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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081156
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】栄養状態評価に関する情報の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20240610BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20240610BHJP
   A61B 5/145 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G16H50/20
A61B5/107 400
A61B5/145
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205683
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2022194464
(32)【優先日】2022-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り Clinical Nutrition Open Scienceのウェブサイトにて公開(アドレス:https://www.clinicalnutritionopenscience.com/article/S2667-2685(23)00039-6/fulltext)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FACEBOOK
2.TENSORFLOW
3.JAVASCRIPT
4.ANDROID
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100203253
【弁理士】
【氏名又は名称】村岡 皓一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100179039
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】中尾 康彦
(72)【発明者】
【氏名】原川 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遼
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 文弘
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038HH08
4C038HJ09
4C038KX01
5L099AA26
(57)【要約】
【課題】対象者、特に身長又は体重を測定できない対象者に対して、人工知能(AI)テクノロジーを利用して、栄養状態評価に関する情報を正確に予測できる新規な方法及び該方法を実装するプログラムなどの提供。
【解決手段】訓練用のレントゲン画像データと、該画像データに対応する、栄養状態評価に関する情報の測定結果とを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む、学習済み人工知能モデルの構築方法、並びに該方法により構築された学習済み人工知能モデル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
訓練用のレントゲン画像データと、該画像データに対応する、栄養状態評価に関する情報とを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む、学習済み人工知能モデルの構築方法。
【請求項2】
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法により構築された学習済み人工知能モデル。
【請求項5】
対象者から取得されたレントゲン画像データを、請求項4に記載の人工知能モデルに入力し、該人工知能モデルにより、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する工程を含む、該対象者の栄養状態評価に関する情報を予測する方法。
【請求項6】
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
対象者が寝たきり高齢者又は重症患者である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
対象者の栄養状態評価に関する情報を予測するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
(P1)対象者から取得した予想対象レントゲン画像データを受け付ける受付部、
(P2)該入力されたデータを、請求項4に記載の人工知能モデルに入力し、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する演算部、及び
(P3)演算部で得られた演算結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
対象者の栄養状態評価に関する情報を予測するための装置であって、
(M1)対象者から取得した予想対象レントゲン画像データを受け付ける受付部、
(M2)該入力されたデータを、請求項4に記載の人工知能モデルに入力し、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する演算部、及び
(M3)演算部で得られた演算結果を出力する出力部
を有する、装置。
【請求項11】
請求項4に記載の人工知能モデル又は請求項9に記載のプログラムが記録された記録媒体。
【請求項12】
請求項5~8のいずれか1項に記載の方法により得られた、対象者の栄養状態評価に関する情報の予測値に基づき、該対象者の栄養状態の評価する方法。
【請求項13】
請求項5~8のいずれか1項に記載の方法により得られた、対象者の栄養状態評価に関する情報の予測値に基づき、該対象者に適切な量の栄養又は医薬を投与する工程を含む、該対象者の健康状態の管理を補助する方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法による評価に基づき、栄養サポートチーム介入の判断を補助する方法。
【請求項15】
請求項6又は8に記載の方法により得られた、対象者の身長又は体重の予測値に基づき、該対象者がサルコペニアであるか否かの診断を補助する方法。
【請求項16】
(1)請求項6又は8に記載の方法により予測された身長及び体重から、推定BMIを算定する工程、及び
(2)該推定BMIを基準値と比較する工程
を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レントゲン画像データを用いて人工知能モデルを学習させる工程を含む、学習済み人工知能モデルの構築方法、及び該構築された人工知能モデルを用いて、対象者の栄養状態評価に関する情報を予測する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者において、栄養失調は頻繁に認められ、4507人を対象とした栄養状態調査では、22.8%が栄養失調であると報告されている(非特許文献1)。さらに、入院患者における栄養不足の人数は、地域社会に在住する高齢者における人数と比べて約6.7倍多く、非常に重要な問題となっている(非特許文献1)。また、栄養失調は身体機能及び認知機能の両方に顕著な影響を及ぼし、罹患率及び死亡率の増加、並びに社会への直接的及び間接的なコストの増加につながる(例えば、非特許文献2)。したがって、医療提供者は、患者の栄養を早期に評価し、栄養失調の悪化を防ぐために適切な栄養を早期に提供する必要がある。適切な栄養介入はまた、臨床転帰の改善と医療費の削減につながり得る。
【0003】
一般に、ガイドラインでは、入院から24~48時間以内に迅速な栄養介入と栄養療法を開始することを推奨している(例えば、非特許文献3)。栄養摂取方法は、経口、チューブ、在宅中心静脈栄養(IVH)など、多岐に亘る。患者ごとに適切な栄養量を計算する必要があり、通常は全エネルギー消費量(TEE)及び体重から計算された水分必要量に基づいて提供される。TEEは、ハリス-ベネディクトの式から計算された基礎エネルギー消費量(BEE)に、活動係数(active factor)及び傷害係数(stress factor)を掛けて計算される(非特許文献4)。ハリス-ベネディクトの式には身長と体重が必要であるが、測定できない患者には、合意された代替測定値が使用される。具体的には、身長(SH)を測定できない場合、他の体の部分の測定値(即ち、膝高(KH)と尺骨の長さ(UL))を特定の方程式を用いて推定する(非特許文献5)。同様に、患者の体重が利用できない場合、上腕周囲長の測定値(MUAC)を用いて、ハリス-ベネディクト及びTEEが計算できる。しかしながら、COVID-19を含む重篤な感染症の患者、重度の外傷、火傷、または障害のためにICU管理が必要な患者や、重度な拘縮を伴う寝たきり高齢患者では、代替部位での正確な測定が困難であるため、さらなる代替手段を開発する必要がある。また、MUACを用いた推定方法では、人種によって誤差に大きなばらつきがあることも知られている。
【0004】
ところで、近年、ディープラーニングを含む人工知能(AI)テクノロジーの進歩により、さまざまな診断及び予測ツールが開発されている。しかしながら、AIテクノロジーを利用して身長と体重などの栄養状態評価に関する情報を予測するツールについては、報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaiser, M.J., et al., J Am Geriatr Soc, 2010. 58(9): p. 1734-8
【非特許文献2】Lorini, C., et al., Nutrition, 2014. 30(10): p. 1171-6.
