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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081206
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】電池用包装材
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/131 20210101AFI20240611BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240611BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240611BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20240611BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240611BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01M50/131
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/129
B32B27/18 Z
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194657
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】甲田 直也
【テーマコード(参考)】
4F100
5H011
【Fターム(参考)】
4F100AA20C
4F100AB10B
4F100AB33B
4F100AH03C
4F100AK03C
4F100AK48A
4F100AK51D
4F100AK64C
4F100AL03C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA19C
4F100CB00D
4F100EJ38A
4F100GB15
4F100GB41
4F100JB12D
4F100JD02B
4F100JK16
4F100JL12C
5H011AA03
5H011AA09
5H011CC02
5H011CC10
5H011CC14
5H011DD03
5H011KK02
(57)【要約】
【課題】電池用包装材の熱融着性樹脂層に特定の滑剤を用いることにより、成形時の滑り性を向上させるとともに電池性能の劣化を抑制する。
【解決手段】外側から内側へ順に、少なくとも基材層13、バリア層11、熱融着性樹脂層15を含む電池用包装材1であって、前記熱融着性樹脂層15がポリオレフィン系樹脂と1種以上の滑剤を含み、少なくとも1つの滑剤が下記式(I)で表されるN置換アミドであることを特徴とする電池用包装材。
【化4】
R1はCm1n1で表される炭化水素鎖
R2はCm2n2で表される炭化水素鎖
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側から内側へ順に、少なくとも基材層、バリア層、熱融着性樹脂層を含む電池用包装材であって、
前記熱融着性樹脂層がポリオレフィン系樹脂と1種以上の滑剤を含み、少なくとも1つの滑剤が下記式(I)で表されるN置換アミドであることを特徴とする電池用包装材。
【化3】
R1はCm1n1で表される炭化水素鎖
R2はCm2n2で表される炭化水素鎖
【請求項2】
前記N置換アミドの炭素数が34以上であり、R1の炭素数(m1)とR2の炭素数(m2)が|m1-m2|≦15の関係を満たす請求項1に記載の電池用包装材。
【請求項3】
前記熱融着性樹脂層が単層または2層以上の多層であり、最内層がN置換アミドを含み、最内層中のN置換アミドを含む全滑剤の合計濃度が100質量ppm~2500質量ppmである請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項4】
前記熱融着性樹脂層が滑剤として不飽和脂肪酸アミドを含む請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項5】
前記熱融着性樹脂層の最内層の全滑剤量に対するN置換アミドの割合が30質量%~100質量%である請求項3に記載の電池用包装材。
【請求項6】
前記熱融着性樹脂層の表面にN置換アミドを含む滑剤層が形成されている請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項7】
請求項1または2に記載された電池用包装材に、深絞り成形または張り出し成形による凹部が形成されていることを特徴とする電池ケース用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池、特に小型携帯用のリチウムイオン二次電池のケースとして好適に用いられる電池用包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を代表とする蓄電デバイスは、缶ケースからアルミニウム箔等の両面に樹脂フィルムを貼り合わせたラミネートタイプの包装材を用いることで、多様な形状に加工することが可能となり、さらに薄型、軽量化も可能となった。
【0003】
また、ラミネートタイプの電池用包装材は、深絞り成形や張り出し成形やによって略直方体形状等の立体形状に成形される。電池用包装材を立体形状に成形することにより、電極や電解液を収容するための収容空間を確保することができる。
【0004】
