(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080893
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】活性炭及び活性炭フィルター体
(51)【国際特許分類】
C01B 32/306 20170101AFI20240610BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20240610BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240610BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240610BHJP
C01B 32/318 20170101ALI20240610BHJP
【FI】
C01B32/306
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
C01B32/318
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194235
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】並木 謙太
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4D624AA02
4D624AB11
4D624BA02
4D624BB01
4D624BB02
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4D624CC41
4G066AA05B
4G066AC39A
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4G066DA07
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4G146AC05A
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4G146AC09B
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4G146AC30B
4G146AD12
4G146AD33
4G146BA31
4G146BC03
4G146BC33B
4G146BD02
4G146CB09
(57)【要約】
【課題】より優れたクロロホルム除去性能を発揮することが可能な活性炭及び活性炭フィルター体を提供する。
【解決手段】窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積が900~1200m2/gであり、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された0.25~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.28cm3/g以上であり、且つ、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積に対する前記NLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%以下である活性炭。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積が900~1200m2/gであり、
二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された0.25~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.28cm3/g以上であり、
且つ、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積に対する前記NLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%以下である
ことを特徴とする活性炭。
【請求項2】
窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.09cm3/g以上である請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
表面酸化物量が0.160meq/g以下である請求項1に記載の活性炭。
【請求項4】
活性炭原料がヤシ殻である請求項1に記載の活性炭。
【請求項5】
JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物除去性能試験により、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を、粒径0.25~0.50mmの活性炭を50cc充填したカラムに1.0L/分の流量で通水した時に得られるクロロホルムろ過性能が250L以上である請求項1に記載の活性炭。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の活性炭にバインダーを添加して所定形状に成形してなる活性炭フィルター体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭及び活性炭フィルター体に関し、特にクロロホルムの除去に優れた活性炭及び活性炭フィルター体に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水等の飲料用水から残留成分や異物を除去するために用いられる浄水器は、活性炭やセラミック等の無機材料の吸着部材と、必要により濾過用の有機高分子膜等を備えた構造である。
【0003】
