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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080929
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】減衰力制御方法及び車両懸架装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/015 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194296
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏信
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 雅士
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA05
3D301AA48
3D301DA08
3D301DA33
3D301DA38
3D301DA40
3D301DA50
3D301EA11
3D301EA14
3D301EA15
3D301EA76
3D301EA77
3D301EA78
3D301EA79
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC08
(57)【要約】
【課題】前輪に減衰力特性が固定されたダンパーを設け後輪に減衰力可変ダンパーを設けた車両懸架装置において、ピッチ方向の振動を抑制する。
【解決手段】減衰力制御方法では、ばね上構造体と前輪との間に介装され且つ減衰力特性が固定された前輪ダンパーのばね上速度である前輪ばね上速度と、ばね上構造体と後輪との間に介装され且つ減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである後輪ダンパーのばね上速度である後輪ばね上速度と、を検知又は推定し(S4)、ばね上構造体の重心位置を通りばね上構造体の前後方向に延びる直線上にピッチ回転中心点を設定し(S5)、ピッチ回転中心点周りのばね上構造体のモーメントが0となるように後輪ばね上速度の目標値を演算し(S6)、演算した後輪ばね上速度の目標値に対する検知又は推定した後輪ばね上速度の偏差が減少するように後輪ダンパーの減衰力を制御する(S7)。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のばね上構造体と前輪との間に介装され且つ減衰力特性が固定された前輪ダンパーのばね上速度である前輪ばね上速度と、前記ばね上構造体と後輪との間に介装され且つ減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである後輪ダンパーのばね上速度である後輪ばね上速度と、を検知又は推定し、
前記ばね上構造体の重心位置を通り前記ばね上構造体の前後方向に延びる直線上にピッチ回転中心点を設定し、
前記ピッチ回転中心点周りの前記ばね上構造体のモーメントが0となるように前記後輪ばね上速度の目標値を演算し、
前記演算した後輪ばね上速度の目標値に対する前記検知又は推定した後輪ばね上速度の偏差が減少するように前記後輪ダンパーの減衰力を制御する、
ことを特徴とする減衰力制御方法。
【請求項2】
前記ピッチ回転中心点の位置を、前記重心位置よりも前方に設定することを特徴とする請求項1に記載の減衰力制御方法。
【請求項3】
前記ピッチ回転中心点の位置を、運転者の前方注視距離に基づいて設定することを特徴とする請求項2に記載の減衰力制御方法。
【請求項4】
前記前方注視距離を前記車両の走行速度に応じて設定することを特徴とする請求項3に記載の減衰力制御方法。
【請求項5】
前記ピッチ回転中心点を、前記重心位置よりも後方の位置に設定することを特徴とする請求項1に記載の減衰力制御方法。
【請求項6】
車両のばね上構造体と前輪との間に介装され且つ減衰力特性が固定された前輪ダンパーと、
前記ばね上構造体と後輪との間に介装され且つ減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである後輪ダンパーと、
前記前輪ダンパーのばね上速度である前輪ばね上速度と、前記後輪ダンパーのばね上速度である後輪ばね上速度と、を検知又は推定し、前記ばね上構造体の重心位置を通り前記ばね上構造体の前後方向に延びる直線上にピッチ回転中心点を設定し、前記ピッチ回転中心点周りの前記ばね上構造体のモーメントが0となるように前記後輪ばね上速度の目標値を演算し、前記演算した後輪ばね上速度の目標値に対する前記検知又は推定した後輪ばね上速度の偏差が減少するように前記後輪ダンパーの減衰力を制御するコントローラと、
