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特開2024-80892活性炭及び浄水用フィルター並びに浄水器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080892
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】活性炭及び浄水用フィルター並びに浄水器
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/318 20170101AFI20240610BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240610BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240610BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240610BHJP
   C01B 32/336 20170101ALI20240610BHJP
   C01B 32/348 20170101ALI20240610BHJP
   C01B 32/33 20170101ALI20240610BHJP
【FI】
C01B32/318
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
C02F1/28 G
C01B32/336
C01B32/348
C01B32/33
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194234
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】日比 圭太
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】並木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】唐鎌 智也
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4D624AA02
4D624AB11
4D624BA02
4D624BB01
4D624BB02
4D624BB05
4D624CA11
4D624CB01
4D624CC41
4G066AA05B
4G066AC39A
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA32
4G066CA33
4G066DA07
4G146AC02B
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC08A
4G146AC08B
4G146AD40
4G146BA25
4G146BA31
4G146BA32
4G146BC03
4G146BD02
4G146BD09
4G146BD18
4G146CB09
(57)【要約】
【課題】クロロホルムの好適な除去性能とともにPFOSやPFOAの好適な除去性能も兼ね備えた活性炭及び浄水用フィルター並びに浄水器を提供する。
【解決手段】窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g以上であり、窒素吸着量から算出した全細孔容積(A)と二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係が(B)/(A)≧0.8を満たし、かつ、窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積が850m/g以上である活性炭。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g以上であり、
窒素吸着量から算出した全細孔容積(A)と二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係が(B)/(A)≧0.8を満たし、
かつ、窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積が850m/g以上である
ことを特徴とする活性炭。
【請求項2】
下記の含フッ素有機化合物のろ過能力(C)とJIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物ろ過能力試験により得られるクロロホルムのろ過能力(D)との関係が(D)/(C)≧0.02を満たす請求項1に記載の活性炭。
含フッ素有機化合物のろ過能力(C):内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填した。PFOA濃度25±5ng/L、PFOS濃度25±5ng/L(PFOA、PFOSの合算濃度50±10ng/L)に調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力とした。
【請求項3】
前記活性炭がヤシ殻に由来する請求項1又は2に記載の活性炭。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の活性炭を含むことを特徴とする浄水用フィルター。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の活性炭を含むことを特徴とする浄水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭及びその活性炭を用いた浄水用フィルター並びに浄水器に関し、特にクロロホルムとともに含フッ素有機化合物の除去が可能な活性炭及び浄水用フィルター並びに浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素有機化合物であるペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)は、世界中で規制対象となっており、日本国内においても令和2年4月1日より水質管理目標設定項目にペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)の合算値が50ng/L以下とする基準値が追加された。
