(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081149
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】シンチレーション鉱石検波器用結晶の製造方法およびシンチレーション鉱石検波器用結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/24 20060101AFI20240610BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C30B29/24
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023204502
(22)【出願日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】CZ2022-506
(32)【優先日】2022-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(71)【出願人】
【識別番号】513157822
【氏名又は名称】クライツール スポル.エス アール.オー.
【氏名又は名称原語表記】CRYTUR SPOL.S R.O.
(71)【出願人】
【識別番号】518114680
【氏名又は名称】フィジカルニ ウスタブ アブクル.ヴイ.ヴイ.アイ.
【氏名又は名称原語表記】FYZIKALNI USTAV AVCR,V.V.I.
【住所又は居所原語表記】Na Slovance 1999/2,18221 Praha 8,Czech Republic
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イング. カレル ブラゼック
(72)【発明者】
【氏名】プロフェ. イング. マーティン 二カル シーエスシー.
(72)【発明者】
【氏名】アールエヌドクター. ヤン トゥース、ピーエイチ.デ.
(72)【発明者】
【氏名】イング. カレル バルトス
(72)【発明者】
【氏名】イング. ヤン ポーラク ピーエイチ.デ.
(72)【発明者】
【氏名】トーマス マレック
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB09
4G077BB01
4G077BB10
4G077BC01
4G077CF10
4G077EA02
4G077EC02
4G077EC05
4G077EC07
4G077HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シンチレーション鉱石検波器用Ce:(Gd,Y)AlO3結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、シンチレーション鉱石検波器用として専門家に知られているが、工業的にはまだチョクラルスキー法により製造されていない、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する材料から結晶を製造する方法に関する。本発明の方法により、直径が数mmを超える結晶を製造することが可能となる。特に、本発明は、元のチョクラルスキー法に、投入原料をアニールするステップと、結晶成長炉を通る水素およびアルゴンの還元雰囲気の流れを制御するステップを加えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレーション鉱石検波器用結晶の製造方法であって、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶を、チョクラルスキー法により、結晶成長炉の還元雰囲気下でモリブデンまたはタングステンのるつぼから引き上げて製造することからなり、前記方法の枠内で、a)投入原料を調製し、b)前記投入原料を前記るつぼに入れ、c)前記るつぼの内容物を前記結晶成長炉の還元雰囲気下で熱の作用により溶融させ、引き上げにより結晶を製造する方法において、前記工程ステップa)の一部として、フッ化物イオンの存在下で前記投入原料をアニールし、かつ前記工程ステップc)の際に、前記結晶成長炉の還元雰囲気がアルゴンと水素との混合ガスによって形成され、前記還元雰囲気が前記結晶成長炉を通って流れるようになっており、同時に前記還元雰囲気の流量が1.67×10-7~1.39×10-5m3/sの範囲であることを特徴とする方法。
【請求項2】
アルゴンが前記還元雰囲気の体積の5~95%を占め、水素が前記還元雰囲気の体積の95~5%を占め、前記還元雰囲気の組成が結晶製造全体にわたって同一であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投入原料が、Gd2O3、Y2O3、Al2O3、およびCeO2であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
