(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081038
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】スチルベン化合物の製造方法およびジアリール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/30 20060101AFI20240610BHJP
C07C 43/215 20060101ALI20240610BHJP
C07C 43/205 20060101ALI20240610BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
C07C41/30
C07C43/215
C07C43/205 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194463
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 務
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC22
4H006AC81
4H006BA21
4H006BA44
4H006BC10
4H006GP03
4H039CA41
4H039CD40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造コストを低減できるスチルベン化合物の製造方法の提供。
【解決手段】スチルベン化合物の製造方法は、下記式(1)
(式(1)中、R
1は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。)で表される第1の原料化合物を、ルイス酸および還元剤の存在下で、マクマリー反応によって、トランス-スチルベン化合物を合成する反応工程を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。)
で表される第1の原料化合物を、ルイス酸および還元剤の存在下で、マクマリー反応によって、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1は、式(1)と同様である。)
で表されるトランス-スチルベン化合物を合成する反応工程を含む、スチルベン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記マクマリー反応が、-30℃以上80℃以下の温度下で行われる、請求項1に記載のスチルベン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ルイス酸が、金属ハロゲン化物である、請求項1に記載のスチルベン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、亜鉛、亜鉛含有化合物、および亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のスチルベン化合物の製造方法。
【請求項5】
下記式(3):
【化3】
(式(3)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表し、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではなく、
R
4は、ヒドロキシ基の保護基を示し、
R
5は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、mは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、m=2以上の場合、いずれか2つのR
5が環式構造を形成してもよい。)
で表される第2の原料化合物と、
下記式(4):
【化4】
(式(4)中、R
6は、ボロン酸の保護基を示し、
R
7は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、pは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、p=2以上の場合、いずれか2つのR
7が環式構造を形成してもよい。)
で表される第3の原料化合物とを、ニッケル(II)化合物あるいはパラジウム(II)化合物、および請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた上記式(2)で表されるトランス-スチルベン化合物の存在下で、不斉合成反応によって、
下記式(5):
【化5】
(式(5)、R
2、R
3、R
5およびmは、式(3)と同様であり、R
7およびpは、式(4)と同様であり、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではない。)
で表される四級不斉炭素含有ジアリール化合物を合成する反応工程を含む、ジアリール化合物の製造方法。
【請求項6】
前記トランス-スチルベン化合物が、下記式:
【化6】
(式中、nは1~3の整数である。)
で表される少なくとも1種の化合物である、請求項5に記載のジアリール化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ニッケル(II)化合物および前記トランス-スチルベン化合物が、錯体を形成している、請求項5に記載のジアリール化合物の製造方法。
【請求項8】
前記ニッケル(II)化合物が、Ni(acac)2、Ni(Ac)2、NiF2、NiC 、NiBr2、NiI2、Ni(OTf)2、Ni(BF4)2、Ni(OTs)2、Ni(グリム)Cl2、Ni(グリム)Br2、Ni(ジグリム)Cl2、Ni(ジグリム)Br2、Ni(NO3)2、およびNi(OR7)2(式中、R7は、-C(O)-C1~C6アルキルであり、C1~C6アルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)からなる群から選択される、請求項5に記載のジアリール化合物の製造方法。
【請求項9】
前記四級不斉炭素含有ジアリール化合物の光学純度が、95%ee以上である、請求項5に記載のジアリール化合物の記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクマリー反応によってスチルベン化合物を製造する方法に関する。また、本発明は、当該スチルベン化合物を配位子とした触媒を用いて、不斉合成反応によって四級不斉炭素含有ジアリール化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン化合物は、例えば、医薬、農薬、電子材料、金属錯体の配位子等の様々な製品に幅広く使用されている化学物質である。例えば、スチルベン化合物は、Ni系触媒等の配位子として利用されている。そこで、効率的なスチルベン化合物の製造方法が求められている
