(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080922
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】推定装置、学習装置、推定方法、学習方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/147 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
H01J37/147 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194286
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】503237806
【氏名又は名称】株式会社NHVコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 博文
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA39
5C101BB06
5C101EE48
5C101EE49
5C101GG15
5C101HH01
5C101HH21
5C101HH61
5C101JJ04
(57)【要約】
【課題】電子ビーム照射装置の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における照射分布を容易に調整することが可能な技術を提供する。
【解決手段】推定装置(4)は、走査された電子ビームが照射される照射面における照射分布と、電子ビーム照射装置(1)の仕様を示す装置仕様と、走査電源(2)の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、走査電源(2)の調整パラメータを推定する推定部(42)と、推定した調整パラメータを電子ビーム照射装置(1)に設定する走査電源制御部(41)と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定装置であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する推定部と、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する設定部と、
を備える推定装置。
【請求項2】
前記照射分布は、前記電子ビームを走査したときの水平走査方向における照射線量の分布を示す線量分布を含み、
前記推定部は、前記線量分布と、前記装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記調整パラメータは、水平走査方向端部における電子ビームの走査速度、および水平走査方向中央部における電子ビームの走査速度に関する情報を含む、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記照射分布は、前記電子ビームを走査したときの照射線量の2次元分布を示す濃度分布を含み、
前記推定部は、前記濃度分布と、前記装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記調整パラメータは、水平走査方向におけるビーム幅、水平走査方向における基準位置、垂直走査方向におけるビーム幅、および垂直走査方向における基準位置に関する情報を含む、
請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記装置仕様は、前記電子ビーム照射装置の走査電源仕様、加速電圧、電子流、走査管仕様、およびコイル仕様に関する情報を含む、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項7】
前記推定装置はさらに、
前記電子ビーム照射装置が前記推定した調整パラメータを用いて前記電子ビームの走査をしたときの照射分布が基準値を満たしていない場合、当該推定した調整パラメータを用いて前記電子ビームの走査をしたときの照射分布を用いて前記学習済みモデルを再学習させる再学習部を備え、
前記推定部は、再学習させた前記学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項8】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習装置であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する入力部と、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる学習部と、
を備える学習装置。
【請求項9】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定方法であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定し、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する、
推定方法。
【請求項10】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習方法であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力し、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる、
学習方法。
【請求項11】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定するプログラムであって、
