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特開2024-80881自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム
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  • 特開-自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム 図1
  • 特開-自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム 図2
  • 特開-自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム 図3
  • 特開-自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080881
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/30 20060101AFI20240610BHJP
   G06T 7/70 20170101ALI20240610BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240610BHJP
【FI】
G01C21/30
G06T7/70 A
G06T7/00 650A
G06T7/00 350B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194207
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 勇二
【テーマコード(参考)】
2F129
5L096
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB33
2F129BB50
2F129BB66
2F129DD13
2F129DD21
2F129EE02
2F129EE65
2F129EE78
2F129FF02
2F129GG17
2F129GG18
5L096AA09
5L096BA04
5L096EA15
5L096EA16
5L096EA39
5L096FA01
5L096FA06
5L096FA66
5L096JA03
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】自己位置推定の精度を向上させることが可能な自己位置推定装置、自己位置推定方法、および自己位置推定プログラムを提供する。
【解決手段】自己位置推定装置は、地図情報取得部(112)と、模擬セマンティック画像生成部(113)と、実セマンティック画像生成部(114)と、最適化処理部(115)と、自己位置算出部(116)と、を備える。最適化処理部(115)は、評価関数を用いて模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致度を算出し、一致度が高くなるように模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行し、模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する。評価関数において、模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を用いて、最適化の際の一致度を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周辺を撮像するカメラ(122)を有する移動体(10)に搭載され、前記移動体の位置を推定する自己位置推定装置であって、
前記移動体の位置を表す初期位置情報を取得する初期位置取得部(111)と、
セマンティックラベルが付与された3D地図を表す3D地図情報を取得する地図情報取得部(112)と、
前記3D地図情報上において前記初期位置情報が示す位置から前記カメラを通して見える画像であって深度情報を含む模擬セマンティック画像、を生成する模擬セマンティック画像生成部(113)と、
前記カメラが撮像した周辺画像を対象にセマンティックセグメンテーションを実行して得られる画像である実セマンティック画像を生成する実セマンティック画像生成部(114)と、
評価関数を用いて前記模擬セマンティック画像と前記実セマンティック画像との一致度を算出し、前記一致度が高くなるように前記模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行し、前記模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する最適化処理部(115)と、
前記最適化処理部により導出された前記相対姿勢行列と、前記初期位置情報と、を用いて、前記移動体の自己位置を算出する自己位置算出部(116)と、
を備え、
前記最適化処理部は、前記評価関数において、前記模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を用いて、前記最適化の際の前記一致度を算出する、自己位置推定装置。
