(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080852
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ドライアイス輸送船
(51)【国際特許分類】
B63B 25/00 20060101AFI20240610BHJP
B63B 25/04 20060101ALI20240610BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B63B25/00 Z
B63B25/04 Z
B63B25/16 P
B63B25/16 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194145
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000199809
【氏名又は名称】川崎汽船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096699
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿嶋 英實
(72)【発明者】
【氏名】大木 健一
(57)【要約】
【課題】 ドライアイスの輸送に適した構造を有するドライアイス輸送船を提供する。
【解決手段】 貨物倉(3)内に設けられたタンク(7)を備え、前記タンク(7)は、船体上甲板に開口可能な開口部(9)と、本体部(8)とを有し、前記本体部(8)にベンド構造部(16)を設けたことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物倉内に設けられたタンクを備え、
前記タンクは、船体上甲板に開口可能な開口部と、本体部とを有し、
前記本体部にベンド構造部を設けたことを特徴とするドライアイス輸送船。
【請求項2】
さらに、前記タンクと船体上甲板との間に弾性部材を介在させたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。
【請求項3】
さらに、前記タンクの外側にアンカー部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。
【請求項4】
さらに、前記タンクの外側底部にキー部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイス輸送船に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素(CO2)の大規模排出による地球環境への悪影響が注目されつつあることから、CO2の回収と貯留、すなわちCCUS(Carbon dioxide Capture Utilization and Storage)の取り組みが本格化しつつある。
【0003】
CO2排出源の近傍に適当なCO2の貯留層が存在しない場合、或いは存在したとしても十分な貯留ポテンシャルが見込めない場合にはパイプラインや船舶によってCO2を輸送することになる。近距離輸送の場合はパイプラインが、長距離輸送の場合は船舶輸送がそれぞれ有利とされており、船舶輸送についてはCO2を液化した状態で輸送する液化CO2輸送船が有力視されている。
【0004】
しかし、液化CO2輸送船は、これまで欧州や日本で建造及び運用されてきたが、これらの既存船は食品用途のためにいずれも小型であり、大量輸送を必要とするCCUSには不向きである。
【0005】
加えて、CO2は冷却するだけでは液化せず、液化のためには圧力が必要となるため、液化した状態にて保持するためには圧力タンクが必須となるが、圧力タンクはその構造上、圧力及び容積を増やすには板厚を増加させる必要があるものの、板厚の増加には限りがあることから、タンク容積の増加、つまりタンクの大型化にもおのずと限界がある。
【0006】
そこで、CO2を固体状態、すなわち固体二酸化炭素(ドライアイス/dry ice)にして輸送することが考えられる。ドライアイスは固体二酸化炭素の商品名である。固形炭酸や固体炭酸ともいう。ドライアイスはその形状から粉末状の「スノー」、小粒状の「ペレット」、塊状の「ブロック」に分類できる。本発明ではこれらの形状分類に限定されない。船舶への積み下ろしに適した形状であればよい。
【0007】
ドライアイス輸送船に応用可能な先行技術としては、たとえば、天然ガスハイドレート輸送船が知られている(下記の特許文献1~3参照)。
【0008】
天然ガスハイドレートは、水分子と天然ガス分子からなる物質で、水分子が作る立体網状構造の内部に天然ガス分子が取り込まれた包接水和物である。特に、人工的に製造された天然ガスハイドレートは、海底に天然資源として存在する「メタンハイドレート」と区別して「NGH:Natural Gas Hydrate」と呼ばれる。
【0009】
包接水和物は天然ガスハイドレートに限らない。たとえば、水分子が作る立体網状構造の内部にCO2分子が取り込まれたCO2ハイドレートも包接水和物である。CO2ハイドレートは、ドライアイスと同様に大気圧で貯蔵できるためタンクの板厚や容積に制限がほとんどないという長所がある一方で、単位容積当たりのガス量が少なく(0.282g/cm3との研究結果もある)、-80℃における密度が 1.57g/cm3であるドライアイスと比較すると輸送効率が大きく劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-029163号公報
【特許文献2】特開2005-255075号公報
