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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080989
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】車両サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B60G17/015 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194381
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 敏晃
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA02
3D301CA09
3D301DA14
3D301DA33
3D301DB38
3D301DB40
3D301EA19
3D301EB04
3D301EB07
3D301EB34
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC65
(57)【要約】
【課題】操縦安定性の悪化を抑えながら乗り心地を改善する。
【解決手段】車両サスペンション装置は、気体ばね14と、気体ばね14に接続された気体シリンダ22と、そのピストン36を動作させるアクチュエータ24と、気体流路34を開閉する開閉弁26と、車体上下加速度を検出する加速度検出装置28と、圧縮気体供給装置30と、制御装置32と、を備える。制御装置32は、検出した車体上下加速度から実振動の振動ピーク周波数を算出し、該振動ピーク周波数とばね固有振動数との差を求め、その差が第1設定値よりも小さいときに、当該差を第1設定値以上の第2設定値にするために必要なピストン36の移動量を算出し、該移動量に応じてピストン36を動作させ、圧縮気体供給装置30により気体シリンダ22に気体を供給し、開閉弁26を開状態とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車輪との間に設置された気体ばね、
前記気体ばねに気体流路を介して接続されてピストンの移動により容積可変に構成された気体シリンダ、
前記ピストンを動作させるためのアクチュエータ、
前記気体ばねと前記気体シリンダとの間で前記気体流路を開閉するための開閉弁、
車体上下加速度を検出するための加速度検出装置、
前記気体シリンダに連通する圧縮気体供給装置、及び、
前記開閉弁と前記圧縮気体供給装置と前記アクチュエータを制御する制御装置、
を備え、
前記制御装置は、前記加速度検出装置により検出した車体上下加速度からFFT解析を用いて実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数を算出し、前記振動ピーク周波数と空気ばねの固有振動数との差を求め、前記差が第1設定値よりも小さいときに、当該差を前記第1設定値以上の第2設定値にするために必要な前記ピストンの移動量を算出し、前記移動量に応じて前記アクチュエータにより前記ピストンを動作させ、前記圧縮気体供給装置により前記気体シリンダに気体を供給し、前記開閉弁を開状態とする制御を行う、
車両サスペンション装置。
【請求項2】
前記第2設定値が前記第1設定値と同じ値である、請求項1に記載の車両サスペンション装置。
【請求項3】
前記第1設定値及び前記第2設定値が0.5~1.5Hzの範囲で設定される、請求項1に記載の車両サスペンション装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記加速度検出装置により検出した車体上下加速度から移動平均を算出し、前記移動平均が閾値以上のときに、前記アクチュエータによる前記ピストンの動作制御を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両サスペンション装置。
【請求項5】
前記実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数の算出は、前記FFT解析により得られる曲線を3回差分し、3回差分の値が負から正の方向に0を横切る周波数を求め、求めた周波数のうちで2回差分の極小値が最小値となる周波数を、前記振動ピーク周波数とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両サスペンション装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の乗り心地を改善するために、圧縮空気を利用した空気ばねを用いたサスペンション装置を搭載する車両が知られている。