(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081087
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】アクスルシャフト支持構造
(51)【国際特許分類】
B60B 35/16 20060101AFI20240610BHJP
F16D 65/09 20060101ALN20240610BHJP
【FI】
B60B35/16 C
F16D65/09 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194545
(22)【出願日】2022-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】片倉 愛輝
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA07
3J058AA13
3J058AA17
3J058BA25
3J058CA22
3J058CD37
3J058FA06
3J058FA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リテーナとアクスルエンドとの間に水等が溜まることを抑制可能であると共に、リテーナ周辺に錆が発生することを抑制可能なアクスルシャフト支持構造を提供する。
【解決手段】アクスルシャフト支持構造1は、アクスルシャフト10の端部側におけるアクスルエンド20の外側面側に形成され、アクスルシャフトの径方向外側に向けて延びるように形成された排出路25と、アクスルエンドの外側面に固定されるリテーナ30とを備える。リテーナは、アクスルシャフトの挿通孔31と、挿通孔の径方向外側に形成され、車幅方向外側に向けて凹む凹部33とを備える。排出路は、アクスルシャフトの径方向外側に向けて開口すると共に、リテーナの外部に通じており、凹部の少なくとも1つは、リテーナがアクスルエンドに固定された状態において、排出路と連通している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルシャフトの端部側に設けられたアクスルエンドの外側面側に形成され、前記アクスルシャフトの径方向外側に向けて延びるように形成された排出路と、
板状に形成され、前記アクスルエンドの外側面に固定されるリテーナと、
を備え、
前記リテーナは、
前記アクスルシャフトを挿通するための挿通孔と、
前記挿通孔の径方向外側に形成され、車幅方向外側に向けて凹む少なくとも1つの凹部と、
を備え、
前記排出路は、前記アクスルシャフトの径方向外側に向けて開口すると共に、前記リテーナの外部に通じており、
前記凹部の少なくとも1つは、前記リテーナが前記アクスルエンドに固定された状態において、前記排出路と連通していること、
を特徴とするアクスルシャフト支持構造。
【請求項2】
前記リテーナは、前記挿通孔の径方向外側に形成され、前記凹部から外れた位置に配される少なくとも1つの位置決め部を備えていること、を特徴とする請求項1に記載のアクスルシャフト支持構造。
【請求項3】
前記凹部が、先細り形状に形成された先端部を有しており、
前記先端部が、前記排出路に連通していること、を特徴とする請求項1又は2に記載のアクスルシャフト支持構造。
【請求項4】
前記凹部の少なくとも1つは、
前記挿通孔に対して後方下方側に配されると共に、
前記先端部に向けて傾斜する第1傾斜面と、
前記先端部に向けて傾斜すると共に、前記第1傾斜面と交差する方向に傾斜する第2傾斜面と、
を有しており、
前記第1傾斜面は、車両後方側に向けて下り傾斜すると共に、前記第2傾斜面よりも緩やかな第1傾斜角度で形成されており、
前記第2傾斜面は、前記第1傾斜角度よりも大きな第2傾斜角度で車両後方側に向けて下り傾斜するように形成されていること、を特徴とする請求項3に記載のアクスルシャフト支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるアクスルシャフト(車軸)の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リジット式サスペンション等には、アクスルシャフト(車軸とも称する)が用いられている。アクスルシャフトの端部側には、アクスルエンドが設けられており、当該アクスルエンドに、ハブベアリング等の抜け止めとしてのアウターリテーナ(単にリテーナとも称する)が設けられている(例えば、特許文献1)。また、リテーナの車幅方向外側には、ブレーキドラム等のブレーキ装置が装着されている。前記ブレーキ装置は、バックプレートやリテーナ等を介して、アクスルエンドに装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1に記載のリテーナは、中央に設けられた挿通孔にアクスルシャフトが挿通されており、当該挿通孔とアクスルシャフトの外周との間には、一定の隙間が形成されている。そのため、車両が雨天時等に走行する場合は、水等が、リテーナの内部方向に侵入することがあった。また、ハブベアリング等のオイルが、リテーナとアクスルエンドとの間に流出し、当該オイルがリテーナの内部側に溜まることがあった。このように、リテーナの内部側に水等が溜まると、錆が発生し、アクスルシャフトやブレーキ装置の耐久性が下がる懸念があった。