【請求項2】
前記重み変数は、前記ピクセルの属するクラスの出現頻度に応じて設定され、前記出現頻度が低いクラスに属する前記ピクセルは、前記出現頻度が高いクラスに属する前記ピクセルよりも前記重み変数が大きく設定されている、請求項1に記載の自己位置推定装置。
【請求項3】
前記重み変数は、前記ピクセルの前記カメラからの距離に応じて設定され、前記距離が近い前記ピクセルは、前記距離が遠い前記ピクセルよりも前記重み変数が小さく設定されている、請求項1または請求項2に記載の自己位置推定装置。
【請求項4】
前記重み変数は、前記ピクセルの属する物体の性質に応じて設定されている、請求項1または請求項2に記載の自己位置推定装置。
【請求項5】
前記重み変数は、位置誤差が小さくなるように前記評価関数を最小化する値として、機械学習により設定されている、請求項1または請求項2に記載の自己位置推定装置。
【請求項6】
周辺を撮像するカメラ(122)を有する移動体(10)に搭載された自己位置推定装置を用いて、前記移動体の位置を推定する自己位置推定方法であって、
前記自己位置推定装置は、初期位置取得部(111)と、地図情報取得部(112)と、模擬セマンティック画像生成部(113)と、実セマンティック画像生成部(114)と、最適化処理部(115)と、自己位置算出部(116)と、を備え、
前記初期位置取得部により、前記移動体の位置を表す初期位置情報を取得する工程と、
前記地図情報取得部により、セマンティックラベルが付与された3D地図を表す3D地図情報を取得する工程と、
前記模擬セマンティック画像生成部により、前記3D地図情報上において前記初期位置情報が示す位置から前記カメラを通して見える画像であって深度情報を含む模擬セマンティック画像、を生成する工程と、
前記実セマンティック画像生成部により、前記カメラが撮像した周辺画像を対象にセマンティックセグメンテーションを実行して得られる画像である実セマンティック画像を生成する工程と、
前記最適化処理部により、評価関数を用いて前記模擬セマンティック画像と前記実セマンティック画像との一致度を算出して、前記一致度が高くなるように前記模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行し、前記模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する工程と、
前記自己位置算出部により、前記最適化処理部により導出された前記相対姿勢行列と、前記初期位置情報と、を用いて、前記移動体の自己位置を算出する工程と、
を備え、
前記最適化処理部は、前記評価関数において、前記模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を用いて、前記最適化の際の前記一致度を算出する、自己位置推定方法。
【請求項7】
周辺を撮像するカメラ(122)を有する移動体(10)に搭載され、前記移動体の位置を推定する自己位置推定プログラムであって、
前記移動体の位置を表す初期位置情報を取得する機能と、
セマンティックラベルが付与された3D地図を表す3D地図情報を取得する機能と、
前記3D地図情報上において前記初期位置情報が示す位置から前記カメラを通して見える画像であって深度情報を含む模擬セマンティック画像、を生成する機能と、
前記カメラが撮像した周辺画像を対象にセマンティックセグメンテーションを実行して得られる画像である実セマンティック画像を生成する機能と、
前記模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を含む評価関数を用いて前記模擬セマンティック画像と前記実セマンティック画像との一致度を算出し、前記一致度が高くなるように前記模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行し、前記模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する機能と、
導出された前記相対姿勢行列と、前記初期位置情報と、を用いて、前記移動体の自己位置を算出する機能と、
をコンピュータに実現させる、自己位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己位置推定装置、自己位置推定方法および自己位置推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1には、画像解析技術としてセマンティックセグメンテーションを用いた自己位置推定の手法が開示されている。上記文献では、まず、GPS等から得られる不正確な初期位置を用いて、セマンティックラベルが付与された3Dモデル上でレンダリングすることにより深度情報を含む模擬セマンティック画像を生成する。他方、移動体に搭載されたカメラから得た画像を用いて、セマンティックセグメンテーションを通して実セマンティック画像を生成する。そして、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像とを、一つの評価関数を用いてマッチングさせることにより、自己位置を特定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Markus Herb, Matthias Lemberger, Marcel M. Schmitt, Alexander Kurz, Tobias Weiherer, Nassir Navab and Federico Tombari(2021),Semantic Image Alignment for Vehicle Localization
