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特開2024-80934クラック検出システムおよびクラック検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080934
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】クラック検出システムおよびクラック検出方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240610BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240610BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240610BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20240610BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G06T7/00 610B
E21D9/00 Z
E21D11/10 D
G06T7/00 350B
H04N7/18 K
H04N7/18 D
G01N21/88 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194301
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】淡路 動太
(72)【発明者】
【氏名】長谷 陵平
【テーマコード(参考)】
2D155
2G051
5C054
5L096
【Fターム(参考)】
2D155BA06
2D155BB02
2D155CA01
2D155DB00
2D155LA17
2G051AA90
2G051AB03
2G051BB01
2G051CA04
2G051EA16
2G051ED08
5C054FA00
5C054FC12
5C054HA05
5C054HA18
5L096BA03
5L096CA17
5L096DA01
5L096FA69
5L096GA40
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】作業員全員がクラックの位置を正確に認識することができるクラック検出システムおよびクラック検出方法を提供する。
【解決手段】構造物の表面を撮影する撮影手段2と、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、前記撮影手段2により撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するクラック検出手段3と、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成する画像作成手段3と、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示する照射手段4とを備えるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面のクラックを検出して提示するシステムであって、
前記構造物の表面を撮影する撮影手段と、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、前記撮影手段により撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するクラック検出手段と、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成する画像作成手段と、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示する照射手段とを備えることを特徴とするクラック検出システム。
【請求項2】
前記撮影手段は、前記照射手段により照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影し、前記画像作成手段は、前記撮影手段により撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成することを特徴とする請求項1に記載のクラック検出システム。
【請求項3】
構造物の表面のクラックを検出して提示する方法であって、
前記構造物の表面を撮影するステップと、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するステップと、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成するステップと、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示するステップとを有することを特徴とするクラック検出方法。
【請求項4】
照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影するステップと、撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するステップとを有することを特徴とする請求項3に記載のクラック検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば吹付けコンクリートのクラック発生箇所を検出するクラック検出システムおよびクラック検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
