(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081145
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】車両の車輪スリップ制御デバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1761 20060101AFI20240610BHJP
【FI】
B60T8/1761
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023203632
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】18/074767
(32)【優先日】2022-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】木島 直人
(72)【発明者】
【氏名】小野 俊作
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA11
3D246BA02
3D246CA02
3D246DA01
3D246FA04
3D246GB01
3D246GC14
3D246HA51A
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3D246HA64A
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3D246JA15
3D246JB03
3D246JB05
3D246JB10
3D246JB12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】オートバイなどの車両で車輪スリップを制御する為のデバイス及び方法に関する。
【解決手段】新規の車輪スリップ制御デバイス及び方法は、車両運転者がスライド又はドリフト操縦を実行する際に要求に応じてアンチロックブレーキシステムのスリップ率閾値を彼又は彼女に操作させるユーザインタフェースデバイスを設けること―こうしてシステムが操縦を中断するのを防ぐ一方で、通常の車両運転中にアンチロックブレーキシステムの安全上の長所も保持することにより、従来のアンチロックブレーキシステムを改良する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライダーにより運転される車両での車輪スリップを制御する為の装置であって、
アンチロックブレーキシステムであって、前記車両の車輪のスリップ率が閾値を超えた場合に前記アンチロックブレーキシステムが前記車輪での制動力を減少させるように、前記スリップ率と関連して前記制動力を制御するアンチロックブレーキシステムと、
前記アンチロックブレーキシステムに作動接続されるユーザインタフェースデバイスであって、前記ユーザインタフェースデバイスが配向を有し、前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向が前記ライダーにより動作範囲内で操作され、前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向に少なくとも部分的に基づいて前記アンチロックブレーキシステムが値範囲内で前記閾値を変化させる、ユーザインタフェースデバイスと、
を具備する装置。
【請求項2】
前記車両が二輪オートバイ又は三輪オートバイである、請求項1の装置。
【請求項3】
前記ユーザインタフェースデバイスが、前記車両のスロットル、前記車両のハンドルバー、又は専用の入力デバイスである、請求項2の装置。
【請求項4】
前記アンチロックブレーキシステムに作動接続される慣性測定ユニットであって、前記慣性測定ユニットが前記アンチロックブレーキシステムに慣性測定信号を出力し、前記アンチロックブレーキシステムが、前記慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいて、前記ライダーからのスライド要求があるかどうかを判断し、前記ライダーからのスライド要求がある場合にのみ、前記アンチロックブレーキシステムが前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向に基づいて前記閾値を変化させる、慣性測定ユニット、
をさらに具備する、請求項3の装置。
【請求項5】
ライダーにより運転されてアンチロックブレーキシステムを装備する車両で車輪スリップを制御する為の方法であって、
前記アンチロックブレーキシステムのスリップ率閾値を初期値に設定することと、
前記ライダーによる前記車両のブレーキの起動を受けて前記車両の車輪に制動力を印加することと、
前記ライダーによる前記車両のユーザインタフェースデバイスの配向の操作を受けて前記スリップ率閾値を初期値から増加させることと、
前記車輪のスリップ率を判断することと、
前記スリップ率が前記スリップ率閾値を超えた場合に前記制動力を減少させることと、
を包含する方法。
【請求項6】
前記車両が二輪オートバイ又は三輪オートバイである、請求項5の方法。
【請求項7】
前記ユーザインタフェースデバイスが、前記車両のスロットル、前記車両のハンドルバー、又は専用の入力デバイスである、請求項6の方法。
【請求項8】
前記車両の為の慣性測定信号を慣性測定ユニットで発生させることと、
前記慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいて前記ライダーからのスライド要求があるかどうかを判断することと、
をさらに包含し、
前記ライダーによる前記ユーザインタフェースデバイスの配向の操作を受けて前記スリップ率閾値を初期値から増加させる前記ステップが、前記ライダーからのスライド要求があると判断された場合に実施されるが、前記ライダーからのスライド要求がないと判断された場合には実施されない、
請求項7の方法。
【請求項9】
ライダーにより運転される車両の為のアンチロックブレーキシステム制御器であって、
