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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081021
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】多層フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/16 20060101AFI20240610BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240610BHJP
   B32B 27/32 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
B32B27/16 101
B65D65/40 D
B32B27/32 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194429
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】592040859
【氏名又は名称】クリロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 紗成
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】清水 仁恵
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD05
3E086AD17
3E086AD24
3E086BA15
3E086BB01
3E086BB51
3E086CA01
4F100AH08A
4F100AK04C
4F100AK07C
4F100AK69B
4F100AK71A
4F100AK71J
4F100AL01A
4F100AL01J
4F100AR00
4F100AT00
4F100BA03
4F100DA03
4F100EJ522
4F100EJ52A
4F100GB15
4F100GB18
4F100JK08
4F100JK17
(57)【要約】
【課題】被包装物への高い追従性を有しながらも、電熱線での切断が容易なフィルムを提供する。
【解決手段】表面層(I)とシーラント層(II)とを備え、表面層(I)がアイオノマー樹脂(A)を主成分とするゲル分率が60~85質量%である樹脂材料(X)からなる、多層フィルム(F)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層(I)とシーラント層(II)とを備え、
前記表面層(I)が、アイオノマー樹脂(A)を主成分とするゲル分率が60~85質量%である樹脂材料(X)からなる、多層フィルム(F)。
【請求項2】
前記表面層(I)と前記シーラント層(II)との間に、ガスバリア性を有するバリア層をさらに含む、請求項1に記載の多層フィルム(F)。
【請求項3】
前記バリア層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体、および、ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項2に記載の多層フィルム(F)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の多層フィルム(F)を備えた包装体。
【請求項5】
スキンパック包装体である、請求項4に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムおよび包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンパック包装体は、トップ材(蓋材)とボトム材(底材)との間に被包装物(内容物)を密封した包装体である。トップ材にはフィルムが用いられ、ボトム材には熱により軟化したトップ材と融着可能なフィルム、トレー、フィルムコーティングされた台紙などが用いられる。
【0003】
スキンパック包装体を形成する際には、まず、ボトム材の上に被包装物を配置し、被包装物の上から被包装物を覆うようにトップ材を配置する。次に、トップ材を加熱して軟化させつつトップ材とボトム材との間の空気を吸引すると、トップ材は、被包装物の形状に沿うように変形(追従)して、被包装物に密着する。このとき、トップ材のうちで被包装物に接していない部分はボトム材と密着する。その後、常温・常圧にすると、トップ材は空気を吸引されたときの形状のままで硬化するが、ボトム材と接している箇所においてはボトム材と融着した状態で硬化するので、トップ材が被包装物およびボトム材に密着した包装体(すなわち、スキンパック包装体)が得られる。このような製造方法をとるため、スキンパック包装体では、被包装物とボトム材およびトップ材との間に空気が入り込みにくい。スキンパック包装体では様々な被包装物を包装可能であるが、空気が入り込みにくい状態で被包装物を包装できるため、食品の包装に多用されている。被包装物が食品である場合、トップ材およびボトム材としてガスバリア性のある材料を採用することにより、内容物である食品の酸化劣化を抑制でき、食品をロングライフ化できる。