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記非特許文献1による構成では、高速道路や幹線道路のような特徴が少ない単調な場面において、道路等の大部分を占めるピクセルについて、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像と合っていると、実際には位置がずれていても模擬セマンティック画像と実セマンティック画像とが一致していると判断されるため、位置を正しく推定することができないという問題があった。そこで、自己位置推定の精度を向上させることが可能な自己位置推定装置が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、自己位置推定装置が提供される。この自己位置推定装置は、周辺を撮像するカメラ(122)を有する移動体(10)に搭載され、前記移動体の位置を推定する自己位置推定装置であって、前記移動体の位置を表す初期位置情報を取得する初期位置取得部(111)と、セマンティックラベルが付与された3D地図を表す3D地図情報を取得する地図情報取得部(112)と、前記3D地図情報上において前記初期位置情報が示す位置から前記カメラを通して見える画像であって深度情報を含む模擬セマンティック画像、を生成する模擬セマンティック画像生成部(113)と、前記カメラが撮像した周辺画像を対象にセマンティックセグメンテーションを実行して得られる画像である実セマンティック画像を生成する実セマンティック画像生成部(114)と、評価関数を用いて前記模擬セマンティック画像と前記実セマンティック画像との一致度を算出し、前記一致度が高くなるように前記模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行し、前記模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する最適化処理部(115)と、前記最適化処理部により導出された前記相対姿勢行列と、前記初期位置情報と、を用いて、前記移動体の自己位置を算出する自己位置算出部(116)と、を備え、前記最適化処理部は、前記評価関数において、前記模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を用いて、前記最適化の際の前記一致度を算出する。
【0007】
この形態の自己位置推定装置によれば、最適化処理部により、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像の一致度が高くなるように、模擬セマンティック画像を位置合わせすることにより、模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列が導出される。そして、最適化処理により得られた相対姿勢行列と、初期位置取得部により取得された初期位置情報とを用いて、移動体の位置姿勢が推定される。また、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との最適化の一致度を照合する際には、模擬セマンティック画像に含まれるピクセルに設定される重み変数を用いた評価関数により行われる。このため、例えば位置を一意に定めやすい目印となるピクセルに関しては、最適化において重みを大きくするなどの調整が可能となる。これにより、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致を照合する際の精度を、重み変数を持たない評価関数を用いる場合と比較して向上させることができる。ひいては、自己位置推定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第1実施形態における自己位置推定装置の概略的な機能的構成を示すブロック図である。
図2】自己位置推定装置が実行する自己位置推定処理の手順を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態の手法による最適化後の縦位置誤差をプロットしたグラフである。
図4】比較形態の手法による最適化後の縦位置誤差をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面に基づいて説明する。
A.第1実施形態:
A1.自己位置推定装置110の構成:
