(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080873
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20240610BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240610BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240610BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20240610BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/13
H01G11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194195
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 開任
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AB01
5E078AB02
5E078AB03
5E078BA07
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL16
5H029HJ04
5H029HJ07
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB20
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】負極内でのキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する。
【解決手段】蓄電デバイスは、正極活物質を含み、板状の正極基部の主面から複数の正極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有する正極と、負極活物質を含み、板状の負極基部の主面から複数の負極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有し、負極櫛歯が正極櫛歯と互い違いとなり、負極櫛歯の先端が正極基部の主面に対向し負極基部の主面が正極櫛歯の先端に対向するように配置された負極と、負極と正極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、櫛歯構造の櫛歯同士の間に存在する櫛溝の延在方向に垂直な断面において、主面に平行な方向の寸法を幅とすると、負極櫛歯の幅は、正極櫛歯の幅よりも大きいものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含み、板状の正極基部の主面から複数の正極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有する正極と、
負極活物質を含み、板状の負極基部の主面から複数の負極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有し、前記負極櫛歯が前記正極櫛歯と互い違いとなり、前記負極櫛歯の先端が前記正極基部の主面に対向し前記負極基部の主面が前記正極櫛歯の先端に対向するように配置された負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
前記櫛歯構造の前記櫛歯同士の間に存在する櫛溝の延在方向に垂直な断面において、前記主面に平行な方向の寸法を幅とすると、前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも大きい、
蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅の1.05倍以上2.1倍以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記正極櫛歯の幅は、100μm以上190μm以下であり、前記負極櫛歯の幅は、150μm以上210μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも10μm以上30μm以下大きい、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記断面において、前記主面に垂直な方向の寸法を厚みとすると、前記正極基部の厚みは、40μm以上60μm以下であり、前記負極基部の厚みは、40μm以上60μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極櫛歯の幅は、170μm以上190μm以下であり、前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも10μm以上30μm以下大きい、請求項5に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記負極は、前記正極よりも体積が大きい、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の蓄電デバイスであって、
前記正極に電気的に接続された正極集電体と、
前記負極に電気的に接続された負極集電体と、
を備えた、蓄電デバイス。
【請求項9】
前記キャリアイオンは、リチウムイオンである、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、櫛歯構造を有する正極と、櫛歯構造を有し正極櫛歯と負極櫛歯とが互い違いとなるように配置された負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1,2参照)。特許文献1及び非特許文献1,2では、正極及び負極の櫛歯の形状を調整して、蓄電デバイスのエネルギー密度の向上などを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0159476号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Miyamoto et al., Cell Rep. Phys. Sci., 2, 100504 (2021).
