(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081070
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】植物の疾病の防除剤および土壌改良剤
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20240610BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240610BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240610BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20240610BHJP
A01G 24/12 20180101ALI20240610BHJP
A01G 22/25 20180101ALN20240610BHJP
【FI】
A01N61/00 B
A01P21/00
A01P3/00
C09K17/02 H
A01G24/12
A01G22/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194522
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】597086863
【氏名又は名称】豊和直 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【弁理士】
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】上原 豊
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
4H026
【Fターム(参考)】
2B022AA05
2B022AB13
2B022BA02
4H011AA01
4H011AA03
4H011AB03
4H011BB20
4H011BC18
4H011DD04
4H026AA02
4H026AA03
4H026AA06
4H026AB03
(57)【要約】
【課題】植物の疾病を良好に防除することができる防除剤を提供するとともに、未熟堆肥の使用に起因する土壌障害に対し、良好な改善効果を有する土壌改良剤を提供する。
【解決手段】(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)との重量比([A]:[B])が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、植物の疾病の防除剤および土壌改良剤とする。前記組成物は、植物の生長促進効果をも有し、植物の生長促進剤としても利用し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、植物の疾病の防除剤。
【請求項2】
火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の防除剤。
【請求項3】
無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の防除剤。
【請求項4】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、請求項1または2に記載の防除剤。
【請求項5】
粉末状または粒状である、請求項1または2に記載の防除剤。
【請求項6】
平均粒子径が50μm~1,000μmである、請求項5に記載の防除剤。
【請求項7】
サツマイモの疾病の防除剤である、請求項1または2に記載の防除剤。
【請求項8】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、土壌改良剤。
【請求項9】
火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の改良剤。
【請求項10】
無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8または9に記載の改良剤。
【請求項11】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、請求項8または9に記載の改良剤。
【請求項12】
粉末状または粒状である、請求項8または9に記載の改良剤。
【請求項13】
平均粒子径が50μm~1,000μmである、請求項12に記載の改良剤。
【請求項14】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、植物の生長促進剤。
【請求項15】
火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14に記載の促進剤。
【請求項16】
無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項14または15に記載の促進剤。
【請求項17】
(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、請求項14または15に記載の促進剤。
【請求項18】
粉末状または粒状である、請求項14または15に記載の促進剤。
【請求項19】
平均粒子径が50μm~1,000μmである、請求項18に記載の促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サツマイモの基腐病等、植物の疾病の防除剤、および土壌障害を改善し得る土壌改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
