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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081239
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】噛み合い制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20240611BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20240611BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20240611BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20240611BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20240611BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240611BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20240611BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240611BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60W10/00 106
F16H59/04
F16H59/40
F16H59/42
F16H61/04
F16H63/50
B60W10/11
B60W10/06
F02D29/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194711
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ-ミュラ
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
(72)【発明者】
【氏名】眞島 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀口 翔梧
【テーマコード(参考)】
3D241
3G093
3J552
【Fターム(参考)】
3D241AA53
3D241AB01
3D241AC01
3D241AC16
3D241AC18
3D241AD02
3D241AD38
3D241AE03
3D241AE04
3D241AE09
3D241AE32
3G093AA02
3G093AA09
3G093BA03
3G093CA09
3G093DA01
3G093DA06
3G093DB01
3G093DB11
3G093EA03
3G093EA09
3G093EA13
3G093EB03
3J552MA04
3J552NA08
3J552NB01
3J552PA02
3J552RA06
3J552SA23
3J552SB10
3J552SB35
3J552UA09
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VB01W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制向上を可能とした噛合い制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関3の回転数を検出するための機関回転数センサ-13と、内燃機関3のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-15と、シフト操作を検出するためのシフトセンサ-17と、検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるときスロットル装置7及び点火装置9を制御して内燃機関3の回転数を変化させる回転数制御装置11とを備え、回転数制御装置11は、検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数を基に目標の回転数を設定し検出された内燃機関3の回転数が目標の回転数に応じるように制御を行わせドグ歯33a、41b等の噛合いを可能にすることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル装置及び点火装置を有する内燃機関と、
軸方向へシフト可能な複数の一方の回転部材と、
前記複数の一方の回転部材との間で前記内燃機関のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するための複数の他方の回転部材と、
前記複数の一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせるドグ歯と、
前記複数の一方の回転部材をシフト操作により選択的にシフトさせて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、
前記内燃機関の回転数を検出するための機関回転数センサ-と、
前記内燃機関のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-と、
前記シフト操作を検出するためのシフトセンサ-と、