このような車両サスペンション装置では、空気ばねと空気タンクとの間に設けられた切替弁を開閉することにより、空気ばねの特性を変更可能にしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、空気ばねに複数の空気タンクを接続し、車両振動の大きさによって開閉弁により空気ばねとタンクとの間の気体流路を切り替えることにより、ばね定数を変更することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-036830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように複数の空気タンクに対する接続の切り替えでは、空気タンクの組み合わせの数しかばね定数を設定できない。このように切り替えできるばね定数のパターンが決まっているので、必要以上にばね定数が下がりすぎることがあり、乗り心地は改善されたとしても、コーナリング時のロールが大きくなって操縦安定性(運転フィーリング)が悪化する可能性がある。
【0006】
本発明の実施形態は、操縦安定性の悪化を抑えながら乗り心地を改善することができる車両サスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 車体と車輪との間に設置された気体ばね、前記気体ばねに気体流路を介して接続されてピストンの移動により容積可変に構成された気体シリンダ、前記ピストンを動作させるためのアクチュエータ、前記気体ばねと前記気体シリンダとの間で前記気体流路を開閉するための開閉弁、車体上下加速度を検出するための加速度検出装置、前記気体シリンダに連通する圧縮気体供給装置、及び、前記開閉弁と前記圧縮気体供給装置と前記アクチュエータを制御する制御装置、を備え、
前記制御装置は、前記加速度検出装置により検出した車体上下加速度からFFT解析を用いて実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数を算出し、前記振動ピーク周波数と空気ばねの固有振動数との差を求め、前記差が第1設定値よりも小さいときに、当該差を前記第1設定値以上の第2設定値にするために必要な前記ピストンの移動量を算出し、前記移動量に応じて前記アクチュエータにより前記ピストンを動作させ、前記圧縮気体供給装置により前記気体シリンダに気体を供給し、前記開閉弁を開状態とする制御を行う、車両サスペンション装置。
[2] 前記第2設定値が前記第1設定値と同じ値である、[1]に記載の車両サスペンション装置。
[3] 前記第1設定値及び前記第2設定値が0.5~1.5Hzの範囲で設定される、[1]又は[2]に記載の車両サスペンション装置。
[4] 前記制御装置は、前記加速度検出装置により検出した車体上下加速度から移動平均を算出し、前記移動平均が閾値以上のときに、前記アクチュエータによる前記ピストンの動作制御を行う、[1]~[3]のいずれか1項に記載の車両サスペンション装置。
[5] 前記実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数の算出は、前記FFT解析により得られる曲線を3回差分し、3回差分の値が負から正の方向に0を横切る周波数を求め、求めた周波数のうちで2回差分の極小値が最小値となる周波数を、前記振動ピーク周波数とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の車両サスペンション装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態に係る車両サスペンション装置であると、操縦安定性の悪化を抑えながら、乗り心地を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る車両サスペンション装置のシステム構成図
図2】同車両サスペンション装置の電気的構成を示すブロック図
図3】同実施形態における制御内容を示すフローチャート
図4】振動ピーク周波数の算出方法を説明するための図であり、(A)はFFT解析により得られた周波数特性(原波形)を示すグラフ、(B)は原波形を2回差分したグラフ、(C)は原波形を3回差分したグラフ
図5】エアサスペンションにおけるピストン変位とシリンダ容積又はばね定数との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る車両サスペンション装置のシステム構成図であり、ばね下部材である車輪10とばね上部材である車体12との間に、気体ばねであるエアサスペンション14が設けられている。エアサスペンション14は、圧縮気体の弾性力を利用したばね装置であり、空気ばねとも称される。圧縮気体としては圧縮空気が一般的である。以下、「気体」の代わりに「空気」ということがあるが、両者は適宜置き換え可能である。
