(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081069
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】有価金属回収装置及び有価金属回収装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240610BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20240610BHJP
C01G 19/02 20060101ALI20240610BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20240610BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C02F1/28 B
C02F1/44 E
C01G19/02
C22B3/02
C22B3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194521
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】521143103
【氏名又は名称】株式会社ディーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】白 鴻志
(72)【発明者】
【氏名】向井 裕二
【テーマコード(参考)】
4D006
4D624
4K001
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA01
4D006KA03
4D006KC03
4D006KD01
4D006KD22
4D006MA01
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB70
4D624AA04
4D624AB16
4D624BA16
4D624BC01
4D624CA01
4D624DB05
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA41
4K001DB37
(57)【要約】
【課題】効率的に有価金属を回収できる有価金属回収装置及び有価金属回収装置の運転方法を提供する。
【解決手段】有価金属回収装置10は、有価金属であるパラジウムを含有する処理液体Lを貯留する貯留タンク1と、処理液体中の固形分を分離する固形分分離装置3と、固形分分離装置3により分離された処理液体Lを通液し、分離された処理液体L中のパラジウムが選択的に吸着する吸着充填層を有する吸着装置4と、固形分分離装置3に付着した固形分を剥離除去する逆洗水供給装置5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含有する処理液体を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクに貯留された処理液体中の固形分を分離する固形分分離装置と、
前記固形分分離装置により分離された処理液体を通液し、前記分離された処理液体中の前記有価金属が選択的に吸着する吸着充填層と、
前記固形分分離装置に付着した固形分を剥離除去する固形分除去手段と、を備える、
有価金属回収装置。
【請求項2】
前記処理液体中で、前記有価金属と結合した物質を固体化して前記有価金属から分離させる酸化剤を供給する酸化剤供給装置または貧溶媒を供給する貧溶媒供給装置を有する、
請求項1記載の有価金属回収装置。
【請求項3】
前記固形分分離装置によって固形分が濃縮された処理液体を、前記貯留タンクへ循環させる循環流路を有する、
請求項1記載の有価金属回収装置。
【請求項4】
前記貯留タンク内に、前記固形分分離装置を配置した、
請求項1に記載の有価金属回収装置。
【請求項5】
前記吸着充填層は、ナノメートルオーダーの微細孔とマイクロメートルオーダーの細孔を有する構造体の表面に、前記有価金属が選択的に吸着する活性基を配置した、
請求項1に記載の有価金属回収装置。
【請求項6】
前記固形分分離装置が、ろ過フィルターを有するろ過フィルター装置であって、
前記ろ過フィルターの細孔径の公称孔径が1マイクロメートル以下である、
請求項1に記載の有価金属回収装置。
【請求項7】
前記吸着充填層は、ナノメートルオーダーの微細孔とマイクロメートルオーダーの細孔を有する構造体の表面に、前記有価金属を選択的に吸着する活性基を配置した、
請求項1に記載の有価金属回収装置。
【請求項8】
有価金属を含有する処理液体を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクに酸化剤を供給する酸化剤供給装置と、前記酸化剤が供給された処理液体中の固形分を分離する固形分分離装置と、前記固形分分離装置により分離された処理液体を通液し、前記分離された処理液体中の前記有価金属が選択的に吸着する吸着充填層と、前記固形分分離装置に付着した固形分を剥離除去する固形分除去手段と、を備える有価金属回収装置の運転方法であって、