<鏡吹付け、ガイドライン>
従来、山岳トンネルでは、地山の掘削を行う際に切羽で岩盤が剥離、脱落する「肌落ち」が生じることがある。肌落ち災害は被災者の6%が死亡、42%が休業1月以上、66%が休業4日以上であるなど、一旦発生すると重篤な災害となりやすいことが明らかとなっている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
切羽の肌落ちの対策として、掘削ズリの搬出直後に、切羽に吹付けコンクリートを吹き付ける鏡吹付けという作業を行う場合がある。
鏡吹付けは以下の効果を有する。
<1>切羽の緩みを抑える。
<2>切羽の変形に伴い新たに発生したひび割れや切羽の変状を視認しやすくなる。
<3>膨張性地山の場合、地山と坑内の空気または水分との接触を妨げ、地山の膨張を防ぐ。
【0004】
崩落の予兆を察知するために、平成30年に改正された非特許文献1の「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」では、専任された切羽監視員により切羽の状態を常時監視することが求められているが、小さなひび割れやわずかな剥落などすべての予兆を人間が目視で捉えるには限界があるという問題がある(問題点[1])。
【0005】
<クラック検出システム>
上記の問題点[1]に対し、鏡吹付けコンクリート面のクラックを瞬時に検出するために、AIを用いた鏡吹付けコンクリート面のクラック検出システムが開発されている(例えば、非特許文献2、3、特許文献1を参照)。このシステムでは、教師データにクラックが記録されている映像を用いて、鏡吹付けコンクリート面のクラックをリアルタイムで検出することができるAIモデルを構築している。このシステムによれば、上記の問題点[1]を解決することができる。
【0006】
一方、トンネル切羽に係る情報を切羽面に投影する従来の技術として、例えば特許文献2、3が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」、厚生労働省発行、2018年
【非特許文献2】「トンネル切羽におけるAIを用いた鏡吹付けコンクリート面のクラック検知システムの開発」、有家舜祐、邊見涼、淡路動太、令和2年度土木学会全国大会、CS15-26、2020年
【非特許文献3】「AI鏡吹付けコンクリート検知システムの開発」、淡路動太、有家舜祐、邊見涼、三原泰司、伊原広明、土木建設技術発表会2020、II-4、2020年
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-184163号公報
【特許文献2】特開2018-150720号公報
【特許文献3】特開2022-1732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の従来のクラック検出システムは、上記の問題点[1]を解決することができる。しかし、検出したクラックの位置をPC(パーソナルコンピュータ)などのモニタ上で視認することから、切羽近傍で作業しているすべての作業員が同時にクラックの位置を認識することが難しく、また、クラックの位置を誤認する可能性があり、作業員が誤って危険箇所に立ち入り、肌落ち等の災害に巻き込まれるおそれがあった(問題点[2])。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、作業員全員がクラックの位置を正確に認識することができるクラック検出システムおよびクラック検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るクラック検出システムは、構造物の表面のクラックを検出して提示するシステムであって、前記構造物の表面を撮影する撮影手段と、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、前記撮影手段により撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するクラック検出手段と、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成する画像作成手段と、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示する照射手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のクラック検出システムは、上述した発明において、前記撮影手段は、前記照射手段により照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影し、前記画像作成手段は、前記撮影手段により撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るクラック検出方法は、構造物の表面のクラックを検出して提示する方法であって、前記構造物の表面を撮影するステップと、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するステップと、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成するステップと、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示するステップとを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他のクラック検出方法は、上述した発明において、照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