を備えることを特徴とする車両懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力制御方法及び車両懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の各々においてばね上部材と各ばね下部材とを連結するダンパーの減衰係数を、非線形H∞制御則により制御する車両懸架装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-160185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両懸架装置は、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪の全てにおいて減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーを採用するため、製造コストや消費電力の増加を招く。しかしながら、特許文献1の制御において、後輪のみに減衰力可変ダンパーを採用し、前輪に減衰力特性が固定されたダンパーを採用すると、全ての方向における制振を両立できなくなるため、ピッチ方向の制振制御を行えないことがある。
本発明は、前輪に減衰力特性が固定されたダンパーを設け後輪に減衰力可変ダンパーを設けた車両懸架装置において、ピッチ方向の振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による減衰力制御方法では、ばね上構造体と前輪との間に介装され且つ減衰力特性が固定された前輪ダンパーのばね上速度である前輪ばね上速度と、ばね上構造体と後輪との間に介装され且つ減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである後輪ダンパーのばね上速度である後輪ばね上速度と、を検知又は推定し、ばね上構造体の重心位置を通りばね上構造体の前後方向に延びる直線上にピッチ回転中心点を設定し、ピッチ回転中心点周りのばね上構造体のモーメントが0となるように後輪ばね上速度の目標値を演算し、演算した後輪ばね上速度の目標値に対する検知又は推定した後輪ばね上速度の偏差が減少するように後輪ダンパーの減衰力を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前輪に減衰力特性が固定されたダンパーを設け後輪に減衰力可変ダンパーを設けた車両懸架装置において、ピッチ方向の振動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の車両懸架装置の一例の模式図である。
図2】実施形態の減衰力制御方法の説明のための模式図である。
図3】(a)及び(b)は実施形態の作用の説明のための模式図である。
図4】コントローラの機能構成例のブロック図である。
図5】ストローク速度推定部の機能構成の一例のブロック図である。
図6】基準車輪速演算部の機能構成の一例のブロック図である。
図7】サスペンションのストローク速度の推定方法の説明のための模式図である。
図8】車体振動モデルの一例を表す模式図である。
図9】目標減衰力演算部の機能構成の一例のブロック図である。
図10】実施形態の減衰力制御方法の一例のフローチャートである。
図11】変形例の目標後輪ばね上速度の設定例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1は、実施形態の車両懸架装置の一例の模式図である。車両1には、車両1のばね上構造体である上屋(例えば車体)2と左前輪3FL及び右前輪3FRとの間に介装されたサスペンションにそれぞれ設けられた前輪ダンパー4FL及び4FRと、上屋2と左後輪3RL及び右後輪3RRとの間にそれぞれ介装されたサスペンションに設けられた後輪ダンパー5RL及び5RRと、コントローラ6と、車輪速センサ7FL、7FR、7RL及び7RRと、操舵角センサ8と、車速センサ9が設けられる。
【0010】
以下の説明において、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL及び右後輪3RRを総称して「車輪3」又は「車輪3FL、3FR、3RL及び3RR」と表記することがある。また、以下の説明及び図面において左前輪3FL及び右前輪3FRを総称して「前輪3F」と表記し、左後輪3RL及び右後輪3RRを総称して「後輪3R」と表記することがある。また、前輪ダンパー4FL及び4FRを総称して「前輪ダンパー4F」と表記し、後輪ダンパー5RL及び5RRを総称して「後輪ダンパー5R」と表記し、車輪速センサ7FL、7FR、7RL及び7RRを総称して「車輪速センサ7」と表記することがある。
【0011】
前輪ダンパー4Fは、上屋2と前輪3Fとの間に介装されたサスペンションのコイルスプリングの弾性運動を減衰する減衰力発生装置であり、固定された減衰力特性を有する。
後輪ダンパー5Rは、上屋2と後輪3Rとの間に介装されたサスペンションのコイルスプリングの弾性運動を減衰する減衰力発生装置であり、アクチュエータの作動により減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである。
