(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081079
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】細胞培養制御システム、細胞培養制御方法及び細胞培養制御プログラム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240610BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194537
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 孝希
(72)【発明者】
【氏名】鶴貝 定一
(72)【発明者】
【氏名】木南 翔太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA11
4B029FA15
4B029HA09
4B065AA90X
4B065BD50
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】バイオリアクタや分析器から得られる培養データを基に生成された培養制御情報にしたがってバイオリアクタを自動制御して、バイオリアクタによる細胞培養が適切に行えるようにする。
【解決手段】細胞培養制御システム100は、細胞を培養するバイオリアクタ3、細胞の培養状態を分析する分析器4、バイオリアクタ制御装置1及びアドバイス生成サーバ2を有する。アドバイス生成サーバ2は、バイオリアクタ3及び分析器4から得られる培養データを基に、培養制御情報を生成するアドバイス生成部23を備える。バイオリアクタ制御装置1は、バイオリアクタ3を制御する制御部14と、培養制御情報をアドバイス生成サーバ2から取得し、培養制御情報にしたがって細胞の増殖又は細胞の寿命を延ばすための制御をバイオリアクタ3に行うことを制御部14に指示するアドバイス処理部151とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するバイオリアクタ、前記細胞の培養状態を分析する分析器、細胞培養制御装置及び培養制御情報生成装置を有する細胞培養制御システムであって、
前記培養制御情報生成装置は、
前記バイオリアクタ及び前記分析器から得られる培養データを基に培養制御情報を生成する培養制御情報生成部を備え、
前記細胞培養制御装置は、
前記バイオリアクタを制御する制御部と、
前記培養制御情報を前記培養制御情報生成装置から取得し、前記培養制御情報にしたがって前記細胞の増殖又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに行うことを前記制御部に指示する培養制御情報処理部とを備えた
ことを特徴とする細胞培養制御システム。
【請求項2】
前記培養制御情報処理部は、前記培養制御情報を受け入れるか否かを確認し、前記培養制御情報を受け入れる場合、前記培養制御情報にしたがって前記制御部に前記バイオリアクタの制御を指示することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記バイオリアクタ及び前記分析器から前記培養データを収集して前記培養制御情報生成装置へ送信することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養制御システム。
【請求項4】
前記培養制御情報処理部は、細胞の増殖期に、定常期や死滅期に比べて前記培養データの収集頻度を増やすように前記制御部に前記バイオリアクタを制御させることを特徴とする請求項3に記載の細胞培養制御システム。
【請求項5】
前記培養制御情報処理部は、収集頻度の調整が可能な前記バイオリアクタから得られる前記培養データの前記収集頻度を高くするように前記制御部に前記バイオリアクタを制御させることを特徴とする請求項4に記載の細胞培養制御システム。
【請求項6】
前記培養制御情報生成部は、培養制御情報の生成に用いる前記培養データの種類を制限することを特徴とする請求項4に記載の細胞培養制御システム。
【請求項7】
前記培養制御情報生成部は、前記培養データを基に、前記細胞の増殖期、定常期、死滅期を判定し、フィード剤の投入比率を増殖期、定常期、死滅期の順に増やしていくように前記培養制御情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養制御システム。
【請求項8】
前記培養制御情報生成部は、前記細胞についての生細胞密度の増加傾向が下がったことを検出して、前記増殖期から前記定常期への移行を判定することを特徴とする請求項7に記載の細胞培養制御システム。
【請求項9】
前記培養制御情報生成部は、前記細胞についての生細胞密度及び経過時間を基に、前記定常期から前記死滅期への移行を判定することを特徴とする請求項7に記載の細胞培養制御システム。
【請求項10】
細胞培養制御装置は、前記培養制御情報生成装置を含みエッジコンピューティング方式で動作することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養制御システム。
【請求項11】
培養制御情報生成装置に、
細胞を培養するバイオリアクタ及び前記細胞の培養状態を分析する分析器から得られる培養データを取得させ、
前記培養データを基に培養制御情報を生成させ、
細胞培養制御装置に、
前記培養制御情報を前記培養制御情報生成装置から取得させ、
前記培養制御情報にしたがって前記細胞を増殖させる又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに対して行わせる
ことを特徴とする細胞培養制御方法。
【請求項12】
細胞を培養するバイオリアクタ及び前記細胞の培養状態を分析する分析器から得られる培養データを取得し、
前記培養データを基に培養制御情報を生成する
処理を第1のコンピュータに実行させ、
前記培養制御情報を前記第1のコンピュータから取得し、
前記培養制御情報にしたがって前記細胞を増殖させる又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに行う
処理を第2のコンピュータに実行させる
