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特開2024-81073製鋼スラグ分離方法および製鋼スラグ分離システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081073
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】製鋼スラグ分離方法および製鋼スラグ分離システム
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20240610BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240610BHJP
   B07B 4/08 20060101ALI20240610BHJP
   B07B 7/08 20060101ALI20240610BHJP
   B07B 9/00 20060101ALI20240610BHJP
   B07B 9/02 20060101ALI20240610BHJP
   B03C 1/18 20060101ALI20240610BHJP
   B03C 1/02 20060101ALI20240610BHJP
   B03B 4/02 20060101ALI20240610BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20240610BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C21C5/28 D
B03C1/00 B
B07B4/08 Z
B07B7/08
B07B9/00 A
B07B9/02
B03C1/18
B03C1/02 A
B03B4/02
C22B7/04 A
B09B5/00 J ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194525
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 達宏
(72)【発明者】
【氏名】西名 慶晃
(72)【発明者】
【氏名】安藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
【テーマコード(参考)】
4D004
4D021
4D071
4K001
4K070
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004AB03
4D004BA02
4D004CA09
4D004CA12
4D021FA09
4D021FA22
4D021GB01
4D021GB03
4D021HA10
4D071AA81
4D071CA05
4D071DA13
4D071DA15
4K001AA10
4K001BA12
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA04
4K070AB11
4K070AC07
4K070BC15
4K070BC17
(57)【要約】
【課題】無煙炭や多孔質スラグ、緻密質スラグが含まれる場合であっても的確に製鋼スラグを分離することが可能な製鋼スラグ分離方法を提供する。
【解決手段】粉末状の製鋼スラグを分離する製鋼スラグ分離方法であって、前記製鋼スラグを磁選機を用いて分離する磁選工程と、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する篩工程と、前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する乾式密度分離工程とを有し、前記磁選工程においては、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理と、前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理とを行う、製鋼スラグ分離方法。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の製鋼スラグを分離する製鋼スラグ分離方法であって、
前記製鋼スラグを磁選機を用いて分離する磁選工程と、
前記磁選工程後の製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する篩工程と、
前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する乾式密度分離工程とを有し、
前記磁選工程においては、
第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理と、
前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理とを行う、製鋼スラグ分離方法。
【請求項2】
前記磁選工程に先だって、目開きが7~10mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩工程をさらに有し、
前記予備篩工程において前記篩を通過した前記製鋼スラグを前記磁選工程に供する、請求項1に記載の製鋼スラグ分離方法。
【請求項3】
前記篩工程では、目開きが1~5mmである篩を用いて、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩上および篩下の2つの画分に分離する、請求項1または2に記載の製鋼スラグ分離方法。
【請求項4】
前記乾式密度分離工程では、前記乾式密度分離装置として、気流遠心分離装置およびエアテーブルの両者を使用し、
前記篩工程で分離された2つの画分のうち、前記篩下を前記気流遠心分離装置で、前記篩上を前記エアテーブルで、それぞれ分離する、請求項3に記載の製鋼スラグ分離方法。