【非特許文献3】Jensen, G.L., et al., JPEN J Parenter Enteral Nutr, 2010. 34(2): p. 156-9
【非特許文献4】Harris, J.A. and F.G. Benedict, Proc Natl Acad Sci U S A, 1918. 4(12): p. 370-3
【非特許文献5】Silva, F.M. and L. Figueira, Nutrition, 2017. 33: p. 52-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、対象者、特に身長又は体重を測定できない対象者に対して、人工知能(AI)テクノロジーを利用して、栄養状態評価に関する情報を正確に予測できる新規な方法及び該方法を実装するプログラムなどを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、患者の基本評価のために用いられる、レントゲン写真に着目した。大部分の患者は、入院時にX線撮影が行われてレントゲン写真が取得されるため、レントゲン写真を用いて身長又は体重が予測できれば、寝たきり患者に対する追加の身長体重測定というマンパワーが必要な医療介入の発生を抑制できるのではないかとの着想を得た。そこで、患者の胸部レントゲン写真と、患者の身長又は体重を学習データとして用いて、深層学習を行ったところ、精度よく身長又は体重を予測できる人工知能モデルを構築することに成功した。胸部レントゲン写真では、身体の一部の情報しか含まれていないにもかかわらず、身長及び体重を精度よく予測できることは驚くべきことであった。
【0008】
さらに、レントゲン写真と深層学習を用いることで、身長および体重以外の栄養状態評価に関する情報を得られるのではないかとの着想を得た。そこで、アルブミンなどの栄養マーカーに着目して、同様に深層学習を行ったところ、栄養マーカーの血中濃度を精度よく予測できる人工知能モデルを構築することにも成功した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1-1]
訓練用のレントゲン画像データと、該画像データに対応する、栄養状態の評価に関する情報とを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む、学習済み人工知能モデルの構築方法。
[1-2]
上記レントゲン画像データが、胸部レントゲンの画像データである、[1-1]に記載の方法。
[2]
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、[1-1]又は[1-2]に記載の方法。
[3-1]
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、[1-1]又は[1-2]に記載の方法。
[3-2]
栄養マーカーが、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素およびC反応性タンパク質からなる群から選択される、[3-1]に記載の方法。
[4]
[1-1]~[3-2]のいずれか1つに記載の方法により構築された学習済み人工知能モデル。
[5-1]
対象者から取得されたレントゲン画像データを、[4]に記載の人工知能モデルに入力し、該人工知能モデルにより、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する工程を含む、該対象者の栄養状態評価に関する情報を予測する方法。
[5-2]
上記レントゲン画像データが、胸部レントゲンの画像データである、[5-1]に記載の方法。
[6]
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、[5-1]又は[5-2]に記載の方法。
[7-1]
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、[5-1]又は[5-2]に記載の方法。
[7-2]
栄養マーカーが、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素およびC反応性タンパク質からなる群から選択される、[7-1]に記載の方法。
[8]
対象者が寝たきり高齢者又は重症患者である、[5-1]~[7-2]のいずれか1つに記載の方法。
[9-1]
対象者の栄養状態評価に関する情報を予測するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
(P1)対象者から取得した予想対象レントゲン画像データを受け付ける受付部、
(P2)該入力されたデータを、[4]に記載の人工知能モデルに入力し、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する演算部、及び
(P3)演算部で得られた演算結果を出力する出力部
として機能させるためのプログラム。
[9-2]
上記レントゲン画像データが、胸部レントゲンの画像データである、[9-1]に記載のプログラム。
[9-3]
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、[9-1]又は[9-2]に記載のプログラム。
[9-4]
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、[9-1]又は[9-2]に記載のプログラム。
[9-5]
栄養マーカーが、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素およびC反応性タンパク質からなる群から選択される、[9-4]に記載のプログラム。
[9-6]
さらに、対象者における適切な栄養量または医薬量を算出する演算部、及び/又は推定BMIを算定する演算部を含む、[9-1]~[9-5]のいずれか1つに記載のプログラム。
[10-1]
対象者の栄養状態評価に関する情報を予測するための装置であって、
(M1)対象者から取得した予想対象レントゲン画像データを受け付ける受付部、
(M2)該入力されたデータを、[4]に記載の人工知能モデルに入力し、身長又は体重の予測値を算出する演算部、及び
(M3)演算部で得られた演算結果を出力する出力部
を有する、装置。
[10-2]
上記レントゲン画像データが、胸部レントゲンの画像データである、[10-1]に記載の装置。
[10-3]
栄養評価に関する情報が、身長または体重の測定結果である、[10-1]又は[10-2]に記載の装置。
[10-4]
栄養状態評価に関する情報が、栄養マーカーの血中濃度の測定結果である、[10-1]又は[10-2]に記載の装置。
[10-5]
栄養マーカーが、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素およびC反応性タンパク質からなる群から選択される、[10-4]に記載の装置。
[10-6]
さらに、対象者における適切な栄養量または医薬量を算出する演算部、及び/又は推定BMIを算定する演算部を含む、[10-1]~[10-5]のいずれか1つに記載の装置。
[11]
[4]に記載の人工知能モデル又は[9-1]~[9-6]のいずれか1つに記載のプログラムが記録された記録媒体。
[12]
[5-1]~[8]のいずれか1つに記載の方法により得られた、対象者の栄養状態評価に関する情報の予測値に基づき、該対象者の栄養状態の評価する方法。
[13]
[5-1]~[8]のいずれか1つに記載の方法により得られた、対象者の栄養状態評価に関する情報の予測値に基づき、該対象者に適切な量の栄養又は医薬を投与する工程を含む、該対象者の健康状態の管理を補助する方法。
[14]
[12]に記載の方法による評価に基づき、栄養サポートチーム介入の判断を補助する方法。
[15]
[6]または[8]に記載の方法により得られた、対象者の身長又は体重の予測値に基づき、該対象者がサルコペニアであるか否かの診断を補助する方法。
[16]
(1)[6]または[8]に記載の方法により予測された身長及び体重から、推定BMIを算定する工程、及び
(2)該推定BMIを基準値と比較する工程
を含む、[15]に記載の方法。
[17]