水道水は衛生上の観点から塩素等による殺菌が義務づけられている。しかし、殺菌を目的に添加される塩素は、天然有機物の一種であるフミン質を酸化分解する際に発ガン性物質といわれているトリハロメタン類等の有機塩素系化合物を生成してしまう。そこで、トリハロメタンの除去性能、特に除去がより困難なクロロホルムの除去性能に優れた活性炭を用いた浄水器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の活性炭では、一定のクロロホルムの吸着はなされるものの、十分な除去性能を備えているとはいうことはできない。また、浄水器のように速い吸着速度が要求される条件下では、さらにクロロホルムの吸着に好適な活性炭としなければ良好なクロロホルム除去性能が発揮されることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の点に鑑み、より優れたクロロホルム除去性能を発揮することが可能な活性炭及び活性炭フィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の発明は、窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積が900~1200m2/gであり、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された0.25~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.28cm3/g以上であり、且つ、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積に対する前記NLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%以下であることを特徴とする活性炭に係る。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.09cm3/g以上である活性炭に係る。
【0009】
第3の発明は、第1の発明において、表面酸化物量が0.160meq/g以下である活性炭に係る。
【0010】
第4の発明は、第1の発明において、活性炭原料がヤシ殻である活性炭に係る。
【0011】
第5の発明は、第1の発明において、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物除去性能試験により、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を、粒径0.25~0.50mmの活性炭を50cc充填したカラムに1.0L/分の流量で通水した時に得られるクロロホルムろ過性能が250L以上である活性炭に係る。
【0012】
第6の発明は、第1ないし5いずれかの活性炭にバインダーを添加して所定形状に成形してなる活性炭フィルター体に係る。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明に係る活性炭によると、窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積が900~1200m2/gであり、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された0.25~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.28cm3/g以上であり、且つ、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積に対する前記NLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%以下であるため、クロロホルムの吸着に適した活性炭とすることができ、クロロホルムの除去性能に優れる。
【0014】
第2の発明に係る活性炭によると、第1の発明において、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.09cm3/g以上であるため、よりクロロホルムの除去性能を良好とすることができる。
【0015】
第3の発明に係る活性炭によると、第1の発明において、表面酸化物量が0.160meq/g以下であるため、活性炭表面がクロロホルムの吸着に適した疎水性となり、さらに優れたクロロホルム除去性能を備える。
【0016】
第4の発明に係る活性炭によると、第1の発明において、活性炭原料がヤシ殻であるため、安定調達が可能である。
【0017】
第5の発明に係る活性炭によると、第1の発明において、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物除去性能試験により、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を、粒径0.25~0.50mmの活性炭を50cc充填したカラムに1.0L/分の流量で通水した時に得られるクロロホルムろ過性能が250L以上であるため、従来に比べてとくに良好なクロロホルムの除去性能を備える。
【0018】
第6の発明に係る活性炭フィルター体によると、第1ないし5いずれかの活性炭にバインダーを添加して所定形状に成形してなるため、優れたクロロホルム除去性能を発揮することが可能な活性炭フィルター体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の活性炭は、主として水道水等に含まれる有害物質を除去して浄水を行う家庭用、産業用の吸着材である。活性炭は、安価かつ濾過能力に優れ、品質も安定しているため浄水用途として好適であり、そのままの形態で、あるいは適宜のバインダー等により所定形状に成型される浄水用フィルターとして、浄水器に設置することができる。
【0020】