【0004】
しかしながら、スキンパック包装体では、トップ材として用いるフィルムの強度が不十分であると、輸送時などにフィルムに傷がついて白化することにより外観が悪化したり、フィルムが破損して被包装物が密封されなくなったりする場合がある。そこで、フィルムの強度を改善するために、アイオノマーの層を含む多層フィルムが使用される場合がある。例えば、外層にアイオノマー樹脂層、中間層にエチレン・ビニルアルコール共重合体層、最内層に酢酸ビニル含有率が8~20モル%のエチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂またはホットメルト樹脂層を用いたスキンパック蓋材用共押出多層フィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-112790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のスキンパック蓋材用フィルムは、被包装物の形状に沿った変形(追従)の点で改善の余地があった。トップ材の追従性が不十分であると、スキンパック包装体中のトップ材と被包装物との間、およびボトム材と被包装物との間に空気が残ってしまい、被包装物を空気から遮断した状態で包装できない。
【0007】
トップ材の追従性を向上させるためには、トップ材として用いるフィルムに対して予め電子線を照射することが考えられるが、電子線を照射するとフィルムの強度が高くなり、一般的なスキンパック用の装置に取り付けられている電熱線によって切断しづらくなる傾向がある。すなわち、トップ材として用いるフィルムの被包装物への追従性と電熱線での切断の容易性とは、トレードオフの関係にあると考えられる。
【0008】
本発明は、以上のことに鑑みてなされたものであり、被包装物への高い追従性を有しながらも、電熱線での切断が容易なフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が研究を進めた結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は、以下の通りである。
なお、本明細書では、数値範囲を示す「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0010】
[1] 表面層(I)とシーラント層(II)とを備え、
前記表面層(I)が、アイオノマー樹脂(A)を主成分とするゲル分率が60~85質量%である樹脂材料(X)からなる、多層フィルム(F)。
【0011】
[2] 前記表面層(I)と前記シーラント層(II)との間に、ガスバリア性を有するバリア層をさらに含む、[1]に記載の多層フィルム(F)。
【0012】
[3] 前記バリア層は、エチレン・ビニルアルコール共重合体、および、ポリアミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、[2]に記載の多層フィルム(F)。
【0013】
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載の多層フィルム(F)を備えた包装体。
【0014】
[5] スキンパック包装体である、[4]に記載の包装体。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、被包装物への高い追従性を有しながらも、電熱線での切断が容易なフィルムを提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で被包装物として使用した鬼目ナットのボトム材への設置例を示す図である。
図2】実施例で被包装物として使用した金型のボトム材への設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪多層フィルム(F)≫
多層フィルム(F)は、表面層(I)とシーラント層(II)を備える。
【0018】
<表面層(I)>
