(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081214
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】発酵生産プロセス支援方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20240611BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C12N1/00 B
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194671
(22)【出願日】2022-12-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】洞 俊貴
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029DF01
4B029DF02
4B029DF03
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA90X
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC06
4B065BC13
4B065BC15
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】発酵生産プロセスにおける培養時点ごとの適切な培養条件を取得することができる技術を提供する。
【解決手段】発酵生産プロセス支援方法では、一以上のプロセッサが、或る培養時点の培養情報を学習済みモデルに入力することにより複数種の培養状態指標を取得する第一予測工程及び次の培養時点の培養情報を取得する第二予測工程を含む予測サイクルを繰り返す工程と、培養時点ごとの最適化対象指標の集合であって各培養時点の最適化対象指標として当該複数種の培養状態指標の少なくとも一つがそれぞれ指定された制御方針トレンド情報を取得する工程と、第一予測工程で取得される複数種の培養状態指標のうちの制御方針トレンド情報において各培養時点の最適化対象指標として指定された培養状態指標が最適化されるように、各培養時点における特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する工程とを実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養する培養容器内で目的物が生成される発酵生産プロセスを支援する方法であって、
特定培養条件を少なくとも含む培養情報を入力して複数種の培養状態指標を出力する学習済みモデルを利用可能な一以上のプロセッサが、
或る培養時点の前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記複数種の培養状態指標を取得する第一予測工程及び次の培養時点の前記培養情報を取得する第二予測工程を含む予測サイクルを所定培養時間内における培養時点ごとに繰り返す培養挙動予測工程と、
培養時点ごとの最適化対象指標の集合であって各培養時点の最適化対象指標として前記複数種の培養状態指標の少なくとも一つがそれぞれ指定された制御方針トレンド情報を取得するトレンド取得工程と、
前記第一予測工程で取得される前記複数種の培養状態指標のうちの前記取得された制御方針トレンド情報において各培養時点の最適化対象指標として指定された培養状態指標が最適化されるように、各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する最適条件決定工程と、
を実行する発酵生産プロセス支援方法。
【請求項2】
前記一以上のプロセッサが、
目標品質情報を取得する目標取得工程と、
前記制御方針トレンド情報を複数生成する方針生成工程と、
生成された各々の前記制御方針トレンド情報に関して、前記最適条件決定工程で決定された各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ用いて前記培養挙動予測工程を実行することにより前記所定培養時間にわたる前記目標品質情報に対応する培養結果指標をそれぞれ取得する結果取得工程と、
各々の前記制御方針トレンド情報に関して取得された前記培養結果指標に基づいて、複数の前記制御方針トレンド情報の中から前記目標品質情報に適合する一以上の制御方針トレンド情報を選択する方針選択工程と、
を更に実行する請求項1に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項3】
前記方針生成工程では、前記一以上のプロセッサが、前記方針選択工程で選択された一以上の制御方針トレンド情報に基づいて、遺伝的アルゴリズムを用いて複数の前記制御方針トレンド情報を生成する、
請求項2に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項4】
前記最適条件決定工程において、前記一以上のプロセッサが、ベイズ最適化を用いて前記各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項5】
前記一以上のプロセッサは、
前記第一予測工程では、前記特定培養条件及び前記目的物の濃度を含む前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記目的物の生成速度を含む前記複数種の培養状態指標を取得し、
前記第二予測工程では、前記取得された複数種の培養状態指標に含まれる前記目的物の生成速度を少なくとも用いて前記次の培養時点の前記目的物の濃度を算出する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項6】
前記特定培養条件は、前記培養容器内の温度及び前記培養容器内の培養液の水素イオン指数、並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度を含み、
前記一以上のプロセッサは、
前記第一予測工程において、前記目的物の濃度、前記温度、前記水素イオン指数、並びに前記酸素供給速度若しくは前記酸素消費速度を含む前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記目的物の生成速度を含む前記複数種の培養状態指標を取得し、
前記第二予測工程において、前記次の培養時点における前記温度、前記水素イオン指数、並びに前記酸素供給速度若しくは前記酸素消費速度を取得する、
請求項5に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項7】
前記培養容器内では、少なくとも前記目的物、副生産物及び二酸化炭素が生成されかつ少なくとも基質が消費され、
前記複数種の培養状態指標は、前記目的物の生成速度、前記副生産物の生成速度、前記二酸化炭素の生成速度、及び前記基質の消費速度を含み、
前記制御方針トレンド情報で示される培養時点ごとの最適化対象指標には、前記目的物の生成速度、前記副生産物の生成速度、前記二酸化炭素の生成速度、又は前記基質の消費速度の指定が含まれる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項8】
前記学習済みモデルは、前記培養情報のみを入力として前記複数種の培養状態指標のみを出力し、
前記培養情報及び前記複数種の培養状態指標は、示強変数若しくは無次元数、又はそれら両方のみで構成されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の発酵生産プロセス支援方法。
【請求項9】
