(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080927
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】段差検出方法、減衰力制御方法及び段差検出装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/015 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194294
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏信
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 雅士
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA05
3D301AA11
3D301AA13
3D301AA37
3D301AA53
3D301AB21
3D301AB22
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA38
3D301DB40
3D301DB50
3D301EA15
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC08
3D301EC63
3D301EC68
(57)【要約】
【課題】単発的に存在する突起又は陥没である段差部を車両が乗り越したのか、凹凸が連続する路面を走行しているのか、を判別する。
【解決手段】車両が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する段差検出方法では、車両の車輪速を検出し(S1)、車輪速の高周波成分を抽出し(S2)、高周波成分の移動平均値を演算し(S4)、高周波成分の瞬時値と移動平均値との間の差分が閾値以上の場合は段差部があると判定し、差分が閾値未満の場合は段差部があると判定しない(S5、S6)。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する段差検出方法であって、
前記車両の車輪速を検出し、
前記車輪速の高周波成分を抽出し、
前記高周波成分の移動平均値を演算し、
前記高周波成分の瞬時値と前記移動平均値との間の差分が閾値以上の場合は前記段差部があると判定し、前記差分が前記閾値未満の場合は前記段差部があると判定しない、
ことを特徴とする段差検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の段差検出方法によって前記車両が走行する路面上に存在する段差部があるか否かを判定し、
前記車両の車体と車輪との間に介装されていて減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーの減衰力の設定を、前記段差部があると判定した場合と前記段差部があると判定しない場合との間で変更することを特徴とする減衰力制御方法。
【請求項3】
前記段差部があると判定した場合の前記減衰力可変ダンパーの減衰力を、前記段差部があると判定しない場合の前記減衰力可変ダンパーの減衰力よりも、前記段差部があると判定した後に、大きく設定することを特徴とする請求項2に記載の減衰力制御方法。
【請求項4】
前記路面上に連続的に存在する凹凸を検出した場合の、前記凹凸があると判定した後の前記減衰力可変ダンパーの減衰力を、前記段差部があると判定した場合の前記段差部があると判定した後の前記減衰力可変ダンパーの減衰力以下に設定することを特徴とする請求項3に記載の減衰力制御方法。
【請求項5】
車両が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する段差検出装置であって、
前記車両の車輪速を検出する車輪速センサと、
前記車輪速センサが検出した前記車輪速の高周波成分を抽出する処理と、前記高周波成分の移動平均値を演算する処理と、前記高周波成分の瞬時値と前記移動平均値との間の差分が閾値以上の場合は前記段差部があると判定する処理と、前記差分が前記閾値未満の場合は前記段差部があると判定しない処理と、を実行するコントローラと、
を備えることを特徴とする段差検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差検出方法、減衰力制御方法及び段差検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両懸架装置は、前輪側における伸側のばね上-ばね下間相対速度が所定の制御しきい値を越えた時は、その後所定の制御時間内は後輪側ショックアブソーバにおける伸側の減衰力特性を所定のハード特性に固定することにより、路面突起乗り越し後のばね下のバタつきを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単純に路面の凹凸を乗り越した後に減衰力を高く設定すると、路面の凹凸が連続する場合には後続の凹凸を乗り越す時のばね上のショックが増加し、かえって乗心地が悪化する虞がある。