前記処理液体を前記吸着充填層に通液した後、前記貯留タンクへの処理液体の供給を停止し、少なくとも6時間貯留した後に、前記貯留タンク内に残存している処理液体を、前記固形分分離装置を介して前記吸着充填層へ通液する、
有価金属回収装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属回収装置及び有価金属回収装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貴金属、希土類元素、その他の金属類等の有価金属は、工業的に有用な材料が多く、幅広い分野で利用されている。例えば、半導体デバイスの製造工程のリソグラフィー技術を利用する際のレジスト蒸着に利用したり、樹脂やセラミックスなどの非導電性の素材に対しめっきを施す場合、触媒金属であるパラジウムを素材の表面に吸着させ、触媒作用を利用して無電解めっき処理を行ったりする。これらの有価金属は、利用された後、処理液に含まれた状態で、排水される。
【0003】
パラジウムなどの有価金属は高価であるため、水洗水や廃液の中から効率的に回収し再利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示されたパラジウムの回収方法は、スズパラジウムイオンを含有する塩酸酸性溶液のpHを高めることで、スズの水酸化物と共にパラジウムを沈殿させて塩酸酸性溶液から分離し、パラジウムを回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
処理液中には、回収対象である有価金属以外に、夾雑物となる他の金属イオンが含有されていることが多い。そのため、有価金属を回収する際、夾雑物も一緒に回収されることがあり、目的の有価金属を効率的に回収できないという問題があった。有価金属は、高価であり、その用途が幅広いため、処理液を簡便に処理することができ、かつ処理液から効率的に回収できる有価金属回収装置や有価金属回収方法の開発が強く望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、効率的に有価金属を回収できる有価金属回収装置及び有価金属回収装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有価金属回収装置は、有価金属を含有する処理液体を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクに貯留された処理液体中の固形分を分離する固形分分離装置と、前記固形分分離装置により分離された処理液体を通液し、前記分離された処理液体中の前記有価金属が選択的に吸着する吸着充填層と、前記固形分分離装置に付着した固形分を剥離除去する固形分除去手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記処理液体中で、前記有価金属と結合した物質を固体化して前記有価金属から分離させる酸化剤を供給する酸化剤供給装置または貧溶媒を供給する貧溶媒供給装置を有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記固形分分離装置によって固形分が濃縮された処理液体を、前記貯留タンクへ循環させる循環流路を有する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記貯留タンク内に、前記固形分分離装置を配置したことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記吸着充填層は、ナノメートルオーダーの微細孔とマイクロメートルオーダーの細孔を有する構造体の表面に、前記有価金属が選択的に吸着する活性基を配置したことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記固形分分離装置が、ろ過フィルターを備えるろ過フィルター装置であって、前記ろ過フィルターの細孔径の公称孔径が1マイクロメートル以下である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る有価金属回収装置は、前記吸着充填層は、ナノメートルオーダーの微細孔とマイクロメートルオーダーの細孔を有する構造体の表面に、前記有価金属を選択的に吸着する活性基を配置したことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る有価金属回収装置の運転方法は、有価金属を含有する処理液体を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクに酸化剤を供給する酸化剤供給装置と、前記酸化剤が供給された処理液体中の固形分を分離する固形分分離装置と、前記固形分分離装置により