【0005】
そこで、本発明は、リテーナとアクスルエンドとの間に水等が溜まることを抑制可能であると共に、リテーナ周辺に錆が発生することを抑制可能なアクスルシャフト支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明のアクスルシャフト支持構造は、アクスルシャフトの端部側に設けられたアクスルエンドの外側面側に形成され、前記アクスルシャフトの径方向外側に向けて延びるように形成された排出路と、板状に形成され、前記アクスルエンドの外側面に固定されるリテーナと、を備え、前記リテーナは、前記アクスルシャフトを挿通するための挿通孔と、前記挿通孔の径方向外側に形成され、車幅方向外側に向けて凹む少なくとも1つの凹部と、を備え、前記排出路は、前記アクスルシャフトの径方向外側に向けて開口すると共に、前記リテーナの外部に通じており、前記凹部の少なくとも1つは、前記リテーナが前記アクスルエンドに固定された状態において、前記排出路と連通していること、を特徴とするものである。
【0007】
上述したアクスルシャフト支持構造は、リテーナが車幅方向外側に向けて凹む少なくとも1つの凹部を備えており、前記凹部がリテーナの外部に通ずる排出路に連通している。したがって、上述したアクスルシャフト支持構造は、リテーナの内部に侵入した水やオイル等を、排出路を通じてリテーナの外部に排出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造は、リテーナの内部側に水やオイル等が溜まることを抑制できるので、リテーナ等に錆が発生することを抑制できる。
【0008】
また、上述したアクスルシャフト支持構造は、車幅方向外側に向けて凹む凹部を有するので、リテーナ取り付け方向(例えば、上下方向、左右方向)の基準とすることができる。また、上述したアクスルシャフト支持構造は、リテーナ内側に侵入した水等を凹部で収集した上で、排出路に排出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造は、リテーナの内部に侵入する水やオイル等を効率的に排出路に排出することができる。
【0009】
ここで、凹部の形状は、例えば、三角形状や円形状など各種の形状に形成できる。また、排出路の形状や形成方向は、凹部の形状や配置に応じて、各種の形状や形成方向に形成することができる。また、排出路は、溝や孔など各種の形状で形成することができる。
【0010】
(2)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記凹部が、前記挿通孔を介して対称となるように一対形成されていること、を特徴とするとよい。
【0011】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、リテーナを上下反転させて使用することができる。これにより、アクスルシャフト支持構造の汎用性向上が期待できる。
【0012】
ここで、リテーナは、例えば、凹部の配置をそれぞれ左右対称に形成し、車両の左側用と右側用とで異なる2種類のものを用いることが考えられる。かかる構成とすることで、リテーナは、車両の両側における凹部の配置が前後方向に同じ並びとなる。しかしながら、かかる構成とする場合は、ブレーキ装置等の組み付け作業において、リテーナの組み付け方向を間違う懸念があった。
【0013】
(3)そこで、上述した課題を解消すべく、本発明のアクスルシャフト支持構造において、前記リテーナは、前記挿通孔の径方向外側に形成され、前記凹部から外れた位置に配される少なくとも1つの位置決め部を備えていること、を特徴とするとよい。
【0014】
上述したアクスルシャフト支持構造は、位置決め部を備えているので、例えば、車両の左右側でそれぞれリテーナの形状が異なる場合であっても、装着方向を間違えることを抑制できる。
【0015】
(4)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記凹部が、前記挿通孔を介して対称となるように一対形成されており、前記位置決め部が、一対の前記凹部を外れる位置において、前記挿通孔を介して対称となるように一対形成されていること、を特徴とするとよい。