y=k*x+0.0006の関係が適用され、上式でxは引き上げた結晶の重量の直近値、yは前記成長炉を通る前記還元雰囲気の流量、kは比例係数であり、前記還元雰囲気の組成に応じて1.96×10-7~1.64×10-5m3/s.gの範囲であることを特徴とする、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程ステップc)の後に、製造された結晶、または結晶から調製された半製品を、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンからなる群のうち少なくとも1種の補助ガスを0~99体積%含む水素からなる循環還元雰囲気中でアニールする工程ステップd)が続くことを特徴とする、請求項1~4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程ステップd)の一部として、前記還元雰囲気の温度が1000~1500℃の範囲であり、アニール時間が50~100時間の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記工程ステップd)において、式t=q*rが維持され、上式でtはアニール時間の値、rはアニール温度の値、qは3.33×(10-2~0.1)s/K以内の値を持つ比例係数であることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程ステップa)の一部としてNH4Fを使用することを特徴とする、請求項1~7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップa)におけるNH4Fの濃度が、前記投入原料に対して0.1~1重量%であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程ステップb)の一部として、ガドリニウムとイットリウムの比率を0.4<y<0.6の範囲に設定することを特徴とする、請求項1~9のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか一項に記載の方法で製造される、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有するシンチレーション鉱石検波器用結晶であって、上式でxは0.005~0.015の範囲、yは0.4~0.6の範囲にある結晶において、その直径が30~60mmの範囲にあることを特徴とする結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にシンチレーション鉱石検波器で使用するための、Ce:(Gd,Y)AlO3結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術論文の非特許文献1は、シンチレーション鉱石検波器での使用に非常に有利な特性を示す結晶性材料Ce:(Gd,Y)AlO3について論じている。
【0003】
Ce:(Gd,Y)AlO3結晶は、前述の技術論文に記載されているように、るつぼの底に形成した微細な流路を通じて融液を供給して結晶を育成する「マイクロ引き下げ(μ-PD)」法によって育成する。この専門家向けの論文では、前述のCe:(Gd,Y)AlO3結晶の製造方法に関して、融液からの結晶の引き下げ速度となる製造パラメータ、次いで種結晶の種類、次いで加熱技術が定義されている。同時に、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する単結晶を製造するための融液の製造に必要な投入原料が定義されている。
【0004】
公表されているμ-PD法による製造方法について、専門家は、主に製造される結晶のサイズに限界があるという欠点を認識している。この論文では、育成した結晶のサイズは約3mm×30cmと述べられている。他にも不利な点として、μ-PD法を大規模に実施するための技術拡大に限界がある。前述の欠点はいずれも、製造する結晶の価格、ひいてはシンチレーション鉱石検波器の価格に反映される。また、Ce:(Gd,Y)AlO3から製造される単結晶のサイズに限界があることも、シンチレーション鉱石検波器を用いた適用の開発を大きく妨げている。
【0005】
世界的な規模で普及している、いわゆるチョクラルスキー法による結晶の製造方法も、専門家に認識されている。この方法では、結晶方位が正確に定まった、結晶格子が非常に規則的な結晶が製造でき、同時に、直径が数mmから数百mmの結晶の育成が可能である。チョクラルスキー法を用いてCe:(Gd,Y)AlO3から結晶を製造すれば、Ce:(Gd,Y)AlO3からの結晶の生産量が増加し、Ce:(Gd,Y)AlO3結晶の市場入手性に好ましい影響が及ぶ。さらに、製造される結晶のサイズが大きくなれば、シンチレーション鉱石検波器における新たな適用の開発が可能となる。
【0006】
残念ながら、本出願人は本発明の登録出願日時点で、直径が数mmを超える結晶の製造が可能な、チョクラルスキー法によって実現される、大規模に適用可能な信頼性の高いCe:(Gd,Y)AlO3結晶の製造方法を認識していない。