【0005】
なお、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)等が含まれるペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(i)で示される物質である。また、ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(ii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0006】
【数1】
【0007】
【数2】
【0008】
水道水に含まれる有害物質の除去に際しては、活性炭を使用した浄水器が広く使用される。浄水器用の活性炭では、一般に分子量が小さいクロロホルム等のトリハロメタンの除去が困難であることから、クロロホルム除去性能に優れた活性炭が好ましく用いられる(例えば、特許文献1参照)。一方、有害物質としてPFOSやPFOA等が注目されることから、水道水中のPFOSやPFOA等の除去が望まれており、PFOSやPFOA等の有害物質の除去に適した活性炭が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかるに、この種の活性炭では、活性炭の物性によって除去対象の物質が異なり、例えばクロロホルム除去性能に優れた活性炭では分子量が大きいPFOSやPFOA等に代表される含フッ素有機化合物を適切に除去することが困難となり、PFOSやPFOA等の除去性能を有する活性炭では分子量が小さいクロロホルム等を適切に除去することが困難となる。そのため、単一の活性炭で分子量が小さいクロロホルムと分子量が大きいPFOS,PFOA等のどちらも除去することは困難であった。
【0010】
そこで、分子量が小さいクロロホルムや分子量が大きい含フッ素有機化合物等の分子量が大きく異なる複数種類の有害物質を除去する手法として、各有害物質に対応した物性を有する複数種類の活性炭を組み合わせて用いることが考えられる(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、複数種類の活性炭を使用する場合は、構造や作業工程等が煩雑になることが避けられない。そのため、分子量が大きく異なる複数種類の有害物質を単一の活性炭で適切に除去することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第7058379号
【特許文献2】特許第7060772号
【特許文献3】特開2019-202249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記の点に鑑み、クロロホルムの好適な除去性能とともに含フッ素有機化合物の好適な除去性能も兼ね備えた活性炭及び浄水用フィルター並びに浄水器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、第1の発明は、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g以上であり、窒素吸着量から算出した全細孔容積(A)と二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係が(B)/(A)≧0.8を満たし、かつ、窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積が850m/g以上であることを特徴とする活性炭に係る。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、下記の含フッ素有機化合物のろ過能力(C)とJIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物ろ過能力試験により得られるクロロホルムのろ過能力(D)との関係が(D)/(C)≧0.02を満たす活性炭に係る。
【0015】
含フッ素有機化合物のろ過能力(C):内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填した。PFOA濃度25±5ng/L、PFOS濃度25±5ng/L(PFOA、PFOSの合算濃度50±10ng/L)に調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力とした。
【0016】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記活性炭がヤシ殻に由来する活性炭に係る。
【0017】
第4の発明は、請求項1又は2に記載の活性炭を含むことを特徴とする浄水用フィルターに係る。
【0018】
第5の発明は、請求項1又は2に記載の活性炭を含むことを特徴とする浄水器に係る。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る活性炭によると、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g以上であり、窒素吸着量から算出した全細孔容積(A)と二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係が(B)/(A)≧0.8を満たし、かつ、窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積が850m/g以上であるため、分子量の小さい化合物であるクロロホルムと分子量の大きい含フッ素有機化合物とをそれぞれ好適に吸着してバランスよい除去性能を備えており、分子量が大きく異なる複数種類の有害物質を単一の活性炭で適切に除去することが可能となる。
【0020】
第2の発明に係る活性炭によると、第1の発明において、上記の含フッ素有機化合物のろ過能力(C)とJIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物ろ過能力試験により得られるクロロホルムのろ過能力(D)との関係が(D)/(C)≧0.02を満たすため、除去性能に偏りがなく、含フッ素有機化合物とクロロホルムの双方をバランスよく除去することができる。