第1実施形態の自己位置推定装置110の構成について、図1を参照して説明する。第1実施形態の自己位置推定装置110は、移動体としての車両10に搭載され、走行中の車両10の位置を推定する。自己位置推定装置110は、各面にセマンティックラベルが付与された3D地図と、車両10が有するカメラ122により実際に撮像したカメラ画像から得られるセマンティック画像を位置合わせすることにより自車の位置姿勢を推定する。車両10は、自己位置推定装置110により推定された自己位置に基づいて自動運転による移動を行うことができる。なお、「自己位置」とは、移動体の位置および向きを含むものであり、位置姿勢を意味する。
【0010】
図1に示すように、車両10は、自己位置推定装置110と、カメラ122と、物体センサ124と、車両位置センサ126と、地図情報記憶部130と、通信部140と、を備える。車両10は、その他、図示しない車両制御部を備えており、自己位置推定装置110と車両制御部とは電気的に接続されている。
【0011】
カメラ122は、車両10の周辺を撮像して画像を取得する。物体センサ124は、地物の位置の情報を取得する。物体センサ124として、例えば、レーザーレーダー、ミリ波レーダー、超音波センサ等の反射波を利用した物体センサが挙げられる。本実施形態において、物体センサ124は、レーザにより赤外線を照射して赤外線の反射光に基づいて地物の位置の情報を取得する赤外線センサ125を有する。本実施形態において、「地物」は、街路樹における葉の部分のみや、路上に積もった雪も含む概念である。
【0012】
車両位置センサ126は、現在の車両10の位置を検出する。車両位置センサ126として、例えば、GPS(Global Positioning System)などの汎地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System(s)(GNSS))が挙げられる。本実施形態において、車両位置センサ126が検出する車両10の位置を表す情報を初期位置情報という。
【0013】
地図情報記憶部130は、地図情報を記憶する。「地図情報」は、各地物の位置を示す情報である。本実施形態において、地図情報は、セマンティックラベルが付与された3D地図情報である。
【0014】
自己位置推定装置110は、初期位置取得部111と、地図情報取得部112と、模擬セマンティック画像生成部113と、実セマンティック画像生成部114と、最適化処理部115と、自己位置算出部116と、を備える。自己位置推定装置110は、中央処理装置(CPU)や、RAM、ROMにより構成されたマイクロコンピュータ等からなり、予めインストールされたプログラムをマイクロコンピュータが実行することによって、これらの各部の機能を実現する。ただし、これらの各部の機能の一部又は全部をハードウェア回路で実現してもよい。
【0015】
初期位置取得部111は、車両位置センサ126から、車両10の現在の位置の情報である初期位置情報を取得する。初期位置情報は、車両10の正確な位置情報に対して誤差を含んでいる。
【0016】
地図情報取得部112は、地図情報記憶部130から、初期位置情報が表す位置に応じた範囲に含まれる地物の位置の情報である3D地図情報を取得する。
【0017】
模擬セマンティック画像生成部113は、初期位置情報を用いて、取得された3D地図情報上で初期位置情報からカメラ122を通して見える画像であって、深度情報を含む模擬セマンティック画像を生成する。
【0018】
実セマンティック画像生成部114は、カメラ122が撮像した実際の周辺画像を対象にセマンティックセグメンテーションを実行して得られる画像である実セマンティック画像を生成する。
【0019】
最適化処理部115は、評価関数を用いて、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致度を算出し、一致度が高くなるように、模擬セマンティック画像を位置合わせして最適化を実行する。そして、模擬セマンティック画像が最適化されたときの相対姿勢行列を導出する。なお、具体的な評価関数および、模擬セマンティック画像や実セマンティック画像の生成を含めた自己位置推定の内容の詳細については、後述の「自己位置推定方法」において詳細に説明する。
【0020】
自己位置算出部116は、最適化処理部115により導出された相対姿勢行列と、初期位置情報と、を用いて、車両10の自己位置を算出する。
【0021】
A2.自己位置推定方法:
次に、上記自己位置推定装置110を用いた車両10の自己位置推定方法について、説明する。自己位置推定の基本的な流れについて説明する。まず、予めGPS等の車両位置センサ126から初期位置姿勢Pを取得し、セマンティックラベルが付与された3D地図上でその姿勢Pからカメラ122を通して見えるセマンティック画像をシミュレーションする。つまり、模擬セマンティック画像を生成する。このとき生成された模擬セマンティック画像は、3D地図情報を基に作成しているため、ピクセル毎に深度情報を持っている。
【0022】
次に、カメラ122により実際に撮像して得られた車載カメラ画像をセマンティックセグメンテーションに通し、実セマンティック画像を生成する。そして、模擬カメラセマンティック画像を、実セマンティック画像へ近づけるように回転・並進移動させる。回転・並進移動は、相対姿勢行列「」で表すことができる。この相対姿勢行列を調整することにより、実セマンティック画像との一致度が高くなるように位置合わせを行う。この最適化処理により得られた相対姿勢行列と、初期位置姿勢Pとを用いて、車両10の位置姿勢Pは次の式(1)のように求めることができる。