【0012】
この例では、車両は乗用車などの4輪自動車であり、各車輪10と車体12との間にそれぞれエアサスペンション14が設置されている。以下、1つの車輪10について説明するが、他の車輪についても同様の構成を採用することができる。
【0013】
車輪10は、外周にタイヤ16を備える。
【0014】
エアサスペンション14は、空気ばね室18を備える。エアサスペンション14には、ショックアブソーバなどの減衰器20が設けられている。この例では、減衰器20はシリンダダンパーからなり、空気ばね室18内に同軸状に配されている。
【0015】
車両サスペンション装置は、エアサスペンション14とともに、気体シリンダであるエアシリンダ22と、アクチュエータ24と、開閉弁26と、加速度検出装置28と、圧縮気体供給装置である圧縮空気供給装置30と、制御装置32と、を備える。
【0016】
エアシリンダ22は、導管などの気体流路34を介してエアサスペンション14に接続され、ピストン36の移動により容積可変に構成された部品である。エアシリンダ22の容積を変えることにより、エアシリンダ22に接続されたエアサスペンション14において、空気ばねとして作用する容積を増加させることができる。そのため、エアサスペンション14のばね定数を低下させることができる。
【0017】
ピストン36は、エアシリンダ22の内部を2つの空間38,40に仕切り、一方の空間38に気体流路34が接続され、他方の空間40は不図示のポートを介して大気に開放されている。ここで、ピストン36の初期位置は、エアシリンダ22の容積(空間38の容積)が0(ゼロ)となる位置に設定される。
【0018】
アクチュエータ24は、ピストン36を動作させる部品である。この例では、上記他方の空間40を貫通するロッド36Aを軸方向に進退駆動することで、ピストン36をエアシリンダ22の軸方向に移動させる。アクチュエータ24としては、ピストン36を動作させることができれば、特に限定されず、例えば電磁アクチュエータ、リニアモータ、油圧アクチュエータ、ボールねじなどの各種アクチュエータを用いることができる。
【0019】
開閉弁26は、エアサスペンション14とエアシリンダ22との間で気体流路34を開閉する部品であり、例えば電磁弁で構成することができる。開閉弁26により気体流路34を閉状態(全閉状態)とすることにより、エアサスペンション14は自身の空気ばね室18の容積に応じたばね定数を持つ。開閉弁26により気体流路34を開状態(全開状態)とすることにより、エアサスペンション14の空気ばね室18とエアシリンダ22の空間38が連通状態となり、空気ばねとして作用する容積が増加する。
【0020】
加速度検出装置28は、車体12の上下方向における加速度(車体上下加速度)を検出するための部品であり、公知の加速度センサにより構成することができる。加速度検出装置28は、例えばアッパーマウント部に設置されることで各車輪10に対応させてそれぞれ設けてもよいが、1つの加速度検出装置28を例えば車体12の重心位置に設けることにより、4つの車輪10に対して1つの加速度検出装置28を共用してもよい。
【0021】
圧縮空気供給装置30は、エアシリンダ22に連通して設けられて、エアシリンダ22に圧縮空気を供給する部品である。詳細には、圧縮空気供給装置30は、エアシリンダ22の上記空間38に接続されて当該空間38に圧縮空気を供給し、これにより、エアサスペンション14の空気ばね室18の空気圧とエアシリンダ22の空間38の空気圧とを一致させる。エアシリンダ22の空間38の空気圧を空気ばね室18の空気圧と同じ値にするために、空気ばね室18の空気圧を測定し、その空気圧になるようにエアシリンダ22の空間38に圧縮空気を供給する。
【0022】
圧縮空気供給装置30は、例えば、コンプレッサや高圧タンクなどの気体供給源と、サーボバルブとにより構成することができ、また、空気ばね室18の空気圧を検出するための圧力センサを備えてもよい。
【0023】
制御装置32は、開閉弁26と圧縮空気供給装置30とアクチュエータ24を制御するための部品であり、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インターフェース、各種ドライバ等から構成されたECU(Electronic Control Unit)を用いることができる。制御装置32は、開閉弁26、圧縮空気供給装置30及びアクチュエータ24に電気的に接続されて、これらの動作を制御する。制御装置32は、また、加速度検出装置28が検出した車体上下加速度のデータを取得するために、加速度検出装置28に電気的に接続されている。制御装置32は、各車輪10に対応させて設けてもよいが、通常は4つの車輪10に対して1つの制御装置32を共用させる。