【0012】
例えば減衰力可変ダンパーは、電子制御ダンパー(電制ダンパー)であってよい。電子制御ダンパーは、流体が封入されたシリンダと、このシリンダ内をストロークするピストンと、このピストンの上下に形成された流体室の間の流体移動を制御するオリフィスとを有する。
【0013】
ピストンには複数種のオリフィス径を有するオリフィスが形成され、アクチュエータの作動時に複数のオリフィスから制御指令に応じたオリフィスが選択される。これにより、オリフィス径に応じた減衰力を発生させることができる。例えば、オリフィス径が小さければピストンの移動は制限されやすいため、減衰力が高くなる。逆にオリフィス径が大きければピストンの移動は制限されにくいため、減衰力は小さくなる。
【0014】
なお本実施形態に適用可能な減衰力可変ダンパーは、上記のようにオリフィス径を選択することによって減衰力を変化させる構成に限定されず、減衰力を可変制御できる様々な構成の減衰力可変ダンパーを採用できる。
例えばピストンの上下に形成された流体を接続する通路上に電磁制御弁を配置し、この電磁制御弁の開閉量を変化させることで減衰力を制御する構成を有していてもよく、流体として磁性流体を用い流体の流動性を変化させるもので減衰力を制御する構成を有していてもよい。
【0015】
車輪速センサ7FL、7FR、7RL及び7RRは、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL及び右後輪3RRの車輪速ωFL、ωFR、ωRL、ωRRをそれぞれ検出する。このような車輪速センサ7は、ABS(アンチロックブレーキシステム)、TCS(トラクションコントロールシステム)、ESC(横滑り防止機構)等の制御システムのため、多くの車種に搭載される。以下の説明において、車輪速ωFL、ωFR、ωRL、ωRRを総称して「車輪速ω」と表記することがある。
車輪速センサ7は、ドライブシャフトやアクスルハブ、ブレーキドラムなどの回転部分に歯車上のロータを設け、その外周にコイルと磁極で構成されるセンサを、1mm程度の隙間で設置する。ロータが回転するとコイルを通過する磁束が変化し、交流電流が発生するため、車輪3の回転速度が検出される。
【0016】
操舵角センサ8は、ステアリングホイールの操舵角δを検出する。操舵角センサ8に代えて又は加えて、前輪3Fの転舵角δを検出する転舵角センサを備えてもよい。車両1が後輪操舵可能な車両である場合は、転舵角センサは、後輪3Rの転舵角δを検出してもよい。
車速センサ9は、車両1の車速Vhを検出する。
【0017】
コントローラ6は、後輪ダンパー5Rの減衰力を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。コントローラ6は、後輪ダンパー5RL及び5RRの減衰力をそれぞれ独立に制御できるように構成してもよく、後輪ダンパー5RL及び5RRの減衰力を同じように制御できるように構成してもよい。
コントローラ6は、例えば、プロセッサ6aと、記憶装置6b等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサ6aは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0018】
記憶装置6bは、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置6bは、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリや、レジスタ、キャッシュメモリ、を含んでよい。以下に説明するコントローラ6の機能は、例えばプロセッサ6aが、記憶装置6bに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0019】
なお、コントローラ6を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ6は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばコントローラ6はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0020】
次に、図2を参照して実施形態の減衰力制御方法を説明する。本実施形態の車両懸架装置は、上記特許文献1の車両懸架装置と異なり、減衰力可変ダンパーを後輪ダンパー5Rのみに採用しており、前輪ダンパー4Fの減衰力を可変制御することができない。このため、上記特許文献1の制御方法を用いても、全ての方向における制振を両立できないためピッチ方向の制振制御を行えないことがある。
また例えば、減衰力可変ダンパーである後輪ダンパー5Rのみでスカイフック制御を実行しても、車両全体としてピッチ方向の振動を加振してしまう虞がある。
【0021】