【数1】
以上より、相対姿勢行列を求めることができれば、自車カメラ122の位置姿勢、すなわち車両10の自己位置の推定が行える。すなわち、本処理は、誤差を含む不正確な初期位置姿勢Pから、セマンティック画像処理を用いて、現在のカメラ122の位置姿勢Pを精度よく求めるものである。
【0023】
次に、自己位置推定方法の具体的な処理手順について、図2を参照して説明する。この処理は、車両10の走行中、自己位置推定装置110により繰り返し実行される処理であり、例えば100ms毎に繰り返し実行される処理である。
【0024】
自己位置推定処理が開始されると、ステップ101(以下、「ステップ」を「S」と略す)において、初期位置取得部111により、車両位置センサ126から初期位置情報が取得される。
【0025】
次に、S102において、模擬セマンティック画像生成部113により、初期位置情報が示す位置からカメラ122を通して見える画像であって、深度情報を含む模擬セマンティック画像が生成される。このとき、初期位置情報が表す位置に応じた範囲に含まれる地物の位置の情報である3D地図情報が、地図情報取得部112により地図情報記憶部130から取得される。そして、取得された3D地図情報が用いられることにより、模擬セマンティック画像が生成される。ここで、模擬セマンティック画像は、3D地図から切り出しているため、各ピクセルは深度情報を持っている。
【0026】
次に、S103において、実セマンティック画像生成部114により、カメラ122が撮像した実際の周辺画像をセマンティックセグメンテーションを通すことにより、実セマンティック画像が生成される。
【0027】
次に、S104において、最適化処理部115により、相対姿勢行列により模擬セマンティック画像が回転・並進移動される。相対姿勢初期値では、模擬セマンティック画像の回転・並進移動は行わない。次に、S105において、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致度が計算される。
【0028】
そして、S106において、一致度を基に相対姿勢行列の最適化が実施される。S107において、S104以降の処理が予め定められた所定回数であるN回繰り返されたか否かが判断される。N回の繰り返しが終了していない場合には(S107:NO)、S104に戻り、S104からS106の処理が繰り返される。S104~S107の処理は、各移動パラメータを適宜変化させて模擬セマンティック画像の回転・並進移動を行い、位置合わせすることにより、最適な相対姿勢行列を求める最適化ループを回す処理である。
【0029】
具体的には、模擬セマンティック画像におけるセマンティックの境界でエッジを抽出して、3Dのエッジ点画像を作製する。そして、作製された点群を回転・並進移動させることで実セマンティック画像へ近づけていく処理を行っている。すなわち、模擬セマンティック画像のエッジ点画像と実セマンティック画像との一致度が高まるように、エッジ点を回転・並進移動する行例の最適化が実施される。
【0030】
一方、N回の繰り返しが終了した場合には(S107:YES)、S108に進み、自己位置算出部116により、S106で得られた最適化された相対姿勢行列と初期位置姿勢Pとを上記式(1)に代入することにより、車両10の自己位置姿勢Pが算出される。以上で、本処理ルーチンは終了する。
【0031】
以下、最適化処理部115による、上記S104~S106の最適化処理についてさらに詳しく説明する。同じカメラから得られた異なる2枚の画像I,Iがあるとし、その画像を取った位置・姿勢をそれぞれP,P、画像の深度はそれぞれ、D,Dとする。ここで、画像Iを、以下の式(2)として仮定する。深度Dを、以下の式(3)として仮定する。
【数2】
【数3】
【0032】
画像I中のピクセル位置xを画像I中のピクセル位置に変換する射影関数を、以下の式(4)と表す。
【数4】
ピクセル位置xにおける深度をD(x)、相対変換をと表す。
また、以下の式(5)により表される3次元の点Pを、カメラパラメータKを用いて画像上の位置xに投影する関数をπとすると、射影関数は以下の式(6)のように表される。
【数5】
【数6】
【0033】
本実施形態では、輝度的な一致度の代わりにセマンティックの一致度を最適化している。模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致度は、以下の式(7)により算出される。
【数7】
ここで、入力xはカメラセマンティック画像のあるピクセルPにおける予測ロジットであり、Nクラスのそれぞれに対しての予測値となっており、以下の式(8)で表される。
【数8】
【0034】
また、cはピクセルPに対応する模擬セマンティック画像の正解クラスのインデックスである。これを基に、最適化対象の評価関数は、以下の式(9)として定義できる。
【数9】