【0024】
制御装置32は、実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数とエアサスペンション14の固有振動数との差を求め、この差が設定値よりも小さいときに、エアシリンダ22のピストン36を動作させて固有振動数が低周波数側にシフトするように制御する。
【0025】
振動ピーク周波数とエアサスペンション14の固有振動数が一致ないし極近い値を持つと、振動が大きくなり、乗り心地が損なわれる。両者が実質的に一致しないように固有振動数を低周波数側にシフトさせることで、ばね上共振領域の振動を低減して乗り心地を改善することができる。その際、本実施形態では、エアシリンダ22のピストン36の移動量を算出し、その移動量に応じてピストン36を動作させることで固有振動数を低減する。そのため、エアサスペンション14のばね定数が必要以上に下がることを回避することができ、操縦安定性の悪化を抑えることができる。よって、操縦安定性の悪化を抑えながら、乗り心地を改善することができる。
【0026】
図2に示すように、制御装置32は、不図示の記憶部に記憶されたプログラムを実行することで、加速度取得部50、移動平均算出部52、第1判定部54、振動ピーク周波数算出部56、ばね固有振動数算出部58、周波数差算出部60、第2判定部62、移動量算出部64、アクチュエータ制御部66、気体供給制御部68、及び開閉弁制御部70として機能する。
【0027】
加速度取得部50は、加速度検出装置28が検出した車体上下加速度を取得する。移動平均算出部52は、上記取得した車体上下加速度から移動平均を算出する。第1判定部54は、上記算出した移動平均が閾値以上であるか否かを判定し、閾値以上であるときにはアクチュエータ24によるピストン36の動作制御に進み、閾値未満であるときには当該動作制御に進まないように制御する。
【0028】
振動ピーク周波数算出部56は、上記車体上下加速度からFFT解析を用いて実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数を算出する。ばね固有振動数算出部58は、エアサスペンション14の固有振動数を算出する。周波数差算出部60は、振動ピーク周波数と空気ばねの固有振動数との差を求める。第2判定部62は、振動ピーク周波数と固有振動数との差が第1設定値よりも小さいか否かを判定し、第1設定値よりも小さいときにはアクチュエータ24によるピストン36の動作制御に進み、第1設定値以上であるときには当該動作制御に進まないように制御する。
【0029】
移動量算出部64は、上記の振動ピーク周波数と固有振動数との差を第1設定値以上の第2設定値にするために必要なピストン36の移動量を算出する。アクチュエータ制御部66は、算出した移動量に応じてアクチュエータ24によりピストン36を動作させる。気体供給制御部68は、圧縮空気供給装置30によりエアシリンダ22の上記空間38に圧縮空気を供給して、エアサスペンション14の空気ばね室18の空気圧とエアシリンダ22の空間38の空気圧とを一致させる。開閉弁制御部70は、開閉弁26を開状態又は閉状態にする制御を行う。
【0030】
次に、車両サスペンション装置における制御装置32による制御内容について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0031】
システムがスタートすると、まず、ステップS1において、開閉弁制御部70が開閉弁26を閉状態とする。ここで「閉状態とする」には、開閉弁26が閉状態であるときに、当該閉状態をそのまま維持することも含まれる。なお、車両としては、開閉弁26が閉状態での走行が基本モードである。そしてステップS2に進む。
【0032】
ステップS2において、加速度取得部50が、加速度検出装置28に時系列の車体上下加速度を検出させ、当該検出した時系列車体上下加速度データを取得する。また、移動平均算出部52が、検出した時系列の車体上下加速度データから移動平均を算出する。移動平均とは、連続する複数の時期の平均を算出し、順次時期をずらしながら計算することをいい、一定時間(例えば0.5秒)ごとに遡ってその間の加速度の平均値をとる。そしてステップS3に進む。
【0033】
ステップS3において、第1判定部54は、上記算出した移動平均が閾値以上であるか否かを判定し、閾値未満であるときは、路面が荒れていないと判断してステップS1に戻る。一方、閾値以上であるときは、路面が荒れていると判断してステップS4に進む。ここで、閾値は、路面が荒れているか、又は荒れていないか(即ち、平滑な路面であるか)との境界となる値であり、例えば2m/sに設定してもよい。
【0034】