コンピュータに、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する処理と、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する処理と、
を実行させるプログラム。
【請求項12】
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルを学習させるプログラムであって、
コンピュータに、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する処理と、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、学習装置、推定方法、学習方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム照射装置は、自動車用タイヤの軽量化、品質の向上、電線被覆の耐熱性の向上、医療機器の滅菌などの幅広い分野で利用されている。これに関連する技術として、例えば、下記の特許文献1および特許文献2に開示された発明がある。
【0003】
特許文献1に記載の偏向感度算出方法においては、偏向器による偏向を制御する偏向パラメータを所定幅で走査することによって、サイズが既知であり、照射された電子ビームに対応した電流を検出する、ステージ上に載置された調整プレートをカバーする範囲に電子ビームを照射する。
【0004】
そして、調整プレートから検出された電流値を検出し、検出された電流値に対応する、画素数が既知の画像を形成し、形成された画像における調整プレートに対応する部分の画素数を算出する。そして、調整プレートのサイズと、偏向パラメータを走査する際の所定幅と、画像の画素数と、画像における調整プレートに対応する部分の画素数と、に基づいて、偏向器の偏向感度を算出する。
【0005】
特許文献2に記載の電子ビーム走査幅調整装置は、電子ビームを走査して照射窓から出力する電子ビーム照射装置と、電子ビームの照射を受けて出力する測定子の複数を互いに間隔を設けて電子ビーム走査方向に配列して照射窓に対向して配置されるターゲット板と、ターゲット板を電子ビーム走査方向に移動させるとともにターゲット板の移動変位量を出力する駆動機構と、を有している。
【0006】
電子ビーム走査幅調整装置はさらに、変位量と測定子の各出力とを入力して照射窓から出力された電子ビームの走査幅を求める走査幅演算手段と、走査幅演算手段で求めた走査幅と予め設定した走査幅とを比較して偏差を求める比較手段と、を有している。そして、比較手段で求めた偏差により照射窓から出力される電子ビームの走査幅を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-133978号(2019年8月8日公開)
【特許文献2】特開平10-319200号(1998年12月4日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1に記載の偏向感度算出方法によれば、偏向器の偏向感度を算出することにより、電子ビームの照射エリアを適切に調整することができる。しかしながら、電子ビーム照射装置の装置仕様が変更された場合等においては、電子ビームの照射エリアを調整し直す必要がある。
【0009】
また、上述の特許文献2に記載の電子ビーム走査幅調整装置は、比較手段で求めた偏差により照射窓から出力される電子ビームの走査幅を調整することができる。しかしながら、特許文献1と同様に、電子ビーム照射装置の装置仕様が変更された場合等においては、照射窓から出力される電子ビームの走査幅を調整し直す必要がある。
【0010】
本発明の一態様は、電子ビーム照射装置の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における照射分布を容易に調整することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推定装置は、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定装置であって、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する推定部と、前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する設定部と、を備える。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習装置は、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習装置であって、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する入力部と、前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる学習部と、を備える。
【0013】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る推定方法は、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定方法であって、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定し、前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する。
【0014】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習方法は、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習方法であって、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力し、前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる。