表面層(I)は、アイオノマー樹脂(A)を主成分とするゲル分率が60~85質量%である樹脂材料(X)からなる。ここで、ゲル分率の求め方は後述する実施例に記載の方法である。表面層(I)は、多層フィルム(F)の表面の1つを形成する。多層フィルム(F)がスキンパック包装体を製造する際のトップ材として用いられる場合、表面層(I)はスキンパック包装体の表面となる。なお、多層フィルム(F)は、後述するように表面層(I)の強度が強いため、ボトム材としても用いられ得る。多層フィルム(F)がボトム材として用いられる場合、ボトム材においても表面層(I)がスキンパック包装体の表面となる。
【0019】
[樹脂材料(X)]
樹脂材料(X)は、アイオノマー樹脂(A)を主成分として含む。樹脂材料(X)は、さらに、アイオノマー樹脂(A)以外の樹脂および添加剤からなる群から選択される1つ以上を含み得る。
【0020】
〈アイオノマー樹脂(A)〉
アイオノマー樹脂(A)は、カルボキシル基などの官能基を有するオレフィン系重合体と金属イオンとから形成される樹脂である。アイオノマー樹脂(A)は、オレフィン系重合体の主鎖部分に架橋構造がないものであってもよく、オレフィン系重合体の主鎖部分に架橋構造を有するものであってもよく、さらに、主鎖部分に架橋構造を有する重合体と主鎖部分に架橋構造を有さない重合体との混合物であってもよい。すなわち、アイオノマー樹脂(A)には、オレフィン系重合体の主鎖部分に形成された架橋構造によってゲル化物となったものが含まれる。
【0021】
アイオノマー樹脂(A)の主鎖部分であるオレフィン系重合体を構成するモノマーの種類は特に限定されない。アイオノマー樹脂(A)の例として、エチレン・メタクリル酸共重合体などのエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋した樹脂が挙げられる。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の重合に使用される不飽和カルボン酸としては、メタクリル酸、アクリル酸などが挙げられる。また、アイオノマー樹脂(A)に含まれる金属イオンも特に限定されない。アイオノマー樹脂(A)に含まれる金属イオンとして、ナトリウム、亜鉛、マグネシウム、リチウムなどが挙げられる。
【0022】
アイオノマー樹脂(A)は、アイオノマー樹脂(A)の構成単位となるモノマーを公知の方法により重合することにより得られる重合体であってもよく、また、市販品であってもよい。例えば、アイオノマー樹脂(A)として、三井ダウポリケミカル株式会社製の「ハイミラン」、などを使用できる。
【0023】
樹脂材料(X)中のアイオノマー樹脂(A)の含有量は、樹脂材料(X)100質量%に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは80~100質量%である。樹脂材料(X)中のアイオノマー樹脂(A)の含有量が前記範囲にあると、樹脂材料(X)からなる表面層(I)を有するフィルムをスキンパック包装体のトップ材またはボトム材として使用したときに、トップ材またはボトム材が傷つきにくく、表面層(I)に傷がついても、傷の発生前後でのグロスおよびヘイズの変化が比較的小さいため、傷の発生による外観の悪化が防止されやすい。
【0024】
樹脂材料(X)に含まれるアイオノマー樹脂(A)は、1種でもよく、また2種以上でもよい。樹脂材料(X)に含まれるアイオノマー樹脂(A)に含まれるゲル化物は、同じアイオノマー樹脂間で架橋構造が形成されたものであってもよく、異なるアイオノマー樹脂間で架橋構造が形成されたものであってもよい。
【0025】
〈その他の樹脂および添加剤〉
樹脂材料(X)は、アイオノマー樹脂(A)以外のその他の樹脂をさらに含んでもよい。アイオノマー樹脂(A)以外のその他の樹脂としては、ポリエチレンなどが挙げられる。アイオノマー樹脂(A)以外のその他の樹脂の含有量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができる。アイオノマー樹脂(A)以外のその他の樹脂が含まれる場合、その他の樹脂の含有量の総量は、樹脂材料(X)100質量%に対して通常1~50質量%、好ましくは1~20質量%程度である。
樹脂材料(X)がアイオノマー樹脂(A)以外のその他の樹脂をさらに含む場合、樹脂材料(X)に含まれるゲル化物は、アイオノマー樹脂(A)とその他の樹脂との間の架橋構造を有していてもよく、また、その他の樹脂中に架橋構造を有していてもよい。
【0026】
樹脂材料(X)は、さらに添加剤を含有してもよい。その他の添加剤の例としては、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤、フィラー、酸化防止剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、染料などを含有することができる。
