(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008109
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】細胞培養システム、及び細胞移送方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109682
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】田中 郷史
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】西山 喬晴
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】 袋状の培養容器における細胞の移送を効率的に行うことが可能な細胞培養システムを提供する。
【解決手段】 少なくとも2つのポート12,13を有する培養容器10を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムであって、内容液が収容された培養容器を押圧可能な押圧部材24と、培養容器10に気体を供給する気体供給部と、培養容器10に液体又は気体を注入する第一の移送部と、培養容器10から液体又は気体を排出する第二の移送部とを備え、第一の移送部により気体供給部から第一のポート12を介して培養容器10に気体を注入し、培養容器10内の内容液を第二のポート13側に移動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムであって、
内容液が収容された前記培養容器を押圧可能な押圧部材と、
前記培養容器に気体を供給する気体供給部と、
前記培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、
前記培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部と、を備え、
前記第一の移送部により前記気体供給部から第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記培養容器内の内容液を第二のポート側に移動させる
ことを特徴とする細胞培養システム。
【請求項2】
前記第一の移送部により前記気体供給部から前記第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記第二の移送部により前記第二のポートを介して前記培養容器から内容液を排出して、前記培養容器内の内容液を前記第二のポート側に移動させる
ことを特徴とする請求項1記載の細胞培養システム。
【請求項3】
前記第二のポートが、前記第一のポートに対向して前記培養容器に備えられたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項4】
前記培養容器に前記第二のポートを介して他の培養容器が連通され、前記培養容器の前記内容液が、前記他の培養容器に移送されることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項5】
前記押圧部材により前記培養容器内の液厚を10mm以下にした状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入することを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項6】
前記培養容器の上面及び下面を水平にした状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入することを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項7】
前記培養容器の上面を傾斜させる傾斜機構を備え、
前記第一のポート側が上側で、前記第二のポート側が下側になるように、前記傾斜機構により前記培養容器の上面が傾斜された状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入することを特徴とする請求項1記載の細胞培養システム。
【請求項8】
前記培養容器を傾斜させる他の傾斜機構を備え、
前記第一のポート側が上側で、前記第二のポート側が下側になるように、前記傾斜機構により前記培養容器が傾斜された状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入することを特徴とする請求項1記載の細胞培養システム。
【請求項9】
前記傾斜機構として、カム、ソレノイドシリンダ、又はエアシリンダを用いることを特徴とする請求項7又は8記載の細胞培養システム。
【請求項10】
前記培養容器が、軟包材からなることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項11】
前記培養容器が、袋状であることを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システム。
【請求項12】
少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムにおける細胞移送方法であって、
前記細胞培養システムが、細胞と培地が収容された前記培養容器を押圧可能な押圧部材と、前記培養容器に気体を供給する気体供給部と、前記培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、前記培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部と、を備え、
前記第一の移送部により前記気体供給部から第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記第二の移送部により第二のポートを介して前記培養容器から培地を排出して、前記培養容器内の細胞と培地を前記第二のポート側に移動させる
ことを特徴とする細胞移送方法。
【請求項13】
前記培養容器に前記第二のポートを介して他の培養容器を連通し、前記培養容器内の細胞と培地を、前記他の培養容器に移送することを特徴とする請求項12記載の細胞移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養技術に関し、特に袋状の培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような状況において、軟包材からなる袋状の培養容器を用いて、細胞を閉鎖系で大量培養することが行われている。
【0003】
袋状の培養容器を用いて細胞を大量培養する場合、複数の培養容器をチューブなどで連結して、培養容器間で細胞や培地を移送し、各培養容器で細胞培養を行うことがある。
しかしながら、袋状の培養容器間における細胞の移送を自動で行うことは、容易ではなかった。
すなわち、培養容器内における細胞は、一般的に培養面付近に存在しているため、単に培地を注入して細胞を次の培養容器に移送しようとしても簡単には移動せず、多くの細胞が元の培養容器に残留するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6601713号公報