【0015】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプログラムは、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定するプログラムであって、コンピュータに、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する処理と、前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する処理と、を実行させる。
【0016】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るプログラムは、電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルを学習させるプログラムであって、コンピュータに、走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する処理と、前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、電子ビーム照射装置の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における照射分布を容易に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る学習装置を含んだシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図4】ビーム形状による濃度分布を説明するための図である。
【
図5】ビーム像からY方向線量分布を予測する場合を説明するための図である。
【
図6】Y方向走査速度とX方向幅の相関を説明するための図(その1)である。
【
図7】Y方向走査速度とX方向幅の相関を説明するための図(その2)である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る学習装置による学習方法(線量分布)を説明するためのフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る学習装置による学習方法(濃度分布)を説明するためのフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施形態に係る推定装置を含んだシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る推定装置による推定方法(濃度分布)を説明するためのフローチャートである。
【
図12】本発明の一実施形態に係る推定装置による推定方法(線量分布)を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<学習装置を含んだシステムの構成例>
図1は、本発明の一実施形態に係る学習装置を含んだシステムの構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、システム100は、電子ビーム照射装置1と、走査電源2と、学習装置3と、CTA(Cellulose Tri-Acetate:三酢酸セルロース)フィルム線量計測装置5と、CTAフィルム線量解析装置6と、感光紙ビーム像撮影装置7と、感光紙ビーム像解析装置8と、を含む。
【0020】
電子ビーム照射装置1は、電子ビーム照射部11と、走査コイル12と、走査管13と、照射窓14と、加速管16と、を含み、
図1においては、電子ビーム照射装置1の照射窓14にCTAフィルムまたは感光紙15が配置されている。
【0021】
電子ビーム照射部11は、主に、熱電子を発生するフィラメント等によって構成されており、加速管16がフィラメントによって発生された電子を収束しながら加速することにより、電子ビームを照射する。
【0022】
走査コイル12は、走査電源2から供給される走査コイル電流に応じて、電子ビーム照射部11から照射された電子ビームを走査(偏向)させる。走査コイル12は、Y方向(水平走査方向)に電子ビームを偏向させる偏向コイルと、X方向(水平走査方向に対して垂直方向)に電子ビームを偏向させる偏向コイルとを有しており、Y方向およびX方向に電子ビームを走査させることができる。
【0023】
走査管13の内部は真空であり、走査管13の下部に設けられた照射窓14によって真空領域と大気領域とが隔てられている。照射窓14から下の大気中が照射領域となっている。照射領域には、CTAフィルムまたは感光紙15が配置されている。
【0024】
走査電源2は、走査コイル12によって電子ビームを偏向させるための走査コイル電流を生成して走査コイル12に供給する。走査コイルに供給される走査コイル電流波形は、
図2に示す通りの波形(基準波形)であるが、三角波の端部波形調整機能や中央部調整機能によって走査コイル電流波形が微調整される。
【0025】
図2は、走査コイル電流の基準波形を示す図であり、横軸が時間で縦軸が電流値となる。理想的には走査コイルに三角波の電流波形を供給することで、照射領域のCTAフィルムに照射される線量分布は、照射範囲においてどの位置でも同じになるが、実際には装置仕様により線量分布が均一にならないため、走査電源のパラメータを変えて線量分布がより均一になるように調整を行う。走査電源のパラメータを変えた時、走査コイルに供給される電流の電流変化率di/dtが部分的に変わる。di/dtが大きくなる程、走査速度が速くなり、走査速度が速くなると照射される時間が減ることで、線量分布における照射線量が減る。逆に線量分布における照射線量を増やしたい時にはdi/dtを小さくすることで対応可能である。
【0026】