【0021】
第3の発明に係る活性炭によると、第1又は2の発明において、前記活性炭がヤシ殻に由来するため、活性炭原料として安定調達が可能である。
【0022】
第4の発明に係る浄水用フィルターによると、請求項1又は2に記載の活性炭を含むため、クロロホルムの好適な除去性能とともに含フッ素有機化合物の好適な除去性能をバランスよく兼ね備えた浄水用フィルターを提供することができる。
【0023】
第5の発明に係る浄水器によると、請求項1又は2に記載の活性炭を含むため、クロロホルムの好適な除去性能とともに含フッ素有機化合物の好適な除去性能をバランスよく兼ね備えた浄水器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の活性炭は、主として水道水等に含まれる有害物質を除去して浄水を行う家庭用、産業用の吸着材である。活性炭は、安価かつ濾過能力に優れ、品質も安定しているため浄水用途として好適であり、そのままの形態で、あるいは適宜のバインダー等により所定形状に形成される浄水用フィルターとして、浄水器に設置することができる。
【0025】
活性炭は、粒状活性炭や繊維状活性炭等の適宜の形態からなり、活性炭原料を炭化し賦活して得られる。活性炭の原料は、例えば粒状活性炭の場合、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等が挙げられる。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。一方、繊維状活性炭の場合は、適宜の繊維を炭化し賦活して得られるものであり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維状活性炭の繊維長や断面径等は適宜である。これらの活性炭原料のうち、ヤシ殻は安定調達が可能であるため好ましい。
【0026】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0027】
こうして出来上がる活性炭の物性により、目的被吸着物質の吸着性能が規定される。そこで、本発明では、目的被吸着物質がクロロホルムである吸着性能と、目的被吸着物質がPFOS,PFOA等の含フッ素有機化合物である吸着性能とを兼ね備えた活性炭の吸着性能として、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積と、窒素吸着量から算出した全細孔容積と、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積と、窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積とを用いて指標として表すことができることを見出した。
【0028】
窒素吸着等温線からNLDFT法により算出した細孔容積は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してNLDFT法による解析を行って算出された細孔容積(cm/g)である。NLDFT法の測定対象となる細孔は、ミクロ孔(細孔直径が2nm以下の細孔)からメソ孔(細孔直径が2~50nmの細孔)であり、NLDFT法により算出した細孔容積は、ミクロ孔~メソ孔の細孔容積に相当する。そこでNLDFT法により算出した細孔容積は、分子量が大きいPFOS,PFOA等の除去性能の指標として使用することができる。PFOS,PFOA等の除去性能として好ましいNLDFT法により算出した細孔容積は0.30cm/g以上である。NLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g未満であると、活性炭に形成されたミクロ孔からメソ孔の発達が不十分であり、分子量が大きいPFOS,PFOA等の含フッ素有機化合物を適切に吸着することができず、所望する含フッ素有機化合物の除去性能の確保が困難となる。
【0029】
窒素吸着量から算出した全細孔容積(A)は、77Kにおける相対圧0.990での窒素吸着量(V)を測定し、下記の数式(iii)に基づいて液体窒素の体積(Vp)に換算して求めたものである。なお、数式(iii)において、Mは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρ(g/cm)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
【0030】
【数3】
【0031】
また、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出した細孔容積(B)は、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定してGCMC法による解析を行って算出された細孔容積(cm/g)であって、ミクロ孔の細孔容積に相当する。GCMC法により算出した細孔容積(B)が大きい値となると、分子量が小さいクロロホルムを吸着可能なミクロ孔がたくさん形成されていることを示す。
【0032】
ここで、活性炭における細孔の細孔径の分布、特に活性炭の細孔全体のうちミクロ孔の発達の程度を疑似的に把握するため、活性炭の全ての細孔の容積を示す全細孔容積(A)とミクロ孔の容積を示すGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係を(B)/(A)で表して指標として用いた。全細孔容積(A)とGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係式(B)/(A)は、分子量が小さいクロロホルムの除去性能の指標として掲げられる。クロロホルムの除去性能として好ましい関係式は(B)/(A)≧0.8である。この関係式(B)/(A)が0.8未満であると、活性炭に形成されたミクロ孔の発達が不十分であり、分子量が小さいクロロホルムを適切に吸着することができず、所望するクロロホルム除去性能の確保が困難となる。
【0033】