メモリ及び前記一以上のプロセッサを少なくとも備える発酵生産プロセス支援装置であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載の発酵生産プロセス支援方法を実行可能な発酵生産プロセス支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養する培養容器内で目的物が生成される発酵生産プロセスを支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、細胞の培養やバイオプロダクションにおいて、実験を繰り返すことなく、最適な培養条件を探索可能とする細胞培養プロセス探索方法が開示されている。
この方法は、複数のプロセス条件を発生させるプロセス条件発生工程、当該複数のプロセス条件に対して細胞の培養予測結果を取得する培養結果予測工程、当該培養予測結果から最適なプロセス条件を見出す最適化プロセス条件取得工程を含む。培養結果予測工程は、プロセス条件取得工程と、取込制約条件取得工程と、最適化計算工程と、濃度変化計算工程とを有しており、最適化計算工程は、培地組成(培地成分濃度)及び取込制約条件に基づいて、細胞の代謝に関する数理モデル(代謝回路モデル)で代謝流速(消費速度)の計算を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/166824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の方法では、複数のプロセス条件が生成され、各プロセス条件についてそれぞれ培養予測結果が取得され、各培養予測結果から最適なプロセス条件が見い出される。
しかしながら、この方法では、発酵生産プロセスの全体を通じた適切なプロセス条件を取得することはできない。培地環境は経時で変化しており、微生物は外部環境に応答して逐次、代謝バランスを変化させるものであるところ、上述の方法では、プロセス条件の時間的要素を無視していると思われるからである。
もし仮に上述の方法を培養時点ごとに実行するとしても、計算量が膨大となることから、実現手法として非現実的である。
【0005】
本発明は、このような観点を考慮してなされたものであり、発酵生産プロセスにおける培養時点ごとの適切な培養条件を取得することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、微生物を培養する培養容器内で目的物が生成される発酵生産プロセスを支援する方法であって、特定培養条件を少なくとも含む培養情報を入力して複数種の培養状態指標を出力する学習済みモデルを利用可能な一以上のプロセッサが、或る培養時点の前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記複数種の培養状態指標を取得する第一予測工程及び次の培養時点の前記培養情報を取得する第二予測工程を含む予測サイクルを所定培養時間内における培養時点ごとに繰り返す培養挙動予測工程と、培養時点ごとの最適化対象指標の集合であって各培養時点の最適化対象指標として前記複数種の培養状態指標の少なくとも一つがそれぞれ指定された制御方針トレンド情報を取得するトレンド取得工程と、前記第一予測工程で取得される前記複数種の培養状態指標のうちの前記取得された制御方針トレンド情報において各培養時点の最適化対象指標として指定された培養状態指標が最適化されるように、各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する最適条件決定工程とを実行する発酵生産プロセス支援方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、メモリ及び上記一以上のプロセッサを少なくとも備える発酵生産プロセス支援装置であって、上記発酵生産プロセス支援方法を実行可能な発酵生産プロセス支援装置が提供可能である。
更に言えば、上記発酵生産プロセス支援方法をコンピュータに実行させるプログラムも提供可能であるし、このようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体も提供可能である。この記録媒体は、非一時的な有形の媒体を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発酵生産プロセスにおける培養時点ごとの適切な培養条件を取得する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】第一及び第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を実行可能な情報処理装置のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
【
図3】第一実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を示すフローチャートである。
【
図4】第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施例における培養挙動予測のデータフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態の例(以降、本実施形態と表記する)について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は例示であり、本発明は以下に挙げる構成に限定されない。
【0011】
以下に説明する本実施形態は発酵生産プロセスを支援する方法であり、以下には二つの実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を例示する。第一実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を第一支援方法と表記し、第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を第二支援方法と表記する。
【0012】
まずは、第一支援方法及び第二支援方法における共通事項について説明する。
発酵生産プロセスでは、微生物を培養する培養容器内で目的物が生成される。
図1は、培養システムの例を示す模式図である。
図1には液体培養を行う培養槽が例示されており、培養槽(培養容器)内の培養液中で微生物の培養が行われる。
このような培養システムでは、培養槽内或いは培養液の温度や培養液の水素イオン指数(pH)等が計測されており、微生物の培養に必要な栄養源である基質の投入や酸素の供給等が制御されることで、発酵生産プロセスに伴う目的物(目的生産物)の生産が促される。
第一及び第二支援方法は、このような発酵生産プロセスにおける培養時点ごとの適切な培養条件を取得することで、発酵生産プロセスの最適化のための支援を行う。
基質は、溶液として培養槽内に投入され、本明細書ではその溶液を基質投入溶液と表記する。
酸素は、培養槽の下部に空気供給配管、上部に排気配管が設けられており、空気供給配管から任意の設定流量で常時空気が流されることで、供給される。更に、攪拌翼を使って任意設定速度で攪拌することで酸素供給効率を上げることもできる。
また、当該培養挙動では、
図1に例示されているように、目的物に加えて、その他の物質(副生産物や二酸化炭素等)も生成される。
【0013】
但し、第一及び第二支援方法は、
図1に例示される液体培養のみを対象とするわけではなく、固体培養を対象とすることもできる。
また、生産目的となる目的物に応じて微生物の種類や培地が決められればよく、本支援方法は、培養対象となる微生物や基質、目的物等を限定しない。
微生物には、例えば、細菌株、真菌株に属する菌株、動物又は植物の分化していない細胞及び組織培養物が挙げられる。
培地には、例えば、炭素源、窒素源、マグネシウム塩、亜鉛塩等の金属塩、硫酸塩、リン酸塩、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤等の微生物の培地に一般的に含まれる各種成分を含有することができる。
基質には、例えば、グルコース、スクロース、フルクトースの糖類、エタノール、メタノール等のアルコール類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸類、廃糖蜜等が挙げられる。