前記車両の車輪のスリップ率が閾値を超えた場合に制御デバイスが前記車輪での制動力を減少させるように、前記スリップ率と関連して前記制動力を制御するように構成されている制御デバイス、
を具備し、
前記制御デバイスがさらに、前記制御デバイスに作動接続されて配向を有するユーザインタフェースデバイスから信号を受信するように構成されており、
前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向が前記ライダーにより動作範囲内で操作され、
前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向に少なくとも部分的に基づいて前記閾値を値範囲内で変化させるように前記制御デバイスが構成されている、
アンチロックブレーキシステム制御器。
【請求項10】
前記車両が二輪オートバイ又は三輪オートバイである、請求項9のアンチロックブレーキシステム制御器。
【請求項11】
前記ユーザインタフェースデバイスが、前記車両のスロットル、前記車両のハンドルバー、又は専用の入力デバイスである、請求項10のアンチロックブレーキシステム制御器。
【請求項12】
前記制御デバイスに作動接続される慣性測定ユニットであって、前記慣性測定ユニットが前記制御デバイスに慣性測定信号を出力し、前記制御デバイスが、前記慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいて、前記ライダーからのスライド要求があるかどうかを判断し、前記制御デバイスが、前記ライダーからのスライド要求がある場合にのみ前記ユーザインタフェースデバイスの前記配向に基づいて前記閾値を変化させる、慣性測定ユニット、
をさらに具備する、請求項11のアンチロックブレーキシステム制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オートバイなどの車両で車輪スリップを制御する為のデバイス及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンチロックブレーキシステムは、制動中の車両牽引を向上させるのに使用されている。車両運転者がブレーキをかける際に、車両の車輪のスリップ率が所定の閾値を超えた場合、アンチロックブレーキシステムは、車輪に印加される制動力を減少させてこの車輪のスリップ率を低下させる。スリップ率が所定の底値より減少すると、スリップ率が閾値に達するまでアンチロックブレーキシステムが制動力を再び増加させ、その時点でスリップ率が底値に達するまで制動力が再び減少する―その結果、制動力の変動が生じる。このようなシステムの利点は、制動中の停止距離の減少及び操縦制御の増加を通した安全性の向上であるが、短所は、希望する時に車両運転者が車両の意図的なスライド又はドリフトを行なうのを妨げることである。
【0003】
本明細書に開示される車輪スリップ制御デバイス及び方法は、車両運転者がスライド又はドリフト操縦を実行する際に要求に応じてアンチロックブレーキシステムのスリップ率閾値を彼又は彼女に操作させ得るユーザインタフェースデバイスを設ける―こうしてシステムが操縦を中断するのを防ぐとともに通常の車両運転中にはアンチロックブレーキシステムの安全上の長所を保持することにより、従来のアンチロックブレーキシステムを改良する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様は、ライダーにより運転される車両の車輪スリップを制御する為の装置についてのものである。装置はアンチロックブレーキシステムを具備し、スリップ率が閾値を超えた場合にアンチロックブレーキシステムが制動力を減少させるように、アンチロックブレーキシステムは車輪のスリップ率と関連して車両の車輪での制動力を制御する。装置はさらに、アンチロックブレーキシステムに作動接続されるユーザインタフェースデバイスを具備し、ユーザインタフェースデバイスの配向は動作範囲内でライダーにより操作可能であり、アンチロックブレーキシステムは、ユーザインタフェースデバイスの配向に少なくとも部分的に基づいて値範囲内で閾値を変化させる。車両は好ましくは、二輪オートバイ又は三輪オートバイである。ユーザインタフェースデバイスは好ましくは車両のスロットルであるが、代替的に車両のハンドルバー又は専用の入力デバイスであってもよい。
【0005】
装置はさらに、アンチロックブレーキシステムに作動接続される慣性測定ユニットを具備してもよく、慣性測定ユニットは、アンチロックブレーキシステムに慣性測定信号を出力し、アンチロックブレーキシステムは、慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいてライダーからのスライド要求があるかどうかを判断し、アンチロックブレーキシステムは、ライダーからのスライド要求がある場合にのみユーザインタフェースデバイスの配向に基づいて閾値を変化させる。
【0006】
本開示の別の態様は、ライダーにより運転されてアンチロックブレーキシステムを装備する車両の車輪スリップを制御する為の方法についてのものである。この方法は、アンチロックブレーキシステムのスリップ率閾値を初期値に設定することと、ライダーによる車両のブレーキの起動を受けて車両の車輪に制動力を印加することと、ライダーによる車両のユーザインタフェースデバイスの配向の操作を受けてスリップ率閾値を初期値から増加させることと、車輪のスリップ率を判断することと、スリップ率が閾値を超えた場合に制動力を減少させることとを包含する。上に要約された装置のように、車両は好ましくは二輪オートバイ又は三輪オートバイであり、ユーザインタフェースデバイスは好ましくは車両のスロットルであるが、代替的に車両のハンドルバー又は専用の入力デバイスであってもよい。
【0007】