電池用包装材をピンホールや破断等なく良好状態に立体形状に成形するには内側の熱融着性樹脂層(シーラント層)の表面の滑り性を向上させることが求められる。熱融着性樹脂層の滑り性を向上させる方法として、従来より樹脂への滑剤添加が行われている(特許文献1~3参照)。
【0005】
特許文献1には、熱融着性樹脂層として特定組成のα-オレフィンのランダム共重合体に特定の滑剤を含有させたシーラントフィルムを用いることにより、滑り性を改善できることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、熱融着性樹脂層として所定量の飽和脂肪酸アミドおよび不飽和脂肪酸アミドを添加したシーラントフィルムを用いることにより、滑り性を改善するととも滑剤のブリードアウトによる白粉発生を防止できることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、熱融着性樹脂層として3層以上の多層シーラントフィルムを用い、各層の滑剤含有量を規定することにより、滑り性を改善するととも滑剤のブリードアウトによる白粉発生を防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3774163号公報
【特許文献2】特許6808966号公報
【特許文献3】特許6943547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した文献に記載された技術は、シーラントフィルムの組成、滑剤の種類および添加量に着眼して成形時の滑り性を改善するものである。このように、電池用包装材の熱融着性樹脂層の材料はもっぱら成形時の滑り性の改善を目的として改良されてきた。
【0010】
電池用包装材の熱融着性樹脂層は電池ケースの内面となり電極や電解液と接触する層であるが、従来は滑剤が電池性能に与える影響について検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した背景技術に鑑み、本発明は、電池用包装材の熱融着性樹脂層に特定の滑剤を用いることにより、成形時の滑り性を向上させるとともに電池性能の劣化を抑制することを目的とする。
【0012】
即ち、本発明は、下記[1]~[7]に記載の構成を有する。
【0013】
[1]外側から内側へ順に、少なくとも基材層、バリア層、熱融着性樹脂層を含む電池用包装材であって、
前記熱融着性樹脂層がポリオレフィン系樹脂と1種以上の滑剤を含み、少なくとも1つの滑剤が下記式(I)で表されるN置換アミドであることを特徴とする電池用包装材。
【0014】
【化1】
【0015】
R1はCm1n1で表される炭化水素鎖
R2はCm2n2で表される炭化水素鎖
[2]前記N置換アミドの炭素数が34以上であり、R1の炭素数(m1)とR2の炭素数(m2)が|m1-m2|≦15の関係を満たす前項1に記載の電池用包装材。
【0016】
[3]前記熱融着性樹脂層が単層または2層以上の多層であり、最内層がN置換アミドを含み、最内層中のN置換アミドを含む全滑剤の合計濃度が100質量ppm~2500質量ppmである前項1または2に記載の電池用包装材。
【0017】
[4]前記熱融着性樹脂層が滑剤として不飽和脂肪酸アミドを含む前項1~3のいずれかに記載の電池用包装材。
【0018】
[5]前記熱融着性樹脂層の最内層の全滑剤量に対するN置換アミドの割合が30質量%~100質量%である前項3または4に記載の電池用包装材。
【0019】
[6]前記熱融着性樹脂層の表面にN置換アミドを含む滑剤層が形成されている前項1~5のいずれかに記載の電池用包装材。
【0020】
[7]請求項1~6のいずれかに記載された電池用包装材に、深絞り成形または張り出し成形による凹部が形成されていることを特徴とする電池ケース用部材。
【発明の効果】
【0021】
上記[1]に記載の電池用包装材は、電池ケースの内面となる熱融着性樹脂層に添加される滑剤としてN置換アミドを含んでいる。滑剤は層表面に析出して滑り性向上効果を発揮し、深絞り成形や張り出し成形において深い成形が可能となり、電池容量を増やすことができる。しかも、N置換アミドはアミド基の両端に炭化水素鎖(脂肪族炭化水素)R1、R2が結合しているので、電解液に溶出しても充放電の際にリチウムイオンの動きを妨げず、滑剤による電池性能の低下を抑制できる。
【0022】
上記[2]に記載の電池用包装材は、N置換アミドの総炭素数が34以上で、かつR1の炭素数(m1)とR2の炭素数(m2)が|m1-m2|≦15の関係を満たしているから、立体障害によるアミド基の影響が小さくなり分子内極性が小さくなるので、アミド基によるリチウムイオン移動の妨げによる影響を少なくでき、電池の内部抵抗の上昇を抑制するとともに放電レートを向上させる効果がある。
【0023】
上記[3]に記載の電池用包装材は熱融着性樹脂層は単層または多層であり、最内層にN置換アミドが含まれ、N置換アミドを含む全滑剤の合計濃度が100質量ppm~2500質量ppmであるから、滑り性が良く、かつブリードアウト量も抑制される。
【0024】
上記[4]に記載の電池用包装材は熱融着性樹脂層が滑剤として不飽和脂肪酸アミドを含んでいるので優れた滑り性が得られる。
【0025】
上記[5]に記載の電池用包装材は熱融着性樹脂層の最内層の滑剤総量に対するN置換アミドの割合が30質量%~100質量%であるから、滑り性の向上効果と電池性能の低下抑制効果がバランス良く得られる。
【0026】
上記[6]に記載の電池用包装材は熱融着性樹脂層の表面に形成されたN置換アミドを含む滑剤層により、滑り性の向上効果と電池性能の低下抑制効果が得られる。
【0027】
