(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080925
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20240610BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240610BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240610BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240610BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P27/02
A61K9/08
A61K9/14
A61K47/38
A61K47/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194291
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】長岡 泰司
(72)【発明者】
【氏名】横田 陽匡
(72)【発明者】
【氏名】長井 紀章
(72)【発明者】
【氏名】花栗 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳樹
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA22
4C076AA29
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE32G
4C076EE39
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA10
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA23
4C086MA43
4C086MA58
4C086NA10
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を改善又は予防することが可能な点眼剤を提供する。
【解決手段】ノビレチンを含むナノ粒子を含有する、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノビレチンを含むナノ粒子を含有する、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、ノビレチンの湿式粉砕物である、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
増粘剤をさらに含有する、請求項1又は2に記載の点眼剤。
【請求項4】
前記増粘剤が、セルロース系増粘剤である、請求項3に記載の点眼剤。
【請求項5】
前記セルロース系増粘剤が、メチルセルロースである、請求項4に記載の点眼剤。
【請求項6】
シクロデキストリン類をさらに含有する、請求項1又は2のいずれか一項に記載の点眼剤。
【請求項7】
前記シクロデキストリン類が、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、請求項6に記載の点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノビレチンは、シークワーサー等の柑橘類に含まれるフラボノイドの一種である。ノビレチンは、フェニレフリンで予備収縮させたラット大動脈(非特許文献1)及びラット腸管膜動脈(非特許文献2)に対し、血管拡張作用を有することが報告されている。非特許文献1において、ノビレチンは、血管内皮非依存的に、ラット大動脈を拡張させると考えられている。非特許文献2において、ノビレチンは、血管内皮依存的にラット腸管膜動脈を拡張させると考えられている。
血管拡張メカニズムは、血管が存在する組織によって異なっており、化合物による血管拡張応答も組織によって異なっている。例えば、非特許文献2には、ラット肺動脈では、ノビレチンによる血管拡張応答が生じなかったことが報告されている。
【0003】
眼疾患に対する薬剤の投与方法としては、内服投与よりも局所投与の方が、全身副作用が少ないため望ましい。例えば、加齢黄斑変性及び糖尿病黄斑浮腫などの網膜疾患治療に汎用されている抗VEGF剤では、主に硝子体内腔投与が用いられている。しかしながら、硝子体出血及び水晶体損傷などが報告されており、さらには眼内炎などの重篤な眼合併症も報告されている。安全性の観点からは、点眼による投与が望ましい。しかしながら、眼球後部に存在する網膜組織まで、通常用いられる点眼により有効濃度の薬剤を到達させることは困難である。
【0004】
一方、網膜循環及び網膜神経連関における障害は、明らかな網膜症所見が発見されるよりも早期に引き起こされ、網膜疾患の発症の一因であると考えられている。しかしながら、これらの障害の改善又は予防に有効な点眼剤は実用化されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaneda et al.,Endothelium-independent vasodilator effects of nobiletin in rat aorta. J Pharmacol Sci. 2019 May;140(1):48-53.