【非特許文献2】Miyamoto et al., J. Power Sources, 536, 231473 (2022).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1,2の蓄電デバイスでは、エネルギー密度を高めることができるが、負極内で局所的にリチウムイオンが濃化して過充電状態となるおそれがあった。このため、キャリアイオンが負極内で局所的に濃化するのを抑制することが望まれていた。
【0006】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、負極内でのキャリアイオンの局所的な濃化をより抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、負極櫛歯の幅を正極櫛歯の幅よりも大きくすると、負極内でのキャリアイオンの局所的な濃化を抑制できることを見出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含み、板状の正極基部の主面から複数の正極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有する正極と、
負極活物質を含み、板状の負極基部の主面から複数の負極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有し、前記負極櫛歯が前記正極櫛歯と互い違いとなり、前記負極櫛歯の先端が前記正極基部の主面に対向し前記負極基部の主面が前記正極櫛歯の先端に対向するように配置された負極と、
前記負極と前記正極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
前記櫛歯構造の前記櫛歯同士の間に存在する櫛溝の延在方向に垂直な断面において、前記主面に平行な方向の寸法を幅とすると、前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも大きいものである。
【発明の効果】
【0009】
この蓄電デバイスでは、負極内でのキャリアイオンの局所的な濃化をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、負極内の反応活性点が増加し、負極活物質/電解液界面の反応抵抗が低減することなどにより、負極へのキャリアイオンの挿入がより円滑に行われるためと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実験例1~9の蓄電デバイスの構成の概略を示す説明図。
【
図3】実験例10~11の蓄電デバイスの構成の概略を示す説明図。
【
図4】実験例12~14の蓄電デバイスの構成の概略を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態で説明する本開示の蓄電デバイスは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えている。この蓄電デバイスは、正極に電気的に接続された正極集電体を備えているものとしてもよいし、負極に電気的に接続された負極集電体とを備えているものとしてもよい。この蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスのキャリアイオンは、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオンやマグネシウムイオンやストロンチウムイオン、カルシウムイオンなどの第2族イオンなどが挙げられる。ここでは、説明の便宜のため、リチウムイオンをキャリアイオンとするとするリチウムイオン二次電池をその主たる一例として以下説明する。
【0012】
ここで、本実施形態で開示する蓄電デバイスについて図面を用いて説明する。
図1は、蓄電デバイス10の一例を示す説明図である。蓄電デバイス10は、正極20と、負極30と、イオン伝導媒体40と、正極集電体42と、負極集電体44とを備えている。なお、この蓄電デバイス10では、
図1の紙面に平行な面で切断したいずれの断面においても、
図1の紙面手前に現れる断面と同じ形状で正極20、負極30、イオン伝導媒体40、正極集電体42及び負極集電体44が現れるものとしてもよい。
【0013】
蓄電デバイス10において、正極20及び負極30は櫛歯構造を有している。櫛歯構造は、櫛歯と櫛溝とが交互に存在する構造であり、櫛歯同士の間に櫛溝が存在する。具体的には、正極20は、板状の正極基部22の主面23から複数の正極櫛歯24が互いに間隔を開けて突出した櫛歯構造を有している。負極30は、板状の負極基部32の主面33から複数の負極櫛歯34が互いに間隔を開けて突出した櫛歯構造を有している。この負極30は、負極櫛歯34の先端が正極基部22の主面23に対向し、負極基部32の主面33が正極櫛歯24の先端に対向するように配置されている。つまり、負極30は、複数の負極櫛歯34が複数の正極櫛歯24とかみあうように正極20と対向して配置されている。なお、正極20の櫛歯構造は、隣合う正極櫛歯24の互いに対向する側面と、両者をつなぐ正極基部22の主面23とによって形成された櫛溝25を有し、この櫛溝25に負極櫛歯34が配置される。また、負極30の櫛歯構造は、隣合う負極櫛歯34の互いに対向する側面と、両者をつなぐ負極基部32の主面33とによって形成された櫛溝35を有し、この櫛溝35に正極櫛歯24が配置される。本明細書では、上述した櫛歯構造の櫛溝25,35の延在方向に垂直な断面において、主面23,33に平行な方向、つまり