【特許文献2】特許第4845950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数の培養容器間における細胞の移送に関連する技術として、特許文献1に記載の培養装置を挙げることができる。この文献には、培養容器を傾斜させることによって、培養容器から培地の排出を行い易くすることが開示されている。
しかし、この培養装置では、培養容器を傾斜させるための機構として、大掛かりな構成を必要とするものであった。
【0006】
ところで、袋状の培養容器を用いて細胞培養を行うにあたり、培養容器を押圧部材などによって押圧し、培養容器内の液厚を一定にした状態で培養する場合がある。
このように培養容器内の液厚を一定にすれば、例えば培地交換時などにおける送液制御を行い易いというメリットがある。また、培養容器内の液厚を小さくして培地交換を行うことにより、必要な培地量を低減させることも可能である。
【0007】
しかしながら、培養容器を押圧部材などによって押圧した状態では、培養容器間の細胞の移送がより困難になるという問題があった。
すなわち、このように培養容器を押圧した状態では、たとえ培養容器を傾斜させて培養容器に培地を注入しても、細胞は他の培養容器に容易には移送されず、多くの細胞が元の培養容器に残留してしまうという問題があった。
そこで、本発明者らは鋭意研究して、培養容器を押圧した状態で、培養容器に気体を注入することで、培養容器内の細胞の移送を効率的に行うことに成功して、本発明を完成させた。
【0008】
ここで、特許文献2には、カートリッジ型の自動培養装置が記載されており、培養容器への滅菌ガスの放出と捕集を制御することが開示されている。
しかし、この自動培養装置は、袋状の培養容器を押圧した状態で、培養容器に気体を注入することにより、細胞の移送を効率的に行うことを可能にするものではなかった。
【0009】
これに対して、本発明によれば、袋状の培養容器を押圧した状態で、培養容器に気体を注入するという比較的簡単な構成によって、細胞や培地を効率よく移送することが可能である。
また、本発明では、培養容器内の液厚を小さく制御して移送を行うことができるため、移送時間を短時間にすることができ、用いる培地などの液体の使用量を少なくしつつ、細胞の移送を行うことが可能である。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、袋状の培養容器における細胞の移送を効率的に行うことが可能な細胞培養システム、及び細胞移送方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養システムは、少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムであって、内容液が収容された前記培養容器を押圧可能な押圧部材と、前記培養容器に気体を供給する気体供給部と、前記培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、前記培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部とを備え、前記第一の移送部により前記気体供給部から第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記培養容器内の内容液を第二のポート側に移動させる構成としてある。
【0012】
また、本発明の細胞培養システムを、前記第一の移送部により前記気体供給部から前記第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記第二の移送部により前記第二のポートを介して前記培養容器から内容液を排出して、前記培養容器内の内容液を前記第二のポート側に移動させる構成とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の細胞培養システムを、前記第二のポートが、前記第一のポートに対向して前記培養容器に備えられた構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器に前記第二のポートを介して他の培養容器が連通され、前記培養容器の前記内容液が、前記他の培養容器に移送される構成とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の細胞培養システムを、前記押圧部材により前記培養容器内の液厚を10mm以下にした状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器の上面及び下面を水平にした状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器の上面を傾斜させる傾斜機構を備え、前記第一のポート側が上側で、前記第二のポート側が下側になるように、前記傾斜機構により前記培養容器の上面が傾斜された状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器を傾斜させる他の傾斜機構を備え、前記第一のポート側が上側で、前記第二のポート側が下側になるように、前記傾斜機構により前記培養容器が傾斜された状態で、前記第一の移送部により前記培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
【0017】
また、本発明の細胞培養システムを、前記傾斜機構として、カム、ソレノイドシリンダ、又はエアシリンダを用いる構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器が、軟包材からなる構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養システムを、前記培養容器が、袋状である構成とすることが好ましい。
さらに、本実施形態の細胞培養システムを、上記の細胞培養システムにおける各構成を様々に組み合わせたものとすることも好ましい。
【0018】
また、本発明の細胞移送方法は、少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムにおける細胞移送方法であって、前記細胞培養システムが、細胞と培地が収容された前記培養容器を押圧可能な押圧部材と、前記培養容器に気体を供給する気体供給部と、前記培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、前記培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部とを備え、前記第一の移送部により前記気体供給部から第一のポートを介して前記培養容器に気体を注入し、前記第二の移送部により第二のポートを介して前記培養容器から培地を排出して、前記培養容器内の細胞と培地を前記第二のポート側に移動させる方法としてある。
【0019】
