(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081052
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】エアフィルタ用濾材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20240610BHJP
D21H 27/08 20060101ALI20240610BHJP
D21H 11/20 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D21H27/08
D21H11/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194485
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐希
(72)【発明者】
【氏名】目黒 栄子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正
【テーマコード(参考)】
4D019
4L055
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB05
4D019BC13
4D019BD01
4D019CB06
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4L055AF09
4L055AF10
4L055AF33
4L055AG40
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4L055AG82
4L055AH11
4L055AH37
4L055BE10
4L055BE11
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA12
4L055EA16
4L055EA32
4L055GA31
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、再生可能材料を含み、且つ生分解性を有し、更には十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供することである。
【解決手段】本開示に係るエアフィルタ用濾材は、湿式不織布からなる濾材であり、前記濾材を構成する繊維が、叩解繊維と非叩解繊維とを含み、前記叩解繊維がフィブリル化リヨセル繊維であり、前記非叩解繊維が生分解性繊維であり、前記濾材がアルキルケテンダイマーを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式不織布からなる濾材であり、
前記濾材を構成する繊維が、叩解繊維と非叩解繊維とを含み、
前記叩解繊維がフィブリル化リヨセル繊維であり、
前記非叩解繊維が生分解性繊維であり、
前記濾材がアルキルケテンダイマーを含むことを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記アルキルケテンダイマーの濾材全体に対する含有量が、0.05~2.0質量%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記非叩解繊維である前記生分解性繊維が、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維及びポリ乳酸主体繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
生分解性バインダーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項5】
前記生分解性バインダーがポリビニルアルコール、ポリ乳酸、又は、ポリビニルアルコール及びポリ乳酸を含むことを特徴とする請求項4に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項6】
前記アルキルケテンダイマーが前記生分解性バインダーの連続皮膜により被覆されていないことを特徴とする請求項4に記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項7】
濾材を構成する叩解繊維及び非叩解繊維を水に分散させた原料スラリーを湿式抄紙法によってシート化して湿潤シートを形成する抄紙工程と、
前記湿潤シートにアルキルケテンダイマーを付与する工程と、
アルキルケテンダイマーを付与した前記湿潤シートを熱乾燥して乾燥シートを形成する乾燥工程と、を有し、
前記叩解繊維がフィブリル化リヨセル繊維であり、前記非叩解繊維が生分解性繊維であることを特徴とするエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項8】