目的物又は副生産物には、微生物の代謝によって生成される物質として、例えば、有機酸類、アミノ酸、アルコール類、抗体、酵素、補酵素、ビタミン類、糖質、脂肪酸、核酸が挙げられる。
【0014】
〔ハードウェア構成例〕
第一及び第二支援方法は、一台以上の情報処理装置が備える一以上のプロセッサにより実行される。
図2は、第一及び第二支援方法を実行可能な情報処理装置10のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
情報処理装置10は、いわゆるコンピュータであり、CPU11、メモリ12、入出力インタフェース(I/F)13、通信ユニット14等を有する。情報処理装置10は、据え置き型のPC(Personal Computer)であってもよいし、携帯型のPC、スマートフォン、タブレット等のような携帯端末であってもよい。
【0015】
CPU11は、いわゆるプロセッサであり、一般的なCPU(Central Processing Unit)に加えて、特定用途向け集積回路(ASIC)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等も含まれ得る。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
入出力I/F13は、表示装置15、入力装置16等のユーザインタフェース装置と接続可能である。表示装置15は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイのような、CPU11等により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置16は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。表示装置15及び入力装置16は一体化され、タッチパネルとして実現されてもよい。
通信ユニット14は、通信網を介した他のコンピュータとの通信や、プリンタ等の他の機器との信号のやりとり等を行う。通信ユニット14には、可搬型記録媒体等も接続され得る。
【0016】
情報処理装置10のハードウェア構成は、
図2の例に制限されない。情報処理装置10は、図示されていない他のハードウェア要素を含んでもよい。また、各ハードウェア要素の数も、
図2の例に制限されない。例えば、情報処理装置10は、複数のCPU11を有していてもよい。また、情報処理装置10は、複数の筐体からなる複数台のコンピュータにより実現されていてもよい。
【0017】
情報処理装置10は、CPU11によりメモリ12に格納されたコンピュータプログラムが実行されることにより、第一及び第二支援方法を実行することができる。また、CPU11がメモリ12に格納されたコンピュータプログラムの実行を通じて第一及び第二支援方法を実行することができると表記することもできる。このコンピュータプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F13又は通信ユニット14を介してインストールされ、メモリ12に格納される。
【0018】
〔学習済みモデル〕
情報処理装置10(CPU11)は、培養情報を入力して複数種の培養状態指標を出力する学習済みモデルを利用可能である。この学習済みモデルは、培養情報と複数種の培養状態指標との組合せを複数含む教師データを用いた機械学習により得られる。
このため、当該学習済みモデルは培養挙動予測モデルと表記することもできる。
また、情報処理装置10は、学習済みモデルを利用可能な装置であって発酵生産プロセス支援方法を実行可能な発酵生産プロセス支援装置と表記することもできる。
【0019】
「培養情報」は、微生物の培養挙動に関連する情報であり、特定培養条件を少なくとも含み、当該学習済みモデルに入力される情報である。
培養情報は、培養条件と呼ぶことは難しいような他の情報を含んでもよい。例えば、後述するように培養情報は、目的物、副生産物、二酸化炭素、基質のような培養容器内の特定成分の濃度や変化速度(生成速度、消費速度等)、生成状態を含んでもよい。また、当該培養情報は、培養容器内の微生物の菌体活動状態を示す情報を含んでもよい。例えば、培養容器内の微生物の菌体活動状態として、菌体の増殖フェーズにあるか又は目的物の生産フェーズにあるかをカテゴリ変数で示す情報であってもよいし、菌体増殖速度を示す情報であってもよい。
【0020】
「特定培養条件」は、発酵生産プロセスに影響を与え得る培養条件であり、本支援方法で最適値を求める対象となる培養条件である。特定培養条件は、例えば、培養容器内の温度や培養容器内の培養液の水素イオン指数(pH)、酸素供給速度、酸素消費速度等である。また、培養液内の基質濃度も当該特定培養条件に含めてもよい。但し、基質濃度は、特定培養条件として扱わず、上述した培養容器内の特定成分の濃度として扱ってもよい。
【0021】
「培養状態指標」は、培養容器内の培養状態を示し得る指標値であり、当該学習済みモデルから出力される情報である。培養状態指標は、例えば、培養容器内の特定成分の濃度若しくは変化速度又はそれら両方を含む。ここでの特定成分は、培養容器内に存在する成分であればよく、培養容器内の培養液に溶存する成分であってもよいし、培養容器内の気体成分であってもよい。また、培養状態指標は、培養容器内の菌体増殖速度といった菌体状態指標を含んでもよい。
培養状態指標としての特定成分の変化速度は、単位菌体量(湿潤菌体重量)あたりの特定成分の物質量の変化速度を意味し、例えば、後述するように、目的物の生成速度、副生産物の生成速度、二酸化炭素の生成速度若しくは基質の消費速度の一部又は全部である。
【0022】
このように本実施形態における学習済みモデルは、特定培養条件を少なくとも含む培養情報を入力として複数種の培養状態指標を出力可能に構築されていればよく、特定培養条件や培養情報の具体的内容や具体的な培養状態指標は限定されない。
【0023】
また、本実施形態における学習済みモデルは、培養情報のみを入力として複数種の培養状態指標のみを出力するように構築され、当該培養情報及び当該培養状態指標が、示強変数若しくは無次元数、又はそれら両方のみで構成されることが好ましい。
培養情報に含まれる特定培養条件としての温度、水素イオン指数、酸素供給速度(mol/m3/h)及び酸素消費速度(mol/m3/h)は示強変数又は無次元数である。また、培養状態指標としての特定成分の変化速度は、例えば、菌体単位量あたり(菌体1gあたり)の物質量変化速度(mol/g/h)で示され、示強変数といえる。更に、培養状態指標としての特性成分の濃度についても、例えば、培養液単位体積あたりの成分含有重量(g/L)で示され、示強変数といえる。
このようにAIモデルの入出力を示強変数或いは無次元数とすることで、培養容器(培養槽)の形状や容量に依存しない培養挙動予測が可能となる。言い換えれば、教師データが得られた培養槽とは異なる形状や容量の培養槽での培養挙動であっても高精度に予測することができる。
【0024】
更に、本実施形態における学習済みモデルは、回帰分析で得られる回帰式であってもよいし、主成分分析や、ディープラーニング(深層学習)等で得られるニューラルネットワークモデルであってもよく、そのモデルのデータ構造や学習アルゴリズム等は限定されない。
例えば、当該学習済みモデルは、コンピュータプログラムとパラメータとの組合せ、複数の関数とパラメータとの組合せなどにより実現される。学習済みモデルは、ニューラルネットワークで構築される場合で、かつ、入力層、中間層及び出力層を一つのニューラルネットワークの単位と捉えた場合に、一つのニューラルネットワークを指してもよいし、複数のニューラルネットワークの組合せを指してもよい。また、学習済みモデルは、複数の重回帰式の組合せで構成されてもよいし、一つの重回帰式で構成されてもよい。
後述の実施例で用いられる学習済みモデルは、菌体活動応答を近似表現する関数であって培養情報を入力変数とし培養状態指標を出力変数とする複数の関数モデルの組合せによって構成されている。これら複数の関数モデルは教師有り学習の回帰を用いて構築されており、各関数モデルは、学習済みモデルの入力とされる培養情報の少なくとも一部をそれぞれ入力変数とし、学習済みモデルの出力となる複数種の培養状態指標の中の一種をそれぞれ出力変数としている。