また、本発明の細胞移送方法を、前記培養容器に前記第二のポートを介して他の培養容器を連通し、前記培養容器内の細胞と培地を、前記他の培養容器に移送する方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、袋状の培養容器における細胞の移送を効率的に行うことが可能な細胞培養システム、及び細胞移送方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおいて用いられる袋状の培養容器の平面図と正面図を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る細胞培養システムを用いて袋状の培養容器を押圧して培養容器に気体を注入し細胞と培地を移送する様子を示す模式図である。
【
図3】袋状の培養容器を押圧して培養容器に培地を注入し、細胞を移送しようとする様子を示す模式図である。
【
図4】袋状の培養容器を押圧することなく、培養容器に気体を注入して細胞と培地を移送しようとする様子を示す模式図である。
【
図5】袋状の培養容器を押圧する場合であって、培養容器内の液厚が所定以上の大きさの場合に、培養容器に気体を注入して細胞と培地を移送しようとする様子を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)により培養容器の上面を傾斜させた状態を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る細胞培養システムを用いて液体を充填した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させることなく、培養容器に気体を注入した場合に生じ得る気体と液体の界面が移動する様子を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る細胞培養システムを用いて液体を充填した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させて、培養容器に気体を注入した場合の気体と液体の界面が移動する様子を示す模式図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)の制御装置を示す模式図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(カム型)により培養容器の上面を傾斜させた状態を示す模式図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおいて、複数の培養容器を並列して連通させて培養容器への気体や液体の移送を制御する構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の細胞培養システム、及び細胞移送方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0023】
[細胞培養システム]
本実施形態の細胞培養システムは、少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムであって、内容液が収容された培養容器を押圧可能な押圧部材と、培養容器に気体を供給する気体供給部と、培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部とを備え、第一の移送部により気体供給部から第一のポートを介して培養容器に気体を注入し、培養容器内の内容液を第二のポート側に移動させることを特徴とする。
【0024】
また、本実施形態の細胞培養システムは、第一の移送部により気体供給部から第一のポートを介して培養容器に気体を注入し、第二の移送部により第二のポートを介して培養容器から内容液を排出して、培養容器内の内容液を第二のポート側に移動させることを特徴とする。
【0025】
まず、
図1を参照して、本実施形態の細胞培養システムにおいて用いられる軟包材からなる袋状の培養容器について説明する。
図1は、本実施形態の細胞培養システムにおいて用いられる袋状の培養容器の平面図と正面図を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の細胞培養システムにおいて用いられる袋状の培養容器10は、2枚のフィルムの周縁部をヒートシールなどによって貼り合わせ、内部に細胞培養に用いることの可能な培養面を有する培養室11が形成されている。
【0026】
培養容器10には、内容液の注入を行うためポート12(第一のポート)が備えられている。また、培養容器10には、内容液の排出を行うためポート13(第二のポート)が備えられている。培養容器10において、ポート13をポート12に対向して備えることが好ましい。
なお、培養容器10に備えられるポートの個数は、3つ以上であってもよい。
【0027】
ポート12にはチューブが接続され、チューブにはポンプなどの第一の移送部が配設されている。また、ポート13にもチューブが接続され、チューブにはポンプなどの第二の移送部が配設されている。
そして、第一の移送部を作動させることで、ポート12を介して培養容器10に内容液の供給を行うことが可能になっている。また、第二の移送部を作動させることで、ポート13を介して培養容器10から内容液の排出を行うことが可能になっている。
【0028】
また、
図1において、培養容器10の培養室の周縁領域に外側向きに張り出した膨出形状が形成されている。これにより、後述するように培養容器10の上面を傾斜させ易くなっている。しかし、培養容器10の形状は、これに限定されず、膨出形状を備えていないものであってもよい。
【0029】
培養容器10の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。その他用いることができる材料として、ポリメチルペンテン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリアミド、アイオノマー、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂、塩化ポリエチレンなどが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーも用いることができる。また、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱硬化性エラストマーや、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂も用いることができる。
【0030】
また、ポートの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
培養容器10に注入する内容液としては、特に限定されないが、細胞増殖用培地、分化誘導用培地、洗浄液、剥離液、又は細胞懸濁液などの液体を用いることができる。また、内容液には細胞が含まれる場合がある。
【0031】
次に、
図2を参照して、本実施形態の細胞培養システムにおける細胞の移送について説明する。
図2は、本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置を用いて袋状の培養容器を押圧して、培養容器に気体を注入し細胞と培地を移送する様子を示す模式図である。