ことを特徴とする細胞培養制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養制御システム、細胞培養制御方法及び細胞培養制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオリアクタは、微生物や酵素などの生体触媒を用い、物質の合成や分解などを行う装置であり、生物反応装置とも呼ばれる。バイオリアクタは、食品、衣料、診断サービス、農畜産業、水産業、化成品、資源エネルギー、バイオエレクトロニクス、環境浄化などの様々な産業分野において、組み換えDNA技術や細胞融合技術などともにコア技術として研究開発が進められている。
【0003】
このようなバイオリアクタの運転においても他の分野と同様に、近年、手動操作の個人差の軽減や、人的ミスの削減や、作業範囲の拡大といった観点から、運転支援の必要性が急速に高まっている。バイオリアクタの運転支援ツールの使用手順としては、以下のようなものが提案されている。例えば、予め決められた手順書に基づき、運転支援ツールの調整などが行われる。そして、バイオリアクタを実際に操作する作業者(オペレータ)が、運転支援ツールから提供される操作情報を参照しつつバイオリアクタを操作する。
【0004】
また、バイオリアクタの運転支援技術として、バイオリアクタ内で細胞を増殖している間に、培地に含まれるたんぱく質の総量の変化を検出する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】横河技報 Vol.43 No.3(1999) Exapilot運転効率向上支援パッケージ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、細胞培養の操作を行う場合、制御の対象が生き物であるため、培養状況によっては操作を変更することが好ましい場合がある。この点、従来技術では、予め決められた手順書にしたがって運転支援ツールの調整が行われるため、培養状況に応じて操作を変更することは難しく、バイオリアクタによる細胞培養を適切に行うことは困難である。
【0008】
本発明の一側面は、バイオリアクタや分析器から得られる培養データを基に生成された培養制御情報にしたがってバイオリアクタを自動制御して、バイオリアクタによる細胞培養が適切に行えるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一側面に係る細胞培養制御システムは、細胞を培養するバイオリアクタ、前記細胞の培養状態を分析する分析器、細胞培養制御装置及び培養制御情報生成装置を有する。前記培養制御情報生成装置は、前記バイオリアクタ及び前記分析器から得られる培養データを基に培養制御情報を生成する培養制御情報生成部を備える。前記細胞培養制御装置は、前記バイオリアクタを制御する制御部と、前記培養制御情報を前記培養制御情報生成装置から取得し、前記培養制御情報にしたがって前記細胞の増殖又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに行うことを前記制御部に指示する培養制御情報処理部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バイオリアクタによる細胞培養を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る細胞培養制御システムのブロック図である。
【
図2】栄養枯渇防止制御におけるグルコースと細胞の遷移を示す図である。
【
図3】栄養投入比率制御におけるグルコース及びフィード剤の投入量の遷移を示す図である。
【
図5】実施例に係るバイオリアクタ制御装置による運転支援処理のフローチャートである。
【
図6】アドバイス受け入れ処理のフローチャートである。
【
図7】アドバイスにしたがったバイオリアクタ制御処理のフローチャートである。
【
図8】エッジコンピューティングを用いた細胞培養制御システムのブロック図である。
【
図9】バイオリアクタ制御装置のハードウェア構成の一例の図である。
【
図10】バイオリアクタ制御装置のハードウェア構成の他の例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ細胞培養制御システム、細胞培養制御方法及び細胞培養制御プログラムの実施形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。また、各実施形態は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0013】
(全体構成)
図1は、実施形態に係る細胞培養制御システムのブロック図である。細胞培養制御システム100は、バイオリアクタ制御装置1、アドバイス生成サーバ2、バイオリアクタ3及び分析器4を有する。細胞培養制御システム100は、バイオリアクタ3における細胞培養の状態から適切な操作のアドバイスを生成して作業者に提示し、作業者の許可を受けて生成した培養制御情報であるアドバイスにしたがってバイオリアクタ3の動作を制御するシステムである。
【0014】
バイオリアクタ3は、細胞培養を行う装置である。バイオリアクタ3による細胞培養の目的は、以下のようなものである。1つは、管理する細胞を増やし、細胞そのものを得ることである。もう1つは、細胞からの抗体などの生成物を得ることである。より多くの生成物を得るために、細胞を増やし且つ長生きさせることが重要である。
【0015】
バイオリアクタ3には、図示していないが、温度センサ、pHセンサ及び乳酸値測定用センサなどの各種センサが付属する。バイオリアクタ3は、各種センサを用いてセンサ情報を取得する。また、バイオリアクタ3には、培養液の重さや容量といった培養液情報を計測する機構が付属する。さらに、バイオリアクタ3は、NIRやラマン分光法を用いて、細胞密度、グルコース濃度及び乳酸値などそれぞれの予測値を算出することができる。センサ情報及び培養液情報には、生細胞密度予測値、グルコース濃度予測値、乳酸値予測値、溶存酸素量、pH、培養槽温度、培養液重量及び培養液体積などが含まれる。バイオリアクタ3から得られるセンサ情報及び培養液情報は、インラインデータと呼ばれる場合もある。バイオリアクタ3は、各種センサにより得られたセンサ情報及び培養液情報をバイオリアクタ制御装置1に通知する。バイオリアクタ3は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0016】