上記[7]に記載の電池ケース用部材は、凹部の内面の熱融着性樹脂層が滑剤としてN置換アミドを含んでいるから、深絞り成形や張り出し成形において深い成形が可能となり、電池容量を増やすことができる。しかも、滑剤電解液に溶出しても充放電の際にリチウムイオンの動きを妨げず、滑剤による電池性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の電池用包装材の一例を示す断面図である。
図2】本発明の電池用包装材の他の例を示す断面図である。
図3】本発明の電池用包装材のさらに他の例を示す断面図である。
図4図1の電池用包装材で作製した電池ケースの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1図3に、本発明の電池用包装材にかかる一例およびその変形例を示す。
【0030】
以下の説明において、同一符号を付した層は同一物または同等物を表しており、重複する説明を省略する。
[電池用包装材]
本発明の電池用包装材は、基本構成として、外側から内側へ順に、少なくとも基材層、バリア層、熱融着性樹脂層を含む積層体である。
【0031】
図1の電池用包装材1は、バリア層11の一方の面に第1接着剤層12を介して基材層13が貼り合わされ、他方の面に第2接着剤層14を介して熱融着性樹脂層15が貼り合わされた積層体である。
【0032】
前記電池用包装材1は、図4に示すように、凹部52を形成した本体51とフラットな蓋55に加工され、両者の熱融着性樹脂層15同士を向かい合わせに配置して、凹部52内に電池本体56を収容し、凹部52の周囲のフランジ部53と蓋55をヒートシールすることにより電池ケース50が作製される。電池ケース50において、前記基材層13が外側となり、前記熱融着性樹脂層15が内側となる。従って、本発明において、電池用包装材を構成する各層の位置を方向で説明する場合に、ケースの内外の方向に合わせて、基材側の方向を外側、熱融着性樹脂層の方向を内側と称する。
【0033】
本発明の電池用包装材1は、ケース50の内面となり電池本体56と接触する熱融着性樹脂層15に特定の滑剤を用いることにより成形時の滑り性を向上させるとともに電池性能の低下を防止することができる。
【0034】
以下に、前記電池用包装材1を構成する各層について詳述する。
(熱融着性樹脂層)
熱融着性樹脂層15は腐食性の強い電解質などに対しても優れた耐薬品性を具備させるとともに、電池用包装材1にヒートシール性を付与する役割を担うものである。
【0035】
前記熱融着性樹脂層15はポリオレフィン系樹脂と1種以上の滑剤を含み、少なくとも1つの滑剤が下記式(I)で表されるN置換アミドである。
【0036】
【化2】
【0037】
R1はCm1n1で表される炭化水素鎖
R2はCm2n2で表される炭化水素鎖
滑剤は成形時に金型との滑り性を向上させるものであり、樹脂と滑剤を混合した樹脂組成物で熱融着性樹脂層15を形成すると滑剤が層表面に析出して滑り性向上効果を発揮する。従って、深絞り成形や張り出し成形において深い成形が可能となり、電池容量を増やすことができる。
【0038】
前記ポリオレフィン系樹脂はポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂を例示でき、特にプロピレン系樹脂が好ましい。プロピレン系樹脂としては、キャストポリプロピレン(CPP)やインフレーションポリプロピレン(IPP)等の無延伸フィルムが好ましい。前記プロピレン系樹脂として、プロピレンの単独重合体(hPP)の他、共重合成分としてエチレンおよびプロピレンを含有するエチレン-プロピレン共重合体を例示できる。前記エチレン-プロピレン共重合体は、ランダム共重合体(rPP)、ブロック共重合体(bPP)のいずれでもよい。
【0039】
また、熱融着性樹脂層は単層、多層のいずれでもよい。図1の電池用包装材1の熱融着性樹脂層15は単層であり、図2の電池用包装材2の熱融着性樹脂層20は3層であり、図3の電池用包装材3の熱融着性樹脂層25は2層である。前記多層の熱融着性樹脂層を構成する多層フィルムは共押出し等で作製することができる。3層フィルムは、上述した種々のプロピレン系樹脂フィルムのうち、ヒートシール性、デラミネーション耐性、絶縁性が優れている点で、hPPまたはbPPを中間層とし、中間層の両外側にrPP層を配した3層共押出CPPフィルムを推奨できる。図2の電池用包装材2の熱融着性樹脂層20は、中間層21の一方の面に第2接着剤層14に貼り合わされるラミネート層22を配し、他方の面にシール層23を配した3層フィルムで構成されている。図3の電池用包装材3の熱融着性樹脂層25はラミネート層22とシール層23の2層フィルムである。
【0040】
前記滑剤はN置換アミドを含んでいることが条件であり、複数のN置換アミドを併用することも他の滑剤を併用することもできる。
【0041】
上記式(I)で表されるN置換アミドとして、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドを例示できる。表1にこれらのN置換アミドの総炭素数、R1の炭素数(m1)、R2の炭素数(m2)を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
N置換アミドはアミド基の両端に炭化水素鎖(脂肪族炭化水素)R1、R2が結合しているので、電解液に溶出しても充放電の際にリチウムイオンの動きを妨げない。特に内部抵抗の上昇や放電レートの低下などのリチウムイオン2次電池の性能低下を防止できる。一方、アミド基が分子鎖末端に存在するエルカ酸アミドなどの場合、アミド基がLiイオンと相互作用し、容易に非共有結合を形成するためLiイオンの運動を妨げる。
【0044】