本発明は、車両が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没(以下の説明において「段差部」と表記することがある)を車両が乗り越したのか、凹凸が連続する路面を走行しているのかを判別することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、車両が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する段差検出方法が与えられる。段差検出方法では、車両の車輪速を検出し、車輪速の高周波成分を抽出し、高周波成分の移動平均値を演算し、高周波成分の瞬時値と移動平均値との間の差分が閾値以上の場合は段差部があると判定し、差分が閾値未満の場合は段差部があると判定しない。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、単発的に存在する突起又は陥没である段差部を車両が乗り越したのか、凹凸が連続する路面を走行しているのか、を判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の車両懸架装置の一例の模式図である。
【
図2】コントローラの機能構成例のブロック図である。
【
図3】段差検出部の機能構成例のブロック図である。
【
図4】(a)及び(b)は段差部のない良路の場合の段差検出部の動作例を説明する模式図である。
【
図5】(a)及び(b)は凹凸が連続する悪路の場合の段差検出部の動作例を説明する模式図である。
【
図6】(a)及び(b)は単発的な段差部が存在する場合の段差検出部の動作例を説明する模式図である。
【
図7】(a)は段差検出部の出力のタイムチャートであり、(b)はばね上振動及びばね下振動の時間変化を模式的に示すタイムチャートであり、(c)~(e)は減衰力の設定例を模式的に示すタイムチャートである。
【
図8】実施形態の段差検出方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1は、実施形態の車両懸架装置の一例の模式図である。車両懸架装置は、車両1の車体2と右前輪3FR、左前輪3FL、右後輪3RR及び左後輪3RLとの間にそれぞれ介装された減衰力可変ダンパー4FR、4FL、4RR及び4RLと、コントローラ5と、右前輪3FR、左前輪3FL、右後輪3RR及び左後輪3RLの車輪速をそれぞれ検出する車輪速センサ6FR、6FL、6RR及び6RLとを備える。
【0010】
以下の説明において、右前輪3FR、左前輪3FL、右後輪3RR及び左後輪3RLを総称して「車輪3」又は「車輪3FR、3FL、3RR及び3RL」と表記することがある。
また、減衰力可変ダンパー4FR、4FL、4RR及び4RLを総称して「減衰力可変ダンパー4」と表記し、車輪速センサ6FR、6FL、6RR及び6RLを総称して「車輪速センサ6」と表記することがある。
【0011】
減衰力可変ダンパー4は、車両1のばね下とばね上との間に設けられたコイルスプリングの弾性運動を減衰する減衰力発生装置であり、アクチュエータの作動により減衰力を変化させることができる。
例えば減衰力可変ダンパー4は、電子制御ダンパー(電制ダンパー)であってよい。電子制御ダンパーは、流体が封入されたシリンダと、このシリンダ内をストロークするピストンと、このピストンの上下に形成された流体室の間の流体移動を制御するオリフィスとを有する。
【0012】
ピストンには複数種のオリフィス径を有するオリフィスが形成され、アクチュエータの作動時に複数のオリフィスから制御指令に応じたオリフィスが選択される。これにより、オリフィス径に応じた減衰力を発生させることができる。例えば、オリフィス径が小さければピストンの移動は制限されやすいため、減衰力が高くなる。逆にオリフィス径が大きければピストンの移動は制限されにくいため、減衰力は小さくなる。
【0013】
なお本実施形態に適用可能な減衰力可変ダンパー4は、上記のようにオリフィス径を選択することによって減衰力を変化させる構成に限定されず、減衰力を可変制御できる様々な構成の減衰力可変ダンパーを採用できる。
例えばピストンの上下に形成された流体を接続する通路上に電磁制御弁を配置し、この電磁制御弁の開閉量を変化させることで減衰力を制御する構成を有していてもよく、流体として磁性流体を用い流体の流動性を変化させるもので減衰力を制御する構成を有していてもよい。
【0014】
車輪速センサ6FR、6FL、6RR及び6RLは、右前輪3FR、左前輪3FL、右後輪3RR及び左後輪3RLの車輪速をそれぞれ検出する。このような車輪速センサ6は、ABS(アンチロックブレーキシステム)、TCS(トラクションコントロールシステム)、ESC(横滑り防止機構)等の制御システムのため、多くの車種に搭載される。
車輪速センサ6は、ドライブシャフトやアクスルハブ、ブレーキドラムなどの回転部分に歯車上のロータを設け、その外周にコイルと磁極で構成されるセンサを、1mm程度の隙間で設置する。ロータが回転するとコイルを通過する磁束が変化し、交流電流が発生するため、車輪3の回転速度が検出される。
【0015】
コントローラ5は、車輪3FR、3FL、3RR及び3RLにそれぞれ搭載された減衰力可変ダンパー4FR、4FL、4RR及び4RLの減衰力をそれぞれ独立に制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。
コントローラ5は、例えば、プロセッサ5aと、記憶装置5b等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサ5aは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0016】
記憶装置5bは、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置5bは、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリや、レジスタ、キャッシュメモリ、を含んでよい。以下に説明するコントローラ5の機能は、例えばプロセッサ5aが、記憶装置5bに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