【非特許文献2】Yang et al., Nobiletin Relaxes Isolated Mesenteric Arteries by Activating the Endothelial Ca2+-eNOS Pathway in Rats. J Vasc Res. 2016;53(5-6):330-339.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
網膜循環障害又は網膜神経連関障害を点眼により改善又は予防することができれば、これらの障害に起因する網膜疾患を、安全かつ有効に予防又は治療することができる。
【0007】
そこで、本発明は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を改善又は予防することが可能な点眼剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]ノビレチンを含むナノ粒子を含有する、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤。
[2]前記ナノ粒子が、ノビレチンの湿式粉砕物である、[1]に記載の点眼剤。
[3]増粘剤をさらに含有する、[1]又は[2]に記載の点眼剤。
[4]前記増粘剤が、セルロース系増粘剤である、[3]に記載の点眼剤。
[5]前記セルロース系増粘剤が、メチルセルロースである、[4]に記載の点眼剤。
[6]シクロデキストリン類をさらに含有する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の点眼剤。
[7]前記シクロデキストリン類が、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである、[6]に記載の点眼剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を改善又は予防することが可能な点眼剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】点眼剤投与試験に供した糖尿病モデルマウスの8週齢、10週齢、12週齢、及び14週齢におけるフリッカー刺激後の血流変化をそれぞれ示す。Nobiletin:ノビレチン含有点眼剤投与(n=6)。Vehicle:Vehicle点眼剤投与(n=6)。
【
図2】点眼剤投与試験に供した糖尿病モデルマウスの8週齢、10週齢、12週齢、及び14週齢における高酸素負荷刺激後の血流変化をそれぞれ示す。Nobiletin:ノビレチン含有点眼剤投与(n=6)。Vehicle:Vehicle点眼剤投与(n=6)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪点眼剤≫
本実施形態は、ノビレチンを含むナノ粒子を含有する、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤、を提供する。
【0012】
「網膜循環」とは、網膜における血流を意味する。「網膜循環障害」とは、網膜における血流が障害されることを意味する。「網膜神経血管連関」とは、神経活動に応じて網膜における血流が変化することを意味する。「網膜神経血管連関障害」とは、神経活動に応じた血流変化の反応が障害されることを意味する。
血栓又は栓子等により網膜血管が閉塞又は狭窄すると、網膜循環障害が生じ、視神経への酸素及び栄養分の供給が妨げられる。また、神経活動に伴う酸素需要の増大に見合う網膜血流の増加が妨げられて網膜組織が相対的低酸素に陥るため、網膜神経血管連関障害が生じる。
【0013】
網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を発症しているか否かは、フリッカー刺激による網膜血流の変化を測定することにより、定量的かつ非侵襲的に確認することができる。障害が生じていない正常な網膜では、通常、フリッカー刺激により網膜血流は増加する。しかし、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害が生じていると、フリッカー刺激による網膜血流の増加が阻害される。したがって、フリッカー刺激による網膜血流の増加が生じない場合には、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を発症していると評価することができる。また、フリッカー刺激により網膜血流が増加しない状態から、フリッカー刺激による網膜血流の増加が確認できる状態になった場合には、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害が改善した、と評価することができる。
【0014】
<ノビレチンを含むナノ粒子>
本実施形態の点眼剤は、ノビレチンを含むナノ粒子(以下、「ノビレチンナノ粒子」ともいう)を含有する。ノビレチンナノ粒子は、固体ナノ粒子であり、好ましくはノビレチンがナノ粒子化したものである。
【0015】
ノビレチン(2-(3,4-Dimethoxyphenyl)-5,6,7,8-tetramethoxychromen-4-one)は、フラボン骨格を有するポリメトキシフラボノイドの一種である。ノビレチンは、下記化学式で表される。
【0016】
【0017】
ノビレチンは、シークワーサー、ポンカン、カボス、タチバナ等の柑橘類の特に果皮部分に多く含まれている。ノビレチンは、これらの柑橘類の果皮から公知の方法により精製してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0018】