前記N置換アミドのなかでも、総炭素数が34以上で、かつR1の炭素数(m1)とR2の炭素数(m2)が|m1-m2|≦15の関係を満たすアミド、即ちm1-m2の絶対値が15以下であるアミドを用いることが好ましい。この条件を満たすN置換アミドは立体障害によるアミド基の影響が小さくなり分子内極性が小さくなるので、アミド基によるリチウムイオン移動の妨げによる影響を少なくできる。具体的には、電池の内部抵抗の上昇を抑制するとともに、放電レートを向上させる効果が大きい。
【0045】
熱融着性樹脂層は単層または多層であり、滑り性の向上を図るとともに電池の性能低下を抑制するためには、最内層にN置換アミドを含み、かつ最内層中のN置換アミドを含む全滑剤の合計濃度を規定することが好ましい。最内層とは、電池ケース50の内面を形成し、ヒートシール時に相手材と接触する層である。図2の3層の熱融着性樹脂層20または図3の2層の熱融着性樹脂層25の最内層はシール層23である。単層の場合は熱融着性樹脂層15全体が最内層である。最内層中の全滑剤の合計濃度は100質量ppm~2500質量ppmが好ましい。100質量ppm未満では良好な滑り性が得られず、2500質量ppmを超えるとブリードアウト量が多くなり、滑剤が最内層表面に白粉状に析出して成形金型や製造ラインに付着するおそれがある。2500質量ppm以下であればブリードアウト量が抑制される。最内層中の特に好ましい全滑剤の合計濃度は200質量ppm~2000質量ppmである。
【0046】
前記最内層に添加する滑剤はN置換アミドのみでもよく、他の滑剤を併用することもできる。他の滑剤を併用する場合は、電池性能の低下を防止するために、熱融着性樹脂層の最内層中の滑剤総量に対するN置換アミドの割合を30質量%以上とすることが好ましい。N置換アミドの割合が30質量%未満で他の滑剤の割合が増えると、電解液に溶出した他の滑剤が放充電時のリチウムイオンの動きを妨げて電池性能を低下させるおそれがある。従って、最内層中の滑剤総量に対するN置換アミドの好ましい割合は30質量%~100質量%である。最内層中の滑剤総量に対するN置換アミドの特に好ましい割合は40質量%以上である。N置換アミドと併用する滑剤名については後に詳述する。
【0047】
また、多層の熱融着性樹脂層において最内層以外の層にN置換アミドまたは他の滑剤を添加する場合は、最内層のN置換アミドを含む全滑剤の合計濃度を基準濃度として他の層の濃度を増減することが好ましい。
【0048】
図2の3層の熱融着性樹脂層20においては、最内層であるシール層23の全滑剤の合計濃度を基準濃度とし、中間層21の濃度を1000ppm以上で基準濃度の2倍以下とし、ラミネート層22の濃度を基準濃度の1/2以下(0質量ppmを含む)にすることが望ましい。シール層23よりも中間層21のN置換アミド濃度を高くすることによって、シール層26のN置換アミドが中間層21へ移行することを抑制し、シール層23表面へのN置換アミドのブリードアウトを促進させることができる。また、シール層23よりもラミネート層21のN置換アミド濃度を低くすることによって、ラミネート層/接着剤層界面へのN置換アミドのブリードアウトを抑制し、ラミネート強度の低下を防止する為である。図3の3層の熱融着性樹脂層25においては、シール層23の全滑剤の合計濃度を基準濃度とし、ラミネート層22の滑剤濃度を基準濃度の1/2以下にすること好ましい。
【0049】
N置換アミドと併用する滑剤として、メチロールアミド、飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、脂肪酸エステルアミド、芳香族系ビスアミドを挙げることができる。これらの滑剤のなかでも、N置換アミドよりも滑り性向上効果の大きい脂肪酸アミド、特に不飽和脂肪酸アミドを推奨できる。
【0050】
メチロールアミドとして、メチロールステアリン酸アミドを用いることができる。
【0051】
飽和脂肪酸アミドとして、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドを用いることができる。
飽和脂肪酸ビスアミドとして、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミドを用いることができる。
【0052】
不飽和脂肪酸ビスアミドとして、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドを用いることができる。
【0053】
脂肪酸エステルアミドとして、ステアロアミドエチルステアレートを用いることができる。
【0054】
芳香族系ビスアミドとして、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドを用いることができる。
【0055】
前記熱融着性樹脂層15に添加した滑剤は層表面に析出することで滑り性を向上させる。層表面に析出する好ましい滑剤量は0.1μg/cm~1μg/cmである。
【0056】
前記熱融着性樹脂層15には滑剤の他に、基材層13との密着を防止するアンチブロック材や、滑り性向上のための粗面化材として固体微粒子を添加してもよい。前記固体微粒子として、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、タルク、カオリン、アクリル樹脂ビーズ、ポリエチレン樹脂ビーズ等を例示できる。これらの固体微粒子をアンチブロック材として用いる場合、好ましい平均粒径は0.05μm~5μmであり、好ましい含有量は500ppm~3500ppmである。また、粗面化材として用いる場合の好ましい平均粒径は5μmを超え20μm以下であり、好ましい含有量は200ppm~5000ppmである。
【0057】