前記アルキルケテンダイマーを、乾燥後の濾材全体に対する含有量が0.05~2.0質量%の範囲となるように付与することを特徴とする請求項7に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項9】
前記非叩解繊維である前記生分解性繊維が、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維及びポリ乳酸主体繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載のエアフィルタ用濾材の製造方法。
【請求項10】
前記原料スラリー中に前記叩解繊維及び前記非叩解繊維ととともに生分解性バインダーを分散させたことを特徴とする請求項7又は8に記載のエアフィルタ濾材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工場及びビルの空調、自動車客室、エアコン、空気清浄機、個人用保保護具などの種々の分野で使用されるエアフィルタ用濾材に関し、特に、環境負荷が小さく、且つ使用時の濾過性能の低下が小さいエアフィルタ用濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル空調等に使用されるエアフィルタ用の中・高性能濾材としては、ガラス繊維濾材及びメルトブローン不織布濾材が主に使用される。ガラス繊維濾材は、不燃性であるため使用後は産業廃棄物として埋め立て処分される。このため、廃棄時の環境負荷が大きい。一方でメルトブローン不織布濾材は、原料として再生不可能で有限な化石資源(PP等)を主に使用しており、焼却処分された場合のライフサイクル全体での二酸化炭素排出量が大きい。又、使用後に環境に流出した場合、分解されず環境中に留まり続ける。以上の理由により、環境負荷が小さい、再生可能材料を含み、且つ生分解性を有する濾材が望まれている。
【0003】
これら問題を解決するために、フィブリル化リヨセル繊維、生分解性繊維、及び再生繊維又は半合成繊維を含有する濾材が提案されている(特許文献1又は特許文献2を参照。)。しかしながら、リヨセル繊維などのセルロース系繊維は吸湿性及び吸水性が高いため、高湿度の環境での使用や、水分を含む気流やダストが通過した場合に、繊維の膨潤や濾材構造の変化を引き起こし、エアフィルタ用濾材の濾過性能の低下、例えば、PF値の低下を引き起こす問題がある。尚、PF値は数1の式により定義され、このPF値が高いほど、ダスト粒子の捕集効率が高く、且つ圧力損失が低い、濾過性能が高い濾材であることを意味する。
【0004】
【数1】
ここで、透過率[%]=100-捕集効率[%]である。
【0005】
前記の問題を解決するためには、濾材に撥水性を付与する方法が有効であり、エアフィルタ用濾材に撥水性を付与する方法としては、フッ素系撥水剤を用いる方法が広く用いられている(例えば、特許文献3又は特許文献4を参照。)。しかしながら、フッ素系撥水剤を構成するパーフルオロアルキル化合物は、難分解性で且つ生物蓄積性が高いため、世界的にその使用を規制する動きがあり、本発明の目的には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-167659号公報
【特許文献2】特開2006-326470号公報
【特許文献3】特開2001-79318号公報
【特許文献4】特開2014-98082号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】International Journal of Biological Macromolecules、2022、Vol.207、p.31-39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、環境負荷が小さく、且つ使用時の濾過性能の低下が小さい濾材が求められているが、従来の技術では、これらの特性を兼ね備えた濾材を得ることが難しかった。従って、本開示の課題は、再生可能材料を含み、且つ生分解性を有し、更には十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエアフィルタ用濾材は、湿式不織布からなる濾材であり、前記濾材を構成する繊維が、叩解繊維と非叩解繊維とを含み、前記叩解繊維がフィブリル化リヨセル繊維であり、前記非叩解繊維が生分解性繊維であり、且つ前記濾材がアルキルケテンダイマーを含むことを特徴とする。このような構成によれば、環境負荷が小さく、且つ使用時の濾過性能の低下が小さい濾材を得ることができる。
【0010】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記アルキルケテンダイマーの濾材全体に対する含有量が0.05~2.0質量%の範囲にあることが好ましい。これにより、十分な撥水性と高いPF値を有する濾材を得ることができる。