【0016】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、例えば、リテーナが左右対称に形成されている場合であっても、位置決めを確実に行うことができる。また、上述したアクスルシャフト支持構造は、凹部と外れる位置に位置決め部が形成されているので、例えば、センサで位置決め部を検知する場合であっても、干渉することがない。
【0017】
(5)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記位置決め部が、センサにより検知可能に形成されていること、を特徴とするとよい。
【0018】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、位置決め部を自動的に検出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造は、例えば、自動ラインでリテーナの組み付けを行う場合であっても、組み付け間違いが生じることを抑制できる。ここで、センサには、例えば、レーザーセンサのような光学的な手段で検知を行うものの他、機械的に検出するものなど各種のセンサを利用することができる。また、センサによる位置決め部の検知は、直接的又は間接的に行うことができる。
【0019】
(6)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記位置決め部が、孔又は凹みとして形成されていること、を特徴とするとよい。
【0020】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、例えば、目視でも位置決め部を認識することができる。
【0021】
ここで、車両走行時には、跳ね上げられた水等が、前方側から後方側に向かって飛散しやすいものと考えられる。そのため、水等は、アクスルシャフトに設けられた排出路を伝って、アクスルエンドにおける車両前方側から侵入しやすくなるものと考えられる
【0022】
(7)そこで、上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記排出路が、前記アクスルエンドにおける車両後方側に形成されていること、を特徴とするとよい。
【0023】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、車両走行時に、水等の侵入を低減できる。
【0024】
(8)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記凹部が、前記挿通孔よりも下方側に形成されていること、を特徴とするとよい。
【0025】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、凹部内に流入した水やオイル等を効率良く外部に排出することができる。
【0026】
(9)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記凹部が、先細り形状に形成された先端部を有しており、前記先端部が、前記排出路に連通していること、を特徴とするとよい。
【0027】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、凹部に流入した水やオイル等を、先端部を介して排出路に効率良く排出することができる。ここで、凹部は、例えば、三角形状に形成するとよい。これにより、凹部に先細り形状の先端部が、効率良く形成される。
【0028】
(10)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造において、前記凹部の少なくとも1つは、前記挿通孔に対して後方下方側に配されると共に、前記先端部に向けて傾斜する第1傾斜面と、前記先端部に向けて傾斜すると共に、前記第1傾斜面と交差する方向に傾斜する第2傾斜面と、を有しており、前記第1傾斜面は、車両後方側に向けて下り傾斜すると共に、前記第2傾斜面よりも緩やかな第1傾斜角度で形成されており、前記第2傾斜面は、前記第1傾斜角度よりも大きな第2傾斜角度で車両後方側に向けて下り傾斜するように形成されていること、を特徴とするとよい。
【0029】