活性炭は、粒状活性炭や繊維状活性炭等の適宜の形態からなり、活性炭原料を炭化し賦活して得られる。活性炭の原料は、例えば粒状活性炭の場合、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等が挙げられる。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。一方、繊維状活性炭の場合は、適宜の繊維を炭化し賦活して得られるものあり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維状活性炭の繊維長や断面径等は適宜である。これらの活性炭原料のうち、ヤシ殻は安定調達が可能であるため好ましい。
【0021】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0022】
こうして出来上がる活性炭の物性により、目的被吸着物質の吸着性能が規定される。本発明では、目的被吸着物質であるクロロホルムを吸着する活性炭の吸着性能、特に分子量の小さいクロロホルムについての良好な吸着性能を備える活性炭として、窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積と、二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された細孔容積と、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積に対するNLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積の割合とを指標として用いて規定することができることを見出した。
【0023】
窒素吸着等温線からBET法で算出したBET比表面積(m2/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してBET式に基づいて多点法による解析を行い、得られた曲線の相対圧0.35以下の領域での直線から算出される。このBET比表面積(m2/g)は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標として使用され、活性炭の吸着性能を規定することができる。活性炭の吸着性能として好ましいBET比表面積は900~1200m2/gである。BET比表面積が小さすぎる場合、活性炭全体としての吸着性能が不足すると考えられ、BET比表面積が大きすぎる場合、活性炭の強度が低下することに加えて、クロロホルムの吸着に相応しくない大きな細孔が発達してしまうと考えられる。
【0024】
二酸化炭素吸着等温線からGCMC法により算出された細孔容積(cm3/g)は、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定してGCMC法による解析を行って算出された細孔容積である。GCMC法の測定対象となる細孔は、ウルトラミクロ孔(細孔直径が0.25~0.65nmの細孔)である。そこで、GCMC法により算出した細孔容積は、ウルトラミクロ孔の細孔容積に相当し、その値が大きいほど分子量が小さいクロロホルムを吸着可能なウルトラミクロ孔がたくさん形成されていることを示す。従って、GCMC法により算出した細孔容積はクロロホルムの吸着性能の指標の1つとして使用される。クロロホルムの良好な吸着性能を備えた活性炭のGCMC法により算出した細孔容積は、0.28cm3/g以上である。GCMC法により算出した細孔容積が0.28cm3/g未満であると、活性炭に形成されたウルトラミクロ孔の発達が不十分であり、クロロホルムを適切に吸着することができず、所望するクロロホルム除去性能の確保が困難となる。
【0025】
窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された全細孔容積(cm3/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定してNLDFT法による解析を行って算出された細孔容積である。また、NLDFT法により算出された2nm以上の細孔の細孔容積(cm3/g)は、上記窒素吸着等温線に対し、メソ孔~マクロ孔(細孔直径が2nm以上の細孔)を測定対象としてNLDFT法による解析を行って算出された細孔容積である。2nm以上の細孔の細孔容積の値が大きいほどクロロホルムの吸着に適していないメソ孔とマクロ孔がたくさん形成されていることを示す。
【0026】
ここで、活性炭における細孔の細孔径の分布、特に活性炭の細孔全体のうちメソ孔とマクロ孔の発達の程度を疑似的に把握するため、NLDFT法により算出された全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合(%)を指標として用いた。全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合は、活性炭全体としてクロロホルムが吸着されない細孔であるメソ孔とマクロ孔が全細孔に占める割合を示すことから、逆説的に活性炭全体としてのクロロホルムの除去性能の指標として掲げられる。2nm以上の細孔の細孔容積の割合が低いほどクロロホルムの除去に適した活性炭となり、クロロホルムの良好な吸着性能を備えた活性炭の好ましい2nm以上の細孔の細孔容積の割合は4.0%以下である。2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%を超えると、活性炭全体としてメソ孔とマクロ孔の割合が多くなりすぎて、クロロホルムの吸着性能の低下を招くと考えられる。
【0027】