分析器4は、バイオリアクタ3の培養液を取得して、取得した培養液を分析することで、グルコースの濃度や細胞の密度などの培養液の状態を示す各種の培養状態情報を測定する。培養状態情報は、例えば、細胞密度、生細胞密度、死細胞密度、細胞生存率、細胞直径、細胞真円度、グルコース濃度、グルタミン、グルタミン酸、乳酸値、アンモニウム、IgG、LDH、ナトリウム、カリウム、カルシウム、pH、PO2、PCO2、Osmなどを含む。分析器4は、作業者が手作業で培養液をバイオリアクタ3から取得して分析器4に投入するオフライン分析器であっても良いし、自動で培養液をバイオリアクタ3から取得するアットライン分析器であってもよい。アットライン分析器である場合、分析器4は、測定した培養状態情報をバイオリアクタ3へ送信してもよい。また、分析器4は、1つであってもよいし複数であってもよい。オフライン分析器又はアットライン分析器で得られる培養状態情報は、それぞれオフラインデータ又はアットラインデータと呼ばれる場合がある。
【0017】
バイオリアクタ3から培養状態の予測値が得られるが、分析器4は実際の培養液を分析して培養状態情報を測定するため、細胞培養制御システム100は、分析器4の測定値を用いることで、より高い精度の培養状態情報を得ることが可能となる。分析器4は、測定した培養状態情報をバイオリアクタ制御装置1へ出力する。
【0018】
バイオリアクタ制御装置1は、アドバイス生成サーバ2とネットワークで接続される。また、バイオリアクタ制御装置1は、バイオリアクタ3に接続される。バイオリアクタ制御装置1は、バイオリアクタ3から通知されるセンサ情報及び培養液情報を取得する。また、バイオリアクタ制御装置1は、分析器4による測定で得られた培養状態情報を分析器4から取得する。また、バイオリアクタ制御装置1は、センサ情報、培養液情報及び培養状態情報をまとめた培養データに基づいてアドバイス生成サーバ2により生成されたアドバイスデータを取得する。そして、バイオリアクタ制御装置1は、取得したアドバイスデータに含まれるアドバイスの受け入れの可否を作業者に確認し、作業者によりアドバイスが受け入れられた場合、アドバイスにしたがってバイオリアクタ3の動作を制御する。バイオリアクタ制御装置1は、「細胞培養制御装置」の一例にあたる。
【0019】
アドバイス生成サーバ2は、バイオリアクタ制御装置1とネットワークで接続される。アドバイス生成サーバ2は、バイオリアクタ制御装置1から培養データを取得して、取得した培養データに応じてバイオリアクタ3の操作に関するアドバイスを含むアドバイスデータを生成する。そして、アドバイス生成サーバ2は、生成したアドバイスデータをバイオリアクタ制御装置1へ送信する。アドバイス生成サーバ2は、オンプレミスとして管理される社内システムの装置であっても良いし、クラウド上に存在する装置であってもよい。アドバイス生成サーバ2は、「培養制御情報生成装置」の一例にあたる。
【0020】
(制御装置)
次に、
図1を参照して、バイオリアクタ制御装置1の詳細について説明する。バイオリアクタ制御装置1は、
図1に示すように、送受信部11、入出力制御部12、データ変換部13、制御部14及び運転支援部15を有する。
【0021】
送受信部11は、アドバイス生成サーバ2との間のデータの送受信を制御する。送受信部11は、センサ情報、培養液情報及び培養状態情報を含むバイオリアクタ3の培養データの入力をバイオリアクタ3及び分析器4から受ける。そして、送受信部11は、取得したバイオリアクタ3の培養データをアドバイス生成サーバ2へ送信する。また、送受信部11は、送信した培養データに基づいて生成されたアドバイスデータをアドバイス生成サーバ2から受信する。そして、送受信部11は、取得したアドバイスデータをデータ変換部13へ出力する。
【0022】
このように、送受信部11は、例えば、データ変換部13及び制御部14とアドバイス生成サーバ2との間の通信を中継する。ただし、以下の説明では、分かり易いように送受信部11を省略して、データ変換部13及び制御部14がアドバイス生成サーバ2と直接通信を行うように説明する場合がある。
【0023】
入出力制御部12は、モニタなどの表示装置及びマウスやキーボードなどの入力装置を有する。入出力制御部12は、表示装置や入力装置などを介した作業者との間のデータの受け渡しを制御する。例えば、入出力制御部12は、運転支援部15から提供されたアドバイスデータに含まれるアドバイスを受け入れるか否かを作業者に選択させるためのアドバイス受入選択画面を表示装置に表示させて、作業者に対してアドバイスを受け入れるか否かを選択させる。そして、入出力制御部12は、表示装置に表示されたアドバイス受入選択画面を用いて作業者により選択されたアドバイスの受け入れ可否の情報を入力装置から取得する。その後、入出力制御部12は、アドバイスの受け入れの可否の情報を運転支援部15へ出力する。
【0024】
データ変換部13は、アドバイス生成サーバ2から送信されたアドバイスデータの入力を送受信部11から受ける。そして、データ変換部13は、アドバイス生成サーバ2から送信されたアドバイスデータを運転支援部15が処理可能な形式に変換する。例えば、データ変換部13は、データの入力をアドバイス生成サーバ2からJSONフォーマットのデータであるアドバイスデータを受信して、Excel形式のデータに変換する。その後、データ変換部13は、運転支援部15が処理可能な形式に変換したアドバイスデータを運転支援部15へ出力する。
【0025】
制御部14は、バイオリアクタ3の培養データの収集及びバイオリアクタ3の動作の制御を実行する。例えば、制御部14は、バイオリアクタ3において測定されたセンサ情報及び培養液情報を収集する。また、制御部14は、分析器4により測定された培養状態情報を収集する。培養データには、例えば、インラインデータ、オフライン・アットラインデータが含まれる。
【0026】
本実施例では、制御部14は、培養状態情報を運転支援部15のデータ入力部153から取得する。ただし、分析器4がアットライン分析器の場合、制御部14は、分析器4から培養状態情報を直接取得してもよい。そして、制御部14は、収集した、センサ情報、培養液情報及び培養状態情報をまとめてバイオリアクタ3の状態を表す培養データとして送受信部11を介してアドバイス生成サーバ2へ送信する。すなわち、制御部14は、バイオリアクタ3及び分析器4から培養データを収集して培養制御情報生成装置へ送信する。
【0027】
また、制御部14は、アドバイスデータに含まれるアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の制御の指示を運転支援部15から受ける。そして、制御に培養状態情報を用いる場合、制御部14は、バイオリアクタ3の制御の指示とともに培養状態情報を運転支援部15から取得する。そして、制御部14は、指示にしたがって、バイオリアクタ3の動作を制御する。制御部14がバイオリアクタ3へ送る制御情報としては、撹拌機、ヒーター又はスパージャー(空気、酸素、二酸化炭素、窒素など)の制御値、グルコース投入量、フィード剤投入量、並びに、アルカリ性溶液の投入量などが存在する。