この方法はさらに、慣性測定ユニットを備える車両の為に慣性測定信号を発生させることと、慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいて、ライダーからのスライド要求があるかどうかを判断することとを包含してもよく、ライダーによるユーザインタフェースデバイスの配向の操作を受けてスリップ率閾値を初期値から増加させるステップは、ライダーからのスライド要求があると判断された場合に実施されるが、ライダーからのスライド要求がないと判断された場合には実施されない。
【0008】
本開示の別の態様は、ライダーにより運転される車両の為のアンチロックブレーキシステム制御器についてのものである。制御器は、車輪のスリップ率が閾値を超えた場合に制御デバイスが制動力を減少させるように、スリップ率と関連して車両の車輪での制動力を制御するように構成されている制御デバイスを具備し、制御デバイスはさらに、制御デバイスに作動接続されるユーザインタフェースデバイスからの信号を受信するように構成されており、ユーザインタフェースデバイスの配向は動作範囲内でライダーにより操作可能であり、制御デバイスは、ユーザインタフェースデバイスの配向に少なくとも部分的に基づいて値範囲内で閾値を変化させるように構成されている。
【0009】
アンチロックブレーキシステム制御器はさらに、制御デバイスに作動接続される慣性測定ユニットを具備してもよく、慣性測定ユニットは制御デバイスに慣性測定信号を出力し、制御デバイスは、慣性測定信号に少なくとも部分的に基づいてライダーからのスライド要求があるかどうかを判断し、制御デバイスは、ライダーからのスライド要求がある場合にのみユーザインタフェースデバイスの配向に基づいて閾値を変化させる。
【0010】
本開示の上記の態様及び他の態様が、添付図面を参照して以下でより詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態による車両の概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態によるブレーキシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態による車両のスライド角を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による制御デバイスの機能的構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態による車両の車輪のスリップ率とグリップ力との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態による制御デバイスにより実施される、通常モードとスライド制御モードとの切替えに関係する処理フローの一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の実施形態による車両の走行中における様々な状態量の推移を経時的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図示されている実施形態が、図面を参照して開示される。しかしながら、開示される実施形態は様々な代替的形態で具現化され得る単なる例を意図したものであることが理解されるはずである。図は必ずしも一定の縮尺ではなく、特定コンポーネントの詳細を示すように幾つかの特徴は誇張又は最小化され得る。開示される特定の構造的及び機能的な詳細は、限定としてではなく、開示される概念をどのように実践するかを当業者に教示する為の代表的な根拠として解釈されるものとする。
【0013】
図1に示されているように、本発明による装備を持つ車両100は二輪オートバイであり得る。このような車両は、車体1、車体1によりターン可能に保持されて手動の回転スロットル5を含むハンドルバー2、ハンドルバー2とともにターン可能であるように車体1により保持される前輪3、車体1により回転可能に保持される後輪4、アンチロックブレーキシステム10、前輪車輪速度センサ41、後輪車輪速度センサ42、慣性測定ユニット(IMU)43、アンチロックブレーキシステム10に設けられた液圧制御ユニット50、液圧制御ユニット50に設けられて好ましくはプロセッサとメモリとを具備する制御デバイス60、及びエンジン70を具備し得る。
【0014】
図1及び2に示されているように、アンチロックブレーキシステム10は、第1ブレーキ操作部分11と、少なくとも第1ブレーキ操作部分11と協働して前輪3を制動する為の前輪制動機構12と、第2ブレーキ操作部分13と、少なくとも第2ブレーキ操作ユニット13と協働して後輪4を制動する為の後輪制動機構14とを具備する。さらに、アンチロックブレーキシステム10は液圧制御ユニット50を具備し、前輪制動機構12の一部分と後輪制動機構14の一部分とがこの液圧制御ユニット50に含まれる。液圧制御ユニット50は、前輪制動機構12によって前輪3で発生される制動力と、後輪制動機構14によって後輪4で発生される制動力とを制御するという機能を担当するユニットである。
【0015】
第1ブレーキ操作部分11はハンドルバー2に設けられ、ライダーの手によって操作される。第1ブレーキ操作部分11は例えばブレーキレバーである。第2ブレーキ操作部分13は車体1の下方部分に設けられ、ライダーの足によって操作される。第2ブレーキ操作部分13は、例えばブレーキペダルである。しかしながら、スクータその他のブレーキ操作部分のように、第1ブレーキ操作部分11と第2ブレーキ操作部分13の両方が、ライダーの手によって操作されるブレーキレバーであってもよい。
【0016】
前輪制動機構12と後輪制動機構14の各々は、内蔵ピストン(不図示)を有するマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21に装着されるリザーバ22と、車体1に保持されてブレーキパッド(不図示)を有するブレーキキャリパ23と、ブレーキキャリパ23に設けられる車輪シリンダ24と、マスタシリンダ21のブレーキ液を車輪シリンダ24へ循環させる為の主要流路25と、車輪シリンダ24のブレーキ液を放出する為の補助流路26とを具備する。
【0017】