【0007】
例えば専門家は、((Gd1-rYr)1-s-xMesCex)3-z(Ga1-y-qAlyTiq)5+zO12(Me置換基は、Mg、Ca、Sr、Baからなる化学元素群のうちの1つである)の一般組成を有する材料からチョクラルスキー法で結晶を育成する製造について記述している特許文献1の発明を認識している。
【0008】
あるいは専門家は、チョクラルスキー法を実施するための装置が提示されている特許文献2の発明と、さらにRex:Ce(1-x)AlO3(置換基Reは、Sm、Lu、La、Yb、Nd、Ho、Pr、Er、Tm、Eu、Tb、またはDyからなる元素群のうちの1つである)の一般組成を有する材料を認識している可能性がある。
【0009】
しかし、上記の発明はいずれも、組成や製造ステップを変更すると、得られる結晶を含め、結晶成長工程全体の挙動が変化するため、Ce:(Gd,Y)AlO3結晶の製造に転用できるとは考えられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3633081号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第108486647号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kei Kamanda,Takanori Endo,Kousuke Tsutsumi:Crystal growth and scintillation properties of Ce doped(Gd,Y)AlO3 perovskite single crystals(https://doi.org/10.1002/pssc.201200264)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、特にシンチレーション鉱石検波器で使用するための、シンチレーション鉱石検波器用Ce:(Gd,Y)AlO3結晶の製造方法を開発することである。この方法は製造にチョクラルスキー法を使用し、製造された結晶は、実質的に純粋であり、結晶格子に限度を超える欠陥がなく、かつ結晶直径が数mmを超えるサイズで製造できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、以下の本発明に従って開発されたシンチレーション鉱石検波器用結晶の製造方法を用いることにより達成される。
【0014】
シンチレーション鉱石検波器用のCexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶の製造方法は、結晶成長炉の還元雰囲気中でモリブデンまたはタングステンのるつぼから結晶を引き上げるチョクラルスキー法による結晶の製造に基づく。この方法では、a)投入原料を調製し、b)投入原料をるつぼに入れ、c)るつぼの内容物を結晶成長炉の還元雰囲気下で熱の作用により溶融させ、引き上げにより結晶を製造する。
【0015】
本発明の概要は、工程ステップa)の一部として、チョクラルスキー法によりCexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶を製造するために、フッ化物イオンの存在下で投入原料をアニールすることに基づく。これは、投入原料の反応性を高め、続いてペロブスカイト相を安定化させ、さらにCe4+の電荷状態を低減させるため有利である。さらに、工程ステップc)の際に、結晶成長炉の還元雰囲気がアルゴンと水素との混合ガスによって形成され、還元雰囲気が結晶成長炉を通って流れるようになっており、同時に還元雰囲気の流量が1.67×10-7~1.39×10-5m3/sの範囲であることが本発明にとって不可欠である。還元雰囲気の組成および結晶成長炉を通る循環には、結晶成長炉内の残留水分を大幅に減少させるという利点がある。残留水分は、未還元のCeO2に由来し、結晶成長炉のるつぼおよび遮蔽システム材料から、結晶中に封入体の形で埋め込まれやすい微粒子を生じさせる。封入体は、電荷トラップを含む散乱中心および色中心の形成過程を増加させ、製造された結晶の光収率とシンチレーション応答に悪影響を及ぼす。また、還元雰囲気の循環は、結晶成長時にペロブスカイト相を熱力学的に安定化させるため好ましい。
【0016】
アルゴンが還元雰囲気の体積の5~95%を占め、水素が還元雰囲気の体積の95~5%を占め、還元雰囲気の組成が結晶製造全体にわたって同一であると好ましい。同時に、本発明の好ましい実施形態の範囲内で、投入原料は、Gd2O3、Y2O3、Al2O3、およびCeO2である。
【0017】
有利には、本発明の方法の枠内で、y=k*x+0.0006(xは引き上げた結晶の重量の直近値、yは成長炉を通る還元雰囲気の流量、kは比例係数であり、還元雰囲気の組成に応じて1.96×10-7~1.64×10-5m3/s.gの範囲である)の関係が適用される。結晶の調製中、融液領域中の水分子や、成長炉の溶融るつぼおよび遮蔽システムからの微粒子の形成度合いが変化するため、調製される結晶のサイズが増大するのに応じて、成長炉を通る還元雰囲気の流量を調節する必要がある。