【0011】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記生分解性繊維が、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維及びポリ乳酸主体繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これにより、高いPF値と生分解性を有する濾材を得ることができる。
【0012】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、生分解性バインダーを含んでもよい。これにより、生分解性を有しつつ、フィルタの加工及び使用のために十分な強度と剛度を有する濾材を得ることができる。
【0013】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、生分解性バインダーがポリビニルアルコール及び/又はポリ乳酸であってもよい。これにより、PF値を大幅に低下させずに十分な強度と剛度を有する濾材を得ることができる。
【0014】
本発明に係るエアフィルタ用濾材では、前記アルキルケテンダイマーが前記生分解性バインダーの連続皮膜により被覆されていないことが好ましい。これにより、撥水性を保持しつつ十分な強度と剛度を有する濾材を得ることができる。
【0015】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法は、叩解繊維と非叩解繊維を水に分散させた原料スラリーを湿式抄紙法によってシート化して湿潤シートを形成する抄紙工程と、前記湿潤シートにアルキルケテンダイマーを付与する工程と、アルキルケテンダイマーを付与した前記湿潤シートを熱乾燥して乾燥シートを形成する乾燥工程とを有することを特徴とする。このような方法によれば、十分な撥水性と高いPF値を有する濾材を得ることができる。
【0016】
本発明に係るエアフィルタ用濾材の製造方法では、原料スラリー中に繊維とともにバインダーを分散させてもよい。これにより、アルキルケテンダイマーによる撥水性及びPF値の向上効果を阻害することなく、十分な強度と剛度を有する濾材を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示により、環境負荷が小さく、且つ使用時の濾過性能の低下が小さい濾材を得ることができる。すなわち、再生可能材料を含み、且つ生分解性を有し、更にはフィブリル化リヨセル繊維を含むセルロース系繊維の吸湿を防ぐために十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0019】
本実施形態におけるリヨセル繊維とは、溶剤としてN-メチルモルホリンN-オキシドを用いた有機溶剤紡糸法によって紡糸された再生セルロース繊維である。有機溶剤紡糸法は、セルロースをそのまま有機溶剤に溶解させて紡糸するため、分子の切断が少なく、平均重合度が他の再生セルロース繊維に比べて高く、繊維の剛直性が高いとともに、繊維の断面形状が円形に近い特徴を有する。この剛直性と断面形状により、濾材中の空隙を維持し易くなる。又、叩解後のフィブリル化リヨセル繊維も、前記の剛直性と断面形状を維持するため、濾材中の空隙を維持し易くなる。更に、叩解によってフィブリル化されると、粒子捕集に寄与する繊維の表面積が大きくなるため、捕集効率が上昇するとともに、繊維同士の絡み合いが多くなるため、濾材の引張強度が上昇する。
【0020】
本実施形態における叩解繊維は、フィブリル化リヨセル繊維であり、叩解繊維の配合量は、濾材を構成する叩解繊維、非叩解繊維及びバインダーの合計を100部とすると、そのうち、2~30部であることが好ましく、3~20部であることがより好ましく、5~15部であることが更に好ましい。配合量が2部未満であると、粒子捕集に寄与する繊維の表面積が十分でなく、十分な捕集効率が得られにくい。一方で、配合量が30部を超えると、繊維同士の絡まりが多すぎるために空隙を塞いで、捕集効率の上昇に比して圧力損失が大きく上昇し、PF値が低下する恐れがある。
【0021】
リヨセル繊維をフィブリル化するための叩解方法としては、ナイアガラビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、デフレーカー等の叩解機又は離解機を使用できる。叩解においては、リヨセルの繊維長を短くしすぎないように、強すぎる負荷をかけずに叩解することが好ましい。
【0022】
リヨセル繊維の叩解を進めると、繊維が切断されて繊維長が短くなる。繊維長が短くなりすぎると、シート形成後の空隙を埋めてしまうため、圧力損失が高くなる恐れがある。一方で繊維長が長すぎると、水に分散させて原料スラリーとする際の分散性が悪くなり、濾材の構造が不均一となる恐れがある。本発明で使用するフィブリル化リヨセル繊維の長さ荷重平均繊維長は0.6mm以上であることが好ましく、0.8~3mmであることがより好ましく、1~2mmであることが更に好ましい。