影するステップと、撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るクラック検出システムによれば、構造物の表面のクラックを検出して提示するシステムであって、前記構造物の表面を撮影する撮影手段と、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、前記撮影手段により撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するクラック検出手段と、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成する画像作成手段と、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示する照射手段とを備えるので、吹付けコンクリートなどの構造物の表面の近傍にいる作業員全員が、クラックの位置を正確に認識することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他のクラック検出システムによれば、前記撮影手段は、前記照射手段により照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影し、前記画像作成手段は、前記撮影手段により撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するので、シンボルの外観を見やすく調整することで、クラック発生箇所をより正確に認識しやすくなるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係るクラック検出方法によれば、構造物の表面のクラックを検出して提示する方法であって、前記構造物の表面を撮影するステップと、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するステップと、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成するステップと、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示するステップとを有するので、吹付けコンクリートなどの構造物の表面の近傍にいる作業員全員が、クラックの位置を正確に認識することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他のクラック検出方法によれば、照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影するステップと、撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するステップとを有するので、シンボルの外観を見やすく調整することで、クラック発生箇所をより正確に認識しやすくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係るクラック検出システムの実施の形態を示す概略図であり、(1)は正面図、(2)は側面図である。
図2図2は、撮影・照射装置の配置例を示した概略図であり、(1)は三脚に配置する場合、(2)は磁石を用いて鋼アーチ支保工に配置する場合、(3)は重機に配置する場合である。
図3図3は、本発明に係るクラック検出方法の実施の形態を示す手順図である。
図4図4は、本実施の形態の説明図であり、(1)はカメラ画像、(2)はクラック発生箇所の検出結果、(3)は映像内でクラックとみなされたピクセルである。
図5図5は、本実施の形態の説明図であり、(1)はシンボルをプロットした後の画像データ、(2)は画像の照射中の様子(シンボルの大きさ調整前)、(3)は画像が照射されている吹付け面を撮影し、シンボルに該当するピクセルの総数を抽出した結果、(4)は画像の照射中の様子(シンボルの大きさ調整後)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、上記の問題点[1]、[2]に対し、AIを用いた鏡吹付けコンクリート面のクラック検出システムにプロジェクションマッピング技術を活用し、クラック発生箇所に画像を照射することで、ひび割れが発生した箇所の認識しやすさを向上させるようにしたものである。
【0021】
以下に、本発明に係るクラック検出システムおよびクラック検出方法の実施の形態について、山岳トンネルの鏡吹付けコンクリートの表面にクラック発生箇所を示す画像を照射する場合を例にとり、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
<構成>
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るクラック検出システム10は、鏡吹付けコンクリートの撮影、撮影した画像の分析、ひび割れ箇所、崩落箇所、湧水箇所に照射する画像の作成、画像の照射を行う撮影・照射装置1を備えている。
【0023】
撮影・照射装置1は、鏡吹付けコンクリート(構造物の表面)の撮影を行うカメラ2(撮影手段)、カメラ2で撮影した映像を分析し、鏡吹付けコンクリートのクラック発生箇所の検出を行うクラック検出手段、および、クラック発生箇所に照射する画像を作成する画像作成手段として機能するPC3、PC3で作成した画像をカメラ2で撮影している対象物(ここでは鏡吹付けコンクリート)に照射するプロジェクタ4(照射手段)、カメラ2とPC3とプロジェクタ4を粉塵や水から保護するための保護容器5で構成される。
【0024】