図2に示すように、本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置20は、培養容器10を載置する架台21を備えている。また、架台21の端部には、天板部23を支持する天板支持部22が立設して備えられている。
【0032】
天板部23の下面側の四隅にはマグネット231が備えられると共に、ガイドピン232が取り付けられている。
また、天板部23には、培養容器10内の液厚を検出する測長センサ233が備えられている。
【0033】
また、押圧装置20には、培養容器10を架台21に対して押圧する押圧部材24が備えられている。
押圧部材24の上面側の四隅には天板部23のマグネット231に対面するようにマグネット241が備えられている。マグネット231とマグネット241が互いに反発し合うことで、押圧部材24が培養容器10を架台21に対して押圧できるようになっている。
なお、押圧部材24により培養容器10を押圧する手段は、これに限定されるものではなく、バネなどの付勢手段を用いたり、あるいは押圧部材24の自重により培養容器10を押圧する構成としてもよい。
【0034】
また、押圧部材24の四隅には、天板部23のガイドピン232を移動可能に挿入するためのガイド孔242(貫通孔)が形成されており、ガイドピン232に沿って押圧部材24が上下に移動可能になっている。
さらに、このガイド孔242の直径をガイドピン232の直径に対して幅広に設定することにより、後述するように押圧部材24を架台21に対して傾斜可能にすることができるようになっている。
【0035】
また、押圧部材24の上面側において、天板部23の測長センサ233に対面するように金属部材243が備えられている。測長センサ233がこの金属部材243までの距離を測定し、その測定結果にもとづいて、測長センサ233に接続される制御装置により培養容器10の液厚を算出できるようになっている。
また、押圧部材24には、培養容器10に接する押圧板244が備えられている。
【0036】
本実施形態の細胞培養システムは、
図2において図示されていないが、ポート12にチューブを介して接続された気体供給部を備えている。
気体供給部としては、例えば空気が充填された容器とすることができる。また、その他の気体を供給可能な装置であってもよい。
また、ポート13には、チューブを介して他の培養容器又は廃液容器などの容器が連通されている。
【0037】
さらに、上述のとおり、ポート12に接続されたチューブには第一の移送部が配設され、第一の移送部によって、気体供給部から培養容器10に気体3を供給することができるようになっている。また、第一の移送部によって、培地容器などから培養容器10に培地1を供給することもできる。
また、ポート13に接続されたチューブには第二の移送部が配設され、第二の移送部によって、培養容器10から他の培養容器などに培地1を移送したり、気体3や培地1を排出したりすることが可能になっている。
【0038】
そして、培養容器10を押圧部材24により押圧した状態で、第一の移送部によってポート12を介して気体供給部から培養容器10に気体3を注入して、培養容器10内の培地1と細胞2をポート13側に移動させることができるようになっている。
このとき、第一の移送部を作動させて気体供給部から培養容器10に気体3を注入した後、第一の移送部を停止し、次に第二の移送部を作動させて培養容器10から培地1を排出することによって、培養容器10内の培地1と細胞2をポート13側に移動させることができる。
【0039】
また、第一の移送部を作動させて気体供給部から培養容器10に気体3を注入しながら、第二の移送部を作動させて培養容器10から培地1を排出することによって、培養容器10内の培地1と細胞2をポート13側に移動させることもできる。
そして、ポート13を介して培養容器10から培地1と細胞2を他の容器に移送させることもできる。
【0040】
このように、本実施形態の細胞培養システムによれば、培養容器10を押圧部材24により押圧した状態であっても、培養容器10に気体3を注入することによって、培養容器10内の培地1と細胞2を移動させることができ、培養容器10から他の培養容器などに細胞を容易に移送させることが可能になっている。
【0041】
ここで、本実施形態の細胞培養システムの想到に至った経緯につき、
図3を参照して説明する。
図3は、袋状の培養容器を押圧して培養容器に培地を注入し、細胞を移送しようとする様子を示す模式図である。
袋状の培養容器10から細胞2を他の容器に移送するために、培養容器10内の液厚を1mmにしたまま、同一の送液速度で培地1をポート12から注入すると共に、ポート13から排出した(以下、この送液方法を維持送液と称する場合がある。)。
【0042】
当初は、維持送液を行うことによって、細胞がどんどん送液されて、他の容器に移送させるものと想定していた。しかし、10mlの培地が充填された培養容器10に対して50mlの培地の送液を行っても、30~40%程度の細胞しか培養容器10から排出されず、培養容器10内に細胞が大量に残留してしまったという結果が得られた。
また、残留した細胞を排出するために、さらに多くの培地を用いて長時間の送液を行うと、送液による剪断によって細胞がダメージを受け、死細胞が増加してしまった。
【0043】
このように培養容器10内の細胞は、培地の送液によっては1分間に数mmしか動かず、適切に移送できないという問題があった。また、多くの培地を用いて長時間の送液を行うことにより、細胞を移送させることは可能ではあるものの、死細胞の増加に繋がるため、これを行うことは現実的ではなかった。
これに対して、本実施形態の細胞培養システムによれば、培養容器10に気体を注入可能にして、気体によって細胞と培地を移動でき、培養容器10から他の容器に細胞を効率的に移送させることが可能になっている。
【0044】
次に、
図4を参照して、培養容器10を押圧することなく、培養容器10に気体を注入して、細胞を移送させる場合の問題点につき説明する。
図4は、袋状の培養容器を押圧することなく、培養容器に気体を注入して細胞と培地を移送しようとする様子を示す模式図である。
【0045】
この場合、培養容器10に注入された気体3は、容器の中央付近に集まるため、培地1を細胞2と共に移送させることが難しいという問題があった。
このため、本実施形態の細胞培養システムにように、培養容器10を押圧部材24により押圧して、培養容器10に気体を注入することが好ましい。
【0046】
しかしながら、後述するように、培養容器10の上面又は培養容器10自体を傾斜させることにより、注入した気体をポート12側に集めた後、気体と液体の界面をポート13側に移動させることによって、培養容器10からの細胞の移送をより効率化させることが可能である。
【0047】
次に、
図5を参照して、培養容器10を押圧部材24により押圧するものの、培養容器10内の液厚が大きくなると、培地を細胞と共に移送させることが難しくなることについて説明する。
図5は、袋状の培養容器を押圧する場合であって、培養容器内の液厚が所定以上の大きさの場合に、培養容器に気体を注入して細胞と培地を移送しようとする様子を示す模式図である。