【0028】
例えば、制御部14は、所定量のグルコースの投入の指示を投入時刻の情報とともに運転支援部15から受ける。その場合、制御部14は、指定された投入時刻に達すると、指定された量のグルコースをバイオリアクタ3へ投入する。これにより、バイオリアクタ3における細胞の成長が促進され細胞の寿命を延ばし且つ細胞を増やすことが可能となる。また、培養液が酸性になっており、対象の細胞によくない場合、制御部14は、所定量のアルカリ性溶液の投入の指示を投入時刻の情報とともに運転支援部15から受ける。その場合、制御部14は、指定された投入時刻に達すると、指定された量のアルカリ性溶液をバイオリアクタ3へ投入する。これにより、バイオリアクタ3における培養環境が改善され細胞の寿命を延ばし且つ細胞を増やすことが可能となる。
【0029】
運転支援部15は、アドバイス生成サーバ2で生成されたアドバイスデータに基づいて作業者によるバイオリアクタ3の運転を支援する。運転支援部15は、アドバイス処理部151、アドバイス入力部152及びデータ入力部153を有する。
【0030】
アドバイス入力部152は、自装置で処理可能な形式に変換されたアドバイスデータの入力をデータ変換部13から受ける。そして、アドバイス入力部152は、取得したアドバイスデータをアドバイス処理部151へ出力する。
【0031】
アドバイス処理部151は、アドバイス生成サーバ2により生成されたアドバイスデータの入力をアドバイス入力部152から受ける。次に、アドバイス処理部151は、アドバイスデータに付加されたアドバイスの作成時刻を抽出して保持する。その後、アドバイス処理部151は、アドバイスデータ毎に以下に説明するアドバイス受け入れ処理を実行する。
【0032】
アドバイス処理部151は、保持するアドバイスデータに含まれる各アドバイスの中に新しいアドバイスが存在するか否かをアドバイスの作成時刻を用いて判定する。ここで、アドバイス処理部151は、アドバイス入力部152からアドバイスデータが入力されるたびに新しいアドバイスか否かの判定を行っても良いし、蓄積したアドバイスデータに含まれるアドバイスの中に新しいアドバイスが存在するか否かを定期的に判定してもよい。
【0033】
新しいアドバイスが存在する場合、アドバイス処理部151は、その新しいアドバイスの受け入れの可否を選択可能に表示するアドバイス選択画面の表示を入出力制御部12に指示して、アドバイス選択画面を表示装置に表示させる。これにより、アドバイス処理部151は、アドバイス選択画面を用いて作業者にアドバイスを受け入れるか否かを確認する。
【0034】
作業者からアドバイスを受け入れる旨の通知がなされた場合、アドバイス処理部151は、受け入れが許可された新しいアドバイスを含むアドバイスデータを、受入済アドバイスデータとして保持する。これに対して、作業者からアドバイスを受け入れない旨の通知がなされた場合、アドバイス処理部151は、そのアドバイスについての受け入れ処理を終了する。
【0035】
また、アドバイス処理部151は、アドバイスの受け入れ処理とは非同期に、保持するアドバイスデータの中に受入済アドバイスデータが存在するか否かを定期的に判定する。受入済アドバイスデータが存在する場合、アドバイス処理部151は、未処理の受入済アドバイスデータの実行時刻のうち最も近い未来の実行時刻を取得する。そして、アドバイス処理部151は、現在時刻が取得した実行時刻を超えているか否かを判定する。現在時刻が取得した実行時刻を超えていなければ、アドバイス処理部151は、取得した実行時刻まで待機する。
【0036】
これに対して、現在時刻が取得した実行時刻を超えた場合、アドバイス処理部151は、アドバイスデータに含まれるアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の制御を制御部14に指示する。この際、アドバイスにしたがった制御において分析器4による培養状態情報を用いる場合は、アドバイス処理部151は、使用する培養状態情報の制御部14への入力をデータ入力部153に指示する。
【0037】
アドバイス処理部151は、全ての未処理の受入済アドバイスデータについて、そのアドバイスデータに含まれるアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の制御の実施を制御部14に指示する。未処理の受入済アドバイスデータが存在しなくなった場合、アドバイス処理部151は、新しい受入済アドバイスデータが発生するまで待機する。
【0038】
ここで、アドバイスにしたがった制御について説明する。バイオリアクタ制御装置1は、細胞を増やし且つ長生きさせるようにバイオリアクタ3を制御する。すなわち、アドバイス処理部151が制御部14に指示するアドバイスにしたがった制御も、細胞を増やし且つ長生きさせる制御となる。このための制御としては、例えば、細胞の増殖期に栄養の枯渇を防ぐように制御する栄養枯渇防止制御と、増殖期、定常期、死滅期において各種栄養の投入比率を適切に制御する栄養投入比率制御とが存在する。
【0039】
アドバイス処理部151は、例えば、栄養枯渇防止制御として、生細胞密度やグルコース濃度などの監視結果に基づくグルコースの投入量についてのアドバイスにしたがった制御を制御部14に指示する。
【0040】
図2は、栄養枯渇防止制御におけるグルコースと細胞の遷移を示す図である。グラフ201はグルコース濃度の変化を表し、グラフ202は生細胞密度の変化を表し、グラフ203はグルコース投入量を表す。
図2は、縦軸でグラフ201~203に合わせてグルコース濃度、生細胞密度又はグルコース投入量を表し、横軸でフェーズを表す。
図2では、フェーズが0の場合は遅延期を表し、フェーズが1の場合は増殖期を表し、フェーズが2の場合は定常期を表し、フェーズが3の場合は死滅期を表す。例えば、生細胞密度が急激に増加して、グルコース濃度が急激に下がった場合、アドバイス処理部151は、グルコース濃度を上昇させて細胞を長生きさせるために、グルコース投入量を増加させるアドバイスにしたがった制御を制御部14に指示する。すなわち、アドバイス処理部151は、細胞の増殖期に、定常期や死滅期に比べて培養データの収集頻度を増やすように制御部14にバイオリアクタ3を制御させる。
【0041】
ここで、細胞の増殖期は、他のフェーズに比べてグルコース濃度や細胞密度が急激に変化する場合があるため、制御部14によるデータ収集頻度を増加させてもよい。例えば、制御部14は、データ収集頻度の増加として、収集頻度を高くできるインラインデータを活用してもよい。また、データ収集頻度を増加させた場合、後述するアドバイス生成サーバ2のアドバイス生成部23は、解析するデータの種類を絞ることで解析負荷を下げて高速化してもよい。