【0003】
上記の課題に対して、例えば、特許文献1には、4位及び4’位にスルホ基または置換スルホ基を有する新規なスチルベン化合物を合成する方法が開示されている。また、非特許文献1には、スチルベン化合物のシス体およびトランス体の混合物を合成した後、さらにシス体およびトランス体の混合物に対してヨウ素触媒を用いて、シス体をトランス体に異性化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Med.Chem.2002,vol.45,No.1,p.160-164
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、反応生成物であるスチルベン化合物のシス・トランスの選択性の制御は行われていない。また、非特許文献1では、スチルベン化合物のシス体およびトランス体の混合物に対して異性化処理を行っており、トランス体のスチルベン化合物を効率的かつ選択的に合成できていない。
【0007】
したがって、本発明の目的は、効率的であり、かつ、シス・トランスの選択性に優れたスチルベン化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、マクマリー反応を用いて特定の原料化合物からトランス体のスチルベン化合物を選択的かつ効率的に合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
また、本発明者は、得られたスチルベン化合物を配位子とした触媒を用いて、不斉合成反応によって四級不斉炭素含有ジアリール化合物を選択的かつ効率的に合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。)
で表される第1の原料化合物を、ルイス酸および還元剤の存在下で、マクマリー反応によって、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、R
1は、式(1)と同様である。)
で表されるトランス-スチルベン化合物を合成する反応工程を含む、スチルベン化合物の製造方法。
[2] 前記マクマリー反応が、-30℃以上80℃以下の温度下で行われる、[1]に記載のスチルベン化合物の製造方法。
[3] 前記ルイス酸が、金属ハロゲン化物である、[1]または[2]に記載のスチルベン化合物の製造方法。
[4] 前記還元剤が、亜鉛、亜鉛含有化合物、および亜鉛合金からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のスチルベン化合物の製造方法。
[5] 下記式(3):
【化3】
(式(3)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表し、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではなく、
R
4は、ヒドロキシ基の保護基を示し、
R
5は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、mは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、m=2以上の場合、いずれか2つのR
5が環式構造を形成してもよい。)
で表される第2の原料化合物と、
下記式(4):
【化4】
(式(4)中、R
6は、ボロン酸の保護基を示し、
R
7は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、pは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、p=2以上の場合、いずれか2つのR
7が環式構造を形成してもよい。)
で表される第3の原料化合物とを、ニッケル(II)化合物あるいはパラジウム(II)化合物、および[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法により得られた上記式(2)で表されるトランス-スチルベン化合物の存在下で、不斉合成反応によって、
下記式(5):
【化5】
(式(5)、R
2、R
3、R
5およびmは、式(3)と同様であり、R
7およびpは、式(4)と同様であり、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではない。)
で表される四級不斉炭素含有ジアリール化合物を合成する反応工程を含む、ジアリール化合物の製造方法。
[6] 前記トランス-スチルベン化合物が、下記式:
【化6】
(式中、nは1~3の整数である。)
で表される少なくとも1種の化合物である、[5]に記載のジアリール化合物の製造方法。
[7] 前記ニッケル(II)化合物および前記トランス-スチルベン化合物が、錯体を形成している、[5]または[6]に記載のジアリール化合物の製造方法。
[8] 前記ニッケル(II)化合物が、Ni(acac)
2、Ni(Ac)
2、NiF
2、NiC 、NiBr
2、NiI
2、Ni(OTf)
2、Ni(BF
4)
2、Ni(OTs)
2、Ni(グリム)Cl
2、Ni(グリム)Br
2、Ni(ジグリム)Cl
2、Ni(ジグリム)Br
2、Ni(NO
3)
2、およびNi(OR
7)
2(式中、R
7は、-C(O)-C
1~C
6アルキルであり、C
1~C
6アルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)からなる群から選択される、[5]~[7]のいずれかに記載のジアリール化合物の製造方法。
[9] 前記四級不斉炭素含有ジアリール化合物の光学純度が、95%ee以上である、[5]~[8]のいずれかに記載のジアリール化合物の記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造コストを低減できるスチルベン化合物の製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該スチルベン化合物を用いて、効率的から選択的に四級不斉炭素含有ジアリール化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得られたスチルベン化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【