そこで本実施形態では、前輪ダンパー4Fのばね上速度である前輪ばね上速度VFrと、後輪ダンパー5Rのばね上速度である後輪ばね上速度VRrとを検知又は推定する。また、上屋2の重心位置Cを通り上屋2の前後方向に延びる直線CL上にピッチ回転中心点Cを設定する。そして、ピッチ回転中心点Cを周りの上屋2のモーメントが0となるように、後輪ばね上速度VRrの目標値である目標後輪ばね上速度VRtを演算する。
【0022】
例えば、上屋2の重心位置Cから前輪ダンパー4F及び後輪ダンパー5Rまでの距離(すなわち車両重心位置から前輪及び後輪の車軸までの距離)をそれぞれL及びLとし、重心位置Cからピッチ回転中心点Cまでの距離をLとすると、次式(1)により目標後輪ばね上速度VRtを設定してよい。
Rt=VFr×(L+L)/(L-L) …(1)
【0023】
すなわち、ピッチ回転中心点Cから前輪ダンパー4Fまでの距離(L-L)と前輪ばね上速度VFrとの比が、ピッチ回転中心点Cから後輪ダンパー5Rまでの距離(L+L)と目標後輪ばね上速度VRtとの比に等しくなるように、目標後輪ばね上速度VRtを演算してよい。
そして、目標後輪ばね上速度VRtに対する後輪ばね上速度VRrの偏差が減少するように後輪ダンパー5Rの減衰力を制御する。
【0024】
これにより、上屋2の挙動はピッチ回転中心点Cを中心とする等速円運動となるため、ピッチ回転中心点C周りのピッチ方向の加振を抑制できる。
これに対して、上記の目標後輪ばね上速度VRtよりも後輪ばね上速度VRrが高い場合(すなわち後輪ばね上速度VRrが高すぎる場合)には、図3(a)に示すように上屋2の後輪側を上げる向きのピッチ方向のモーメントMpが発生し、ピッチ方向の振動を加振してしまう。
【0025】
反対に、目標後輪ばね上速度VRtよりも後輪ばね上速度VRrが低い場合(すなわち後輪ばね上速度VRrが低すぎる場合)には、図3(b)に示すように上屋2の前輪側を上げる向きのピッチ方向のモーメントMpが発生し、ピッチ方向の振動を加振してしまう。
【0026】
本実施形態のように、前輪ばね上速度VFrの変化に合わせて目標後輪ばね上速度VRtになるように後輪ばね上速度VRrを制御することにより、ピッチ方向のモーメントMpを抑制して、ピッチ方向の加振を抑制できる。
また、重心位置Cからピッチ回転中心点Cまでの距離Lを十分長くすることにより、ピッチレイトの増加も抑制できる。
【0027】
図4は、コントローラ6の機能構成例のブロック図である。コントローラ6は、ストローク速度推定部10と、走行状態推定部11と、目標減衰力演算部12と、減衰力制御部13を備える。
ストローク速度推定部10は、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL及び右後輪3RRの車輪速ωFL、ωFR、ωRL、ωRRと、ステアリングホイールの操舵角δと、車両1の車速Vhに基づいて、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL及び右後輪3RRのサスペンションのストローク速度dλFL、dλFR、dλRL、dλRRを推定して、走行状態推定部11に出力する。なお、以下の説明及び図面において、dλFL、dλFR、dλRL、dλRRを総称して「dλ」と表記することがある。
【0028】
図5は、ストローク速度推定部10の機能構成の一例のブロック図である。ストローク速度推定部10は、転舵角演算部30と、運動状態推定部31と、基準車輪速演算部32と、減算器33と、ストローク速度演算部34を備える。
転舵角演算部30は、ステアリングホイールの操舵角δに基づいて前輪3Fの転舵角δと後輪3Rの転舵角δを演算し、基準車輪速演算部32に入力する。これに代えて、前輪3Fの転舵角δと後輪3Rの転舵角δを転舵角センサで検出して基準車輪速演算部32に入力してもよい。
【0029】
運動状態推定部31は、ステアリングホイールの操舵角δと車両1の車速Vhに基づいて、車両1の横速度Vxと、車両1のヨーレイトγとを推定し、基準車輪速演算部32に入力する。
例えば運動状態推定部31は、次式(2)に基づいて車両1の横加速度Axを推定してよい。式(2)においてAはスタビリティファクタである。
Ax=Vh×δ/(1+AVh) …(2)
【0030】
なお本実施形態は、操舵角δと車速Vhに基づいて横加速度Axを推定する場合の例について説明するが、本発明はこのような例に限定されない。横加速度を計測できる加速度センサを利用したり、その他のセンサ値から推定したりしてもよい。
そして運動状態推定部31は、横加速度Axを積分して車両1の上屋2の横速度Vxを推定する。
【0031】
また、運動状態推定部31は、横加速度Axと車両1の車速Vhとに基づいて、車両1のヨーレイトγを推定する。例えば運動状態推定部20は、次式(3)に基づいてヨーレイトγを推定してよい。
γ=Ax/Vh …(3)
なお本実施形態は、車速Vhと横加速度Axに基づいてヨーレイトγを推定する場合の例について説明するが、本発明はこのような例に限定されない。ヨーレイトγを計測できるヨーレイトセンサを利用したり、その他のセンサ値から推定したりしてもよい。
【0032】