前記検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるとき前記スロットル装置及び前記点火装置を制御して前記内燃機関の回転数を変化させる回転数制御装置と、を備え、
前記回転数制御装置は、前記検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数を基に目標の回転数を設定し前記検出された内燃機関の回転数が前記目標の回転数に応じるように前記制御を行わせ前記ドグ歯の噛合いを可能とする、
噛み合い制御装置。
【請求項2】
請求項1の噛み合い制御装置であって、
前記回転数制御装置は、前記目標の回転数が前記出力側の回転数に対し回転数差Δnだけ下回るように設定し前記検出された内燃機関の回転数が前記目標の回転数に一致するように前記制御を行わせる、
噛み合い制御装置。
【請求項3】
スロットル装置及び点火装置を有する内燃機関と、
軸方向へシフト可能な複数の一方の回転部材と、
前記複数の一方の回転部材との間で前記内燃機関のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するための複数の他方の回転部材と、
前記複数の一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせるドグ歯と、
前記複数の一方の回転部材をシフト操作により選択的にシフトさせて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、
前記内燃機関の回転数を検出するための機関回転数センサ-と、
前記内燃機関のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-と、
前記シフト操作を検出するためのシフトセンサ-と、
前記検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるとき前記スロットル装置及び前記点火装置を制御して前記内燃機関の回転数を変化させる回転数制御装置と、を備え、
前記回転数制御装置は、前記出力側の回転数及び前記検出された内燃機関の回転数が同一軸上で一致するまで前記制御を行う、
噛み合い制御装置。
【請求項4】
請求項1~3の噛み合い制御装置であって、
前記複数の一方の回転部材は、クラッチリング又は変速ギヤであり、
前記複数の他方の回転部材は、変速ギヤ又はクラッチリングであり、
前記噛合うドグ歯の一方の歯先に、下段及び上段のクラッチリング及び変速ギヤのドグ歯が同時噛合いした時にコ-スティングトルクにより下段のドグ歯に噛合い解除方向の軸力を生じさせて噛合いを解除するためのガイド面を備えた、
噛み合い制御装置。
【請求項5】
請求項4の噛み合い制御装置であって、
前記ダウンシフトにより下段のクラッチリングのシフトを許容すると共に前記ガイド面により前記下段のクラッチリングにスラスト力が働くときは前記下段のクラッチリングのシフト方向に反する戻りで前記スラスト力を逃がしながら付勢力を蓄積し且つ前記スラスト力が無くなると前記付勢力で前記下段のクラッチリングをシフト方向へ付勢するチェック機構を備えた、
噛み合い制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両、農業機械等に供される噛み合い制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の噛み合い制御装置として特許文献1に記載のオ-トダウンシフト機能付き乗物に適用されたものがある。
【0003】
この噛合い制御装置は、シフト操作センサ-の検出信号に基づいて減速シフト操作の開始が判定されると回転数センサ-で検出されたエンジンの回転数に応じてスロットル装置を制御してエンジンの吸気量を増量し、且つ、点火装置を制御して点火時期を変更し、メインクラッチの操作なしで減速シフトを実現する。
【0004】
しかし、かかる点火時期の変更においては、減速シフト前後の変速比の差が各段で異なることを考慮して行ってはいるものの、各段内では変更後の点火時期に変化はないため手動変速により変速タイミングがずれるとショックトルクの発生が抑制できないという問題がある。
【0005】
つまり、減速シフト操作の開始が判定されると回転数センサ-で検出されたエンジンの回転数に応じてスロットル装置を制御しエンジン回転数が増量変更される。この増量変更に対し減速段に応じた点火時期の変更によりエンジン回転数の過剰分が相殺されてエンジンが目標回転数となるように回転数が変更され、この目標回転数で変速ギヤのシフトが行われるようにしている。
【0006】
この場合、各段それぞれでの変更後の点火時期に変化は無く一律であるため点火時期の変更によりエンジン回転数の減量変化が前記増量変化と共に放物線状の大きな下がり勾配となる。そして、この大きな下がり勾配のある時点でエンジン回転数が目標回転数に一致するときに変速ギヤのシフトが行われる設定になる。
【0007】
一方で、手動変速による変速ギヤのシフトタイミングは一律ではないことから変速ギヤの実際のシフトが行われるタイミングでのエンジン回転数が大きな下がり勾配側において目標回転数からずれやすく、ずれに基づくショックトルク発生の抑制には限界があった。
【0008】
また、従来の減速シフトでは、ギヤポジションセンサの検出信号に基づいて手動変速機の減速シフト動作の完了が判定されると、点火時期が通常状態の点火時期に戻るように点火装置を制御している。
【0009】
しかし、ギヤポジションセンサの検出信号に基づいて変速ギヤがシフトしても実際にトルク伝達が行われるまでには噛合いのバックラッシュが詰められる必要がある。