【請求項5】
粉末状の製鋼スラグを分離する製鋼スラグ分離システムであって、
前記製鋼スラグを磁選機を用いて分離する磁選部と、
前記磁選部によって分離された製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する篩部と、
前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する乾式密度分離部とを備え、
前記磁選部は、
第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理部と、
前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理部とを有する、製鋼スラグ分離システム。
【請求項6】
前記磁選部における分離に先だって、目開きが7~10mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩部をさらに備え、
前記予備篩部において前記篩を通過した前記製鋼スラグが前記磁選部に供される、請求項5に記載の製鋼スラグ分離システム。
【請求項7】
前記篩部では、目開きが1~5mmである篩を用いて、前記磁選部で分離された後の製鋼スラグが篩上および篩下の2つの画分に分離される、請求項5または6に記載の製鋼スラグ分離システム。
【請求項8】
前記乾式密度分離部は、前記乾式密度分離装置として、気流遠心分離装置およびエアテーブルの両者を備え、
前記篩部で分離された2つの画分のうち、前記篩下が前記気流遠心分離装置で、前記篩上が前記エアテーブルで、それぞれ分離される、請求項7に記載の製鋼スラグ分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグ分離方法に関し、とくに、無煙炭や多孔質スラグ、緻密質スラグが含まれる場合であっても的確に分離することが可能な製鋼スラグ分離方法に関する。また、本発明は前記製鋼スラグ分離方法を実施することができる製鋼スラグ分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所などの製鋼工程においては、SiO、CaO、Alなどの酸化物を主成分とするスラグ(製鋼スラグ)が多量に副生する。そのため、製鋼スラグの有効活用が課題となっている。
【0003】
製鋼スラグは、主に路盤材などの土木材料やセメント原料としてリサイクルされているが、一般的な製鋼スラグにはスラグ分以外にも20~50質量%程度のFe(主に金属鉄)が含まれている。そのため、製鉄プロセスにおける歩留まりを向上させるためには、製鋼スラグ中に含まれるFeを分離し、鉄源として再利用することが求められる。
【0004】
そこで、本発明者らは、磁力選別により製鋼スラグを分離する方法を提案してきた(特許文献1、2)。すなわち、製鋼スラグを磁選機により分離することで、Fe含有量の高い磁着物と、スラグ分が主体でFe含有量の低い非磁着物に分けることができる。そして、前記磁着物は鉄源として、前記非磁着物はセメント原料等としてリサイクルすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-127647号公報
【特許文献2】特開2020-132458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、製鋼スラグ中にはFe以外にも、無煙炭が含まれる場合もあるため、前記無煙炭を再利用するためには製鋼スラグから無煙炭を分離することも求められる。しかし、上述したような従来技術では無煙炭の分離回収が考慮されていなかった。
【0007】
また、製鋼スラグ中のスラグ部分も均質では無く、比較的密度が低い多孔質スラグと、比較的密度が高い緻密質スラグとが混在している場合がある。例えば、密度が1.8g/cm以下であれば多孔質スラグ、1.8g/cmより高ければ緻密質スラグと見なすことができる。しかし、多孔質スラグと緻密質スラグは、単に密度が異なるだけでなく、組成が異なっており、特に酸化クロム(Cr)の含有量が、多孔質スラグでは3質量%程度と低いのに対して、緻密質スラグでは20質量%程度と高い。この組成の違いのため、多孔質スラグと緻密質スラグとでは適したリサイクル用途が異なっている。したがって、リサイクルにおける価値を高めるためには、多孔質スラグと緻密質スラグとを分離することが望ましい。しかし、多孔質スラグと緻密質スラグは磁性にほとんど違いが無いため、磁選機による分離は困難であった。
【0008】
さらに、製鋼工程で発生するスラグとしては、精錬中に製鋼容器からこぼれ落ちて炉下に堆積する炉下堆積物もある。炉下堆積物にも金属鉄、炭素、多孔質スラグ、緻密質スラグなど様々な成分が含まれているため、そのままではリサイクルに適さないばかりか、廃棄処分することも難しい。そのため、炉下堆積物を分離することが求められているが、炉下堆積物の大部分(約80%以上)は粒径10mm以下の微粉であるため、とくに分離が困難である。また、炉下堆積物のように大量に発生するスラグは、一般的に製鉄所の野外で貯蔵されるため、雨水などにより含水率が高い状態となっており、このことも分離を難しくしている。
【0009】
上記のような事情から、炉下堆積物のように微粉を多く含む製鋼スラグは、多くの場合、リサイクルされずに貯蔵されたままとなっている。したがって、炉下堆積物のように微粉を多く含む製鋼スラグであっても分離可能な手法が望まれている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、無煙炭や多孔質スラグ、緻密質スラグが含まれる場合であっても的確に製鋼スラグを分離することが可能であり、かつ炉下堆積物のように微粉を多く含む製鋼スラグにも適用可能な製鋼スラグ分離方法を提供することを目的とする。また、本発明は前記製鋼スラグ分離方法を実施することができる製鋼スラグ分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