2018年に鹿児島県、宮崎県および沖縄県において、サツマイモの基腐病が発生したことが明らかとなった。2020年~2021年には、ほぼ全国的に基腐病の発生が確認され、被害が拡大している。かかる広域的な感染拡大は、基腐病の原因菌(糸状菌)に感染した種苗の移動により生じる可能性が考えられる。
【0003】
種苗の感染の原因は特定されてはいないが、家畜の堆肥も一因になっているのではないかと考えられる。
家畜の敷料に使用される、おが屑、木材チップ、バーク、樹皮等が、完熟堆肥になっていない状態で堆肥として使用されると、リグニン、セルロース、繊維等は分解しにくいため、土壌障害を引き起こし、植物に悪影響を及ぼすと言われている。家畜の敷料に使用されるおが屑、バーク等は、分解に半年ほどを要すると言われているが、敷料に使用される前記材料は短い期間で交換される。家畜の多頭飼育の場合、敷料には稲わらやおが屑、バークや戻し堆肥などが使用されており、完熟堆肥になるまで管理されることなく、農家に無料で引き取って貰うのが現状である。
サツマイモの生産農家は、家畜の堆肥が完熟堆肥なのか否かは把握せずに、ビニールハウス等での育苗から圃場でのサツマイモの栽培までを行っているため、育苗過程およびサツマイモの栽培過程において、基腐病に感染する可能性が高いと考えられる。
【0004】
基腐病のみならず、疾病に感染した苗を圃場に植え付けると、当該疾病の原因菌は圃場で増加する。従って、疾病の原因菌に感染していない種芋等から、感染していない苗を育成する必要がある。
また、感染していない苗を育成しても、圃場に疾病の原因菌が残存すると、植え付けた苗が感染してしまうので、その対策が必要となる。
【0005】
たとえば、基腐病に対する対策として、苗の感染防止には、ベノミル(N-[1-(ブチルカルバモイル)-1H-ベンゾイミダゾール-2-イル]カルバミド酸メチル)水和剤や、チウラム(ビス(N,N-ジメチルチオカルバモイル)ペルスルフィド)・ベノミル水和剤が用いられ、苗床の土壌消毒には、ダゾメット(3,5-ジメチルテトラヒドロ-2H-1,3,5-チアジアジン-2-チオン)粉粒剤が用いられる。また、苗の定植後の感染の防止には、銅水和剤、炭酸水素ナトリウム・銅水和剤、アゾキシストロビン(α-[(E)-メトキシメチレン]-2-[6-(2-シアノフェノキシ)-4-ピリミジニルオキシ]ベンゼン酢酸メチル)が用いられる(非特許文献1)。
しかし、生物や環境への農薬の影響や、低農薬または無農薬の農産物が好まれる昨今の傾向を考慮すると、上記したような農薬の使用は極力避けることが好ましい。
【0006】
また、稲わら、木質、繊維等を含む未熟堆肥により引き起こされる土壌障害として、未熟堆肥に残存する病原性微生物による土壌の汚染;未熟堆肥に残存する有機物による土壌の異常還元、ガス害、有機酸の発生;未熟堆肥に含まれ、また嫌気発酵により発生するフェノール性物質(たとえば安息香酸等)、低級脂肪酸(たとえばノルマル酪酸等)等の生育阻害物質;C/N比が高い有機物により引き起こされる無機態窒素の減少等が挙げられる。
かかる未熟堆肥の使用に起因する土壌障害に対し、十分な改善効果を有する土壌改良剤が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】砂糖類・でん粉情報(2021)10,pp.61-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、サツマイモの基腐病等の植物の疾病の原因となる細菌および真菌に対する抗菌活性、ならびに植物の疾病の原因となるウイルスに対する抗ウイルス活性に優れ、植物の疾病を良好に防除することができる防除剤を提供するとともに、未熟堆肥の使用に起因する土壌障害に対し、良好な改善効果を有する土壌改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、火山噴出物発泡体および無機アルカリ性物質を含有する機能性材料組成物が、二酸化炭素および揮発性有機化合物吸着能や調湿機能を有することをすでに開示している(特開2013-63866号公報)。今回、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、火山噴出物発泡体と無機アルカリ性物質とを、これらの混合重量比が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物が、植物の疾病の原因となる細菌や真菌に対して抗菌活性を有し、また、植物の疾病の原因となるウイルスに対して抗ウイルス活性を有し、植物の疾病を良好に防除し得るとともに、未熟堆肥に起因する土壌障害の改善にも有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者は、上記組成物が植物の生長を促進し得ることを見出し、植物の疾病の防除剤または土壌改良剤として機能し得るとともに、植物の生長促進剤としても機能し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、植物の疾病の防除剤。
[2]火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の防除剤。
[3]無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の防除剤。