【0023】
尚、フィブリル化リヨセル繊維の長さ加重平均繊維長は、ISO16065-2:2014「Determination of fibre length by automated optical analysis-Part2:Unpolarized light method」に従って測定した。
【0024】
リヨセル繊維は、叩解によりフィブリル化が進行して繊維径が細くなる。繊維径が細すぎると、繊維が切断されやすくなり、前記した繊維長が短くなる問題が起きる。一方で繊維径が太すぎると、粒子捕集に寄与する繊維の表面積が不十分となる。本実施形態で使用するフィブリル化リヨセル繊維の平均繊維径は0.3μm以上であることが好ましく、0.4~1.5μmであることがより好ましく、0.5~1.0μmであることが更に好ましい。
【0025】
尚、本実施形態におけるフィブリル化リヨセルの平均繊維径は、窒素を用いたBET多点法により測定された比表面積より、数2の式を用いて計算した。
【0026】
【数2】
ここで、リヨセルの繊維密度は1.5g/cm
3とする。
【0027】
本実施形態における非叩解繊維は、叩解されておらず、フィブリル化されていないか、又は表面がわずかに毛羽立っている生分解性繊維である。生分解性繊維としては、例えば、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維、ポリ乳酸主体繊維、ポリブチレンサクシネート繊維、ポリヒドロキシアルカノエート繊維などが挙げられるが、熱乾燥時に繊維が溶融せず、溶融した繊維が濾材の孔を塞ぐことによりPF値が低下する現象を防ぐことができるため、再生セルロース繊維、天然セルロース繊維及びポリ乳酸主体繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。異なる種類及び/又は異なる繊維径を有する非叩解繊維を混合して使用してもよい。
【0028】
本実施形態における非叩解繊維の配合量は、濾材を構成する叩解繊維、非叩解繊維及びバインダーの合計を100部とすると、そのうち、50~98部であることが好ましく、60~95部であることがより好ましく、70~90部であることが更に好ましい。非叩解繊維の配合量が50部未満であると、叩解繊維及び/又はバインダーの配合量が高くなるためPF値が低下する。一方で、非叩解繊維の配合量が98部を超えると十分な捕集効率並びに/又は強度及び剛度が得られなくなる。
【0029】
再生セルロース繊維とは、セルロースを原料として、ビスコース法により紡糸された紡糸されたビスコースレーヨン繊維や、有機溶媒紡糸法により紡糸されたリヨセル繊維などである。これらは、木材パルプを原料とした再生可能材料であり、土中埋没分解性及び海洋生分解性を有している。
【0030】
天然セルロース繊維とは、植物から取り出されたセルロースを主体とした繊維であり、木材パルプ、コットンリンターパルプ、麻パルプ、ケナフパルプ、木材パルプをアルカリ処理して得られるマーセル化パルプ等がある。これらは、植物を原材料とした再生可能材料であり、土中埋没生分解性を有している。
【0031】
ポリ乳酸繊維とは、バイオマス由来の澱粉を原料として糖化及び発酵による得られた乳酸を重合したポリ乳酸を紡糸した繊維であり、土中埋没生分解性を有している。ポリ乳酸繊維は、セルロース繊維と異なり熱可塑性を有しているため、濾材に熱成形性を付与することができる。ポリ乳酸繊維としては、170℃以上の融点を有する通常のポリ乳酸からなる主体繊維の他に、分子構造の改変により融点を170℃未満に低下させたポリ乳酸を部分的に用いたバインダー繊維も利用されている。本実施形態においては、ポリ乳酸主体繊維は非叩解繊維として用い、ポリ乳酸バインダー繊維は後記のバインダーとして用いる。
【0032】
本実施形態における非叩解繊維は、平均繊維径が5μm以上であることが好ましく、より好ましくは6~50μmであり、更に好ましくは7~40μmである。平均繊維径が5μmよりも細いと、叩解繊維を均一に分布させるために必要な空隙を維持することが難しくなり、圧力損失の上昇を引き起こす恐れがある。一方で、平均繊維径が50μmを超えると、叩解繊維との繊維径の差異が大きいために、濾材の孔径のばらつきが大きくなり、捕集効率の低下を引き起こす恐れがある。
【0033】
本実施形態におけるアルキルケテンダイマーは、天然物由来の脂肪酸(例えば、炭素数16のパルチミン酸や炭素数18のステアリン酸)を原料として、酸塩化物を経由して反応させて二量体としたものである。紙において、インキの染み込みを防止するサイズ剤として広く使用されている。又、生分解性を有しており、生分解性材料の耐水化剤としての利用が検討されている(例えば、非特許文献1を参照。)。本実施形態においては、濾材を構成する繊維に対して十分な撥水性を付与し、濾材使用中の濾過性能の低下を防止するために用いられる。
【0034】