上述したアクスルシャフト支持構造は、凹部が、先端部に向けて傾斜する第1傾斜面を有しており、当該第1傾斜面が、第2傾斜面に対して緩やかな第1傾斜角度で形成されている。したがって、上述したアクスルシャフト支持構造は、車両走行時の慣性力により、水やオイル等を第1傾斜面に沿って排出路に向けて排出できる。また、第1傾斜面が凹部の先端部に向けて傾斜しているため、車両が水平状態にある場合でも、水やオイル等が排出路に向けて排出される。これらにより、上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、凹部内に水やオイル等が滞留することを抑制できるので、リテーナ等に錆が発生することを抑制できる。また、第2傾斜面は、第1傾斜角度よりも大きな第2傾斜角度で形成されているので、第2傾斜面が、壁となって、水やオイル等を、凹部の先端部に向けて跳ね除けることができる。これにより、上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、凹部内に水やオイル等が滞留することを抑制できるので、リテーナ等に錆が発生することを抑制できる。
【0030】
(11)上述した本発明のアクスルシャフト支持構造は、前記排出路が、前記アクスルエンドの外側面に溝として形成されており、前記溝は、車幅方向外側に向けて開口すると共に、前記アクスルシャフトの径方向外側に向けて開口することにより前記リテーナの外部に通じていること、を特徴とするとよい。
【0031】
上述したアクスルシャフト支持構造は、かかる構成とすることにより、排出路を簡単に形成することができる。そのため、アクスルエンドの加工性が向上する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、リテーナとアクスルエンドとの間に水等が溜まることを抑制可能であると共に、リテーナ周辺に錆が発生することを抑制可能なアクスルシャフト支持構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアクスルシャフト支持構造を搭載する車両のサスペンションを表す斜視図である。
【
図2】
図1の車幅方向左側部分における一部切欠き平面図である。
【
図5】
図2におけるリテーナ(左側用)に係る部分を示す拡大説明図である。
【
図8】(a)は、本発明のアクスルシャフト支持構造を構成するリテーナ(右側用)を表面側から見た斜視図であり、(b)は、
図7におけるリテーナ(右側用)を裏面側から見た斜視図である。
【
図9】本発明のアクスルシャフト支持構造に用いられるリテーナの変形例(左右共用)に係る正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係るアクスルシャフト支持構造1の詳細を説明する。これらの図は模式図であって、必ずしも大きさを正確な比率で記したものではない。また、図中、同様の構成部品は、同様の符号を付して示す。また、以下では、例えば、フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式とも称する)の四輪駆動車のリア部に採用されるリジット式サスペンションのリアアクスル(本実施形態では、半浮動軸管式リアアクスル)を例として説明する。また、以下では、「車幅方向」を「左右方向」と称することがある。
【0035】
本発明のアクスルシャフト支持構造1の説明にあたり、まず、車両(図示せず)に搭載されたリジット式サスペンション50(以下、単にサスペンション50とも称する)の概要について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0036】
サスペンション50は、車幅方向に延びるように配されたアクスルシャフト10と、左右一対のサスペンションアーム51,51と、左右一対のショックアブソーバ52,52と、ディファレンシャル部53等を備えている。
【0037】
図2及び
図3に示すように、アクスルシャフト10は、筒状のアクスルハウジング11内に中空状態で収容されており、車幅方向両端側がハブベアリング12,12を介してアクスルハウジング11に回動可能に支持されている。アクスルシャフト10は、本発明のアクスルシャフト支持構造1の一部を構成するものとされている。アクスルシャフト10は、中央にディファレンシャル部53(
図2参照)が設けられている。また、アクスルシャフト10は、両端側にアクスルエンド20,20が設けられている。アクスルエンド20,20の詳細は後述する。また、左右一対に設けられたアクスルエンド20,20等の部材は、左右方向で対称に設けられているため、以下では、車両左側の部材について説明し、車両右側の部材については、特に必要がない限り詳細な説明を省略する。
【0038】
図1に示すように、サスペンションアーム51は、車両(図示せず)に接続され、車両を支持するものとされている。ショックアブソーバ52は、車両と接続され、車輪(図示せず)から受ける衝撃を吸収するものとされている。
【0039】
ディファレンシャル部53は、適宜のディファレンシャルギアを備え、両側の車輪における内外輪差を吸収するものとされている。ディファレンシャル部53には、ビスカスカップリング54が設けられており、駆動源からの動力を伝えるプロペラシャフト(図示せず)が接続される。したがって、プロペラシャフトから駆動力がアクスルシャフト10に伝達され、アクスルシャフト10が回転駆動される。