主要流路25には吸入バルブ(EV)31が設けられる。補助流路26は、主要流路25の車輪シリンダ24側とマスタシリンダ21側との間で吸入バルブ31を迂回する。補助流路26には、上流側から連続して、吐出バルブ(AV)32と蓄圧器33とポンプ34とが設けられている。
【0018】
吸入バルブ31は、例えば非励磁状態で開放して励磁状態で閉鎖する電磁バルブである。吐出バルブ32は、例えば非励磁状態で閉鎖して励磁状態で開放する電磁バルブである。
【0019】
液圧制御ユニット50は、吸入バルブ31と吐出バルブ32と蓄圧器33とポンプ34とを含めてブレーキ液圧を制御する為のコンポーネント、上記コンポーネントが設けられて主要流路25と補助流路26とを形成する為の流路が内部に形成される基本車体51、及び制御デバイス60を含む。
【0020】
基本車体51は単一の部材により形成され得るか多数の部材により形成され得ることが留意されるべきである。さらに、基本車体51が多数の部材により形成される時には、コンポーネントが分割されて各々が異なる部材に設けられてもよい。
【0021】
液圧制御ユニット50の上述のコンポーネントの作動は、制御デバイス60によって制御される。前輪制動機構12によって前輪3で発生される制動力と、後輪制動機構14によって後輪4で発生される制動力とは、この手段により制御される。
【0022】
通常の状況では(すなわち、ライダーにより実施される制動操作と同等の制動力が車輪で発生される時には)、制御デバイス60によって吸入バルブ31が開放されて吐出バルブ32が閉鎖される。この状態で、第1ブレーキ操作部分11が操作される時には、車輪シリンダ24のブレーキ液の液圧が上昇するように前輪制動機構12のマスタシリンダ21のピストン(不図示)が押し込まれて、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(不図示)が前輪3のロータ3aを押圧し、前輪3に制動力を発生させる。さらに、第2ブレーキ操作部分13が操作される時には、車輪シリンダ24のブレーキ液の液圧が上昇するように後輪制動機構14のマスタシリンダ21のピストン(不図示)が押し込まれて、ブレーキキャリパ23のブレーキパッド(不図示)が後輪4のロータ4aを押圧し、後輪4に制動力を発生させる。
【0023】
エンジン70は、車両100の駆動源の一例に相当し、駆動輪(具体的には後輪4)を駆動する為の原動力を出力することが可能である。例えば、エンジン70は、内側に燃焼室が形成された一以上のシリンダと、燃焼室に燃料を噴射する為の燃料噴射バルブと、スパークプラグとを備える。空気と燃料とから成る混合ガスは、燃料噴射バルブから燃料が噴射された結果として燃焼室の内側に形成され、この混合ガスがスパークプラグによって点火され、燃焼する。その結果、シリンダの内側に設けられたピストンが往復運動を行なってクランクシャフトを回転させる。さらに、エンジン70の吸気管にはスロットルバルブが設けられ、スロットルバルブの開口度であるスロットル開口度に従って燃焼室への吸気の量が変化する。
【0024】
前輪車輪速度センサ41は、前輪3の車輪速度(例えば、前輪3の時間単位当たり回転数[rpm]又は前輪3の時間単位当たり移動距離[km/時]等)を検出する為の車輪速度センサであり、検出結果を出力する。前輪車輪速度センサ41は、前輪3の車輪速度に実質的に変換され得る別の物理量も検出し得る。前輪車輪速度センサ41は前輪3に設けられる。
【0025】
後輪車輪速度ンサ42は、後輪4の車輪速度(例えば、後輪4の単位時間当たり回転数[rpm]又は後輪4の単位時間当たり移動距離[km/時]等)を検出する為の車輪速度センサであり、検出結果を出力する。後輪車輪速度センサ42は、後輪4の車輪速度に実質的に変換され得る別の物理量も検出し得る。後輪車輪速度センサ42は後輪4に設けられる。
【0026】
慣性測定ユニット43は、3軸ジャイロセンサと3方向加速度センサとを具備し、車両100の姿勢を検出する。慣性測定ユニット43は、例えば車体1に設けられる。
【0027】
具体的に記すと、慣性測定ユニット43は車両100のスライド角を検出し、慣性測定信号44を介して検出結果を制御デバイス60に出力する。慣性測定ユニット43は、車両100のスライド角に実質的に変換され得る別の物理量も検出し得る。スライド角は、
図3に示されている角度θ1(すなわち、車両100の前進方向D1と関連して車両本体(具体的には車体1)の傾斜を表す角度)に相当する。ターンの際に車両100のスライドが許容される時には、車両本体のサイドスリップの結果としてスライド角(
図3の角度θ1)が増加する。
【0028】
図3は、前進方向D1と前輪3の配向とが整合している例を示しているが、前進方向D1と前輪3の配向とが異なる場合もあることに留意されるべきである。慣性測定ユニット43は、例えば、慣性測定ユニット43のセンサの各々からの検出結果に基づいて、車両100の前進方向D1と車両100の姿勢とを特定することにより車両100のスライド角を検出し得る。
【0029】
図4に示されているように、制御デバイス60は、例えば獲得ユニット61と制御ユニット62とを具備する。好ましくは、制御デバイス60は信号プロセッサとメモリ(メモリはプロセッサの内部又は外部にある)とを具備し、獲得ユニット61と制御ユニット62とは論理的に独立しているが、必ずしも物理的に独立しているわけではない。代替的に、獲得ユニット61と制御ユニット62とは制御デバイス60の独立した物理コンポーネントである。
【0030】
獲得ユニット61は、車両100に取り付けられた各デバイスから情報を獲得し、制御ユニット62に出力を提供する。例えば、獲得ユニット61は、前輪車輪速度センサ41と後輪車輪速度センサ42と慣性測定ユニット43とから情報を獲得する。
【0031】
制御ユニット62は、車両100の挙動を制御する為に車両100で発生された制動力を制御する。制御ユニット62は、例えば判断ユニット62aと制動制御ユニット62bとを含む。
【0032】