図1の紙面上下方向の寸法を幅と称し、主面23,33に垂直な方向、つまり
図1の紙面左右方向の寸法を厚みと称する。また、上述した櫛溝25,35の延在方向の寸法を奥行きと称する。なお、厚み方向の寸法を高さと称することもある。
【0014】
蓄電デバイス10において、負極櫛歯34の幅wnは、正極櫛歯24の幅wpよりも大きい。負極櫛歯34の幅wnは、正極櫛歯24の幅wpの1.05倍以上2.1倍以下であるものとしてもよい。つまり、正極櫛歯24の幅wpに対する負極櫛歯34の幅wnの比wn/wpは1.05以上2.1以下でもよい。この比wn/wpは、負極30内のキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する観点や、蓄電デバイス10の内部抵抗を低減する観点からは、大きい方が好ましく、例えば、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.4以上がさらに好ましい。比wn/wpは、蓄電デバイス10の容量やエネルギー密度を高める観点からは、小さい方が好ましく、例えば、1.7以下が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。
【0015】
正極20は、正極活物質を含み、上述のとおり、板状の正極基部22の主面23から複数の正極櫛歯24が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有する。複数の正極櫛歯24のうち、端に配置された1つの隣(
図1では下側)には、その正極櫛歯24とは間隔を開けて正極端用櫛歯26が1本配置されている。正極櫛歯24の幅wpは、例えば、100μm以上190μm以下としてもよい。正極櫛歯24の幅wpは、負極30内のキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する観点や、蓄電デバイス10の内部抵抗を低減する観点からは、小さい方が好ましく、例えば170μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、130μm以下がさらに好ましく、110μm以下が一層好ましい。正極櫛歯24の幅wpは、蓄電デバイス10の容量やエネルギー密度を高める観点からは、大きい方が好ましく、例えば、110μm以上が好ましく、130μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましく、170μm以上が一層好ましい。これらのバランスを考慮し、正極櫛歯24の幅wpは、170μm以上190μm以下としてもよく、180μmとしてもよい。なお、正極櫛歯24の幅は、正極櫛歯24の奥行き(ここでは、後述する奥行きDと同じ)よりも小さいものとしてもよく、奥行きの1/2以下としてもよく、1/5以下としてもよく、1/10以下としてもよい。正極櫛歯24の本数は、例えば、3本以上100本以下としてもよく、5本以上20本以下としてもよい。正極端用櫛歯26は、正極櫛歯24とは幅が異なる櫛歯である。正極端用櫛歯26の幅wxpは、例えば、正極櫛歯24の幅wpよりも小さいものとしてもよく、正極櫛歯24の幅wpの半分かそれ以下としてもよい。正極櫛歯24の幅wp及び正極端用櫛歯26の幅wxpは、その基端から先端まで一定であるものとしてもよい。正極櫛歯24及び正極端用櫛歯26の高さhpは、例えば100μm以上30000μm以下としてもよく、200μm以上800μm以下としてもよく、400μm以上600μm以下としてもよい。正極基部22の厚みtpは、例えば、10μm以上100μm以下としてもよく、30μm以上70μm以上としてもよく、40μm以上60μm以下としてもよく、45μm以上55μm以下としてもよく、50μmとしてもよい。正極基部22の厚みtpは、エネルギー密度を高める観点からは薄い方が好ましく、例えば、50μm以下としてもよい。
【0016】
正極20は、正極活物質と、導電材と、結着材とを含むものとしてもよい。正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能なものとしてもよく、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0≦x≦1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMncO2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)、Li(1-x)CoaNibMncO4(0<a<1、0<b<1、1≦c<2、a+b+c=2)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムとマンガンとを含む複合酸化物、例えば、スピネル型のLiMn2O4などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極20において、正極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、正極20の質量全体に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。正極20において、正極活物質の含有量は、99質量%以下としてもよい。正極20は、多孔体であるものとしてもよく、その空隙率は50体積%以上70体積%以下としてもよく、55体積%以上65体積%以下としてもよい。正極20の空隙には、イオン伝導媒体40に起因する非水電解液などが充填されていてもよい。
【0017】
負極30は、負極活物質を含み、上述のとおり、板状の負極基部32の主面33から複数の負極櫛歯34が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有している。複数の負極櫛歯34のうち、端に配置された1つの隣(