【0010】
このバックラッシュは、シフト完了時に点火時期及びスロットルが通常状態に戻ることによるエンジンの回転数の減少により詰められることになり、ショックトルク発生の抑制には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6913607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制に限界があった点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の噛合い制御装置は、オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制を向上させるために、スロットル装置及び点火装置を有する内燃機関と、軸方向へシフト可能な複数の一方の回転部材と、前記複数の一方の回転部材との間で前記内燃機関のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するための複数の他方の回転部材と、前記複数の一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせるドグ歯と、前記複数の一方の回転部材をシフト操作により選択的にシフトさせて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、前記内燃機関の回転数を検出するための機関回転数センサ-と、前記内燃機関のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-と、前記シフト操作を検出するためのシフトセンサ-と、前記検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるとき前記スロットル装置及び前記点火装置を制御して前記内燃機関の回転数を変化させる回転数制御装置とを備え、前記回転数制御装置は、前記検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数を基に目標の回転数を設定し前記検出された内燃機関の回転数が前記目標の回転数に応じるように前記制御を行わせ前記ドグ歯の噛合いを可能とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の噛合い制御装置は、スロットル装置及び点火装置を有する内燃機関と、軸方向へシフト可能な複数の一方の回転部材と、前記複数の一方の回転部材との間で前記内燃機関のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するための複数の他方の回転部材と、前記複数の一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせるドグ歯と、前記複数の一方の回転部材をシフト操作により選択的にシフトさせて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、前記内燃機関の回転数を検出するための機関回転数センサ-と、前記内燃機関のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-と、前記シフト操作を検出するためのシフトセンサ-と、前記検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるとき前記スロットル装置及び前記点火装置を制御して前記内燃機関の回転数を変化させる回転数制御装置とを備え、前記回転数制御装置は、前記出力側の回転数及び前記検出された内燃機関の回転数が同一軸上で一致するまで前記制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の噛み合い制御装置は、上記構成としたため、検出された内燃機関の回転数が出力側の回転数を基に設定された目標の回転数に応じるように制御を行わせドグ歯の噛合いを可能にすることができ、オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制を向上させることができる。
【0016】
回転数制御装置は、前記出力側の回転数及び前記検出された内燃機関の回転数が同一軸上で一致するまでスロットル装置及び点火装置を制御して内燃機関の回転数を変化させることができ、オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例に係り、トランスミッションの噛合い制御を行う噛合い制御装置の概略図である。
図2図1の噛合い制御装置の動作タイムチャ-トである。
図3図2の噛合い制御装置の動作タイムチャ-トにオ-バ-シュ-ト制御を追記した説明図である。
図4図1の噛合い制御装置の制御フロ-チャ-トである。
図5図4に続く制御フロ-チャ-トである。
図6図1のトランスミッションに用いるドグ歯の浅い噛合いを示す要部断面図である。
図7図1のトランスミッションに用いるドグ歯が歯先斜面で当接している状態を示す要部断面図である。
図8図1のトランスミッションのシフト機構に用いるシフトピンの位置を一部拡大図と共に示すシフトドラムの展開図である。
図9図8のシフトドラムにおける要部展開図である。
図10図1のトランスミッションのシフトドラムが有するチェック機構の説明図である。
図11図1のトランスミッションに用いるドグ歯の噛合い状態とシフトドラムに対するシフトピンの位置との関係を示す一蘭図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、オ-トダウンシフト時のショックトルク発生の抑制向上を可能にするという目的を、以下のように実現した。