窒素吸着等温線からBET法により算出した比表面積(m/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してBET式に基づいて多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧0.35以下の領域での直線から算出される。この比表面積(m/g)は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標として使用され、活性炭の吸着性能を規定することができる。活性炭の吸着性能として好ましい比表面積は850m/g以上である。この比表面積が850m/g未満であると、活性炭全体としての吸着性能が不足すると考えられる。
【0034】
本発明の活性炭は、PFOS,PFOA等の含フッ素有機化合物の除去性能の指標となるNLDFT法により算出した細孔容積と、クロロホルムの除去性能の指標となる全細孔容積(A)とGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係式と、活性炭の吸着性能を規定するBET法により算出した比表面積との関係において、後述の実施例から前記各条件をすべて満たすことによって、分子量が大きいPFOS,PFOA等の好適な除去性能と、分子量が小さいクロロホルムの好適な除去性能とをバランスよく兼ね備えることができる。そのため、分子量が大きく異なる複数種類の有害物質を単一の活性炭で適切に除去することが可能となる。
【0035】
また、本発明の活性炭では、含フッ素有機化合物のろ過能力(C)と、クロロホルムのろ過能力(D)との関係が(D)/(C)≧0.02と規定されることで、さらに分子量の大きい化合物と分子量の小さい化合物のバランスよい除去性能を備えた活性炭とすることができる。含フッ素有機化合物のろ過能力は、PFOS,PFOA等の除去性能に相当する。含フッ素有機化合物のろ過能力は、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填し、PFOA濃度25±5ng/L、PFOS濃度25±5ng/L(PFOA、PFOSの合算濃度50±10ng/L)に調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力とした。
【0036】
クロロホルムのろ過能力は、クロロホルムの除去性能に相当し、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物ろ過能力試験により得られる。具体的には、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填し、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力とした。
【0037】
含フッ素有機化合物のろ過能力(C)とクロロホルムのろ過能力(D)との関係式(D)/(C)は、活性炭が備えるPFOS,PFOA等の除去性能とクロロホルムの除去性能とのバランスを示す指標として使用することができる。含フッ素有機化合物のろ過能力(C)とクロロホルムのろ過能力(D)との関係(D)/(C)が0.02未満であると、除去性能に偏りが生じてPFOS,PFOA等とクロロホルムの双方をバランスよく除去することが困難となる。
【0038】
本発明の活性炭は、溶融された熱可塑性樹脂によって保持されて成形される乾式フィルターや、繊維状バインダー等の適宜のバインダーと混合されて水性スラリーとして所定形状に成形される湿式フィルター等の浄水用フィルターとして使用することができる。そのため、本発明の活性炭を浄水用途としてより効果的に活用することができる。
【0039】
また、本発明の活性炭は、浄水器用の吸着部材として好適に使用することができる。浄水器用の吸着部材の形態としては、単体でそのまま使用したり、あるいは浄水用フィルターとして成形して使用する等、適宜である。
【実施例0040】
[活性炭の作製]
試作例1~7の活性炭の作製に際し、試作例1~5はヤシ殻、試作例6は石炭、試作例7は木質をそれぞれ原料とした。試作例1~6は前記原料を400~600℃で加熱した炭化物を800~900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進めた。試作例7は前記原料に塩化亜鉛溶液を含浸させた後、400~700℃前後まで加熱して保持し、賦活を進めた。賦活後、室温付近まで自然放冷した。冷却後、30~60meshの篩により篩別し、粒径約0.25~0.50mmの試作例1~7の活性炭を得た。
【0041】
[活性炭の測定]
試作例1~7の活性炭について、比表面積、NLDFT法の細孔容積、全細孔容積、GCMC法の細孔容積、クロロホルムろ過能力、PFOS,PFOA(含フッ素有機化合物)ろ過能力をそれぞれ測定した。また、これらの測定に基づき、全細孔容積(A)とGCMC法の細孔容積(B)との関係式(B)/(A)、PFOS,PFOAろ過能力(C)とクロロホルムろ過能力(D)との関係式(D)/(C)をそれぞれ求めた。その結果を、後述する表1に示す。
【0042】
[比表面積]
試作例1~7の活性炭について、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「BELSORP-miniII」)を用いて、77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、得られた窒素吸着等温線からBET法に基づいて多点法による解析を行った。得られた曲線の相対圧0.35以下の領域での直線から比表面積(m/g)をそれぞれ算出した。
【0043】
[NLDFT法の細孔容積]
試作例1~7の活性炭について、比表面積の測定に際して得られた窒素吸着等温線に対し、吸着材をグラファイトカーボン、細孔の形状をスリットモデルに設定してNLDFT法の解析を行い、細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0044】
[全細孔容積]