図1では上側)には、その負極櫛歯34とは間隔を開けて負極端用櫛歯36が1本配置されている。負極櫛歯34の幅wnは、正極櫛歯24の幅wpよりも大きければよいが、例えば、正極櫛歯の幅wpよりも10μm以上70μm以下大きいものとしてもよい。負極櫛歯34の幅wnと正極櫛歯24の幅wpとの差Δwは、負極30内のキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する観点や、蓄電デバイス10の内部抵抗を低減する観点からは、大きい方が好ましく、例えば、30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。負極櫛歯34の幅wnと正極櫛歯24の幅wpとの差Δwは、蓄電デバイス10の容量やエネルギー密度を高める観点からは、小さい方が好ましく、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。これらのバランスを考慮し、負極櫛歯34の幅wnと正極櫛歯24の幅wpとの差Δwは、10μm以上30μm以下としてもよく、15μm以上25μm以下としてもよく、20μmとしてもよい。負極櫛歯34の幅wnは、例えば、150μm以上210μm以下としてもよい。負極櫛歯34の幅wnは、負極30内のキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する観点や、蓄電デバイス10の内部抵抗を低減する観点からは、大きい方が好ましく、例えば、170μm以上が好ましく、190μm以上がより好ましい。負極櫛歯34の幅wnは、蓄電デバイス10の容量を高める観点からは、小さい方が好ましく、190μm以下が好ましく、170μm以下がより好ましい。これらのバランスを考慮し、負極櫛歯34の幅wnは、190μm以上210μm以下としてもよく、200μmとしてもよい。なお、負極櫛歯34の幅wnは、負極櫛歯34の奥行き(ここでは、後述する奥行きDと同じ)よりも小さいものとしてもよく、奥行きの1/2以下としてもよく、1/5以下としてもよく、1/10以下としてもよい。負極櫛歯34の本数は、例えば、3本以上100本以下としてもよく、5本以上20本以下としてもよい。負極端用櫛歯36は、負極櫛歯34とは幅が異なる櫛歯である。負極端用櫛歯36の幅wxnは、例えば、負極櫛歯34の幅wnよりも小さいものとしてもよく、負極櫛歯34の幅wnの半分かそれ以下としてもよい。負極櫛歯34の幅wn及び負極端用櫛歯36の幅wxnは、その基端から先端まで一定であるものとしてもよい。負極櫛歯34及び負極端用櫛歯36の高さhnは、例えば100μm以上30000μm以下としてもよく、200μm以上800μm以下としてもよく、400μm以上600μm以下としてもよい。負極基部32の厚みtnは、例えば、10μm以上100μm以下としてもよく、30μm以上70μm以上としてもよく、40μm以上60μm以下としてもよく、45μm以上55μm以下としてもよく、50μmとしてもよい。負極基部32の厚みtnは、正極基部22の厚みtpと同じとしてもよい。
【0018】
負極30は、正極20よりも体積が大きいものとしてもよい。正極20と負極30との全体に対する負極30の体積割合は、50%超過60%以下としてもよい。この体積割合は、負極30内のキャリアイオンの局所的な濃化を抑制する観点や、蓄電デバイス10の内部抵抗を低減する観点からは、大きい方が好ましく、例えば、53%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、57%以上がさらに好ましい。この体積割合は、蓄電デバイス10の容量やエネルギー密度を高める観点からは、小さい方が好ましく、例えば、57%以下が好ましく、55%以下がより好ましく、53%以下がさらに好ましい。
【0019】
負極30は、負極活物質と、結着材とを含むものとしてもよく、必要に応じて導電材を含むものとしてもよい。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能なものとしてもよく、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。負極30に用いられる導電材、結着材などは、それぞれ正極20で例示したものを用いることができる。負極30において、負極活物質の含有量はより多いことが好ましく、負極30の質量全体に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。負極30において、負極活物質の含有量は、99質量%以下としてもよい。負極30は、多孔体であるものとしてもよく、その空隙率は45体積%以上65体積%以下としてもよく、50体積%以上60体積%以下としてもよい。負極30の空隙には、イオン伝導媒体40に起因する非水電解液などが充填されていてもよい。
【0020】
イオン伝導媒体40は、正極20と負極30との間に介在する。より詳しくは、イオン伝導媒体40は、正極基部22の主面23と、正極櫛歯24の側面及び先端面と、正極端用櫛歯26の側面及び先端面とからなる正極表面と、負極基部32の主面33と、負極櫛歯34の側面及び先端面と、負極端用櫛歯36の側面及び先端面とからなる負極表面と、の間に介在する。イオン伝導媒体40は、この正極表面と負極表面との間隔を埋めるように配置されており、この間隔に対応するイオン伝導媒体40の厚みtsは、例えば、1μm以上30μm以下としてもよく、5μm以上25μm以下としてもよく、10μm以上20μm以下としてもよい。
【0021】
イオン伝導媒体40は、キャリアイオンであるリチウムイオンを伝導する。イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩としては、例えば、正極のキャリアをリチウムイオンとした場合、公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6や、LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2などが挙げられ、このうちLiPF6や、LiBF4が好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体などを用いてもよい。また、非水系電解液に代えて水溶液系電解液を用いてもよい。