【0042】
また、アドバイス処理部151は、例えば、栄養投入比率制御として、生細胞密度などの培養データを用いて判定された増殖期、定常期及び死滅期に基づいて、フィード剤の投入比率を死滅期に向かうにつれて増やしていくアドバイスにしたがった制御を指示する。
【0043】
図3は、栄養投入比率制御におけるグルコース及びフィード剤の投入量の遷移を示す図である。グラフ211はグルコース投入量の変化を表し、グラフ212はフィード剤投入量の変化を表す。
図2は、縦軸で投入量を表し、横軸でPhを表す。例えば、生細胞密度の傾きが下がった場合に、アドバイス処理部151は、増殖期から定常期へ移行したとの判定に基づくフィード剤投入量の比率を増加させる制御を制御部14に指示する。また、アドバイス処理部151は、細胞密度の傾きや時間に応じて定常期から死滅期へ移行したとの判定に基づくフィード剤投入量の比率を増加させる制御を制御部14に指示する。
【0044】
データ入力部153は、分析器4の測定により得られた培養状態情報を取得する。データ入力部153は、分析器4から自動で培養状態情報を取得しても良いし、作業者の手入力により培養状態情報を取得してよい。そして、データ入力部153は、取得した培養状態情報を制御部14へ出力する。
【0045】
また、データ入力部153は、使用する培養状態情報の制御部14への入力の指示をアドバイス処理部151から受ける。そして、データ入力部153は、データ入力部153により指定された使用する培養状態情報を分析器4から取得する。その後、データ入力部153は、分析器4から取得した培養状態情報を制御部14へ出力する。
【0046】
(サーバ)
次に、
図1を参照して、アドバイス生成サーバ2の詳細について説明する。アドバイス生成サーバ2は、
図1に示すように、送受信部21、ストレージ22及びアドバイス生成部23を有する。
【0047】
送受信部21は、バイオリアクタ制御装置1との間のデータの送受信を制御する。送受信部21は、バイオリアクタ3の、センサ情報、培養液情報及び培養状態情報を含む培養データをバイオリアクタ制御装置1の送受信部11から受ける。そして、送受信部21は、取得したバイオリアクタ3の培養データをストレージ22に格納する。
【0048】
また、送受信部21は、ストレージ22に格納されたアドバイス及び各アドバイスの作成時刻を含むアドバイスデータを取得する。そして、送受信部21は、アドバイスデータをバイオリアクタ制御装置1の送受信部11へ送信する。
【0049】
ストレージ22は、送受信部21がバイオリアクタ制御装置1から受信したバイオリアクタ3の培養データを格納する。また、ストレージ22は、アドバイス生成部23により生成されたアドバイス及びそのアドバイスの作成時刻を含むアドバイスデータを格納する。
【0050】
アドバイス生成部23は、ストレージ22に格納されたバイオリアクタ3の培養データを取得する。そして、アドバイス生成部23は、培養データを基にバイオリアクタ3の操作に関するアドバイスデータを生成する。より具体的には、アドバイス生成部23は、操作に関するアドバイスを示すJSONフォーマットなどで記述されたアドバイスデータを作成する。
【0051】
例えば、アドバイス生成部23は、単純な条件判定を用いて入力された培養データに対応するアドバイスを決定してアドバイスデータを生成してもよい。他にも、アドバイス生成部23は、AI(Artificial Intelligence)を用いて入力された培養データに対応するアドバイスを決定してアドバイスデータを生成してもよい。
【0052】
アドバイス生成部23は、例えば、バイオリアクタ3内の細胞の増殖や寿命を延ばすための処理に関するアドバイスデータを生成する。より具体的には、アドバイス生成部23は、何時何分にどの溶液を何ml投入するなどのアドバイスデータを生成する。その際、アドバイス生成部23は、実行する操作の理由などをアドバイスデータに付加してもよい、また、細胞の増殖期にデータ収集頻度が上げられた場合、アドバイス生成部23は、解析するデータの種類を絞ることで解析負荷を下げて、解析処理を高速化してもよい。
【0053】
例えば、アドバイス生成部23は、培養データから生細胞密度やグルコース濃度を取得して、培養する細胞にとってグルコースが少なく細胞の成長が阻害されると判定した場合、グルコースを投入する時刻及び量を指定するアドバイスデータを生成する。また、アドバイス生成部23は、センサ情報に含まれる乳酸値を取得して、培養液が酸性に傾いており細胞が増え難いと判定した場合、アルカリ性の溶液を投入する時刻及び量を指定するアドバイスデータを生成する。
【0054】
他にも、アドバイス生成部23は、生細胞密度などの培養データに基づいて、増殖期、定常期、死滅期を判定して、フィード剤の投入比率を死滅期に向かうにつれて増やしていくアドバイスデータを生成する。例えば、アドバイス生成部23は、生細胞密度の増加傾向が下がったことを検出して、細胞の増殖期から定常期への移行を判定する。また、アドバイス生成部23は、生細胞密度や経過時間に基づいて、定常期から前記死滅期への移行を判定する。
【0055】
ここで、アドバイスデータが「培養制御情報」の一例にあたり、アドバイス生成部23は、「培養制御情報生成部」の一例にあたる。すなわち、アドバイス生成部23は、培養データを基に、細胞の増殖期、定常期、死滅期を判定し、フィード剤の投入比率を増殖期、定常期、死滅期の順に増やしていくように培養制御情報を生成する。
【0056】
そして、アドバイス生成部23は、生成したアドバイスデータに各アドバイスの作成時刻を付加してストレージ22に格納する。
【0057】
図4は、アドバイスデータの一例を示す図である。アドバイス生成部23は、例えば、
図4に示すようなJSONフォーマットで記述されたアドバイスデータ220を生成する。アドバイスデータ220におけるlast_updateはアドバイスの作成または送信時刻であり、statusはアドバイスの優先度や緊急度などであり、contentsはリアクタ3の操作情報であり、execute_timingはアドバイス実行時刻である。さらに、feedsはポンプID、投入量、定量流加時間などの各種ポンプの制御情報であり、temperatureはヒーターの制御情報である。アドバイスデータは、この他にも、各種気体のスパージャー制御情報や攪拌制御、培養液のサンプリング指示などの情報を含んでもよい。アドバイス生成部23は、アドバイスデータ220などを用いて、実行時刻や実行する処理などを指定することができる。