[4](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、[1]~[3]のいずれかに記載の防除剤。
[5]粉末状または粒状である、[1]~[4]のいずれかに記載の防除剤。
[6]平均粒子径が50μm~1,000μmである、[5]に記載の防除剤。
[7]サツマイモの疾病の防除剤である、[1]~[6]のいずれかに記載の防除剤。
[8](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、土壌改良剤。
[9]火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、[8]に記載の改良剤。
[10]無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[8]または[9]に記載の改良剤。
[11](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、[8]~[10]のいずれかに記載の改良剤。
[12]粉末状または粒状である、[8]~[11]のいずれかに記載の改良剤。
[13]平均粒子径が50μm~1,000μmである、[12]に記載の改良剤。
[14](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比[(A):(B)]が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物を含有する、植物の生長促進剤。
[15]火山噴出物発泡体が、シラス発泡体、黒曜石発泡体および真珠岩発泡体からなる群より選択される少なくとも1種である、[14]に記載の促進剤。
[16]無機アルカリ性物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[14]または[15]に記載の促進剤。
[17](A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を含有する組成物が、二酸化炭素により固化されている、[14]~[16]のいずれかに記載の促進剤。
[18]粉末状または粒状である、[14]~[17]のいずれかに記載の促進剤。
[19]平均粒子径が50μm~1,000μmである、[18]に記載の促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、植物の疾病の原因となる細菌や真菌に対する抗菌活性、および植物の疾病の原因となるウイルスに対する抗ウイルス活性を有し、植物の疾病を良好に防除し得る防除剤を提供することができる。
また、本発明によれば、未熟堆肥に残存する病原性微生物に対して抗菌活性を有し、未熟堆肥に残存する有機物等に起因して発生するガスや有機酸、フェノール性物質等の生育阻害物質等に対する吸着性に優れ、さらに、未熟堆肥の好気性発酵を促進して、アンモニアや亜硝酸等の発生を抑制して、未熟堆肥に起因する土壌障害を良好に改善し得る土壌改良剤を提供することができる。
さらに、本発明によれば、植物の生長を促進し、野菜、穀物等の有用植物の収穫時期を早めるとともに、収量を増大させ得る植物の生長促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例3の土壌改良剤について、二酸化炭素吸着性の評価結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例3の土壌改良剤について、揮発性有機化合物吸着性の評価結果を示す図である。
【0013】
本発明の植物の疾病の防除剤、土壌改良剤および植物の生長促進剤は簡便に製造することができ、また、原料として火山噴出物を使用するため、安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、植物の疾病の防除剤(以下、本明細書にて「本発明の防除剤」ともいう)を提供する。
本発明の防除剤は、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比([A]:[B])が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物(以下、本明細書にて「本発明の防除剤用組成物」ともいう)を含有する。
【0015】
本発明の防除剤用組成物において用いる(A)火山噴出物発泡体は、火山噴出物の細粒や粉末を700℃~1,100℃程度、好ましくは850℃~1,000℃程度に加熱して発泡させることにより得られる。
上記火山噴出物発泡体の調製に用いる火山噴出物は、火山活動の際に地表に噴出した物質であり、火山灰、火山礫等の火山砕屑物などが含まれる。本発明の目的には、火山噴出物として、シラス、軽石、ボラ土、黒曜石、真珠岩等が好ましく用いられる。なかでもシラス、黒曜石、真珠岩がより好ましく用いられる。
【0016】
本発明においては、(A)火山噴出物発泡体として、上記した火山噴出物の細粒や粉末の発泡体より1種または2種以上を選択して用いることができるが、なかでもシラスを発泡させたシラス発泡体(シラスバルーン)、黒曜石の発泡体(パーライト)および真珠岩の発泡体(パーライト)が好ましく、防除剤用組成物の多孔性を保持するための強度に優れる点で、シラス発泡体がより好ましい。
【0017】
本発明の防除剤用組成物に用いる(A)火山噴出物発泡体の平均粒子径は、通常シラス発泡体で5μm~300μm、黒曜石発泡体で50μm~3,000μm、真珠岩発泡体で50μm~3,000μmであり、好ましくはシラス発泡体で30μm~200μm、黒曜石発泡体で50μm~300μm、真珠岩発泡体で50μm~300μmである。