本実施形態の点眼剤におけるノビレチンの含有量は、特に限定されないが、例えば、点眼剤全体に対して、0.1~10%(w/v)が挙げられる。ノビレチンの含有量は、点眼剤全体に対して、0.5~5%(w/v)が好ましく、1~4%(w/v)がより好ましく、1.5~3%(w/v)がさらに好ましい。
【0019】
「ナノ粒子」は、1nm以上1000nm未満の粒子径を有する粒子である。本実施形態の点眼剤が含有するノビレチンナノ粒子は、細胞への取り込み効率の観点から、10~300nmの範囲の粒子径を有することが好ましく、30~150nmの範囲の粒子径を有することがより好ましい。ノビレチンナノ粒子としては、例えば、レーザ回折/散乱法や動的光散乱法により測定される平均径が50~120nmの粒度分布を有するもの等が挙げられる。
【0020】
ノビレチンナノ粒子は、ノビレチンを湿式粉砕することにより得ることができる。ノビレチンの湿式粉砕は、ビーズミル等を用いて行うことができる。また、湿式粉砕の前に、乾式粉砕を行ってもよい。湿式粉砕前に乾式粉砕を行うことにより、ノビレチンを効率的にナノ粒子化することができる。ノビレチンナノ粒子は、ノビレチンの湿式粉砕物又は湿式ビーズ・ボールミル粉砕物であってもよい。ノビレチンの湿式粉砕物は、ノビレチン乾式粉砕物の湿式粉砕物であってもよく、ノビレチン乾式粉砕物の湿式ビーズ・ボールミル粉砕物であってもよい。
【0021】
<水>
本実施形態の点眼剤は、分散媒として、水を含有する。水は、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等の点眼剤に使用可能なグレードのものを用いることができる。
【0022】
<任意成分>
本実施形態の点眼剤は、ノビレチンナノ粒子に加えて、任意成分を含有していてもよい。前記任意成分としては、例えば、増粘剤、保存剤、等張化剤、シクロデキストリン類、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0023】
(増粘剤)
本実施形態の点眼剤は、増粘剤を含んでいることが好ましい。点眼剤に増粘剤を含有させることにより、ノビレチンナノ粒子の調製時にメレンゲまたはクリーム状になる現象が抑制され、良好な状態のノビレチンナノ粒子分散液を得ることができる。
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系増粘剤;カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン等のビニル系増粘剤;アルギン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、マクロゴール等が挙げられるがこれらに限定されない。
これらの中でも、増粘剤としては、ノビレチンナノ粒子の滞留性が向上し眼内移行性が高まることから、セルロース系増粘剤が好ましく、メチルセルロースがより好ましい。
【0024】
増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の点眼剤における増粘剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、点眼剤全体に対して、0.01~3%(w/v)が好ましく、0.05~2%(w/v)がより好ましく、0.1~1%(w/v)がさらに好ましい。
【0025】
(保存剤)
本実施形態の点眼剤は、保存剤を含んでいてもよい。保存剤を含有させることにより、点眼剤の保存性が向上する。
保存剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物およびグルコン酸クロルヘキシジン等の逆性石鹸類;メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン等のパラベン類;クロロブタノール、フェニルエチルアルコールおよびベンジルアルコール等のアルコール類が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、保存剤としては、点眼剤で汎用されており保存効果が高いことから、陽イオン性界面活性剤である逆性石鹸類が好ましく、ベンザルコニウム塩化物がより好ましい。
【0026】
保存剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の点眼剤における保存剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、点眼剤全体に対して、0.0005~0.5%(w/v)が好ましく、0.001~0.1%(w/v)がより好ましく、0.001~0.01%(w/v)がさらに好ましい。
【0027】
(等張化剤)
本実施形態の点眼剤は、等張化剤を含んでいてもよい。等張化剤を含有させることにより、眼に対する刺激を低減することができる。
等張化剤としては、例えば、ブドウ糖等の糖類;プロピレングリコール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の多価アルコール類;塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、等張化剤としては、保護剤等による刺激から角膜を保護できることから、多価アルコール類が好ましく、マンニトールがより好ましい。
【0028】