【0058】
(運転支援処理の流れ)
図5は、実施例に係るバイオリアクタ制御装置による運転支援処理のフローチャートである。次に、
図5を参照して、本実施例に係るバイオリアクタ制御装置1による作業者によるバイオリアクタ3に対する運転支援処理の流れを説明する。
【0059】
制御部14は、バイオリアクタ3において測定されたセンサ情報及び培養液情報を収集する。また、制御部14は、分析器4により測定された培養状態情報を収集する。そして、制御部14は、収集した、センサ情報、培養液情報及び培養状態情報をまとめた培養データをアドバイス生成サーバ2へ送信する(ステップS1)。
【0060】
アドバイス生成サーバ2の送受信部21は、バイオリアクタ制御装置1の制御部14から送信された培養データを受信してストレージ22に格納する。アドバイス生成部23は、ストレージ22に格納された培養データを取得して、培養データに応じてバイオリアクタ3の操作に関するアドバイスデータを生成してストレージ22に格納する。送受信部21は、ストレージ22に格納されたアドバイス及びアドバイスの作成時刻を含むアドバイスデータをバイオリアクタ制御装置1へ送信する(ステップS2)。
【0061】
送受信部11は、アドバイスデータをアドバイス生成サーバ2の送受信部21から受信して、データ変換部13へ出力する。データ変換部13は、アドバイス生成サーバ2から送信されたアドバイスデータを運転支援部15が処理可能な形式に変換する(ステップS3)。
【0062】
運転支援部15は、データ変換部13により処理可能な形式に変換されたアドバイスデータを取得する。そして、運転支援部15は、アドバイスの受け入れの可否を作業者に確認するアドバイス受け入れ処理を実行する(ステップS4)。
【0063】
また、運転支援部15は、アドバイスデータに含まれるアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の動作の制御の実行を制御部14に指示する。制御部14は、運転支援部15に指示されたアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の動作の制御を実行してバイオリアクタ3を操作する(ステップS5)。
【0064】
制御部14及び運転支援部15は、バイオリアクタ3における細胞の培養が終了したか否かを判定する(ステップS6)。細胞の培養が終了していない場合(ステップS6:否定)、運転支援処理は、ステップS1へ戻る。これに対して、細胞の培養が終了した場合(ステップS6:肯定)、制御部14及び運転支援部15は、運転支援処理を終了する。
【0065】
ここで、図示の都合上、アドバイス受け入れ処理をステップS4とし、アドバイスにしたがったバイオリアクタ3の制御をステップS5としたが、実際には、バイオリアクタ制御装置1は、アドバイス受け入れ処理とアドバイスにしたがった制御とを並行して行う。また、バイオリアクタ制御装置1は、それらの処理と平行して、ステップS1~S3の処理を行ってもよい。
【0066】
(アドバイス受け入れ処理)
図6は、アドバイス受け入れ処理のフローチャートである。
図6に示したフローの各処理は、
図5におけるステップS4で実行される処理の一例にあたる。
【0067】
アドバイス処理部151は、アドバイス生成サーバ2により生成されたアドバイスデータの入力をアドバイス入力部152から受ける。次に、アドバイス処理部151は、アドバイスの作成時刻を抽出して保持する。そして、アドバイス処理部151は、保持するアドバイスデータに含まれるアドバイスの中に新しいアドバイスが存在するか否かを判定する(ステップS101)。新しいアドバイスが存在しない場合(ステップS101:否定)、アドバイス受け入れ処理は、ステップS105へ進む。
【0068】
これに対して、新しいアドバイスが存在する場合(ステップS101:肯定)、アドバイス処理部151は、新しいアドバイスの受け入れの可否を選択可能に表示するアドバイス選択画面を入出力制御部12へ出力して表示装置に表示させる。これにより、アドバイス処理部151は、アドバイス選択画面を用いて作業者に新しいアドバイスを受け入れるか否かを確認する(ステップS102)。
【0069】
表示装置に表示されたアドバイス選択画面を用いた作業者による選択結果を基に、アドバイス処理部151は、新しいアドバイスを受け入れるか否かを判定する(ステップS103)。新しいアドバイスを受け入れない場合(ステップS103:否定)、アドバイス受け入れ処理は、ステップS105へ進む。
【0070】
これに対して、新しいアドバイスを受け入れる場合(ステップS103:肯定)、アドバイス処理部151は、新しいアドバイスを含むアドバイスデータを受入済アドバイスデータとする(ステップS104)。
【0071】
その後、アドバイス処理部151は、細胞の培養が終了したか否かを判定する(ステップS105)。細胞の培養が終了していない場合(ステップS105:否定)、アドバイス受け入れ処理は、ステップS101へ戻る。
【0072】
これに対して、細胞の培養が終了した場合(ステップS105:肯定)、アドバイス処理部151は、アドバイス受け入れ処理を終了する。
【0073】
(バイオリアクタ制御処理)
図7は、アドバイスにしたがったバイオリアクタ制御処理のフローチャートである。
図7に示したフローの各処理は、
図5におけるステップS5で実行される処理の一例にあたる。
【0074】
アドバイス処理部151は、保持するアドバイスデータの中に未処理の受入済アドバイスデータが存在するか否かを判定する(ステップS201)。未処理の受入済アドバイスデータが存在しない場合(ステップS201:否定)、バイオリアクタ制御処理は、ステップS206へ進む。
【0075】
これに対して、未処理の受入済アドバイスデータが存在する場合(ステップS201:肯定)、アドバイス処理部151は、未処理の受入済アドバイスデータの実行時刻の中で最も近い未来の実行時刻を取得する(ステップS202)。
【0076】
次に、アドバイス処理部151は、現在時刻が取得した実行時刻を超えたか否かを判定する(ステップS203)。現在時刻がアドバイス実行時刻を超えていた場合(ステップS203:肯定)、バイオリアクタ制御処理は、ステップS205へ進む。
【0077】
これに対して、現在時刻がアドバイス実行時刻を超えていない場合(ステップS203:否定)、アドバイス処理部151は、アドバイス実行時刻まで待機する(ステップS204)。
【0078】