判断ユニット62aは様々な判断を行なう。判断ユニット62aからの判断結果は、制動制御ユニット62bによって実施される処理に使用される。特に、判断ユニット62aは、ライダーからのスライド要求があるかどうか―言い換えると、ライダーが意図的なスライド又はドリフト操縦を開始したか開始を試みているかどうかを判断する。
【0033】
制動制御ユニット62bは、アンチロックブレーキシステム10において液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御することにより車両100の車輪で発生される制動力を制御する。
【0034】
上に記載されているように、通常の状況で、制動制御ユニット62bは、ライダーにより実施される制動操作と同等の制動力が車輪で発生されるように液圧制御ユニット50の各コンポーネントの動作を制御する。
【0035】
ここで、制動制御ユニット62bは、スリップ率が閾値を超えないように車輪での制動力を減少させることによりこの車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作を実行する。
【0036】
スリップ率は、路面に対して車輪がスライドする程度を示す指標であり、例えば、車両速度と車輪速度との差を車両速度で割ることにより求められるスリップ率がスリップ率として使用される。制動制御ユニット62bは、前輪3及び後輪4の車輪速度に基づいて車両100の車両速度(つまり車両本体の速度)を特定し、例えば各車輪のスリップ率を計算する。スリップ率以外のパラメータ(例えば、スリップ率に実質的に変換され得る別の物理量)がスリップ率として同様に使用され得ることが留意されるべきである。
【0037】
目標スリップ率は、上限値(本明細書では閾値とも称される)と下限値(本明細書では底値と称される)とを有する数値範囲である。以下の記載は、目標スリップ率が数値範囲である例に関係しているが、同様に目標スリップ率が数値範囲内ではなく単純な数値であってもよい。
【0038】
車輪のロックが発生するかロックの可能性がある時に、制動制御ユニット62bはアンチロックブレーキ操作を開始する。アンチロックブレーキ操作では、ロックの回避を可能にする制動力に車輪での制動力が調節される。また、アンチロックブレーキ操作の開始前に、制動制御ユニット62bは、ライダーによるブレーキ操作の量にのみ依存する増加勾配より小さくなるように車輪での制動力の増加勾配を変化させ得る。制動制御ユニット62bは、吸入バルブ31を開放/閉鎖することにより車輪での制動力の増加勾配を所望の勾配に制御する一方で、例えば、デューティ制御、パルス制御、又はその組合せ等によってこれを制御し得る。
【0039】
具体的に記すと、車輪のスリップ率が上昇してこの車輪の目標スリップ率の上限値(つまり閾値)を超えた時に、制動制御ユニット62bはアンチロックブレーキ操作を開始する。アンチロックブレーキ操作が開始された時に、制動制御ユニット62bは第一に、この車輪での制動力を減少させることによりこの車輪のスリップ率を低下させる。具体的に記すと、制動制御ユニット62bは、吸入バルブ31を閉状態に設定して吐出バルブ32を開状態に設定し、そしてこの状態で、車輪シリンダ24でのブレーキ液の液圧を減少させるとともに車輪で発生する制動力を減少させるようにポンプ34を駆動する。
【0040】
そして制動制御ユニット62bは、吸入バルブ31と吐出バルブ32の両方を閉鎖し、これにより車輪シリンダでのブレーキ液の液圧を維持して、車輪で発生される制動力を維持する。その後、車輪のスリップ率が低下して、この車輪の目標スリップ率の下限値(つまり底値)よりも下がると、制動制御ユニット62bはこの車輪での制動力を増加させることにより車輪のスリップ率を上昇させる。具体的に記すと、制動制御ユニット62bは、車輪シリンダ24でのブレーキ液の液圧を上昇させて車輪で発生される制動力を増加させるように、吸入バルブ31を開放して吐出バルブ32を閉鎖する。
【0041】
その後、車輪のスリップ率が上昇し、そしてこの車輪の目標スリップ率の上限値を再び超えると、この車輪での制動力を減少させることにより車輪のスリップ率を低下させる制御がまた再び実施される。こうして以下の制御が反復的に実施される。この車輪での制動力を減少させることにより車輪のスリップ率を低下させる制御、車輪での制動力を維持する制御、及びこの車輪での制動力を増加させることにより車輪のスリップ率を上昇させる制御。車輪のスリップ率が目標スリップ率の上限値と下限値との間(つまり閾値と底値との間)である時に制動制御ユニット62bがアンチロックブレーキ操作で車輪のスリップ率を維持し得ることに留意されるべきである。
【0042】
また、制動制御ユニット62bは、前輪制動機構12と後輪制動機構14とのそれぞれの作動を独立して制御することにより、前輪3で発生される制動力と後輪4で発生される制動力とを独立して制御し得る。
【0043】
上に記載のように、制御デバイス60の制御ユニット62は、車両100の車輪のスリップ率を目標スリップ率に制御するようにこの車輪での制動力又は駆動力を減少(及び、代替的に増加)させることにより、この車輪のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作を実行することが可能である。ここで、制御ユニット62は、意図的なスライド又はドリフト操縦をライダーが開始したか開始を試みているかの判断であるスライド要求があるかどうかに基づいて、後輪4でのアンチロックブレーキ操作(具体的に記すと、後輪4のスリップ率を目標スリップ率に制御するように後輪4での制動力を減少させることにより後輪4のロックが抑制される操作)を実行する。これは、運転の自由と車両の安全性との間にバランスを達成することを可能にする。このような制御デバイス60により実施される後輪4でのアンチロックブレーキ操作に関係する処理が、以下で詳細に記載される。
【0044】