【0040】
以上が、サスペンション50の概要であり、次に、本発明の一実施形態に係るアクスルシャフト支持構造1の詳細について説明する。なお、上述したとおり、アクスルシャフト10の左側の部材のみ説明し、右側の部材の説明は省略する。
【0041】
図3~
図6に示すように、アクスルシャフト支持構造1は、上述したアクスルシャフト10と、アクスルシャフト10の端部側に設けられるアクスルエンド20と、アクスルエンド20の外側面に形成された排出路25(
図5及び
図6参照)と、を備えている。また、アクスルシャフト支持構造1は、前記の他、リテーナ30と、リテーナ30に設けられた凹部33(
図4及び
図5参照)等を備えている。
【0042】
アクスルエンド20は、
図3及び
図5に示すように、アクスルシャフト10の端部側における軸心周りに円形状設けられている。アクスルエンド20は、ハブベアリング12を外周側から保持している。また、アクスルエンド20は、後述するリテーナ30を取り囲む大きさに形成されている。アクスルエンド20の外側面は、略平面状に形成されている。また、本実施形態では、アクスルエンド20の外側面に排出路25が溝25として形成されている(以下、排出路25を溝25とも称する)。また、アクスルエンド20の外側面には、バックプレート21が支持されている。また、アクスルエンド20の外側面には、バックプレート21を貫通するように複数(本実施形態では4本)のスタッドボルト2(
図4参照)が立設されている。
【0043】
図5に示すように、溝25は、本実施形態では、アクスルシャフト10よりも後方側の上方側及び下方側にそれぞれ形成されている。溝25,25は、アクスルエンド20の外側面において、アクスルシャフト10の径方向外側に向けて延びるように形成されている。溝25,25は、車幅方向外側に向けて開口している。溝25,25は、開口側が、バックプレート21に覆われることにより、水やオイル等の排出路25を形成している。下端側の溝25は、
図5~
図7に示すように、後述するバックプレート21に形成された連通孔22を介して、リテーナ30の外部に通じている。したがって、下端側の溝25は、アクスルシャフト10の径方向外側に向けて開口することによりリテーナ30の外部に通じている。なお、上端側の溝25及び下端側の溝25が、適宜、連通するように構成されていてもよい。
【0044】
ここで、溝25(排出路25)は、アクスルエンド20における車両後方側に形成されているとよい。このように構成することにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、車両走行時に、溝25からの水等の侵入を低減できる。
【0045】
上述したように、本実施形態におけるアクスルシャフト支持構造1は、排出路25が、アクスルエンド20の外側面に溝25として形成されており、当該溝25は、車幅方向外側に向けて開口すると共に、アクスルシャフト10の径方向外側に向けて開口することによりリテーナ30の外部に通じている。したがって、上述したアクスルシャフト支持構造1は、排出路25を簡単に形成することができる。そのため、アクスルエンド20の加工性が向上する。
【0046】
バックプレート21は、
図4に示すように、略円盤状に形成されている。バックプレート21には、ブレーキ装置70(本実施形態ではドラムブレーキ)の各種の部品(例えば、シュー)が組み付けられている。なお、ブレーキ装置70の各部品の説明は省略する。
【0047】
バックプレート21には、
図5及び
図6に示すように、溝25と連通する連通孔22が形成されている。詳細は後述するが、連通孔22は、リテーナ30における凹部33の先端部35の車幅方向内側に位置するように形成されている。
【0048】
リテーナ30は、例えば、金属等を素材として略矩形状の板状に形成されている。リテーナ30には、挿通孔31と、一対の凹部33,33と、一対の位置決め部34,34と、が形成されている。また、リテーナ30の外周寄りの部分には、上述したスタッドボルト2を挿通させる複数(本実施形態では、4つ)のボルト孔32が形成されている。
【0049】
挿通孔31は、アクスルシャフト10を挿通可能なように、アクスルシャフト10の外形よりも僅かに大きな径で形成されている。すなわち、挿通孔31及びアクスルシャフト10の間には、アクスルシャフト10の回動を許容するための隙間が形成されている。挿通孔31に、アクスルシャフト10を挿通すると共に、ボルト孔32にスタッドボルト2を挿通した状態で、車外方向からナット3(
