】
<ステップS06:前後タイヤ横すべり角演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式25,26を用いて、旋回等に伴う前輪FW、後輪RWのすべり角(横すべり角)αf,αrを算出する。
その後、ステップS07に進む。
【0073】
<ステップS07:前後輪自由転動速度演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式27,28を用いて、前輪FW,後輪RWの自由転動速度Vf_free, Vr_freeを算出する。
その後、ステップS08に進む。
【0074】
<ステップS08:前後輪スリップ率演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式29,30を用いて、前輪FW,後輪RWのスリップ率λ(λf,λr)を演算する。
その後、ステップS09に進む。
【0075】
<ステップS09:前後タイヤドライビングスティフネス演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式31を用いて、前輪FW,後輪RWのドライビングスティフネスKxf、Kxyを演算する。
その後、ステップS10に進む。
【0076】
<ステップS10:前後輪駆動力演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式32を用いて、トランスファクラッチ40がロック状態にあると仮定した場合の前輪FW,後輪RWの駆動力FxDf,FxDrを演算する。
このとき演算に用いるドライビングスティフネスKxf,Kxrは、ステップS06において求めた前輪FW、後輪RWのすべり角αf,αrに応じて補正された値を用いる。
その後、ステップS11に進む。
【0077】
<ステップS11:トランスファクラッチスリップ率演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式34を用いて、トランスファクラッチ40のロック/スリップ率TRFΔVωを演算する。
その後、ステップS12に進む。
【0078】
<ステップS12:主駆動輪・従駆動輪スリップ率比較>
駆動力配分制御ユニット130は、主駆動輪である前輪FWのスリップ率λfと、従駆動輪である後輪RWのスリップ率λrを比較し、前者が後者に対して大きい場合には、トランスファクラッチ40がスリップ状態にあるものとしてステップS13に進み、その他の場合はトランスファクラッチ40がロック状態にあるものとして一連の処理を終了する。
【0079】
<ステップS13:トランスファトルク演算>
駆動力配分制御ユニット130は、上述した式33を用いて、トランスファトルクFtrfを演算する。
その後、ステップS14に進む。
【0080】
<ステップS14:前後駆動力補正演算>
駆動力配分制御ユニット130は、ステップS10において求めた前輪FWの駆動力FxDfから、ステップS13で求めたトランスファトルク(駆動力換算値)Ftrfを減算する。
また、ステップS10において求めた後輪RWの駆動力FxDrに、ステップS13で求めたトランスファトルクFtrfを加算する。
その後、一連の処理を終了する。
【0081】
図15は、第1実施形態の運転支援装置におけるタイヤ力余裕度の算出動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS21:旋回内前輪判定>
運転支援制御ユニット150は、車両が旋回状態に入った際に、左右の前輪FWのいずれが旋回内前輪であるかを判別する。
旋回内前輪の判別は、例えば、操舵装置の舵角や、車体に作用する横加速度、車体のヨーレート等に基づいて行うことができる。
その後、ステップS22に進む。
【0082】
<ステップS22:制駆動力推定>
駆動力配分制御ユニット130は、左右の前輪FWに作用する制駆動力(制動力又は駆動力)を、上述した手法により推定する。
推定された制駆動力は、運転支援制御ユニット150に伝達される。
その後、ステップS23に進む。
【0083】
<ステップS23:路面摩擦係数μ推定>
運転支援制御ユニット150のタイヤ力余裕度算出部151は、車両が現在走行中の路面の摩擦係数μを推定する。
例えば、カメラ等の光学的なセンサを用いて路面の湿潤状態を検出し、ドライ舗装路面の場合にはμ=1.0と推定し、ウェット舗装路面の場合にはμ=0.65と推定することができる。
また、これ以外の他の公知の路面摩擦係数推定手法を用いてもよい。
その後、ステップS24に進む。
【0084】
<ステップS24:タイヤ力限界算出>
運転支援制御ユニット150のタイヤ力余裕度算出部151は、上述した式1を用いてタイヤ力限界Fmaxを算出する。
その後、ステップS25に進む。
【0085】
<ステップS25:タイヤ力余裕度算出>
運転支援制御ユニット150のタイヤ力余裕度算出部151は、上述した式4を用いてタイヤ力現在値Fを算出し、これをステップS24において求めたタイヤ力限界Fmaxで除した値を1から減じることにより、タイヤ力余裕度を算出する。
その後、ステップS26に進む。
【0086】
<ステップS26:タイヤ力余裕度表示>