【特許文献3】特開2013-010412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の特許文献1~3に記載された先行技術を適用した場合、天然ガスハイドレートの温度が-20℃であるのに対して、ドライアイスの温度はそれよりもはるかに低い-78.5℃(昇華温度)であることから、天然ガスハイドレート輸送船の船倉の構造を、ドライアイス輸送船にそのまま適用することができないという問題点がある。これは、壁や床などの構造物素材の熱収縮が天然ガスハイドレートに比べて大きくなるからである。
【0012】
そこで、本発明は、ドライアイスの輸送に適した構造を有するドライアイス輸送船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のドライアイス輸送船は、貨物倉内に設けられたタンクを備え、前記タンクは、船体上甲板に開口可能な開口部と、本体部とを有し、前記本体部にベンド構造部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ドライアイスの輸送に適した構造を有するドライアイス輸送船を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ドライアイス輸送船1の概念的な全体外観図である。
【
図2】ドライアイス輸送船1の断面図(
図1のA-A断面)及び要部拡大図である。
【
図3】アンカー部14、キー部15及びベンド構造部16の概念図である。
【
図4】鋼船規則N編/液化ガスばら積船の表N6.3を示す図である。
【
図5】ドライアイス充填の一例を示す概念図である。
【
図6】ドライアイス払い出しの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるドライアイス輸送船の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ドライアイス輸送船1の概念的な全体外観図である。ドライアイス輸送船1は、その船体2に貨物倉3が設けられている。図では3つの貨物倉3が設けられているが、これは一つの例に過ぎない。貨物倉3は1つや2つあるいは4つ以上であってもよい。
【0017】
図2(a)は、ドライアイス輸送船1の断面図(
図1のA-A断面図)、
図2(b)は、同断面要部(
図2(a)のA部)の拡大図である。
図2(a)に示すように、貨物倉3は、船体上甲板4(以下、単に上甲板4という)と船体外板5と内壁6とで囲われた空間にタンク7を設けて構成されている。
【0018】
さらに、タンク7は、本体部8と開口部9とを有しており、タンク7の開口部9は、上甲板4に開口可能になっている。具体的には、図示の例においては、開口部9を密閉状態で覆うカバー部10を取り外すことによって開口部9が上甲板4に開口するようになっており、この開口状態で、タンク7へのドライアイスの充填やタンク7からのドライアイスの払い出しができるようになっている。充填や払い出しの具体例については後述する。
【0019】
図2(b)に示すように、タンク7の開口部9と上甲板4との間には、たとえば、ラバー等の弾性部材11が介在しており、この弾性部材11によって、タンク7の密閉状態を確保しつつ、上甲板4とタンク7との接続を確保するとともに、タンク7が熱収縮・膨張し、開口部9と上甲板4の位置関係が変位しても追従できる自由度を持たせている。
弾性部材11の両端はそれぞれボルト等の拘束具11a、11bによってタンク7の開口部9と上甲板4に取り付けられている。
【0020】
加えて、カバー部10とタンク7の開口部9とは直に接しておらず、たとえば、カバー部10の縁部と上甲板4との間に所定高さHのハッチコーミング12を介在させている。そして、このハッチコーミング12によってカバー部10とタンク7の開口部9との接触を回避しつつ、カバー部10でタンク7の開口部9を閉鎖したときのタンク7の密閉状態を確保維持できるようになっている。
【0021】
タンク7の本体部8の外側(外表面側)には断熱材13が張り付けられている。さらに、本体部8の外側には複数のアンカー部14が取り付けられるとともに、本体部8の外側底部にはキー部15が取り付けられている。断熱材13としては、たとえば、ポリウレタンフォームを主防熱材とし、仕上げ防熱材として耐水合板またはステンレスプレートを張付ける等の方法を用いることができる。
【0022】
図3(a)は、アンカー部14の概念図である。アンカー部14は船体側部14aと、それと対をなすタンク側部14bとからなり、タンク7が熱収縮・膨張し、タンク7の本体部8と内壁6の位置関係が変位しても追従できる自由度を持たせつつ、船体2の揺れに伴って生じるタンク7の本体部8の変位を、船体側部14aとタンク側部14bとの衝突で吸収する。
【0023】
図3(b)は、キー部15の概念図である。キー部15も船体側部15aと、船体側部15aを挟み込むように前後左右に配置された複数(図面では図示の都合から左右または前後の二つを示している)のタンク側部15bとからなり、船体2の揺れに伴って生じるタンク7の本体部8の前後左右への搖動を阻止する。
【0024】
加えて、タンク7の本体部8は、略全体が湾曲して形成されたベンド構造を有している。
図3(c)は、ベンド構造部16の概念図である。この図において、破線で囲まれた部分がベント構造部16であり、このベント構造部16は要するに可能な限り角を設けず曲線(湾曲)で形成された部分である。ベント構造部16の変位によって、タンク7の本体部8の熱収縮に伴う応力集中を緩和する。
【0025】
保冷対象部分(主としてタンク7であるが、これ以外にもカバー部10や弾性部材11及びハッチコーミング12などのドライアイスに直接触れる部分並びにドライアイスに直接触れなくてもドライアイスの保冷に影響を与える可能性がある船体やその他の部分)の材質はドライアイスの温度(-78.5℃)に対応するために、鋼船規則N編/液化ガスばら積船の表N6.3に従った材質選定を行う。