図3参照)を締め付けることにより、リテーナ30が、アクスルエンド20の外側面に固定される。これにより、ハブベアリング12及びアクスルシャフト10の車幅方向外側に向けての移動が制限される。言い換えると、リテーナ30は、アクスルシャフト10(ハブベアリング12)の抜け止めとして機能する。
【0050】
一対の凹部33,33は、
図5~
図7に示すように、挿通孔31の径方向外側に形成されている。また、凹部33,33は、車幅方向外側に向けて凹むように形成されている[
図8(a)及び
図8(b)参照]。凹部33,33は、アクスルシャフト10に沿う方向からの正面視において、三角形状に形成されており、挿通孔31の径方向外側に頂点の一つが向くように形成されている。言い換えると、凹部33,33は、先細り形状に形成された先端部35,35を有している。
【0051】
ここで、凹部33,33には、挿通孔31及びアクスルシャフト10の間の隙間から侵入する水、あるいは、ハブベアリング12等の潤滑用のオイル等が流入するものとされている。言い換えると、凹部33,33は、リテーナ30の車内側に侵入した水やオイル等が、飛散しないように凹部33,33内に集約させることができる。
【0052】
また、
図5に示すように、下方側の凹部33は、リテーナ30がアクスルエンド20に固定された状態において、先端部35が、排出路25(溝25)と連通している。したがって、凹部33,33内に流入した水やオイル等は、排出路25を通じてリテーナ30の外部に排出される。
【0053】
このように、上述したアクスルシャフト支持構造1は、凹部33が先端部35を有するので、凹部33に流入した水やオイル等を、先端部35を介して排出路25に効率良く排出することができる。凹部33は、三角形状に形成しておくことにより、先細り形状の先端部35を効率良く形成できる。
【0054】
図5及び
図7に示すように、挿通孔31に対して後方下方側に配された凹部33は、先端部35に向けて傾斜する第1傾斜面36Aと、先端部35に向けて傾斜すると共に、第1傾斜面36Aと交差する方向に傾斜する第2傾斜面36Bと、を有している。
【0055】
図7に示すように、第1傾斜面36Aは、車両後方側に向けて下り傾斜すると共に、第2傾斜面36Bよりも緩やかな第1傾斜角度θ1で形成されている。第2傾斜面36Bは、第1傾斜角度θ1よりも大きな第2傾斜角度θ2で車両後方側に向けて下り傾斜するように形成されている。
【0056】
したがって、上述したアクスルシャフト支持構造1は、車両走行時の慣性力により、水やオイル等を第1傾斜面36Aに沿って排出路25に向けて排出できる。また、第1傾斜面36Aが凹部33の先端部35に向けて傾斜しているため、車両が水平状態にある場合でも、水やオイル等が排出路25に向けて排出される。これらにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、凹部33内に水やオイル等が滞留することを抑制できるので、リテーナ30等に錆が発生することを抑制できる。また、第2傾斜面36Bは、第1傾斜角度θ1よりも大きな第2傾斜角度θ2で形成されているので、第2傾斜面36Bが、壁となって、水やオイル等を、凹部33の先端部35に向けて跳ね除けることができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、凹部33内に水やオイル等が滞留することを抑制できるので、リテーナ30等に錆が発生することを抑制できる。
【0057】
図5に示すように、凹部33,33は、本実施形態では、挿通孔31に対して、前方上方側と、挿通孔31の中心に対して点対称となる後方下方側と、に配されている。したがって、本実施形態のアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30を上下反転させて使用することができる。これにより、アクスルシャフト支持構造1の汎用性向上が期待できる。
【0058】
また、少なくとも一方の凹部33は、挿通孔31よりも下方側に形成されているとよい。これにより、凹部33は、内部に流入した水やオイル等を、効率良く外部に排出することができる。
【0059】
一対の位置決め部34,34は、円形孔として形成され、挿通孔31の径方向外側に形成されている。ここで、位置決め部34,34は、それぞれ各種の形状に形成でき、例えば、凹みとして形成されていてもよい。また、位置決め部34,34は、それぞれ凹部33,33から外れた位置に配されている。具体的には、位置決め部34,34は、一対の凹部33,33を外れる位置において、挿通孔31の中心に対して点対称となるように形成されている。
【0060】
このように、上述したアクスルシャフト支持構造1は、位置決め部34,34が、挿通孔31を介して対称に配されているので、例えば、リテーナ30が左右対称に形成されている場合であっても、位置決めを確実に行うことができる。また、上述したアクスルシャフト支持構造1は、凹部33,33と外れる位置に位置決め部34,34が形成されているので、例えば、センサで位置決め部34を検知する場合であっても、干渉することがない。