三角波の電流位置と線量分布位置との相関としては、三角波の先端が線量分布端部に相当し、0A位置が線量分布の中央部に相当する。端部の照射線量を減らすときには、端部波形調整機能を用いて、端部に相当する位置の三角波のdi/dtを大きくする。また、中央部の照射線量を減らすときには、中央部波形調整機能を用いて、中央部に相当する三角波の位置のdi/dtを大きくする。本実施形態では分かりやすくするため、端部と中央部とで分けているが、より細分化してコントロールした方がより均一な線量分布となる。
【0027】
走査電源2の調整パラメータには、上述の端部波形調整機能と中央部調整機能以外に、Y方向の幅を示すパラメータ(Y-scan)、Y方向の基準位置を示すパラメータ(Ysteer)、X方向の幅を示すパラメータ(X-scan)、およびX方向の基準位置を示すパラメータ(Xsteer)の4つがあるが、これらの詳細は後述する。
【0028】
再び、
図1の説明に戻る。走査電源2は、I/F(Interface)21を有しており、I/F21は、学習装置3の走査電源制御部31から調整パラメータを入力し、入力した調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。
【0029】
CTAフィルム線量計測装置5は、電子ビームが照射されたCTAフィルム15の線量分布を計測するための装置である。電子ビーム照射装置1に電子ビームを吸収するCTAフィルム15を設置し、電子ビームをY方向に走査したときのCTAフィルム15が計測対象となる。この時、通常の搬送物と同様にCTAフィルムは電子ビームが当たらない位置から走査管の真下を通過させて再度電子ビームが当たらない位置まで同一速度でX方向にスライドさせながら照射することでX方向の照射量のばらつきは平均化される。
【0030】
CTAフィルム線量解析装置6は、CTAフィルム線量計測装置5によって計測されたCTAフィルム15の線量分布を解析する。例えば、CTAフィルム線量解析装置6は、線量分布をグラフ化して学習装置3へ出力する。なお、CTAフィルム15の線量分布の数値データをそのまま学習装置3へ出力するようにしてもよい。
【0031】
図3は、線量分布の一例を示す図である。上述のように、端部波形調整機能および中央部波形調整機能を用いて、走査コイルに供給される電流の電流変化率di/dtを部分的に変えることにより、
図3に示すような中央部および端部において一様な電圧(照射線量)となるようにすることが好ましい。
【0032】
再び、
図1の説明に戻る。感光紙ビーム像撮影装置7は、電子ビームが照射された感光紙15の照射線量の2次元分布を示す濃度分布の画像を撮影する。電子ビーム照射装置1の照射窓14に感光紙15を貼り、電子ビームをY方向およびX方向に走査したときの感光紙15が撮影対象となる。感光紙15の電子ビームが照射された部分が変色するため、感光紙ビーム像撮影装置7は、感光紙15の変色の度合いを撮影する。
【0033】
感光紙ビーム像解析装置8は、感光紙ビーム像撮影装置7によって撮影された感光紙15の画像を取得し、例えば、画像の一定範囲(例えば、1画素)の濃淡を0~255で表した数値データに変換する。そして、感光紙ビーム像解析装置8は、各画素の相対線量を予測しX位置での平均化したY方向の線量予測値を学習装置3へ出力する。
【0034】
図4は、ビーム形状による濃度分布を説明するための図である。このビーム形状は、電子ビーム照射装置1が感光紙15上で電子ビームを走査したときの照射線量の2次元分布を示す濃度分布によって表されており、照射窓14に対する濃度分布の相対位置を表している。この濃度分布の相対位置は、後述のように、照射窓14の中央部、左端部および右端部における照射窓14から濃度分布までの距離等によって表すことができる。
【0035】
走査電源2は、調整パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)に基づいて、Y方向およびX方向に電子ビームを走査するように走査コイル電流を制御する。走査コイル12は、Y方向の基準位置を示すYsteerおよびX方向の基準位置を示すXsteerに基づいて、Y方向にY-scanの設定値だけ電子ビームを走査する。同時にX方向にX-scanの設定値だけ電子ビームが偏向すると、感光紙15上に照射線量の2次元分布を示す濃度分布(ビーム形状)が形成される。
【0036】
図4においては、電子ビームが照射窓(照射出口部)14に当たらないように、照射出口部から濃度分布(ビーム像)までの距離を測定する。また、中央部から、例えば、100cmの距離にある右端部または左端部までビーム像が広がっているかを確認する。このように、走査管13に当たらないよう走査管13とビーム像の距離に規定値を設けて監視している。
【0037】
走査コイル12は、調整パラメータに基づいて、電子ビームをY方向およびX方向に走査して感光紙15上にビーム形状を形成するが、調整パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)によって本来ビーム形状が形成されるべき位置からずれて感光紙15上にビーム形状が形成される場合がある。
【0038】
感光紙ビーム像解析装置8は、
図4に示すような照射窓14の中央部、左端部、および右端部における照射窓14からビーム形状までの距離、照射窓14の左端部からビーム形状の左端までの距離、照射窓14の右端部からビーム形状の右端までの距離、を特徴量として抽出し、学習装置3へ特徴量のみを出力するようにしてもよい。
【0039】
図5は、ビーム像からY方向線量分布を予測する場合を説明するための図である。
図5の上図は、感光紙ビーム像撮影装置7によって撮影された感光紙15の画像の一定範囲(例えば、1画素)の濃淡を0~255で表した数値データを示している。例えば、感光紙ビーム像解析装置8は、ビーム像からY方向の1ライン(または複数ライン)を抽出することにより、
図5の下図に示すようなY方向線量分布を得ることができる。