本発明の活性炭は、活性炭の吸着性能を規定するBET比表面積と、クロロホルムの吸着性能の指標となるGCMC法により算出した細孔容積と、活性炭全体としてのクロロホルムの除去性能の指標となるNLDFT法により算出した全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合との関係において、後述の実施例から前記各条件をすべて満たすことによって、分子量の小さいクロロホルムの吸着に好適な性能を備えた活性炭とすることが可能となる。
【0028】
また、本発明の活性炭では、窒素吸着等温線からNLDFT法により算出された0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.09cm3/g以上であることが好ましい。0.37~0.65nmの範囲の細孔径の細孔はウルトラミクロ孔であり、NLDFT法により算出した細孔容積もウルトラミクロ孔の細孔容積に相当する。従って、前述したウルトラミクロ孔の細孔容積を示すGCMC法により算出した細孔容積と同様に、NLDFT法により算出した0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積は、その値が大きいほど分子量が小さいクロロホルムをさらに好適に吸着可能な活性炭であることを示すと考えられる。つまり、NLDFT法により算出した0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積は、クロロホルムの吸着性能の指標の1つとして加えられることができる。
【0029】
さらに、本発明の活性炭は、表面酸化物量が0.160meq/g以下であることで、より優れたクロロホルム除去性能を奏する。活性炭のクロロホルム除去性能は、活性炭の表面に存在する酸性官能基によっても規定される。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。
【0030】
水中においては、活性炭の表面酸化物量が多くなると、水素結合により表面官能基へと強固に吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって、細孔が閉塞されて目的被吸着物質が吸着点(ミクロ孔)へ物理的なアクセスが阻害されることとなると推測される。このため、活性炭の表面酸化物量は少ない方が、活性炭表面の疎水性が高まり、疎水性物質であるクロロホルムの吸着性能は向上すると考えられる。
【0031】
活性炭の表面酸化物を減少させる手法としては、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う等の公知の方法を用いることができ、活性炭表面のフェノール性水酸基やカルボキシル基等の酸性官能基を減少させることができる。
【0032】
本発明の活性炭では、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物除去性能試験により、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を、粒径0.25~0.50mmの活性炭を50cc充填したカラムに1.0L/分の流量で通水した時に得られるクロロホルムろ過性能が250L以上であることが好ましい。クロロホルムろ過性能は、クロロホルムの除去性能に相当する。具体的には、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填し、クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過性能とした。クロロホルムろ過性能が250L未満であると、クロロホルム除去性能が不十分である。
【0033】
本発明の活性炭は、溶融された熱可塑性樹脂によって保持されて成形される乾式フィルターや、繊維状バインダー等の適宜のバインダーと混合されて水性スラリーとして所定形状に成形してなる湿式フィルター等の活性炭フィルター体として使用することができる。特に、湿式フィルターは、乾式フィルターと比較するとバインダーとして繊維状成分を使用していることから、通水性に優れるため浄水用途として好適である。そのため、本発明の活性炭を浄水用途としてより効果的に活用することができる。
【0034】
また、本発明の活性炭は、浄水器用の吸着部材として好適に使用することができる。浄水器用の吸着部材の形態としては、単体でそのまま使用する、あるいは浄水用の活性炭フィルター体として成形して使用する等、適宜である。
【実施例0035】
[活性炭の作製]
試作例1~8の活性炭の作製に際し、試作例1~6はヤシ殻、試作例7,8は石炭をそれぞれ原料とした。各原料を400~600℃で加熱した炭化物を800~900℃前後まで加熱して保持し、水蒸気を導入して賦活を進めた。賦活後、室温付近まで自然放冷した。冷却後、30~60meshの篩により篩別し、粒径約0.25~0.50mmの試作例1~7の活性炭を得た。
【0036】
[活性炭の測定]
試作例1~8の活性炭について、BET比表面積、GCMC法の細孔容積、NLDFT法の細孔容積として全細孔容積と2nm以上の細孔の細孔容積と0.37~0.65nmの細孔の細孔容積、表面酸化物量、クロロホルムろ過性能をそれぞれ測定した。また、これらの測定に基づき、NLDFT法の全細孔容積に対するNLDFT法の2nm以上の細孔の細孔容積の割合を求めた。その結果を、後述する表1に示す。
【0037】
[BET比表面積]
試作例1~8の活性炭について、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「ELSORP-miniII」)を用いて、77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、得られた窒素吸着等温線からBET法に基づいて多点法による解析を行った。得られた曲線の相対圧0.35以下の領域での直線から比表面積(m2/g)をそれぞれ算出した。
【0038】
[GCMC法の細孔容積]