【0048】
本実施形態の細胞培養システムにおいて、培養容器10内の液厚を大きくした状態で、培養容器10に気体3を注入すると、気体3は容器の上方に集まり、培地1を細胞2と共に移送させることがやや難しくなるという問題があった。
このような状態であっても、
図3を用いて説明したように、培養容器10に培地1を注入して細胞2を移送しようとする場合に比較すると、細胞の移送効率は向上する。
【0049】
一方、本実施形態の細胞培養システムによる細胞の移送効率をより向上させる観点から、培養容器10内の液厚を10mm以下にして、培養容器10に気体を注入することが好ましく、液厚を5mm以下にして行うことがより好ましく、液厚を2mm以下にして行うことがさらに好ましく、液厚を1mm以下にして行うことが特に好ましい。
また、後述するように、培養容器10の上面又は培養容器10自体を傾斜させることによって、培養容器10からの細胞の移送を一層効率化させることが可能である。
【0050】
次に、
図6及び
図7を参照して、培養容器10の上面を傾斜させる構成について説明する。
図6は、本実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)を示す模式図である。
図7は、同傾斜機構により培養容器の上面を傾斜させた状態を示す模式図である。
【0051】
本実施形態の細胞培養システムを、培養容器の上面を傾斜させる傾斜機構を備え、第一のポート側が上側で、第二のポート側が下側になるように、傾斜機構により培養容器の上面が傾斜された状態で、第一の移送部により培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
【0052】
すなわち、
図6に示すように、本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置20aは、傾斜機構25aをさらに備えている。
この傾斜機構25aは、ソレノイドシリンダを用いて構成されており、ロッド251aが備えられ、ブラケット252aを介して天板部23aに固定されている。
【0053】
傾斜機構25aは、ON(ロッドが出る)状態とOFF(ロッドが出ていない)状態にすることができ、押圧部材24aを下げる側の傾斜機構25aのみをON状態にすることにより、押圧部材24aにより押圧された培養容器10の上面を傾斜させることができる。
図7において、右側の傾斜機構25aをのみをON状態にすることで、培養容器10のポート12側が上側になり、ポート13側が下側になるように、培養容器10の上面を傾斜させることが可能である。
図7では、傾斜機構25aを2つ備えることにより、培養容器10の上面を左右のいずれの側にも傾斜可能にしているが、培養容器10のポート12からのみ気体を注入する場合は、右側の傾斜機構25aをのみを備える構成としてもよい。
【0054】
なお、本実施形態の細胞培養システムにおいて、培養容器10を押圧部材24aにより下側から押圧する構成として、傾斜機構25aにより培養容器10の下面を傾斜させる構成とすることも可能である。
【0055】
ここで、培養容器10の上面を傾斜させて、培養容器10に気体を注入する場合と、培養容器10の上面を傾斜させることなく、培養容器10に気体を注入する場合の相違について、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、本実施形態に係る細胞培養システムを用いて液体を充填した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させることなく、培養容器に気体を注入した場合に生じ得る気体と液体の界面が移動する様子を示す模式図である。
図9は、本実施形態に係る細胞培養システムを用いて液体を充填した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させて、培養容器に気体を注入した場合の気体と液体の界面が移動する様子を示す模式図である。
【0056】
図8に示すように、液体1を収容した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させることなく、ポート12側から培養容器に気体3を注入し、ポート13を介して培養容器から液体1を排出すると、気泡に偏りが生じやすい。
このため、ポート12側からポート13側に向けて、気体3と液体1の界面がポート12とポート13を結ぶ直線に対して垂直に近い形で進み難い。
【0057】
これに対して、
図9に示すように、液体1を収容した袋状の培養容器を押圧して、培養容器の上面を傾斜させて、ポート12側から培養容器に気体3を注入すると、気泡がポート12側に集まり易い。
このため、ポート13を介して培養容器から液体1を排出するにしたがって、ポート12側からポート13側に向けて、気体3と液体1の界面がポート12とポート13を結ぶ直線に対して比較的垂直に近い形で進み易くなっている。
【0058】
このため、本実施形態の細胞培養システムにおいて、上記のように、培養容器の上面を傾斜させることによって、培養容器の上面を傾斜させない場合に比較して、培養容器10内の細胞の移送をより効率的に行うことが可能になっている。
しかしながら、本実施形態の細胞培養システムにおいて、培養容器の上面を傾斜させない場合であっても、培養容器に気体を注入することによって、細胞の移動効率は大きく向上する。
このため、本実施形態の細胞培養システムは、培養容器の上面を傾斜させない場合であっても有益な効果を奏するものである。
【0059】
次に、
図10を参照して、本実施形態の細胞培養システムにおける制御装置について説明する。
図10は、本実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)の制御装置を示す模式図である。
図10に示すように、制御装置30(制御ユニット)は、入出力部31、制御部32、操作部33、及び電源部34を有するものとすることができる。
【0060】
入出力部31は、押圧装置20aにおける測長センサ231aと、傾斜機構25aに接続されている。そして、測長センサ231aからの入力情報を制御部32に出力する。また、制御部32からの入力情報を傾斜機構25aに出力する。
【0061】
制御部32は、PLC(programmable logic controller,プログラマブルロジックコントローラ)などにより構成され、所望の制御内容を予めプログラミングして記憶させ、これにもとづいて各部の動作を制御することができる。
すなわち、制御部32は、傾斜機構25aを制御するための情報を所定のタイミングで入出力部61を介して傾斜機構25aに送信して、その動作を制御することができる。
また、制御部32は、測長センサ231aからの入力情報にもとづき培養容器10内の液厚を算出することができる。
【0062】
操作部33は、タッチパネルなどの表示部を備え、ユーザによる入力情報を制御部32に送信してPLCの設定などを実行する。また、制御部32からの入力情報を表示する。
電源部34(安定化電源など)は、制御装置30内の各部に電気を供給する。