【0018】
また、本発明の好ましい実施形態では、工程ステップc)の後に、製造された結晶、または結晶から調製された半製品を、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンからなる群のうち少なくとも1種の補助ガスを0~99体積%含む水素からなる循環還元雰囲気中で加熱する工程ステップd)が続く。加熱は、結晶格子を安定化させ、望ましくない封入体による張力または望ましくない変化が生じるのを防止するのに役立つ。好ましくは、ステップd)の還元雰囲気の温度は1000~1500℃の範囲であり、加熱時間は50~100時間の範囲である。
【0019】
また、本発明の好ましい実施形態では、工程ステップd)において、式t=q*r(tはアニール時間の値、rはアニール温度の値、qは3.33.10-2~0.1s/K以内の値を持つ比例係数である)が維持される。実験から、アニール時の温度変化は結晶格子の安定化に好ましい影響を与えることがわかっている。
【0020】
本発明では、有利には、工程ステップa)でNH4Fを使用する。前述のフッ化物は、投入原料の反応性を有益に向上させることが示されている。好ましくは、ステップa)におけるNH4Fの濃度は、投入原料に対して0.1~1重量%である。
【0021】
最後に述べるが同様に好ましい本発明による方法の実施形態は、工程ステップb)の一部として、ガドリニウムとイットリウムの比率を0.4<y<0.6の範囲に設定する方法である。上記の条件に従って育成した結晶は、シンチレーション鉱石検波器における適用に最も有利なシンチレーション特性を示した。
【0022】
さらに本発明は、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有し、直径が30~60mmであるという利点をもつ、本発明の方法によって製造された結晶を含む。これは、まだ専門家が利用できない、工業的に製造される結晶である。これまでは主に実験室で見本が製造され、少量であった。
【0023】
本発明の主な利点は、シンチレーション鉱石検波器用のCexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶を工業的に製造できるようにすることであるが、この材料はこれまで主に特別に実験室で製造された結晶として存在していた。チョクラルスキー成長法を用いることで、大きな結晶の大量生産が可能となる。本発明は、化学的純度と構造のいずれに関しても、製造中の結晶格子の安定性を維持することができる。工業的に製造された結晶は、実験室で検証したシンチレーション特性が、実験室で育成した結晶と同じである。さらに、シンチレーション鉱石検波器、特に重いシンチレーション(heavy scintillation)検波器における新たな適用に十分な大きさを有する結晶を製造できるという利点がある。
【0024】
以下、図を用いて本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に従って製造した結晶(実施例1)と参照材料の発光スペクトルを比較したグラフである。
【
図2】本発明に従って製造した結晶(実施例1)のシンチレーション減衰を表すグラフである。
【
図3】本発明に従って製造した結晶(実施例1)と参照材料のエネルギースペクトルを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に説明および描写する本発明の実施形態の具体例は、例示のみを目的とし、本発明を、本明細書に記載する実施例に限定するものではないことを理解する必要がある。当業者であれば、本明細書に記載する本発明の特定の実施形態と同等の物を多かれ少なかれ見出すか、または通例の実験に基づいて提供することができるであろう。
【0027】
CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶を製造するために、例えばガーネットまたはペロブスカイト構造の単結晶の育成に一般的に使用されているチョクラルスキー法を実施できるよう結晶成長炉を改造した。水素およびアルゴンを含有するシリンダーと、2種類のガスの比率を正確に調節するための混合弁とを装備した結晶成長炉に、還元雰囲気の循環回路を接続した。循環回路には、結晶成長炉を通る還元雰囲気の混合ガスの流量を設定するための調節可能な弁および流量計を装備した。水素を還元雰囲気の総量の5~95%、アルゴンを還元雰囲気の総量の5~95%とした割合で結晶を製造することに成功した。結晶成長炉内のガス比率を有する還元雰囲気を調製した後は、アルゴンと水素の比率を変化させなかった。
【0028】
結晶成長炉を通る還元雰囲気の循環パラメータとして、還元雰囲気の流量を1.67×10-7~1.39×10-5m3/sの範囲で選択した。より速い循環速度では、引き上げた結晶の熱力学的安定性が損なわれ、より遅い循環速度では、製造された結晶に望ましくない封入体が多く発生した。