等張化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の点眼剤における等張化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、点眼剤全体に対して、0.01~3%(w/v)が好ましく、0.05~2%(w/v)がより好ましく、0.1~1%(w/v)がさらに好ましい。
【0029】
(シクロデキストリン類)
本実施形態の点眼剤は、シクロデキストリン類を含有することが好ましい。シクロデキストリン類は、ノビレチンナノ粒子の凝集を抑制し、ノビレチンナノ粒子を均一に分散させることができる。
「シクロデキストリン類」とは、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を意味する。シクロデキストリン類としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、及びこれらの誘導体等が挙げられる。シクロデキストリン誘導体としては、アルキル誘導体、ヒドロキシアルキル誘導体、スルホアルキルエーテル誘導体または糖結合誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、シクロデキストリン類としては、ノビレチンナノ粒子の分散性に優れることから、ヒドロキシアルキル誘導体が好ましく、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
【0030】
シクロデキストリン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の点眼剤におけるシクロデキストリン類の含有量は、特に限定されないが、例えば、点眼剤全体に対して、0.1~15%(w/v)が好ましく、1~10%(w/v)がより好ましく、3~8%(w/v)がさらに好ましい。
【0031】
(pH調整剤)
本実施形態の点眼剤は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、例えば、希塩酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
(緩衝剤)
本実施形態の点眼剤は、緩衝剤を含有してもよい。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、トロメタモール、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の点眼剤としては、ノビレチンナノ粒子、水、及び増粘剤を含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、増粘剤、及びシクロデキストリン類を含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、増粘剤、シクロデキストリン類、及び保存剤を含有する点眼剤;並びにノビレチンナノ粒子、水、増粘剤、シクロデキストリン類、保存剤、及び等張化剤を含有する点眼剤、等が挙げられる。
【0034】
より具体的には、ノビレチンナノ粒子、水、及びセルロース系増粘剤を含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、セルロース系増粘剤、及びシクロデキストリン類を含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、セルロース系増粘剤、シクロデキストリン類、及びベンザルコニウム塩化物を含有する点眼剤;並びにノビレチンナノ粒子、水、セルロース系増粘剤、及びシクロデキストリン類、ベンザルコニウム塩化物、及びマンニトールを含有する点眼剤、等が挙げられる。
【0035】
さらに具体的には、ノビレチンナノ粒子、水、及びメチルセルロースを含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、メチルセルロース、及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンを含有する点眼剤;ノビレチンナノ粒子、水、メチルセルロース、及び2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、及びベンザルコニウム塩化物を含有する点眼剤;並びにノビレチンナノ粒子、水、メチルセルロース、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ベンザルコニウム塩化物、及びマンニトールを含有する点眼剤、等が挙げられる。
【0036】
[製造方法]
本実施形態の点眼剤は、ノビレチンに、適宜、増粘剤等の任意成分を添加して混合し、好ましくはシクロデキストリン類を含む水性分散媒に分散させて、湿式粉砕することにより製造することができる。湿式粉砕を行う前に、乾式粉砕を行ってもよい。「乾式粉砕」とは気体中で粉砕を行うことをいう。「湿式粉砕」とは液体中で粉砕を行うことをいう。
以下、本実施形態の点眼剤の製造方法の具体例を説明するが、これに限定されない。
【0037】
ノビレチンに、適宜、増粘剤等を添加して混和し、混合及び微粉砕を行う。このとき、ノビレチンと混和する成分としては、シクロデキストリン類及び水以外の成分が挙げられる。ノビレチンと混和する成分は、乾式粉砕後、湿式粉砕の前に添加してもよいが、増粘剤及び等張化剤は微粉砕前にノビレチンと混和しておくことが好ましい。混合及び微粉砕は、まずメノウ乳鉢等で行い、その後、ビーズミル等による乾式粉砕を行ってもよい。混合及び微粉砕は、低温条件下(例えば、4℃)で行うことが好ましい。ビーズミルによる乾式粉砕には、直径2mm程度のジルコニアビーズを用いることができる。