さらに、対象者の下腿範囲を測定する工程、四肢骨格筋量を測定する工程、握力を測定する工程及び身体機能を測定する工程からなる群から選択される1つ以上の工程を含む、[12]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象者のレントゲン写真から、該対象者の身長又は体重を精度高く予測できる人工知能モデルを構築することができる。様々な医療的理由により、従来の身長又は体重が測定が難しい対象者(寝たきり高齢者や重症患者)においても、早期の栄養計算などが行える。また、従来の膝下長からの推定法には、人種間格差等の問題点があるが、本発明では各々の病院でのレントゲンから人工知能モデルを学習させることで、人種等に最適化した身長又は体重予測も実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の装置の構成の一例を示すブロック図である。本発明の装置と外部装置(入力データ群の送付元、予測結果の送付先)との通信関係は、破線で示している。図1の例では、入力データ群の送付元は、予測結果の送付先でもある。
図2】本発明のプログラムのフローを示す図である。
図3】研究の方法論を表す概要図である。DICOMデータから患者ID情報を抽出し、CSVファイルを作成し、DICOMをjpgに変換し、pythonのpandasパッケージを使用してjpgファイルを各種データ(例えば、身長データまたは体重データ)にリンクし、深層学習モデルを実装する。
図4】(左上)各胸部X線画像は、男性のDICOMから変換されたjpgデータを表す。一番上の数字は実際の身長を表し、一番下の数字は計算上の身長を表す。(右上)x軸は実際の身長を示し、y軸は計算上の高さを示す。予測値と測定値の間の相関係数は、ピアソンの相関によって計算した。(中央左)各胸部X線画像は、女性のDICOMから変換されたjpgデータを表す。一番上の数字は実際の身長を表し、一番下の数字は計算上の身長を表す。(中央右)x軸は実際の身長を示し、y軸は計算上の身長を示す。予測値と測定値の間の相関係数は、ピアソンの相関によって計算した。(左下)トレーニングは検証用データセット(validation)を使用して4エポック実行した。(右下)遅い学習を示す。
図5】(左上)各胸部X線画像は、男性のDICOMから変換されたjpgデータを表す。一番上の数字は実際の体重を表し、一番下の数字は計算上の体重を表す。(右上)x軸は実際の体重を示し、y軸は計算上の体重を示す。予測値と測定値の間の相関係数は、ピアソンの相関によって計算した。(左下)各胸部X線画像は、女性のDICOMから変換されたjpgデータを表す。一番上の数字は実際の体重を表し、一番下の数字は計算上の体重を表す。(右下)x軸は実際の体重を示し、y軸は計算上の体重を示す。予測値と測定値の間の相関係数は、ピアソンの相関によって計算した。
図6】男性の膝高と立位レントゲンX線予測値との解析結果(Bland-Altmanプロット)のグラフを示す。グラフのy軸は、男性の膝高と立位レントゲンX線予測値の差を示し、x軸は、男性の膝高と立位レントゲンX線予測値の平均値を示す。また、グラフの参照線(破線)は、男性の膝高と立位レントゲンX線予測値の差の平均値と誤差の許容範囲(limits of agreement;LOA)を示す。LOAは、差の平均値±1.96×差のSD(標準偏差)で計算される。
図7】男性の実身長と仰臥位レントゲンX線予測値との解析結果(Bland-Altmanプロット)のグラフを示す。グラフのy軸は、男性の実身長と仰臥位レントゲンの差を示し、x軸は、男性の実身長と仰臥位レントゲンX線予測値の平均値を示す。また、グラフの参照線(破線)は、男性の実身長と仰臥位レントゲンX線予測値の差の平均値と誤差の許容範囲(limits of agreement;LOA)を示す。LOAは、差の平均値±1.96×差のSD(標準偏差)で計算される。
図8】本発明のプログラムを含むソフトウェアのユーザーインターフェースを示す図である。
図9】(A)X軸は実際のアルブミン(mg/dl)を示し、Y軸は計算上のアルブミンを示す。(B)X軸は実際のヘモグロビン(mg/dl)を示し、Y軸は計算上のヘモグロビンを示す。(C)X軸は実際のリンパ球(mg/dl)を示し、Y軸は計算上のリンパ球を示す。(D)X軸は実際の尿素窒素(mg/dl)を示し、Y軸は計算上の尿素窒素を示す。(E)X軸は実際のCRP(mg/dl)を示し、Y軸は計算上のCRPを示す。予測値と測定値の間の相関係数は、ピアソン相関を使用して計算した。
図10】NST介入症例の受信者操作特性(ROC)曲線とGrad-cam。(A)混同行列は、検証コホートにおけるNST介入の予測数と実際の数を示す。(B)NSTの介入についての受信者操作特性曲線を示す。(C)AIの予測サイトのGrad-Cam解析。
図11】テストデータセットについての受信者操作特性曲線。(A)受信者操作特性曲線は、GNRIの分類について示されており、クラス0は栄養失調がないことを表す。クラス1は低栄養失調を表す。クラス2は中等度の栄養失調を表す。クラス3は重度の栄養失調を表す。(B)受信者操作特性曲線は、SGA基準の分類について示されており、クラス0は正常を表す。クラス1は軽度を表し、クラス2は中程度を表し、クラス3は重度を表す。(C)受信者操作特性曲線は、mCONUT基準の分類について示されており、クラス0は正常を表す。クラス1は軽度を表し、クラス2は中程度を表し、クラス3は重度を表す。(D)受信者操作特性曲線は、GLIM基準の分類について示されており、クラス0は炎症を伴う慢性疾患を表す。クラス1は、炎症が最小限または認められない慢性疾患を表す。クラス2は、重度の炎症を伴う急性疾患または傷害を表す。クラス3は、社会経済的または環境的要因に関連する空腹/食糧不足を含む飢餓を表す。
図12】各栄養予測モデルについてのGrad-CAM分析。各Grad-CAM分析の結果は、個別のNST状態および栄養基準に従って実行された。
図13】混合ガウスモデルを使用したクラスター分析。(A)クラスター分析を、混合ガウスモデルによって実行した。クラスター1は青色、クラスター2は黄色、クラスター3は赤色で表示される。(B)クラスターに基づくSGAの比率。各色はBMIに基づく栄養重症度評価を表しており、A(灰色)は正常な栄養状態、B(青色)は軽度の栄養障害、C(黄色)は中等度の栄養障害、D(赤色)は重度の栄養障害を示した。(C)各クラスターに基づくGNRIスコア。(D)各クラスターに基づくmCONUTスコア。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.人工知能モデルの構築方法及び学習済み人工知能モデル
本発明は、訓練用のレントゲン画像データと、該画像データに対応する、栄養状態評価に関する情報とを学習データとして人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を含む、学習済み人工知能モデルの構築方法(以下、「本発明のモデル構築方法」と称する場合がある。)、並びに該方法により構築された学習済み人工知能モデル(以下、「本発明の人工知能モデル」と称する場合がある。)を提供する。当然のことながら、人工知能モデルを構築する方法は、物である人工知能モデルを生産する方法に該当する。
【0013】
栄養状態評価に関する情報は、対象者の栄養状態評価の指標となる情報を意味し、例えば、身長又は体重の測定結果が挙げられる。また、本明細書において、「身長又は体重」との用語には、「身長及び体重」も包含されるものとする。あるいは、栄養状態評価に関する情報は、栄養マーカーの血中濃度であってもよい。本明細書において、「栄養マーカー」とは、対象の栄養状態の指標となるマーカーを意味する。本発明に用いる栄養マーカーとしては、栄養状態評価の指標となり得るものであれば特に限定されないが、例えば、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素、C反応性タンパク質、プレアルブミン、トランスサイレチン、レチノール結合蛋白、トランスフェリン、ApoC-II、ApoC-IIIなどが挙げられる。中でも、アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素、C反応性タンパク質が好ましく、アルブミン、ヘモグロビン、尿素窒素がより好ましい。
【0014】