分離された処理液体を通液し、前記分離された処理液体中の前記有価金属が選択的に吸着する吸着充填層と、前記固形分分離装置に付着した固形分を剥離除去する固形分除去手段と、を備える有価金属回収装置の運転方法であって、前記処理液体を前記吸着充填層に通液した後、前記貯留タンクへの処理液体の供給を停止し、少なくとも6時間貯留した後に、前記貯留タンク内に残存している処理液体を、前記固形分分離装置を介して前記吸着充填層へ通液することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る有価金属回収装置は、固形分分離装置を通液させることで、処理液体中の卑金属固形分を除去することができ、吸着充填層に所望の有価金属を吸着させることができる。さらに、この有価金属回収装置は、固形分除去手段を備え、固形分分離装置に付着した固形分を剥離除去することでき、固形分分離装置の性能を維持できる。そのため、処理液体を吸着充填層に円滑に通液させることができ、吸着充填層に対する有価金属の吸着量の低下を防ぐことができる。したがって、本発明に係る有価金属回収装置を利用することで、有価金属を効率よく回収することができる。
【0016】
本発明に係る有価金属回収装置の運転方法は、有価金属を含有する処理液体を吸着充填層に通液した後、貯留タンクへの処理液体の供給を停止し、少なくとも6時間貯留した後に、貯留タンク内に残存している処理液体を、固形分分離装置を介して吸着充填層へ通液する。貯留タンクへの処理液体の供給を停止し、少なくとも6時間貯留後させることで、有価金属の吸着量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る有価金属回収装置の概略図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る有価金属回収装置の概略図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る有価金属回収装置における固形分分離装置の固形分の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態に係る有価金属回収装置を、
図1から
図3を参照し説明する。
本実施形態において、有価金属とは、ニッケル(Ni)、コバルト(Cо)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)を意味するものとし、本実施形態では、パラジウムを回収する有価金属回収装置を例として、説明する。
【0019】
本実施形態に係る有価金属回収装置10は、
図1に示すように、パラジウムが含有された処理液体Lを貯留する貯留タンク1と、貯留タンク1に酸化剤を供給するための酸化剤供給装置2と、貯留タンク1の外部に設置され、中空糸フィルター(ろ過フィルター)3Aを有する固形分分離装置3と、固形分分離装置3に接続され、吸着充填層を有する吸着装置4と、固形分分離装置3に接続された逆洗水供給装置5とを備えている。この逆水供給装置5は、固形分分離装置3の中空糸フィルター3Aを洗水し、フィルターに付着した固形分を剥離除去する剥離除去手段としての機能を担う。
【0020】
本実施形態では、銅のプリント配線基板のメッキ工程で発生する水洗槽の廃液を処理液体Lとして使用する。具体的に説明すると、銅のプリント配線基板に設けたスルーホールに銅を無電解メッキする過程で生じる処理液体であるが、銅を無電解メッキするためには、触媒となるパラジウムを付着させるために、銅のプリント配線基板を先ずパラジウムとスズからなるコロイドを水溶液に浸漬し、次に水洗する。この水洗工程で用いる水洗槽の廃液を処理液体Lとして使用する。
【0021】
貯留タンク1には、貯留タンク1内の処理液を固形分分離装置3に誘導するポンプP2が接続されている。酸化剤供給装置2は、酸化剤タンク2Aと、酸化タンク2Aから貯留タンク1に酸化剤を誘導するためのポンプP1とから構成される。
ここで、酸化剤の作用について説明する。酸化剤はパラジウムとスズからなるコロイド中のスズを酸化し、酸化スズとして固体化するためのものである。パラジウムは白金族に属する元素であり酸化され難いので酸化剤を添加することによってスズを酸化物として分離し、パラジウムを吸着しやすい単独のイオンの状態に変化させる。なお、このコロイドは空気によっても酸化されるので、長時間空気にさらされた処理液体は酸化剤を加えることなくスズが酸化される。この場合は酸化剤を供給する必要はない。
【0022】
固形分分離装置3には、固形分が濃縮された処理液体を貯留タンク1に循環させるための循環流路F1が接続され、この循環流路F1には、流量調節弁V1が設けられている。なお、循環流路F1は、固形分分離装置3から固形分が濃縮された処理液体を、貯留タンク1へ戻す流路である。この固形分の粒度分布を