【0012】
1.粉末状の製鋼スラグを分離する製鋼スラグ分離方法であって、
前記製鋼スラグを磁選機を用いて分離する磁選工程と、
前記磁選工程後の製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する篩工程と、
前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する乾式密度分離工程とを有し、
前記磁選工程においては、
第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理と、
前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理とを行う、製鋼スラグ分離方法。
【0013】
2.前記磁選工程に先だって、目開きが7~10mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩工程をさらに有し、
前記予備篩工程において前記篩を通過した前記製鋼スラグを前記磁選工程に供する、上記1に記載の製鋼スラグ分離方法。
【0014】
3.前記篩工程では、目開きが1~5mmである篩を用いて、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩上および篩下の2つの画分に分離する、上記1または2に記載の製鋼スラグ分離方法。
【0015】
4.前記乾式密度分離工程では、前記乾式密度分離装置として、気流遠心分離装置およびエアテーブルの両者を使用し、
前記篩工程で分離された2つの画分のうち、前記篩下を前記気流遠心分離装置で、前記篩上を前記エアテーブルで、それぞれ分離する、上記3に記載の製鋼スラグ分離方法。
【0016】
5.粉末状の製鋼スラグを分離する製鋼スラグ分離システムであって、
前記製鋼スラグを磁選機を用いて分離する磁選部と、
前記磁選部によって分離された製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する篩部と、
前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する乾式密度分離部とを備え、
前記磁選部は、
第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理部と、
前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理部とを有する、製鋼スラグ分離システム。
【0017】
6.前記磁選部における分離に先だって、目開きが7~15mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩部をさらに備え、
前記予備篩部において前記篩を通過した前記製鋼スラグが前記磁選部に供される、上記5に記載の製鋼スラグ分離システム。
【0018】
7.前記篩部では、目開きが1~5mmである篩を用いて、前記磁選部で分離された後の製鋼スラグが篩上および篩下の2つの画分に分離される、上記5または6に記載の製鋼スラグ分離システム。
【0019】
8.前記乾式密度分離部は、前記乾式密度分離装置として、気流遠心分離装置およびエアテーブルの両者を備え、
前記篩部で分離された2つの画分のうち、前記篩下が前記気流遠心分離装置で、前記篩上が前記エアテーブルで、それぞれ分離される、上記7に記載の製鋼スラグ分離システム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製鋼スラグに含まれる、Fe、無煙炭、多孔質スラグ、緻密質スラグなどを的確に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】プーリー式磁選機の構造の一例を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態における処理の流れを示すフロー図である。
図3】本発明の他の実施形態における処理の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様を示すものであり、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
【0023】
本発明の一実施形態における製鋼スラグ分離方法は、下記(1)~(3)の工程を備えている。
(1)磁選工程
(2)篩工程
(3)乾式密度分離工程
【0024】
また、本発明の一実施形態における製鋼スラグ分離システムは、下記(A)~(C)を備えている。
(A)磁選部
(B)篩部
(C)乾式密度分離部
【0025】
[磁選工程]
上記磁選工程においては、製鋼スラグを磁選機を用いて分離する(磁選工程)。本発明では、この磁選工程において、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理と、前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理とを行うことが重要である。言い換えると、相対的に磁力が低い第1の磁選機と、相対的に磁力が高い第2の磁選機を用いて磁選処理を行う。
【0026】
前記第1磁選処理では、製鋼スラグのうち、金属鉄の含有量が高い粒子を磁着物として分離することができる。これは、金属鉄とそれ以外の成分とでは磁性に大きな違いがあるため、比較的低い磁力で磁選を行うことにより、金属鉄含有量が高い粒子とそうでない粒子とを効果的に分離することができる。
【0027】
前記第2磁選処理では、製鋼スラグのうち、炭素含有量が高い粒子を非磁着物として分離することができる。これは、スラグ粒子には金属鉄分がいくらか含まれることから、高磁力下で磁選を行うとほとんどの粒子が磁着側に回収される一方、炭素含有量が高い粒子は高磁力かでも非磁着側に回収されるためである。