ステップS4において、振動ピーク周波数算出部56は、車体上下加速度からFFT解析を用いて実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数fを算出する。走行時における実振動のばね上共振領域は、通常5Hz以下であり、1~2Hzであることが多い。FFT解析の結果から振動ピーク周波数fを算出する方法としては、FFT解析により得られた曲線を3回微分した波形から求めてもよいが、当該曲線を3回差分した波形から求めることが、構成要素の追加や処理遅れの懸念を無くすうえで好ましい。
【0035】
詳細には、ステップS2で求めた時系列車体上下加速度データの移動平均の波形をFFT(高速フーリエ変換)解析する。FFT解析としては、通常のFFT解析を行ってもよいが、リアルタイムFFT解析を行うことが好ましい。ここで、通常のFFT解析では信号データのサンプリングを行うと、直前にサンプリングしたそのデータに対するFFT演算を行う。一方、ここで用いるリアルタイムFFT解析とは、直前のサンプリングデータだけでなく、それまでの採取したサンプリングデータの一部(1つ前のみ、1つ前と2つ前の平均、1つ前と2つ前の累積など)あるいは全部を用いてFFT演算を行う手法をいう。
【0036】
次いで、FFT解析により得られた離散化データの曲線、即ち、横軸を周波数とし、縦軸を振動レベルとする周波数特性の波形(原波形)から振動ピーク周波数fを求める。その求め方は下記手順(1)~(3)により行うことができる。
【0037】
(1) 原波形に対して3回差分をとる。差分としては、前進差分、後進差分、中心差分などが挙げられ、一例として前進差分を行う。ここで、上記原波形から差分をとったものを1回差分とし、該1回差分で得られた曲線から差分をとったものを2回差分とし、該2回差分で得られた曲線から差分をとったものを3回差分とする。原波形の一例を図4(A)に示す。図4(B)は該原波形を2回差分したグラフであり、図4(C)は該原波形を3回差分したグラフである。
【0038】
(2) 3回差分した曲線の離散化データにおいて、値が負から正の方向に0(即ち、横軸)を横切る周波数を求める。例えば、図4の例では、図4(C)に示すように3回差分した曲線は1.35Hzと2.55Hzにおいて横軸を横切るので、1.35Hzと2.55Hzの2つの周波数が求められる。
【0039】
(3) 次いで、手順(2)で求めた周波数のうち2回差分の極小値が最小値となる周波数(卓越周波数)を求め、この卓越周波数を振動ピーク周波数fとする。例えば、図4の例では、図4(B)に示すように1.35Hzと2.55Hzのうち1.35Hzの方が極小値がより小さいので、1.35Hzを振動ピーク周波数fとする。
【0040】
なお、上記では手順(2)で複数の周波数が検出された際、手順(3)で2回差分の極小値が最小となる周波数を選択することで振動ピーク周波数fとしたが、手順(2)で検出された全ての周波数の算術平均をとることで、当該平均値を振動ピーク周波数fとして算出してもよい。あるいは、手順(2)で3つ以上の周波数が検出された場合に、手順(3)で2回差分の極小値の最小値が小さい順にデータを選択し、上位いくつかのみを用いて算術平均をとる方法が考えられる。また、3回差分した曲線で値が負から正の方向に0(ゼロ)を横切る周波数がない場合は、注目する周波数領域内に卓越する周波数ピークが存在しないとして、例外的に以降のステップS5に進まず、ステップS2に戻るようにしてもよい。
【0041】
次いで、ステップS5において、ばね固有振動数算出部58が、エアサスペンション14の固有振動数fを算出する。エアサスペンション14の固有振動数fは、下記式(1)により算出することができる。ここで、エアサスペンション14のばね定数Kは下記式(2)で表される。
【数1】
【0042】
式(1)中、Mはエアサスペンション14が受け持つばね上の質量である。式(2)中、Vはエアサスペンション14の空気ばねとして作用する容積である。nはポリトロープ指数である。Pはエアサスペンション14の絶対圧(ゲージ圧+大気圧)である。Aはエアサスペンション14の受圧面積である。
【0043】
なお、エアサスペンション14の初期ばね定数は、予め算出されていてもよく、例えば、ステップS5において、その値を不図示の記憶部から取得してもよい。ここで、初期ばね定数とは、開閉弁26が閉状態でのばね定数であり、エアサスペンション14自身の空気ばね室18の容積でのばね定数である。
【0044】
このようにして振動ピーク周波数fとエアサスペンション14の固有振動数fを算出した後、ステップS6において、周波数差算出部60が、振動ピーク周波数fと固有振動数fとの差(差の絶対値)Δf(=|f-f|)を求める。そしてステップS7に進む。
【0045】