学習済みモデルは、情報処理装置10内のメモリ12に格納されていてもよいし、情報処理装置10が通信でアクセス可能な他のコンピュータのメモリに格納されていてもよい。
なお、学習済みモデルを構築するための具体的な学習アルゴリズムは何ら限定されない。
以降、第一及び第二支援方法で利用される学習済みモデルは、AIモデルと表記される。また、以降の説明では、第一及び第二支援方法の実行主体をCPU11として説明する。
【0025】
[第一実施形態]
以下、第一支援方法の詳細について
図3を用いて説明する。
図3は、第一実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を示すフローチャートである。
第一支援方法は、主に、トレンド取得工程(S31)、最適条件決定工程(S32)及び培養挙動予測工程(S33)(S34)を含む。
以下、各工程についてそれぞれ詳細に説明する。
【0026】
トレンド取得工程(S31)では、CPU11は、制御方針トレンド情報を取得する。以降、制御方針トレンド情報は方針トレンドと略称される場合もある。CPU11は、メモリ12に予め格納されている方針トレンドを読み込んでもよいし、他のコンピュータのメモリに格納されている方針トレンドを通信を介して取得してもよいし、可搬型記録媒体に格納されている方針トレンドを取得してもよい。また、CPU11は、表示装置15に入力画面を表示させ、その入力画面を介してユーザにより入力されたデータに基づいて方針トレンドを取得することもできる。
【0027】
制御方針トレンド情報は、培養時点ごとの最適化対象指標の集合であり、培養時点ごとに一つの最適化対象指標で形成されてもよいし、培養時点ごとに複数の最適化対象指標で形成されてもよいし、培養時点ごとに任意の数の最適化対象指標で形成されてもよい。
最適化対象指標とは、最適条件決定工程(S32)での最適値の決定において最適化される指標であり、AIモデルの出力情報である複数種の培養状態指標の少なくとも一つが指定される。なお、本実施形態では、方針トレンドが培養時点ごとに一つの最適化対象指標で形成される例を挙げる。
例えば、AIモデルが目的物の生成速度、副生産物の生成速度、二酸化炭素の生成速度及び基質の消費速度を培養状態指標として出力するよう構築されている場合であって、目的物の生成速度、副生産物の生成速度、二酸化炭素の生成速度及び基質の消費速度が「0」、「1」、「2」及び「3」の識別子で示される場合に、方針トレンドは次のように形成される。
制御方針トレンド情報=[22223000011・・・]
【0028】
方針トレンドを取得すると、CPU11は、その方針トレンドから培養時点順に最適化対象指標を読み出し、培養時点ごとの最適化対象指標に基づいて最適条件決定工程(S32)及び培養挙動予測工程(S33)(S34)をそれぞれ実行していく(ループL1(S)からループL1(E))。
【0029】
培養挙動予測工程は、第一予測工程(S33)及び第二予測工程(S34)を含む予測サイクルを所定培養時間内における培養時点ごとに繰り返して、培養容器内の培養挙動を予測する工程である。
第一予測工程(S33)では、CPU11は、或る培養時点の培養情報をAIモデルに入力することにより複数種の培養状態指標を取得する。ここで
図3には図示されていないが、初期の培養時点(0)の培養情報は、特定培養条件の初期値を含んでおり、メモリ12から取得される。
第二予測工程(S34)においてCPU11は次の培養時点の培養情報を取得する。このように第二予測工程(S34)は次の予測サイクルのための準備工程である。
第二予測工程(S34)での培養情報の取得手法には様々な形態がある。次の培養時点の培養情報の一部又は全部が、培養時点ごとに予め決められた培養情報が格納される培養情報リストから取得される形態がある。また、次の培養時点の培養情報の一部又は全部が、直前の第一予測工程で取得された複数種の培養状態指標の一部又は全部を用いて算出される形態もあり得る。
【0030】
ここでは、当該培養情報が特定培養条件に加えて目的物の濃度を含み、かつ複数種の培養状態指標の一つとして目的物の生成速度を含むよう、AIモデルが構築されている形態を例示する。この形態において、CPU11は、第一予測工程(S33)において、或る培養時点の特定培養条件及び目的物の濃度を含む培養情報をAIモデルに入力することにより目的物の生成速度を含む複数種の培養状態指標を取得する。第二予測工程(S34)において、CPU11は、第一予測工程(S33)で取得された複数種の培養状態指標に含まれる目的物の生成速度を少なくとも用いて次の培養時点の目的物の濃度を算出する。目的物の濃度の計算には、後述するような物質収支式等の計算式が利用される。
【0031】
特定培養条件は、例えば、培養容器内の温度及び培養容器内の培養液の水素イオン指数、並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度を含み、このような特定培養条件の最適値が培養時点ごとにそれぞれ決定される。なお、特定培養条件の初期値や最適値を導出するための候補値は、メモリ12に格納された培養情報リストから取得可能である。
酸素消費速度(OCR(Oxygen Consumption Rate))は、培養容器内の微生物による培養液単位体積あたりの酸素消費速度(mol/m3/h)を意味する。
酸素供給速度(OTR(Oxygen Transfer Rate))は、培養容器内に供給された酸素が培養液中へ移動して溶存酸素となる培養液単位体積あたりの酸素移動速度(mol/m3/h)を意味する。
酸素消費速度及び酸素供給速度に関しては、第一及び第二支援方法ではいずれか一方が同じように利用されればよい。これは、酸素が水溶液(培養液)に溶ける速度が遅いことから、培養時において酸素供給がボトルネックとなるからである。例えば、培養システムにおける空気の供給側と排出側それぞれで酸素濃度と空気流量とを測定し、それぞれの箇所での時間当たりの通過酸素量(mol/h)の差分から、単位培養液量(m3)当たりにどれだけ酸素を供給したのか即ち酸素供給速度OTR(mol/m3/h)を導出することができる。一方で、培養液に対する溶存可能な酸素量は単位時間当たりの酸素供給(消費)速度に比べて非常に小さいため、培養液中の酸素の次のような収支式によれば、溶存酸素濃度に関する値をほぼ0とみなすことで、酸素供給速度OTRと酸素消費速度OCRとを等しく扱うことができる。
OTR(mol/m3/h)=OCR(mol/m3/h)+(溶存酸素濃度(g/m3)/酸素物質量(g/mol))/Δt(h)
なお、培養液中には気体の酸素も存在するが、菌体は液中の酸素のみ利用可能でありかつ酸素が水溶液(培養液)に溶ける速度が遅いことから、上記の収支式では、液中の気体の酸素は無視される。
また、培養容器内の温度は、培養容器内の培養液の温度であってもよいし、培養容器内の空気の温度であってもよいし、それら両方であってもよい。
【0032】
CPU11は、第一予測工程(S33)において、目的物の濃度、温度、水素イオン指数、並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度を含む培養情報をAIモデルに入力することにより目的物の生成速度を含む複数種の培養状態指標を取得する。第二予測工程(S34)において、CPU11は、最適条件決定工程(S32)で決定された特定培養条件(温度、水素イオン指数、並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度)の最適値を次の培養時点における特定培養条件に決定し、それに加えて第一予測工程(S33)で取得された目的物の生成速度を少なくとも用いて次の培養時点の目的物の濃度を算出する。
【0033】
この形態のように、培養容器内の培養液の目的物濃度を入力情報に加えその目的物の生成速度を出力情報に加えることにより、培養挙動を高精度に推定可能なAIモデルを構築することができる。