その他の添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない任意の量とすることができる。その他の添加剤が含まれる場合、その他の添加剤の含有量の総量は、樹脂材料(X)100質量%に対して通常0.005~10質量%、好ましくは0.01~8質量%である。
【0027】
〈樹脂材料(X)のゲル分率〉
樹脂材料(X)中に含まれるゲル化物の割合(ゲル分率)は、60~85質量%であり、好ましくは70~85質量%である。なお、表面層(I)は樹脂材料(X)からなるので、表面層(I)のゲル分率は、樹脂材料(X)のゲル分率と同じ値である。具体的なゲル分率の求め方は、後述する実施例に記載の方法である。
樹脂材料(X)のゲル分率が前記範囲にあると、樹脂材料(X)からなる表面層(I)を有する多層フィルム(F)をスキンパック包装体のトップ材として使用したときに、内容物への追従性が良好である上、電熱線で多層フィルム(F)を容易に切断できる。
樹脂材料(X)のゲル分率を上記範囲に調整する方法は、特に限定されない。例えば、樹脂材料(X)の調製に際して、ゲル分率が前記範囲にあるアイオノマー樹脂(A)を用いてもよい。また、ゲル分率が前記範囲にあるアイオノマー樹脂(A)を調製する際には、ゲル分率が前記範囲よりも低いアイオノマー樹脂(A)に電子線を照射して、アイオノマー樹脂(A)に架橋構造を形成させてもよい。
【0028】
[樹脂材料(X)の製造方法]
樹脂材料(X)は、アイオノマー樹脂(A)と、任意に、その他の樹脂、および添加剤などの成分を、前記の含有量で混合することにより得られる。混合する方法は、特に限定はされず、種々公知の方法、例えば、前記各成分をヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、V-ブレンダーなどによりドライブレンドする方法、ドライブレンドした後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサーなどにより溶融混練する方法、および溶媒の存在下で、攪拌混合する方法などによって調製することができる。
【0029】
また、ゲル分率が比較的低いアイオノマー樹脂(A)を用いて、ゲル分率が60質量%未満の樹脂材料(Xa)を製造した後、樹脂材料(Xa)に電子線を照射して、樹脂材料(Xa)中の樹脂に架橋構造を形成させることにより、樹脂材料(Xa)から樹脂材料(X)を製造してもよい。この場合、樹脂材料(Xa)の製造方法は、樹脂材料(X)の製造方法と同様である。
また、樹脂材料(Xa)に電子線が照射されるタイミングは、任意である。例えば、樹脂材料(Xa)を成形する前に電子線を照射して樹脂材料(X)としてもよいし、また、樹脂材料(Xa)の成形後に電子線を照射して、樹脂材料(Xa)を樹脂材料(X)に変換してもよい。後者の場合、例えば、樹脂材料(Xa)からなる層を含む成形体に対して電子線を照射して、樹脂材料(Xa)からなる層を樹脂材料(X)からなる層に変換する方法が挙げられる。
【0030】
[表面層(I)の厚さ]
表面層(I)の厚さは、好ましくは20~70μm、より好ましくは40~70μm、さらに好ましくは50~70μmである。表面層(I)の厚さが前記範囲にあると、多層フィルム(F)が被包装物への高い追従性を有しながらも、電熱線での切断が容易になる。
【0031】
<シーラント層(II)>
シーラント層(II)は、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含む層である。ポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン系共重合体などが挙げられる。シーラント層(II)に用いられるポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、などが挙げられる。また、シーラント層(II)に用いられるエチレン系共重合体としては、エチレンと他のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体(EVA)、エチレンとメタクリル酸との共重合体(EMMA)などが挙げられる。
【0032】
シーラント層(II)に使用可能なポリプロピレン系樹脂として、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体などが挙げられる。シーラント層(II)に使用可能なポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどが挙げられる。ブロックポリプロピレンとランダムポリプロピレンのいずれも、コモノマーから導かれる構成単位を有する。ここで、コモノマーとしては、α-オレフィンが挙げられるが、好ましくはエチレンである。
【0033】