【0019】
スロットル装置及び点火装置を有する内燃機関と、軸方向へシフト可能な複数の一方の回転部材と、前記複数の一方の回転部材との間で前記内燃機関のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するための複数の他方の回転部材と、前記複数の一方及び他方の回転部材のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせるドグ歯と、前記複数の一方の回転部材をシフト操作により選択的にシフトさせて前記ドグ歯を噛合わせるシフト機構と、前記内燃機関の回転数を検出するための機関回転数センサ-と、前記内燃機関のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するための出力側回転数センサ-と、前記シフト操作を検出するためのシフトセンサ-と、前記検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるとき前記スロットル装置及び前記点火装置を制御して前記内燃機関の回転数を変化させる回転数制御装置とを備え、前記回転数制御装置は、前記検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数を基に目標の回転数を設定し前記検出された内燃機関の回転数が前記目標の回転数に応じるように前記制御を行わせ前記ドグ歯の噛合いを可能とする形態で実現した。
【0020】
噛合い制御装置は、操作者の任意のシフト操作によりドグ歯を噛合わせる機構を含むものであれば適用する対象は鞍乗型車両には限定されない。例えば、四輪車、二輪車、バギ-車、スノ-モ-ビル、鞍乗型車両、産業機械、農業機械、船舶、小型飛行機等に広く適用することができる。
【0021】
一方の回転部材は、クラッチリングで実現するが、クラッチリングを兼ねたギヤ等で実現してもよい。
【0022】
ドグ歯は、一般的なドグ歯、シ-ムレスシフト用のドグ歯等で特に限定されずに実現できる。
【0023】
シフト機構は、複数の一方の回転部材を選択的なシフト操作によりシフトさせてドグ歯を噛合わせることができればよく、シフトペダルによるシフト操作、シフレバ-によるシフト操作等で特に限定されずに実現できる。
【0024】
出力側回転数センサ-は、複数の変速段で選択的にトルク伝達が行われた出力側の回転数を検出できればよく、変速段を介してトルク伝達が行われた出力軸、クラッチリング、クラッチリングにより出力軸に結合される変速ギヤの回転数などを検出する形態で実現することができる。
【0025】
シフトセンサ-は、シフト操作のダウンシフトを検出できればよく、シフトペダルやシフトレバ-の動作をアップシフト、ダウンシフトに分けて異なるスイッチにより検出する形態、アップシフト、ダウンシフトに分けてプラス、マイナスの信号を出力する形態、ダウンシフトに連動する部材の動作を検出する形態等で実現できる。
【0026】
回転数制御装置は、検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数を基に目標の回転数を設定し検出された内燃機関の回転数が目標の回転数に応じるようにスロットル装置及び点火装置を制御できればよい。
【0027】
検出された内燃機関の回転数が目標の回転数に応じるようにとは、内燃機関の回転数が目標の回転数に一致する形態、許容範囲の回転数差で内燃機関の回転数が目標の回転数を基準に変化する形態で実現できる。
【0028】
回転数制御装置は、目標の回転数が出力側の回転数に対し回転数差Δnだけ下回るように設定し検出された内燃機関の回転数が目標の回転数に一致するように制御を行わせる形態で実現した。
【0029】
目標の回転数は、出力側回転数センサ-が検出する出力側の回転数に対してΔn低く設定するが、出力側の回転数と同一に設定する形態で実現することもできる。
【0030】
回転数差Δnは、内燃機関のイナ-シャルエネルギ-を減速に使用する量、つまりエンジンブレ-キの大きさに関係して設定される。
【0031】
回転数制御装置は、出力側の回転数及び検出された内燃機関の回転数が同一軸上で一致するまでスロットル装置及び点火装置の制御を行う形態で実現する。
【0032】
同一軸上とは、内燃機関と出力側との間の変速比による回転数の相違を考慮し両者の回転数を共通の軸上に換算することを意味し、例えば出力側のドグ歯の回転数をエンジンの軸上に換算した値となる。
【0033】
前記複数の一方の回転部材は、クラッチリング又は変速ギヤであり、前記複数の他方の回転部材は、変速ギヤ又はクラッチリングであり、前記噛合うドグ歯の一方の歯先に、下段及び上段のクラッチリング及び変速ギヤのドグ歯が同時噛合いした時にコ-スティングトルクにより下段のドグ歯に噛合い解除方向の軸力を生じさせて噛合いを解除するためのガイド面を備えて実現した。
【0034】
ガイド面は、下段及び上段のクラッチリング及び変速ギヤのドグ歯が同時噛合いした時にコ-スティングトルクにより下段のドグ歯に噛合い解除方向の軸力を生じさせることができればよく、ドグ歯の歯先に形成する歯先斜面、ドグ歯のコ-スティングトルクが働く側の面に設けた傾斜面、回転方向クラッチリングと入力軸又は出力軸との間に設けるピン及びV字状カム等で実現できる。
【0035】