【0038】
乾式粉砕により得られた微粉砕物を、シクロデキストリン類を含む水溶液に分散させる。このとき、適宜、保存剤等の任意成分を添加してもよい。次いで、ビーズミル等により湿式粉砕を行う。ビーズミルによる湿式粉砕には、直径0.1mm程度のジルコニアビーズを用いることができる。湿式粉砕は、低温条件下(例えば、4℃)で行うことが好ましい。湿式粉砕時に気泡が生じたり、メレンゲ・クリーム状態になったりした場合には、少量の分散媒を添加しつつ遠心分離等を行うことにより、懸濁液状態に戻すことができる。
【0039】
湿式粉砕後、ビーズを取り除き、0.2μmフィルターを用いてろ過滅菌する。これにより、本実施形態の点眼剤を得ることができる。得られた点眼剤は、使用時に、適宜、ノビレチンナノ粒子以外の成分を含む希釈液等を用いて、ノビレチンナノ粒子の濃度を調整してもよい。
【0040】
[使用方法]
本実施形態の点眼剤は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を改善又は予防するために使用することができる。例えば、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害により、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症、加齢黄斑変性症、中心性漿液性網脈絡膜症等の網膜硝子体疾患を発症している、又は発症するおそれのある患者に対して、本実施形態の点眼剤を投与することができる。本実施形態の点眼剤により、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害が改善されることで、これらの網膜硝子体疾患の治癒、軽快又は発症予防が期待できる。
【0041】
本実施形態の点眼剤は、網膜硝子体疾患の治療又は予防用点眼剤として使用することができる。本実施形態の点眼剤の治療対象となる網膜硝子体疾患は、軽症であってもよく、中等症であってもよく、重症であってもよい。網膜硝子体疾患が軽症である場合、本実施形態の点眼剤の投与により、当該網膜硝子体疾患の治癒が期待できる。網膜硝子体疾患が中等症又は重症である場合、本実施形態の点眼剤と、既存の内科的治療(抗血管内皮増殖因子VEGF阻害剤やステロイド薬)や外科的治療(網膜光凝固、硝子体手術等)とを併用してもよい。
【0042】
本実施形態の点眼剤は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を予防するために使用することができる。本実施形態の点眼剤を、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害が発生するリスクの高い対象に対して予防的に投与することで、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の発生を予防することができる。
【0043】
本実施形態の点眼剤の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等によって適宜決定することができる。投与間隔は、例えば、1日2~3回等とすることができる。
【0044】
[他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、前記実施形態の点眼剤を対象に投与することを含む網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善又は予防方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善用又は予防用点眼剤の製造における、ノビレチンを含むナノ粒子の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害の改善又は予防に使用するための、前記実施形態の点眼剤を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜循環障害及び網膜神経血管連関障害を改善又は予防するための、前記実施形態の点眼剤の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、前記実施形態の点眼剤を対象に投与することを含む網膜硝子体疾患の治療又は予防方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜硝子体疾患の治療又は予防用点眼剤の製造における、ノビレチンを含むナノ粒子の使用を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜硝子体疾患の治療又は予防に使用するための、前記実施形態の点眼剤を提供する。
一実施形態において、本発明は、網膜硝子体疾患を治療又は予防するための、前記実施形態の点眼剤の使用を提供する。
【実施例0045】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[点眼剤の調製]
[ノビレチンナノ粒子含有点眼剤の調製]
以下の手順により、ノビレチン含有点眼剤を調製した。
1)ノビレチン(Sigma-Aldrich)450mg、メチルセルロース 112.5mg、及びD-マンニトール112.5mgを、メノウ乳鉢で混合し、微破砕した。(低温下(4℃)、1時間)。