保護容器5は、直交座標系のx軸、y軸、z軸方向に平行な辺を有する直方体状の容器である。保護容器5には、カメラ2の撮影やプロジェクタ4の照射を行うための窓6が設けられる。窓6は透明なアクリルやガラス製が望ましいが、これに限るものではない。
カメラ2、PC3、プロジェクタ4は電源に接続される。クラック発生箇所を検出するAIモデルは、PC3に備わる記録装置に格納されている。
後に説明する画像の作成時のデータ処理を簡易にするために、プロジェクタ4の照射方向をx軸方向と設定したときのカメラ2のレンズの焦点2Aとプロジェクタ4のレンズの焦点4Aのx軸方向の座標値は一致していることを前提とする。
【0025】
<配置方法>
本実施の形態では、撮影・照射装置1を配置する方法として3つの方法1~3を例示するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0026】
まず、方法1は三脚を使用する方法である。図2(1)の一点透視図に示すように、トンネル内の路盤11上の所定の位置に三脚12を設置し、その上に撮影・照射装置1を設置する。なお、路盤11上の別の位置に重機13が設置され、切羽において、掘削の進行方向に対して垂直である面に鏡吹付けコンクリート14が施工され、それ以外の地山の面に吹付けコンクリート15および鋼アーチ支保工16が施工されている。
【0027】
方法2は、磁石を使用する方法である。図2(2)の一点透視図に示すように、鋼アーチ支保工16に磁石17を用いて撮影・照射装置1を設置する。
【0028】
方法3は、重機に設置する方法である。図2(3)の側面図に示すように、重機13に撮影・照射装置1を設置する。なお、この図においては、既設部の吹付けコンクリート、鋼アーチ支保工は図示を省略している。また、この図では、ドリルジャンボである重機13に撮影・照射装置1を設置している様子を示しているが、これに限るものではなく、他の重機に設置してもよい。
【0029】
<実施手順>
次に、上記の撮影・照射装置1を用いたクラック検出方法の実施手順について、図3を参照しながら説明する。
【0030】
図3に示すように、まず、ステップS1では、撮影・照射装置1に取り付けられているカメラ2のレンズの焦点2Aを基準としたプロジェクタ4のレンズの焦点4Aのy、z軸方向の相対位置の情報(Δy,Δz)を計測する。計測には、例えば定規やトータルステーションなどの測量機器を使用する。この相対位置の情報は、ステップS7の鏡吹付けコンクリートに照射する画像を作成する際に使用する。
【0031】
次のステップS2では、教師データの蓄積とAIモデル(学習済モデル)の作成を行う。教師データには、例えば、鏡吹付けコンクリートのクラックが記録されている映像を使用し、AIモデルを作成する。AIモデルの作成方法には、例えば、特許文献1に記載の学習方法を用いることができる。
【0032】
次のステップS3では、鏡吹付けコンクリート14の撮影と、鏡吹付けコンクリート14への照射が行える位置に、撮影・照射装置1を上述した配置方法で設置する。
【0033】
次のステップS4では、カメラ2で鏡吹付けコンクリート14を撮影する。以下の説明では、図4(1)に示す画像(映像)が撮影された場合を例にとり説明する。
【0034】
次のステップS5では、カメラ2で撮影した画像をPC3内に格納されたAIモデルで分析し、図4(2)に示すようにクラック発生箇所の検出を行う。クラック発生箇所の検出を行った際に、図4(3)に示すように映像内においてクラックとみなされたピクセルの位置の座標(yi,zi)を抽出する。
【0035】
次のステップS6では、カメラ2の撮影箇所における、鏡吹付けコンクリート14のクラック発生箇所に照射する画像をPC3にて作成する。具体的な画像作成方法を以下に説明する。
【0036】
まず、ステップS5にて抽出した映像内におけるクラックの位置の座標(yi,zi)を、ステップS1にて計測したカメラ2のレンズの焦点2Aを基準としたプロジェクタ4のレンズの焦点4Aのy、z軸方向の相対位置の情報(Δy,Δz)と以下の式(1)、(2)を用いて、照射用の画像内にクラック情報としてプロットするシンボルの座標(Yi,Zi)を計算する。
【0037】
Yi=yi+Δy ・・・式(1)
Zi=zi+Δz ・・・式(2)
【0038】
図5(1)に示すように、座標(Yi,Zi)を中心とした四角、三角、丸などの任意の形状、大きさ、色のシンボルを画像データ上にプロットする。この作業は、クラック発生箇所の視認性を向上させるために行う。
【0039】
クラック発生箇所に照射する色を際立たせるため、また、作業員が感じる眩しさを低減させるために、クラック発生箇所以外に照射する画像の色は灰色や黒などの暗い色が望ましいが、これに限るものではない。
【0040】
次のステップS7では、ステップS6にてPC3で作成した画像を、図5(2)に示すように、プロジェクタ4で鏡吹付けコンクリート14に照射する。これにより、クラック発生箇所を提示する。
【0041】
ステップS7でクラック発生箇所を示す画像を照射した後は、クラック発生箇所を示すシンボルの大きさを調整し、クラック発生箇所を正確に認識しやすくするために、ステップS8、S9に進む。
【0042】
次のステップS8では、画像が照射された鏡吹付けコンクリート14をカメラ2で撮影する。
【0043】
次のステップS9では、PC3で照射用の画像にプロットするシンボルの大きさを調整する。具体的には、図5(3)、(4)に示すように、ステップS8にて撮影した画像から、クラック発生位置を示すシンボルに該当するピクセルの総数p1を検出し、ステップS5にて検出したクラック発生箇所を示すピクセルの総数p2との比p1/p2を計算し、この比が任意に定めた閾値aよりも小さい場合は照射用の画像にプロットするシンボルを大きくし、閾値aよりも大きい場合はシンボルを小さくする。