更に、AIモデルに入力される培養情報に当該目的物濃度に加えてそのような特定培養条件(特に酸素供給速度又は酸素消費速度)を含ませることにより、AIモデルの推定精度を高めることができ、ひいては、培養挙動の予測精度を高めることができる。
但し、特定培養条件は、温度、pH、酸素供給速度及び酸素消費速度とは異なる他の情報を更に含んでもよいし、培養情報は、目的物濃度以外に基質濃度のような培養容器内の特定成分の濃度を更に含んでもよい。
【0034】
当該培養情報が微生物の菌体活動状態をカテゴリ変数で示す菌体活動情報を更に含むようにAIモデルが構築されてもよい。
この場合、第一予測工程(S33)において、CPU11は、或る培養時点における目的物濃度及び特定培養条件に加えて当該菌体活動情報を含む培養情報をAIモデルに入力することにより目的物の生成速度を含む複数種の培養状態指標を取得する。
菌体活動情報は、例えば、培養容器内の微生物の菌体活動状態として、菌体の増殖フェーズにあるか又は目的物の生産フェーズにあるかをカテゴリ変数(0又は1)で示す。
このようにAIモデルに入力される培養情報に菌体活動情報を加えることで、AIモデルに菌体活動応答を模擬させることができ、ひいては培養挙動の予測精度を一層高めることができる。
【0035】
培養情報に菌体活動情報が含まれる場合には、培養情報に含まれる特定培養条件は酸素供給速度又は酸素消費速度を含むことが好ましい。酸素供給速度又は酸素消費速度を入力情報とすることでAIモデルにおける目的物の生成速度の推定精度を高めることができるからである。更に、酸素供給速度又は酸素消費速度を用いて菌体活動状態を推測することができるため、酸素供給速度又は酸素消費速度を次の培養時点の菌体活動情報の算出に利用することもできる。
【0036】
当該培養情報が培養容器内における副生産物の増減状態をカテゴリ変数で示す副生産物状態情報を更に含むように、AIモデルが構築されてもよい。
この場合、第一予測工程(S33)において、CPU11は、或る培養時点における目的物濃度及び特定培養条件に加えて当該副生産物状態情報を含む培養情報をAIモデルに入力することにより当該目的物の生成速度及び副生産物の生成速度を取得する。
副生産物状態情報は、微生物による副生産物の生成に伴う副生産物の増減状態を示す情報であり、例えば、増加状態か減少状態かをカテゴリ変数(0又は1)で示す情報とされる。このとき、副生産物は、菌体が目的物を生産する代謝経路において中間体に該当する物質である。このため、副生産物の増加状態とは、当該代謝経路において中間体以降の代謝が滞っている代謝状態を示し、副生産物の減少状態とは、中間体以降の代謝が促進されている代謝状態を示す。また、副生産物の生成速度は、中間体以降の代謝が滞っている代謝状態において正の値を示し、中間体以降の代謝が促進されている代謝状態において負の値を示す。なお、この場合の当該特定成分は目的物又は基質を示す。
このようにAIモデルに入力される培養情報に副生産物状態情報を加えることで、AIモデルに菌体活動応答を模擬させることができ、ひいては培養挙動の予測精度を一層高めることができる。
【0037】
目的物の生成速度を用いて次の培養時点の目的物の濃度を算出する形態では、例えば、次のような物質収支式が利用可能である。
以下の収支式(式1)の例では、n
TGTは目的物の物質量(mol)を示し、r
TGTは目的物の生成速度(mol/g/h)を示し、B(t)は培養時点tの微生物の特定菌体の菌体量(g)を示している。また、(式2)の例では、MW
TGTは目的物の分子量(g/mol)を示し、Vは培養時点(t+1)の培養液量(L)を示し、C
TGTは培養時点(t+1)の培養液中の目的物濃度(g/L)を示す。
この場合、CPU11は、第二予測工程(S34)において、(式1)の微分方程式を解くことで次の培養時点(t+1)の目的物の物質量n
TGTを算出し、その物質量を(式2)に代入することで次の培養時点(t+1)の培養液中の目的物濃度C
TGTを算出することができる。
【数1】
但し、第二予測工程(S34)で利用される物質収支式はこのような例に限定されない。
【0038】
上述の(式1)及び(式2)におけるB(t)及びVは、培養時点ごとに予め決められた値リストから抽出されてもよいし、物質収支式等で算出されてもよい。
例えば、CPU11は、以下の(式3)に例示されるように、各培養時点における培養経過時間並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度に基づいて各培養時点における微生物の特定の菌体量を算出することができる。
ここで算出される特定の菌体量とは、培養容器内で培養される微生物の特定種類の菌体の湿重量又は乾燥重量を意味し、一種の菌体が対象とされてもよいし、二種以上の菌体が対象とされてもよい。
(式3)において、min{}はカンマで区切られた左側の値と右側の値との小さいほうの値を取る関数である。左側は、培養液中の溶存酸素が余っており特定菌体が時間tに応じて増殖している状態を示しており、右側は、当該溶存酸素が不足しており酸素供給速度又は酸素消費速度に応じた上限状態を示している。
また、(式3)において、BCIは培養容器内の微生物の特定菌体の初期菌体濃度を示し、k1、k2及びk3はそれぞれ固定値である。BCIの値は、例えば、第一工程(S31)で初期値として取得される。k1、k2及びk3は本発明者らによる実験により得られた値であり、例えば、k1=0.18、k2=17.5、k3=0.334とされる。但し、k1、k2及びk3は、BCIの値又は微生物の種類や培地に応じて適宜変更されてもよい。
また、(式3)において酸素供給速度OTRは酸素消費速度OCRに置き換えられてもよい。
【数2】
【0039】
上記(式3)の例において、次の培養時点(t+1)の培養液量Vは、予め決められた値リストから抽出されてもよいし、物質収支式等で算出されてもよい。
CPU11は、このように算出された特定の菌体量と第一予測工程(S33)で取得された目的物の生成速度とを少なくとも用いて、次の培養時点における目的物の濃度を算出することができる。上述の(式1)、(式2)及び(式3)を用いれば、(式3)により培養時点tの微生物の特定菌体の菌体量B(t)が算出され、算出されたB(t)と第一予測工程(S33)で取得された目的物の生成速度rTGTを用いて(式1)の微分方程式を解くことにより次の培養時点(t+1)の目的物の物質量nTGTが算出され、(式2)を用いて次の培養時点(t+1)における目的物濃度が算出可能である。
【0040】
AIモデルに入力される培養情報に菌体活動情報が含まれる場合には、第二予測工程(S34)において、CPU11は、次の培養時点における菌体活動情報を取得する。
次の菌体活動情報は、培養時点ごとに予め決められた値リストから取得されてもよいし、特定培養条件に含まれる酸素供給速度又は酸素消費速度を利用して算出されてもよい。
後者の場合、菌体活動情報は、例えば、上述の(式3)のmin{}関数において左側が選ばれる場合(小さくなる場合)に、菌体活動状態が菌体の増殖フェーズにあることを示す値(0)とされ、右側が選ばれる場合(小さくなる場合)には、目的物の生産フェーズにあることを示す値(1)とされる。
【0041】
また、AIモデルに入力される培養情報に副生産物状態情報が含まれ、そのAIモデルから当該特定成分の変化速度の一つとして副生産物の生成速度が取得される場合には、第二予測工程(S34)において、CPU11は、取得された副生産物の生成速度を用いて次の培養時点における副生産物状態情報を取得することができる。
例えば、副生産物状態情報は、副生産物の生成速度が0以上の場合に、副生産物の増加状態を示す値(0)とされ、副生産物の生成速度が0より小さくなる場合に、副生産物の減少状態を示す値(1)とされる。
【0042】
また、出力情報である培養状態指標に目的物の生成速度及び基質消費速度が含まれるようAIモデルが構築されている場合には、次のような物質収支式等を用いて培養溶液内の基質濃度が算出可能である。