シーラント層(II)は、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とする層である。シーラント層(II)がポリエチレンを主成分とする層である場合、シーラント層(II)を含むフィルムの加工が容易であり、該フィルムはヒートシール性に優れている。なお、シーラント層(II)は、ヒートシール可能であれば、特に制限されない。
【0034】
シーラント層(II)は、該シーラント層(II)の形成に用いられる樹脂の他に、樹脂材料(X)に含有され得るその他の添加剤の1種以上を含有してもよい。
【0035】
シーラント層(II)の厚さは、好ましくは10~70μm、より好ましくは20~50μmである。シーラント層(II)の厚さが前記範囲にあると、多層フィルム(F)の被包装物への追従性を損なわず、多層フィルム(F)の電熱線での切断が容易になる。
【0036】
<多層フィルム(F)の構成例>
前記多層フィルム(F)は、表面層(I)とシーラント層(II)の2層からなるものであってもよく、また、3層以上からなるものであってもよい。例えば、多層フィルム(F)は、表面層(I)、シーラント層(II)、および、その他の層を有するフィルムであってもよい。その他の層は、例えば、ガスバリア性を有するバリア層、または、複数の層の間の接着性を向上するための接着層であってもよい。なお、表面層(I)と同様に樹脂材料(X)からなる層が表面層(I)以外にも前記多層フィルム(F)中に1層以上含まれてもよい。同様に、シーラント層(II)、および、前記その他の層のいずれも、それらの層が多層フィルム(F)中に含まれる場合は、1層含まれてもよく、複数含まれていてもよい。
【0037】
[その他の層]
〈バリア層〉
多層フィルム(F)は、表面層(I)と前記シーラント層(II)との間に、ガスバリア性を有するバリア層をさらに含んでもよい。バリア層に用いられる樹脂としては、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアミドなどが挙げられる。ポリアミドの例としては、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、6/66共重合ナイロン、ポリメタキシリレンアジパミドなどが挙げられる。
【0038】
バリア層の厚さは、好ましくは2~15μm、より好ましくは5~10μmである。バリア層の厚さが前記範囲にあると、多層フィルム(F)が被包装物への高い追従性を有しながらも、バリア性を保つことができる。
【0039】
〈接着層〉
接着層は、多層フィルム(F)に含まれる2層の間を接着できる樹脂であれば特に限定されないが、無水マレイン酸などの酸により変性されたポリオレフィン樹脂が好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂のうち、無水マレイン酸変性ポリエチレンが好ましく、特に、接着性に優れる点で無水マレイン酸変性低密度直鎖状ポリエチレンが好適に用いられる。
【0040】
[多層フィルム(F)の厚さ]
多層フィルム(F)の厚さは、好ましくは50~200μm、より好ましくは70~140μmである。多層フィルム(F)の厚さが前記範囲であると、被包装物への追従性が良い。
【0041】
[多層フィルム(F)の製造方法]
多層フィルム(F)は、多層フィルム(F)を構成する各層を順に積層する方法で製造されてもよく、また、該多層フィルム(F)を構成する各層を構成する原料を共押出しして製造されてもよい。該多層フィルム(F)は、共押出しで製造される場合、共押出インフレーション法により製造されてもよく、例えば、水冷式の共押出インフレーション法で製造され得る。
【0042】
また、多層フィルム(F)の製造の際には、一旦、表面層がアイオノマー樹脂(A)を主成分とするゲル分率が60質量%未満の樹脂材料(Xa)からなり、シーラント層(II)を備える多層フィルム(Fa)を製造した後、多層フィルム(Fa)に電子線を照射して、表面層の樹脂材料(Xa)に架橋構造を形成させることにより、樹脂材料(Xa)を樹脂材料(X)に変換してもよい。この場合、多層フィルム(Fa)の製造方法は、多層フィルム(F)の製造方法と同様である。
【0043】