また、図示しないが、制御装置30において、さらに継電部(リレー)や配線遮断部(ブレーカー)を備えた構成とすることができる。また、制御装置30における制御部32や操作部33などの一部又は全部の構成をマイコンやコンピュータなどの情報処理装置により実現してもよい。
【0063】
次に、
図11を参照して、その他の傾斜機構を備えた本実施形態の細胞培養システムについて説明する。
図11は、本実施形態に係る細胞培養システムにおける傾斜機構(カム型)により培養容器の上面を傾斜させた状態を示す模式図である。
図11に示すように、本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置20bに、カムを用いて構成された傾斜機構26bを備えることも好ましい。
【0064】
傾斜機構26bは、回転軸261bにカム262bが取り付けられており、回転軸261bをモータ263bにより回転させることで、カム262bが押圧部材24bを押し下げて傾斜させることが可能になっている。モータ263bは、架台21bに立設された支持部264bにより支持されている。
【0065】
図11では、カム262bを2つ備えることにより、培養容器10の上面を左右のいずれの側にも傾斜可能にしているが、培養容器10のポート12からのみ気体を注入する場合は、右側のカム262bをのみを備える構成としてもよい。
【0066】
さらに、本実施形態の細胞培養システムにおける傾斜機構は、ソレノイドシリンダやカムを用いるものに限定されず、例えばエアシリンダなどその他の機構で構成することも可能であることは勿論である。
また、
図10に示すソレノイドシリンダ型の傾斜機構25aを備えた押圧装置20aと同様に、カム型やその他の傾斜機構を備えた細胞培養システムについても、制御装置30によって、培養容器10の上面の傾斜を制御することが可能である。
【0067】
また、本実施形態の細胞培養システムは、培養容器を傾斜させる他の傾斜機構を備え、第一のポート側が上側で、第二のポート側が下側になるように、傾斜機構により培養容器が傾斜された状態で、第一の移送部により培養容器に気体を注入する構成とすることが好ましい。
【0068】
すなわち、上記の例では、本実施形態の細胞培養システムにより、培養容器10の上面を傾斜させることについて説明したが、培養容器10を押圧装置20a(20b)により押圧した状態で、押圧装置20a(20b)ごと培養容器10を傾斜させることも可能である。
この場合は、例えば押圧部材24a(24b)の架台21a(21b)の裏面から傾斜機構25aや傾斜機構26bによって、培養容器10のポート12側が上側になり、ポート13側が下側になるように、培養容器10を傾斜させることが可能である。
【0069】
さらに、本実施形態の細胞培養システムは、培養容器10に第二のポート13を介して他の培養容器が連通され、培養容器10の内容液が、他の培養容器に移送される構成とすることも好ましい。
すなわち、本実施形態の細胞培養システムを、
図12に示すように、押圧装置20(20a,20b)を複数備え、それぞれの押圧装置20に載置された培養容器10がポート12とポート13を介して並列して連通された構成とすることが好ましい。
【0070】
具体的には、第一の押圧装置20-1に第一の培養容器10-1を載置し、第二の押圧装置20-2に第二の培養容器10-2を載置し、第三の押圧装置20-3に第三の培養容器10-3を載置して、各培養容器に備えられたポートをチューブを用いて並列に連通させた構成とすることが好ましい。また、各培養容器のポートに接続されたチューブには、それぞれポンプなどの移送部51~56を配設することが好ましい。
【0071】
本実施形態の細胞培養システムには、培地容器41、気体容器42、剥離液容器43、及び洗浄液容器44が備えられ、それぞれがバルブなどの開閉部61~64を介して、各培養容器10に連通されている。また、廃液容器45もバルブなどの開閉部65を介して、各培養容器10に連通されている。
【0072】
また、本実施形態の細胞培養システムにおいて、上述した制御装置30を備えることが好ましい。
そして、制御装置30の入出力部31を各ポンプとバルブに接続して、制御部32からの情報にもとづいて、これらのポンプとバルブの動作を制御することが好ましい。
【0073】
これにより、培地容器41から培養容器10への培地の送液や、気体容器42から培養容器10への気体の移送、及び培養容器10から廃液容器43への培地や気体の移送等を自動的に制御することが可能である。
また、上述したとおり、制御部32からの情報にもとづいて、傾斜機構25a(26b)を制御することで、培養容器10の上面を傾斜させて、気体容器42から培養容器10への気体の移送を行うことも可能である。
【0074】
このような本実施形態の細胞培養システムは、例えば接着細胞の継代培養に好適に用いることが可能である。
具体的には、第一の培養容器10-1に対して培地と細胞を供給し、第一の培養容器10-1において細胞を培養する。
【0075】
第一の培養容器10-1における細胞培養が完了した後、気体容器42から第一の培養容器10-1に気体を注入して、第一の培養容器10-1における培地と細胞を第二の培養容器10-2に移送し、第二の培養容器10-2において細胞培養を行う。
本実施形態の細胞培養システムによれば、第一の培養容器10-1から第二の培養容器10-2への細胞の移送をより効率的に行うことが可能になっている。
【0076】
そして、同様にして、第二の培養容器10-2における細胞培養が完了した後、気体容器42から第二の培養容器10-2に気体を注入して、第二の培養容器10-2における培地と細胞を第三の培養容器10-3に移送し、第三の培養容器10-3において細胞培養を行うことができる。
なお、これらにおいて、第二の培養容器10-2や第三の培養容器10-3に培地容器41から培地を供給して細胞培養を行うことができることは言うまでもない。
【0077】
また、本実施形態の細胞培養システムは、細胞の分化誘導などにも好適に用いることが可能である。
例えば、第一の培養容器10-1でiPS細胞を接着培養して増殖させた後、気体容器42から第一の培養容器10-1に気体を注入して、第一の培養容器10-1における培地と細胞を第二の培養容器10-2に移送する。そして、分化誘導に必要な培地を培地容器41から第二の培養容器10-2に供給して、第二の培養容器10-2において細胞培養を行うことが可能である。
また、必要に応じて、第二の培養容器10-2から第三の培養容器10-3に細胞を移送して、さらに分化誘導を行わせることが可能である。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の細胞培養システムによれば、複数の培養バッグを連通して、これらのバッグ間で細胞の移送を行う場合に、細胞を効率的に移送することが可能になっている。また、このとき本実施形態の細胞培養システムによれば、移送に伴って死細胞が生じるリスクが低く、細胞の移送を安全に行うことが可能になっている。
【0079】
[細胞移送方法]