本発明のモデル構築方法で用いる人工知能モデルとしては、特徴量自体の抽出を自動化できることから、ニューラルネットワーク(Neural Network)、特に多層のニューラルネットワークを有するディープラーニング(Deep Learning)が好ましい。本明細書において、「ニューラルネットワーク」は、機械学習で用いられるモデルであって、シナプスの結合でネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)で構成される、問題解決能力を有するモデル全般を意味する。ニューラルネットワークは、他のレイヤーのニューロン間の連結パターン、モデルパラメータを更新する学習過程、出力値を生成する活性化関数などによって定義される。
【0015】
ニューラルネットワークは、入力層、出力層、そして任意選択により1つ以上の中間層(「隠れ層」とも称される。)を含む。各層は1つ以上のニューロンを含み、ニューラルネットワークは、ニューロンとニューロンを連結するシナプスを含む。ニューラルネットワークで各ニューロンはシナプスを通じて入力される入力信号、重み、バイアスに対する活性化関数の関数値を出力することができる。かかる活性化関数として、ニューラルネットワークの中間層においては、例えば、ReLU関数、Tanh関数、シグモイド関数、ステップ関数、それらの派生関数などが挙げられる。一方で、本発明の人工知能モデルは回帰モデルであるため、出力層においては、典型的には、活性化関数は用いられない(換言すれば、恒等関数を用いる)。人工知能モデルには、学習を通じて最適化されるモデルパラメータ、シナプス連結の重み、ニューロンのバイアスなどが含まれる。また、人工知能モデルを学習させる際には、学習前にハイパーパラメータを設定する必要がある。かかるハイパーパラメータとしては、例えば、学習率、繰り返し回数、ミニバッチの大きさなどが挙げられる。
【0016】
上記ニューラルネットワークは、好ましくは畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)であり、CNNは、畳み込み層(Convolution layer)とプーリング層(Pooling layer)をそれぞれ1つ以上含むニューラルネットワークである。通常、畳み込み層での出力は活性化関数に入力され、その結果がプーリング層に入力される。CNNの代表的なアーキテクチャとして、例えば、AlexNet、VGG、GoogLeNet、ResNetなどが挙げられる。
【0017】
人工知能モデルを定義付けるモデル情報(プログラム又はデータ構造)としては、例えば、各ニューラルネットワークを構成する入力層、1つ以上の中間層、出力層のそれぞれに含まれるユニットが互いにどのように結合されるのかという結合情報や、結合されたユニット間で入出力されるデータに付与される重みやバイアスなどの各種情報が挙げられる。結合情報としては、例えば、各層に含まれるユニット数や、各ユニットの結合先のユニットの種類を指定する情報、各ユニットを実装する活性化関数、中間層のニューロン間に設けられたゲートなどの情報などが挙げられる。ゲートは、例えば、活性化関数によって返される値(例えば1または0)に応じて、ユニット間で伝達されるデータを選択的に通過させたり、重み付けたりする。
【0018】
本発明のモデル構築方法において、学習データを用いた人工知能モデルの学習は、典型的には、学習データに対する損失関数を求め、その値をできるだけ小さくするパラメーター(パラメーターの最適値)を探索することであり、各学習データについての損失関数を算出し、その和を指標とする。本発明で用いる損失関数として、典型的には二乗和誤差が用いられるが、平均絶対誤差、平均二乗対数誤差などの他の損失関数を用いることもできる。また、パラメーターの最適値の探索は、ベイズ最適化法によるサロゲートモデリングを用いて、損失関数を近似することにより、動作を高速化して行ってもよい。高速化により、遺伝的アルゴリズムや勾配法の探索回数を数万回以上、あるいは数百万回以上行うことも可能となり、より精度が向上し得る。さらに、学習の停滞を避けるため、ミニバッチ学習やオンライン学習なども用いることができる。
【0019】
本発明のモデル構築方法で用いる学習データは、レントゲン画像データ(学習データに用いるものを「訓練用画像データ」とも称する。)と、該データに対応する、栄養状態評価に関する情報とを、ソフトウェア(以下では、「アプリケーション」とも称する。)やプログラミング言語のライブラリ(例:Pandas等)などを用いてリンクさせて作成することができる。レントゲン写真は、通常はDICOM形式で保存されているため、該DICOM形式を画像データの形式(例:JPG、PNG、GIF、TIFF等)に変換することで、レントゲン画像データを取得することができる。また、DICOM形式には、患者のID、年齢、性別などのタグデータが含まれているため、適宜これらのタグデータも利用することができる。本発明のモデル構築方法では、複数セット(例えば、1万セット以上)の学習データを用いるため、学習データは、学習データセットと読み替えることもできる。
【0020】
本発明で用いるレントゲン写真(栄養状態評価に関する情報を予想する際に用いるレントゲン写真も含む。以下同様。)は、立位のレントゲン写真であってもよく、仰臥位のレントゲン写真であってもよい。寝たきり患者の身長予測モデルを構築する観点からは、仰臥位のレントゲン写真が好ましい。しかしながら、寝たきり患者の実際の身長を測定することが難しいため、学習に用いるレントゲン写真としては、実際の身長データ又は体重データが存在する立位のレントゲン写真が通常用いられる。レントゲン写真は、全身のものでもよく、身体の一部(例:胸部、腹部等)であってもよいが、数が多量にあるとの観点からは、身体の一部、特に胸部レントゲン写真が好ましい。
【0021】
学習データは、全てを人工知能モデルの学習に用いてもよく、あるいは一部を学習、残りを学習済みモデルの汎用性を評価するためのテストデータとして用いることもできる。画像データ全体を、学習データとテストデータとに分割する方法としては、例えば、ホールドアウト法、クロスバリデーション法、リーブワンアウト法などが挙げられる。また、学習データを性別、人種、年齢などの属性により分類し、該分類された学習データを用いて人工知能モデルを学習させることで、該属性を有する対象者に対するより予測精度の高い人工知能モデルを提供することもできる。
【0022】
また、予測結果の高い人工知能モデルを構築するため、学習率の減衰(learning rate decay)、データ拡張(Data Augmentation)などを用いてもよい。データ拡張では、入力画像データ(訓練用画像データ)がアルゴリズムによって人工的に拡張される。具体的には、入力画像に対して、回転や縦横方向の移動などの微小な変化を与えることや、画像の中から一部を切り出す処理(crop処理)や、左右をひっくり返す処理(flip処理)を施すこと、色の調整(明るさ、コントラスト、彩度、色相)、画像の拡大・縮小などのスケール変化を与えることなどにより、入力画像が拡張される。これらの処理は、栄養状態評価に関する情報を予想する際に用いる画像データ(以下、「予測対象の画像データ」と称することがある。)に対して事前に施してもよい。これらの処理は、例えば、ソフトウェア(例:画像編集ソフト等)やプログラミング言語のライブラリ(例:Pandas等)などを用いて行うことができる。本明細書で用いるプログラミング言語としては、特に限定されないが、例えば、Python、R、Julia、JavaScript、C++などが挙げられる。
【0023】
本発明の構築方法では、人工知能モデルは、典型的には、フレームワーク上で学習され、また様々なハードウェア上で実行(推論)される。かかるフレームワークとしては、例えば、PyTorch、TensorFlow、Keras、Caffe、Microsoft Cognitive Toolkit、MxNet、Chainerなどが挙げられる。これらのフレームワークを用いて構築した人工知能モデルは、他のフレームワーク又はハードウェアでは利用できない可能性が高く、相互運用性を欠くとの問題がある。よって、人工知能モデルの相互運用性を担保する観点からは、人工知能モデルは、ONNX(Open Neural Network Exchange Format)やNNEF(Neural Network Exchange Format)などのオープンフォーマットであることが好ましい。各フレームワークで構築した人工知能モデルは、適宜オープンフォーマットに変換することができる。また、フレームワーク上で学習させずに、最初からオープンフォーマットの人工知能モデルを構築することもできる。本発明の構築方法では、各プログラミング言語のライブラリ(例:fastai、NumPy、Pandas、SciPy、Matplotlib、scikit-learn、dlib等)を用いることもできる。例えば、オープンフォーマットの人工知能モデルは、ML.NETなどのクロスプラットフォームのフレームワークを用いることで、オペレーティングシステム(OS)やハードウェアに依存することなく実行することができる。