その後、アドバイス処理部151は、アドバイスデータに含まれるアドバイスにしたがったバイオリアクタ3の制御を制御部14に指示する。この際、アドバイスにしたがった制御において分析器による測定結果を用いる場合は、アドバイス処理部151は、使用する測定結果の情報の制御部14への入力をデータ入力部153に指示する。制御部14は、アドバイス処理部151からの指示を受けて、アドバイスにしたがってバイオリアクタ3の動作を制御する(ステップS205)。
【0079】
その後、アドバイス処理部151は、細胞の培養が終了したか否かを判定する(ステップS206)。細胞の培養が終了していない場合(ステップS206:否定)、バイオリアクタ制御処理は、ステップS201へ戻る。
【0080】
これに対して、細胞の培養が終了した場合(ステップS206:肯定)、アドバイス処理部151及び制御部14は、バイオリアクタ制御処理を終了する。
【0081】
[効果]
以上に説明したように、実施形態に係る細胞培養制御システム100は、バイオリアクタ3の直近の培養状況を表す培養データを基に、細胞の増殖や寿命を延ばすためのバイオリアクタ3の操作に関するアドバイスを生成する。次に、細胞培養制御システム100は、生成されたアドバイスを受け入れるか否かを作業者に確認し、作業者がアドバイスの受け入れを決定した場合、そのアドバイスにしたがってバイオリアクタ3の動作を制御する。
【0082】
このように、細胞培養制御システム100は、バイオリアクタ3や分析器4から細胞培養に関連する培養データをモニタリングして、その培養データを基にバイオリアクタ3の制御方法を提案する。これにより、培養状況に応じてバイオリアクタ3に対する操作を変えることができ、作業者のスキルに関わらず最適な培養を行うことが可能となる。さらに、適切な時期に適切な操作を行うことができ、バイオリアクタ3内で培養する細胞の寿命を延ばし且つ増やすことが容易となり、バイオリアクタ3による細胞培養を適切に行うことが可能となる。
【0083】
(変形例)
制御部14は、DCS(Distributed Control System)、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)、PLC(Programmable Logic Controller)、レコーダー又はコントローラなどで実現することができる。制御部14がSCADAにより実現される場合、送受信部11、入出力制御部12、データ変換部13、制御部14及び運転支援部15をまとめて1つのコンピュータ内で実現することが可能である。また、制御部14がDCS、PLC、レコーダー、コントローラなどといった専用のハードウェアにより実現される場合、制御部14と運転支援部15とは異なる装置として配置することが可能である。
【0084】
送受信部11、制御部14、データ入力部153及び送受信部21は、通信インタフェースとして、MQTT(Message Queueing Telemetry Transport)、Webサーバ/クライアント通信(REST(Representational State Transfer)、API(Application Programming Interface))、OPC(Open Platform Communications)、HART IP、DNP(Distributed Network Protocol)、PROFINET、Modbusなどを利用可能である。また、送受信部11、制御部14、データ入力部153及び送受信部21は、受け渡しするデータとして、例えば、txtデータ、csvデータ、Excelデータ等を用いることが可能である。
【0085】
バイオリアクタ制御装置1が、アドバイス生成部23を有する構成も可能である。
図8は、エッジコンピューティングを用いた細胞培養制御システムのブロック図である。例えば、エッジコンピューティングの構成を採用して、細胞培養制御システム100を
図8のような構成とすることも可能である。
【0086】
バイオリアクタ制御装置1は、実施例1で説明した各部に加えてアドバイス生成部16を有する。アドバイス生成部16は、実施例1に係るアドバイス生成サーバ2におけるアドバイス生成部23の機能を有する。この場合、バイオリアクタ制御装置1は、アドバイス生成サーバ2への培養データの送信や、アドバイス生成サーバ2からのアドバイスの受信を行わなくてもよい。
【0087】
例えば、アドバイス生成部16は、AIを用いてアドバイスを生成することができる。その場合、バイオリアクタ制御装置1は、AIの学習を行うための学習データをアドバイス生成サーバ2から受信して、アドバイス生成部16が使用するAIの学習を行ってもよい。この場合、アドバイス生成サーバ2が有する学習部24は、機械学習データを増やしてもよい。機械学習データを増やすことにより、AIの精度を向上させることが可能である。
【0088】
他にも、アドバイス生成サーバ2が、アドバイス生成部16が保持するAIのデジタルツインであるAIを保持してもよい。その場合、アドバイス生成サーバ2が、AIの学習を行い、学習により決定されたハイパーパラメータをバイオリアクタ制御装置1のアドバイス生成部16に通知してもよい。
【0089】
また、本実施例では、作業者の判断を反映させるためアドバイスの受け入れの可否を作業者に確認したが、バイオリアクタ制御装置1は、この確認作業を省略して、バイオリアクタ3の動作の制御を完全自動化することも可能である。
【0090】
(システム)
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0091】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0092】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0093】
[ハードウェア]
次に、バイオリアクタ制御装置1のハードウェア構成例を説明する。
図9は、バイオリアクタ制御装置のハードウェア構成の一例の図である。
図9に示すように、バイオリアクタ制御装置1は、プロセッサ91、メモリ92、ストレージ93及び通信装置94を有する。また、プロセッサ91は、バスを介してメモリ92、ストレージ93及び通信装置94と接続される。
【0094】
通信装置94は、ネットワークインタフェースカードなどであり、他の情報処理装置との通信に使用される。例えば、通信装置94は、プロセッサ91とアドバイス生成サーバ2との間の通信を中継する。また、通信装置94は、送受信部11の機能の一部を実現する。
【0095】
ストレージ93は、補助記憶装置である。ストレージ93は、