基準車輪速演算部32は、車輪速センサ7が検出した車輪速ωと、転舵角δ及びδと、横速度Vxと、ヨーレイトγとに基づいて、基準車輪速ωを演算する。
基準車輪速ωとは、各車輪速のうち、種々の外乱が除去された値を指すものである。言い換えると、基準車輪速ωとは車体速に強い相関を示す値であり、車輪速センサ7の検出値と基準車輪速ωとの差分は、上屋2のバウンス挙動、ロール挙動、ピッチ挙動又はばね下上下振動によって発生したストロークλに応じて変動した成分と関連がある値であり、実施例では、この差分に基づいてストローク速度を推定する。
【0033】
図6は、基準車輪速演算部32の機能構成の一例のブロック図である。基準車輪速演算部32は、平面運動成分抽出部40と、ロール外乱除去部41と、ピッチ外乱除去部42と、再配分部43を備える。
平面運動成分抽出部40は、車輪速ωを入力として車体プランビューモデルに基づいて各輪の基準車輪速となる第1車輪速V0を演算する。ここで、算出される基準車輪速ωから推定される車体速をV(m/s)、算出すべき基準車輪速をVFL、VFR、VRL、VRR、前輪のトレッドをT、後輪のトレッドをTとすると、車体プランビューモデルは次式(4-1)~(4-4)のように表される。
【0034】
VFL=(V-T/2・γ)cosδ+(Vx+L・γ)sinδ …(4-1)
VFR=(V+T/2・γ)cosδ+(Vx+L・γ)sinδ …(4-2)
VRL=(V-T/2・γ)cosδ+(Vx-L・γ)sinδ …(4-3)
VRR=(V+T/2・γ)cosδ+(Vx-L・γ)sinδ …(4-4)
【0035】
なお、車両に横滑りが発生してない通常走行時を仮定すると、横速度Vxは0を入力すればよい。これをそれぞれの式においてVを基準とする値に書き換えると次式(5-1)~(5-4)のように表される。この書き換えにあたり、Vをそれぞれの車輪に対応する値としてV0FL、V0FR、V0RL、V0RR(第1車輪速V0に相当)と記載する。
【0036】
V0FL={VFL-L・γsinδ}/cosδ+T/2・γ …(5-1)
V0FR={VFR-L・γsinδ}/cosδ-T/2・γ …(5-2)
V0RL={VRL+L・γsinδ}/cosδ+T/2・γ …(5-3)
V0RR={VRR+L・γsinδ}/cosδ-T/2・γ …(5-4)
【0037】
ロール外乱除去部41は、第1車輪速V0を入力として車体フロントビューモデルに基づいて前後輪の基準車輪速となる第2車輪速V0F、V0Rを演算する。車体フロントビューモデルとは、車両を前方から見たときに、車両重心点を通る鉛直線上のロール回転中心周りに発生するロール運動によって生じる車輪速差を除去するものであり、次式(6-1)及び(6-2)で表される。
V0F=(V0FL+V0FR)/2 …(6-1)
V0R=(V0RL+V0RR)/2 …(6-2)
これにより、ロールに基づく外乱を除去した第2車輪速V0F、V0Rが得られる。
【0038】
ピッチ外乱除去部42は、第2車輪速V0F、V0Rを入力として車体サイドビューモデルに基づいて全輪の基準車輪速となる第三車輪速VbFL、VbFR、VbRL、VbRRを演算する。ここで、車体サイドビューモデルとは、車両を横方向から見たときに、車両重心点を通る鉛直線上のピッチ回転中心周りに発生するピッチ運動によって生じる車輪速差を除去するものであり、次式(7)で表される。
VbFL=VbFR=VbRL=VbRR={Lr/(Lf+Lr)}V0F+{Lf/(Lf+Lr)}V0R …(7)
【0039】
再配分部43は、上式(4-1)~(4-4)に示す車体プランビューモデルのVにVbFL(=VbFR=VbRL=VbRR)をそれぞれ代入し、最終的な各輪の基準車輪速VFL、VFR、VRL、VRRを算出し、それぞれ車輪3のタイヤの動半径r0で除算して基準車輪速ωを算出する。
図5を参照する。減算器33は、車輪速センサ7が検出した車輪速ωから基準車輪速ωを減算することにより、基準車輪速ωに対する車輪速ωの偏差(ω-ω)を算出する。
【0040】
ストローク速度演算部34は、基準車輪速ωに対する車輪速ωの偏差(ω-ω)に基づいて上屋2と車輪3との間に介装されたサスペンションのストローク速度dλを推定する。
図7は、サスペンションのストローク速度dλの推定方法の説明のための模式図である。路面凹凸によってばね下部が振動する際、図7に示すように、サスペンション回転中心Cを中心としたワインドアップが発生する。θはワインドアップ角を示し、Lは、車輪中心からサスペンション回転中心Cまでの距離を示し、rは車輪3の動半径を示し、Kはタイヤの弾性係数を示し、Kはサスペンションの弾性係数を示し、Cはサスペンションの減衰係数を示し、θφはワインドアップに伴う車輪3の回転角度を示し、y及びzはワインドアップに伴う車輪中心の前後変位及び上下変位を示す。
【0041】
ワインドアップが発生すると、車輪速センサ7が検出した車輪速センサ値ωには、次式(8)のように、基準車輪速ωと、ワインドアップにより発生する速度変動ωθと、凹凸に衝突し発生する前後動に基づく速度変動ωφと、センサノイズ等の外乱ωが含まれる。