図2】実施例2で得られた四級不斉炭素含有ジアリール化合物の
13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[スチルベン化合物の製造方法]
本発明によるスチルベン化合物の製造方法は、マクマリー反応によってトランス-スチルベン化合物を合成する反応工程を含む。また、スチルベン化合物の製造方法は、反応工程の後に精製工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0014】
(反応工程)
反応工程では、下記式(1):
【化7】
(式(1)中、R
1は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、nは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。)
で表される第1の原料化合物を、ルイス酸および還元剤の存在下で、マクマリー反応によって、トランス-スチルベン化合物を合成する。
【0015】
上記式(1)中、R1は、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。nは、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0~2の整数である。
【0016】
上記式(1)で表される第1の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。下記式中、tBuはターシャリーブチル基を示し、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示す。第1の原料化合物は、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【0017】
(ルイス酸)
ルイス酸としては、マクマリー反応に用いられる従来公知のルイス酸が使用可能である。ルイス酸としては、金属ルイス酸を用いることが好ましい。金属ルイス酸としては、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物が挙げられる。これらの中でもハロゲン化チタン(TiCl4、TiBr4)を用いることが好ましい。これらのルイス酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ルイス酸の添加量は、適宜、調節することができる。
【0018】
(還元剤)
還元剤としては、マクマリー反応に用いられる従来公知の還元剤が使用可能である。還元剤としては、例えば、亜鉛、亜鉛含有化合物、および亜鉛合金(Zn-Cu等)等が挙げられる。これらの還元剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、還元剤の添加量は、適宜、調節することができる。
【0019】
(溶媒)
マクマリー反応は、反応に不活性な溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限されず、慣用の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等を用いることができる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
【0020】
(反応条件)
マクマリー反応は、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。
反応温度は、好ましくは-30℃以上100℃以下であり、より好ましくは0℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは30℃以上80℃以下であり、さらにより好ましくは40℃以上70℃以下である。
反応時間は、特に制限されないが、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上36時間以下であり、さらに好ましくは3時間以上24時間以下であり、さらにより好ましくは4時間以上12時間以下である。
【0021】
(反応生成物)
マクマリー反応により得られる反応生成物は、下記式(2):
【化12】
(式(2)中、R
1は、式(1)と同様であり、好ましい態様も式(1)と同様である。)
で表されるトランス-スチルベン化合物である。
【0022】
上記式(2)で表されるトランス-スチルベン化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【0023】
上記のマクマリー反応で得られたトランス-スチルベン化合物の物質純度は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
なお、トランス-スチルベン化合物の物質純度とは、マクマリー反応で得られた異性体全体に対するトランス体の比率である。
【0024】
(精製工程)
精製工程では、上記の反応工程で得られたスチルベン化合物、ルイス酸、及び還元剤を含む反応溶液を精製して、スチルベン化合物を単離する工程である。精製工程の精製手段は、特に限定されず、従来公知の精製手段を用いることができる。精製手段としては、例えば、減圧ろ過、再結晶、分液、および溶媒留去等が挙げられる。
【0025】
[ジアリール化合物の製造方法]
本発明によるジアリール化合物の製造方法は、上記のスチルベン化合物を配位子とする触媒を用いた不斉合成反応によって、四級不斉炭素含有ジアリール化合物を合成する反応工程を含む。また、ジアリール化合物の製造方法は、反応工程の後に精製工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0026】
(反応行程)
本発明によるジアリール化合物の製造方法は、下記式(3):
【化24】
(式(3)中、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表し、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではなく、
R
4は、ヒドロキシ基の保護基を示し、
R
5は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、mは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、m=2以上の場合、いずれか2つのR
5が環式構造を形成してもよい。)
で表される第2の原料化合物と、
下記式(4):
【化25】
(式(4)中、R
6は、ボロン酸の保護基を示し、
R