ステップS7において、第2判定部62は、振動ピーク周波数fと固有振動数fとの差Δfが第1設定値よりも小さいか否かを判定し、差Δfが第1設定値よりも小さいときにはステップS8に進む。一方、上記差Δfが第1設定値以上であるときには、ばね上共振領域の振動を低減する必要が無いと判断して、ステップS2に戻る。
【0046】
第1設定値は、振動ピーク周波数fと固有振動数fが実質的に一致することで乗り心地が悪化することを防ぐために、実質的に一致しないといえる範囲で設定することができる。例えば、第1設定値は0.5~1.5Hzの範囲で設定されることが好ましく、一例として第1設定値は1.0Hzに設定してもよい。
【0047】
ステップS8において、移動量算出部64は、振動ピーク周波数fと固有振動数fとの差Δfを第1設定値以上の第2設定値にするために必要なピストン36の移動量を算出する。
【0048】
一般に、空気ばねは空気圧及び受圧面積が一定の場合、外部空気室の容積を増減させることにより、ばね定数を可変することができる(上記式(2)参照)。本実施形態では、外部空気室としてエアシリンダ22を備えており、図5に示されるように、ピストン36を移動(変位)させることでエアシリンダ22の容積(シリンダ容積)を任意に変えることができ、それによりエアサスペンション14の空気ばねとして作用する容積Vを任意に変えることができる。そのため、図5に示されるように、エアサスペンション14のばね定数Kは、ピストン36の変位により無段階に変化させることができる。上記式(1)のとおり、エアサスペンション14の固有振動数fはばね定数Kの平方根と比例関係にあるので、ピストン36を変位させてエアサスペンション14のばね定数Kを変えることにより、固有振動数fを無段階に変えることができる。
【0049】
第2設定値は、固有振動数fを振動ピーク周波数fから遠ざけて乗り心地を改善するとともに、乗り心地を改善することによる操縦安定性の低下を抑えるべくばね定数Kが必要以上に下がりすぎないような範囲で設定することができる。第2設定値は第1設定値以上であればよいが、ばね定数が必要以上に下がりすぎないように、例えば0.5~1.5Hzの範囲で設定されることが好ましい。好ましくは、第2設定値は第1設定値と同じ値に設定されることであり、一例として第1設定値と第2設定値をともに1.0Hzに設定することである。
【0050】
上記差Δfを第2設定値にするために必要なピストン36の移動量は次のようにして算出することができる。差Δfを第2設定値にするためのばね定数Kは、差Δfが第2設定値をとるときの固有振動数をfとして、下記式(3)により求められる。
【数2】
式(3)中のMはエアサスペンション14が受け持つばね上の質量である。
【0051】
ばね定数Kのときの容積増加量Vは、n:ポリトロープ指数、A:エアサスペンション14の受圧面積、P:エアサスペンション14の絶対圧(ゲージ圧+大気圧)、V:容積増加前のエアサスペンション14の空気ばねとして作用する容積として、下記式(4)で表される。
【数3】
【0052】
また、上記容積増加量Vとするために必要なピストン36の移動量lは、エアシリンダ22のシリンダ半径をrとして下記式(5)で表される。
【数4】
【0053】
このようにしてピストン36の移動量lを算出した後、ステップS9に進む。ステップS9において、アクチュエータ制御部66が、ステップS8で算出した移動量lだけアクチュエータ24によりピストン36を移動させる。例えば、平滑な路面から荒れた路面に移行する際には、ピストン36を上記の初期位置から移動量lにて移動させる。またそれと同時に、気体供給制御部68が、圧縮空気供給装置30によりエアシリンダ22の上記空間38に圧縮空気を供給して、エアサスペンション14の空気ばね室18の空気圧とエアシリンダ22の空間38の空気圧とを一致させる。そして、ステップS10に進む。
【0054】
ステップS10において、開閉弁制御部70が開閉弁26を開状態とする。ここで、「開状態とする」には、開閉弁26が開状態であるときに、当該開状態をそのまま維持することも含まれる。そしてステップS2に戻る。以降、車両の走行が停止するか、又はこのシステムを用いた走行モードを終了させる信号が入力されるまで、上記のステップS1~S10が実行される。
【0055】
次に、実施形態に係るサスペンション装置において、想定される代表的な制御例について説明する。
【0056】
例えば、制御例1として、車両が平滑な路面(きれいな路面)を走行している場合、システムをスタートすると、ステップS1で開閉弁26は閉状態となる。ステップS2で車体上下加速度の移動平均を算出し、ステップS3で当該移動平均が閾値以上であるかを判定する。ここでは平滑な路面であるため、移動平均は閾値未満である。そのため、平滑な路面を走っていると判断してステップS1に戻り、ステップS1において開閉弁26を閉状態とする(もともと閉状態であるのをそのまま維持する)。以降、荒れた路面に変わるまでステップS1~S3を繰り返す。