【0040】
図6および
図7は、Y方向走査速度とX方向幅の相関を説明するための図である。
図6の左図は、走査しない場合のビーム像の概略形状であり、
図6の右図は、X方向に走査した場合のビーム像の概略形状である。
図6に示すように、電子ビームをX方向に走査した場合、ビーム像の上部と下部とでは電子ビームが1回しか照射されないため、X方向端部では電子ビームの照射量が少なくなる。また、Y方向走査速度が速くなると、Y方向端部での電子ビームの照射量が少なくなり、ビーム形状が見え難くなる。このように、X方向幅も線量分布を予測する要素となり得る。
【0041】
また、
図7の上図に示すように、X方向端部では、電子ビームの照射量が少なくなるため、X方向端部におけるビーム像が淡くなっている。また、
図7の左下図に示すように、Y方向走査速度が速い場合、X方向端部におけるビーム像が更に淡くなり、X方向幅が短く見えるようになる。
【0042】
このように、X方向幅はY方向走査速度と相関のあるパラメータであり、Y方向走査速度はY方向線量分布と相関のあるパラメータであることから、X方向幅はY方向線量分布と相関があり、ビーム像からY方向線量分布を予測するための精度を高める機械学習パラメータと言うことができる。
【0043】
また、端部でのY方向走査速度が速く、中心部でのY方向走査速度が遅ければ、ビーム像は
図7の右下図に示すような楕円形になると考えられるが、実際には楕円形の外側の四角の範囲内にも電子ビームが照射されている。パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)とX方向幅を機械学習パラメータとすることで、画像だけでは切り捨てられる見えない部分を含めて予測し、Y方向線量分布の予測精度を上げることができる。
【0044】
学習装置3は、走査電源制御部31と、学習部32と、入力部33とを含む。走査電源制御部31は、走査電源2を制御するための調整パラメータを走査電源2へ出力する。学習モデルの学習時は、例えば、走査電源制御部31が、予め決められた複数組の調整パラメータを順次走査電源2へ出力すると共に、学習部32へも調整パラメータを出力する。予め決められた複数組の調整パラメータは、例えば、
図2~
図3を用いて説明したような端部波形調整機能及び中央部調整機能が調整されたパラメータを含んでいてもよい。
【0045】
入力部33は、CTAフィルム線量解析装置6から線量分布を入力し、学習部32へ出力する。この線量分布は、CTAフィルム15の線量分布の数値データそのままであってもよいし、0-1VのCSVファイルをグラフ化したものであってもよい。
【0046】
また、入力部33は、感光紙ビーム像解析装置8から濃度分布を入力し、学習部32へ出力する。この濃度分布は、画像の一定範囲の濃淡を0~255で表した数値データを、X位置で平均化した値であってもよいし、
図4に示すような中央部、左端部、および右端部における特定位置までの距離を特徴量としたものであってもよい。
【0047】
学習部32は、CTAフィルム線量解析装置6から出力される線量分布と、装置仕様と、走査電源制御部31から出力される走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして第1学習モデルを学習させる。この第1学習モデルは、線量分布と、装置仕様とから、調整パラメータ(端部波形調整機能及び中央部調整機能)を推定するように学習される。
【0048】
装置仕様は、電子ビーム照射装置1の仕様であり、走査電源仕様、加速電圧、電子流、走査管仕様、およびコイル仕様に関する情報を含む。走査電源仕様は、走査電源2の電気的仕様であり、例えば、出力電流5App以上の値である。加速電圧は、例えば、低電圧~数千kVの値である。走査管仕様は、走査管の物理的仕様であり、例えば、走査幅等である。コイル仕様は、例えば、コイルの巻き数等である。装置仕様は、走査電源仕様の範囲内で電子ビーム照射装置1の使用時に設定された値、加速電圧の範囲内で電子ビーム照射装置1の使用時に設定された値を含む。なお、装置仕様としての走査管仕様、およびコイル仕様の値は、一般的には固定値である。
【0049】
学習部32は、仕様が異なる装置の学習も行うため、現在学習中の電子ビーム照射装置1の機種に応じた装置仕様が学習部32に入力される。
【0050】
また、学習部32は、X方向線量分布ムラの無いCTAフィルム線量解析装置6から出力されるY方向線量分布を正として感光紙ビーム像解析装置8から出力される濃度分布と、装置仕様と、走査電源制御部31から出力される走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして第2学習モデルを学習させる。この第2学習モデルは、濃度分布と、装置仕様とから、調整パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)を推定するように学習される。
【0051】
また、
図5を用いて説明したように、CTAフィルムを使用せずに感光紙15のビーム像からY方向線量分布を予測し、当該Y方向線量分布を使用して第1学習モデルを学習させるようにしてもよい。また、CTAフィルムデータと組み合わせて学習することで従来信頼性の低い感光紙のみでも線量分布を導きやすくすることができる。
【0052】
上述の説明においては、第1学習モデルと第2学習モデルとを別々の学習モデルに学習させる構成としたが、学習部32は、重み付けを調整するなどして、1つの学習モデルに学習させるようにしてもよい。
【0053】
なお、機械学習は、CNN(Convolutional Neural Network)、R-CNN(Regional CNN)、Fast R-CNN、Faster R-CNN、RNN(Recurrent Neural Network)、U-Net、SegNet等であってもよい。
【0054】