7は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、pは0~5の整数である。但し、nが0の場合、フェニル基の水素原子は置換されていないことを示す。また、p=2以上の場合、いずれか2つのR
7が環式構造を形成してもよい。)
で表される第3の原料化合物とを、ニッケル(II)化合物あるいはパラジウム(II)化合物、および上記式(2)で表されるトランス-スチルベン化合物の存在下で、不斉合成反応によって、
下記式(5):
【化26】
(式(5)、R
2、R
3、R
5およびmは、式(3)と同様であり、好ましい態様も式(3)と同様である。R
7およびpは、式(4)と同様であり、好ましい態様も式(4)と同様であり、但し、R
2およびR
3は同一の化学構造ではない。)
で表される四級不斉炭素含有ジアリール化合物を合成する。当該反応工程においては、上記式(2)で表されるスチルベン化合物を配位子とするニッケル触媒またはパラジウム触媒を用いることで、第2の原料化合物の光学状態を保持しながら、効率的に不斉合成反応が進行する。
【0027】
上記式(3)中、R2、R3は、それぞれ独立して、好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6の炭化水素基を表し、より好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、さらに好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基を表す。
R4(ヒドロキシ基の保護基)は、特に限定されず、従来公知の保護基を利用できるが、ピバロイル基が好ましい。
R5は、好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。mは、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0~2の整数である。
【0028】
上記式(3)で表される第2の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。なお、下記式中、Pivはピバロイル基を示す。
【化27】
【0029】
上記式(4)中、R6(ボロン酸の保護基)は、特に限定されず、従来公知の保護基を利用できるが、ピナコールエステルが好ましい。
R7は、好ましくはハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。pは、好ましくは0~3の整数であり、より好ましくは0~2の整数である。
【0030】
上記式(4)で表される第3の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。なお、下記式中、Pinはピナコールエステルを示す。
【化28】
【0031】
(触媒)
不斉合成反応においては、上記のスチルベン化合物を配位子とするニッケル触媒またはパラジウム触媒を用いる。触媒の添加量は、適宜、調節することができる。スチルベン化合物としては、上記式(2)で表される化合物野中でも、特に下記式で表される化合物が好ましい。
【化29】
上記式中、nは、それぞれ独立して1~3であり、好ましくは2である。nが2の場合、置換基は、それぞれ3,5位の位置に存在することが好ましい。
【0032】
上記のニッケル(II)化合物としては、例えば、Ni(acac)2、Ni(Ac)2、NiF2、NiC 、NiBr2、NiI2、Ni(OTf)2、Ni(BF4)2、Ni(OTs)2、Ni(グリム)Cl2、Ni(グリム)Br2、Ni(ジグリム)Cl2、Ni(ジグリム)Br2、Ni(NO3)2、およびNi(OR3)2(式中、R3は、-C(O)-C1~C6アルキルであり、C1~C6アルキルはハロゲン原子で置換されてもよい)等が挙げられる。これらの中でも、Ni(acac)2、Ni(Ac)2、およびNi(OAc)2が好ましい。これらのニッケル(II)化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、これらの化合物中、acacはアセチルアセトナートを示し、Acはアセチルを示し、Tfはトリフルオロメチルスルホニル基を示し、Tsはトシル基を示し、グリムはエチレングリコールジメチルエーテルを示し、ジグリムはジエチレングリコールジメチルエーテルを示す。
【0033】
上記のパラジウム(II)化合物としては、例えば、Pd(PPh3)4、PdCl2(dppf)、およびPd2(dba)3等が挙げられる。式中、Phはフェニル基を示し、dppfは1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンを示し、dbaはジベンジリデンアセトンを示す。これらのパラジウム(II)化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
反応工程においては、不斉合成反応を効率的に進行させるために還元剤を添加してもよい。還元剤としては、例えば、リチウムターシャリーブトキシドおよびナトリウムターシャリーブトキシド等のアルカリ金属の化合物が挙げられる。なお、還元剤の添加量は、適宜、調節することができる。
【0035】
(溶媒)
不斉合成反応は、反応に不活性な溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限されず、慣用の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等を用いることができる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
【0036】
(反応条件)
不斉合成反応は、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。
反応温度は、好ましくは30℃以上200℃以下であり、より好ましくは40℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上120℃以下であり、さらにより好ましくは60℃以上100℃以下である。
反応時間は、特に制限されないが、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上36時間以下であり、さらに好ましくは3時間以上24時間以下であり、さらにより好ましくは4時間以上12時間以下である。
【0037】
(反応生成物)
上記式(5)で表される四級不斉炭素含有ジアリール化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化30】
【化31】