なお、上記平均粒子径は、後述する篩い分け法で測定し、算出した値である。
【0018】
本発明の防除剤用組成物において用いる(B)無機アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸のアルカリ金属塩、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等のケイ酸のアルカリ土類金属塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸のアルカリ土類金属塩等が挙げられ、これらより、1種を選択して単独で、または2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の目的には、(B)無機アルカリ性物質として、ケイ酸のアルカリ金属塩が好ましく用いられ、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムがより好ましく用いられる。
なお、(B)無機アルカリ性物質は、粉末の状態で用いてもよく、水溶液として用いてもよい。
【0019】
本発明の防除剤用組成物は、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比([A]:[B])が1:0.01~1:0.5となるように含有する。前記(A)と(B)の重量比([A]:[B])は、1:0.02~1:0.4であることが好ましく、1:0.02~1:0.3であることがより好ましい。
(A)火山噴出物発泡体に対する(B)無機アルカリ性物質の重量比([B]/[A])が0.01よりも小さいと、抗菌活性および抗ウイルス活性が低下し、好ましくない。一方、(A)火山噴出物発泡体に対する(B)無機アルカリ性物質の重量比([B]/[A])が0.5よりも大きいと、アルカリ性が強くなり過ぎて植物に悪影響が生じるおそれがあり、また、コストが上昇することから、経済性の面で好ましくない。
【0020】
本発明の防除剤用組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに活性炭、木炭、竹炭等の吸着剤等を添加することができる。
また、本発明の防除剤用組成物は、容器、袋体等に投入して密封し、二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して固化させたものでもよい。
本発明の防除剤用組成物は、粒状、粉末状、顆粒状、ゲル状等の固形状の形態とすることが好ましく、粒状または粉末状とすることがより好ましい。
粒状または粉末状である防除剤用組成物の平均粒子径は、後述する篩い分け法により測定し算出した値で通常50μm~1,000μmであり、好ましくは100μm~500μmであり、より好ましくは150μm~300μmである。
【0021】
本発明の防除剤用組成物は、(A)火山噴出物発泡体と(B)無機アルカリ性物質とを、上記重量比にて混合し、場合により他の吸着剤等の添加成分を添加、混合した後、必要に応じて乾燥、粉砕、造粒、整粒等を行って調製することができる。
【0022】
(A)火山噴出物発泡体と(B)無機アルカリ性物質、あるいはさらに他の添加成分の混合は、粉粒体の混合に用いられる一般的な混合方法により行うことができ、たとえば、水平円筒型混合機、V型混合機、二重円錐型混合機、揺動回転型混合機、単軸リボン型混合機、複軸パドル型混合機、回転働型混合機、円錐スクリュー型混合機等の各種混合機、混合攪拌機等を用いて行う。
【0023】
上記混合物の粉砕は、一般的な粉砕方法により行うことができ、混合時における(B)無機アルカリ性物質の状態により、乾式粉砕、湿式粉砕のいずれをも用いることができる。すなわち、(B)無機アルカリ性物質を固体状で混合する場合には、乾式粉砕が好ましく採用され、水溶液の状態で混合する場合には、湿式粉砕が好ましく採用される。
乾式粉砕としては、ジェットミル粉砕およびメカノケミカル粉砕が挙げられ、湿式粉砕としては、コロイドミル粉砕が挙げられる。
【0024】
上記混合物の造粒は、一般的な造粒方法により行うことができ、混合時における(B)無機アルカリ性物質の状態により、乾式造粒、湿式造粒のいずれをも用いることができる。すなわち、(B)無機アルカリ性物質を固体状で混合する場合には、乾式造粒が好ましく採用され、水溶液の状態で混合する場合には、湿式造粒が好ましく採用される。
乾式造粒としては、スラッグ法、ローラーコンパクター法等が挙げられ、湿式造粒としては、撹拌混合造粒法、噴霧乾燥造粒法、流動層造粒法、転動造粒法、転動流動層造粒法、押し出し造粒法等が挙げられる。
【0025】
上記混合物の整粒についても、一般的な整粒方法を採用することができる。かかる整粒方法としては、摩砕整粒、分級機能付解砕整粒、破砕整粒、湿式連続整粒、回転式遠心砕塊整粒、高速または低速回転型整粒、球形整粒等が挙げられる。
【0026】
上記混合物の乾燥は、風乾、天日乾燥等、自然乾燥により行うことが好ましい。
【0027】
本発明の防除剤用組成物の上記調製方法において、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質、ならびに必要に応じて他の添加成分を混合し、必要により乾燥、粉砕、造粒等を行った後、プラスチック製等の容器や袋体等に投入して密閉し、二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して反応させることにより、固化させることができる。