図8は、本発明の一実施形態に係る学習装置3による学習方法(線量分布)を説明するためのフローチャートである。まず、走査電源制御部31は、走査電源2の調整パラメータを走査電源2へ出力する(S11)。
【0055】
走査電源2は、調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。走査コイル12は、走査コイル電流波形に応じて電子ビームを偏向してCTAフィルム15上に照射させる(S12)。電子ビームの照射が終了したCTAフィルム15は、CTAフィルム線量計測装置5によって線量分布が計測される。
【0056】
次に、CTAフィルム線量解析装置6が、CTAフィルム線量計測装置5によって計測された線量分布を解析し、線量分布を入力部33へ出力する。学習部32は、入力部33から線量分布を入力する(S13)。
【0057】
次に、学習部32は、CTAフィルム線量解析装置6から出力される線量分布と、装置仕様と、走査電源制御部31から出力される走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして第1学習モデルを学習させる(S14)。
【0058】
最後に、学習装置3は、学習を終了するか否かを判定する(S15)。学習していない調整パラメータがあれば(S15,No)、ステップS11以降の処理を繰り返す。また、学習していない調整パラメータがなければ(S15,Yes)、学習装置3は、処理を終了する。
【0059】
図9は、本発明の一実施形態に係る学習装置3による学習方法(濃度分布)を説明するためのフローチャートである。まず、走査電源制御部31は、走査電源2の調整パラメータを走査電源2へ出力する(S21)。
【0060】
走査電源2は、調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。走査コイル12は、走査コイル電流波形に応じて電子ビームを偏向して感光紙15上に照射させる(S22)。電子ビームの照射が終了した感光紙15は、感光紙ビーム像撮影装置7によって濃度分布が撮影される。
【0061】
次に、感光紙ビーム像解析装置8が、感光紙ビーム像撮影装置7によって撮影された濃度分布を解析し、濃度分布を入力部33へ出力する。学習部32は、入力部33から濃度分布を入力する(S23)。
【0062】
次に、学習部32は、感光紙ビーム像解析装置8から出力される濃度分布と、装置仕様と、走査電源制御部31から出力される走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして第2学習モデルを学習させる(S24)。
【0063】
最後に、学習装置3は、学習を終了するか否かを判定する(S25)。学習していない調整パラメータがあれば(S25,No)、ステップS21以降の処理を繰り返す。また、学習していない調整パラメータがなければ(S25,Yes)、学習装置3は、処理を終了する。
【0064】
<学習装置3の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る学習装置3によれば、学習部32が、照射分布(線量分布、濃度分布)と、電子ビーム照射装置1の仕様を示す装置仕様と、走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして学習モデル(第1学習モデル、第2学習モデル)を学習させる。したがって、電子ビーム照射装置1の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における照射分布を容易に調整できるように学習モデルを学習させることが可能となる。
【0065】
<推定装置を含んだシステムの構成例>
図10は、本発明の一実施形態に係る推定装置を含んだシステム200の構成例を示すブロック図である。
図1に示すシステム100と比較して、学習装置3が推定装置4に置換されている点のみが異なる。したがって、重複する構成および機能の詳細な説明は繰り返さない。
【0066】
推定装置4は、走査電源制御部(以下、設定部とも呼ぶ。)41と、推定部42と、入力部33とを含む。推定部42は、
図1に示す学習装置3によって学習させた学習済みモデルを用いて走査電源2の調整パラメータを推定する。線量分布を用いて調整パラメータを推定する場合、推定部42は、学習部32によって学習させた第1学習モデルに線量分布および装置仕様を入力し、調整パラメータ(端部波形調整機能及、中央部調整機能)を推定する。
【0067】
また、濃度分布を用いて調整パラメータを推定する場合、推定部42は、学習部32によって学習させた第2学習モデルに濃度分布および装置仕様を入力し、調整パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)を推定する。なお、推定部42は、
図1に示す学習部32と同様の機能を有しており、照射分布(線量分布、濃度分布)が基準値を満たしていない場合、推定した調整パラメータを用いて電子ビームの走査をしたときの照射分布を用いて学習済みモデルを再学習させる機能(以下、再学習部とも呼ぶ。)を有しているものとする。
【0068】
走査電源制御部41は、推定部42によって推定された調整パラメータを走査電源2へ出力する。走査電源2は、調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。
【0069】
図11は、本発明の一実施形態に係る推定装置4による推定方法(濃度分布)を説明するためのフローチャートである。まず、推定部42は、第2学習モデルに、装置仕様に対応した標準的な濃度分布および装置仕様を入力し、調整パラメータを決定する(S31)。
【0070】