本実施形態におけるアルキルケテンダイマーの濾材全体に対する含有量は、0.05~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.8質量%がより好ましく、0.6~1.7質量%であることが特に好ましい。含有量が0.05質量%未満であると、十分な撥水性(例えば、100mm水柱高)が得られない場合がある。一方、含有量が0.05質量%以上であると、十分な撥水性(例えば、100mm水柱高)を得ることができ、含有量が0.1質量%以上であると、より高い撥水性(例えば、200mm水柱高)を得ることができる。アルキルケテンダイマーの含有量が2.0質量%を超えると、PF値が低下する恐れがある。
【0035】
又、アルキルケテンダイマーの濾材全体に対する含有量を適切な範囲にすることにより、濾材のPF値を上昇できることを本発明者は見出した。このPF値を上昇させる機構は定かではないが、適切な量のアルキルケテンダイマーをフィブリル化リヨセル繊維の表面に付着させた場合においては、繊維同士の凝集を防いで繊維の表面積を上昇させることにより捕集効率を上昇させるとともに、繊維間の空隙を広げることにより圧力損失を低下させるため、PF値を上昇させるものと推定される。一方で多すぎる量のアルキルケテンダイマーを付着させた場合においては、アルキルケテンダイマーが繊維間の空隙を埋めて繊維の表面積を低下させることにより捕集効率を低下させるとともに、目詰まりにより圧力損失を不必要に上昇させるため、PF値を低下させるものと推定される。アルキルケテンダイマーの濾材全体に対する含有量が0.05~2質量%の範囲であると、アルキルケテンダイマー非含有の場合よりも高いPF値を得ることができ、含有量が0.1~1.5質量%であると、更に高い(例えば、アルキルケテンダイマー非含有よりも0.8ポイント以上高い)PF値を得ることができる。
【0036】
本実施形態においては、強度及び剛度の向上を目的として、濾材中に生分解性バインダーを含有してもよい。生分解性バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、又は、ポリビニルアルコール及びポリ乳酸の両方を使用することができる。ポリビニルアルコールは、生分解性を有するとともに繊維同士を接着するものであり、叩解繊維及び非叩解繊維と一緒に水に分散して原料スラリーとすることが可能な繊維状又は粉末状のものであるか、又はアルキルケテンダイマーと混合して付着させることが可能な水溶液の状態にできるものである。ポリ乳酸は、前記のポリ乳酸バインダー繊維であり、融点以上に加熱された場合に繊維同士を接着するものである。生分解性バインダーは粉末状であることがより好ましい。均一に分散し、繊維と点接着するため、PF値を大きく低下させずに高い強度、剛度を得ることができる。粉末状バインダーはポリビニルアルコールであることが特に好ましい。更に高い強度、剛度を得ることができる。
【0037】
本実施形態において、濾材に生分解性バインダーを含有させる場合の生分解性バインダーの配合量は、濾材を構成する繊維及びバインダーの合計を100部とすると、そのうち、0.5~20部であることが好ましく、1~15部であることがより好ましい。配合量が0.5部未満であると、十分な強度及び剛度の向上効果が得られない恐れがあり、20部を超えると、PF値が低下する恐れがある。
【0038】
本実施形態においては、本発明の効果を妨げない範囲で、濾材に消泡剤、分散剤等の添加剤を適宜含めることができる。
【0039】
本実施形態の濾材の製造方法は、湿式抄紙法を用いる。すなわち、濾材を構成する繊維をパルパー等の分散機を用いて水中に分散させて、得られた原料スラリーをワイヤー上に堆積及び脱水して湿潤シートを形成して、得られた湿潤シートに含浸又は塗布等の方法によりアルキルケテンダイマーを付与して、熱風ドライヤーやシリンダードライヤー等の乾燥機を用いて乾燥して、乾燥シートとしての濾材を得る。乾燥後のシートにアルキルケテンダイマーを付与した場合は、アルキルケテンダイマーによるPF値の向上効果が十分に得られない。
【0040】
本実施形態の濾材の製造方法において、生分解性バインダーを含有させる場合は、前記の湿式抄紙法を用いる製造において、原料スラリー中に濾材を構成する繊維とともに生分解性バインダーを分散させることが好ましい。生分解性バインダーをアルキルケテンダイマーと同時に付与したり、アルキルケテンダイマー付与後に別途付与したりした場合は、アルキルケテンダイマーが生分解性バインダーの連続皮膜により被覆されるため、撥水性が十分に得られない恐れがある。原料スラリー中に濾材を構成する繊維とともに生分解性バインダーを分散させて湿潤シートとしてから湿潤シートにアルキルケテンダイマーを付与することが好ましい。
【0041】
本実施形態においては、本発明の効果を妨げない範囲で、原料スラリーに消泡剤、分散剤等の添加剤を適宜添加することができる。
【0042】