上に記載されたように、制御ユニット62は、ライダーからのスライド要求があるかどうかに基づいて後輪4でのアンチロックブレーキ操作を実行する。具体的に記すと、ライダーからスライド要求がある時に、制御ユニット62は、後輪4でのアンチロックブレーキ操作を実行するスライド制御モードを実行する。スライド制御モードでは、スリップ率の閾値及び底値の初期値は、スライド要求がない時よりも高い。加えて、スライド制御モードでは、ユーザインタフェースデバイスによって閾値(及び、それに対応して底値)が値範囲内でさらに増加され得る。
【0045】
スライド制御モードが実行されないモードは、以下では「通常モード」と称されることに留意されるべきである。すなわち、通常モードが進行している間には、スライド制御モードが進行している間より後輪4の目標スリップ率が低い状態において、アンチロックブレーキ操作が後輪4で実行される。
【0046】
制御ユニット62は、スライド制御モードが進行している間に実行される後輪4でのアンチロックブレーキ操作における後輪4の目標スリップ率の下限値を、通常モードが進行している間に実行される後輪4でのアンチロックブレーキ操作における後輪4での目標スリップ率の上限値より高くする。スライド制御モードが進行している間は、通常モードが進行している間より後輪4のスリップ率が高い状態が、それゆえ許容される。
【0047】
図5は、車両100の車輪のスリップ率λとグリップ力Fとの関係の一例を示す図である。
図5で、スリップ率λは水平軸上に示され、グリップ力Fは垂直軸上に示されている。タイヤのグリップ力F(つまりタイヤと路面との間に発生する摩擦力)は、縦グリップ力F1と横グリップ力F2とに分解される。縦グリップ力F1は、タイヤの前進方向に対して平行なタイヤグリップ力Fの成分である。横グリップ力F2は、タイヤの前進方向に対して垂直なグリップ力Fの成分である。
図5に示されているように、縦グリップ力F1は概ね、スリップ率λが0%から20%まで上昇する過程で増加し、その後、スリップ率λが増加するにつれて減少する。さらに、横グリップ力F2は概ね、スリップ率λが高くなるにつれて減少する。スライド走行において、後輪4はサイドスリップが許容されなければならず、それゆえ後輪4のタイヤの横グリップ力F2はある程度まで減少する必要がある。
【0048】
図5のスリップ率λの範囲R1は、通常モードが進行している間に実行される後輪4でのアンチロックブレーキ操作における後輪4の目標スリップ率の一例に対応する。一方で、
図5のスリップ率λの範囲R2は、スライド制御モードが進行している間に実行される後輪4でのアンチロックブレーキ操作における後輪4の初期目標スリップ率の一例に対応する。スライド制御モードに対応する範囲R2の下限値は、通常モードに対応する範囲R1の上限値より高い。スライド制御モードが進行している間は、通常モードが進行している間よりも後輪4のスリップ率が高い状態が、それゆえ許容される。
【0049】
上に記載されているように、本実施形態によれば、ライダーからのスライド要求がある時にスライド制御モードが実行され、後輪4のスリップ率が高い状態が許容される。したがって、スライド走行中に、アンチロックブレーキ操作により生じる後輪4のタイヤの横グリップ力F2の過剰な増加を抑制することが可能であり、それゆえライダーの意図にしたがったスライド走行を可能にする。車両100における運転の自由と安全性とのバランスが、それゆえ達成され得る。
【0050】
図6は、制御デバイスにより実施される通常モードとスライド制御モードとの間の切替えに関係する処理フローの一例を示すフローチャートである。
図6に示されている制御フローは、通常モードが実行されている状況で開始される。具体的に記すと、
図6に示されている制御フローは、制御デバイス60の制御ユニット62によって実施される。
図6に示されている制御フローの過程で他のタイプの処理も実施され得ることが留意されるべきである。
【0051】
図6のステップS101は、
図6に示されている制御フローの開始に相当する。
【0052】
図6に示されている制御フローが開始されると、ステップS102で、判断ユニット62aは、ライダーからのスライド要求があるかないかを判断する。ライダーからのスライド要求があると見なされる(ステップS102/イエス)場合に、処理はステップS103へ進み、ここで制動制御ユニット62bは、後輪4の初期目標スリップ率を上昇させるスライド制御モードを開始する。スライド制御モードが進行している間の処理の詳細が
図7を参照して後に記載されていることに留意されるべきである。他方で、ライダーからのスライド要求がないと見なされる(ステップS102/ノー)場合には、ステップS102の処理が反復される。
【0053】
ステップS102の判断処理で、判断ユニット62aは、ライダーの運転操作情報に基づいてスライド要求があるかないかを判断し得る。運転操作情報は、ライダーにより実施される運転操作に関係する情報であり、それに対応して運転操作とともに変化し得る様々なパラメータを含む。例えば、運転操作情報は、車両100の減速度、車両100のリーン角、車両100の横加速度、車両100のヨーレート、又は車両100の車両速度、あるいは他の変化率等を含み得る。
【0054】
例えば、判断ユニット62aは、車両100の減速度が基準減速度より大きく、車両100のリーン角も基準リーン角より大きい時に、ライダーからのスライド要求があると判断し得る。
【0055】
運転操作情報に基づくスライド要求があるかないかについての判断は、上に挙げられた例に特に限定されるわけではないことが留意されるべきである。例えば、上に記載されたように、運転操作情報の多数の項目が使用され得るか、運転操作情報の一つの項目のみが使用され得る。さらに、スライド要求があるかないかを判断するのに使用される運転操作情報項目の組合せが上に挙げられた例と異なっていてもよい。さらに、運転操作情報に基づくスライド要求があるかないかについての判断は、上に記載されたようにリーン角を採用し得るか、この事例ではリーン角の代わりに横加速度又はヨーレートを採用してもよい。横加速度の検出が可能なセンサとヨーレートの検出が可能なセンサとを利用することにより、制御デバイス60は横加速度とヨーレートとを獲得し得る。
【0056】