【0028】
上記第1磁選処理および第2磁選処理は、任意の順序で実施することができる。すなわち、本発明の一実施形態においては、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理を行い、次いで、前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理を行うことができる。また、本発明の他の実施形態では、先に前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理を行い、その後、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理を行うことができる。
【0029】
上記第1の磁選機および第2の磁選機としては、特に限定されることなく任意の磁選機を用いることができるが、プーリー式磁選機を用いることが好ましい。プーリー式磁選機1とは、ベルトコンベアを構成するプーリーの1つが磁場印加手段を内蔵する磁選機である。
【0030】
図1は、好適に用いることができるプーリー式磁選機の構造の一例を示す模式図である。プーリー式磁選機1は、磁選を行うための主ベルトコンベア2と、主ベルトコンベア2へ製鋼スラグSを供給するための供給用ベルトコンベア3を備えている。主ベルトコンベア2の一方のプーリー4は、プーリー本体5と、プーリー本体5に内蔵され、プーリー本体5とは独立して回転駆動される磁石ロール6を備えている。磁石ロール6は、その外周面に沿って間隔を開けて配置された複数の磁極7を備え、複数の磁極7の極性は、磁石ロール6の周方向にN極とS極が交互に配置されている。
【0031】
図1における黒い四角形は強磁性粒子を、白い三角形は弱磁性粒子を表している。供給用ベルトコンベア3により製鋼スラグSを主ベルトコンベア2の磁石ロール6側へ供給すると、強磁性粒子は磁力によりコンベアベルトの表面に吸着した状態となり、搬送されて磁着物回収部8へ回収される。一方、弱磁性粒子は磁力により吸着されないため落下し、非磁着物回収部9へ回収される。
【0032】
本発明では、上述したように、第1磁選処理で使用する第1の磁選機の磁力よりも、第2磁選処理で使用する第2の磁選機の磁力を高くする。第1の磁選機および第2磁選機の磁力は、前記関係を満たしていればよく、具体的な磁力の強さは適切に磁選を行えるように調整すればよい。分離精度をさらに向上させるという観点からは、第2磁選機の磁力を第1の磁選機の磁力の1.2倍以上とすることが好ましく、1.5倍以上とすることが好ましい。一方、第2の磁選機の磁力を過度に高くしても効果が飽和するため、第2の磁選機の磁力は第1の磁選機の磁力の5倍以下であることが好ましく、3倍以下であることが好ましい。とくに限定されるものではないが、一例においては、第1の磁選機の磁力を500~1500ガウス程度、第2の磁選機の磁力を2500~3500ガウス程度とすることができる。
【0033】
上記第1の磁選機および第2の磁選機の磁力は、それぞれ任意の方法で調節することができる。例えば、磁選に用いる磁石の磁力を調整することもできる。また、図1に示したようなプーリー式磁選機の場合、プーリー本体5(シェルとも言う)の厚みを変えることによりベルトコンベア表面で製鋼スラグが受ける磁力を調整することもできる。
【0034】
ここで、磁選機の磁力が製鋼スラグの分離状態に与える影響を確認するために、磁力の異なるプーリー式磁選機を用いて実際に製鋼スラグを磁着物と非磁着物とに分離し、両者の組成を測定した。前記プーリー式磁選機の磁力は、プーリー本体(シェル)の厚みを0~30mmの範囲で変えることによって調整し、それ以外の条件は同じとした。なお、シェルの厚みが0mmである場合、シェルが存在せず、磁石がコンベアベルトに直接接していることを意味する。
【0035】
使用した製鋼スラグは、スラグ分としてのSiO、CaO、Al、MgO、P、Crに加え、Fe、Cを含んでいた。磁選機による分離を行う前と、分離後の非磁着物および磁着物の組成を、それぞれ表1、2に示す。なお、ここでは代表的な成分として、C、Cr、およびT.Fe(Feの総量)の量を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1に示した結果から分かるように、シェルの厚みを薄くして磁力を高めると、非磁着物におけるC含有量が30%以上と非常に高くなる。一方、シェルの厚みを厚くして磁力を弱めると、磁着物におけるFe含有量(T.Fe)が非常に高くなる。リサイクルのしやすさの観点からは、磁着物におけるFe含有量(T.Fe)は高いほど好ましく、一つの目安としては、55質量%以上であることが好ましい。
【0039】
[篩工程]
次に、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離する(篩工程)。その理由について、以下、説明する。
【0040】
上記磁選工程では、第1磁選処理と第2磁選処理により、粉末状の製鋼スラグを構成する粒子のうち、金属鉄含有量が高い粒子と、炭素含有量が高い粒子とを、それぞれ分離することができる。したがって、磁選工程を経た製鋼スラグには、スラグ分の含有率が高い粒子が残っている。そして、先に述べたように、スラグには多孔質スラグと緻密質スラグが混在しているため、リサイクルを容易にするためには多孔質スラグと緻密質スラグを分けることが望ましい。
【0041】
多孔質スラグと緻密質スラグは磁性の点でほとんど違いが無いため、磁選機で分離することは難しい。そこで、密度差を利用して乾式密度分離することが考えられる。しかし、製鋼スラグには、粒度の異なる様々な粒子が混在しているのに対して、一般的に乾式密度分離装置は粒度ごとに適した装置が異なっているため、そのままでは精度良く乾式密度分離することができない。
【0042】