前記粗面化材は層表面に凹凸を形成するために添加する成分であるから、多層の熱融着性樹脂層20、25においては、最内層であるシール層23のみに添加すれば足り、バリア層11側のラミネート層22には添加しない方が望ましい。また、粗面化材の好ましい平均粒径が5μmを超え20μm以下であることから、粗面化材を添加する層の厚みは5μm~20μmの範囲が好ましい。厚みが5μm未満の層に添加すると粗面化材が脱落し易くなる。一方、層の厚みが20μmを超えると平均粒径が5μmを超え20μm以下の粗面化材は樹脂中に埋没する部分が多くなり、その結果としてフィルムの剛性が損なわれるおそれがある。また、層中の粗面化材の分散が均一でなくなるので耐衝撃性や層間強度が低下するおそれがある。
【0058】
前記耐熱性樹脂層15、20、25の動摩擦係数は0.02~0.3が好ましい。動摩擦係数が0.02未満では滑り性が良すぎて、製造ラインで電池用包装材の巻きずれや蛇行が生じ易くなる。一方、動摩擦係数が0.3を超えると滑り性が低下して成形性向上効果を見込めない。
【0059】
前記熱融着性樹脂層15の厚さは20μm~120μmであることが好ましい。多層フィルム20、25の総厚も同じである。特に好ましい厚さは30μm~80μmである。
【0060】
さらに、前記熱融着性樹脂層15、20、25の表面にN置換アミドを含む滑剤層が形成されていることも好ましい。前記滑剤層は熱融着性樹脂層からの析出によるものと、塗布や基材層13からの転移によるものの合計量であり、この滑剤層によっても滑り性の向上効果と電池性能の低下抑制効果が得られる。前記滑剤層は熱融着性樹脂層15、20、25の表面をくまなく覆う層でもよいし、熱融着性樹脂層15、20、25の表面に滑剤が断続的に存在する層であってもよい。また、前記滑剤層における好ましい滑剤量は0.15μg/cm~0.6μg/cmである。
(バリア層)
前記バリア層11は、電池用包装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記バリア層11としては、金属箔である限り特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、クラッド箔が挙げられ、アルミニウム箔を好適に用いることができる。前記バリア層11の厚さは、10μm~120μmであるのが好ましい。10μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、120μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記バリア層11の特に好ましい厚さは30μm~90μmである。
【0061】
また、前記バリア層11は前記金属箔の少なくとも熱融着性樹脂層15側の面に、化成処理等の下地処理が施されていることが好ましい。このような化成処理が施されていることによって内容物(電池の電解質等)による金属箔表面の腐食を十分に防止できる。
(基材層)
前記基材層13には電池用包装材1をヒートシールする際のヒートシール温度で溶融しない耐熱性樹脂フィルムを用いる。前記耐熱性樹脂としては、熱融着性樹脂層15を構成する樹脂の融点より10℃以上、好ましくは20℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いる。この条件を満たす樹脂として、例えば、ナイロンフィルム等のポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記基材層13としては、2軸延伸ナイロンフィルム等の2軸延伸ポリアミドフィルム、2軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は2軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。前記基材層13は、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばポリエステルフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層(PETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていても良い。
【0062】
前記基材層13の厚さは、9μm~50μmであるのが好ましく、包装材として十分な強度を確保でき、かつ張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記基材層13のさらに好ましい厚さは9μm~30μmである。基材層13が複層である場合は合計厚さを上記の厚さとする。また、複数の層を貼り合わせる接着剤の厚さも上記の厚さに含まれる。
(第1接着剤層)
前記第1接着剤層12としては、特に限定されるものではないが、例えば、2液硬化型接着剤により形成された接着剤層等が挙げられる。前記2液硬化型接着剤としては、例えば、ポリウレタン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液(主剤)と、イソシアネートからなる第2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤などが挙げられる。中でも、ポリエステル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液と、イソシアネートからなる2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤を用いるのが好ましい。前記第1接着剤層12の好ましい厚さは2μm~5μmである。
【0063】
また、前記外層が複層で構成される場合(基材層が複層の場合を含む)においても、上述の接着剤を推奨できる。
(第2接着剤層)