ω=ω+ωφ+ωθ+ω …(8)
【0042】
車輪3の車輪中心の前後変位yはワインドアップ角θと線形の関係があるため、前後変位yとワインドアップ角θとの間の既知の特性係数をKwuyとすると、次式(9)及び(10)のように表現できる。
y=r×θφ…(9)
θ=Kwuy×y …(10)
【0043】
上式(9)及び(10)により次式(11)が得られ、次式(11)を微分すると次式(12)が得られる。
θ=Kwuy×r×θφ …(11)
ωθ=Kwuy×r×ωφ …(12)
サスペンションのストローク量λは前後変位特性yと線形関係があるため、前後変位yとストローク量λとの間の既知の特性係数をKzyとすると、次式(13)のように表現できる。次式(13)を微分すると次式(14)のストローク速度dλが得られる。
【0044】
λ=Kzy×y …(13)
dλ=Kzy×r×ωφ …(14)
外乱ωを無視できる場合には、
dλ=Kzy×r×(ω-ω)/(1+Kwuy×r) …(15)
となり、ストローク速度dλは、基準車輪速ωに対する車輪速ωの偏差(ω-ω)から算出できる。
【0045】
図4を参照する。走行状態推定部11は、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL及び右後輪3RRのサスペンションのストローク速度dλFL、dλFR、dλRL、dλRRに基づいて、上屋2のバウンスレイトVと、ロールレイトVと、ピッチレイトVを推定し、目標減衰力演算部12へ出力する。
図8は、車体振動モデルの一例を表す模式図である。図8においてMはばね上の質量を表し、Mはばね下の質量を表し、Kはコイルスプリングの弾性係数を表し、Cはダンパーの減衰係数を表し、Kはばね下(タイヤ)の弾性係数を表し、Cはばね下(タイヤ)の減衰係数を表し、z2はばね上の位置を表し、z1はばね下の位置を表し、z0は路面位置を表す。
【0046】
図8に示す車両モデルの例の場合、ばね上に対する運動方程式は次式(16)のように表される。なお、dzは、ばね下位置zの1回微分(即ち速度)を表し、dz及びddzは、それぞればね上位置zの1回微分及び2回微分(即ち加速度)を表す。
×ddz=-K(z-z)-C(dz-dz) …(16)
この関係式をラプラス変換して整理すると次式(17)のように表される。
dz=-(1/M)×(1/s)×(C・s+K)×(dz-dz) …(17)
【0047】
ここで、dz-dzはストローク速度dλであることから、ばね上速度はストローク速度から算出できる。ただし、実際の車両は1輪ではなく4輪であるため、これら各輪のストローク速度を用いてばね上の状態を、ロールレイト、ピッチレイト及びバウンスレイトにモード分解して推定することを検討する。今、4輪のストローク速度から上記3つの成分を算出する場合、対応する成分が一つ足りず、解が不定となるため、対角輪の動きを表すワープレイトを導入することとした。ストローク量のバウンス項をxsB、ロール項をxsR、ピッチ項をxsP、ワープ項をxsWとし、ストローク速度dλFL、dλFR、dλRL、dλRRに対応するストローク量をz_sFL、z_sFR、z_sRL、z_sRRとすると、次式(18)が成り立つ。
式(18)
【0048】
【数1】
【0049】
以上の関係式から、xsB、xsR、xsP、xsWのそれぞれの微分dxsB、dxsR、dxsP、dxsWは次式(19-1)~(19-4)で表される。
dxsB=1/4(dλFL+dλFR+dλRL+dλRR) …(19-1)
dxsR=1/4(dλFL-dλFR+dλRL-dλRR) …(19-2)
dxsP=1/4(-dλFL-dλFR+dλRL+dλRR) …(19-3)
dxsW=1/4(-dλFL+dλFR+dλRL-dλRR) …(19-4)
【0050】
ここで、ばね上速度とストローク速度との関係は上式(17)より得られているため、上式(17)のうち、-(1/M)×(1/s)×(C・s+K)部分をGと記載し、それぞれC及びKのバウンス項、ロール項、ピッチ項に応じたモーダルパラメータ(CB,CR,CP,KB,KR,KP)を考慮した値をGB,GR,GPとして、次式(20-1)~(20-3)によってバウンスレイトVと、ロールレイトVと、ピッチレイトVを算出する。
=GB・dxsB …(20-1)
=GR・dxsR …(20-2)
=GP・dxsP …(20-3)
【0051】
図9は、目標減衰力演算部12の機能構成の一例のブロック図である。目標減衰力演算部12は、走行状態推定部11が推定したバウンスレイトV、ロールレイトV、及びピッチレイトVと、車両1の車速Vhに基づいて、後輪ダンパー5Rに発生させる減衰力の目標値である目標減衰力FSXLを演算する。
目標減衰力演算部12は、4輪ばね上速度推定部50と、前後輪ばね上速度推定部51と、ピッチ回転中心点設定部52と、目標後輪ばね上速度設定部53と、減算器54と、ゲイン乗算部55を備える。
【0052】