【0022】
イオン伝導媒体40は、樹脂と上述した電解液とを含むイオン伝導膜としてもよい。樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdFとHFPとの共重合体では、非水電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。
【0023】
正極集電体42は、正極20と電気的に接続されている。ここでは、正極集電体42は、正極基部22のうち正極櫛歯24とは反対側の面27の全面に形成されている。なお、正極集電体42の配置は、これに限定されるものではなく、例えば、面27のうちの一部の面に形成されていてもよいし、正極20のうち、櫛溝25の延在方向に垂直な端面、すなわち、
図1における前面や背面の、全面又は一部の面に形成されていてもよい。正極集電体42は、正極活物質などに対して化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されず、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらのうち、アルミニウムが好ましい。正極集電体として使用される電位領域ではリチウムイオンがドープされにくいこと、耐食性が高いことなどにより、リチウム二次電池の正極に特に適しているからである。正極集電体42の形状は、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体などとすることができる。シート状には、箔状やフィルム状などが含まれる。正極集電体42の厚さは、例えば10μm以上20μm以下が好ましく、12μm以上17μm以下がより好ましい。正極集電体42の厚さを10μm以上とすれば、正極集電体42の機械的強度をより高めることができる。また、正極集電体42の厚さを20μm以下とすれば、蓄電デバイス10において正極集電体42の体積分率をより少なくして正極20等の体積分率をより高めることができるため、蓄電デバイス10のエネルギー密度をより高めることができる。
【0024】
負極集電体44は、負極30と電気的に接続されている。ここでは、負極集電体44は、負極基部32のうち負極櫛歯34とは反対側の面37の全面に形成されている。なお、負極集電体44の配置は、これに限定されるものではなく、例えば、面37のうちの一部の面に形成されていてもよいし、負極30のうち、櫛溝35の延在方向に垂直な端面、すなわち、
図1における前面や背面の、全面又は一部の面に形成されていてもよい。負極集電体44は、負極活物質などに対して化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されず、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらのうち、銅が好ましい。負極集電体44として使用される電位領域でリチウムイオンがドープされにくいこと、耐食性が高いことなどにより、リチウム二次電池の負極に特に適しているからである。負極集電体44の形状は、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体などとすることができる。シート状には、箔状、フィルム状などが含まれる。負極集電体44の厚さは、例えば5μm以上15μm以下が好ましく、8μm以上12μm以下がより好ましい。負極集電体44の厚さを5μm以上とすれば、負極集電体42の機械的強度をより高めることができる。また、負極集電体44の厚さを15μm以下とすれば、蓄電デバイス10において負極集電体44の体積分率をより少なくして負極30等の体積分率をより高めることができるため、蓄電デバイス10のエネルギー密度をより高めることができる。
【0025】
この蓄電デバイス10の厚みTは、例えば、100μm以上30000μm以下としてもよく、300μm以上1000μm以下としてもよく、500μm以上700μmとしてもよく、600μmとしてもよい。但し、厚みTは、正極集電体42及び負極集電体44を除くものとする。この蓄電デバイス10の幅Wは、例えば、500μm以上30000μm以下としてもよく、1000μm以上7000μm以下としてもよく、2000μm以上5000μm以下としてもよく、3000μmとしてもよい。この蓄電デバイス10の奥行きDは、例えば、100μm以上30000μm以下としてもよく、1000μm以上7000μm以下としてもよく、2000μm以上5000μm以下としてもよく、3000μmとしてもよい。このような寸法の蓄電デバイス10は、IoT(Internet of Things)デバイスの電源等に用いられるマイクロバッテリーとして、好適に用いることができる。
【0026】
この蓄電デバイス10は、例えば、3Dプリント技術を用いて形成してもよい。3Dプリント技術を用いて蓄電デバイス10を製造する場合、例えば、Sun et al., Adv. Mater., 25, 4539 (2013)のように、まず、高粘度の電極インクを塗布して3D構造を製造し、次に、この3D構造を加熱して液体やポリマーなどを飛ばし、その後、電解液を注入してパッケージングしてもよい。その際に用いる正極用や負極用の電極インクは、例えば、活物質の含有量が45質量%以上65質量%以下であるものとしてもよく、50質量%以上60質量%以下であるものとしてもよい。また、この蓄電デバイス10は、例えば、Ning et al., 112, 6573 (2015)のように、リソグラフィー技術を用いて形成してもよい。
【0027】