前記ダウンシフトにより下段のクラッチリングのシフトを許容すると共に前記ガイド面により前記下段のクラッチリングにスラスト力が働くときは前記下段のクラッチリングのシフト方向に反する戻りで前記スラスト力を逃がしながら付勢力を蓄積し且つ前記スラスト力が無くなると前記付勢力で前記下段のクラッチリングをシフト方向へ付勢するチェック機構を備えて実現した。
【0036】
チェック機構は、付勢力で下段のクラッチリングをシフト方向へ付勢できればよく、シフトドラムとクラッチリングとの間にシフトロッドを備え、シフトロッドとクラッチリングとの間に形成した凹凸面にチェックスプリングで付勢したチェックボ-ルを弾接させる形態で実現することもできる。
【実施例0037】
[噛合い制御装置の概要]
図1は、トランスミッションの噛合い制御を行う噛合い制御装置の概略図である。
【0038】
図1の噛合い制御装置1は、内燃機関3(以下「エンジン3」という。)の出力回転数を変速して出力するトランスミッション5の噛合い制御を行う。なお、エンジンとは一般的に力学的エネルギ-を継続的に発生させる装置であり内燃機関はエンジンの概念に含まれる。
【0039】
エンジン3は、スロットル装置7及び点火装置9を有している。トランスミッション5の噛合い制御は、回転数制御装置11により行う。回転数制御装置11は、検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるときスロットル装置7及び点火装置9を制御してエンジン3の回転数を変化させるようにする。噛合い制御装置1は、各種センサ-として機関回転数センサ-13と、出力側回転数センサ-15と、シフトセンサ-17とを備えている。
【0040】
前記トランスミッション5は、入力軸19及び出力軸21を備えている。これら入力軸19及び出力軸21は、軸受等によりトランスミッションケ-ス(図示せず。)に回転自在に支持されている。
【0041】
トランスミッション5は例えば4段変速であり、入力軸19と出力軸21とには、複数段の変速ギヤとして1速ギヤ23、25、2速ギヤ27、29、3速ギヤ31、33、4速ギヤ35、37が支持され、相互に常時噛合っている。
【0042】
入力軸19の1速ギヤ23、2速ギヤ27、3速ギヤ31、4速ギヤ35は、入力軸19に一体回転可能に支持され、出力軸21の1速ギヤ25、2速ギヤ29、3速ギヤ33、4速ギヤ37は、出力軸21に相対回転可能に支持されている。
【0043】
トランスミッション5は、変速のための噛合い機構39を備えている。噛合い機構39は、一方の回転部材41、43と、他方の回転部材25、29、33、37と、ドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aとを備えている。
【0044】
一方の回転部材41、43は、第1、第2のクラッチリングで構成されている。第1、第2のクラッチリング41、43は、出力軸21側へのスプライン嵌合により軸方向へシフト可能となっている。
【0045】
他方の回転部材25、29、33、37は、第1、第2のクラッチリング41、43との間でエンジン3のトルクを複数の変速段で選択的に伝達するためのものであり、出力軸21上の前記1速ギヤ、2速ギヤ、3速ギヤ、4速ギヤである。
【0046】
1速ギヤ25及び3速ギヤ33は、第1のクラッチリング41との間でトルク伝達を行わせ、2速ギヤ29及び4速ギヤ37は、第2のクラッチリング43との間でトルク伝達を行わせる。
【0047】
ドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aは、複数の一方及び他方の回転部材41、43、25、29、33、37のそれぞれに備えられ選択的に噛合わせる。ドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aの選択的な噛合いはシフト機構45で行わせる。
【0048】
ドグ歯41a及び41bは、第1のクラッチリング41に備えられ、ドグ歯25a及びドグ歯33aは、1速ギヤ25及び3速ギヤ33のそれぞれに分けて備えられている。ドグ歯41a及びドグ歯25又はドグ歯41b及びドグ歯33aが回転方向に噛合って1速ギヤ25又は3速ギヤ33から出力軸21へのトルク伝達を行わせる。
【0049】
ドグ歯43a及び43bは、第2のクラッチリング43に備えられ、ドグ歯29a及び37aは、2速ギヤ29及び4速ギヤ37のそれぞれに分けて備えられている。ドグ歯43a及び29a又はドグ歯43b及びドグ歯37aが回転方向に噛合って2速ギヤ29又は4速ギヤ37から出力軸21へのトルク伝達を行わせる。
【0050】
ドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aの形状は、通常のドグ歯、シ-ムレスシフトのドグ歯等特に限定されず、種々の形状を採用することができる。実施例はシ-ムレスシフトのドグ歯で後述する。
【0051】
前記シフト機構45は、複数の一方の回転部材である第1、第2のクラッチリング41、43の何れかをシフト操作により選択的にシフトさせてドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aを噛合わせるものである。
【0052】
シフト機構45は、シフトペダル47のシフト操作に連動するシフトドラム49、第1、第2のシフトフォ-ク51、52などを備えている。
【0053】
シフトペダル47は、鞍乗型車両の運転者の足で操作されるタイプであり、連結ロッド53を介してシフト駆動ア-ム55に連動連結されている。シフト駆動ア-ム55は、シフトラチェット57等を介してシフトドラム49に機構的に連動連結されている。
【0054】