最適化により、上記式(9)を最小とするξを見つける。exp(ξ)=であるので、ξを見つけることは、を見つけることと同義である。ここで、iは画像中のピクセル、xiは模擬セマンティック画像上でのピクセルiに対応する画素位置を表す。相対姿勢行列を定める方法としては、ここではガウス・ニュートン法を用いる。その他、レーベンバーグ・マルカート法を用いた最適化手法、またパーティクルフィルターを用いる方法などでもよい。
【0035】
上記式(9)において、「k」は、ピクセルに応じて設定される重み変数である。重み変数kは、ピクセルの属するクラスの出現頻度に応じて異なっている。重み変数kは、画像内での出現頻度が低いクラスに属するピクセルほど、出現頻度が高いクラスに属するピクセルよりも大きく設定される。「出現頻度」は、点の数で把握することができる。
【0036】
例えば、出現頻度が低い電柱や看板を固定する支柱等のピクセルほど重み変数kは大きく、出現頻度が高い道路等のピクセルほど重み変数kは小さい。一般に、出現頻度が低いクラスは、位置を一意に定めやすく、出現頻度が高いクラスは、特徴が少なく位置を一意に定めにくい。このため、位置を一意に定めやすい目印となるピクセルに関しては、最適化において重みを大きくし、高速道路や幹線道路のような特徴が少ない物体のピクセルに関しては、重みを小さくする。これにより、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像との一致を照合する際の精度を、重み変数kを持たない評価関数を用いる場合と比較して向上させることができる。
【0037】
画像一致の手法では、一度の最適化により正しい姿勢へ収束することは稀であるため、複数の周期で最適化を継続して行い、徐々に真値へ近づける。具体的には、任意の1フレーム(1周期目)での最適化により推定した位置姿勢に、オドメトリセンサ(慣性計測ユニット(Inertial Measurement Unit)、内界センサ等)から得た移動量を足し合わせた位置姿勢を次のフレーム(2周期目)での初期位置とし、最適化を実施する。
【0038】
[効果]
上記第1実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法では、模擬セマンティック画像を実セマンティック画像へ近づける最適化処理において、模擬セマンティック画像を、実セマンティック画像と一致する点群が多くなる方向に移動させていく。その際に、重み変数kを用いた評価関数(上記式(9))を用いることにより、一致する点群として判定する重みが調整される。
【0039】
比較形態として上記非特許文献1に記載の手法(以下、単に「比較形態の手法」ともいう)では、評価関数として、重み変数kを持たない以下の式(10)を用いている。
【数10】
上記式(10)を用いた手法では、ピクセル毎に一致度の総和をとっているため、画像中で占める割合が多いクラス、例えば、直線路走行シーンにおける道路などが実セマンティック画像と一致していると、最適化が行われていることになってしまい、それが原因で実際には位置が十分に合わないという問題があった。
【0040】
これに対し、上記第1実施形態では、ピクセル毎に重み変数kが設定された評価関数(上記式(9))を用いて一致度が照合されるため、高速道路や幹線道路のような特徴が少ない単調な場面において、道路等の大部分を占めるピクセルが合っている場合に、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像とが一致しているものと不正確に判断されることを抑制できる。つまり、模擬セマンティック画像と実セマンティック画像とにおいて、見かけ上、多くのピクセルが一致していたとしても、重みがかけられることによって調整されるため、そのピクセルが仮に位置を一意に定めにくいものであれば、一致度は高くないと判定できる。以上の処理により、最適な相対姿勢行列を導出できる。ひいては、相対姿勢行列を用いた自己位置算出の精度を向上させることができる。
【0041】
図3は、直進路である幹線道路を車両10が直進しているケースでの、上記第1実施形態の手法による最適化後の縦位置誤差をプロットしたグラフである。図4は、図3と同様に直進路である幹線道路を車両10が直進しているケースでの、上記比較形態の手法による最適化後の縦位置誤差をプロットしたグラフである。図3図4において、横軸は最適化実施回数(1目盛り=200ms、150目盛り=30s)であり、縦軸は縦位置誤差(m)である。比較形態と上記第1実施形態とにおいて、それぞれ8回の推定試行を行い、そのデータを示している。「縦位置誤差」とは、車両10の進行方向における位置の誤差である。なお、ここでの「最適化実施回数」は、上記S107での「N回」に相当するものではなく、S104~S107の処理をN回繰り返す一連の工程を「1回」としてカウントしたものである。
【0042】
図4に示すように、比較形態の手法では、最適化を実施しても、全体的に縦位置誤差が30cm内に収束しない結果となった。なお、図3図4において、縦位置誤差=30cmのラインを水平な破線で図示している。また、最適化後の平均縦位置誤差μは、30秒経過時点で、μ=1.379mであった。一方、図3に示すように、上記第1実施形態の手法では、ポールの重みをk=100として試行した結果、6/8件で収束し、収束したケースでの平均縦位置誤差はμ=0.179mとなり、改善の効果が確認できた。つまり、上記第1実施形態によれば、自己位置推定の精度を向上させることができる。