特に、(B)無機アルカリ性物質として、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸のアルカリ金属塩を、水溶液の状態で用いた場合には、(A)火山噴出物発泡体との混合物を二酸化炭素(炭酸ガス)と反応させて固化させることにより、防除剤用組成物の強度および分散性が向上し、土壌との混合も容易となるため、好ましい。
【0028】
本発明の防除剤は、上記した本発明の防除剤用組成物に、必要に応じて、カオリン、タルク、ベントナイト、バーミキュライト、パイロフィライト等の粘土鉱物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、珪藻土、合成ケイ酸等の固形担体を加えて、粉末状、粒状、顆粒状等の形態とすることができ、また、水等に懸濁し、懸濁液状の形態とすることができる。
本発明の防除剤における上記防除剤用組成物の含有量は、好ましくは70重量%~100重量%であり、より好ましくは90重量%~100重量%である。
【0029】
本発明の防除剤は、播種または種芋、球根の植え付けの際、あるいは苗を圃場に植え付ける際等において、苗床や圃場に散布し、また、苗床や圃場の土壌に混合して用いることができる。
【0030】
本発明の防除剤は、植物の疾病の原因となる細菌や真菌に対し良好な抗菌活性を有し、また、植物の疾病の原因となるウイルスに対して良好な抗ウイルス活性を有する。たとえば、サツマイモであれば、茎根腐細菌病の病原体であるディッケヤ(Dickeya)属細菌、立枯病の病原体であるStreptomyces ipomoeae等の細菌;基腐病の病原体であるディアポルテ デストルエンス(Diaporthe destruens)、乾腐病の病原体であるディアポルテ バタタス(Diaporthe batatas)、つる割病の病原体であるフザリウム オキシスポラム分化型バタタス(Fusarium oxysporum f. sp. Batatas)等の糸状菌;角斑病の病原体であるプソイドセルコスポラ ティモレンシス(Pseudocercospora timorensis)等の子嚢菌;斑紋モザイク病や帯状粗皮病の病原体であるSweet potato feathery mottle virus、葉巻病の病原体であるSweet potato leaf curl virus等の植物ウイルスに対して、良好な抗菌活性または抗ウイルス活性を示す。
従って、サツマイモ等において甚大な被害を生じている茎根腐細菌病、立枯病、基腐病、乾腐病や、種々の植物において見られる角斑病、葉巻病、モザイク病等の疾病を良好に防除することができる。
【0031】
なお、本発明の防除剤は、火山噴出物発泡体と無機アルカリ性物質とから簡便に製造することができ、また、原料として火山噴出物を使用するため、安価に提供することができる。
【0032】
また、本発明は、未熟堆肥に起因する土壌障害に対する土壌改良剤(以下、本明細書にて「本発明の土壌改良剤」ともいう)を提供する。
本発明の土壌改良剤は、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比([A]:[B])が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物(以下、本明細書にて「本発明の改良剤用組成物」ともいう)を含有する。
本発明の改良剤用組成物に含有される(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質の含有重量比、本発明の改良剤用組成物の平均粒子径ならびに調製方法等については、本発明の防除剤用組成物について上記した通りである。
【0033】
本発明の土壌改良剤は、本発明の改良剤用組成物に、必要に応じて、カオリン、タルク、ベントナイト、バーミキュライト、パイロフィライト等の粘土鉱物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、珪藻土、合成ケイ酸等の固形担体を加えて、粉末状、粒状、顆粒状等の形態とすることができ、また、水等に懸濁し、懸濁液状の形態とすることができる。
本発明の土壌改良剤における本発明の改良剤用組成物の含有量は、好ましくは70重量%~100重量%であり、より好ましくは90重量%~100重量%である。
【0034】
本発明の土壌改良剤は、未熟堆肥に起因する土壌障害が認められる、または前記土壌障害が発生するおそれのある苗床や圃場に散布し、当該苗床や圃場の土壌と混合して用いることができる。
【0035】
本発明の土壌改良剤は、未熟堆肥に残存する病原性微生物に対して抗菌活性を有し、未熟堆肥に残存する有機物等に起因して発生するガスや有機酸、フェノール性物質等の生育阻害物質等に対する吸着性に優れ、また、未熟堆肥の好気性発酵を促進して、アンモニアや亜硝酸等の発生を抑制することができ、未熟堆肥に起因する土壌障害を良好に改善することができる。
なお、本発明の土壌改良剤は、火山噴出物発泡体と無機アルカリ性物質とから簡便に製造することができ、また、原料として火山噴出物を使用するため、安価に提供することができる。
【0036】
さらに、本発明は、植物の生長促進剤(以下、本明細書にて「本発明の促進剤」ともいう)を提供する。
本発明の促進剤は、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質を、(A)と(B)の重量比([A]:[B])が1:0.01~1:0.5となるように含有する組成物(以下、本明細書にて「本発明の促進剤用組成物」ともいう)を含有する。