4輪ばね上速度推定部50は、バウンスレイトV、ロールレイトV、及びピッチレイトVに基づいて、左前輪3FLの前輪ダンパー4FLのばね上速度VFLと、右前輪3FRの前輪ダンパー4FRのばね上速度VFRと、左後輪3RLの後輪ダンパー5RLのばね上速度VRLと、右後輪3RRの後輪ダンパー5RRのばね上速度VRRを推定して、前後輪ばね上速度推定部51に出力する。
例えば、4輪ばね上速度推定部50は、次式(21)に基づいてばね上速度VFL、VFR、VRL及びVRRを推定してよい。
【0053】
【数2】
【0054】
前後輪ばね上速度推定部51は、ばね上速度VFL、VFR、VRL及びVRRに基づいて、前輪ばね上速度VFrと後輪ばね上速度VRrを推定して、目標後輪ばね上速度設定部53へ出力する。また、後輪ばね上速度VRrを減算器54へ出力する。
例えば前後輪ばね上速度推定部51は、次式(22)に基づいて前輪ばね上速度VFrと後輪ばね上速度VRrを推定してよい。
【0055】
【数3】
【0056】
なお、本実施形態では前輪ばね上速度VFrと後輪ばね上速度VRrとを車輪速ωから推定する例について説明したが、本発明はこのような例に限定されない。例えば前輪3Fのばね上加速度と後輪3Rのばね上加速度を計測できる加速度センサで検出した加速度を積分して前輪ばね上速度VFrと後輪ばね上速度VRrを検知したり、その他のセンサ値から推定したりしてもよい。
【0057】
ピッチ回転中心点設定部52は、上屋2の重心位置Cを通り上屋2の前後方向に延びる直線CL上にピッチ回転中心点Cを設定する。すなわち、重心位置Cからピッチ回転中心点Cまでの距離Lを設定する。ピッチ回転中心点設定部52は、距離Lを目標後輪ばね上速度設定部53へ出力する。
例えばピッチ回転中心点設定部52は、上屋2の前後方向において重心位置Cよりも前方の位置にピッチ回転中心点Cを設定してよい。
【0058】
例えばピッチ回転中心点設定部52は、運転者の前方注視距離と重心位置Cとの間にピッチ回転中心点Cを設定してよい。これにより、上屋2の前輪側が後輪側よりも若干下がる姿勢を形成できるので、運転者の視認性を向上できる。
例えば、ピッチ回転中心点設定部52は、車両1の車速Vhに応じて前方注視距離(すなわち距離L)を設定してよい。
例えば、ピッチ回転中心点設定部52は、走行速度Vhと時間定数Δtとの積を、重心位置Cからピッチ回転中心点Cまでの距離L=Vh×Δtとして設定してよい。運転者は車速Vhが高くなるほどより遠くの点を注視するため、車速Vhに応じて前方注視距離を設定することにより、より正確な前方注視距離を設定できる。
【0059】
また例えばピッチ回転中心点設定部52は、上屋2の前後方向において重心位置Cよりも後方の位置にピッチ回転中心点Cを設定してよい。重心位置Cよりも後方の位置にピッチ回転中心点Cを設定することにより、上屋2のピッチ挙動に伴う上屋2の後部の上下動を低減できるので、重心位置Cよりも後方に配置された座席(例えば後部座席)に着座した乗員の乗り心地を向上できる。
【0060】
目標後輪ばね上速度設定部53は、上式(1)に基づいて目標後輪ばね上速度VRtを演算し、減算器54に出力する。
減算器54とゲイン乗算部55とは、目標後輪ばね上速度VRtに対する後輪ばね上速度VRrの偏差(VRr-VRt)が減少するように後輪ダンパー5Rの目標減衰力FSXLを演算する。例えば減算器54とゲイン乗算部55とは、偏差(VRr-VRt)と所定の係数CSXLとに基づいて目標減衰力FSXL=-CSXL×(VRr-VRt)を演算してよい。
【0061】
図4を算出する。減衰力制御部13は目標減衰力FSXLに基づいて後輪ダンパー5Rの減衰力制御を行う。
例えば減衰力制御部13は、目標減衰力FSXLを等価粘性減衰係数Ceに変換する。そして、ストローク速度推定部10が推定したストローク速度dλにおける減衰係数の最大値Cmax及び最小値Cminに基づいて飽和度K[%]を次式により算出する。
【0062】
K=((Ce-Cmin)/(Cmax-Cmin))×100
減衰力制御部13は、予め設定された飽和度制限マップに従って、ストローク速度dλに基づいて飽和度Kを制限し、制限後の飽和度に対応する制御信号を後輪ダンパー5Rに出力する。
このように後輪ダンパー5Rの減衰力を制御することにより、後輪ばね上速度VRrを目標後輪ばね上速度VRtに収束させることができる。
【0063】
(動作)
図10は、実施形態の減衰力制御方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において車輪速センサ7は、車両1の車輪速ωを検出する。また操舵角センサ8は、ステアリングホイールの操舵角δを検出する。車速センサ9は、車両1の車速Vhを検出する。
ステップS2においてストローク速度推定部10は、車輪速ωと操舵角δと車速Vhに基づいて、車輪3のサスペンションのストローク速度dλを推定する。
【0064】
ステップS3において走行状態推定部11は、ストローク速度dλに基づいて、上屋2のバウンスレイトVと、ロールレイトVと、ピッチレイトVを推定する。