本実施形態における濾材の坪量は、特に限定するものではないが、好ましくは25~350g/m2、より好ましくは50~250g/m2、更に好ましくは70~150g/m2である。坪量が25g/m2未満であると、十分な引張強度及び/又はガーレー剛度が得られない場合がある。一方で、坪量が350g/m2を超えると、フィルタユニットに収容可能な濾材の面積が不十分となる場合がある。
【0043】
本実施形態における濾材のPF値は、特に限定するものではないが、好ましくは4.5以上であり、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは7.0以上である。これにより、圧力損失と捕集効率のバランスが良い濾材となる。
【0044】
本実施形態における濾材の引張強度は、用途や後加工の方法に応じて必要とされる引張強度が異なり、特に限定するものではないが、好ましくは0.40kN/m以上であり、より好ましくは0.45kN/m以上である。引張強度が0.40kN/m以上であれば、多くの用途に対応できる。
【0045】
本実施形態における濾材のガーレー剛度は、用途や後加工の方法に応じて必要とされるガーレー剛度が異なり、特に限定するものではないが、好ましくは7.0mN以上であり、より好ましくは10.0mN以上である。る。ガーレー剛度が7.0mNであれば、多くの用途に対応できる。
【実施例0046】
以下に、本発明に係る実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
叩解繊維としてリヨセル繊維(Lenzing AG製)を叩解して得られたフィブリル化リヨセル繊維(平均繊維径0.8μm、長さ加重平均繊維長1.1mm)14部と、非叩解繊維として再生セルロース繊維であるリヨセル繊維(Lenzing AG製、平均繊維径12μm、平均繊維長4mm)86部を、スラリー濃度が0.5質量%となるように水道水を加えてミキサーを用いて離解して、原料スラリーを得た。次に、手抄装置を用いて得られた原料スラリーを抄紙して、湿潤シートを得た。次に、得られた湿潤シートに、アルキルケテンダイマー(SE2360、星光PMC(株)製)の水希釈液を、濾材全体に対するアルキルケテンダイマー含有量が固形分で0.01質量%となるように含浸処理により付与して、130℃のロータリードライヤーを用いて乾燥して、乾燥シートとして坪量100g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0048】
<実施例2~12>
濾材全体に対するアルキルケテンダイマー含有量が固形分で、表1に示した0.05~10質量%の範囲の各数値となるように含浸処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、坪量が100~110g/m2の範囲のエアフィルタ用濾材を得た。
【0049】
<実施例13>
非叩解繊維として天然セルロース繊維であるマーセル化パルプ(ポロセニア、Rayonier Inc.製、平均繊維径34μm、平均繊維長2.6mm)86部を用いたことと、アルキルケテンダイマー含有量が固形分で1.0質量%となるように含浸処理を行った以外は実施例1と同様の方法により、坪量101g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0050】
<実施例14>
非叩解繊維としてリヨセル繊維(Lenzing AG製、平均繊維径12μm、平均繊維長4mm)76部と、ポリ乳酸主体繊維(PL01、ユニチカ(株)製、平均繊維径13μm、平均繊維長5mm、融点170℃)10部を用いた以外は、実施例13と同様の方法により、坪量101g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0051】
<実施例15>
非叩解繊維としてリヨセル繊維(Lenzing AG製、平均繊維径12μm、平均繊維長4mm)84部と、バインダーとしてポリビニルアルコール粉末(ポバールK-177、デンカ(株)製)2部を用いて原料スラリーを得た以外は、実施例13と同様の方法により、坪量101g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0052】
<実施例16>
非叩解繊維としてリヨセル繊維(Lenzing AG製、平均繊維径12μm、平均繊維長4mm)76部と、バインダーとして芯鞘型ポリ乳酸バインダー繊維(PL80、ユニチカ(株)製、平均繊維径15μm、平均繊維長5mm、芯融点170℃、鞘融点130℃)10部を用いて原料スラリーを得た以外は、実施例13と同様の方法により、坪量101g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0053】
<実施例17>