本発明の促進剤用組成物に含有される(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質、(A)火山噴出物発泡体および(B)無機アルカリ性物質の含有重量比、本発明の促進剤用組成物の平均粒子径ならびに調製方法等については、本発明の防除剤用組成物について上記した通りである。
【0037】
本発明の促進剤は、本発明の促進剤用組成物に、必要に応じて、カオリン、タルク、ベントナイト、バーミキュライト、パイロフィライト等の粘土鉱物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、珪藻土、合成ケイ酸等の固形担体を加えて、粉末状、粒状、顆粒状等の形態とすることができ、また、水等に懸濁し、懸濁液状の形態とすることができる。
本発明の促進剤における本発明の促進剤用組成物の含有量は、好ましくは70重量%~100重量%であり、より好ましくは90重量%~100重量%である。
【0038】
本発明の促進剤は、播種または種芋、球根の植え付けの際、あるいは苗を圃場に植え付ける際等において、苗床や圃場に散布し、また、苗床や圃場の土壌に混合して用いることができる。
また、本発明の促進剤は、植物の養液栽培において、水や液肥に添加して用いることができる。
【0039】
本発明の促進剤は、植物の生長を促進し、野菜、穀物等の有用植物の収穫時期を早めるとともに、収量を増大させることができる。
本発明の促進剤は、火山噴出物発泡体と無機アルカリ性物質とから簡便に製造することができ、また、原料として火山噴出物を使用するため、安価に提供することができる。
【実施例0040】
次に、実施例および試験例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0041】
平均粒子径の測定方法
以下に記載した(A)火山噴出物発泡体、および本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物の平均粒子径の測定は、下記篩い分け法により行った。
電磁式ふるい振とう機(アズワン株式会社製)に標準ふるいを5段~10段装着し、試料をふるい振とうすることで分級して、各粒度区分の重量比により測定した。すなわち、標準ふるいを目開きの大きいものを上にして順次重ね、上段に試料20gを入れ15分間ふるい振とうさせ、各ふるい上に残存する試料の重量を測定し、粒度分布を求めた。
次いで、各ふるい毎に篩い分けられた試料について、試料全量に対する割合(重量%)を算出し、各ふるい毎の前記割合(重量%)を上段から順に足していき、試料重量の割合の合計が50重量%を超える前の前記合計値(重量%)を[d]、50重量%を超えた後の前記合計値(重量%)を[e]とし、試料重量の割合の合計が50重量%を超えない粒子径区分のアンダー値(μmまたはmm)を[a]とする。そして、試料重量の割合の合計が50重量%を超える粒子径を含む区分を特定し、その粒子径区分のオーバー値(μmまたはmm)を[b]、アンダー値(μmまたはmm)を[c]として、下記式(I)より重量平均粒子径を求めた。
平均粒子径(μmまたはmm)=a-〔(b-c)×{(50-d)/e}〕・・・(I)
【0042】
[製造例1]本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物
混合撹拌機(「モルタルミキサー」、株式会社東海機械製作所製)にシラス発泡体(「シラスバルーン」:平均粒子径=40μm、豊和直株式会社製)1,000gを投入し、次いで水ガラス(「ケイ酸ソーダ3号」、日本化学工業株式会社製)100gを噴霧器で散布しながら混合攪拌し、ポリ袋に入れ密封してから、炭酸ガス30gを注入して反応させて、本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物(平均粒子径=100μm)を得た。
【0043】
[製造例2]本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物
混合撹拌機(「モルタルミキサー」、株式会社東海機械製作所製)にシラス発泡体(「シラスバルーン」:平均粒子径=150μm、豊和直株式会社製)1,000gを投入し、次いでケイ酸カリウム水溶液(二酸化ケイ素(SiO2)濃度=27重量%~29重量%、酸化カリウム(K2O)濃度=21重量%~23重量%、日本化学工業株式会社製)100gを噴霧器で散布しながら混合攪拌し、ポリ袋に入れ密封してから、炭酸ガス30gを注入して反応させて、本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物(平均粒子径=300μm)を得た。
【0044】
製造例2で得た組成物について、成分分析を行った結果を表1に示す。
成分分析は、鹿児島県工業技術センターに委託し、蛍光X線分析法(使用機器:「蛍光X線分析装置 RIX-3000」、株式会社リガク製、検量線法)により行った。なお、表1中に示した強熱減量は、重量分析法(電気マッフル炉(株式会社伊藤製作所製)にて試料を1,000℃で1時間強熱した際の重量の減少率から算出)により測定した。
【0045】
【0046】
表1に示されるように、製造例2で得た組成物は、二酸化ケイ素および酸化アルミニウムを主成分とするセラミックス組成物であることが認められた。
【0047】
[製造例3]本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物
混合撹拌機(「モルタルミキサー」、株式会社東海機械製作所製)にシラス発泡体(「シラスバルーン」:平均粒子径=300μm、豊和直株式会社製)100kgを投入し、次いで炭酸カルシウム(近藤石灰工業株式会社製)3kgを添加して混合し、本発明の防除剤用もしくは改良剤用または促進剤用組成物を得た。