さらに、多層フィルムの表面層(I)に使用する樹脂材料として、ゲル分率が60質量%以上の樹脂材料(X)を採用する場合であっても、製造された多層フィルム(F)に対して電子線を照射して、表面層(I)を形成する樹脂材料(X)のゲル分率が85質量%以下となる範囲で、樹脂材料(X)中の架橋構造を増大させてもよい。なお、照射時間が同じであれば電子線の吸収線量が多いほど、架橋構造の形成量が多くなるので、多層フィルム(F)に対して電子線を照射する場合には、表面層に樹脂材料(Xa)を用いた多層フィルム(Fa)に電子線を照射する場合に比べて、照射する電子線の吸収線量を低くしつつ、電子線の照射時間を同じ時間にして、樹脂材料(X)のゲル分率を調整してもよい。また、電子線の吸収線量が同じであれば、電子線の照射時間が長いほど、架橋構造の形成量が多くなる。このため、多層フィルム(F)に対して電子線を照射する場合には、表面層に樹脂材料(Xa)を用いた多層フィルム(Fa)に電子線を照射する場合に比べて、電子線の照射時間を短くしつつ、電子線の吸収線量を同じにすることにより、樹脂材料(X)のゲル分率を調整してもよい。
【0044】
<多層フィルム(F)の用途>
多層フィルム(F)は、包装用途に使用される。多層フィルム(F)は、任意の包装体を作製するための包装用フィルムとして使用可能であるが、好ましくは、スキンパック包装体のトップ材またはボトム材として用いられる。
【0045】
<包装体>
包装体は、多層フィルム(F)を包装用フィルムとし、該包装用フィルムにより被包装物の表面の少なくとも一部を包んだものである。すなわち、包装体は、多層フィルム(F)で被包装物の全体を包んだものであってもよく、また、多層フィルム(F)と他の材料との両方で被包装物を包んだものであってもよい。
多層フィルム(F)は、好ましくは、スキンパック包装用のフィルムとして用いられる。この場合、包装体は、スキンパック包装体である。スキンパック包装体などの包装体では、包装される被包装物は特に制限されないが、バリア層を備えた多層フィルム(F)を用いたスキンパック包装体は食品の包装に適している。なお、スキンパック包装体は、トップ材とボトム材の両方に多層フィルム(F)を使用したものであってもよい。また、スキンパック包装体は、多層フィルム(F)をトップ材とし、多層フィルム(F)以外のボトム材と多層フィルム(F)とで被包装物を包んだものであってもよい。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0047】
<原材料>
・「IO1」:アイオノマー樹脂(ハイミラン(登録商標)、三井ダウポリケミカル株式会社製)
・「AD1」:変性ポリオレフィン(モディック(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製)
・「EVOH1」:エチレン・ビニルアルコール共重合体(エバール(登録商標)、株式会社クラレ製)
・「PE1」:ポリエチレン(エボリュー(登録商標)、株式会社プライムポリマー製)
・「PE2ペレット」:ポリエチレン(PE2)98質量%とリンフェノール系酸化防止剤2質量%とからなるペレット(スミカセン(登録商標)、住友化学株式会社製)
・「アンチブロッキング剤」:合成ゼオライト、(シルトン(登録商標)、水澤化学工業株式会社製)
・「スリップ剤」:脂肪酸アマイド、(ダイヤミッド(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製)
【0048】
<実施例1>
[調製例1:樹脂材料の調製]
94質量部のアイオノマー樹脂(原材料に記載したIO1)に対して、2質量部のPE2ペレット、2質量部のアンチブロッキング剤、および、2質量部のスリップ剤を配合し(ドライブレンド)、樹脂材料とした。したがって、得られた樹脂材料は、IO1を94質量%、PE2を1.96質量%、酸化防止剤を0.04質量%、アンチブロッキング剤を2質量%、スリップ剤を2質量%含む。
【0049】
[製造例1:多層フィルム(F1)の製造]
原材料に記載したAD1、EVOH1およびPE1とともに、前記調製例1で得られた樹脂材料を、共押出水冷インフレーション法により処理することにより、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層の順に下記の5層が積層された厚さ140μmのフィルム(多層フィルム(F1))を製造し、多層フィルム(F1)に第1層側から電子線を照射した。ここで、第1層は前記調製例1で得られた樹脂材料の層であるが、前記樹脂材料はIO1が94質量%であるので、以下の記載では、便宜上、第1層を「IO1」の層としている。なお、各層の厚さの比率はフィルムの厚さを100%としている。ここで、フィルムの厚さは後述する方法により測定した。
第1層:IO1(厚さ比率=49%)
第2層:AD1(厚さ比率=7%)
第3層:EVOH1(厚さ比率=7%)
第4層:AD1(厚さ比率=7%)
第5層:PE1(厚さ比率=30%)
【0050】
[多層フィルムの厚さの測定方法]
JIS C2151に準拠した方法により、1枚の多層フィルム(F1)片の5箇所を、ダイアルゲージ(株式会社尾崎製作所 PEACOCK UPRIGHT DIAL GUAGE)で測定し、得られた測定結果の平均値を、多層フィルム(F1)の厚さとした。