【0057】
制御例2として、車両が平滑な路面から荒れた路面に移行する場合は次のとおりである。上記制御例1のとおり、平滑な路面を走行しているとき、開閉弁26は閉状態である。この状態で、平滑な路面から荒れた路面に移行すると、ステップS2において算出した車体上下加速度の移動平均が閾値以上となる。そのため、ステップS3において荒れた路面を走っていると判断し、ステップS4に進む。ステップS4では、FFT解析を実施して振動ピーク周波数fを算出し、またステップS5においてエアサスペンション14の固有振動数fを算出して、ステップS6で両者の差Δfを算出する。そして、この差Δfが第1設定値よりも小さい場合は、固有振動数fを低周波数側にシフトさせるために、ステップS9において差Δfが第2設定値になるようにエアシリンダ22のピストン36を初期位置から移動させ、ステップS10において開閉弁26を開状態としてから、その後の路面の状況変化をとらえるためにステップS2に戻る。一方、ステップS6で算出した差Δfが第1設定値以上の場合は、そのままステップS2に戻る。
【0058】
制御例3として、車両が荒れた路面から別の荒れた路面に移行し、最適なピストン36の移動量が変化する場合は次のとおりである。この場合、既に荒れた路面を走行しているので、開閉弁26は開状態であり、エアシリンダ22のピストン36も移動した位置にあり、当該ピストン36の位置に応じた容積だけエアサスペンション14の空気ばねとして作用する容積も増加している。
【0059】
この状態から、別の荒れた路面に移行すると、ステップS2において車体上下加速度の移動平均は閾値以上となり、ステップS4に進む。ステップS4では、FFT解析を実施して振動ピーク周波数fを算出し、またステップS5においてエアサスペンション14の固有振動数fを算出して、ステップS6で両者の差Δfを算出する。そして、この差Δfが第1設定値よりも小さい場合は、ステップS8において差Δfを第2設定値にするために必要なピストン36の移動量を算出し、ステップS9においてピストン36を移動させる。この場合、開閉弁26はもともと開状態であるため、ピストン36の移動は開閉弁26が開状態で行われ、ステップS10では当該開状態がそのまま維持される。その後の路面の状況変化をとらえるためにステップS2に戻る。一方、ステップS6で算出した差Δfが第1設定値以上の場合は、そのままステップS2に戻る。
【0060】
制御例4として、荒れた路面から平滑な路面に移行する場合は次のとおりである。この場合、荒れた路面を走行しているので、開閉弁26は開状態にある。この状態で、荒れた路面から平滑な路面に移行すると、ステップS2において算出した車体上下加速度の移動平均が閾値未満となる。そのため、ステップS3において平滑な路面を走っていると判断し、ステップS1に進む。ステップS1において開閉弁26を閉状態とし、アクチュエータ24によりエアシリンダ22のピストン36を初期位置に戻す。そして、次に荒れた路面に変わるまで、ステップS1~S3を繰り返す。
【0061】
なお、上記実施形態では、ステップS3において、平滑な路面から荒れた路面に移行するときの閾値と、荒れた路面から平滑な路面に移行するときの閾値を同じ値(例えば2m/s)に設定したが、異なる値に設定してもよい。例えば、平滑な路面から荒れた路面に移行する際の第1閾値を2m/sとし、荒れた路面から平滑な路面に移行する際の第2閾値を1.5m/sとしてもよい。その際、第2閾値は第1閾値以下であることが好ましい。
【0062】
以上よりなる実施形態に係るサスペンション装置であると、エアサスペンション14に接続したエアシリンダ22により空気ばねとして作用する容積を変えることができ、これによりエアサスペンション14の固有振動数が実振動のばね上共振領域の振動ピーク周波数と一致しないように変化させることができる。その際、エアシリンダ22のピストン36の移動量を算出し、その移動量に応じてピストン36を動作させて固有振動数を低周波数側にシフトさせる。そのため、エアサスペンション14のばね定数が必要以上に下がることを回避することができ、操縦安定性の悪化を抑えることができる。よって、操縦安定性の悪化を抑えながら、乗り心地を改善することができる。
【0063】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
10…車輪、12…車体、14…エアサスペンション(気体ばね)、22…エアシリンダ(気体シリンダ)、24…アクチュエータ、26…開閉弁、28…加速度検出装置、30…圧縮空気供給装置(圧縮気体供給装置)、32…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5