以上説明した実施形態の蓄電デバイス10では、負極30内でのキャリアイオンの局所的な濃化を抑制することができる。こうした効果が得られる理由は、例えば、負極櫛歯34の幅を正極櫛歯32の幅よりも大きくすることで、負極30内の反応活性点が増加し、負極活物質/電解液界面の反応抵抗が低減することなどにより、負極へのリチウム挿入がより円滑に行われるためと推察される。
【0028】
特に、蓄電デバイス10において、正極櫛歯24の幅wpを100μm以上190μm以下とし、負極櫛歯34の幅wnを150μm以上210μm以下とし、負極櫛歯34の幅wnを正極櫛歯24の幅wpよりも10μm以上30μm以下大きいものとすると、過充電状態(例えば、充電時に負極/電解液界面で生じるデンドライト成長)を抑制しつつ、高いエネルギー密度を達成できる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、櫛歯状の電極を持つリチウムイオン電池において、負極櫛歯34の幅wnを正極櫛歯24の幅wpよりも大きくすることで、正極20と負極30の全体における負極30の体積割合が増えるため、負極30内の反応活性点が増加し、充電時のデンドライト成長が抑制されると推察される。また、リチウムイオン電池における内部抵抗の主要因の1つが、負極/電解液界面に生じる被膜抵抗であると考えられるが、負極30の体積割合を増やすことで反応表面が増加し、被膜抵抗が低減すると推察される。その結果として、電池の初期容量が減少しても、高いエネルギー密度を達成できると推察される。なお、上述のデンドライト成長に関し、負極30内のリチウム濃度の偏りによって一部の負極活物質にリチウムイオンが集中すると、活物質に吸蔵されなかった(活物質の吸蔵量を超えた)リチウムが負極表面で析出するデンドライト成長が起こることがあるが、反応活性点を増やすことで、このリチウムイオンの集中を緩和できると推察される。また、上述のエネルギー密度に関し、電池のエネルギー密度は、初期容量と内部抵抗のバランスによって決まり、初期容量の低下はエネルギー密度の低下につながり、内部抵抗の増加もエネルギー密度の低下につながると考えられる。蓄電デバイス10において、負極30の体積割合を増やすと、初期容量が正極の容量に規制されるため初期容量は減少するが、負極/電解液界面の面積が増加するため、内部抵抗の主成分の1つである負極/電解液界面の被膜抵抗は低減する。この両者のバランスを適切にとることにより電池のエネルギー密度が向上すると考えられる。
【0029】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、正極櫛歯24と負極櫛歯34の本数は同じとしたが、正極櫛歯24の本数を多くしてもよいし、負極櫛歯34の本数を多くしてもよい。また、正極端用櫛歯26を1本と、負極端用櫛歯36を1本備えるものとしたが、その一方又は両方を省略してもよい。また、正極20は、正極端用櫛歯26を2本備え、その間に複数の正極櫛歯24が配置されているものとしてもよい。その場合、負極30は、負極端用櫛歯36を有さず、正極櫛歯24よりも1本多く負極櫛歯34を有するものとすればよい。あるいは、負極30は、負極端用櫛歯36を2本備え、その間に複数の負極櫛歯34が配置されているものとしてもよい。その場合、正極20は、正極端用櫛歯26を有さず、負極櫛歯34よりも1本多く正極櫛歯24を有するものとすればよい。
【0031】
本開示は、以下の[1]~[9]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 正極活物質を含み、板状の正極基部の主面から複数の正極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有する正極と、
負極活物質を含み、板状の負極基部の主面から複数の負極櫛歯が互いに間隔をあけて突出した櫛歯構造を有し、前記負極櫛歯が前記正極櫛歯と互い違いとなり、前記負極櫛歯の先端が前記正極基部の主面に対向し前記負極基部の主面が前記正極櫛歯の先端に対向するように配置された負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、キャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
前記櫛歯構造の前記櫛歯同士の間に存在する櫛溝の延在方向に垂直な断面において、前記主面に平行な方向の寸法を幅とすると、前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも大きい、
蓄電デバイス。
[2] 前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅の1.05倍以上2.1倍以下である、[1]に記載の蓄電デバイス。
[3] 前記正極櫛歯の幅は、100μm以上190μm以下であり、前記負極櫛歯の幅は、150μm以上210μm以下である、[1]又は[2]に記載の蓄電デバイス。
[4] 前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも10μm以上30μm以下大きい、[1]~[3]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[5] 前記断面において、前記主面に垂直な方向の寸法を厚みとすると、前記正極基部の厚みは、40μm以上60μm以下であり、前記負極基部の厚みは、40μm以上60μm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[6] 前記正極櫛歯の幅は、170μm以上190μm以下であり、前記負極櫛歯の幅は、前記正極櫛歯の幅よりも10μm以上30μm以下大きい、[1]~[5]に記載の蓄電デバイス。
[7] 前記負極は、前記正極よりも体積が大きい、[1]~[6]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の蓄電デバイスであって、
前記正極に電気的に接続された正極集電体と、
前記負極に電気的に接続された負極集電体と、
を備えた、蓄電デバイス。