本実施形態の細胞移送方法は、少なくとも2つのポートを有する培養容器を用いて細胞の培養を行う細胞培養システムにおける細胞移送方法であって、細胞培養システムが、細胞と培地が収容された培養容器を押圧可能な押圧部材と、培養容器に気体を供給する気体供給部と、培養容器に液体又は気体を注入する第一の移送部と、培養容器から液体又は気体を排出する第二の移送部とを備え、第一の移送部により気体供給部から第一のポートを介して培養容器に気体を注入し、第二の移送部により第二のポートを介して培養容器から培地を排出して、培養容器内の細胞と培地を第二のポート側に移動させることを特徴とする。
また、本実施形態の細胞移送方法を、培養容器に第二のポートを介して他の培養容器を連通し、培養容器内の細胞と培地を他の培養容器に移送する方法とすることも好ましい。
さらに、培養容器は、軟包材からなることが好ましく、袋状であることが好ましい。
【0080】
このような本実施形態の細胞移送方法によれば、本実施形態の細胞培養システムを用いることにより、複数の袋状の培養容器間における細胞の移送などを効率的に行うことが可能である。
【実施例0081】
以下、本発明の実施形態に係る細胞培養システム及び細胞移送方法の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0082】
[試験1]
まず、本実施形態の細胞培養システムを用いて培養容器を押圧し、培養容器の上面を傾斜させることなく、培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合について試験を行った。なお、併せて、培養容器を押圧せず、培養容器の上面を傾斜させることなく、培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合についての試験も行った。
【0083】
具体的には、本実施形態の細胞培養システムとして、傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)を有する押圧装置を備えたものを準備した。ただし、本試験では、傾斜機構はOFF状態のままで行った。また、培養容器として、培養面が100cm2の面積を有する培養バッグを7つ準備した。このうち5つは培養バッグを押圧する場合に使用し、残りの2つは培養バッグを押圧しない場合に使用した。
【0084】
上記の5つの培養バッグには、それぞれ200ml, 100ml, 50ml, 20ml, 10mlの培地(ALyS505N-7,株式会社細胞科学研究所社)を充填した。各培養バッグ内の液厚は、それぞれ順に20mm, 10mm, 5mm, 2mm, 1mmであった。
また、上記の2つの培養バッグには、それぞれ100ml, 10mlの同じ培地を充填した。各培養バッグ内の液厚は、それぞれ順に概ね10mm, 1mmであった。
さらに、各培養バッグに注入する空気量を、各培養バッグに充填した培地量の25%とした。
【0085】
次に、試験細胞として、ヒトPBMC(末梢血単核細胞, IQ BIOSIENCES社)を準備し、各培養バッグに1e8個ずつ注入した。
また、100mlの培地を充填した培養バッグを載置台に載置して、一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結した。また、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。さらに、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されておらず、培養バッグの上面及び下面は概ね水平に維持されていた。
【0086】
そして、100mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに25mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
なお、100mlの培地が充填された培養バッグに対して25mlの空気を注入することにより、100mlの培地を25mlの空気により、排出側のポートから排出することが可能である。
【0087】
次に、廃液容器に排出された培地中の細胞数を血球計数盤を用いて計数した。
また、培養バッグにシリンジを用いて再度培地を注入し、培養バッグを叩いて撹拌した後、細胞と培地をシリンジで抜いて、培養バッグに残留した細胞数を血球計数盤を用いて計数した。
【0088】
次に、上記と同じ培養バッグを押圧せずに行った試験を10mlの培地を充填した培養バッグを用いて行った。
具体的には、10mlの培地を充填した培養バッグを載置台に載置して、一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結した。また、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。さらに、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されておらず、培養バッグの上面及び下面は概ね水平に維持されていた。
【0089】
そして、10mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに2.5mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
また、排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0090】
次に、200mlの培地を充填した培養バッグを本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置に載置して押圧し、一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結し、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。また、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されており、培養バッグの上面及び下面は概ね水平に維持されていた。
【0091】
そして、200mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに50mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
また、排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0092】
次に、上記と同じ培養バッグを押圧して行った試験を100mlの培地を充填した培養バッグを用いて行った。
具体的には、100mlの培地を充填した培養バッグを本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置に載置して押圧し、一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結し、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。また、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されており、培養バッグの上面及び下面は概ね水平に維持されていた。