試作例1~8の活性炭について、比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「BELSORP-miniII」)を用いて、298Kにおける二酸化炭素吸着等温線を測定し、得られた二酸化炭素吸着等温線に対し、吸着材をグラファイトカーボン、細孔の形状をスリットモデルに設定してGCMC法の解析を行い、0.25~0.65nmの細孔の細孔容積(cm3/g)をそれぞれ求めた。
【0039】
[NLDFT法の細孔容積]
試作例1~8の活性炭について、BET比表面積の測定に際して得られた窒素吸着等温線に対し、吸着材をグラファイトカーボン、細孔の形状をスリットモデルに設定してNLDFT法の解析を行い、全細孔容積(cm3/g)、2nm以上の細孔の細孔容積(cm3/g)、0.37~0.65nmの細孔の細孔容積(cm3/g)をそれぞれ求めた。
【0040】
[表面酸化物量]
試作例1~8の活性炭について、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各試作例の活性炭を24時間振とうした後にろ過し、そのろ液を0.05N塩酸水溶液で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量を表面酸化物量(meq/g)とした。
【0041】
[クロロホルムろ過性能]
試作例1~8の活性炭について、クロロホルムの除去性能の測定として、JIS S 3201(2019)に規定する家庭用浄水器試験方法の揮発性有機化合物除去性能試験に準拠した測定を行った。まず、内径40mm、高さ100mmの円筒形カラム内に、試作した活性炭を50cc充填した。クロロホルム濃度を0.060±0.012mg/Lに調整した水を試験水として用い、1.0L/分、空間速度(SV)=1200hr-1の条件にてカラムに通水し、除去率80%を下回った点を破過点とした際に得られる通水量をろ過性能としてそれぞれ測定した。
【0042】
【0043】
[結果と考察]
表1から理解されるように、試作例1~3の活性炭のクロロホルム除去性能を示すクロロホルムろ過性能は良好であったのに対し、試作例4~8の活性炭はクロロホルムろ過性能が劣った。特に、試作例7,8の活性炭では、クロロホルムろ過性能は著しく低い値であった。
【0044】
クロロホルム除去性能が良好な試作例1~3と、クロロホルム除去性能が不良な試作例4~8とを比較する。試作例1~3に対して、試作例5~8はメソ孔とマクロ孔の発達の程度を示すNLDFT法により算出された全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合が大きい。また、試作例7,8は、さらにウルトラミクロ孔の発達の程度を示すGCMC法により算出された細孔容積が小さい。なお、試作例4は、試作例1~3に対してNLDFT法により算出された全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合等の細孔分布に大きな相違は見られないが、表面酸化物量の値が大きい。
【0045】
クロロホルム除去性能が不十分であった試作例4~8において、試作例7,8はGCMC法の細孔容積が小さく、クロロホルムを吸着するウルトラミクロ孔が十分に発達していないと考えられるため、クロロホルム除去性能に劣る結果となったと考えられる。また、試作例5,6のようにGCMC法の細孔容積が一定以上であったとしても、メソ孔とマクロ孔の割合が大きいと、活性炭中にクロロホルムが吸着されないメソ孔とマクロ孔が多く存在することとなるため、クロロホルム除去性能が低下すると考えられる。特に、試作例7,8はGCMC法の細孔容積が小さいだけでなく、メソ孔とマクロ孔の割合が他の試作例と比較して極端に大きいため、クロロホルム除去性能が極端に劣ることとなったと考えられる。一方、試作例4は、BET比表面積が一定の範囲であり、GCMC法の細孔容積が大きくウルトラミクロ孔が十分に発達しており、かつメソ孔とマクロ孔の割合が小さく活性炭中にクロロホルムが吸着されないメソ孔とマクロ孔が少ない細孔分布であったが、表面酸化物量が多いことでクロロホルム除去性能が低下したと考えられる。
【0046】
クロロホルム除去性能が良好な試作例1~3は、BET比表面積が一定の範囲であり、GCMC法の細孔容積が大きく、かつメソ孔とマクロ孔の割合が小さいため、良好なクロロホルムろ過性能を示した。さらに、表面酸化物量が小さく、0.37~0.65nmの細孔の細孔容積も大きいことから、クロロホルムろ過性能は試作例4~8と比べてとても良好であった。従って、BET比表面積、GCMC法の細孔容積、メソ孔とマクロ孔の割合に加えて0.37~0.65nmの細孔の細孔容積や表面酸化物量についても、クロロホルム除去性能の向上に寄与すると考えられる。
【0047】
これらの結果から、分子量の小さいクロロホルムを好適に吸着することができる活性炭は、活性炭としての吸着性能を一定以上に確保するため比表面積を900~1200m2/gとし、ウルトラミクロ孔が十分に発達した活性炭であることを示す指標であるGCMC法により算出された0.25~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積が0.28cm3/g以上であること、クロロホルムが吸着されないメソ孔とマクロ孔が占める割合を示す全細孔容積に対する2nm以上の細孔の細孔容積の割合が4.0%以下であることが満たされることがわかった。
【0048】
このとき、ウルトラミクロ孔の発達の程度を示すNLDFT法により算出された0.37~0.65nmの範囲の細孔の細孔容積を0.09cm3/g以上、表面酸化物量を0.160meq/g以下を満たす活性炭とすると、さらに優れたクロロホルム除去性能を備えさせることができることがわかった。
本発明の活性炭は、分子量の小さいクロロホルムを好適に吸着することができる。そのため、従来の浄水用途の活性炭の代替として有望である。また、この活性炭は、浄水用の活性炭フィルター体として好適に使用することができる。