次に、走査電源制御部41は、走査電源2に調整パラメータを設定する(S32)。走査電源2は、調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。走査コイル12は、電子ビームを走査して、感光紙15に電子ビームを照射する(S33)。電子ビームの照射が終了した感光紙15は、感光紙ビーム像撮影装置7によって濃度分布が撮影される。
【0071】
次に、感光紙ビーム像解析装置8が、感光紙ビーム像撮影装置7によって撮影された濃度分布を解析し、濃度分布を入力部33へ出力する。推定部42は、入力部33から濃度分布を入力する(S34)。
【0072】
次に、推定部42は、濃度分布が基準値を満たしているか否かを判定する(S35)。濃度分布が基準値を満たしていない場合(S35,No)、この濃度分布を用いて第2学習モデルを再学習させ(S36)、ステップS31以降の処理を繰り返す。また、濃度分布が基準値を満たしている場合(S35,Yes)、推定装置4は、処理を終了する。
【0073】
図12は、本発明の一実施形態に係る推定装置4による推定方法(線量分布)を説明するためのフローチャートである。まず、推定部42は、第1学習モデルに、装置仕様に対応した標準的な線量分布および装置仕様を入力し、調整パラメータを決定する(S41)。
【0074】
次に、走査電源制御部41は、走査電源2に調整パラメータを設定する(S42)。走査電源2は、調整パラメータに応じて走査コイル電流波形を生成して走査コイル12へ出力する。走査コイル12は、電子ビームを走査して、CTAフィルム15に電子ビームを照射する(S43)。電子ビームの照射が終了したCTAフィルム15は、CTAフィルム線量計測装置5によって線量分布が計測される。
【0075】
次に、CTAフィルム線量解析装置6が、CTAフィルム線量計測装置5によって計測された線量分布を解析し、線量分布を入力部33へ出力する。推定部42は、入力部33から線量分布を入力する(S44)。
【0076】
次に、推定部42は、線量分布が基準値を満たしているか否かを判定する(S45)。線量分布が基準値を満たしていない場合(S45,No)、この線量分布を用いて第1学習モデルを再学習させ(S46)、ステップS41以降の処理を繰り返す。また、線量分布が基準値を満たしている場合(S45,Yes)、推定装置4は、処理を終了する。
【0077】
<推定装置4の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る推定装置4によれば、推定部42が、走査された電子ビームが照射される照射面における照射分布(線量分布、濃度分布)と、電子ビーム照射装置1の仕様を示す装置仕様と、走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、走査電源2の調整パラメータを推定する。したがって、電子ビーム照射装置1の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における照射分布を容易に調整することが可能となる。
【0078】
また、推定部42が、線量分布と、装置仕様と、走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、走査電源2の調整パラメータを推定する。したがって、電子ビーム照射装置1の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における線量分布を容易に調整することが可能となる。
【0079】
また、調整パラメータは、水平走査方向端部における電子ビームの走査速度に関する情報(端部波形調整機能)、および水平走査方向中央部における電子ビームの走査速度に関する情報(中央部調整機能)を含む。したがって、推定部42は、線量分布に応じて、調整パラメータ(端部波形調整機能、中央部調整機能)を容易に推定することが可能となる。
【0080】
また、推定部42が、濃度分布と、装置仕様と、走査電源2の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、走査電源2の調整パラメータを推定する。したがって、電子ビーム照射装置1の照射条件や装置仕様が変更された場合等においても、電子ビームが照射される照射面における濃度分布を容易に調整することが可能となる。
【0081】
また、調整パラメータは、水平走査方向におけるビーム幅(Y-scan)、水平走査方向における基準位置(Ysteer)、垂直走査方向におけるビーム幅(X-scan)、および垂直走査方向における基準位置(Xsteer)に関する情報を含む。したがって、推定部42は、濃度分布に応じて、調整パラメータ(Y-scan、Ysteer、X-scan、Xsteer)を容易に推定することが可能となる。
【0082】
また、装置仕様は、電子ビーム照射装置1の走査電源仕様、加速電圧、電子流、走査管仕様、およびコイル仕様に関する情報を含む。したがって、電子ビーム照射装置1の使用時における装置仕様が異なる場合であっても、調整パラメータを容易に推定することが可能となる。
【0083】
また、電子ビーム照射装置1が推定した調整パラメータを用いて電子ビームの走査をしたときの照射分布が基準値を満たしていない場合、再学習部が、当該推定した調整パラメータを用いて電子ビームの走査をしたときの照射分布を用いて学習済みモデルを再学習させる。したがって、照射分布が基準値を満たしていない場合であっても、学習モデルを再学習させることによって照射分布が基準値を満たすようにすることができる。
【0084】
<ソフトウェアによる実現例>