【0024】
また、本発明の人工知能モデルは、複数の学習済みの人工知能モデルを有するものであってもよい。例えば、身長を予測する人工知能モデルと、体重を予測する人工知能モデルを有する本発明の人工知能モデルであれば、該人工知能モデルに対象者から取得したレントゲン画像データを入力することで、身長及び体重を一度に予測することができる。同様に、栄養マーカーの血中濃度を予測する人工知能モデルは、組み合わせることで複数の栄養マーカーの血中濃度を予測することができ、あるいは身長及び/又は体重を予想する人工知能モデルと組み合わせてもよい。
【0025】
本発明の人工知能モデルについて、栄養状態評価に関する情報の予測値と実測値を比較することなどにより、予測の精度を評価することもできる。例えば、栄養状態評価に関する情報の予測値と実測値と間の相関係数を算出し、該係数に基づき本発明の人工知能モデルの予測精度を評価することができる。かかる相関係数として、例えば、パラメトリックな方法であるピアソンの積率相関係数や、ノンパラメトリックな方法であるスピアマンの順位相関係数、ケンドールの順位相関係数などが挙げられる。また、統計学的手法(例えば、ROC(Receiver Operating Characteristic)解析、決定木解析等)を用いて、本発明の人工知能モデルの予測精度を評価することもできる。
【0026】
2.栄養状態評価に関する情報を予測する方法
下述の実施例で示される通り、上記1.で記載した本発明の人工知能モデルを用いて、レントゲン画像データから、対象者の栄養状態評価に関する情報を精度高く予想することができる。従って、本発明の別の態様において、対象者から取得された予測対象の画像データを、本発明の人工知能モデルに入力し、該人工知能モデルにより、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出する工程を含む、該対象者の栄養状態評価に関する情報を予測する方法(以下「本発明の予測方法」と称する場合がある。)が提供される。
【0027】
本発明の予測方法の対象者としては、健常者であってもよいが、身長測定又は体重測定が困難な者が好ましく、具体的には、例えば、対象者が寝たきり高齢者、重症患者(例:重度度な外傷、火傷または障害を有する患者、特にICU管理が必要な患者、COVID-19などの重篤な感染症の患者等)などが挙げられる。寝たきり高齢者としては、具体的には、厚生労働省が策定する「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」のランクB(屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ)、ランクC(1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する)に該当する高齢者などが挙げられる。また、高齢者とは年齢が65歳以上の者を意味する。
【0028】
予測対象の画像データは、訓練用画像データの取得方法と同様に、例えばDICOM形式で保存されているレントゲン写真を、画像データの形式(例:JPG、PNG、GIF、TIFF等)に変換することで取得することができる。
【0029】
本発明の予測方法による判定結果を学習データとして、本発明のモデル構築方法で記載したように本発明の人工知能モデルに再度学習させることで、該人工知能モデルが有する各パラメーターを再調節することも可能である。
【0030】
3.栄養状態評価に関する情報を予測するための装置
次に、本発明の予測方法を実施するための装置(以下「本発明の装置」と称する場合がある。)の構成を具体的に示す。図1は、本発明の装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。図1に示すとおり、当該装置は、受付部M1と、演算部M2と、出力部M3とを少なくとも有して構成される。
【0031】
当該装置は、電子回路、電気回路、独立した処理装置を組み合わせて構築してもよいが、コンピュータとそこで実行されるコンピュータプログラムとによって、前記の各部(受付部M1と、演算部M2と、出力部M3など)を構成するのが好ましい実施態様である。以下に、当該装置を、該コンピュータと該コンピュータプログラムとによって構成した場合の例を挙げて各部を説明する。以下、当該装置としてのコンピュータとそこで実行されるコンピュータプログラムを、単に「コンピュータ」とも呼んで説明する。
【0032】
当該装置は、ユーザーが個々に使用するディスクトップ型、ノート型、または、タブレット型のコンピュータ(即ち、スタンドアロン型)として構成されてもよいし、ローカルエリアネットワーク(LAN)やインターネットなどの通信経路を介して1以上の端末コンピュータからアクセスされるサーバコンピュータとして構成されてもよい。個人情報保護の観点からは、スタンドアロン型コンピュータ又は限定されたネットワーク内のサーバコンピュータが好ましい態様である。また、1つの共通のプログラムや画像データなどを複数の端末コンピュータで利用し得る点からは、サーバコンピュータが好ましい態様である。当該装置としてのコンピュータが作動に必要な入力装置や表示画面、外部装置とデータのやりとりを行うために必要なインターフェイス、周辺機器などは、適宜に備えられる。当該装置は、対象者から取得されたレントゲン写真データが保存及び/又は処理される装置と同一装置であってもよく、異なる装置であってもよい。以下の説明では、当該装置は、LAN又はインターネットを介して外部のコンピュータからアクセスされるサーバコンピュータであるが、これに限定されるもではない。
【0033】
受付部M1は、入力データ群(予測対象の画像データ等)を外部の入力装置や外部のコンピュータから受け入れるための部分である。入力データ群の取得方法は、本発明のモデル構築方法及び本発明の予測方法において説明したとおりである。
【0034】
受付部M1に入力データ群を入力するための外部装置は、典型的には、インターネットを介して当該装置にアクセス可能に接続された外部のコンピュータであるが、当該装置にUSBなどのインターフェイスを介して接続されたメモリー(USBメモリー)や、種々のデータ読み取り装置であってもよい。受付部M1は、外部のコンピュータや種々の外部機器から入力データ群を受け入れ、該入力データ群を、演算部M2に引き渡すように構成される。
【0035】
演算部M2は、受付部M1から引き渡された入力データ群を処理し、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出するために、前述の本発明の予測方法を実行する部分である。具体的には、本発明の人工知能モデルをサブルーチンとして利用し、該人工知能モデルに前記の入力データ群を入力し、該人工知能モデルから演算結果としての身長又は体重の予測値を受け入れる。該人工知能モデルでなされる演算のプロセスは、本発明のモデル構築方法及び本発明の予測方法において説明したとおりである。演算部M2でなされた演算結果は、出力部M3に引き渡される。
【0036】
出力部M3は、演算部での演算結果を、外部のコンピュータなどの外部機器に出力する部分である。演算部での演算結果の出力の仕方は、例えば、栄養状態評価に関する情報の予測値を単に出力機器上に表示する態様や、表形式で出力する態様、あるいはソフトウェア等で読み込むことで上記の態様で表示されるような電子データの形式であってもよい。
【0037】
受付部M1への入力データ群の送付元は、特に限定はされず、本発明の装置又は本発明の装置と通信可能なコンピュータが挙げられ、研究者等が使用する端末コンピュータや、該端末コンピュータから入力データ群を受信して本発明の装置に入力データ群を送信するLANのサーバコンピュータなどであってよい。
【0038】
予測結果を出力する相手である所定の出力先も、特に限定はされず、各種画像表示装置、各種印刷出力装置、本発明の装置と通信可能なコンピュータ等予め定められた出力先であってよい。一般的な研究部門や医療部門のネットワークシステムでは、入力データ群の送付元が予測結果の出力先でもある場合が多いが(例えば、研究者又は医者の端末コンピュータから入力データ群が送付され、該研究者又は医者の端末コンピュータに予測結果を送り返す場合など)、本発明の装置から見たときの入力データ群の送付元と予測結果の送付先とは、互いに異なっていてもよい。