【0061】
また、上述したアクスルシャフト支持構造1は、位置決め部34,34を備えているので、例えば、車両の左右側(
図5及び
図6参照)でそれぞれリテーナ30,30の形状が異なる場合であっても、装着方向を間違えることを抑制できる。
【0062】
また、位置決め部34,34は、センサ(図示せず)により検知可能に形成されている。ここで、前記センサには、例えば、レーザーセンサのような光学的な手段で検知を行うものの他、機械的に検出するものなど各種のセンサを利用することができる。また、センサによる位置決め部34,34の検知は、直接的又は間接的に行うことができる。
【0063】
このように、上述したアクスルシャフト支持構造1は、位置決め部34,34を自動的に検出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、例えば、自動ラインでリテーナ30の組み付けを行う場合であっても、組み付け間違いが生じることを抑制できる。また、位置決め部34,34は、孔や凹みとして形成することにより、例えば、目視でも認識することができる。
【0064】
以上が、本発明の一実施形態に係るアクスルシャフト支持構造1の構成であり、次に本発明のアクスルシャフト支持構造1の作用効果について説明する。
【0065】
上述したアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30に車幅方向外側に向けて凹む少なくとも1つの凹部33を備えており、凹部33がリテーナ30の外部に通ずる排出路25に連通している。したがって、上述したアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30の内部に侵入した水やオイル等を、排出路25を通じてリテーナ30の外部に排出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30の内部側に水やオイル等が溜まることを抑制できるので、リテーナ30等に錆が発生することを抑制できる。
【0066】
また、上述したアクスルシャフト支持構造1は、車幅方向外側に向けて凹む凹部33を有するので、リテーナ30の取り付け方向(例えば、上下方向、左右方向)の基準とすることができる。また、上述したアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30の内側に侵入した水等を凹部33で収集(集約)した上で、排出路25に排出することができる。これにより、上述したアクスルシャフト支持構造1は、リテーナ30の内部に侵入する水やオイル等を効率的に排出路25に排出することができる。
【0067】
また、車両の左側用と右側用とで、リテーナ30における凹部33の配置が、それぞれ左右対称に形成されて異なる場合であっても、それぞれのリテーナ30,30に位置決め部34が設けられているので、リテーナ30,30の組み付け方向を間違うことを抑制できる。
【0068】
以上が、本発明の一実施形態に係るアクスルシャフト支持構造1の構成及び作用効果であり、次に本発明の変形例に係るアクスルシャフト支持構造1を構成するリテーナ130について
図9を参照しながら説明する。なお、上述した実施形態と同一の部品については、同一の符号を用いていることに留意されたい。
【0069】
≪変形例≫
変形例に係るアクスルシャフト支持構造1を構成するリテーナ130は、凹部33が4つ設けられていること以外は、リテーナ30と同様の構成を有しているので、上述した実施形態と同様の部品については、説明を省略する。
【0070】
リテーナ130における車両前方側には、挿通孔31に対して上下で対をなした一対の凹部33,33が形成されている。また、リテーナ130における車両後方側には、挿通孔31に対して上下で対をなした一対の凹部33,33が形成されている。すなわち、各凹部33,33,33,33は、挿通孔31に対して上下左右対称となるように配されている。なお、変形例に係るアクスルシャフト支持構造1においては、リテーナ30の方向性を区別する必要がないため、位置決め部34は、設けられていない。
【0071】
また、溝25(排出路25)は、挿通孔31に対して車両後方側の上下に一対設けられている。ここで、溝25は、各種の位置に設けることが可能であるが、車両前進時に車輪等から跳ね上げられる水等の異物の侵入を抑制する観点から挿通孔31に対して車両後方側に設けることが望ましい。かかる構成を採用する場合は、車両前方側に位置する凹部33,33と、車両後方側に設けられた排出路25と、を連通させてもよい。
【0072】