連結ロッド49には、前記シフトセンサ-17が介設されている。シフトセンサ-17は、シフトペダル47によるシフト操作を検出するためのものであり、シフトセンサ-17の検出信号は回転数制御装置11に入力される構成となっている。
【0055】
シフトドラム49には、第1、第2のシフトカム59、61が設けられている。第1、第2のシフトカム59、61には、前記第1、第2のシフトフォ-ク51、52の第1、第2のシフトピン51a、52aが係合配置されている。第1、第2のシフトフォ-ク51、52は、前記第1、第2のクラッチリング41、43に係合し、第1、第2のクラッチリング41、43を軸方向にシフトさせる構成となっている。
【0056】
第1のクラッチリング41をシフトさせてドグ歯41a及びドグ歯25aの1速ドグクラッチ又はドグ歯41b及びドグ歯33aの3速ドグクラッチを噛合わせる。第2のクラッチリング43をシフトさせてドグ歯43a及びドグ歯29aの2速ドグクラッチ又はドグ歯43b及びドグ歯37aの4速ドグクラッチを噛合わせる。
【0057】
シフトドラム49には、チェック機構63が設けられている。チェック機構63は、チェックカム65を備え、チェックカム65がシフトドラム49の端部に取り付けられている。チェックカム65の周面にはチェックボ-ル67が配置されている。チェックボ-ル67は、ミッションケ-ス側に支持されたチェックスプリング69で付勢され、このチェックボ-ル67がチェックカム65の周面に弾接する構成である。
【0058】
つまり、チェック機構63は、例えば4速から3速へのダウンシフトによりこの場合の下段となる第1のクラッチリング41のシフトを許容すると共に後述のガイド面により下段の第1クラッチリング41にスラスト力が働くときは下段の第1のクラッチリング41のシフト方向に反する戻りでスラスト力を逃がす。同時にチェックスプリング69に付勢力を蓄積する。スラスト力が無くなるとチェックスプリング69の付勢力で下段の第1のクラッチリング41をシフト方向へ付勢する構成である。こうしたチェック機構により第1、第2のクラッチリング41、43は、左右何れのシフト方向へも付勢される構成である。
【0059】
前記エンジン3は、クランクシャフト71に駆動ギヤ73を備えている。駆動ギヤ73は、入力軸19の入力ギヤ75に噛合っている。入力ギヤ75は、入力軸19にクラッチ77を介して支持されている。
【0060】
したがって、エンジン3の出力をクラッチ77の締結により駆動ギヤ73、入力ギヤ75を介して入力軸19に伝達する構成である。
【0061】
前記各種センサ-としての機関回転数センサ-13は、エンジン3の回転数を検出するためのものであり、機関回転数センサ-13の検出信号は回転数制御装置11に入力される構成である。
【0062】
機関回転数センサ-13は、エンジン3の回転数を検出するものであり、例えばフライホイ-ル、カムシャフト、クランクプ-リ-などの回転数を検出する構成である。機関回転数センサ-13は、フライホイ-ル等の回転数を検出しパルス信号を出力する構成である。
【0063】
なお、機関回転数センサ-13は、エンジン3の回転数を検出できればよく、入力軸19の回転数により検出することもできる。この場合は、エンジン3の回転数が入力軸19の回転数を基に駆動ギヤ73及び入力ギヤ75の減速比を考慮して演算されることになる。
【0064】
前記各種センサ-としての出力側回転数センサ-15は、エンジン3のトルクが伝達される出力側の回転数を検出するためのものであり、出力側回転数センサ-15の検出信号は回転数制御装置11に入力される構成である。
【0065】
出力側回転数センサ-15は、エンジン3のトルクが伝達されるトランスミッション5の出力側の回転数を検出するものとして出力軸21の回転数を検出する構成である。出力軸21には、検出歯車79が取り付けられ、出力側回転数センサ-15は、出力軸21の検出歯車79を検出しパルス信号を出力する構成である。
【0066】
なお、出力側回転数センサ-15は、エンジン3のトルクが伝達される出力側の回転数を検出できればよく第1、第2のクラッチリング41、43等の回転数を検出する構成としてもよい。
【0067】
回転数制御装置11は、検出されたシフト操作によるシフトがダウンシフトであるときスロットル装置7及び点火装置9を制御してエンジン3の回転数を変化させる構成である。
【0068】
回転数制御装置11は、MPU、ROM、RAMなどを備えた構成である。回転数制御装置11は、検出されたダウンシフトのシフト操作に応じて出力側の回転数Noを基に目標の回転数NT=No-Δnを設定し検出されたエンジン3の回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnに応じるようにスロットル装置7及び点火装置9の制御を行わせドグ歯41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37aの噛合いを可能とする。
【0069】
エンジン3の回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnに応じるようにとは、実施例においてエンジン3の回転数Neを上げたときに目標の回転数NT=No-Δnに一致し、一致してから下がったときは再度エンジン3の回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnに一致するようにフィ-ドバック制御を行うことを意味している。
【0070】