試作例1~7の活性炭について、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「BELSORP-miniII」)を用いて、77Kにおける相対圧0.990での窒素吸着量(V)を測定し、前記式(iii)に基づいて液体窒素の体積(Vp)に換算して全細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0045】
[GCMC法の細孔容積]
試作例1~7の活性炭について、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP-miniII」)を用いて、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定し、得られた二酸化炭素吸着等温線に対し、吸着材をグラファイトカーボン、細孔の形状をスリットモデルに設定してGCMC法の解析を行い、細孔容積(cm/g)をそれぞれ求めた。
【0046】
[クロロホルムろ過能力]
試作例1~7の活性炭について、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物ろ過能力試験に準拠して測定した。まず、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填した。クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力としてそれぞれ測定した。
【0047】
[PFOS,PFOAろ過能力]
試作例1~7の活性炭について、まず、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填した。PFOA濃度25±5ng/L、PFOS濃度25±5ng/L(PFOA、PFOSの合算濃度50±10ng/L)に調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過能力としてそれぞれ測定した。なお、PFOS,PFOAろ過能力は、浄水器協会自主規格「JWPAS B 210(2011)」に規定する浄水器の除去性能等試験方法に関する規格基準に基づいて試験したものである。
【0048】
【表1】
【0049】
[結果と考察]
試作例1,2の活性炭は、分子量が大きいPFOS,PFOA等の除去性能の指標であるNLDFT法により算出した細孔容積が小さく、PFOS,PFOA等の除去性能を示すPFOS,PFOAろ過能力に劣ることが示された。また、比表面積が小さく活性炭としての吸着性能に劣ることから、クロロホルムの除去性能を示すクロロホルムろ過能力も不十分であった。
【0050】
試作例3~5は、比表面積が大きい活性炭であって活性炭としての吸着性能が良好である。分子量が大きいPFOS,PFOA等の除去性能の指標であるNLDFT法により算出した細孔容積、ミクロ孔の細孔容積を示すGCMC法により算出した細孔容積(B)、分子量が小さいクロロホルムの除去性能の指標である(B)/(A)の値がそれぞれ一定以上である。そして、クロロホルムろ過能力、PFOS,PFOAろ過能力がいずれも良好であることから、吸着性能が良好な活性炭であり、分子量の異なる吸着対象に適した細孔分布を備える活性炭であることが示された。
【0051】
試作例6,7の活性炭は、分子量が小さいクロロホルムの除去性能の指標である(B)/(A)が小さく、クロロホルムの吸着性能に劣ることが示された。なお、いずれも比表面積が大きい活性炭であって活性炭としての吸着性能が良好であり、分子量が大きいPFOS,PFOA等の除去性能の指標であるNLDFT法により算出した細孔容積が0.3(cm/g)よりも大きいことから、PFOS,PFOAろ過能力は良好であった。
【0052】
各試作例1~7を比較して性能の傾向を考察すると、比表面積が小さい試作例1及び2は活性炭としての吸着性能が劣り、試作例2のように(B)/(A)が0.8以上であっても所望するクロロホルム除去性能は確保されないことがわかった。このため、活性炭としての吸着性能を確保するという観点から、比表面積を850m/g以上と規定されるのがよいと考えられる。試作例1及び2は、NLDFT法の細孔容積が小さいことから、分子量が大きいPFOS,PFOA等を吸着するミクロ孔~メソ孔の発達が不十分であり、所望するPFOS,PFOA除去性能が得られなかったと考えられる。
【0053】
次に、比表面積及びNLDFT法の細孔容積が大きい試作例3~7にあっては、いずれも十分なPFOS,PFOAろ過能力を備えることが示された。試作例3~5に比べてGCMC法により算出した細孔容積(B)が小さい試作例6及び7においては、比表面積が大きいにもかかわらず、(B)/(A)が0.8未満で、全細孔の細孔径における分布においてミクロ孔が十分に発達していないと考えられるため、クロロホルムろ過能力に劣る結果となったと考えられる。
【0054】
これらの結果から、本発明の課題であるクロロホルムの好適な除去性能と含フッ素有機化合物の好適な除去性能を兼ね備えた単一の活性炭とするためには、活性炭としての吸着性能を一定以上に確保するため比表面積が850m/g以上の活性炭とすることを前提とし、かつ、ミクロ孔からメソ孔が十分に発達した活性炭であることを示す指標であるNLDFT法により算出した細孔容積が0.30cm/g以上であること、ミクロ孔が全細孔に対して十分に発達した活性炭であることを示す指標である全細孔容積(A)とGCMC法により算出した細孔容積(B)との関係(B)/(A)が0.8以上であることを満たすのが良いといえる。
【0055】
このとき、PFOS,PFOAろ過能力(C)とクロロホルムろ過能力(D)との関係(D)/(C)を、0.02以上とすると、クロロホルムの除去性能と含フッ素有機化合物の除去性能をそれぞれ一定以上に確保しつつ、両者のバランスが良好な活性炭とすることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の活性炭は、分子量が小さいクロロホルムの好適な除去性能とともに分子量が大きいPFOSやPFOAの好適な除去性能を単一の活性炭でバランスよく兼ね備えている。そのため、分子量が大きく異なる複数種類の有害物質を単一の活性炭で適切に除去することが可能であり、従来の浄水用途の活性炭の代替として有望である。また、この活性炭は、浄水用フィルターや浄水器の吸着部材として好適に使用することができる。