[9] 前記キャリアイオンは、リチウムイオンである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の蓄電デバイス。
【実施例0032】
以下には、本開示の蓄電デバイスを具体的に検討した例を、実施例として説明する。なお、実験例1~9が実施例に相当し、実験例10~14が比較例に相当する。
【0033】
[蓄電デバイス]
実験例1~14では、
図2A~2I,3A~3B,4A~4Cの蓄電デバイスを検討した。なお、
図2A~2I,3A~3B,4A~4Cは、
図1の正面図に対応する。実験例1~14の蓄電デバイスは、いずれも、厚みT(集電体を除く厚み)は600μm、奥行きDは3000μmとした。また、セパレータの厚みは20μmとした。実験例1~14において、正極活物質は、スピネル型のリチウムマンガン複合酸化物(LMO)とした。負極活物質は、黒鉛(大阪ガス製、MCMB25-10)とした。イオン伝導媒体(イオン伝導膜)は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:DMC=1:2の体積比で混合した混合液に1.0MのLiPF
6を加えた電解液と、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)とで構成されたゲル電解質とした。正極活物質の含有量は、正極20の質量全体に対して90質量%とし、負極活物質の含有量は負極30の質量全体に対して95質量%とした。正極20は、多孔体であり、その空隙率は63体積%とした。負極30は、多孔体であり、その空隙率は50体積%とした。以下に、実験例1~14の具体的な寸法等を説明する。
【0034】
(実験例1)
図2Aの蓄電デバイスを検討した。正極基部の厚みtpは50μm、正極櫛歯の幅wpは100μm、本数は8本、正極端用櫛歯の幅wxpは50μm、本数は1本とした。負極基部の厚みtnは50μm、負極櫛歯の幅wnは160μm、本数は8本、負極端用櫛歯の幅wxnは50μm、本数は1本とした。この蓄電デバイスの幅Wは、2520μmである。
(実験例2)
図2Bの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを120μmとした以外は、実験例1と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、2680μmである。
(実験例3)
図2Cの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを140μmとした以外は、実験例1と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、2840μmである。
(実験例4)
図2Dの蓄電デバイスを検討した。負極用櫛歯の幅wnを180μmとし、正極用櫛歯の幅wpを120μmとした以外は、実験例1と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、2840μmである。
(実験例5)
図2Eの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを140μmとした以外は、実験例4と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、3000μmである。
(実験例6)
図2Fの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを160μmとした以外は、実験例4と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、3160μmである。
(実験例7)
図2Gの蓄電デバイスを検討した。負極用櫛歯の幅wnを200μmとし、正極用櫛歯の幅wpを140μmとした以外は、実験例1と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、3160μmである。
(実験例8)
図2Hの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを160μmとした以外は、実験例7と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、3320μmである。
(実験例9)
図2Iの蓄電デバイスを検討した。正極用櫛歯の幅wpを180μmとした以外は、実験例7と同様である。この蓄電デバイスの幅Wは、3480μmである。
【0035】
(実験例10)
図3Aの蓄電デバイスを検討した。この蓄電デバイスは、正負極の櫛歯の先端側が基端側よりも細いものとした。正極基部の厚みtpは50μm、正極櫛歯の基端側の幅は160μm、先端側の幅は100μm、本数は10本、正極端用櫛歯はなしとした。負極基部の厚みtnは50μm、負極櫛歯の基端側の幅は160μm、先端側の幅は100μm、本数は10本、負極端用櫛歯の幅wxnは50μm、本数は1本とした。この蓄電デバイスの幅Wは3000μmである。なお、実験例10の構造は、非特許文献2において、Monte Carlo Tree Search (MCTS)で最適化された構造であり、非特許文献2の
図3C(a)に対応する。
(実験例11)
図3Bの蓄電デバイスを検討した。この蓄電デバイスは、負極櫛歯が正極櫛歯よりも細いものとした。正極基部の厚みtpは50μm、正極櫛歯の幅wpは160μm、本数は10本、正極端用櫛歯はなしとした。負極基部の厚みtnは50μm、負極櫛歯の幅wnは100μm、本数は9本、負極端用櫛歯の幅wxnは50μm、本数は2本とした。この蓄電デバイスの幅Wは、3000μmである。なお、実験例11の構造は、非特許文献1及び非特許文献2において、ランダムサーチとMonte Carlo Tree Search (MCTS)で最適化された構造であり、非特許文献1の5E(a)及び非特許文献2の
図4C(a)に対応する。
【0036】
(実験例12)