2)1)の微粉砕物を回収し、ビーズ式細胞破砕装置(Micro Smash MS-100R、株式会社トミー精工)(2mmジルコニアビーズとともに2回,1回あたり3,000rpm,30秒)又は多検体細胞破砕装置(シェイクマスターネオ、株式会社バイオメディカルサイエンス)(ジルコニアビーズとともに500rpm,10分)を用いて、乾式破砕を行った(低温下(4℃))。
3)2)で得た乾式粉砕物から450mgを計り取り、5%(w/v)の2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン水溶液で、15mLにメスアップした。次いで、1%(w/v)のベンザルコニウム塩化物(BAC)水溶液を75μL添加した。
4)3)で得た混合物を、ビーズ式細胞破砕装置(Micro Smash MS-100R、株式会社トミー精工)を用いて、30セットの湿式破砕を行った(0.1mmジルコニアビーズとともに30回,1回あたり15,000rpm,30秒,低温下(4℃))。湿式粉砕中に気泡が発生したり、メレンゲ状態になったりした場合には、適宜遠心分離(800×g,60秒,4℃)を行い、懸濁液状態に戻した。
5)4)で得た湿式粉砕物を、多検体細胞破砕装置(シェイクマスターネオ、株式会社バイオメディカルサイエンス)を用いて、湿式破砕を行った(0.1mmジルコニアビーズとともに1,500rpm,1時間,低温下(4℃)。
6)5)で得た超破砕物からジルコニアビーズを取り除き、0.2μmフィルターでろ過滅菌し、ノビレチン含有点眼剤として用いた。必要に応じて、使用前に、下記のvehicle(分散媒)にて適宜濃度を調整した。
Vehicleの組成
ベンザルコニウム塩化物 0.005%(w/v)
マンニトール 0.5%(w/v)
メチルセルロース 0.5%(w/v)
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン 5%(w/v)
【0047】
上記のように調製した点眼剤における各薬剤の終濃度を以下に示す。
ノビレチン 2.0%(w/v)
ベンザルコニウム塩化物 0.005%(w/v)
マンニトール 0.5%(w/v)
メチルセルロース 0.5%(w/v)
2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン 5%(w/v)
【0048】
[Vehicle点眼剤の調製]
[ノビレチン含有点眼剤の調製]で記載したVehicleを調製し、これをVehicle点眼剤として用いた。
【0049】
[点眼剤投与試験]
6週齢の糖尿病モデルマウス(C57BL/6J db/db)の雌を用いて、表1に示すように、点眼剤投与試験を行った。点眼は1日2回朝夕に行った。
【0050】
[眼血流測定試験]
眼血流測定は、イソフルラン吸入麻酔下(導入3.5~4.0%/分、維持1.5~2.5%/分)で行った。マウスは保温パッドを用いて体温を36-37度に保った上で実験を行った。各評価項目の測定は、8週齢から開始した。測定は隔週で行った。
【0051】
【0052】
[フリッカー刺激による眼血流変化の測定]
フリッカー刺激による眼血流変化の測定を8週齢から隔週で行った。フリッカー刺激は12ヘルツの周波数で3分間行い、LSFG-Microを用いて20秒ごとに眼血流測定を行った。測定は左眼で行った。治療群と対照群との間の群間解析は、Two-way Repeated Measured ANOVA Sidak’s multiple testにより行った。
【0053】
結果を
図1に示す(mean±SEM)。
図1の各グラフは、8週齢、10週齢、12週齢、及び14週齢におけるフリッカー刺激後の血流変化をそれぞれ示す。
図1の「Base」は負荷前のベースライン視神経乳頭血流を示す。
対照群では、フリッカー刺激後の血流増加反応の障害が確認された。一方、治療群では、フリッカー刺激後の血流増加反応は障害されず、維持された。10週齢以降では、治療群及び対照群の間で、フリッカー刺激後の血流量変化に有意差があった(群間比較:8週齢 P=0.3492(ns):10週齢 P=0.0165(*):12週齢 P<(0.0001(****):14週齢 P<(0.0001(****))。
この結果から、ノビレチンナノ粒子含有点眼剤の投与により、網膜神経血管連関の障害を回避できることが確認された。
【0054】
[高酸素負荷刺激による眼血流変化の測定]
高酸素負荷による眼血流変化の測定を8週齢から隔週で行った。フリッカー刺激は12ヘルツの周波数で3分間行い、LSFG-Microを用いて20秒ごとに測定を行った。測定は左眼で行った。治療群と対照群との間の群間解析は、Two-way Repeated Measured ANOVA Sidak’s multiple testにより行った。
【0055】
結果を
図2に示す(mean±SEM)。
図2の各グラフは、8週齢、10週齢、14週齢、及び12週齢における高酸素負荷刺激後の血流変化をそれぞれ示す。
図2の「Base」は負荷前のベースライン視神経乳頭血流を示す。
対照群では、高酸素負荷刺激後の血流低下反応の障害が確認された。一方、治療群では、高酸素負荷刺激後の血流低下反応は障害されず、維持された(群間比較:8週齢 P<(0.0001(****):10週齢 P<(0.0001(****):12週齢 P=0.001(***):14週齢 P=0.0004(***))。この結果から、ノビレチンナノ粒子含有点眼剤の投与により、グリア細胞及び血管内皮細胞の障害を回避できることが確認された。