そこで本発明では、乾式密度分離工程に先だって、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩により粒度の異なる複数の画分に分離することにより、それぞれの画分を、その粒度に適した装置で乾式密度分離することが可能となる。
【0043】
篩工程では、任意の数の篩を用いることができる。言い換えると、磁選工程後の製鋼スラグを、粒度の異なる任意の数の画分に分離することができる。前記画分の数は2以上であればよく、その上限は限定されないが、過度に多くの画分に分離すると作業効率が低下することに加え、設備コストも増加する。そのため、篩工程では2~4の画分に分離することが好ましく、2または3の画分に分離することがより好ましい。
【0044】
例えば、1つの篩を用いて2つの画分に分離する場合、前記篩の目開きは、1~5mmとすることが好ましく、1~3mmとすることがより好ましい。また、2つの篩を用いて3つの画分に分離する場合には、前記篩の目開きは、1つが1~3mm、もう一つが4~6mmとすることが好ましい。
【0045】
[乾式密度分離工程]
次いで、前記複数の画分のそれぞれを、乾式密度分離装置により分離する(乾式密度分離工程)。前記乾式密度分離装置としては、特に限定されることなく任意の装置を用いることができるが、例えば、気流遠心分離装置やエアテーブルが挙げられる。気流遠心分離装置は、粒子の密度に対する気流の影響の差を利用して分離する装置である。気流遠心分離装置は、粒径3mm以下といった比較的小径の粒子の分離に適している。また、エアテーブルは、微小な穴の空いたテーブルが傾斜した状態で設置されており、前記テーブルの穴を通して下部からエアを供給するとともにテーブルを振動させることで、重量物と軽量物に分離する装置である。エアテーブルは、粒子径1~10mm程度の粒子の分離に適している。したがって、篩工程で分離された画分のうち、粒子径の比較的小さいものについては気流遠心分離装置で、比較的大きいものについてはエアテーブルで、それぞれ分離することが好ましい。
【0046】
例えば、前記篩工程において、前記磁選工程後の製鋼スラグを篩上および篩下の2つの画分に分離する場合、乾式密度分離工程では、前記篩工程で分離された2つの画分のうち、前記篩下を気流遠心分離装置で、前記篩上をエアテーブルで、それぞれ分離することが好ましい。
【0047】
[予備篩工程]
本発明の一実施形態の分離方法は、前記磁選工程に先だって、目開きが7~10mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩工程をさらに有することができる。また、本発明の一実施形態における分離システムは、前記磁選部における分離に先だって、目開きが7~10mmである篩を用いて前記製鋼スラグを分離する予備篩部をさらに備えることができる。
【0048】
上記予備篩工程を実施する場合、予備篩工程において前記篩を通過した前記製鋼スラグを前記磁選工程に供すればよい。本発明の分離方法は、微細なスラグの分離に特に適しているため、このように予備篩工程を実施することにより、さらに効果的に分離を行うことができる。また、予備篩工程により粗大なスラグを予め除去することにより、磁選機の目詰まりを防止し、さらに処理効率を向上させることができる。
【0049】
なお、予備篩工程において前記篩を通過しなかった製鋼スラグについては、とくに限定されないが、従来のプロセスによりリサイクルすることができる。すなわち、篩を通過しなかった製鋼スラグは比較的大きい粒径を有しているため、例えば、そのまま焼結などの処理に供することもできる。
【0050】
次に、フロー図を用いて本発明の好適な実施形態の例について説明する。
【0051】
図2は、本発明の一実施形態における処理の流れを示すフロー図である。出発物質としての粉末状の製鋼スラグは、まず予備篩工程において分離される。そして、篩を通過したスラグが、次の磁選工程に供される。磁選工程では、まず、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理を行い、その後、 前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理が行われる。前記第1磁選処理における磁着物は鉄含有量が高い粒子であるため、鉄源として再利用することができる。また、前記第2磁選処理における非磁着物は炭素含有量の高い粒子であるため、やはり再利用できる。
【0052】
次に、第2磁選処理における磁着物が、篩工程によって2つの画分、すなわち、篩下と篩上に分離される。そして、前記篩下と篩上のそれぞれが、乾式密度分離装置により低密度の粒子(多孔質スラグ)と高密度の粒子(緻密質スラグ)に分離される。その際、前記篩下の粒子の分離には、比較的小粒径の粒子の分離に適した乾式密度分離装置(気流遠心分離装置など)を用い、前記篩上の粒子の分離には、比較的大粒径の粒子の分離に適した乾式密度分離装置(エアテーブルなど)を用いることが好ましい。
【0053】
一方、図3は、本発明の他の実施形態における処理の流れを示すフロー図である。本実施形態は、磁選工程において第2磁選処理を行った後に第1磁選処理を行う点が図2に示した実施形態と異なっており、その他の点については共通である。
【0054】
この実施形態の磁選工程では、まず、前記第1の磁選機よりも高い磁力を有する第2の磁選機を用いて非磁着物を分離する第2磁選処理を行い、その後、第1の磁選機を用いて磁着物を分離する第1磁選処理が行われる。図2、3に示したように、第1磁選処理と第2磁選処理とは、任意の順序で実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 プーリー式磁選機
2 主ベルトコンベア
3 供給用ベルトコンベア
4 プーリー
5 プーリー本体
6 磁石ロール
7 磁極
8 磁着物回収部
9 非磁着物回収部
図1
図2
図3