【0038】
上記の不斉合成反応で得られた四級不斉炭素含有ジアリール化合物の光学純度(%ee)は、好ましくは95%ee以上であり、より好ましくは97%ee以上であり、さらに好ましくは99%ee以上である。
なお、四級不斉炭素含有ジアリール化合物の光学純度(%ee)は、下記式で算出することができる。
(AS-AR)/(AS+AR)×100
(式中、ASおよびARはそれぞれ、鏡像異性体(S体、R体)のモル分率である)
【0039】
(精製工程)
精製工程では、上記の反応工程で得られた四級不斉炭素含有ジアリール化合物および触媒を含む反応溶液を精製して、四級不斉炭素含有ジアリール化合物を単離する工程である。精製工程の精製手段は、特に限定されず、従来公知の精製手段を用いることができる。精製手段としては、例えば、減圧ろ過、再結晶、分液、および溶媒留去等が挙げられる。
【実施例0040】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<分析条件1>
下記で得られたスチルベン化合物の構造、および、トランス-スチルベン化合物の物質純度は以下の方法により分析した。
(1)スチルベン化合物の構造の分析は、後述する条件で13C-NMRを用いて行った。
(13C-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・13C-NMR測定条件:周波数150.89MHz、CDCl3溶媒
・本化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ161.0,139.2,129.2,104.6,100.7,55.4
(2)トランス-スチルベン化合物の物質純度は、後述する条件で1H-NMRを用いて行った。なお、トランス-スチルベン化合物の物質純度とは、異性体全体に対するトランス体の比率であり、各異性体の検出ピークの積分比率から決定した。
(1H-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・1H-NMR測定条件:周波数600.03MHz、CDCl3溶媒
・本化合物の検出ピーク:TMS内部基準でトランス体は3.83ppmに、その他スチルベン化合物の異性体は3.75および3.71ppmに検出される。
【0042】
<分析条件2>
下記で得られた四級不斉炭素含有ジアリール化合物の構造および光学純度(%ee)は以下の方法により分析した。
(1)四級不斉炭素含有ジアリール化合物の構造の分析は、後述する条件で13C-NMRを用いて行った。
(13C-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
・13C-NMR測定条件:周波数150.89MHz、CDCl3溶媒
・本化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ159.3,151.5,149.5,128.8,127.9,127.4,125.6,120.2,114.2,55.1,46.6,34.0,26.9,24.9,9.2
(2)四級不斉炭素含有ジアリール化合物の光学純度(%ee)は、後述する条件で光学HPLCを用いて行った。
(HPLC条件)
・HPLC装置:Agilent株式会社製、型番HP1260
・カラム:ダイセル株式会社製、CHIRALPAK OD-Hカラム
・流速:1.0mL/分
・移動相:1%イソプロパノール/99%ヘキサン
・温度:35℃
・検出:UV220nm
【0043】
[実施例1]
<スチルベン化合物の合成>
還流冷却器を備えたナスフラスコの中に、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド0.831g(1当量)、四塩化チタン1.133g(1.2当量)、亜鉛粉末1.950g(6当量)、およびテトラヒドロフラン(THF)8.70gを加えて、室温で1時間放置した後、還流させながら約65℃で3時間、下記のマクマリー反応を行った(反応式I)。
【化32】
【0044】
続いて、得られた反応液について減圧ろ過を行って、不要な触媒等を除去し、そのろ液に希塩酸を加えスチルベン化合物の粗結晶を析出させた。次に、その粗結晶を減圧ろ過及び乾燥した後に、塩化メチレンおよびヘキサンを用いて再結晶を行い、目的とするスチルベン化合物が行得られた。
【0045】
再結晶後のスチルベン化合物を上記の分析条件1で
13C-NMR測定を行い、
図1に示す
13C-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式のスチルベン化合物(3,5-ジメトキシスチルベン)であることを確認した。なお、収率は51%であった。
【0046】
また、再結晶後のスチルベン化合物を上記の分析条件1で1H-NMR測定を行った結果、トランス-スチルベン化合物の物質純度は95.5%であった。
【0047】
[実施例2]
<四級不斉炭素含有ジアリール化合物の合成>
下記式で表される第2の原料化合物94mg(1当量)、下記式で表される第3の原料化合物187mg(2当量)、酢酸ニッケル(II)4水和物(Ni(OAc)
2)10mg(0.1当量)、実施例1で得られたスチルベン化合物36mg(0.3当量)、リチウムターシャリーブトキシド96mg(3当量)、2-ブタノール30mg(2当量)およびシクロヘキサン(Cy)2mLを加えた後、80℃で6時間、下記の不斉合成反応を行った(反応式II)。反応式II中、Pivはピバロイル基を示し、Pinはピナコールエステルを示し、Ligandはスチルベン化合物(配位子)を示す。
【化33】
【0048】
続いて、得られた反応液を、シリカを充填したろ過装置に流し込んでろ過を行って、触媒や副生成物等を除去し、溶媒を除去した。次いで、シリカゲルクロマト分取(展開溶媒はヘキサン/酢酸エチル=9/1条件)によって、目的とするジアリール化合物を得た。
【0049】
得られたジアリール化合物を上記の分析条件2で
13C-NMR測定を行い、
図2に示す
13C-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式のジアリール化合物であることを確認した。なお、収率は92%であった。
【0050】
また、得られたジアリール化合物を上記の分析条件2で光学HPLC分析を行った結果、光学純度は99%eeであった。
【0051】
[比較例1]
実施例2において実施例1で得られたスチルベン化合物を添加しなかった以外は同様にして反応を行って、ジアリール化合物を得た。
【0052】
得られたジアリール化合物を実施例2と同様に分析した結果、収率は8%であり、光学純度は93%eeであった。