スロットル装置7及び点火装置9の制御を行わせるとは、実施例においてスロットル装置7の開度制御によりエンジン3の回転数Neが増大するように演算するとき目標の回転数NT=No-Δnを上回る分を点火装置9の点火制御によりカットするように演算することを意味する。かかる演算をしながらスロットル装置7及び点火装置9はエンジン3の回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnとなるようにフィ-ドバック制御されることになる。
【0071】
回転数制御装置11は、目標の回転数NT=No-Δnが出力側の回転数Noに対し回転数差Δnだけ下回るように設定し、検出された内燃機関の回転数Neが目標の回転数Noに一致するようにスロットル装置7及び点火装置9のフィ-ドバック制御を行わせる構成である。
【0072】
出力側の回転数Noは、出力軸21の回転数であり、出力側回転数センサ-15の検出パルスに基づき演算される。
【0073】
目標の回転数NT=No-Δnを設定するための回転数差Δnは、回転差分のエンジンイナ-シャエネルギ-を減速に使用する量を設定する構成である。つまり、回転数差Δnの間にエンジンブレ-キを利用することが可能となる。
【0074】
この回転数差Δnは、固定或いはライダ-の好みでスイッチ操作により可変とする構成にすることもできる。また、天候、通常走行、スポ-ツ走行などの走行モ-ドに応じて自動或いはスイッチ操作により可変とする構成にすることもできる。
【0075】
回転数制御装置11は、出力側の回転数No及び検出されたエンジン3の回転数Neが同一軸上で一致するまでスロットル装置7及び点火装置9の制御を行う構成である。
【0076】
出力側の回転数No及び検出されたエンジン3の回転数Neが同一軸上で一致するまでとは、ダウンシフト後に下段のドグ歯が係合してエンジンブレ-キが働きその後回転数No及び回転数Neが回転数制御装置11において一致しエンジン3により出力側が駆動されていると判断されるまでを意味する。
【0077】
同一軸上とは、下段ギヤの非駆動側の回転数である出力側の回転数Noをエンジン3のクランクシャフト71上の回転数として減速比を考慮して換算することを意味する。
【0078】
(アップシフト操作)
図1において、シフトペダル51がニュ-トラル位置から足の操作で引き上げ方向(矢印方向)にアップシフト操作されると連動ロッド53を介してシフト駆動ア-ム55の一端が押し込まれ、シフト駆動ア-ム55が回動する。この回動によりシフトシャフト及びシフトラチェット57を介してシフトドラム49が回動する。この回動によりアップシフト操作に応じて第1、第2のクラッチリング41、43が動作し、1~4速の各変速段のドグ歯43a、29a(2速)、ドグ歯41b、33a(3速)、ドグ歯43b、37a(4速)を選択的に噛合わせることができる。
【0079】
これらアップシフトの操作はシフトセンサ-17で検出され、回転数制御装置11に入力される構成である。
【0080】
(ダウンシフト操作)
シフトペダル51が足の操作で踏み込み方向(反矢印方向)にダウンシフト操作されると連動ロッド53が軸方向に引く方向へ動作する。
【0081】
連動ロッド53が引かれると同様に第1、第2のクラッチリング41、43が動作し、4速~1速の各変速段のドグ歯43b、37a(4速)、ドグ歯41b、33a(3速)、ドグ歯43a、29a(2速)、ドグ歯41a、25a(1速)を選択的に噛合わせることができる。
【0082】
これらダウンシフトの操作はシフトセンサ-17で検出され、回転数制御装置11に入力される。
【0083】
[噛み合い制御装置の動作]
図2は、図1の噛合い制御装置の動作タイムチャ-トである。図1の噛み合い制御装置1の動作を図2の動作タイムチャ-トともに説明する。
【0084】
図2において上段からDOWN動作、シフトドラム、スロットルへの指令、点火制御、及び回転数の動作タイムチャ-トを示す。縦軸はそれぞれの変化量であり、DOWN動作はシフトペダル47のダウンシフトのシフト操作ONOFF、シフトドラム49はシフト操作に応じた特定の段のダウンシフト時のシフトドラム49の回転変位、スロットルへの指令はスロットル装置7の制御によるスロットル開度変化、点火制御は点火装置9の制御による通常(100%)からの点火遅角の変化、回転数は、出力側回転数No及びエンジン回転数Neの変化関係を示す。横軸はシフト操作ONからの経過時間である。
【0085】
図1図2のように、シフト機構45のシフトペダル47がT0においてDOWN動作(シフト操作)されると、シフトセンサ-17がこれを検出し、検出信号を回転数制御装置11に入力する。回転数制御装置11には、その他機関回転数センサ-13及び出力側回転数センサ-15の検出信号も入力されている。
【0086】
シフトペダル47によるDOWN動作でシフトドラム49が回転する。DOWN動作は各段で同様に行われる。ここでは4速から3速へのダウンシフトを代表して説明する。
【0087】
シフトドラム49の回転により第2のクラッチリング43が離脱方向へ動作し、第1のクラッチリング41が噛合い方向へ動作する。これら第1、第2のクラッチリング41、43の動作によりドグ歯43b、37a(4速)が離脱し、ドグ歯41b、33a(3速)が噛合い位置へ移動する。この移動はシフトドラム49が設定された変位量を回転すると完了する。但しドグ歯41b、33a(3速)が噛合い位置へ移動しただけではドグ歯41b、33a間のバックラッシュにより相互間の係合によるトルク伝達は行われていない。
【0088】