ステップS102で判断がイエスである場合には、ステップS103に続いて、判断ユニット62aは、スライド制御モード終了条件が満たされたか満たされなかったかをステップS104で判断する。スライド制御モード終了条件が満たされた(ステップS104/イエス)と判断された場合に、処理はステップS105へ進み、ここで制動制御ユニット62bはスライド制御モードを終了させ、後輪4の目標スリップ率を最初の値に戻す。そして処理はステップS102に戻る。スライド制御モード終了条件が満たされなかった(ステップS104/ノー)と判断された場合には、ステップS104の処理が反復される。
【0057】
ライダーからのスライド要求がなかったという条件は、例えばステップS104の判断処理を終了させる為の条件として使用され得る。車両100の減速度が基準減速度より低下した時、あるいは車両100の車両速度が基準速度より低下した時等に、判断ユニット62aはスライド要求がなかったと判断し得て、例えばスライド制御モード終了条件が満たされたと判断し得る。
【0058】
スライド制御モードが進行している間の処理の詳細が、
図7を参照して以下に記載される。
【0059】
図7は、車両100の走行中の様々な状態量の推移を経時的に示すグラフである。
図7は、時間軸を水平軸上に、様々な状態量の値を垂直軸上に示す。
図7は、様々な状態量として以下を示す。スライド制御モードフラグL1、目標スリップ率の上限値(つまり閾値)L2、目標スリップ率の下限値(つまり底値)L3、後輪4のスリップ率L4、リヤブレーキマスタ圧(つまりユーザ印加のブレーキ圧)L5、及びリヤブレーキキャリパ圧L6。スライド制御モードフラグL1は、通常モードとスライド制御モードのいずれが実行されているかを示すフラグであり、スライド制御モードフラグL1が0である時に通常モードが実行され、スライド制御モードフラグL1が1である時にスライド制御モードが実行される。
【0060】
図7の例で、車両100は時点T1以前は前方に直進走行している。さらに、スライド制御モードフラグL1は0であり、通常モードが実行されている(すなわち、スライド制御モードが実行されていない)。時点T1で、ライダーからのスライド要求があると見なされ、スライド制御モードフラグL1が1に切り替えられ、スライド制御モードが開始される。時点T1から先では、後輪4の初期目標スリップ率(上限値L2と下限値L3との間の範囲)はそれゆえ、時点T1以前より高い。具体的に記すと、時点T1から先で、後輪4の目標スリップ率の下限値L3は、時点T1以前における後輪4の目標スリップ率の上限値L2より高い。
【0061】
時点T1から先では(つまりスライド制御モードが実行されている時に)、後輪4の目標スリップ率の上限値L2と下限値L3との間の差は、時点T1以前(つまりスライド制御モードが実行されていなかった時)より大きい。上で説明したように、後輪4でのアンチロックブレーキ操作が進行している間に、後輪4での制動力L6は反復的に増加及び減少される。後輪4の目標スリップ率の上限値L2と下限値L3との間の差が大きくなるので、アンチロックブレーキ操作で後輪4の制動力L6の増加及び減少を反復する頻度は小さくなる。それゆえ制御ユニット62は、スライド制御モードが実行されている時と実行されていない時との間での後輪4の目標スリップ率の上限値L2と下限値L3との間の差を変化させることにより、スライド制御モードが進行している間に実行される後輪4でのアンチロックブレーキ操作における後輪4での制動力L6の増加及び低減を反復するのに適切な頻度を設定できる。
【0062】
スライド制御モードが実行されている時と実行されていない時との間の後輪4の目標スリップ率の上限値L2と下限値L3との間の差の規模関係は
図7に示されている例に限定されないことが留意されるべきである。例えば、スライド制御モードが実行されている時に、制御ユニット62は、後輪4の目標スリップ率の上限値L2と下限値L3との間の差を、スライド制御モードが実行されていない時より小さくするか、スライド制御モードが実行されていない時と同じにしてもよい。
【0063】
図7に示されている例で、ライダーはT1でリヤブレーキをかけ始め、こうしてリヤマスタ圧L5とリヤキャリパ圧L6とを増加させる。キャリパ圧L6(つまり制動力)が上昇すると、その結果として後輪スリップ率L4が上昇する。スリップ率L4は、閾値L2に達した直後まで上昇し続ける。
【0064】
時点T2で、スリップ率L4が閾値L2に達する。ゆえに、ライダーがリヤブレーキをかけ続けても(ゆえにマスタ圧L5が上昇し続けても)、アンチロックブレーキシステムがキャリパ圧L6を減少させ始める。その直後に、スリップ率L4が低下し始める。スリップ率L4は、底値L3に達した直後まで低下し続ける。
【0065】
時点T3で、スリップ率L4は底値L3に達する。したがって、ライダーがまだブレーキをかけている(L5参照)ので、アンチロックブレーキシステムが再びリヤキャリパ圧L6を上昇させ始める。
【0066】
時点T4で、ライダーは、車両のユーザインタフェースデバイスの配向(つまり位置)(L7参照)を操作し始めて、スリップ率閾値L2を初期値より上に手動で上昇させる。ユーザインタフェースデバイスの配向は動作範囲内で移動可能であり、ライダーがユーザインタフェースデバイスをその休止配向から遠ざけるにつれて、スリップ率閾値が上昇して高くなる。ゆえに、スリップ率閾値は値範囲内で調節可能であり、調節の量は、ライダーがユーザインタフェースデバイスを操作したことによる配向に依存する。好ましくは、ユーザインタフェースデバイスは車両のスロットル5(
図1及び3参照)であるが、代替的に車両のハンドルバー2又は専用の入力デバイスであってもよい。専用の入力デバイスは、安全で直感的な使用を可能にするように、車両を運転中のライダーの手又は足の近傍にある独立したレバー、スライダ、又はペダルであり得る。いかなるユーザインタフェースデバイスが使用されても、ライダーは、その配向に対応する値範囲内でスリップ率閾値を変化させるようにこのような配向を操作する。
【0067】