【0051】
[ゲル分率の測定方法]
縦5cm、横5cmに切り出した多層フィルム(F1)の表面層(I)(第1層)を剥離して、試料とした。得られた試料に含まれるゲル分率は、JISC3005に準拠して測定した。具体的には、まず、試料の質量(M1)を測定した。その後、110℃に加熱したキシレン中で試料を24時間浸漬保持し、試料を取り出して、温度100℃、真空度1.3kPa以下で24時間以上乾燥させた。乾燥後、試料の質量(M2)を測定した。キシレンに浸漬する前の試料の質量(M1)と、キシレンに浸漬後乾燥させた試料の質量(M2)とを用いて、浸漬前質量に対する乾燥後質量の百分率(M2/M1×100)を、多層フィルム(F1)の表面層(I)のゲル分率(質量%)とした。得られた結果を表1に示す。なお、表1では、表面層(I)のゲル分率を「IO層のゲル分率」と記載している。
【0052】
[多層フィルムが傷ついた場合の外観の評価]
〈多層フィルムの傷つけ方法〉
縦6cm、横20cmに切り出した多層フィルム(F1)を、表面層(第1層)を下にして粗さ#400のサンドペーパーの上に置き、多層フィルム(F1)の上に1500g、5×15cmの錘を乗せた状態で、多層フィルム(F1)を引き出し、表面層(第1層)に傷を付けた。なお、多層フィルム(F1)の引き出し速度は3.0cm/秒であった。
【0053】
〈傷つき前後のグロス変化〉
グロスメーター(商品名「MULTI GLOSS 268plus」、コニカミノルタ株式会社製)を用い、JISZ8741に準拠して、前記傷つけ方法で傷をつける前の多層フィルム(F1)の表面層(第1層)のグロス(Gb)を測定した。測定角度は60°であった。次に、前記傷つけ方法で傷をつけた後の多層フィルム(F1)の表面層(第1層)のグロス(Ga)を、傷つけ前の表面層のグロスと同様の方法で測定した。
【0054】
下記式を用いて、傷つけ前のグロス(Gb)と傷つけ後のグロス(Ga)の比(Gr)を求め、Grの値に応じて下記評価基準により、グロス変化を評価した。
Gr=Ga/Gb
(評価基準)
○:比(Gr)が0.3を超えた。
△:比(Gr)が0.2を超え、かつ、0.3以下であった。
×:比(Gr)が0.2以下であった。
【0055】
〈傷つき前後のヘイズ変化〉
ヘイズメーター(商品名「HM-150」、株式会社村上色彩技術研究所製)を用い、JISK7136に準拠して、前記傷つけ方法で傷をつける前の多層フィルム(F1)の表面層(第1層)のヘイズ(Hb)を求めた。次に、前記傷つけ方法で傷をつけた後の多層フィルム(F1)の表面層(第1層)のヘイズ(Ha)を、傷つけ前の表面層のヘイズと同様の方法で測定した。
【0056】
下記式を用いて、傷つけ前のヘイズ(Hb)と傷つけ後のヘイズ(Ha)の比(Hr)を求め、Hrの値に応じて下記評価基準により、ヘイズ変化を評価した。
Hr=Ha/Hb
(評価基準)
○:比(Hr)が12以下であった。
△:比(Hr)が12を超え、かつ、14以下であった。
×:比(Hr)が14を超えた。
【0057】
[スキンパック包装体の製造]
ボトム材(縦197mm×横155mm×高さ30mmのトレー状容器)に、後述する被包装物を設置し、スキンパック包装機(株式会社イシダ製、QX-300FLEX)にセットした。この状態で、多層フィルム(F1)を130℃に加熱するとともに包装機のチャンバー内を0.3kPaに減圧した。その後チャンバー内を常温・常圧に戻すことで、下記被包装物の各々について、該被包装物と多層フィルム(F1)とが密着したスキンパック包装体を得た。なお、いずれのスキンパック包装体でも、第1層がトップ材側の表面を形成する向きで、多層フィルム(F1)を使用した。
【0058】
(被包装物と被包装物の設置方法)
鬼目ナット:市販のAタイプの鬼目ナットを5個使用
鬼目ナットの設置方法:鬼目ナット間の間隔が40mm以上離れ、かつ、ボトム材の縁と鬼目ナットとは10mm以上離れるように、5個の鬼目ナットをボトム材に設置した。鬼目ナットの設置例を図1に示す。
【0059】
金型:縦25mm×横95mm×高さ18mmのステンレスを用意し、高さ方向に垂直な面(縦方向と横方向により構成される面)の中心に直径15mmの貫通穴をあけた。高さ方向に垂直な面(縦方向と横方向により構成される面)において、貫通穴の中心から横軸方向に18mm右を中心とする直径15mmの貫通穴を追加し、さらに、最初に形成した貫通穴の中心から横軸方向に18mm左を中心とする直径15mmの貫通穴を追加した。結果として、合計3個の穴が各穴の端同士の距離が3mmとなるように横軸方向に並んだ金型を作製した。同じ金型を2つ作製した。