以上が、本発明の実施形態及び変形例に係るアクスルシャフト支持構造1の構成であるが、本発明のアクスルシャフト支持構造1は、上述した実施形態には限定されず、各種の変形を行うことができる。
【0073】
本実施形態では、リジット式サスペンション50における半浮動軸管式のアクスルシャフト10を例として説明したが、本発明は、これには限定されず、各種の方式や形状のアクスルシャフト10に利用できる。また、本実施形態では、排出路25が溝25として形成されているが、排出路25は、溝25には限定されず各種の形状に形成できる。例えば、排出路25が、アクスルエンド20に管状に形成されていてもよい。また、排出路25は、車両後方側に開口するように形成することが望ましいが、凹部33の形成位置や形成個数等に応じて、各種の位置に設けることができる。また、排出路25の開口位置や開口方向は、アクスルシャフト10が設けられる位置や、車両等の特性に応じて、適宜変更することが可能である。また、リテーナ30やリテーナ130は、各種の形状に形成することができる。また、凹部33と排出路25とを連通させる位置も、凹部33の配置や個数等に応じて適宜変更することが可能である。
【0074】
本実施形態では、凹部33が、三角形状に形成されているが、凹部33は、これには限定されず、各種の形状に形成できる。例えば、凹部33は、円形状に形成されていてもよい。また、凹部33は、各種の位置に設けることができ、設ける個数についても単一のものから複数のものまで各種の個数で設けることができる。また、排出路25の形状や形成方向は、凹部33の形状や配置に応じて、各種の形状や形成方向に形成できる。
【0075】
また、本実施形態では、凹部33が、挿通孔31を介して対称となるように一対形成されているが、凹部33は、これには限定されず、各種の位置に設けることができる。また、本実施形態では、車幅方向左側用と右側用とで、それぞれ対称に形成しているが、車幅方向左側用と右側用とがそれぞれ対称に形成されていなくてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、複数の位置決め部34が設けられているが、位置決め部34は、必要に応じて必要な数量を設ければよく、例えば、位置決め部34を有しないものや位置決め部34が単一のものであってもよい。また、位置決め部34は、リテーナ30,130の装着方向を識別可能であればよく、それぞれ対称に形成されていなくてもよい。また、位置決め部34の形状や大きさは、各種のものが利用できる。位置決め部34は、孔や凹みだけではなく、例えば、マーキングやバーコード(シール等で添付されているものを含む)等として形成されていてもよい。また、位置決め部34は、各種のセンサで自動的に認識するものや目視等で人為的に認識するものなど各種の手段で認識することができる。また、位置決め部34の認識は、直接的なもの又は間接的なもののいずれであってもよい。
【0077】
また、本実施形態では、凹部33が、先細り形状に形成された先端部35を有しているが、先端部35は、必要に応じて形成すればよく、先端部35を有しない構成とすることも可能である。また、先端部35を形成する場合において、先端部35は、各種の形状に形成することができるが、一箇所に水やオイル等を収集(集約)できる形状に形成することが望ましい。また、本実施形態では、凹部33に第1傾斜面36A及び第2傾斜面36Bが設けられているが、これらは必要に応じて設ければよい。また、第1傾斜面36A及び第2傾斜面36Bを設ける場合において、第1傾斜面36A及び第2傾斜面36Bの傾斜方向は、水やオイル等を効率的に排出可能な各種の方向に設定できる。また、第1傾斜面36Aの第1傾斜角度θ1、及び第2傾斜面36Bの第2傾斜角度θ2も上述した実施形態に限定されず、各種の角度に形成できる。
【0078】
以上が、本発明に係るアクスルシャフト支持構造の各種の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のアクスルシャフト支持構造は、アクスルシャフトを用いる車両等の各種の動力伝達手段に利用することができる。本発明のアクスルシャフト支持構造は、特に、リジット式サスペンションにおけるアクスルシャフトの支持に好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 :アクスルシャフト支持構造
10 :アクスルシャフト
12 :ハブベアリング
20 :アクスルエンド
21 :バックプレート
25 :排出路(溝)
30 :リテーナ
31 :挿通孔
33 :凹部
34 :位置決め部
35 :先端部
36A:第1傾斜面
36B:第2傾斜面
50 :サスペンション(リジット式サスペンション)
70 :ブレーキ装置
130 :リテーナ
θ1 :第1傾斜角度
θ2 :第2傾斜角度