【0093】
そして、100mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに25mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
また、排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0094】
さらに、培養バッグを押圧して行った試験を50ml, 20ml, 10mlの培地をそれぞれ充填した培養バッグを用いて同様に行った。
そして、それぞれの排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
その結果を表1に示す。
【0095】
【0096】
表1に示されるように、100mlの培地を充填して押圧しなかった培養バッグでは、細胞の移動率は33%であった。また、10mlの培地を充填して押圧しなかった培養バッグでは、細胞の移動率は39%であった。なお、これらでは培養バッグに空気を注入すると気泡が培養バッグ内の中央上面付近に集まった。
【0097】
これに対して、200mlの培地を充填して押圧した培養バッグでは、細胞の移動率は52%であった。また、100mlの培地を充填して押圧した培養バッグでは、細胞の移動率は78%であった。さらに、50ml, 20ml, 10mlの培地を充填して押圧した培養バッグでは、細胞の移動率はそれぞれ93%、95%、98%であった。
このように、本実施形態の細胞培養システムを用いて培養容器を押圧し、培養容器の上面を傾斜させることなく、培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合、細胞を効率的に移送できることが分かった。
【0098】
[試験2]
次に、本実施形態の細胞培養システムを用いて培養容器を押圧し、培養容器の上面を傾斜させて培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合について試験を行った。なお、併せて、培養容器を押圧せず、培養容器の上面を傾斜させて培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合についての試験も行った。
【0099】
具体的には、本実施形態の細胞培養システムとして、傾斜機構(ソレノイドシリンダ型)を有する押圧装置を備えたものを準備した。本試験では、培養バッグの排出ポート側に位置する傾斜機構をON状態にして、培養バッグの注入ポート側が上側に、排出ポート側が下側になるように培養バッグの上面を傾斜させて行った。
また、培養容器として、培養面が100cm2の面積を有する培養バッグを7つ準備した。このうち5つは培養バッグを押圧する場合に使用し、残りの2つは培養バッグを押圧しない場合に使用した。
【0100】
上記の5つの培養バッグには、それぞれ200ml, 100ml, 50ml, 20ml, 10mlの培地(ALyS505N-7,株式会社細胞科学研究所社)を充填した。各培養バッグ内の液厚は、それぞれ順に20mm, 10mm, 5mm, 2mm, 1mmであった。
また、上記の2つの培養バッグには、それぞれ100ml, 10mlの同じ培地を充填した。各培養バッグ内の液厚は、それぞれ順に概ね10mm, 1mmであった。
さらに、各培養バッグに注入する空気量を、各培養バッグに充填した培地量の25%とした。
【0101】
次に、試験細胞として、ヒトPBMC(末梢血単核細胞,IQ BIOSIENCES社)を準備し、各培養バッグに1e8個ずつ注入した。
また、100mlの培地を充填した培養バッグを載置台に載置し、この載置台を傾斜させることで、培養バッグを傾斜させた。
【0102】
また、培養バッグの一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結し、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。さらに、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されておらず、培養バッグの上面は傾斜されていた。
【0103】
そして、100mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに25mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
また、排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0104】
次に、培養バッグを押圧せずに傾斜させて行った試験を10mlの培地を充填した培養バッグを用いて同様に行った。
そして、それぞれの排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0105】
次に、200mlの培地を充填した培養バッグを本実施形態の細胞培養システムにおける押圧装置に載置して押圧した。また、傾斜機構を作動させて、培養バッグの注入ポート側が上側に、排出ポート側が下側になるように培養バッグの上面を傾斜させた。
また、培養バッグの一方のポートにチューブを介して空気供給容器を連結し、他方のポートにチューブを介して廃液容器を連結した。また、それぞれのチューブにポンプを配設した。このとき、培養バッグは押圧されており、培養バッグの上面は傾斜されていた。
【0106】
そして、200mlの培地を充填した培養バッグへの注入側のポンプを作動させて培養バッグに50mlの空気を5ml/分の速度で注入した。次いで注入側のポンプを停止し、排出側のポンプを作動させて、培養バッグ内の培地と細胞を廃液容器へ移送した。
また、排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
【0107】
次に、培養バッグを押圧し傾斜させて行った試験を100ml, 50ml, 20ml, 10mlの培地をそれぞれ充填した培養バッグを用いて同様に行った。
そして、それぞれの排出培地中の細胞数と培養バッグ内に残留した細胞数を計数した。
その結果を表2に示す。
【0108】
【0109】
表2に示されるように、100mlの培地を充填して押圧せず傾斜させた培養バッグでは、細胞の移動率は56%であった。また、10mlの培地を充填して押圧せず傾斜させた培養バッグでは、細胞の移動率は89%であった。
【0110】
これに対して、200mlの培地を充填して押圧し傾斜させた培養バッグでは、細胞の移動率は73%であった。また、100ml, 50ml, 20ml, 10mlの培地を充填して押圧した培養バッグでは、細胞の移動率はそれぞれ93%、98%、96%、96%であった。
このように、本実施形態の細胞培養システムを用いて培養容器を押圧し、培養容器の上面を傾斜させて培養容器に空気を注入して細胞を移送させる場合、細胞をより効率的に移送できることが分かった。
【0111】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。例えば、傾斜機構として他の手段を用いるなど適宜変更することが可能である。