運転支援制御ユニット150は、ステップS25において算出したタイヤ力余裕度に関する情報を、表示装置160に表示させ、運転者に提示する。
その後、一連の処理を終了する。
なお、タイヤ力余裕度の具体的な表示態様については、後に詳しく説明する。
【0087】
また、運転支援制御ユニット150は、旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した場合(値が0に近付き、タイヤ力が限界に近付いた場合)には、タイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示を、表示装置160を用いて運転者に提示する。
図16は、運転支援制御ユニットにおける運転操作指示出力動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0088】
<ステップS31:旋回内前輪タイヤ力限界判断>
運転支援制御ユニット150の運転操作指示出力部152は、旋回内前輪のタイヤ力余裕度が所定の閾値以下であるか否かを判別する。
閾値は、例えば、0近傍に設定することができる。
タイヤ力余裕度が閾値以下となった場合には、旋回内前輪のタイヤ力が限界に近接しており、タイヤ力のさらなる増加が困難である状態であるとしてステップS32に進む。
その他の場合は、運転者への運転操作指示が不要であるとして一連の処理を終了する。
【0089】
<ステップS32:旋回外前輪タイヤ力限界判断>
運転操作指示出力部152は、旋回外前輪のタイヤ力余裕度が所定の閾値以下であるか否かを判別する。
旋回外前輪のタイヤ力余裕度が閾値以下となった場合には、旋回外前輪のタイヤ力が限界に近接しているシビアな状態にあるものとしてステップS33に進む。
その他の場合は比較的シビアさが低い状態にあるものとしてステップS34に進む。
【0090】
<ステップS33:ブレーキ操作表示>
運転操作指示出力部152は、旋回内前輪のタイヤ力余裕度を回復させるための運転操作指示として、ブレーキ操作を出力する。
運転支援制御ユニット150は、表示装置160に、運転者に対してブレーキ操作を促す表示を行わせる。
その後、ステップS35に進む。
【0091】
<ステップS34:アクセルオフ操作表示>
運転操作指示出力部152は、旋回内前輪のタイヤ力余裕度を回復させるための運転操作指示として、アクセルオフ操作を出力する。
運転支援制御ユニット150は、表示装置160に、運転者に対してアクセルオフ操作を促す表示を行わせる。
その後、ステップS35に進む。
【0092】
<ステップS35:旋回内前輪タイヤ力限界判断>
運転操作指示出力部152は、旋回内前輪のタイヤ力余裕度が所定の閾値以下であるか否かを再度判別する。
旋回内前輪のタイヤ力余裕度が依然として閾値以下である場合は、ステップS33又はステップS34において行った表示によってもなおタイヤ力余裕度が回復していないものとしてステップS36に進む。
その他の場合は、タイヤ力余裕度が回復したものとして一連の処理を終了する。
【0093】
<ステップS36:減速制御介入>
運転支援制御ユニット150は、車両のブレーキ装置の制動力を制御する図示しない制動制御装置(例えば、液圧式サービスブレーキのブレーキフルード液圧を制御するハイドロリックコントロールユニット)に指令を与え、ブレーキ装置により制動力を発生させる減速制御を介入させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0094】
なお、
図16に示すフローでは、タイヤ力余裕度の低下に応じた運転操作として、アクセルオフ、及び、ブレーキ操作を用いているが、これらに代えて、あるいは、これらとともに、ステアリングの舵角を減少させる(切り戻す)操作を用いてもよい。
このような舵角の減少操作を行うことによって、タイヤのすべり角を低下させ、横力Fyを低減し、タイヤ力余裕度の低下を改善することができる。
【0095】
図17は、第1実施形態の運転支援装置における画像表示の一例を示す図である。
図17において、左旋回時の表示態様を左側に示し、右旋回時の表示態様を右側に示す。
また、左右旋回時のいずれとも、タイヤ力余裕度が大きい状態を上方、タイヤ力余裕度が小さい状態を下方に図示している。
【0096】
図17に示す例においては、旋回内側から見た車両の側面視SVを例えばイラストレーションによって表示するとともに、当該イラストレーションにおいて、旋回内前輪FWiの部分の着色によってタイヤ力余裕度を表示している。
旋回内前輪の着色は、タイヤ力余裕度の低下に応じて順次濃色となるように、あるいは、黄色系、赤色系などの注意喚起を促す色調となるようになされる。
また、最下段の状態は旋回内前輪のタイヤ力余裕度がひっ迫した(例えば、所定の閾値以下)場合を示しており、運転者に対してブレーキ操作を促す運転操作指示の表示が併せて行われる。
【0097】
図18は、第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
図18に示す例においては、旋回内前輪のタイヤ力余裕度を、
図17と同様の色の違いに加えて、色が付された部分の大きさの違いも用いて表示している。