以下の収支式(式4)の例では、n
SBSは基質の物質量(mol)を示し、r
SBSは基質の消費速度(mol/g/h)を示し、B(t)は培養時点tの微生物の特定菌体の菌体量(g)を示し、C
Feedは基質投入溶液中の基質濃度(g/L)を示し、F
SBS(t)は培養時点tの基質投入速度(L/h)を示し、MW
SBSは基質の分子量(g/mol)を示す。また、(式5)の例において、Vは培養時点(t+1)の培養液量(L)を示す。
この場合、CPU11は、培養時点tの基質投入情報としてC
Feed及びF
SBS(t)を取得し、これら基質投入情報と第一予測工程(S33)でAIモデルから取得された基質の消費速度r
SBSを用いて式(4)の微分方程式を解くことで次の培養時点(t+1)の基質の物質量n
SBSを算出し、その物質量を(式5)に代入することで次の培養時点(t+1)の培養液中の基質濃度C
SBSを算出することができる。なお、培養時点tの菌体量B(t)の取得手法は上述したとおりである。
【数3】
但し、基質濃度の算出式はこのような例に限定されない。また、C
Feed及びF
SBS(t)を含む基質投入情報は培養時点ごとにそれぞれ基質情報リストに格納されており、CPU11は、そのリストから培養時点tの基質投入情報としてC
Feed及びF
SBS(t)を取得することができる。
【0043】
最適条件決定工程(S32)では、CPU11は、第一予測工程(S33)でAIモデルから取得される複数種の培養状態指標のうちの工程(S31)で取得された方針トレンドにおいて各培養時点の最適化対象指標として指定された培養状態指標が最適化されるように、各培養時点における当該特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する。
例えば、AIモデルが目的物の生成速度、副生産物の生成速度、二酸化炭素の生成速度及び基質の消費速度を培養状態指標として出力するよう構築されている場合であって、方針トレンドにおいて培養時点(t=2)の最適化対象指標として二酸化炭素の生成速度の識別子「2」が指定されている場合に、培養時点(t=2)の培養情報が入力されることでAIモデルから取得される当該4種の培養状態指標のうち二酸化炭素の生成速度が最適化されるような(最速若しくは最遅又は予め決められた所望の速度になるような)特定培養条件の値が最適値として決定される。
最適条件決定工程(S32)では、様々な最適化手法が利用可能である。例えば、ベイズ最適化を利用することで、計算コストを低減させることができる。
【0044】
CPU11は、方針トレンドから培養時点順に最適化対象指標を読み出し、培養時点ごとの最適化対象指標に基づいて最適条件決定工程(S32)及び培養挙動予測工程(S33)(S34)をそれぞれ実行することで、所定培養時間内の各培養時点における特定培養条件の最適値をそれぞれ取得することができる。
即ち、第一支援方法によれば、発酵生産プロセスにおける培養時点ごとの培養条件として方針トレンドに沿った適切な条件を取得することができる。更に、各培養時点の特定培養条件の最適値に基づいてAIモデルから出力される複数種の培養状態指標を用いることで、目的物や副生産物等の生産量や基質の消費量等の培養結果情報も取得することができる。
【0045】
[第二実施形態]
次に、第二支援方法の詳細について
図4を用いて説明する。
図4は、第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法を示すフローチャートである。
第二支援方法は、上述の第一支援方法を構成する全工程を含んでおり、以降の説明では、第一支援方法に関する内容については適宜省略する。
図4では、「FIG.3 FLOW」と表記されている箇所に
図3に示される第一支援方法の工程が含まれる。
第二支援方法は、第一支援方法の工程に加えて、目標取得工程(S40)、方針生成工程(S41)、結果取得工程(S43)及び方針選択工程(S45)を含む。
以下、各工程についてそれぞれ詳細に説明する。
【0046】
目標取得工程(S40)では、CPU11は、目標品質情報を取得する。
「目標品質情報」は、発酵生産プロセスにおける最終的な目標品質を示す情報であり、例えば、投入基質あたりの目的物の収率の最大化、目的物の生産量の最大化、副生産物の残存量の最小化、基質残存量の最小化等が設定される。
CPU11は、メモリ12に予め格納されている目標品質情報を読み込んでもよいし、他のコンピュータのメモリに格納されている目標品質情報を通信を介して取得してもよいし、可搬型記録媒体に格納されている目標品質情報を取得してもよい。また、CPU11は、表示装置15に入力画面を表示させ、その入力画面を介してユーザにより入力されたデータに基づいて目標品質情報を取得することもできる。
【0047】
方針生成工程(S41)では、CPU11は、複数の制御方針トレンド情報を生成する。制御方針トレンド情報は、第一支援方法で用いられるものと同一であり、ここでも方針トレンドと略称される。
CPU11は、少なくとも一つの培養時点における最適化対象指標がそれぞれ異なるように、複数の方針トレンドを生成する。
【0048】
例えば、CPU11は、後述する方針選択工程(S45)で選択される一以上の方針トレンドに基づいて、遺伝的アルゴリズムを用いて複数の方針トレンドを生成する。具体的には、方針選択工程(S45)では目標品質情報に適合する優秀な一以上の方針トレンドが選択されるため、選択された優秀な方針トレンドで示される培養時点ごとの最適化対象指標を交叉し(組み換え)或いは所定割合(数%)の最適化対象指標を変異させて(変更して)、複数の方針トレンドが生成される。
このように方針トレンドの生成に遺伝的アルゴリズムを用いることで、方針トレンドの最適化を効率よく行うことができ、ひいては計算コストを低減させることができる。
但し、工程(S41)での方針トレンドの生成手法に用いられる最適化アルゴリズムは限定されない。
【0049】
方針生成工程(S41)の実行後、CPU11は、一つずつ方針トレンドを選択し、各方針トレンドに基づいて第一支援方法の工程及び結果取得工程(S43)をそれぞれ実行していく(ループL2(S)からループL2(E))。
【0050】
各方針トレンドに基づいて第一支援方法がそれぞれ実行されると、各方針トレンドに沿って所定培養時間内の各培養時点における特定培養条件の最適値がそれぞれ取得されると共に、特定培養条件の最適値を用いて各培養時点の培養挙動予測工程がそれぞれ実行される。
これにより、結果取得工程(S43)では、CPU11は、各方針トレンドに沿って最適化された特定培養条件を用いた各培養時点の培養挙動予測(第一予測工程(S33)及び第二予測工程(S34)の実行)の結果として、各方針トレンドに関して所定培養時間にわたる培養結果指標をそれぞれ取得することができる。
所定培養時間内の各培養時点の培養挙動予測の結果としては、所定培養時間にわたる培養容器内の特定成分(目的物、副生産物、二酸化炭素等)の生産量、基質の投入量、消費量及び残存量等の情報が取得可能である。
CPU11は、このような情報を工程(S40)で取得された目標品質情報で示される品質に適合するように加工(計算)することで、目標品質情報に適合する培養結果指標を取得する。例えば、目標品質情報が投入基質あたりの目的物の収率の最大化を示す場合には、CPU11は、目的物の生産量を基質投入量で除算することで目的物の収率を培養結果指標として取得する。また、目標品質情報が目的物の生産量の最大化を示す場合には、目的物の生産量が培養結果指標として取得され、目標品質情報が副生産物の残存量の最小化を示す場合には、副生産物の生産量が培養結果指標として取得され、目標品質情報が基質残存量の最小化を示す場合には、基質残存量が培養結果指標として取得される。
【0051】
工程(S41)で生成された全ての方針トレンドについて第一支援方法の工程及び結果取得工程(S43)が実行されると、ループL2を抜け、方針選択工程(S45)が実行される。
【0052】