【0048】
製造例3で得た組成物10gを蒸留水50mLに入れ、30℃で攪拌し、1時間後に佐藤ペンタイプPH計6104913(株式会社佐藤計量器製作所製)でpHを測定したところ、pHは11.0であり、製造例3で得た組成物は、強塩基性を示した。
【0049】
[実施例1、2]植物の疾病の防除剤
製造例2および3で得た各組成物を、それぞれ実施例1および2の植物の疾病の防除剤とした(以下、「実施例1の防除剤」および「実施例2の防除剤」と表記する)。
【0050】
[実施例3]土壌改良剤
製造例2で得た組成物を、実施例3の土壌改良剤とした。
【0051】
[実施例4]植物の生長促進剤
製造例1で得た組成物を、実施例4の植物の生長促進剤とした。
【0052】
[試験例1]サツマイモの栽培試験
下記の通り、実施例1の防除剤を用いて種芋の植え付けを行い、当該種芋から出芽させて育苗した苗を圃場に植え付けて、サツマイモを栽培し、その際の実施例1の防除剤の効果を検討した。
西田農産(鹿児島県西之表市)にて、2022年3月に、幅5m×長さ40mのビニールハウス4棟のうち2棟のビニールハウスの苗床に、実施例1の防除剤を3cmの厚さに均等に撒き、耕運機で20cmの深さまで攪拌し、1m2あたり10個の密度にて種芋を植え付けた。もう2棟のビニールハウスでは、苗床の表面に実施例1の防除剤を3cmの厚さに均等に撒き、攪拌せずに同様に種芋を植え付けた。
2022年4月12日に育苗のようすを観察したところ、4棟すべてのビニールハウスにおいて、基腐病等の疾病の発生は見られなかった。
次いで、2022年4月下旬から、苗の圃場への植え付けを開始した。最初に苗を植え付けた圃場にて、7haの植え付けが半分終わり、2週間経過した段階では、全ての苗に異常は見られなかった。
2022年5月初旬には、75haすべての植え付けを完了した。苗の植え付けを実施した圃場の1haにおいて、30cm2に1本の栽植密度にて、深さ10cmの穴を掘り、180mLの実施例1の防除剤を入れ、土と混ぜながら、上記にて育苗した苗を寝かすように植え付けた(試験区)。
また、圃場の1haにおいて、実施例1の防除剤の代わりにシラス発泡体を入れ、試験区と同様に育苗した苗を植え付け(対照区1)、さらに別の1haにおいて、当該圃場で採取される土着菌を入れ、試験区と同様に育苗した苗を植え付けた(対照区2)。
苗の植え付け後、収穫までの期間において、試験区では、基腐病の発生はほとんど見られなかった。収穫は2022年8月25日から実施され、試験区では、植え付け数の99%以上において、サツマイモが収穫された。
一方、対照区1、2では、試験区と比較して、基腐病の発生が多く認められ、植え付け数の1/2以上において、サツマイモの収穫ができなかった。
なお、試験区では、サツマイモの苗の良好な生長と、サツマイモの良好な生育が認められた。
すなわち、2022年8月10日に苗の生長のようすを観察したところ、試験区において、対照区1に比べて、平均して10cm程度、苗が長く生長していることが観察された。対照区2では苗の伸びが著しく悪く、苗の伸びは、対照区1と比較して約1/2であった。また、試験区および対照区1では、圃場を覆う程度の苗の生長が認められたが、試験区2では、圃場の地面が半分以上見えている状態であった。
さらに、試験区にて収穫されたサツマイモは、例年の大きさに比べて、20%程度大きいことが認められた。
【0053】
試験例1の上記結果から、実施例1の防除剤を散布して種芋を植え付け、サツマイモの出芽および育苗を行うことにより、サツマイモの収穫に至るまでの栽培期間において、基腐病等疾病の発生が良好に防除されることが確認された。
また、実施例1の防除剤は、苗床の土壌に攪拌混合することなく、苗床上に散布した場合であっても、サツマイモの疾病に対する防除効果を示した。
さらに、実施例1の防除剤を添加して苗を植え付けることにより、疾病の発生が良好に防除されることが確認された。
さらにまた、実施例1の防除剤を添加して苗を植え付けた場合には、サツマイモの苗の生長およびサツマイモの生育が良好に促進されることが確認され、実施例1の防除剤には、サツマイモの生長促進剤としての作用効果も認められた。
【0054】
[試験例2]サツマイモの栽培試験
鹿児島市立グリーンファームにて、下記の通り、実施例2の防除剤を用いて、サツマイモの栽培試験を実施した。
サツマイモの圃場(10m×20m)2面のうち、一面を実施例2の防除剤を使用した試験区、他方の面を実施例2の防除剤を使用しない対照区とした。
試験区では、30cm2に1本の栽植密度にて、深さ10cmの穴を掘り、紙コップ(容量=180mL)1杯の実施例2の防除剤を入れ、土と混ぜながらサツマイモの苗を寝かすように植え付けた。サツマイモの植え付けは、2022年5月に実施した。
一方、対照区では、実施例2の防除剤を添加しない他は、試験区と同様にサツマイモの苗を植え付けた。
試験区および対照区において、収穫に至るまでサツマイモを栽培し、基腐病等の疾病の発生の状況を観察した。観察は、2022年9月6日に実施した。
鹿児島市において本年は、西之表市とは異なり、基腐病の発生が少なく、試験区および対照区での発生状況に有意差は見られなかった。
収穫は2022年9月20日から実施され、10月12日に再度、疾病の発生状況の観察を実施した。その結果、対照区において、植え付け数の1割程度に、基腐病の発生したサツマイモが存在していることが確認されたが、試験区では基腐病の発生は見られなかった。