ライダーにより手動でスリップ率閾値が上げられる間に、スリップ率L4はスライド制御モード初期閾値を超え得る。ライダーがインタフェースデバイスを介して閾値L2を上昇させるので、アンチロックブレーキシステムはキャリパ圧L6の低下を妨げない。こうしてアンチロックブレーキシステムによる中断を伴わずに、ライダーは彼又は彼女が意図するスライド操縦を行なうことが可能になる。ライダーがユーザインタフェースデバイスを解除すると、閾値L2はそのスライド制御モード初期値に戻る。ライダーがブレーキを解除すると、マスタ圧L5とキャリパ圧L6、そしてそれに対応してスリップ率L4が下がり始める。
【0068】
時点T5では、スライド操縦が完了したと見なされてアンチロックブレーキシステムがスライド制御モードから通常モードへまた切り替わり、こうして閾値L2をその通常モード初期値まで低下させる。アンチロックブレーキシステムの動作は車両スライドの制御に関係するので、その詳細については、同じ発明者によるものであって参照により本明細書に援用される国際公開第2021/260475号を参照すること。
【0069】
上に挙げられた記載は、後輪4での制動力を増加/減少させることにより、後輪4のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作が実行される例に関係しているが、制御ユニット62はまた、後輪4での駆動力を増加/減少させることにより後輪4のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作を実行し得ることに留意されるべきである。
【0070】
後輪4での駆動力を増加/減少させることにより後輪4のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作では、例えばエンジン70の動作を制御することにより、駆動輪である後輪4での駆動力を制御ユニット62が制御し得る。例えば、制御ユニット62は、エンジン70の点火を停止するかシリンダへの燃料供給を停止する(すなわちエンジン制動が生じ得る)ことにより、車両100を減速させる方向での駆動力をエンジン70に出力させ得る。制御ユニット62はこうして、エンジン70での点火タイミングと燃料供給量とを調節することにより、車両100を減速させる方向と車両100を加速させる方向の両方の駆動力をエンジン70に出力させ得る。それゆえ制御ユニット62は、後輪4での駆動力を増加/減少させることにより後輪4のスリップ率を目標スリップ率に制御できる。
【0071】
後輪4での駆動力を増加/減少させることにより後輪4のロックを抑制するアンチロックブレーキ操作において、制御ユニット62は以下の制御を反復的に実施する。後輪4での駆動力を増加させることにより後輪4のスリップ率を低下させる制御と、後輪4での駆動力を減少させることにより(例えばエンジン制動を発生させることにより)後輪4のスリップ率を上昇させる制御。後輪のスリップ率L4は、この手段により目標スリップ率に制御される。スライド要求があるかないかに基づいて後輪4での駆動力を増加/減少させる間にアンチロックブレーキ操作が実行される時に、後輪4での制動力が増加/減少される、上に記載のアンチロックブレーキ操作のプロセスの各々において、後輪4での制動力を後輪4での駆動力で置き換える処理を制御ユニット62が実行し得る。
【0072】
上に記載のもの以外の処理が制御ユニット62により実施され得ることが留意されるべきである。例えば、制御ユニット62は、車両100の状態情報に従って、後輪4での制動力又は駆動力と後輪4の目標スリップ率とに関係する制御量のうち少なくとも一つを変化させ得る。状態情報は車両100の状態に関係する情報であり、その例は、車両100の車両速度、車両100の減速度、エンジン70の回転数、及び車両100のクラッチの係合状態に関係する情報、車両100のギヤ段に関係する情報、ならびに車両100のブレーキ操作量、車輪のスリップ率、車両100のリーン角、車両100のスライド角、及び路面の摩擦係数に関係する情報等を含み得る。さらに、後輪4での制動力又は駆動力に関係する制御量の例は、後輪4の制動力又は駆動力の変化量又は変化勾配等を含み得る。
【0073】
上では例示的な実施形態が記載されたが、これらの実施形態が、開示された装置及び方法の全ての可能な形態を記載するものであることは意図されていない。むしろ、明細書で使用される語は、限定語ではなく記述語であり、請求される本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく様々な変更が加えられ得ることが理解される。様々な実行実施形態の特徴が開示の概念のさらなる実施形態を形成するように組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 車体
2 ハンドルバー
3 前輪
3a ロータ
4 後輪
4a ロータ
5 回転スロットル
10 アンチロックブレーキシステム
11 第1ブレーキ操作部分
12 前輪制動機構
13 第2ブレーキ操作部分
14 後輪制動機構
21 マスタシリンダ
22 リザーバ
23 ブレーキキャリパ
24 車輪シリンダ
25 主要流路
26 補助流路
31 吸入バルブ(EV)
32 吐出バルブ(AV)
33 蓄圧器
34 ポンプ
41 前輪車輪速度センサ
42 後輪車輪速度センサ
43 慣性測定ユニット(IMU)
44 慣性測定信号
50 液圧制御ユニット
51 基本車体
60 制御デバイス
61 獲得ユニット
62 制御ユニット
62a 判断ユニット
62b 制動制御ユニット
70 エンジン
100 車両
D1 前進方向
F グリップ力
F1 縦グリップ力
F2 横グリップ力
L1 スライド制御モードフラグ
L2 目標スリップ率の上限値
L3 目標スリップ率の下限値
L4 後輪のスリップ率
L5 リヤブレーキマスタ圧
L6 リヤブレーキキャリパ圧
L7 ユーザインタフェースデバイス配向
R1 範囲
R2 範囲
T1,T2,T3,T4,T5 時点
θ1 角度
λ スリップ率
【外国語明細書】