前記第2接着剤層14としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー系樹脂、フッ素系樹脂、酸変性ポリプロピレン樹脂のうちの1種以上を含む接着剤を推奨できる。中でも、酸変性ポリオレフィンを主剤とするポリウレタン複合樹脂からなる接着剤が好ましい。前記第2接着剤層14の好ましい厚さは2μm~5μmである。
【0064】
前記第1接着剤層12および第2接着剤層14は必須の層ではなく、基材層13が直接バリア層11に貼り合わされていてもよく、また熱融着性樹脂層15が直接バリア層11に貼り合わされていてもよい。
【0065】
本発明の電池用包装材1の基材層13の外側には層を追加することができる。例えば、樹脂成分および固体微粒子を含有する樹脂組成物で構成された基材保護層を形成して、外側の面に滑り性を付与して成形性を向上させるとともに、優れた耐薬品性、耐溶剤性、耐摩耗性を付与することができる。
【0066】
前記基材保護層を構成する樹脂組成物の、好ましい材料は以下のとおりである。
【0067】
前記樹脂成分として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、フェノキシ樹脂のうち少なくとも1種の樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は高い耐薬品性、耐溶剤性を有しているため、樹脂の劣化などによる固体微粒子の脱落が起こりにくくなる。
【0068】
また、樹脂成分は、上述した少なくとも1種の樹脂を含む主剤樹脂とこの主剤樹脂を硬化させる硬化剤とであっても良い。硬化剤は特に限定されるものではなく、主剤樹脂に応じて適宜選択すればよい。例えば主剤樹脂がウレタン系樹脂とフェノキシ系樹脂の混合物の場合は、イソシアネート化合物を用いることが好ましい。イソシアネート化合物は、脂肪族系、脂環族系、芳香族系の各種多官能イソシアネート化合物を推奨できる。脂肪族系多官能イソシアネート化合物としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等を挙げることができ、脂環族系多官能イソシアネート化合物としてイソホロンジイソシアネート(IPDI)等を挙げることができ、芳香族系多官能イソシアネート化合物としてはトリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げることができる。また、これらの多官能イソシアネート化合物の変性体であってもよく、イソシアヌレート化、カルボジイミド化、ポリメリック化等の多量化反応による多官能イソシアネート変性体を例示できる。
【0069】
前記硬化剤は前記主剤樹脂100質量部に対して5質量部~30質量部を配合することが好ましい。5質量部未満では基材層13への密着性および耐溶剤性が低下するおそれがある。また30質量部を超えると、基材保護層30が硬くなって成形性が低下するおそれがある。特に好ましい硬化剤の配合量は前記主剤樹脂100質量部に対して10~20質量部である。
【0070】
基材保護層は基材層13を構成するフィルムに比べて収縮率が小さいため、基材層13側への外層の伸縮による応力を軽減することができる。また、特に基材層13にポリアミドフィルムを用いた場合、ポリアミドは水分に対し縮みやすい性質があるが、基材保護層30が空気中の水分をブロックするため、縮みにくくなり外層への応力も抑えられる。
【0071】
また、主剤としてウレタン系樹脂およびポリエステルウレタン系樹脂を用いることも好ましい。
【0072】
前記固体微粒子は、無機微粒子、有機微粒子のいずれでも使用でき、それらを混合して用いることもできる。無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック等を例示でき、有機微粒子としては、アクリル酸エステル系化合物、ポリスチレン系化合物、エポキシ系樹脂、ポリアミド系化合物、またはそれらの架橋物等の微粒子を使用しうる。前記固体微粒子は1種を使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
これらの固体微粒子は、平均粒径が1μm~10μmのものが好適に用いられ、なかでも2μm~5μmが好ましい。1μm未満の粒径の小さすぎる固体微粒子を用いるときは、塗布液の中に埋もれてしまい所望の特性を得難い。一方、10μmを超える粒径の大きい固体微粒子を用いるときは、粒径が塗布厚さを超えてしまい基材保護層から脱落し易くなる。
【0074】
また、樹脂組成物における固体微粒子の含有量は、0.1質量%~60質量%の範囲が好ましく、5質量%~55質量%の範囲がなお一層好ましい。
【0075】
前記基材保護層の硬化後の厚さは1~10μmが好ましい。前記下限値よりも薄い層では滑り性向上効果が少なく、上限値よりも厚い層ではコストアップとなる。特に好ましい厚さは2~5μmの範囲である。
[電池ケース用部材]
本発明の電池ケース用部材は上述した電池用包装材を深絞り成形または張り出し成形により形成された凹部を有している。図4の凹部52を有する本体51が本発明の電池ケース用部材に該当する。本発明の電池用包装材は熱融着性樹脂層の滑り性が良く成形性に優れているから、凹部52の成形に有利であり深い凹部の成形に適している。深い凹部を形成して電池本体の収容空間を拡大することにより電池容量の増大を図ることができる。また、凹部の内面はN置換アミドが添加された熱融着性樹脂層であるから、電池性能の低下を抑制できる。
【実施例0076】
[電池用包装材]
実施例1、2、4~7および比較例1、2として図2の積層形態の電池用包装材2を作製し、実施例3として図1の積層形態の電池用包装材1を作製した。これらの電池用包装材1、2は、外側から内側へ順に、基材層13、第1接着剤層12、バリア層11、第2接着剤層14が積層されていることが共通し、第2接着剤層14の内側に積層されている熱融着性樹脂層15、20の層数が異なる。電池用包装材1の熱融着性樹脂層15は単層であり、電池用包装材2の熱融着性樹脂層20はシール層23、中間層21、ラミネート層22の3層である(表2参照)。