ポリビニルアルコール(ポバール28-98、(株)クラレ製)の水溶液とアルキルケテンダイマー(SE2360、星光PMC(株)製)を混合した水希釈液を、濾材全体に対するポリビニルアルコール含有量が固形分で2.0質量%、アルキルケテンダイマー含有量が固形分で1.0質量%となるように含浸処理を行った以外は、実施例1と同様の方法により、坪量が103g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0054】
<比較例1>
アルキルケテンダイマーの含浸処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により、坪量100g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0055】
<比較例2>
アルキルケテンダイマーの代わりにパラフィンワックス撥水剤(ペトロックスP-310、明成化学工業(株)製)の水希釈液を、濾材全体に対するパラフィンワックス撥水剤含有量が固形分で1.0質量%となるように含浸処理により付与した以外は、実施例1と同様の方法により、坪量101g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
【0056】
実施例及び比較例において得られたエアフィルタ用濾材の評価は、以下に示す方法を用いて行った。
【0057】
<坪量>
坪量は、JIS P 8124:2011「紙及び板紙-坪量の測定方法」に従って測定した。
【0058】
<厚さ及び密度>
厚さ及び密度は、JIS P 8118:1998「紙及び板紙-厚さ及び密度の試験方法」に従って測定した。尚、測定圧力は50kPaとした。
【0059】
<圧力損失>
圧力損失は、有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の差圧として、マノメーター(マノスターゲージWO81、(株)山本電機製作所製)を用いて測定した。
【0060】
<透過率>
透過率は、ラスキンノズルで発生させた多分散ポリアルファオレフィン(PAO)粒子を含む空気が有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に面風速5.3cm/秒で通風した際の上流及び下流のPAO粒子の個数をレーザーパーティクルカウンター(KC-22B、リオン(株)製)を用いて測定し、上流と下流の粒子個数の比から求めた。対象粒子径は0.3μmとし、0.2~0.3μmと0.3~0.4μmの透過率の幾何平均値として求めた。
【0061】
<PF値>
PF値は、圧力損失と透過率の値から、数1に示す式を用いて計算した。
【0062】
<撥水性>
撥水性は、MIL-STD-282に従って測定した。
【0063】
<引張強度>
引張強度は、万能試験機(オートグラフAGS-X、(株)島津製作所製)を用いて、試験幅25.4mm、試験長100mm、引張速度15mm/分の条件で測定した。
【0064】
<ガーレー剛度>
ガーレー剛度は、JAPAN TAPPI No.40:2000「紙及び板紙-荷重曲げによるこわさ試験方法-ガーレー法」に従って測定した。
【0065】
前記の方法で行ったエアフィルタ用濾材の評価結果を表1及び表2に示した。
【0066】
【0067】
【0068】
表1の実施例1~12及び表2の比較例1の結果より、アルキルケテンダイマーの含有量を0.05質量%以上とすることで100mm水柱高以上の十分な撥水性を有するエアフィルタ用濾材が得られ、0.1質量%以上とすることで200mm水柱高以上の更に高い撥水性を得ることができた。又、アルキルケテンダイマーの含有量を0.05~2.0質量%の範囲とすることでアルキルケテンダイマー非含有の場合よりも高いPF値を有するエアフィルタ用濾材が得られ、0.1~1.5質量%の範囲とすることでアルキルケテンダイマー非含有の場合よりも0.8ポイント以上高いPF値が得られた。
【0069】
表1の実施例6、表2の実施例13及び14の結果より、非叩解繊維に再生セルロース繊維、天然セルロース繊維及び/又はポリ乳酸主体繊維を用いることにより、十分な撥水性(100mm水柱高以上)、PF値(4.5以上)、引張強度(0.4kN/m以上)及びガーレー剛度(7.0mN以上)が得られた。
【0070】
表1の実施例6、表2の実施例15及び16の結果より、バインダーを使用することにより、高い引張強度及びガーレー剛度が得られた。
【0071】
表2の実施例15及び17の結果より、バインダーを予め含有させたシートに対してアルキルケテンダイマーを付与することにより、バインダーとアルキルケテンダイマーを同時に付与させた場合よりも高い撥水性が得られた。
【0072】
表1の実施例6及び表2の比較例2の結果より、アルキルケテンダイマーを付与することにより、パラフィンワックス撥水剤を付与した場合よりも高い撥水性が得られた。
本発明のエアフィルタ用濾材は、工場及びビルの空調、自動車客室、エアコン、空気清浄機、個人用保護具等の種々の分野で使用されるエアフィルタ用濾材に用いることができる。