【0026】
図4は、鋼船規則N編/液化ガスばら積船の表N6.3を示す図である。この図に示すように、ドライアイスの温度(-78.5℃)にふさわしい材料は、たとえば、最低設計温度-90度の欄に示されているものが好ましい。
【0027】
次に、ドライアイスの充填や払い出しの具体例について説明する。
図5は、ドライアイス充填の一例を示す概念図である。この図において、港湾施設には、陸上コンベア17を頂部に備えた充填施設18が設けられており、この陸上コンベア17によって不図示のドライアイス貯留設備からドライアイスが運ばれてくる。
【0028】
陸上コンベア17の下流側には、たとえば、第1コンベア19、第2コンベア20、シュータ21及び第3コンベア22からなる搬送機構23が設けられており、この搬送機構23によって、陸上コンベア17によって運ばれてきたドライアイスをドライアイス輸送船1の貨物倉3に搬送してタンク7に充填できるようになっている。
【0029】
図6は、ドライアイス払い出しの一例を示す概念図である。この図において、ドライアイス輸送船1の上甲板4には並行する一対のガイドレール24が船体の前後方向に延設されている。さらに、この一対のガイドレール24には船幅方向のガントリー25が架け渡されており、このガントリー25が一対のガイドレール24の上を移動してすべての貨物倉3の上に位置できるようになっている。
【0030】
ガントリー25にはパケットエレベータ26が取り付けられている。このパケットエレベータ26はガイドレール24とほぼ並行水平な第1の状態と、貨物倉3の内部に突き入れられる第2の状態とに変形可能になっており、通常は第1の状態になっているが、ドライアイスの払い出し時には第2の状態に変形できるようになっている。
【0031】
ガントリー25にはガントリーコンベア27が取り付けられており、さらに、一対のガイドレール24の両方または一方に沿ってアンローディングコンベア28が、また、このアンローディングコンベア28の端に接してドライアイス輸送船1の船外へと延伸可能なシャトルコンベア29が設けられている。
【0032】
そして、任意の貨物倉3に積載されているドライアイスが、パケットエレベータ26、ガントリーコンベア27、アンローディングコンベア28及びシャトルコンベア29を経由して順次に運ばれ、不図示の船外貯留施設へと払い出しされるようになっている。
【0033】
本実施形態のドライアイス輸送船1によれば以下の効果を得ることができる。
(1)タンク7の本体部8の略全体をベンド構造としたので、タンク7の本体部8の熱収縮に伴う応力集中を緩和することができる。
(2)タンク7と上甲板4との間にラバー等の弾性部材11を介在させたので、タンク7の密閉状態を確保しつつ、タンク7が熱収縮・膨張しても追従できる自由度を持たせることができる。
(3)タンク7の外側にアンカー部14を設けたので、このアンカー部14によって船体2の揺れに伴って生じるタンク7の本体部8の変位を吸収することができる。
(4)タンク7の外側底部にキー部15を設けたので、このキー部15によって船体2の揺れに伴って生じるタンク7の本体部8の前後左右への搖動を阻止することができる。
【符号の説明】
【0034】
3 貨物倉
7 タンク
8 本体部
9 開口部
16 ベンド構造部
【手続補正書】
【提出日】2024-05-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明のドライアイス輸送船は、貨物倉内に設けられ、船体上甲板に開口可能な開口部と本体部とを有するタンクと、前記タンクの前記開口部を開閉可能に覆うカバー部と、前記タンクと前記船体上甲板との間に介在し、前記船体上甲板と前記タンクの前記開口部の接続を確保する弾性部材と、前記カバー部と前記船体上甲板との間に介在し、前記カバー部によって前記開口部が閉鎖された状態での前記タンクの密閉状態を確保するハッチコーミングと、を備えたことを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物倉内に設けられ、船体上甲板に開口可能な開口部と本体部とを有するタンクと、
前記タンクの前記開口部を開閉可能に覆うカバー部と、
前記タンクと前記船体上甲板との間に介在し、前記船体上甲板と前記タンクの前記開口部の接続を確保する弾性部材と、
前記カバー部と前記船体上甲板との間に介在し、前記カバー部によって前記開口部が閉鎖された状態での前記タンクの密閉状態を確保するハッチコーミングと、
を備えたことを特徴とするドライアイス輸送船。
【請求項2】
前記タンクの前記本体部は、湾曲するベンド構造部を有することにより略全体が湾曲して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。
【請求項3】
さらに、前記タンクの外側に、船体の内壁に設けられた船体側部と、当該船体側部に離間して前記タンクの前記本体部に設けられるとともに前記船体側部と対をなすタンク側部とからなり、前記本体部と前記内壁との位置関係の変化を許容するアンカー部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。
【請求項4】
さらに、前記タンクの外側底部に、船体の内壁に設けられた船体側部と、当該船体側部を挟み込むように前後左右に離間して前記タンクの前記本体部に配置された複数のタンク側部とからなるキー部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のドライアイス輸送船。