【0077】
各例の電池用包装材1、2に共通する材料は下記のとおりである。
(共通材料)
バリア層11として、JIS H4160で規定されたA8021-Oからなり、厚さが40μmのアルミニウム箔を用いた。前記アルミニウム箔の両面に、リン酸、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、180℃で乾燥を行って、化成皮膜を形成したものを使用した。この化成皮膜のクロム付着量は片面当たり5mg/mである。
【0078】
基材層13として、厚さ25μmの2軸延伸6ナイロンフィルムを用いた。
【0079】
第1接着剤層12として2液硬化型ウレタン系接着剤を用いた。
【0080】
第2接着剤層14として、2液硬化型マレイン酸変性プロピレン接着剤を用いた。
(熱融着性樹脂層用フィルムの作製)
実施例3の単層の熱融着性樹脂層15として、エチレン-プロピレンランダム共重合体(rPP)に表3に記載の2種類の滑剤およびアンチブロック材(AB材)として平均粒径2μmのシリカを配合し、厚さ30μmの無延伸PPフィルムを作製した。滑剤名および滑剤濃度、アンチブロック材の含有量は表3に示すとおりである。
【0081】
実施例1、2、4~7および比較例1、2の熱融着性樹脂層20として3層フィルムを作製した。
【0082】
シール層23はエチレン-プロピレンランダム共重合体(rPP)に表3に示す1種類または2種類の滑剤、アンチブロック材(AB材)として平均粒径2μmのシリカ、粗面化材として平均12μmのHDPEビーズを配合した。中間層21はエチレン-プロピレンブロック共重合体(bPP)に表3に示す1種類または2種類の滑剤を配合した。ラミネート層22はエチレン-プロピレンランダム共重合体(rPP)に表3に示す滑剤およびアンチブロック材として平均粒径2μmのシリカを配合した。各層の滑剤名および滑剤濃度、アンチブロック材の含有量、粗面化材の含有量濃度は表3に示すとおりである。
【0083】
上記の各層の混合材料を共押出し、シール層23の厚さが12μm、中間層21の厚さが56μm、ラミネート層22の厚さが12μm、合計厚さが80μmの3層フィルムを作製した。
【0084】
表2に、熱融着性樹脂層15、20の最内層中の全滑剤の合計濃度(質量ppm)、N置換アミド濃度(質量ppm)、および最内層中の滑剤総量に対するN置換アミドの割合(質量%)を示す。単層の熱融着性樹脂層15は熱融着性樹脂層15そのものが最内層であり、3層の熱融着性樹脂層20の最内層はシール層23である。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
(電池用包装材の作製)
作製した熱融着性樹脂層用15の単層フィルムは一方の表面にコロナ処理を施した。また、多層の熱融着性樹脂層20用の3層フィルムはラミネート層22の表面にコロナ処理を施した。
【0088】
化成皮膜を形成したバリア層11の一方の面に、厚さ3μmの第1接着剤層12を形成して基材層13をドライラミネートした。次に、前記バリア層11の他方の面に厚さ2μmの第2接着剤層14を形成し、この第2接着剤層14に、単層の熱融着性樹脂層15のコロナ処理面または多層の熱融着性樹脂層20のラミネート層22(コロナ処理面)を重ね合わせ、100℃に加熱されたラミネートロールとの間に挟み込んで圧着することによりドライラミネートして積層体を作製し、ロール軸に巻き取った。
【0089】
ロール軸に巻き取った積層体を40℃で10日間エージングし、電池用包装材1、2とした。
[電池用包装材の評価]
作製した電池用包装材1、2の滑り性を下記の方法で測定した動摩擦係数で評価し、成形性を下記の方法で測定した最大成形深さにより評価した。さらに、これらの電池用包装材で作製したケースを用いた電池の性能について下記の方法で評価した。評価結果を表4に示す。
(動摩擦係数)
JIS K7125:1999に準拠して、東洋精機製摩擦測定器TR型で電池用包装材1,2の熱融着性樹脂層15、20同士の動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が0.45以下であるものを合格とした。
(成形性)
作製した電池用包装材1、2を100mm×150mmに切断して成形用素材とした。そして、ダイス、パンチ、ブランクホルダーを備えた深絞り金型をサーボプレス機に取付け、縦55mm×横35mm×深さDの直方体形状に深絞り成形を行った。前記深絞り成形はパンチの天面を成形用素材の熱融着性樹脂層15,20に接触させて基材層13を外側に突出させる態様で成形速度20spmで行い、成形深さDを0.5mm単位で変えて行った。
【0090】
そして、成形品のコーナー部に照明を当ててピンホールや割れによる透過光の有無を目視観察し、ピンホールおよび割れが全く発生しない良好な成形を行うことができる最大成形深さ(mm)を調べ、最大成形深さを下記判定基準に基づいて成形性を評価し、◎〇を合格とした。
【0091】
◎:最大成形深さが7mm以上
〇:最大成形深さが6mm以上7mm未満
△:最大成形深さが5mm以上6mm未満
×:最大成形深さが5mm未満
(電池性能)
評価用電池の電池ケースとして、電池用包装材1、2から、縦140mm×横55mmの成形用ブランクをサンプリングし、この成形用ブランクの片側半分(縦70mm×横55mm)の部分に深絞り成形を行い、縦55mm×横35mm×深さ4mmの直方体形状の凹部と形成した。そして、成形用ブランクの他方の部分(非成形部)を折り曲げて蓋材部分とする電池ケースを作製した。