【0039】
4.栄養状態評価に関する情報を予測するためのコンピュータプログラム
本発明の装置を構成する各部(上記した、受付部M1、演算部M2、出力部M3など)は、それぞれに、電子回路、電気回路、独立した処理装置を組み合わせて構築してもよいが、これらの各部を、コンピュータを用い、該コンピュータで実行されるプログラム(以下「本発明のプログラム」と称する場合がある。)によって構成するのが好ましい実施態様である。
【0040】
一態様において、本発明の人工知能モデル又は本発明のプログラムは、該人工知能モデル又はプログラムが記録された記録媒体の形態で提供される。かかる媒体としては、コンピュータなどの機械が読み取ることができるものであれば特に限定されず、例えば、SSD、HDD、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、DVD、CD、USBメモリーなどが挙げられる。
【0041】
本発明のプログラムは、図2にそのフローを示すとおり、基本的には、前述の本発明の予測方法の流れと全く同様であって、コンピュータを、受付手段として機能させる受付部P1と、演算手段として機能させる演算部P2と、演算部P2により出力された予測結果の出力手段として機能する出力部P3とを有して構成される。
【0042】
受付部P1は、入力データ群(予測対象の画像データ等)を、外部の入力装置や本発明のプログラムが実行されるコンピュータ又は外部のコンピュータから受け入れるためのプログラム部分である。入力データ群は、それぞれ、オペレータにより送付された入力データ群を直接受け付けるプログラム構成とすることができる。また、入力データ群は、オペレータによるデータ名の入力に基づいて、公知の記憶装置(SSD、HDD、BD、DVD、CD、USBメモリーなど)や外部データベースにアクセスしデータを取り込むプログラム構成であってもよい。
【0043】
受付部P1に入力データ群を入力するための外部装置は、典型的には、インターネットを介して当該装置にアクセス可能に接続された外部のコンピュータであってもよく、当該装置にUSBなどのインターフェイスを介して接続されたメモリー(USBメモリー)や、種々のデータ読み取り装置であってもよい。受付部P1は、外部のコンピュータや種々の外部機器から入力データ群を受け入れ、該入力データ群を、演算部P2に引き渡すように構成される。
【0044】
演算部P2は、受付部P1から引き渡された入力データ群を処理し、栄養状態評価に関する情報の予測値を算出するために、前述の本発明の予測方法を実行するプログラム部分である。具体的には、本発明の人工知能モデルをサブルーチンとして利用し、該人工知能モデルに前記の入力データ群を入力し、該人工知能モデルから演算結果としての栄養状態評価に関する情報の予測値を受け入れる。該人工知能モデルでなされる演算のプロセスは、本発明のモデル構築方法及び本発明の予測方法において説明したとおりである。演算部P2でなされた演算結果は、出力部P3に引き渡される。
【0045】
出力部P3は、演算部P2で求められた栄養状態評価に関する情報の予測値を出力するプログラム部分である。演算部P2での演算結果の出力先や、出力の仕方などは、出力部M3において説明したとおりである。
【0046】
本発明のプログラムや、該プログラムを含むソフトウェアは、公知の方法により構築することができる。例えば、プログラミングに必要なエディタ及びコンパイラや、総合開発環境(IDE)などを用いて構築することができる。IDEとしては、例えば、Visual Studio、Eclipse、Xcode、Android Studioなどが挙げられる。
【0047】
5.健康状態の管理方法又はサルコペニアの診断補助方法
本発明の予測方法により、対象者の栄養状態評価に関する情報を精度高く予測することができる。よって、対象者の栄養状態評価に関する情報の予測値に基づき、該対象者の栄養状態を評価(又は栄養状態の評価を補助)することや、該対象者に適切な処置を行うことができる。従って、さらに別の態様において、本発明の予測方法により得られた、対象者の栄養状態に関する情報の予測値に基づき、該対象者に適切な量の栄養又は医薬を投与する工程を含む、該対象者の健康状態の管理方法、又は健康状態の管理を補助する方法(以下、「本発明の健康状態管理又は管理補助法」と称することがある)も提供される。また、対象者の栄養状態の評価に基づき、栄養サポートチーム介入の判断を補助する方法も提供される。本明細書において、「健康状態の管理を補助する」とは、対象者の健康状態の管理のための指標となる情報を提供することをいい、医療行為である、対象者の健康状態を管理する工程自体を含まないことを意味する。同様に、「栄養サポートチーム介入の判断を補助する」とは、対象者に栄養サポートチーム介入の判断のための指標となる情報を提供することをいい、医療行為である、対象者に対して、栄養サポートチーム介入が必要であるか否かを判断する工程自体を含まないことを意味する。また、本明細書において、「栄養又は医薬」との用語には、「栄養及び医薬」も包含されるものとする。
【0048】
対象者の栄養状態の評価は、例えば、SGA(主観的包括的評価(subjective global assessment))、GNRI(老人栄養リスク指標(Geriatric Nutritional Risk Index))、mCONUT(修正された栄養状態の制御(modified Controlling Nutritional status))、GLIM(栄養失調に関するグローバルリーダーシップイニシアチブ(Global Leadership Initiative on Malnutrition))重症度指標などの方法や指標に基づき行うことができる。これらの評価方法に用いる対象者の身長、体重、栄養マーカーの血中濃度などの情報について、実測値に代えて、本発明の予測方法により得られた予測値を用いることで、実測値と同様に対象者の栄養状態を評価することが可能となる。
【0049】
栄養サポートチーム(Nutrition Support Team; NST)とは、患者などの対象者における適切な栄養管理を提供するために、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、言語聴覚士、歯科医師、歯科衛生士などで構成された医療チームを意味する。「栄養サポートチーム介入」とは、該チームにより、対象者における適切な栄養管理を行うことを意味する。
【0050】
対象者における適切な栄養量として、例えば、必要エネルギー量、必要タンパク質量、必要脂肪量、必要糖質量、必要水分量などが挙げられる。必要エネルギー量は、典型的には、全エネルギー消費量(TEE)に基づいて算出される。TEEは、以下の式(1)により算出される。
【0051】
【数1】
【0052】
BEEは、以下の式(2)のハリス-ベネディクトの式から計算することができる。
【0053】
【数2】
【0054】
必要タンパク質量は、典型的には、代謝亢進の程度や低アルブミン血症の程度から0.8~2.0g/kg/日の範囲で、また非タンパク熱量(NPC; non-protein calorie)/窒素(N)比が一般に150~200程度になるよう算出される。必要脂質量は、典型的には、経腸及び経口摂取の場合には、必要エネルギー量の20~30%となるように、また静脈栄養の場合には、必要エネルギー量の10%程度になるように算出される。必要糖質量は、典型的には、必要エネルギー量からタンパク質と脂質のエネルギーを減じることで算出される。必要水分必要量は、典型的には、投与エネルギー量(kcal)と同量(ml)か、あるいは(体重kg)×30~35(ml)で算出される。
【0055】
対象者における適切な医薬量として、投与する医薬や疾患の種類等に応じて、身長、体重、これらから算出される体表面積(例:DuBois式により算出される体表面積等)などに基づき、適宜算出される。
【0056】
栄養又は医薬の投与経路は、特に限定されないが、例えば、経口投与、経鼻経管投与、経胃投与、経空腸投与、経静脈投与、筋肉内投与、皮下投与などが挙げられる。
【0057】