学習装置3、推定装置4(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に、学習部32、推定部42)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0085】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0086】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0087】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0088】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る推定装置は、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定装置であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する推定部と、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する設定部と、
を備える。
【0089】
本発明の態様2に係る推定装置は、態様1に記載の推定装置であって、
前記照射分布は、前記電子ビームを走査したときの水平走査方向における照射線量の分布を示す線量分布を含み、
前記推定部は、前記線量分布と、前記装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する。
【0090】
本発明の態様3に係る推定装置は、態様2に記載の推定装置であって、
前記調整パラメータは、水平走査方向端部における電子ビームの走査速度、および水平走査方向中央部における電子ビームの走査速度に関する情報を含む。
【0091】
本発明の態様4に係る推定装置は、態様1に記載の推定装置であって、
前記照射分布は、前記電子ビームを走査したときの照射線量の2次元分布を示す濃度分布を含み、
前記推定部は、前記濃度分布と、前記装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する。
【0092】
本発明の態様5に係る推定装置は、態様4に記載の推定装置であって、
前記調整パラメータは、水平走査方向におけるビーム幅、水平走査方向における基準位置、垂直走査方向におけるビーム幅、および垂直走査方向における基準位置に関する情報を含む。
【0093】
本発明の態様6に係る推定装置は、態様1~5のいずれかに記載の推定装置であって、
前記装置仕様は、前記電子ビーム照射装置の走査電源仕様、加速電圧、電子流、走査管仕様、およびコイル仕様に関する情報を含む。
【0094】
本発明の態様7に係る推定装置は、態様1~6のいずれかに記載の推定装置であって、
前記推定装置はさらに、
前記電子ビーム照射装置が前記推定した調整パラメータを用いて前記電子ビームの走査をしたときの照射分布が基準値を満たしていない場合、当該推定した調整パラメータを用いて前記電子ビームの走査をしたときの照射分布を用いて前記学習済みモデルを再学習させる再学習部を備え、
前記推定部は、再学習させた前記学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する。
【0095】
本発明の態様8に係る学習装置は、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習装置であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する入力部と、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる学習部と、
を備える。
【0096】
本発明の態様9に係る推定方法は、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する推定方法であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定し、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する。
【0097】
本発明の態様9に係る学習方法は、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルの学習方法であって、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力し、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる。
【0098】
本発明の態様11に係るプログラムは、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定するプログラムであって、
コンピュータに、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして学習させた学習済みモデルを用いて、前記走査電源の調整パラメータを推定する処理と、
前記推定した調整パラメータを前記電子ビーム照射装置に設定する処理と、
を実行させる。
【0099】
本発明の態様12に係るプログラムは、
電子ビーム照射装置における電子ビームを走査するための走査電源の調整パラメータを推定する学習モデルを学習させるプログラムであって、
コンピュータに、
走査された前記電子ビームが照射される照射面における照射分布を入力する処理と、
前記照射分布と、前記電子ビーム照射装置の仕様を示す装置仕様と、前記走査電源の調整パラメータとの組を教師データとして前記学習モデルを学習させる処理と、
を実行させる。
【0100】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 電子ビーム照射装置
2 走査電源
3 学習装置
4 推定装置
5 CTAフィルム線量計測装置
6 CTAフィルム線量解析装置
7 感光紙ビーム像撮影装置
8 感光紙ビーム像解析装置
11 電子ビーム照射部
12 走査コイル
13 走査管
14 照射窓
15 CTAフィルム、感光紙
16 加速管
21 I/F
31,41 走査電源制御部
32 学習部
33 入力部
42 推定部
100,200 システム