【0092】
前記電池ケースに収納する電池本体の材料として、下記の正極シートおよび負極シートを作製し、非水電解液を調製した。
正極シート:
正極活物質としてのLiCoO90gと、導電助剤としてのカーボンブラック(TIMCAL社製)5gと、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5gに、N-メチル-ピロリドンを適宜加えながら攪拌・混合し、ペースト状の正極用ペーストを得た。前記正極用ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔上にロールコーターで塗布し、乾燥させてペーストを硬化させた。乾燥後のシートはロールプレスにより正極活物質密度を3.6g/cmとし、正極シートを得た
負極シート:
負極活物質として人造黒鉛粒子およびカーボンコートされたSiO粒子を用い、これらを質量比4:1で混合して混合負極活物質とした。導電助剤としてカーボンブラックおよび気相成長法炭素繊維(VGCF(登録商標)-H,昭和電工株式会社製)を用い、これらを質量比で3:2で混合して混合導電助剤とした。結着剤としてスチレンブタジエンラバー(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。前記スチレンブタジエンラバー(SBR)は精製水に分散してSBR分散液とした。前記カルボキシメチルセルロース(CMC)は精製水と混合して、スターラーで一昼夜攪拌してCMC溶液とした。
【0093】
前記混合負極活物質90質量部と、前記混合導電助剤5質量部と、固形分として2.5質量部を含むSBR分散液と、固形分として2.5質量部を含むCMC溶液を混合し、さらに粘度調整のために水を適量加え、自転・公転ミキサーにて混練し負極用ペーストを得た。前記負極用ペーストを厚み20μmの銅箔上にドクターブレードで厚さ150μmとなるよう均一に塗布し、ホットプレートにて乾燥後、真空乾燥させた。乾燥後のシートは3ton/cmの圧力にて一軸プレス機によりプレスして負極シートを得た。
【0094】
一般に、正極シートと負極シートを対向させてリチウムイオン電池を作製する際には、両者の容量バランスを考慮する必要がある。すなわち、リチウムイオンを受け入れる側の負極が少な過ぎれば過剰なLiが負極側に析出してサイクル劣化の原因となり、逆に負極が多過ぎれば負荷の小さい状態での充放電となるためエネルギー密度は低下するもののサイクル特性は向上する。
【0095】
上述した負極シートの作製においては、上述した不都合を防ぐために、正極シートは同一のものを使用しつつ、負極シートは対極Liのハーフセルにて事前に活物質重量当たりの放電量を評価しておき、正極シートの容量(QC)に対する負極シートの容量(QA)の比が1.2で一定値となるよう負極シートの容量を微調整した。
非水電解液:
エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが体積比で3:5:2の割合で混合した非水溶媒に、添加剤としてビニレンカーボネート(VC)を1質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を5質量%混合した。これに電解質LiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解させて非水電解液を調製した。
評価用電池の作製:
露点-80℃以下の乾燥アルゴンガス雰囲気に保ったグローブボックス内で下記の手順で評価用電池を作製した。
【0096】
前記正極シートおよび負極シートを打ち抜いて面積20cmの正極片および負極片を得た。前記正極片のアルミニウム箔にAlタブを、負極片の銅箔にNiタブをそれぞれ取り付けた。前記正極片と負極片の間にポリプロピレン製フィルム微多孔膜を挟み入れ、前記電池ケースの1辺からAlタブおよびNiタブを引き出した状態でケースの凹部内に挿入し、非水電解液0.5mLを注液した。その後、電池ケースの開口部を熱融着によって封止して評価用電池を得た。
【0097】
作製した評価用電池について、AlタブおよびNiタブを利用し、HIOKI 電極抵抗値測定システム RM2610により内部抵抗および放電レートを測定し、これらによって電池性能を評価した。
【0098】
内部抵抗は、充電率(SOC)が20%時および80%時のDCRを測定し、6Ω未満を合格とした。
【0099】
放電レート(%)は、放電容量を100%とし、これに対する1Cまたは3Cで放電した時の放電容量の割合(%)とした。充電条件はCC=0.5C、CV=4.2V、0.05C cut off、放電条件はCC=0.5C、EV=2.8Vとした。1C時の放電レートは70%以上を合格、3C時の放電レートは18%以上を合格とした。
【0100】
【表4】
【0101】
表4より、実施例の電池用包装材は滑り性および成形性が良く、これらの電池用包装材をケースとして用いた電池において電池性能の低下が抑制されることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の電池用包装材は、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池等のケース材料として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0103】
1、2、3…電池用包装材
11…バリア層
12…第1接着剤層
13…基材層
14…第2接着剤層
15…熱融着性樹脂層(最内層)
20、25…熱融着性樹脂層
21…中間層
22…ラミネート層
23…シール層(最内層)
50…電池ケース
51…本体(電池ケース用部材)
52…凹部
図1
図2
図3
図4