【0044】
シンボルに該当するピクセルを抽出する際には、例えばステップS8にて撮影した画像からピクセルのRGB値(R1,G1,B1)、照射用画像上にプロットしたシンボルのRGB値(R2,G2,B2)、任意に定めた閾値bR、bG、bBに対し、以下の不等式の条件をすべて満たすピクセルを抽出する。
【0045】
|R1-R2|≦bR
かつ
|G1-G2|≦bG
かつ
|B1-B2|≦bB
【0046】
次のステップS10では、シンボルの大きさを調整した画像をプロジェクタ4で鏡吹付けコンクリート14に照射する。
【0047】
次のステップS11では、再び撮影、映像の分析、照射を行うか否かを判定する。この判定は、人が行ってもよいし、事前に設定した判定基準に基づいてPC3で判定してもよい。この結果、再び撮影、映像の分析、照射を行う場合は、ステップS4に戻る(ステップS11でYes)。クラック発生箇所を示す画像を照射しながら吹付け面の撮影をすると、クラックの位置を誤認する可能性があることから、再び撮影を行う際は照射を一時中断することが望ましい。
【0048】
ステップS10の照射の後に、再び撮影、映像の分析、照射を行わない場合は(ステップS11でNo)、ステップS12に進み機材の撤去、または移設を行う。
【0049】
以上の方法により、山岳トンネルの鏡吹付けコンクリートのクラック発生箇所の視認性を向上させることが可能となる。
【0050】
本実施の形態によれば、AIモデルの活用により、鏡吹付けコンクリートのクラック発生箇所を瞬時に検出できる。また、検出したクラックの位置にプロジェクタ4で画像を照射することで、その場にいる作業員全員がクラックの位置を正確に認識でき、作業員が誤って危険箇所に立ち入って、肌落ち等の災害に巻き込まれる可能性を減らすことができる。したがって、作業安全性の向上に寄与することができる。
【0051】
なお、上記の実施の形態では、山岳トンネルの鏡吹付けコンクリートに生じるクラックを例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではなく、これ以外の他の用途にも適用可能である。例えば、のり面の吹付けコンクリートに生じるクラックの検出に対しても同様に適用可能である。
【0052】
以上説明したように、本発明に係るクラック検出システムによれば、構造物の表面のクラックを検出して提示するシステムであって、前記構造物の表面を撮影する撮影手段と、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、前記撮影手段により撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するクラック検出手段と、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成する画像作成手段と、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示する照射手段とを備えるので、吹付けコンクリートなどの構造物の表面の近傍にいる作業員全員が、クラックの位置を正確に認識することができる。
【0053】
また、本発明に係る他のクラック検出システムによれば、前記撮影手段は、前記照射手段により照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影し、前記画像作成手段は、前記撮影手段により撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するので、シンボルの外観を見やすく調整することで、クラック発生箇所をより正確に認識しやすくなる。
【0054】
また、本発明に係るクラック検出方法によれば、構造物の表面のクラックを検出して提示する方法であって、前記構造物の表面を撮影するステップと、前記構造物の表面の画像から前記構造物の表面におけるクラック発生箇所を検出するための学習済モデルを用いて、撮影された画像から前記クラック発生箇所を検出するステップと、検出した前記クラック発生箇所に対応する位置にシンボルを配置した画像を作成するステップと、作成した画像を前記構造物の表面に照射し、照射した前記シンボルにより前記クラック発生箇所を提示するステップとを有するので、吹付けコンクリートなどの構造物の表面の近傍にいる作業員全員が、クラックの位置を正確に認識することができる。
【0055】
また、本発明に係る他のクラック検出方法によれば、照射された画像を含む前記構造物の表面を撮影するステップと、撮影された画像に含まれる前記シンボルに基づいて、前記シンボルの外観を調整し、前記シンボルを配置した画像を作成するステップとを有するので、シンボルの外観を見やすく調整することで、クラック発生箇所をより正確に認識しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明に係るクラック検出システムおよびクラック検出方法は、吹付けコンクリートなどの吹付け面に生じるクラックの検出に有用であり、特に、吹付け面の近傍に居る作業員全員がクラックの位置を正確に認識するのに適している。
【符号の説明】
【0057】
1 撮影・照射装置
2 カメラ(撮影手段)
2A,4A レンズの焦点
3 PC(クラック検出手段、画像作成手段)
4 プロジェクタ(照射手段)
5 保護容器
6 窓
10 クラック検出システム
11 路盤
12 三脚
13 重機
14 鏡吹付けコンクリート
15 吹付けコンクリート
16 鋼アーチ支保工
17 磁石
図1
図2
図3
図4
図5