図3に示す。酸化によって生成される固形分の粒径は非常に微細であり、図に示すようにマイクロメートルのオーダーであるため、中空糸フィルター(ろ過フィルター)3Aの細孔径の公称孔径は1マイクロメートル以下であることが好ましく、0.1マイクロメートル程度がより好ましく、効果的である。
【0023】
吸着装置4の吸着充填層は、デュアルポア吸着剤4Aを含む吸着層である。デュアルポア吸着剤4Aは、ナノメートルオーダーの微細孔とマイクロメートルオーダーの細孔を有する構造体の表面に、有価金属を選択的に吸着する活性基が配置されている。このデュアルポア吸着剤4Aには、例えば、チオール基を有する化合物が修飾された金属吸着剤、アミノ基を有する化合物が修飾された金属吸着剤を使用することができる。アミノ基を有する化合物が修飾された金属吸着剤には、例えば、Prоpyl-N-diethylenetriamine Trimethylsilyl(株式会社DPS社製)、Prоpyl-N-ethylenediamine Trimethylsilyl(株式会社DPS社製)、チオール基を有する化合物が修飾された金属吸着剤には、例えば、Mercaptоprоpyl Trimethylsilyl(株式会社DPS社製)を使用することができる。
【0024】
逆洗水供給装置5は、水道栓に接続され、この逆洗水装置5からは水道水が供給される。固形分分離装置3と吸着装置4とを繋ぐ流路F2には流量調節弁V2が、固形分分離装置3と逆洗水供給装置5とを繋ぐ流路F3には流量調節弁V3及び流量計(図示しない)が、それぞれ設けられている。また、図示していないが、固形分分離装置3の下部には逆洗水の排水を排出する配管と開閉弁が設けられている。
【0025】
酸化剤には、過酸化物またはペルオキシド構造を持つ物質またはオクソ酸塩水溶液、ハロゲンおよびハロゲン化水素溶液、硝酸および関連化合物の水溶液、酸素類溶液および、これらを任意の割合で混合した水溶液を使用し、例えば、過酸化水素水、ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液、ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液、アンモニウム溶液、ペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン酸カリウム)水溶液、ヨウ素溶液、臭素溶液、塩化水素溶液、ヨウ化水素溶液、臭化水素溶液、過塩素酸類溶液、塩素酸類溶液、亜塩素酸類溶液、次亜塩素酸類溶液、硝酸、硝酸塩溶液、亜硝酸、亜硝酸塩溶液、オゾン水、またはこれらを任意の割合で混合した水溶液を使用することができる。
【0026】
次に、本実施形態に係る有価金属回収装置10の動作及びこの有価金属回収装置10を利用した有価金属回収方法について、説明する。
【0027】
本実施形態に係る有価金属回収方法は、貯留タンク1にパラジウムが含有された処理液体Lを供給する貯留工程と、貯留タンク1内の処理液体Lに酸化剤を供給する酸化剤供給工程と、酸化剤が供給された処理液体Lを固形分分離装置3の中空糸フィルター3Aに通液する固形分分離工程と、中空糸フィルター3Aを通液させた処理液Lを吸着装置4の吸着層4Aに通液させる吸着工程と、固形分分離装置3の中空糸フィルター3Aに付着した固形分を剥離除去する除去工程とを含む。
以下、有価金属回収装置10の動作方法について、具体的に説明する。
【0028】
パラジウムが含有された処理液体Lが貯留された貯留タンク1に、酸化剤供給装置2から酸化剤である過酸化水素を供給する。そうすると、処理液体L中の銅やスズは、供給された過酸化水素により酸化され、固形分粒子となる。その後、ポンプP2を稼働させ、貯留タンク1内の処理液体Lを固形分分離装置3に流入させ、中空糸膜フィルター3Aを通液させることで、ろ過する。
【0029】
そして、流量調節弁V2を開き、ろ過後の処理液体Lを、吸着装置4に流入させる。吸着装置4では、ろ過後の処理液体Lをデュアルポア吸着剤4Aで構成される吸着充填層に通液させる。ろ過後の処理液体L中のパラジウムがデュアルポア吸着剤4Aに選択的に吸着される。吸着充填層を通過した処理液体Lは、廃液として、排水される。
【0030】
通常運転時は、上記運転操作が繰り返され、パラジウムが回収される。所定時間、運転操作が繰り返された後、逆洗水供給装置5によって、中空糸フィルター3Aの洗浄を行う。具体的には、逆水供給装置5から固形分分離装置3に水道水を流し込むことで中空糸フィルター3Aを洗水し、中空糸フィルター3Aに付着した固形分を剥離除去する。剥離除去された固形分を含有する水道水は、排水槽に流出される。
【0031】