金型の設置方法:金型間の間隔を約60mm離し、かつ、ボトム材の縁と金型とは10mm以上離れるように、2個の金型をボトム材に設置した。このとき、各金型の縦方向がボトム材の横方向と同じ方向となるように金型の設置方向を決定した。金型の設置例を図2に示す。
【0060】
[追従性の評価]
鬼目ナットを被包装物としたスキンパック包装体と、金型を被包装物としたスキンパック包装体とについて、目視で観察し、下記評価基準により追従性を評価した。
(評価基準)
◎:トップ材が被包装物の表面に密着しており、トップ材に浮きがない。
○:被包装物の表面とトップ材との間に、実用上問題ない程度の浮きがある。
△:被包装物の表面とトップ材との間に、比較的大きな浮きがある。
×:トップ材が被包装物の表面に追従していない。
【0061】
[電熱線カット性]
10mm幅の短冊状にカットした多層フィルム(F1)の表面層(第1層)側から、スチロールカッター(白光250-1)の電熱線を0.3Nの力で当てた。この状態で電熱線に通電し、電熱線の温度を250℃にして、多層フィルム(F1)がカットされるまでの時間を測定した。カットされるまでの時間を下記評価基準により評価した。
(評価基準)
〇:10秒未満
△:10秒以上、かつ、20秒未満
×:20秒以上
【0062】
<実施例2、3>
各層の厚さ比を表1に記載するように変更し、電子線の吸収線量を調整した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを製造した。なお、フィルムの厚さの測定方法は実施例1と同様である。
その後、実施例1と同様に、ゲル分率の測定、傷ついた場合の外観の評価、スキンパック包装体の製造、および、スキンパック包装体の評価(追従性、電熱線カット性)を行った。得られた結果を表1に示す。
【0063】
<比較例1、2>
各層の厚さ比を表1に記載するように変更し、さらに、電子線の吸収線量を変更した以外は、実施例1と同様に多層フィルムを製造した。なお、フィルムの厚さの測定方法は実施例1と同様である。
その後、実施例1と同様に、ゲル分率の測定、傷ついた場合の外観の評価、スキンパック包装体の製造、および、スキンパック包装体の評価(追従性、電熱線カット性)を行った。得られた結果を表1に示す。
【0064】
<比較例3>
原材料に記載したAD1、EVOH1およびPE1を、共押出水冷インフレーション法により処理することにより、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層の順に下記の5層が積層された厚さ140μmのフィルム(多層フィルム(CF1))を製造した。なお、各層の厚さの比率はフィルムの厚さを100%としている。ここで、フィルムの厚さの測定方法は実施例1と同様である。
第1層:PE1(厚さ比率=30%)
第2層:AD1(厚さ比率=8%)
第3層:EVOH1(厚さ比率=5%)
第4層:AD1(厚さ比率=8%)
第5層:PE1(厚さ比率=49%)
【0065】
その後、実施例1と同様に、傷ついた場合の外観の評価、スキンパック包装体の製造、および、スキンパック包装体の評価(追従性、電熱線カット性)を行った。得られた結果を表1に示す。なお、比較例3で得られたスキンパック包装体のトップ材側の表面は、多層フィルム(CF1)の第1層である。
【0066】
<比較例4>
原材料に記載したAD1、EVOH1およびPE1とともに、前記調製例1で得られた樹脂材料を、共押出水冷インフレーション法により処理することにより、第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層の順に下記の6層が積層された厚さ140μmのフィルム(多層フィルム(CF2))を製造し、第1層側から電子線を照射した。ここで、第2層は前記調製例1で得られた樹脂材料の層であるが、前記樹脂材料はIO1が94質量%であるので、以下の記載では、便宜上、第2層を「IO1」の層としている。なお、各層の厚さの比率はフィルムの厚さを100%としている。また、フィルムの厚さの測定方法は実施例1と同様である。
第1層:PE1(厚さ比率=15%)
第2層:IO1(厚さ比率=30%)
第3層:AD1(厚さ比率=8%)
第4層:EVOH1(厚さ比率=5%)
第5層:AD1(厚さ比率=8%)
第6層:PE1(厚さ比率=34%)
【0067】
その後、得られた多層フィルム(CF2)に対して、実施例1と同様に、フィルムの厚さの測定、ゲル分率の測定、傷ついた場合の外観の評価、スキンパック包装体の製造、および、スキンパック包装体の評価(追従性、電熱線カット性)を行った。なお、ゲル分率の測定の際には、第2層(アイオノマー樹脂を含む層)を試料として用いた。得られた結果を表1に示す。また、比較例4で得られたスキンパック包装体のトップ材側の表面は、多層フィルム(CF2)の第1層である。
【0068】
【表1】
図1
図2