方針選択工程(S45)では、CPU11は、各方針トレンドに関して取得された培養結果指標に基づいて、複数の方針トレンドの中から目標品質情報に適合する一以上の方針トレンドを選択する。ここでは、目標品質情報が示す目標品質への適合度合いが最も高い培養結果指標に対応する方針トレンドが一つ選択されてもよいし、培養結果指標の当該目標品質への適合度合いが高いものから順に複数の方針トレンドが選択されてもよい。なお、工程(S41)で遺伝的アルゴリズムが利用されている場合には、例えば、培養結果指標の当該目標品質への適合度合いが高いものから順に二つの方針トレンドが選択される。
【0053】
また、例えば、目標品質情報が投入基質あたりの目的物の収率の最大化を示しかつ培養結果指標として投入基質あたりの目的物の収率が取得されている場合には、最大の培養結果指標(当該収率)に対応する一つの方針トレンド或いは培養結果指標(当該収率)が大きいものから順に所定数の培養結果指標に対応する所定数の方針トレンドが選択される。また、目標品質情報が基質残存量の最小化を示しかつ基質残存量が培養結果指標として取得されている場合には、最小の培養結果指標(基質残存量)に対応する一つの方針トレンド或いは培養結果指標(基質残存量)が小さいものから順に所定数の培養結果指標に対応する所定数の方針トレンドが選択される。
【0054】
工程(S47)では、CPU11は、方針トレンドの最適化の終了条件を判定する。この終了条件が満たされている場合には(S47;YES)、CPU11は、処理を終了し、終了条件が満たされていない場合には(S47;NO)、方針生成工程(S41)以降を再度実行する。
工程(S47)で判定される終了条件は、最終的に目標品質に最も適合する方針トレンドを選択することができるような条件であればよく、その具体的条件は限定されない。例えば、方針生成工程(S41)で遺伝的アルゴリズムが用いられる形態ではそのアルゴリズムの世代数が終了条件とされる。また、前回の方針選択工程(S45)で選択された方針トレンドの培養結果指標と今回の方針選択工程(S45)で選択された方針トレンドの培養結果指標とを比較して今回の培養結果指標のほうが前回よりも目標品質への適合度合いが低いことを終了条件としてもよい。
【0055】
このように第二支援方法によれば、目標品質に適合する最適な方針トレンドを取得することができると共に、この最適な方針トレンドに沿った各培養時点における特定培養条件の最適値も合わせて取得することができる。
これにより、データ駆動型の発酵シミュレーションによる発酵生産プロセス制御の自動設計が可能となる。結果、発酵生産の技術開発では、開発者の経験に依存して行われていた従来のノウハウ型開発からデータ駆動型開発に移行することができ、発酵生産技術開発の効率化及び高速化を実現することができる。
【0056】
上述の各実施形態及び変形例の一部又は全部は、次のようにも特定され得る。但し、上述の各実施形態及び変形例が以下の記載に制限されるものではない。
【0057】
<1>
微生物を培養する培養容器内で目的物が生成される発酵生産プロセスを支援する方法であって、
特定培養条件を少なくとも含む培養情報を入力して複数種の培養状態指標を出力する学習済みモデルを利用可能な一以上のプロセッサが、
或る培養時点の前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記複数種の培養状態指標を取得する第一予測工程及び次の培養時点の前記培養情報を取得する第二予測工程を含む予測サイクルを所定培養時間内における培養時点ごとに繰り返す培養挙動予測工程と、
培養時点ごとの最適化対象指標の集合であって各培養時点の最適化対象指標として前記複数種の培養状態指標の少なくとも一つがそれぞれ指定された制御方針トレンド情報を取得するトレンド取得工程と、
前記第一予測工程で取得される前記複数種の培養状態指標のうちの前記取得された制御方針トレンド情報において各培養時点の最適化対象指標として指定された培養状態指標が最適化されるように、各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する最適条件決定工程と、
を実行する発酵生産プロセス支援方法。
【0058】
<2>
前記一以上のプロセッサが、
目標品質情報を取得する目標取得工程と、
前記制御方針トレンド情報を複数生成する方針生成工程と、
生成された各々の前記制御方針トレンド情報に関して、前記最適条件決定工程で決定された各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ用いて前記培養挙動予測工程を実行することにより前記所定培養時間にわたる前記目標品質情報に対応する培養結果指標をそれぞれ取得する結果取得工程と、
各々の前記制御方針トレンド情報に関して取得された前記培養結果指標に基づいて、複数の前記制御方針トレンド情報の中から前記目標品質情報に適合する一以上の制御方針トレンド情報を選択する方針選択工程と、
を更に実行する<1>に記載の発酵生産プロセス支援方法。
<3>
前記方針生成工程では、前記一以上のプロセッサが、前記方針選択工程で選択された一以上の制御方針トレンド情報に基づいて、遺伝的アルゴリズムを用いて複数の前記制御方針トレンド情報を生成する、
<2>に記載の発酵生産プロセス支援方法。
<4>
前記最適条件決定工程において、前記一以上のプロセッサが、ベイズ最適化を用いて前記各培養時点における前記特定培養条件の最適値をそれぞれ決定する、
<1>から<3>のいずれか一つに記載の発酵生産プロセス支援方法。
<5>
前記一以上のプロセッサは、
前記第一予測工程では、前記特定培養条件及び前記目的物の濃度を含む前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記目的物の生成速度を含む前記複数種の培養状態指標を取得し、
前記第二予測工程では、前記取得された複数種の培養状態指標に含まれる前記目的物の生成速度を少なくとも用いて前記次の培養時点の前記目的物の濃度を算出する、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の発酵生産プロセス支援方法。
<6>
前記特定培養条件は、前記培養容器内の温度及び前記培養容器内の培養液の水素イオン指数、並びに酸素供給速度若しくは酸素消費速度を含み、
前記一以上のプロセッサは、
前記第一予測工程において、前記目的物の濃度、前記温度、前記水素イオン指数、並びに前記酸素供給速度若しくは前記酸素消費速度を含む前記培養情報を前記学習済みモデルに入力することにより前記目的物の生成速度を含む前記複数種の培養状態指標を取得し、
前記第二予測工程において、前記次の培養時点における前記温度、前記水素イオン指数、並びに前記酸素供給速度若しくは前記酸素消費速度を取得する、
<5>に記載の発酵生産プロセス支援方法。
<7>
前記培養容器内では、少なくとも前記目的物、副生産物及び二酸化炭素が生成されかつ少なくとも基質が消費され、
前記複数種の培養状態指標は、前記目的物の生成速度、前記副生産物の生成速度、前記二酸化炭素の生成速度、及び前記基質の消費速度を含み、
前記制御方針トレンド情報で示される培養時点ごとの最適化対象指標には、前記目的物の生成速度、前記副生産物の生成速度、前記二酸化炭素の生成速度、又は前記基質の消費速度の指定が含まれる、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の発酵生産プロセス支援方法。
<8>
前記学習済みモデルは、前記培養情報のみを入力として前記複数種の培養状態指標のみを出力し、
前記培養情報及び前記複数種の培養状態指標は、示強変数若しくは無次元数、又はそれら両方のみで構成されている、
<1>から<7>のいずれか一つに記載の発酵生産プロセス支援方法。
<9>
メモリ及び前記一以上のプロセッサを少なくとも備える発酵生産プロセス支援装置であって、
<1>から<8>のいずれか一つに記載の発酵生産プロセス支援方法を実行可能な発酵生産プロセス支援装置。
【0059】
以下に実施例を挙げ、上述の内容を更に詳細に説明する。但し、以下の実施例の記載は、上述の内容に何ら限定を加えるものではない。