ステップS4において4輪ばね上速度推定部50と前後輪ばね上速度推定部51は、バウンスレイトVと、ロールレイトVと、ピッチレイトVに基づいて、前輪ばね上速度VFrと後輪ばね上速度VRrを推定する。
【0065】
ステップS5においてピッチ回転中心点設定部52は、ピッチ回転中心点Cを設定する。
ステップS6において目標後輪ばね上速度設定部53は、重心位置Cからピッチ回転中心点Cまでの距離Lと、後輪ばね上速度VFrとに基づいて目標後輪ばね上速度VRtを演算する。
ステップS7において減算器54とゲイン乗算部55とは、目標後輪ばね上速度VRtに対する後輪ばね上速度VRrの偏差(VRr-VRt)が減少するように後輪ダンパー5Rの目標減衰力FSXLを演算する。減衰力制御部13は目標減衰力FSXLに基づいて後輪ダンパー5Rの減衰力制御を行う。その後に処理は終了する。
【0066】
(変形例)
上式(1)の演算式は、L=Lとなる点に特異点が存在するため、L=Lの場合に図11の設定例1(破線)に示すように目標後輪ばね上速度VRtが発散する。
このため、目標後輪ばね上速度設定部53は、次式(23)又は(24)に示す近似式に基づいて目標後輪ばね上速度VRtを算出してよい。
Rt=sgn(L-L)×(L+L)×VFr/(|L-L|+η) …(23)
Rt=(L+L)×VFr/(L-L+η) …(24)
【0067】
上式(23)及び(24)においてηはゼロ除算を回避するための定数(微少量)であり、例えば「0.1」程度に設定される。また、上式(23)において関数sgn(x)は、x≧0の場合に値「+1」となりx<0のとき値「-1」となる符号関数である。
すなわち、距離Lと距離Lとの差分に微少量ηを加えた和(|L-L|+η又はL-L+η)に対する、距離Lと距離Lとの和(L+L)の比と、前輪ばね上速度VFrに基づいて目標後輪ばね上速度VRtを算出してよい。
上式(23)又は(24)に基づいて設定された目標後輪ばね上速度VRtの例を図11の設定例2(実線)に模式的に示す。上式(23)又は(24)に基づいて目標後輪ばね上速度VRtを設定することにより、L=Lとなる点に特異点における目標後輪ばね上速度VRtの発散が防止できる。
【0068】
(実施形態の効果)
(1)実施形態の減衰力制御方法では、車両1のばね上構造体と前輪3Fとの間に介装され且つ減衰力特性が固定された前輪ダンパー4Fのばね上速度である前輪ばね上速度と、ばね上構造体と後輪3Rとの間に介装され且つ減衰力を可変制御できる減衰力可変ダンパーである後輪ダンパー5Rのばね上速度である後輪ばね上速度と、を検知又は推定し、ばね上構造体の重心位置を通りばね上構造体の前後方向に延びる直線上にピッチ回転中心点を設定し、ピッチ回転中心点周りのばね上構造体のモーメントが0となるように後輪ばね上速度の目標値を演算し、演算した後輪ばね上速度の目標値に対する検知又は推定した後輪ばね上速度の偏差が減少するように後輪ダンパー5Rの減衰力を制御する。
【0069】
これにより、ばね上構造体の挙動はピッチ回転中心点を中心とする等速円運動となるため、ピッチ回転中心点周りのピッチ方向の加振を抑制できる。
また、ばね上構造体の重心位置からピッチ回転中心点までの距離を十分長くすることにより、ピッチレイトの増加を抑制できる。
【0070】
(2)例えばピッチ回転中心点の位置を、重心位置よりも前方に設定してよい。例えばピッチ回転中心点の位置を、運転者の前方注視距離に基づいて設定してよい。
これにより、ばね上構造体の前輪側が後輪側よりも若干下がる姿勢を形成できるので、運転者の視認性を向上できる。
(3)前方注視距離を車両1の走行速度に応じて設定してよい。これにより正確な前方注視距離を設定できる。
【0071】
(4)ピッチ回転中心点を、重心位置よりも後方の位置に設定してもよい。これにより、ばね上構造体のピッチ挙動に伴う上屋2の後部の上下動を低減できるので、重心位置よりも後方に配置された座席(例えば後部座席)に着座した乗員の乗り心地を向上できる。
【符号の説明】
【0072】
1…車両、2…上屋(ばね上構造体)、3FL…左前輪、3FR…右前輪、3RL…左後輪、4FL、4FR…前輪ダンパー、4RL、4RR…後輪ダンパー、5R…後輪ダンパー、5RL…後輪ダンパー、5RR…後輪ダンパー、6…コントローラ、6a…プロセッサ、6b…記憶装置、7FL…車輪速センサ、7FR…車輪速センサ、7RL…車輪速センサ、7RR…車輪速センサ、8…操舵角センサ、9…車速センサ、10…ストローク速度推定部、11…走行状態推定部、12…目標減衰力演算部、13…減衰力制御部、20…運動状態推定部、30…転舵角演算部、31…運動状態推定部、32…基準車輪速演算部、33、54…減算器、34…ストローク速度演算部、40…平面運動成分抽出部、41…ロール外乱除去部、42…ピッチ外乱除去部、43…再配分部、50…上速度推定部、51…上速度推定部、52…ピッチ回転中心点設定部、53…上速度設定部、55…ゲイン乗算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11