図1に例示した、送受信部11、入出力制御部12、データ変換部13、制御部14及び運転支援部15の機能を実現するためのプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0096】
プロセッサ91は、ストレージ93に格納された各種プログラムを読み出してメモリ92に展開して実行する。これにより、プロセッサ91は、送受信部11、入出力制御部12、データ変換部13、制御部14及び運転支援部15の機能を実現する。
【0097】
ただし、ここでは、制御部14と運転支援部15とが1つのコンピュータで実現される場合で説明したが、制御部14は、PLC、レコーダー又はコントローラなどの運転支援部15が動作するコンピュータとは異なる装置であってもよい。例えば、バイオリアクタ制御装置1は、
図10に示すハードウェア構成により実現することも可能である。
図10は、バイオリアクタ制御装置のハードウェア構成の他の例の図である。
図10に示すように、バイオリアクタ制御装置1は、コンピュータ95及びコントローラ96を有してもよい。コントローラ96は、通信装置94を介してコンピュータ95に接続される。
【0098】
この場合、コントローラ96が、制御部14の機能を実現する。制御部14は、長期安定性が求められるためコンピュータが使用困難な場合があり、代わりにコントローラ96を使うことで、長期安定性を確保することが可能となる。この場合、プロセッサ91は、送受信部11、入出力制御部12、データ変換部13及び運転支援部15の機能を実現する。
【0099】
このように、バイオリアクタ制御装置1は、プログラムを読み出して実行することで各種処理方法を実行する情報処理装置として動作する。また、バイオリアクタ制御装置1は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、ここでいうプログラムは、バイオリアクタ制御装置1によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0100】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【0101】
開示される技術的特徴の組合せのいくつかの例を以下に記載する。
【0102】
(1)
細胞を培養するバイオリアクタ、前記細胞の培養状態を分析する分析器、細胞培養制御装置及び培養制御情報生成装置を有する細胞培養制御システムであって、
前記培養制御情報生成装置は、
前記バイオリアクタ及び前記分析器から得られる培養データを基に培養制御情報を生成する培養制御情報生成部を備え、
前記細胞培養制御装置は、
前記バイオリアクタを制御する制御部と、
前記培養制御情報を前記培養制御情報生成装置から取得し、前記培養制御情報にしたがって前記細胞の増殖又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに行うことを前記制御部に指示する培養制御情報処理部とを備えた
ことを特徴とする細胞培養制御システム。
(2)
前記培養制御情報処理部は、前記培養制御情報を受け入れるか否かを確認し、前記培養制御情報を受け入れる場合、前記培養制御情報にしたがって前記制御部に前記バイオリアクタの制御を指示することを特徴とする(1)に記載の細胞培養制御システム。
(3)
前記制御部は、前記バイオリアクタ及び前記分析器から前記培養データを収集して前記培養制御情報生成装置へ送信することを特徴とする(1)又は(2)に記載の細胞培養制御システム。
(4)
前記培養制御情報処理部は、細胞の増殖期に、定常期や死滅期に比べて前記培養データの収集頻度を増やすように前記制御部に前記バイオリアクタを制御させることを特徴とする(3)に記載の細胞培養制御システム。
(5)
前記培養制御情報処理部は、収集頻度の調整が可能な前記バイオリアクタから得られる前記培養データの前記収集頻度を高くするように前記制御部に前記バイオリアクタを制御させることを特徴とする(4)に記載の細胞培養制御システム。
(6)
前記培養制御情報生成部は、培養制御情報の生成に用いる前記培養データの種類を制限することを特徴とする(4)又は(5)に記載の細胞培養制御システム。
(7)
前記培養制御情報生成部は、前記培養データを基に、前記細胞の増殖期、定常期、死滅期を判定し、フィード剤の投入比率を増殖期、定常期、死滅期の順に増やしていくように前記培養制御情報を生成することを特徴とする(1)~(6)のいずれか一つに記載の細胞培養制御システム。
(8)
前記培養制御情報生成部は、前記細胞についての生細胞密度の増加傾向が下がったことを検出して、前記増殖期から前記定常期への移行を判定することを特徴とする(7)に記載の細胞培養制御システム。
(9)
前記培養制御情報生成部は、前記細胞についての生細胞密度や経過時間を基に、前記定常期から前記死滅期への移行を判定することを特徴とする(7)又は(8)に記載の細胞培養制御システム。
(10)
細胞培養制御装置は、前記培養制御情報生成装置を含みエッジコンピューティング方式で動作することを特徴とする(1)~(9)に記載の細胞培養制御システム。
(11)
培養制御情報生成装置に、
細胞を培養するバイオリアクタ及び前記細胞の培養状態を分析する分析器から得られる培養データを取得させ、
前記培養データを基に培養制御情報を生成させ、
細胞培養制御装置に、
前記培養制御情報を前記培養制御情報生成装置から取得させ、
前記培養制御情報にしたがって前記細胞を増殖させる又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに対して行わせる
ことを特徴とする細胞培養制御方法。
(12)
細胞を培養するバイオリアクタ及び前記細胞の培養状態を分析する分析器から得られる培養データを取得し、
前記培養データを基に培養制御情報を生成する
処理を第1のコンピュータに実行させ、
前記培養制御情報を前記第1のコンピュータから取得し、
前記培養制御情報にしたがって前記細胞を増殖させる又は前記細胞の寿命を延ばす制御を前記バイオリアクタに行う
処理を第2のコンピュータに実行させる
ことを特徴とする細胞培養制御プログラム。
【符号の説明】
【0103】
1 バイオリアクタ制御装置
2 アドバイス生成サーバ
3 バイオリアクタ
4 分析器
11 送受信部
12 入出力制御部
13 データ変換部
14 制御部
15 運転支援部
21 送受信部
22 ストレージ
23 アドバイス生成部
24 学習部
100 細胞培養制御システム
151 アドバイス処理部
152 アドバイス入力部
153 データ入力部