また、有価金属回収方法では、固形分が濃縮された貯留タンク1内に溜まった処理液体を、数時間程度貯留した後に固形分分離装置3を介して吸着装置4に通液すると、通常の稼働時よりも多くのパラジウムを吸着させることができた。具体的なメカニズムは不明であるが、貯留タンク1内に溜まった固形分中に含まれるパラジウムが経時的に溶出したのであろうと推測される。このパラジウムの溶出量は時間と共に増加すると思われるので、処理液体Lを吸着充填層4Aに通液した後、貯留タンク1への処理液体Lの供給を停止し、少なくとも6時間、可能であれば1日以上貯留後に、貯留タンク1内に溜まった処理液体Lを、固形分分離装置3を介して吸着充填層へ通液すれば固形分分離装置3で分離した固形分中のパラジウムも吸着装置4で吸着回収することができる。この場合、固形分中に含まれるパラジウムの溶出を促進するために、貯留タンク1への処理液体Lの供給を停止している間に、貯留タンク1内の処理液体Lに曝気(
図1:点線矢印)を行うこともできる。
【0032】
本実施形態に係る有価金属回収装置10の作用効果について、説明する。
【0033】
本実施形態に係る有価金属回収装置10は、酸化物(固形分)を固形分分離装置3の中空糸フィルター3Aを通過させることで、酸化物を除去することができるため、吸着装置4のデュアルポア吸着剤4Aの有する高い吸着性能を有効に機能させることができ、パラジウムの吸着性を向上させることができる。したがって、有価金属回収装置10を利用することで、処理液体L中からパラジウムを効率よく回収することができる。
【0034】
また、有価金属回収装置10は、逆洗水供給装置5を備え、この逆洗水供給装置5により、中空糸フィルター3Aを洗水し、中空糸フィルター3Aに付着している固形分を剥離除去することできる。固形分が剥離除去されることで、中空糸フィルター3Aの性能を維持できるため、処理液体Lを円滑に吸着装置4に通液させ、デュアルポア吸着剤4Aに対するパラジウムの吸着量の低下を防ぐことができる。
【0035】
さらに、有価金属回収装置10は、循環流路F1を有するため、この循環流路F1を介して、固形分分離装置3によって固形分が濃縮された処理液体Lを、貯留タンク1へ戻し、固形分中に含まれるパラジウムも吸着回収することができる。
【0036】
本実施形態に係る有価金属回収装置の運転方法は、上述の有価金属回収装置10において、有価金属を含有する処理液体Lを吸着充填層に通液した後、貯留タンク1への処理液体Lの供給を停止し、少なくとも6時間、可能であれば1日以上貯留後に、貯留タンク1内に残存している処理液体Lを、固形分分離装置3を介して吸着充填層へ通液する。このように、処理液体Lの供給を停止し、少なくとも6時間、可能であれば1日以上貯留することで、貯留タンク1内に溜まった固形分に含まれる有価金属を吸着回収することができる。
【0037】
また有価金属として白金を含んだ排液中から白金を吸着回収する際にも、本発明は効果的である。具体的には、白金化合物製造過程で排出される排液はそのままではアミノ基を有する化合物を表面修飾したデュアルポア吸着剤には吸着されなかった。しかし、この排液中に貧溶媒として作用する溶媒を添加すると固形物が生じ、それを固形分分離装置3によって分離した処理液体を吸着装置4に通液すると白金を吸着することができた。貧溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランを試したが、いずれのであっても同等の効果が得られた。元の排液中には、固形物となった物質が白金と結合した状態で存在していたために、デュアルポア吸着剤に吸着されなかったものが、貧溶媒を加えることにより白金が引き剥がされ、吸着されるようになったものと推測される。
このように、処理液体に加える物質は、酸化剤に限らず、有価金属に結合している物質を引き剥がして固形物とする物質であれば良い。
【0038】
次に、他の実施形態として、
図2に示す有価金属回収装置20の構成について説明する。有価金属回収装置20において、有価金属回収装置10と同じ構成部材には同符号を付し、説明は省略する。有価金属回収装置20は、貯留タンク1内に中空糸フィルター3Aを有する固形分分離装置3が設けられている。このときの中空糸フィルター3Aは、浸漬型中空糸フィルターを使用する。固形分分離装置3と吸着装置4とを繋ぐ流路にはポンプP3が設けられ、ポンプP3によって、固形分分離装置3を通液した処理液体Lが吸着装置4に誘導される。なお、有価金属回収装置20においても、貯留タンク1への処理液体Lの供給を停止し、静止している間に、貯留タンク1内の処理液体Lに曝気(
図2:点線矢印)を行うこともできる。
【0039】
有価金属回収装置20では、中空糸フィルター3Aを有する固形分分離装置3を貯留タンク1内に設置されるため、デュアルポア吸着剤4Aに対するパラジウムの吸着量の低下を防ぎ、パラジウムを効率よく回収することができることに加え、有価金属回収装置20を大幅に小型化、低コスト化することができる。
【0040】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 貯留タンク
2 酸化剤供給装置
2A 酸化剤タンク
3 固形分分離装置
3A 中空糸フィルター(ろ過フィルター)
4 吸着装置
4A 吸着剤
5 逆洗水供給装置(剥離除去手段)
10,20 有価金属回収装置
F1~F3 流路
L 処理液体
P1~P3 ポンプ
V1~V3 流量調節弁