図4Aの蓄電デバイスを検討した。この蓄電デバイスは、櫛歯構造ではなく平板構造の正極及び負極を備えるものとし、正極の厚みは110μm、負極の厚みは470μmとした。また、この蓄電デバイスの幅Wは3000μmとした。
(実験例13)
図4Bの蓄電デバイスを検討した。この蓄電デバイスは、櫛歯構造ではなく平板構造の正極及び負極を備えるものとし、正極の厚みは170μm、負極の厚みは410μmとした。また、この蓄電デバイスの幅Wは3000μmとした。
(実験例14)
図4Cの蓄電デバイスを検討した。この蓄電デバイスは、櫛歯構造ではなく平板構造の正極及び負極を備えるものとし、正極の厚みは230μm、負極の厚みは350μmとした。また、この蓄電デバイスの幅Wは3000μmとした。
【0037】
[評価]
体積あたりの電池容量は、初期容量を電池セル全体の体積で割ることによって評価した。正極容量によって規制される実験例1~9の初期容量は、正極活物質LMOの容量を用いた。実験例10,11の初期容量は非特許文献2の値を用いた。
抵抗率は、伝送線モデルを利用した3D porous electrode modelを使って評価した。
エネルギー密度と負極内リチウム濃度は、COSMOL Multiphysics Software packageを使い、連続体シミュレーションによって評価した。連続体シミュレーションでは、Doyle, et al., J. Electrochem. Soc., 143, 1890 (1996). に記載の電池モデル(porous electrode theory と concentrated solution theory を組み合わせたモデル)を使用した。なお、電流密度は、蓄電デバイスの幅Wと奥行きD(例えば実験例1では2520μm×3000μm)で構成される面で定義されるものとした。電流密度はXC=X×3.16mA/cm2で表される。つまり、1C=3.16mA/cm2であり、6C=18.96mA/cm2であるものとした。また、エネルギー密度は、蓄電デバイスの幅Wと厚みT(例えば実験例1では2520μm×600μm)で構成される面で定義されるものとした。負極内リチウム濃度は、1.57mA/cm2で約7300秒充電後に負極30の活物質表面リチウム濃度分布を評価し、その最小値及び最大値を求めた。なお、電流密度は、蓄電デバイスの幅Wと奥行きD(例えば実験例1では2520μm×3000μm)で構成される面で定義されるものとした。
なお、上記の点以外は、上述した非特許文献1(Miyamoto et al., Cell Rep. Phys. Sci., 2, 100504 (2021))に記載された方法に従った。
【0038】
[結果と考察]
表1に、実験例1~11の蓄電デバイスの体積あたりの電池容量q[C/cm3]、抵抗率ρ[Ωcm]、及び充電時の負極内リチウム濃度[mol/m3]を示した。また、表2に、実験例1~14の蓄電デバイスのエネルギー密度を示した。
【0039】
体積あたりの電池容量を比較したところ、実験例1~9では、実験例10~11よりも低い値を示した。また、実験例1~9においては、正極櫛歯の幅が大きいほど、負極櫛歯の幅が小さいほど、負極櫛歯の幅と正極櫛歯の幅との差が小さいほど、容量が向上する傾向が確認された。
【0040】
抵抗率を比較したところ、実験例1~9では実験例10~11よりも低い値を示した。抵抗率が高いと、例えばハイレート充放電時の容量が小さくなるおそれがあるが、実験例1~9では、抵抗率が低く、ハイレート特性の低下が抑制されると推察された。実験例1~9においては、正極櫛歯の幅が小さいほど、負極櫛歯の幅が大きいほど、負極櫛歯の幅と正極櫛歯の幅との差が大きい程、抵抗率が低減する傾向が確認された。
【0041】
負極内リチウム濃度の最大値(max)を比較したところ、実験例1~9では、実験例10~11よりも低く、例えば、実験例3,6,9では、実験例10に対して約7%低く、実験例11に対して20%以上低かった。負極内のリチウム濃度が局所的に高くなると、当該箇所でリチウムのデンドライト成長が生じるおそれがあるが、実験例1~9では負極内のリチウム濃度が比較的低く、デンドライト成長が抑制されると推察された。実験例1~9においては、正極櫛歯の幅が小さいほど、負極櫛歯の幅が大きいほど、負極櫛歯の幅と正極櫛歯の幅との差が大きいほど、負極内のリチウムの局所的な高濃度化が生じにくい傾向が確認された。
【0042】
エネルギー密度を比較したところ、実験例1~9では、実験例12~14よりも高い値を示した。実験例1~9においては、正極櫛歯の幅が大きいほど、負極櫛歯の幅と正極櫛歯の幅との差が小さいほど、エネルギー密度が向上する傾向が確認された。実験例1~9は、5C以下ではいずれも実験例10,11よりも低い値であったが、6Cでは実験例9が、6.8Cでは実験例3,6,9が実験例10,11よりも高い値を示した。なお、実験例3,6,9では、5C以下でも、実験例10の90%以上のエネルギー密度を維持していた。また、実験例3,6,9では、高電流時(6C)において、実験例11の2倍近いエネルギー密度が得られることがわかった。エネルギー密度は、電池容量と抵抗率とのトレードオフによって決まると考えられ、実験例3,6,9は、電池容量と抵抗率とのバランスがエネルギー密度の向上に特に適していると推察された。なお、実験例3,6,9は、実験例1,2,4,5,7,8に比べて負極内リチウム濃度の最大値は大きいものの、負極内リチウム濃度の最大値(max)と最小値(min)との差は小さいため、反応の不均一が生じにくく、好ましいと推察された。
【0043】
【0044】
10 蓄電デバイス、20 正極、22 正極基部、23 主面、24 正極櫛歯、25 櫛溝、26 正極端用櫛歯、27 面、30 負極、32 負極基部 33 主面、34 負極櫛歯、35 櫛溝、36 負極端用櫛歯、37 面、40 分離膜、42 正極集電体、44 負極集電体、W,wp,wxp,wn,wxn 幅、T,tp,tn,ts 厚み、hp,hn 高さ、D 奥行き。