また、本発明の予測方法により予測された身長又は体重の情報は、サルコペニアの診断や該診断の補助方法にも有用である。従って、別の態様において、本発明の予測方法により得られた、対象者の身長又は体重の予測値に基づき、該対象者がサルコペニアであるか否かを診断する方法、又は該診断を補助する方法(以下、「本発明の診断法又は診断補助法」と省略することがある。)も提供される。サルコペニアであるか否かの診断は、対象者がサルコペニアであるか否かを判定するだけでなく、サルコペニアの診断の際に有用である、サルコペニアである可能性又は確率を評価又は算出することも含まれる。また、本明細書において、「診断を補助する」とは、対象者がサルコペニアであるか否かの判断のための指標となる情報を提供することをいい、医療行為である、対象者がサルコペニアであるか否かを診断する工程自体を含まないことを意味する。
【0058】
本明細書において、「サルコペニア」とは、主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態を意味する。本発明の対象となるサルコペニアは、一次性サルコペニア(加齢性サルコペニア)であってもよく、二次性サルコペニア(活動量に関連するサルコペニア、疾病に関連するサルコペニア、栄養に関連するサルコペニア)であってもよい。
【0059】
サルコペニアには様々な診断基準が存在するが、例えば、アジア・サルコペニアワーキンググループ(AWGS) 2019によるアジア人のサルコペニア診断基準は、「1.筋肉量の低下」「2.筋力の低下」及び「3.身体機能の低下」の3つに基づき、以下の基準値のうち、1並びに、2及び3のうちのどちらかに該当すれば、サルコペニアと診断される。
【0060】
1.筋肉量の低下((1)及び(2)のいずれかに該当する場合)
(1)BMI(ボディマス指数)が18.5未満、又は下腿範囲が男性34cm未満、女性33cm未満
(2)四肢骨格筋量が
BIA法:男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満
DXA法:男性7.0kg/m2未満、女性5.4kg/m2未満
2.筋力の低下
握力が男性28kg未満、女性18kg未満
3.身体機能の低下((1)及び(2)のいずれかに該当する場合)
(1)椅子から立ち上がる動作を5回繰り返したときの時間が12秒超
(2)6m歩いたときの速度が秒速1m未満
【0061】
すなわち、サルコペニアの診断の基準として、BMI、身長、体重などが重要な指標となる。よって、本発明の一態様において、本発明の診断法又は診断補助法は、(1)本発明の予測方法により予測された身長及び体重から、推定BMIを算定する工程、及び(2)該推定BMIを基準値と比較する工程を含む。推定BMIは、予測体重[kg]を予測身長の二乗[m2]で除することで算出される。
【0062】
本発明の診断法又は診断補助法は、対象者の下腿範囲を測定する工程、四肢骨格筋量を測定する工程、握力を測定する工程及び/又は身体機能を測定する工程を含んでいてもよい。
【0063】
本発明の健康状態管理又は管理補助法及び本発明の診断法又は診断補助法は、本発明の装置又は本発明のプログラムにより実施することも好適である。よって、本発明の装置には、対象者における適切な栄養量または医薬量を算出する演算部、及び/又は推定BMIを算定する演算部が含まれていてもよい。同様に、本発明のプログラムには、対象者における適切な栄養量または医薬量を算出する演算部、及び/又は推定BMIを算定する演算部が含まれていてもよい。
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例0065】
<材料及び方法>
倫理
研究実施システムは、単一施設の研究である。この遡及研究は、ヘルシンキ宣言を順守し、十善会病院の倫理委員会によって承認された(承認日、2022年3月23日、承認番号、j2021-05)。遡及的画像データを使用したため、インフォームドコンセントは放棄された。
【0066】
概要
成人の前後胸部レントゲン写真は、過去15年に亘り十善会病院のPACSシステムから取得された。本実施例では、過去15年に亘り十善会病院で実施された、健康診断を含む合計約30,000件の胸部X線検査を対象とした。画像はデジタルラジオグラフィ(DR)写真及びDICOM形式であり、メーカーのデバイスを使用して取得した。すべての患者情報を匿名化した。除外基準は、イメージングを繰り返し受けた患者、15歳未満の患者であった。評価項目として、カルテ及び胸部レントゲン写真に記録された身長と体重に基づく予測精度を評価した。膝高から計算した値を、入院中の高齢患者の予測身長及び実際の身長と比較した。小児患者からのデータを除外した。まず、過去15年間のDICOMデータを病院のイメージングサーバーから抽出した。身長と体重のデータを、電子カルテから抽出した。
【0067】
DLモデルのデータセットの準備
図3は、本実施例の方法論の概要を示す。DICOMデータから患者ID情報を抽出し、CSVファイルを作成し、DICOMをjpgに変換し、pandasを使用してjpgファイルを身長データ又は体重データとリンクさせ、深層学習モデルを実装する。
【0068】
DLアルゴリズムの開発
身長と体重の予測を、畳み込みニューラルネットワークを使用して行った。ResNet-152ネットワークを、画像のダウンサンプリングレイヤーをエンコードするためのエンコーダネットワークのバックボーンとして使用した。Python 3.8(Python Software Foundation、ビーバートン、OR)とPytorch 1.8.1(FacebookのAI Research lab)を使用し、Nvidia RTX A6000グラフィックカード上でモデルをトレーニングした。身長と体重の予測トレーニングプロセスでは、平均二乗誤差損失関数とバッチサイズが32のAdamオプティマイザーを使用し、学習率を5e-4から1e-6に直線的に減少させた。
【0069】
統計解析方法
30,000個の胸部レントゲン画像及び実際の身長データ又は体重データを教師データ及び検証データとして使用し、予測身長若しくは予測体重と、実際の身長若しくは体重の間のAI相関係数を算出して、予測による診断の精度を決定した。
【0070】
身長及び体重予測ソフトウェアの開発
自体公知の方法により、身長及び体重予測ソフトウェアを開発した。簡潔に説明すると、様々なOS上で実行できるように、PyTorchを用いて構築したDLモデルを、ONNX(Open Neural Network Exchange Format)に変換した後、Visual Studio及びクロスプラットフォームのフレームワークであるML.NETを用いて、身長及び体重予測ソフトフェアを開発した。
【0071】
研究デザイン
本研究は、2021年1月から2022年1月まで病院に入院した65歳以上の患者の観察研究であった。最終的なサンプルサイズは、適格患者から欠損値を除外した後の3701人の患者であった(表1)。
【0072】
【表1】
【0073】
データ収集
身長、体重、年齢、性別を含む基本情報を、適格患者について収集した。アルブミン、ヘモグロビン、リンパ球数、尿素窒素、およびCRP(C反応性タンパク質)を含む血液検査データを収集した。栄養評価を、SGA(主観的包括的評価(subjective global assessment))、GNRI(老人栄養リスク指標(Geriatric Nutritional Risk Index))、mCONUT(修正された栄養状態の制御(modified Controlling Nutritional status))、およびGLIM(栄養失調に関するグローバルリーダーシップイニシアチブ(Global Leadership Initiative on Malnutrition))重症度指標(Cederholm T, et al., Clin Nutr. 2019 Feb;38(1):1-9; Cederholm T, et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019 Feb;10(1):207-217; Huo Z, et al., Clin Nutr. 2022 Jun;41(6):1208-1217; Malone A and Mogensen KM., Nutr Clin Pract. 2022 Feb;37(1):23-34; Bouillanne O, et al., Am J Clin Nutr. 2005 Oct;82(4):777-783; Kheirouri S, et al., Adv Nutr. 2021 Feb 1;12(1):234-250; Zhou H, et al., Clin Nutr. 2020 Aug;39(8):2564-2570; Takagi K, et al., Nutrients. 2022 May 31;14(11):2317)を使用して、各患者に対して実施した。NST介入の有無に関するデータも収集した。