【実施例0060】
本実施例では、上述の第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法において、最適な方針トレンドを取得することができかつ取得された方針トレンドに沿った各培養時点における特定培養条件の最適値が取得できること、並びに当該方法の処理時間から当該方法の実用性について確認された。
好気性菌を用いて有機酸(目的物)を生産する発酵生産プロセスを支援対象とし培養実験が行われた。培養実験では所定の培養槽(通気攪拌槽)を用いて実際に微生物(好気性菌)の培養を行い、その培養実験の間、数時間間隔でサンプリングを実施することで、各種培養データが取得された。取得された培養データを用いて次のようなAIモデルの学習が行われた。なお、後述するとおり、グルコースが基質として用いられた。
【0061】
図5は、実施例における培養挙動予測のデータフローを示す図である。
本実施例では、5つの関数モデルF0からF4の組合せからなるAIモデルが用いられた。関数モデルF0からF4の各々は、菌体活動応答を近似表現する関数であって培養情報を入力変数とし一種の培養状態指標を出力変数とし、教師有り学習の回帰を用いて構築された。各関数モデルの入力変数及び出力変数はそれぞれ次のとおりである。
<出力変数>
・関数モデルF0=単位菌体重量あたりの目的物生成速度
・関数モデルF1=単位菌体重量あたりの副生産物生産速度
・関数モデルF2=単位菌体重量あたりのグルコース消費速度
・関数モデルF3=単位菌体重量あたりの菌体増殖速度
・関数モデルF4=単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度
<入力変数>
・関数モデルF0=温度、pH、酸素供給速度(OTR)、グルコース濃度、目的物濃度、単位菌体重量あたりの酸素供給速度、単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度、単位菌体重量あたりの菌体増殖速度、単位菌体重量あたりのグルコース消費速度
・関数モデルF1=温度、pH、酸素供給速度(OTR)、グルコース濃度、目的物濃度、単位菌体重量あたりの目的物生成速度、単位菌体重量あたりの酸素供給速度、単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度、単位菌体重量あたりの菌体増殖速度、単位菌体重量あたりのグルコース消費速度
・関数モデルF2=温度、pH、酸素供給速度(OTR)、グルコース濃度、単位菌体重量あたりの目的物生成速度、目的物濃度、単位菌体重量あたりの酸素供給速度、単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度、単位菌体重量あたりの菌体増殖速度
・関数モデルF3=温度、pH、酸素供給速度(OTR)、グルコース濃度、単位菌体重量あたりの目的物生成速度、目的物濃度、単位菌体重量あたりの酸素供給速度、単位菌体重量あたりの菌体増殖速度、単位菌体重量あたりのグルコース消費速度
・関数モデルF4=温度、pH、酸素供給速度(OTR)、グルコース濃度、培養時間、単位菌体重量あたりの目的物生成速度、単位菌体重量あたりの酸素供給速度、単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度、単位菌体重量あたりのグルコース消費速度
【0062】
このように本実施例では、5つの関数モデルの出力変数がAIモデルの出力情報としての5種の培養状態指標とされた。そして、本実施例において制御方針トレンド情報(方針トレンド)は、培養時点ごとにこれら5種の培養状態指標の中の一種を最適化対象指標として指定する形式とされた。即ち、単位菌体重量あたりの目的物生成速度が識別子「0」で示され、単位菌体重量あたりの副生産物生産速度が識別子「1」で示され、単位菌体重量あたりのグルコース消費速度が識別子「2」で示され、単位菌体重量あたりの菌体増殖速度が識別子「3」で示され、単位菌体重量あたりの二酸化炭素生成速度が識別子「4」で示され、例えば、方針トレンドは次のように生成可能とされた。
方針トレンド=[44422103・・・・・]
また、本実施例では、培養時間が72時間に設定され、最適化間隔が5分に設定された。このため、方針トレンドでは、5分毎の864個の最適化対象指標が指定された。
【0063】
また、本実施例において、5つの関数モデルの各々は、AIモデルの入力情報としての培養情報の少なくとも一部を入力変数とし、当該培養情報に含まれる特定培養条件は、温度、pH、酸素供給速度(OTR)及びグルコース濃度とされた。
そして、最適条件決定工程(S32)では、このような特定培養条件の最適値が決定された。本実施例において特定培養条件の最適化にはベイズ最適化が採用された。
【0064】
本実施例において培養挙動予測工程の第一予測工程(S33)では、5つの関数モデルの入力変数に或る培養時点の培養情報がそれぞれ入力されることで、5つの関数モデルの出力変数の値として上述の5種の培養状態指標(速度パラメータ)が取得された。
培養挙動予測工程の第二予測工程(S34)では、第一予測工程(S33)で取得された5種の培養状態指標に基づいて次の培養時点の培養情報が取得された。関数モデルF0から得られた目的物生成速度、関数モデルF2から得られたグルコース消費速度、関数モデルF3から得られた二酸化炭素生成速度、及び関数モデルF4から得られた菌体増殖速度は次の培養時点の培養情報としてそれぞれ用いられた。次の培養時点のその他の培養情報は、上述の式(1)から(5)のような物質収支式やその他の計算式、第一予測工程(S33)で取得された5種の培養状態指標等を用いて導出された。
【0065】
本実施例において目標品質情報は「培養終了時間における目的物生産量の最大化」に設定され(目標取得工程(S40))、方針トレンドの最適化には遺伝的アルゴリズムが採用された(50個体、50世代)。
【0066】
また、本実施例では、次のようなスペックのコンピュータに当該発酵生産プロセス支援方法を実行させた。
・CPU=Intel(R) Xeon(R) Gold 6258R 28コア56スレッド×2
・OS=Windows10 Pro
・RAM=128GB
結果、約18.6時間の処理時間によって、最適な制御方針トレンド情報及びその制御方針トレンド情報に沿った各培養時点における特定培養条件の最適値が取得された。
【0067】
更に、本実施例では、このようにして取得された最適な制御方針トレンド情報及びその制御方針トレンド情報に沿った各培養時点における特定培養条件の最適値を用いて、上述の培養実験と同じ条件下(好気性菌種、培養槽スケール等)にて実証実験が行われた。
この実証実験では、72時間、実際に培養を行い、7時間経過後、24時間経過後、32時間経過後、48時間経過後、72時間経過後の各タイミングにて目的物の生産量(g)が測定された。一方で、本実施例の培養挙動予測工程にて当該各タイミングでの目的物生産量の予測値(g)を導出し、72時間経過後の目的物生産量の予測値を用いて各タイミングにおける目的物生産量の測定値及び予測値をそれぞれ規格化した(g/g‐MAX)。
【0068】
図6は、実証実験の結果を示す表である。
図6において、時間の列には培養経過時間が示されており、予測値及び測定値の各列には上述のように規格化された目的物生産量の予測値及び測定値が示されている。
結果、72時間経過後の目的物生産量の予測誤差は16%に抑えられており、予想された目的物の生産トレンドは実験結果とおおよそ一致した。
更に、本実施例により獲得した特定培養条件の最適値による培養では、実施例検討前の従来値と比較して目的物の最終生産量が5%向上する結果が得られた。
【0069】
このように本実施例によれば、第二実施形態に係る発酵生産プロセス支援方法において、最適な方針トレンドを取得することができかつ取得された方針トレンドに沿った各培養時点における特定培養条件の最適値が取得できること、並びに処理時間の観点からの当該方法の実用性について実証された。