具体的には、旋回内前輪と重畳して表示された円に、
図17の前輪と同様の色を付して表示するとともに、タイヤ力余裕度の低下に応じて、円の大きさを拡大して表示している。
【0098】
図19は、第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
図19に示す例においては、ステアリングホイールSWを正面から見た状態を示すイラストレーションによって操舵装置の舵角が表示される。
ステアリングホイールSWのイラストレーションの周囲には、ステアリングホイールSWの上半部に沿って配置された円弧状のバーグラフGが表示されている。
バーグラフGには、旋回内前輪のタイヤ力余裕度が表示される。
バーグラフGの表示は、タイヤ力現在値の増加に応じて旋回方向に伸長する。
バーグラフGの表示範囲の側端部はタイヤ力限界を示している。
バーグラフGの表示が側端部に到達した際に、タイヤ力余裕度が0となる(タイヤ力現在値とタイヤ力限界が一致する)ことを意味している。
【0099】
図19の左側に示す例においてはタイヤ力余裕度に比較的余裕がある状態を示している。
これに対し、
図19の右側に示す例では、タイヤ力余裕度がひっ迫しており、ステアリングホイールSWのイラストレーションと重畳して、舵角を減少させることを促す矢印状のマークが運転操作指示として表示される。
【0100】
図20は、第1実施形態の運転支援装置における画像表示の他の例を示す図である。
図20に示す例においては、タイヤ力限界F
maxを示す摩擦円に重畳して、タイヤ力現在値Fがベクトルを示す矢印として表示される。ベクトルを示す矢印の上下方向の大きさは制駆動力F
xを示し、左右方向の大きさは横力F
yを示している。
また、摩擦円の下部には、アクセルペダルPa、ブレーキペダルPbのイラストレーションが表示されている。
【0101】
図20の左側に示す例においては、運転者がアクセルオン操作を行っている場合を示している。
この場合、タイヤ力現在値Fがタイヤ力限界F
maxに接近し、タイヤ力余裕度が低下すると、アクセルペダルPaのイラストレーションに重畳して、アクセルオフ操作を促す「OFF」の表示がなされる。
図20の右側に示す例においては、運転者がアクセルをオフしていた場合を示している。
この場合、タイヤ力余裕度が低下すると、ブレーキペダルPbのイラストレーションに重畳して、ブレーキオン操作を促す「ON」の表示がなされる。
【0102】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)旋回時に最もタイヤ力余裕度がシビアとなる傾向がある旋回内前輪のタイヤ力余裕度(タイヤ力余裕度)が低下した際(タイヤ力が限界に近付いた際)に、運転者に対してタイヤ力余裕度を回復するよう運転操作指示を提示することにより、旋回内前輪のタイヤ力余裕度がさらに低下してタイヤ力現在値がタイヤ力限界に到達し、車両に不安定な挙動が発生することを防止できる。
(2)運転操作指示に関する情報とともにタイヤ力余裕度に関する情報を提示することにより、運転操作指示に関する情報の提示に先立ちタイヤ力余裕度がひっ迫していることを事前に察知することができる。
(3)旋回内前輪のタイヤ力余裕度の低下に応じて、駆動力の低下、制動力の増加、前輪舵角の減少の少なくとも一つを含む運転操作指示を提示することにより、駆動力の低下、前輪舵角の減少によるタイヤ力現在値の低下や、車両の減速に伴う横加速度(旋回求心加速度)の低下(タイヤ横力の低下)によってタイヤ力余裕度を適切に回復(増加)させることができる。
(4)旋回外前輪のタイヤ力余裕度に応じて、旋回内前輪のタイヤ力余裕度低下に応じて提示される運転操作指示の内容を異ならせることにより、タイヤ力余裕度が旋回内前輪だけでひっ迫しているのか、あるいは旋回外前輪に同時にひっ迫しているのかに応じて適切な運転操作指示を提示することで、各車輪のタイヤ力余裕度を適切な状態に維持し、車両が不安定な状態となることを防止できる。
(5)運転者に運転操作指示を提示しても旋回内前輪のタイヤ力余裕度が回復しない場合に、制動制御を介入して自動的に減速を行うことにより、運転者の操作が不十分であった場合でも旋回内前輪のタイヤ力が限界に達することを防止できる。この場合、運転者がブレーキ操作を行う必要がなくなり、運転者の負担を軽減できる。
【0103】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した運転支援装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0104】
第2実施形態の運転支援装置は、自車両(先行車両)の運転者に加えて、自車両の後方を同一方向に走行する後続車両の運転者に対しても、旋回内前輪のタイヤ力余裕度を回復させるための運転操作を提示することを特徴とする。
図21は、第2実施形態の運転支援装置のシステム構成を模式的に示す図である。
先行車両V1、後続車両V2は、それぞれ第1実施形態の車両1と同様のハードウェア構成を備えている。
また、先行車両V1、後続車両V2は、各車両の運転支援制御ユニット150が外部(一例として地上局)に設けられたサーバSと通信する通信装置170を備えている。