なお、コントローラ5を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ5は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばコントローラ5はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0018】
図2は、コントローラ5の機能構成例のブロック図である。コントローラ5は、車両挙動検出部10と、段差検出部11と、減衰力制御部12とを備える。
車両挙動検出部10は、車輪速センサ6が検出した車輪3の車輪速に基づいて車体速度に対応する基準車輪速を算出する。例えば車両挙動検出部10は、車輪速センサ6の検出値にローパスフィルタ処理を施すことにより基準車輪速を算出してよい。
【0019】
車両挙動検出部10は、基準車輪速に対する車輪速センサ6FR、6FL、6RR及び6RLの各々の検出値の偏差を、車輪3FR、3FL、3RR及び3RLの車輪速の変動としてそれぞれ算出する。
そして、車輪3FR、3FL、3RR及び3RLの車輪速の変動に基づいて、車輪3FR、3FL、3RR及び3RLのサスペンションのストローク速度をそれぞれ推定することにより、車両1のばね上の変位、ロール、ピッチといった車両挙動を推定する。
【0020】
サスペンションがストロークした際に車輪3が地面に対して滑らないと仮定すれば、サスペンションのジオメトリに応じて定まる変換係数を車輪速の変動に乗算することによりストローク速度を算出できる。
車両挙動検出部10は、算出した車輪3FR、3FL、3RR及び3RLの各々のストローク速度から、ばね上の挙動(上下変位、ロール、ピッチ)を推定する。
【0021】
段差検出部11は、車両1が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する。段差検出部11は、車輪速センサ6が検出した車輪3の車輪速信号を用いて段差部を検出する。
図3は、段差検出部11の機能構成例のブロック図である。
段差検出部11は、ハイパスフィルタ(HPF)20と、絶対値演算部21と、平均演算部22と、判定部23を備える。
【0022】
HPF20は、車輪速センサ6が出力する車輪速信号にハイパスフィルタ処理を施すことにより、車輪速信号の高周波成分(例えばばね下共振周波数成分)を抽出する、
絶対値演算部21は、抽出した高周波成分の絶対値を瞬時値IMPtとして算出する。平均演算部22は、瞬時値IMPtの移動平均値IMPsを算出する。判定部23は、瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超える場合に、車両1による段差部の乗り越しを検出する。瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えない場合には、車両1による段差部の乗り越しを検出しない。
【0023】
以下、段差検出部11の動作例を説明する。
図4(a)と
図4(b)とは、それぞれ段差部のない平坦な良路を走行している場合の瞬時値IMPt及び移動平均値IMPsの時間変化と、段差検出部11による段差部の検出結果を示す。
図5(a)と
図5(b)とは、それぞれ凹凸が連続する悪路を走行している場合の瞬時値IMPt及び移動平均値IMPsの時間変化と、段差検出部11による段差部の検出結果を示す。
図6(a)と
図6(b)とは、単発的な段差部が存在する場合の瞬時値IMPt及び移動平均値IMPsの時間変化と、段差検出部11による段差部の検出結果を示す。
図4(a)、
図5(a)及び
図6(a)において、実線は瞬時値IMPtを示し一点鎖線は移動平均値IMPsを示す。
【0024】
図4(a)に示すように段差部のない平坦な良路を走行している場合には、ばね下振動が発生しないためサスペンションのストローク長の変動が少ない。このため車輪速の高周波数成分が小さいので瞬時値IMPtが変動しない。この結果、瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えないため、段差検出部11は段差部を検出しない(
図4(b))。
図5(a)に示すように凹凸が連続する悪路を走行している場合には、ばね下振動が続くので移動平均値IMPsが大きくなる。この結果、瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えないため、段差検出部11は段差部を検出しない(
図5(b))。
【0025】
図6(a)に示すように単発的な段差部が存在する場合には、時刻t0において車両1が段差部に到達すると、瞬時値IMPtが増加して移動平均値IMPsと瞬時値IMPtとの間の差分が大きくなる。時刻t1において瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えたときに、車両1による段差部の乗り越しを検出する(
図6(b))。
【0026】
図2を参照する。減衰力制御部12は、車両挙動検出部10が推定した車両挙動に基づいて、車輪3FR、3FL、3RR及び3RLの各々の減衰力可変ダンパー4FR、4FL、4RR及び4RLの各々の減衰力の目標値をそれぞれ設定する。減衰力制御部12は、減衰力可変ダンパー4の減衰力が目標値となるように、減衰力可変ダンパー4を制御する。減衰力制御部12は、基本制御部12aと、減衰力補正部12bとを備える。
【0027】
基本制御部12aは、スカイフック制御に基づいて減衰力の目標値を演算し、減衰力可変ダンパー4の減衰力を各々設定する。スカイフック制御理論は、車体を空から吊り下げて固定し、車体と空の間にショックアブソーバを支持するよう考えたもので、この理論に従って制御指令値を生成し、これと等価となるよう制御指令値を減衰力可変ダンパー4に入力することで乗心地を向上させるものである。