【0029】
成長炉を(ゆえに、引き上げた結晶の周囲も)通る還元雰囲気の循環速度は、結晶製造中に動的に調節した。速度の動的調節は、主に引き上げた結晶の直近の重量および還元雰囲気の組成に応じて行った。さまざまな還元雰囲気中で試験結晶を製造した実験に基づき、還元雰囲気の組成に応じて、1.96×10-7~1.64×10-5m3/s.gの範囲で、比例係数kを統計的評価によって決定した。本発明の本適用の範囲内で簡略化して説明するために、還元性雰囲気の組成に対する係数kの値の統計的依存性は、アルゴンの量が多いほど係数kの値が大きくなるように定義することができる。
【0030】
結晶を工業的に製造するために、Gd2O3、Y2O3、Al2O3、およびCeO2の投入原料を用意したが、専門家が代替の投入原料を提案すること、または今後他の好適な投入原料が見出されることがあり得ないわけではない。ガドリニウムとイットリウムの比率を0.4<y<0.6の範囲に維持するという条件を満たした投入原料を用いた結晶は、ガドリニウムとイットリウムの比率が異なる投入原料から製造した結晶よりも、最初の参照シンチレーション試験で良好な結果を示した。
【0031】
投入原料はフッ化物イオンの存在下でアニールしたが、実用的な実験では、NH4Fがフッ化物イオンの形成に最も好適な材料であり、投入原料の初期反応性に大きく影響することが示された。NH4F材料の濃度は、投入原料に対して0.1~1重量%の範囲で実験により決定した。
【0032】
結晶および結晶から調製された半製品の製造時には、結晶および結晶から調製された半製品を、水素と、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンからなる群のうち少なくとも1種の補助ガス0~99体積%とからなる循環還元雰囲気中で加熱する必要があった。製造されたばかりの結晶の構造は、化学物質と急激な温度変化の両方の外的要因に対して敏感であるため、アニール還元雰囲気により、製造された結晶に構造変化が生じるのを防いだ。水素は還元ガスとして使用し、少なくとも1種の非反応性希ガスである補助ガスの存在は、望ましくない化学反応が生じるのを防ぐ役割を果たす。
【0033】
結晶を引き上げた後でも、結晶構造内では進行している過程があり、それらがうまく完了するには十分な温度と十分な時間が必要であることが判明した。実験に基づいて、1000~1500℃の温度範囲および50~100時間の範囲で、アニール間隔を統計的に決定した。
【0034】
また、アニールの実施中に温度を調節することにより、製造した結晶の構造が安定化することも判明し、それにより、実験に基づいて、t=q*r(tはアニール時間の値、rはアニール温度の値、qは3.33.10-2~0.1s/Kの値を持つ比例係数である)の関係が確立された。比例係数は、実施した実験の統計分析の結果である。
【0035】
工業的に製造された、CexGdyY1-x-yAlO3の一般組成を有する結晶が、直径30~60mmの単結晶の形で引き上げられた。
【実施例0036】
Ce0.009Gd0.5Y0.491AlO3結晶は、アルゴン40%および水素60%の組成の保護雰囲気中で、2×10-7m3/sの流量でチョクラルスキー法により育成する。育成は、タングステンループで形成された抵抗加熱炉内の0.4dm3のモリブデンるつぼで行う。酸化物Y2O3、Al2O3、Gd2O3、およびCeO2の混合物に、上記の化学量論比で0.5重量%のNH4Fを添加し、1500℃で静水圧プレスおよびアニールすることによって調製した原料を、5800gの量でるつぼに秤量する。溶融後、融液の自然対流により12時間かけて原料を均質化する。融液が均質化された後、融液の化学量論分析のために試料を取り出し、2rpmで回転する配向YAP<010>種結晶で結晶育成を開始する。結晶の引き上げ速度は1.5mm/時である。結晶育成は、経時的な重量増加を監視および評価することにより自動制御する。
【0037】
結晶が必要な長さに達したら、融液から結晶を取り出し、結晶化工程を完了する。次いで、いくつかの工程を経て結晶をアニールする。
【0038】
1900~1500℃の温度範囲では2.7×10-2s/Kの速度で、1500~1000℃の温度範囲では0.08s/Kの速度で、1000℃から室温の温度範囲では2.7×10-2s/Kの速度で行う。温度は2色温度計で監視する。
【0039】
その結果、重量950g、直径32mmの透明な単結晶が得られる。
【0040】
結晶の初期部分から直径10×1mmの両面研磨板を作製し、この板の発光スペクトルおよびシンチレーション減衰を測定し、後者から1/e減衰時間を計算した。エネルギー(パルス高さ)スペクトルも測定し、そこから光収率と662keVでのエネルギー分解能を計算した。グラフ(
図1~3)および以下の表は、本発明を用いて育成した結晶と、同じ寸法の参照シンチレータBGOおよびYAP:Ceのパラメータを比較したものである。
【0041】