【0105】
先行車両V1、後続車両V2は、それぞれ各車両の現在位置、進行方向、車両の走行状態に関する情報、旋回内前輪のタイヤ力余裕度に関する情報をサーバSに逐次送信する。
車両の走行状態に関する情報として、例えば、車速、操舵装置の舵角、車体に作用している前後加速度及び横加速度、車体のヨーレート等が含まれる。
【0106】
サーバSと通信する複数の車両のうち1台を先行車両V1として定義した場合、サーバSは、先行車両V1に追従して走行する後続車両V2を特定する。
サーバSは、先行車両V1から送信された現在位置及び進行方向を、予め蓄積された高精度の3D地図データと照会して先行車両V1が走行している道路及び走行レーンを特定する。
サーバSは、特定された道路及び走行レーンを、先行車両V1から所定以内の車間距離で走行している他の車両を検出した場合、当該車両を後続車両V2として定義する。
【0107】
先行車両V1が走行中に、旋回内前輪のタイヤ力余裕度が所定の閾値以下まで低下した場合、追走している後続車両V2においても、同様の事態が生じる可能性が高い。
そこで、先行車両V1は、自車両において算出された旋回内前輪のタイヤ力余裕度、及び、当該タイヤ力余裕度を回復させるための運転操作(先行車両V1において表示装置160に提示された情報と同じもの)を、サーバSに送信する。
タイヤ力余裕度及び運転操作に関する情報を受信したサーバSは、これらの情報を後続車両V2に送信する。
【0108】
サーバSからタイヤ力余裕度及び運転操作に関する情報を受信した後続車両V2においては、運転支援制御ユニット150は、受信したタイヤ力余裕度及び運転操作に関する情報を表示装置160に表示し、運転者に提示する。
【0109】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、先行車両V1において旋回内前輪のタイヤ力余裕度が低下した場合には、後続車両V2においても同様の事態が生じる可能性が高いことから、後続車両V2の運転者に対してタイヤ力余裕度を回復させる運転操作指示に関する情報を提示することにより、後続車両V2において旋回内前輪のタイヤ力がタイヤ力限界を超過することを未然に防止できる。
【0110】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)運転支援装置、及び、車両の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、実施形態において、車両1は、前輪を主駆動輪(変速機と直結)とし、後輪を従駆動輪(変速機とトランスファクラッチを介して接続)としているが、本発明はこれに限らず、後輪を主駆動輪とする車両や、センターディファレンシャルを用いて前後輪に駆動力を伝達する車両にも適用することができる。
さらに、本発明は、前輪のみ又は後輪のみを駆動する2輪駆動の車両にも適用することができる。
(2)実施形態において、車両の走行用動力源は一例としてエンジン(内燃機関)であったが、車両の走行用動力源はこれに限定されず、例えば、エンジン-電気ハイブリッドシステムや、電動モータのみを走行用動力源とする電動車両にも本発明は適用が可能である。
(3)駆動力の推定に用いるタイヤのドライビングスティフネス(ブレーキングスティフネス)、車体すべり角、タイヤすべり角、タイヤ接地荷重などは、車上に搭載されたプロセッサにより車上で演算してもよいが、これに限らず、予め準備された計算結果に基づいて生成されたマップを記憶媒体に保持させ、車両の走行状態(車速、舵角、ヨーレート、加速度等)に基づいて、必要なパラメータがマップから読み出されるよう構成してもよい。
(4)各実施形態においては、運転者に対する運転操作指示、タイヤ力余裕度の提示を一例として画像表示によって行っているが、これらの提示は画像表示に限らず、他の手法により行ってもよい。例えば、音声や、インジケータランプの色、光量、発光態様(点灯、点滅等)、運転者が接触する部材の振動などによって行ってもよい。
(5)第2実施形態においては、先行車両V1から後続車両V2への運転操作指示、タイヤ力余裕度の伝達を、サーバを介在させた通信により行っているが、本発明はこれに限定されず、例えば先行車両から後続車両へ直接車車間通信によって伝達してもよい。
【符号の説明】
【0111】
1 車両 FW 前輪
RW 後輪 10 エンジン
20 トランスミッション 21 トルクコンバータ
30 前輪駆動力伝達機構 31 ドライブギヤ
32 ドリブンギヤ 33 ピニオンシャフト
34 フロントディファレンシャル 35 フロントドライブシャフト
40 トランスファクラッチ 50 後輪駆動力伝達機構
51 プロペラシャフト 52 リアディファレンシャル
53 リアドライブシャフト
110 エンジン制御ユニット 120 トランスミッション制御ユニット
130 駆動力配分制御ユニット 131 車速センサ
132 車速センサ 133 舵角センサ
134 加速度センサ 135 ヨーレートセンサ
140 トランスファクラッチ駆動部
150 運転支援制御ユニット 151 タイヤ力余裕度算出部
152 運転操作指示出力部
160 表示装置
V1 先行車両 V2 後続車両
S サーバ