【0028】
減衰力補正部12bは、段差検出部11が車両1による段差部の乗り越しを検出したとき、減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を補正する。すなわち、段差部があると判定した場合と段差部があると判定しない場合との間で減衰力可変ダンパー4の減衰力の設定を変更する。
以下、
図7(a)~
図7(e)を参照して、段差部の乗り越しを検出した場合の減衰力可変ダンパー4の減衰力の設定例を説明する。
【0029】
図7(a)は、
図6(b)と同様に段差検出部11が車両1による段差部の乗り越しを検出する検出タイミングを示す。
図7(b)は車両1が段差を乗り越した際に減衰力を補正しない場合のばね上振動及びばね下振動の時間変化を模式的に示すタイムチャートである。実線はばね下振動の上下方向加速度を示し、一点鎖線はばね上振動の上下方向加速度を示している。
図7(b)の例では、車両1が段差部を乗り越さずに走行している期間T0が経過下後の時刻t1において車両1が段差部を乗り越す場合を想定する。時刻t1において車両1が段差部を乗り越すと、大きなショックが車両1に入力されてばね上及びばね下が上下に大きく振動する。このため、
図7(a)に示すように、段差検出部11は段差部の乗り越しを検出する。
【0030】
その後もすぐには振動が収まらずに振幅が少しずつ減衰する。この継続的な振動は周波数が低くフワフワとした感覚を乗員に与えるため、乗心地の向上のためには早く減衰させる必要がある。
そこで減衰力補正部12bは、段差部があると検出した場合に、段差部があると判定しない場合よりも減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を大きく設定してよい。例えば減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値の下限値を、段差部があると判定しない場合よりも大きく設定してよい。
【0031】
図7(c)は、減衰力補正部12bによる減衰力可変ダンパー4の減衰力の第1の設定例を模式的に示すタイムチャートである。
例えば減衰力補正部12bは、段差部があると検出した時刻t1よりも後の時刻t2から始まる期間T2において、段差部があると判定しない期間T0よりも減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を大きく設定してよい。これによりばね下の継続的な振動を早く減衰できる。例えば期間T2の長さは、車両1のホイールの質量とタイヤのばね定数(硬さ)に応じた固定長に適宜設定してよい。例えば予め実験やシミュレーションによって適切な長さに設定してよい。
【0032】
但し、凹凸が連続する悪路の走行中に減衰力を高く設定してしまうと、乗心地が悪化する。悪路走行中はばね下のストロークが大きいため、減衰力を高く設定すると、路面振動がそのままばね上に伝わってしまうためである。このため、良路中に存在する単発的な段差部を乗り越した場合のみ、段差部の乗り越し後に減衰力可変ダンパー4の減衰力を大きく設定することが好ましい。
その後、期間T2が経過した時刻t3において、減衰力補正部12bは、減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない期間T0における目標値に戻してよい。
【0033】
図7(d)は、減衰力補正部12bによる減衰力可変ダンパー4の減衰力の第2の設定例を模式的に示すタイムチャートである。
減衰力補正部12bは、時刻t1において段差部の乗り越しを検出した直後における減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない場合よりも小さく設定してもよい。例えば減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値の上限値を、段差部があると判定しない場合よりも小さく設定してよい。これにより、段差部の乗り越しの際に大きなショックがばね上に入力されるのを抑制できる。
【0034】
図7(d)の例では、段差部の乗り越しを検出した時刻t1の直後から開始する期間T1における減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない期間T0よりも小さく設定している。例えば期間T1の長さは、車両1のホイールの質量とタイヤのばね定数(硬さ)に応じた固定長に適宜設定してよい。その後、期間T1が経過した時刻t2において、減衰力補正部12bは、減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない期間T0における目標値に戻す。
【0035】
図7(e)は、減衰力補正部12bによる減衰力可変ダンパー4の減衰力の第3の設定例を模式的に示すタイムチャートである。減衰力補正部12bは、時刻t1において段差部の乗り越しを検出した直後における減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない場合よりも小さく設定し、その後の減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない場合よりも大きく設定してもよい。
【0036】
図7(e)の例では、段差部の乗り越しを検出した時刻t1の直後から開始する期間T1における減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない期間T0よりも小さく設定している。これにより、段差部の乗り越しの際に大きなショックがばね上に入力されるのを抑制できる。