【0043】
B.第2実施形態:
次に、本開示の第2実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法について説明する。第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。なお、第2実施形態を含め以下複数の実施形態は、重み変数kの設定の仕方のみが上記第1実施形態とは異なる。
【0044】
第2実施形態の重み変数kは、ピクセルのカメラ122からの距離に応じて異なり、距離が近いピクセルほど、距離が遠いピクセルよりも小さく設定される。カメラ122に近い点ほど画像を占める画素の割合が多くなる一方で、小さな位置誤差が画素ずれに大きく影響するため、姿勢推定の誤差を生じる原因になると考えられる。そこで、奥行き距離が近いピクセルの重みを小さくし、中遠方のピクセルを大きくする。より具体的には、対象点の距離に比例して重みを変えてもよい。
【0045】
第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、自己位置推定の精度を向上させることができる。
【0046】
C.第3実施形態:
次に、本開示の第3実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法について説明する。第3実施形態の重み変数kは、ピクセルの属する物体の性質に応じて異なって設定される。具体的には、木の葉や枝といった植物等の変化しやすい物体の重みを小さくする。変化しやすい物体については、予め記憶された3D地図情報と、実際のカメラ画像とで異なる場合があり、姿勢推定の誤差を生じる原因になると考えられる。このため、そのような物体のピクセルの重みは小さくして、一致度への影響を小さくすることにより、誤った姿勢へ合わされるのを防ぐことができる。
【0047】
第3実施形態によれば、上記第1実施形態と同様に、自己位置推定の精度を向上させることができる。
【0048】
D.第4実施形態:
次に、本開示の第4実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法について説明する。第4実施形態の重み変数kは、機械学習により調整されるパラメータとする。重み変数kは、位置誤差が小さくなるように評価関数を最小化する値として機械学習により調整され、設定される。
【0049】
第4実施形態によれば、機械学習により適宜最適な重み変数kが設定されるため、上記第1実施形態と同様に、自己位置推定の精度を向上させることができる。
【0050】
E.他の実施形態:
(E1)上記各実施形態の自己位置推定装置110は、車両10に搭載されるものとしたが、その他、船舶やドローン、自律移動型ロボットなどの物体や、人等の移動体に搭載されていてもよい。
【0051】
(E2)上記各実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法では、評価関数として上記式(9)に示すものを採用したが、その他の式であってもよい。ピクセルに応じて設定される重み変数kを有するものであって、相対姿勢行列の最適化を行える関数であればよい。
【0052】
(E3)上記各実施形態の自己位置推定装置110および自己位置推定方法の重み変数kの設定において、各実施形態における設定手法を適宜組合わせてもよい。例えば、クラスの出現頻度と、対象ピクセルの距離との要素を組合わせて、重み変数kを設定してもよい。その他、物体の性質や、機械学習による調整といった要素についても適宜組合わせて重み変数kを設定してもよい。
【0053】
(E4)本開示に記載の自己位置推定装置110及びそれら手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の自己位置推定装置110及びそれら手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の自己位置推定装置110及びそれら手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されてもよい。また、コンピュータプログラム(自己位置推定プログラム)は、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0054】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
110…自己位置推定装置、111…初期位置取得部、112…地図情報取得部、113…模擬セマンティック画像生成部、114…実セマンティック画像生成部、115…最適化処理部、116…自己位置算出部、122…カメラ、124…物体センサ、125…赤外線センサ、126・・・車両位置センサ、130・・・地図情報記憶部、140・・・通信部
図1
図2
図3
図4