【0074】
モデルの発展
上述の身長と体重の予測モデルを発展させ、上述の収集したさまざまなデータを、胸部X線画像からこれらの指標を予測する意図で、トレーニングデータとして使用した(図1)。予測モデルは、深層学習アルゴリズムの一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を採用し、具体的には、ResNet-152アーキテクチャを使用し、Python 3.8とPytorch 1.8.1を使用してNVIDIA RTX A6000上でモデルをトレーニングした。CNNモデルを解釈するために、クラス活性化マップ(Class activation maps; CAM)を採用した(Selvaraju RR, et al., Proceedings of the IEEE international conference on computer vision. 2017:618-626)。クラスター分析を、混合ガウスモデルによって実行した。
【0075】
統計分析
モデルの予測を評価するために、相関係数と曲線下面積(AUC)を計算した。評価を、ピアソンの相関係数を使用して元の値に対する予測を視覚化することにより行った。
【0076】
実施例1:DLモデルの開発
寝たきりの測定不能な患者のための適切な栄養予測のために、身長と体重のデータを予測する必要性があったため、胸部レントゲン写真に基づく予測モデルの研究開発を開始した。既報の画像回帰モデルは、顔データから年齢を予測する。本実施例では、Fastaiの画像回帰関数を使用して、レントゲン写真から身長又は体重を予測するモデルを開発した。モデルをトレーニングするために、レントゲン写真が身長又は体重に関連付けられたデータローダーを準備した。仰臥位のレントゲン写真から寝たきり患者の身長予測モデルを開発することを目標としたが、寝たきり患者の実際の身長を測定することが難しいため、実際の身長データが存在する立位のレントゲン写真から身長予測モデル及び体重予測モデルを開発した。男性及び女性の身長予測モデルによる予測値と測定値の相関係数は、それぞれR=0.855と0.81であった。男性及び女性の体重予測モデルによる予測値と測定値の相関係数は、それぞれR=0.793及び0.86であった。また、開発した身長及び体重予測ソフトウェアのユーザーインターフェースを図8に示す。
【0077】
実施例2:DLモデルの評価
実施例1で作成したDLモデルの検証を行った。寝たきり患者の適切な栄養予測に身長が必要であるため、DLモデルを開発した。したがって、実際の身長又は体重を予測するために立位の胸部X線を使用した。しかし、寝たきり患者の立位のレントゲン写真や実際の身長データを収集することは容易ではないため、最初に小規模な検証を行った。まず、DLモデルを検証するために、健康なボランティアからのデータを測定した(膝高(KH))。図6は、男性のKHと計算上の高さ(男性の立位レントゲン画像データを用いて学習させたDLモデルによる予測値)の平均値の差を示すBland-Altmanプロットを示す。この結果から、両方の予測値の一致度が高いことが示された。次に、男性の実身長と計算上の身長(男性の仰臥位レントゲン画像データを用いて学習させたDLモデルによる予測値)との間で解析を行った(図7)。図6と同様、両方の予測値の一致度が高いことが示された。
【0078】
実施例3:身長および体重以外のデータ予測モデルの開発
まず、高齢患者のX線によるアルブミン、ヘモグロビン、リンパ球、尿素窒素、CRPなどの継続的なデータ予測モデルを開発した。各予測モデルによる予測値と測定値の間の相関係数は、それぞれR=0.69およびR=0.75、R=0.47、R=68、R=0.49であった(図9A、E)。頻繁に使用される栄養マーカーである、アルブミン、ヘモグロビンおよび尿素窒素は、栄養マーカーの計算に対する適合性を示す有意な相関を示した。
【0079】
結果として、カテゴリカルデータにおける現在の栄養マーカーについてのAIモデルを構築された。X線は、NSTの介入における患者を効果的に同定する(AUC:0.90、図10B)。胸部X線は、栄養決定において患者を効果的に同定する。図11Aは、GNRIの分類についてのROC-AUCを示し、栄養失調の欠如、および低栄養失調、中程度の栄養失調、重度の栄養失調は、それぞれ0.90、0.84、0.88、0.89であった。図11Bは、SGA基準の分類についてのROC-AUCを示し、正常、および軽度、中程度、重度は、それぞれ0.78、および0.73、0.91、1.00であった。図11Cは、mCOUNT基準の分類についてのROC-AUCを示し、正常、および軽度、中程度、重度は、それぞれ0.87、および0.89、0.83、0.90であった。図11Dは、GLIM基準の分類についてROC-AUCを示し、炎症を伴う慢性疾患の慢性疾患、および炎症が最小限または認識されない慢性疾患、炎症、重度の炎症を伴う急性疾患または損傷、社会経済的または環境的要因に関連する空腹/食物不足を含む飢餓は、それぞれ0.87、および0.82、0.84、0.85であった。
【0080】
実施例4:予測モデルの解析
次に、前述のように、これらの個々の栄養予測CNNモデルが、胸部X線とAIの解釈を判断している場所を確認するために、Grad-CAM分析を実行した。結果より、GLIM基準に従い、より栄養失調の患者の胸部の上部におけるより多くのホットスポットへと傾くことが示された(図12)。
【0081】
これらの知見は、栄養分類予測のためにX線を使用することが、実際の分類の精度に匹敵することを示唆している。さらに、将来の適用のために、この調査で利用されている4つのインデックス間の相関関係を確認した。各栄養指標の欠損値を除く1609のケースにおいて、混合ガウスモデルを使用してクラスター分析を行った。(図13A)。クラスター1と比較して、クラスター2は非常に高いGNRIスコアを示したが、mCOUNTでは、2つのグループ間に有意な差異は示されなかった(図13C、D)。対照的に、クラスター3は、他の2つのグループと比較して、GNRIスコアが有意に低く、mCOUNT値が有意に高いことが示された。したがって、クラスター3は、クラスター1および2よりも貧弱なGNRI値とmCOUNT値を有するため、栄養障害を伴うグループとして分類できる。SGAの分析により、クラスター3だけでBとCの数が多くなることが明らかとなったが、これは評価が主観評価であり得ることを示している(図13B)。これらの調査結果に基づいて、グループの比較分析により、BMIのみがクラスター1よりもクラスター2で非常に高いことが明らかとなった(表2)。対照的に、クラスター3のBMIは、クラスター1と比較して有意な差異を示さない。クラスター3は、クラスター1および2と比較して、有意に年齢の進行と入院日数の延長の両方を示した。GLIM基準に関しては、クラスター2はより軽度の障害への傾向を示し、一方でクラスター3はより重度の障害への傾向を示した。GNRIとmCOUNTに基づくクラスタリングでは、BMI、入院期間、およびNST介入率で差異が観察された。これらの基準に基づいた栄養評価は、身体組成の評価が利用できない場合、より有用であり得、そしてX線予測因子はさまざまな栄養予測指標の結果も統合する必要がある。
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、対象者のレントゲン写真から、該対象者の身長、体重などの栄養状態評価に関する情報を精度高く予測できる人工知能モデルを構築することができる。様々な医療的理由により、従来の身長又は体重が測定が難しい対象者(寝たきり高齢者や重症患者)においても、早期の栄養計算などが行えるため、特に医療分野等において有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 身長又は体重予測装置
2 学習済み人工知能モデル
3 入力データ群の送付元(外部のコンピュータ等)
図1
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図13