期間T1が経過した時刻t2から始まる期間T2において、段差部があると判定しない期間T0よりも減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を大きく設定している。これによりばね下の継続的な振動を早く減衰できる。
期間T2が経過した時刻t3において、減衰力補正部12bは、減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない期間T0における目標値に戻す。
【0037】
なお、段差検出部11は、車両1による段差部の乗り越しの検出に加えて、路面上に連続的に存在する凹凸を検出してもよい。例えば、路面に連続的に凹凸が存在する道路(悪路)を車両1が走行しているか否かを判定してよい。例えば段差検出部11は、移動平均値IMPsの大きさが閾値以上である場合や、移動平均値IMPsの大きさが閾値以上である状態が所定期間以上継続する場合に路面上に連続的に存在する凹凸を検出してよい。
【0038】
段差検出部11が路面上に連続的に存在する凹凸を検出した場合、減衰力補正部12bは、連続的に存在する凹凸を検出した場合の減衰力可変ダンパー4の減衰力の目標値を、段差部があると判定しない場合の目標値よりも大きな値に設定しなくてもよい。すなわち段差部があると判定しない場合の目標値以下の値に設定してよい。例えば、連続的に存在する凹凸を検出した場合には、凹凸があると判定した後の減衰力可変ダンパー4の減衰力を、(連続的に存在する凹凸でない)段差部があると判定した場合の段差部があると判定した後の減衰力可変ダンパーの減衰力以下に設定してよい。
これにより凹凸が連続する路面を走行中に減衰力可変ダンパー4の減衰力が大きく設定されることによって乗心地が悪化するのを回避できる。
【0039】
(動作)
図8は、実施形態の段差検出方法のフローチャートである。
ステップS1においてコントローラ5は、車輪速センサ6が出力する車輪3の車輪速信号(センサ情報)を取得する。
ステップS2において段差検出部11のHPF20は、車輪3の車輪速信号にハイパスフィルタ処理を施すことにより、車輪速信号の高周波成分を抽出する、
【0040】
ステップS3において絶対値演算部21は、抽出した高周波成分の絶対値を瞬時値IMPtとして算出する。
ステップS4において平均演算部22は、瞬時値IMPtの移動平均値IMPsを算出する。
【0041】
ステップS5において判定部23は、瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えるか否かを判定する。瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超えない場合(ステップS5:N)に処理は終了する。この場合に判定部23は、車両1による段差部の乗り越しを検出しない。
【0042】
一方で、瞬時値IMPtと移動平均値IMPsの間の差分が閾値Thを超える場合(ステップS5:Y)に処理はステップS6へ進む。
ステップS6において判定部23は、車両1による段差部の乗り越しを検出する。その後に処理は終了する。
【0043】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ5は、車両1が走行する路面上に単発的に存在する突起又は陥没である段差部を検出する。コントローラ5は、車両1の車輪速を検出し、車輪速の高周波成分を抽出し、高周波成分の移動平均値を演算し、高周波成分の瞬時値と移動平均値との間の差分が閾値以上の場合は段差部があると判定し、差分が閾値未満の場合は段差部があると判定しない。
これにより、発的に存在する突起又は陥没である段差部と、悪路等の連続した凹凸とを区別できる。また、車輪速を検出するセンサは多くの車両に搭載されているため、低いコストで段差部を検出できる。
【0044】
(2)コントローラ5は、車両1の車体2と車輪3との間に介装されていて減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパー4の減衰力の設定を、段差部があると判定した場合と段差部があると判定しない場合との間で変更してもよい。
これにより車両1が段差部を乗り越す際のショックによるばね上の振動の振幅や、車両1が段差部を乗り越した後のばね下のバタつきを抑制できる。
【0045】
(3)コントローラ5は、段差部があると判定した場合の減衰力可変ダンパー4の減衰力を、段差部があると判定しない場合の減衰力可変ダンパー4の減衰力よりも、段差部があると判定した後に、大きく設定してよい。
これにより、段差部を乗り越した後にばね下が振動するのを抑えることができる。ばね下がバタついていると、突起乗り越し後にフワフワとした振動が残り乗心地が悪化するが、これを抑えることができる。
【0046】
(4)コントローラ5は、路面上に連続的に存在する凹凸を検出した場合の、凹凸があると判定した後の減衰力可変ダンパー4の減衰力を、段差部があると判定した場合の段差部があると判定した後の減衰力可変ダンパー4の減衰力以下に設定してよい。
これにより、凹凸が連続する路面を走行中に減衰力可変ダンパー4の減衰力が大きく設定されることによって乗心地が悪化するのを回避できる。
【符号の説明】
【0047】
1…車両、2…車体、3FL…左前輪、3FR…右前輪、3RL…左後輪、3RR…右後輪、4FL、4FR、4RL、4RR…減衰力可変ダンパー、5…コントローラ、5a…プロセッサ、5b…記憶装置、6FL、6FR、6RL、6RR…車輪速センサ、10…車両挙動検出部、11…段差検出部、12…減衰力制御部、12a…基本制御部、12b…減衰力補正部、20…ハイパスフィルタ(HPF)、21…絶対値演算部、22…平均演算部、23…判定部