また、収穫されたサツマイモの大きさにおいて、試験区では対照区に比べて、重量比で5%~10%大きいことが認められ、かかる重量の差には、統計学的検定にて、危険率=3%で有意差が認められた。
【0055】
試験例2の上記結果から、実施例2の防除剤を添加して苗を植え付けることにより、その後の疾病の発生が良好に防除されることが示唆された。
また、実施例2の防除剤は、サツマイモに対する生長促進効果を示し、サツマイモの生育を促進したことが示唆された。
【0056】
[試験例3]抗菌試験
実施例3の土壌改良剤について、以下の通り大腸菌に対する抗菌試験を実施した。
(1)試験方法
(i)試験菌として、大腸菌(Escherichia coli NBRC 12734)を用いた。
(ii)試験菌をレシチン・ポリソルベート80加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト(SCDLP)ブイヨン培地(栄研化学株式会社製)に接種して35℃±1℃で培養し、培養液を約107個/mLとなるように滅菌生理食塩水で希釈調製し、菌原液とした。
(iii)1,000mLのガラスビーカーに、滅菌生理食塩水600mLを入れ、上記菌原液1mLを添加して、1mLあたりの菌数が約104個台となるようにした溶液に、実施例3の土壌改良剤50gを浸漬し、試験液とした。
一方、1,000mLの共栓メジウム瓶に滅菌生理食塩水600mLを入れ、上記菌原液1mLを添加して、1mLあたりの菌数が約104個台となるようにした溶液を対照液とした。
(iv)上記試験液および対照液について、混釈培養法により、調製時ならびに、室温で15分、30分および60分静置した後の生菌数を測定した。なお、培養は、標準寒天培地(栄研化学株式会社製)を用い、35℃±1℃で24時間行った。
(2)評価結果
評価結果を下記表2に示した。
【0057】
【0058】
表2において、対照液中の大腸菌は60分経過後にも全く減少していないのに対し、本発明の実施例3の土壌改良剤を浸漬した試験液では、経時的に大腸菌は減少し、60分経過後には、調製時の約1/1,000にまで減少しており、実施例3の土壌改良剤が大腸菌に対して抗菌活性を有することが認められた。
【0059】
[試験例4]二酸化炭素およびホルムアルデヒドの吸着性の評価
実施例3の土壌改良剤について、二酸化炭素の吸着性、および揮発性有機化合物としてホルムアルデヒドの吸着性を評価し、結果を
図1、2に示した。
二酸化炭素の吸着性およびホルムアルデヒドの吸着性は、実施例3の土壌改良剤10gを試料とし、対照としてケイ酸ナトリウムを用いて、特開2013-063866号公報に記載された方法により評価した。
その結果、
図1および
図2に示されるように、実施例3の土壌改良剤には、良好な二酸化炭素吸着性およびホルムアルデヒド吸着性が認められた。
【0060】
試験例3および4における上記結果から、実施例3の土壌改良剤は、未熟堆肥に含まれる大腸菌等の病原性微生物に対して抗菌活性を有し、未熟堆肥に含まれる有機物に起因して発生するガスや有機化合物の吸着能に優れ、未熟堆肥に起因する土壌障害の改良剤として有用であることが示唆された。
【0061】
[試験例5]未熟堆肥の処理試験
未熟堆肥として、鹿児島市の下水道における堆積物30gを採取し、前記堆積物より発生するアンモニアガスの濃度を、アンモニアガス検知管(「No.3L」、株式会社ガステック製)(測定範囲=1ppm~30ppm)を用いて測定した。次いで、前記堆積物30gに実施例3の土壌改良剤200gを混合し、22℃にて2週間静置した後、前記アンモニアガス検知管にて、アンモニアガスの濃度を測定した。
下水道より採取した堆積物には、検出限界値を超えるアンモニアガスの存在が確認されたが、実施例3の防除剤と混合処理した後には、アンモニアガスは検出されなかった。
【0062】
試験例5の上記結果より、未熟堆肥を実施例3の土壌改良剤で処理することにより、未熟堆肥の好気性発酵が促され、アンモニアガスの発生が抑制されることが示唆された。
【0063】
[試験例6]植物の生長促進効果の評価
実施例4の植物の生長促進剤100gを1000mLの水に添加して、カイワレダイコン、トウミョウおよびモヤシの苗の水耕栽培を実施した。20℃にて168時間に観察される吸水量を、実施例4の植物の生長促進剤を添加しない場合を対照として測定した(各n=3)。測定結果を、3回の測定値の平均値にて表3に示した。
【0064】
【0065】
表3に示されるように、実施例4の植物の生長促進剤を添加することにより、各植物による吸水量が約2倍に増加した。
【0066】
試験例6の上記結果から、本発明の植物の生長促進剤は、植物の吸水量を増加させて、植物の生長を促進することが示唆された。
以上、詳述したように、本発明により、植物の疾病の原因となる細菌や真菌に対する抗菌活性、および植物の疾病の原因となるウイルスに対する抗ウイルス活性を有し、植物の疾病を良好に防除し得る防除剤を提供することができる。
また、本発明により、未熟堆肥に残存する病原性微生物に対して抗菌活性を有し、未熟堆肥に残存する有機物等に起因して発生するガスや有機酸、フェノール性物質等の生育阻害物質等に対する吸着性に優れ、未熟堆肥に起因する土壌障害を良好に改善し得る土壌改良剤を提供することができる。
さらに、本発明により、植物の生長を促進し、野菜、穀物等の有用植物の収穫時期を早めるとともに、収量を増大させ得る植物の生長促進剤を提供することができる。
本発明の植物の疾病の防除剤、土壌改良剤および植物の生長促進剤は簡便に製造することができ、また、原料として火山噴出物を使用するため、安価に提供することができる点においても、有利である。