一方、回転数制御装置11は、シフトセンサ-17からのDOWN動作の検出信号によりスロットル装置7を制御し、スロットルへの指令によりスロットル開度が開かれる。スロットル開度が開かれるとエンジン回転数Neが増大する。増大するエンジン回転数Neが出力側の回転数Noに対し回転数差Δnだけ下回る目標の回転数NT=No-ΔnとなるT1でスロットル開度が閉じられ、点火装置9の制御により点火遅角が点火カット側に制御される。このスロットル装置7及び点火装置9の制御は前記のようにスロットル開制御によりエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnを超える分を点火遅角により相殺するように予め演算しエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnとなるようにするものである。
【0089】
点火遅角制御によりT2においてはエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnよりも下がり始める。このためT2においてスロットル開度が若干開かれ、点火装置9は通常状態に戻される。この制御によりT3になるとエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnに向かって上がり始める。
【0090】
以後T6までエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnを維持するようにスロットル装置7及び点火装置9の点火遅角制御によりエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnを維持するようにフィ-ドバック制御が行われる。
【0091】
出力側回転数Noはエンジン3側からのトルク伝達が出力側へ行われていない状態であるためシフト操作後のある時間T3において回転数が下がり始め、T6までエンジン回転数Neが維持しようとする目標の回転数NT=No-Δnも応じて下がることになる。
【0092】
T6になるとドグ歯41b、33a(3速)が噛合い位置へ移動しドグ歯41b、33a間のバックラッシュが詰められて係合しトルク伝達が始まる。
【0093】
この時点T6では、エンジン3が出力側から強制的に回転駆動され、エンジンブレ-キが働く。
【0094】
その後もスロットル開度が徐々に閉じ側へ制御されると共に点火遅角もカット側へ徐々に制御され、エンジンブレ-キを適切に働かせながらT7において出力側の回転数Noとエンジン3の駆動回転数とが一致するω3に至ったと回転数制御装置11が判断し、スロットル装置7及び点火装置9の制御が終了する。
【0095】
図3は、比較例に係り噛合い図2の噛合い制御装置の動作タイムチャ-トにオ-バ-シュ-ト制御を追記した説明図である。
【0096】
図3のように、図2の実施例ではエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δnを維持するようにフィ-ドバック制御しながらダウンシフトを行わせる。したがって、エンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δn付近であるときダウンシフトが行われるので手動変速による変速ギヤのシフトタイミングが変速操作に応じて時間Tdずれたとしてもエンジン回転数Neが目標の回転数NT=No-Δn付近であるときにドグ歯の噛合いが行われ、ショックトルク発生の抑制ができる。
【0097】
これに対し図3に追記した破線のオ-バ-シュ-トによる比較例ではダウンシフトの操作によりエンジン回転数Neが出力側の回転数Noを超えた後エンジン回転数Neが目標の回転数となるように制御するからダウンシフト時のエンジン回転数Neが大きな下がり勾配となる。このため、時間Tdの存在が大きく影響し、ダウンシフト時のエンジン回転数Neが目標の回転数から大きくずれやすく、ショックトルク発生の抑制に影響している。
【0098】
[制御フロ-チャ-ト]
図4は、図1の噛合い制御装置の制御フロ-チャ-トである。図5は、図4に続く制御フロ-チャ-トである。
【0099】
図1の噛合い制御装置1の図2のような動作は、回転数制御装置11にプログラムされた図4のような制御フロ-チャ-トに基づいて機能する。
【0100】
回転数制御装置11による制御は、イグニッションスイッチのON等により開始され、図4図5の制御フロ-チャ-トに沿って実行される。
【0101】
ステップS1では、「シフト操作読込み」の処理が行われ、ステップS2へ移行する。
【0102】
ステップS2では、「DOWN操作か?」の判断処理により、読み込まれたシフトペダル47によるシフト操作がダウンシフトか否かが判断される。ダウンシフトであると判断されれば(YES)、ステップS3へ移行し、ダウンシフトではないと判断されれば(NO)、処理は終了する。
【0103】
ステップS3では、「制御条件成立か?」の判断処理が行われる。制御条件としては、例えば車両速度が設定値よりも大きく、エンジン回転数が上限下限の設定値の間にあり、スロットル装置7のスロットル開度が設定値よりも小さいことを含む。制御条件か成立していれば(YES)、ステップS4ヘ移行し、成立していなければ(NO)、ステップS1にリタ-ンし、ステップS1~S3の処理が繰り返される。
【0104】
ステップS4では、「No読込」の処理により、出力側回転数センサ-15により入力される検出パルスに基づき出力軸21の出力側回転数Noが読み込まれ、ステップS5へ移行する。
【0105】
ステップS5では、「NT=No-Δn設定」の処理が行われる。この処理では、エンジン3の目標の回転数NTが出力側の回転数Noに対し回転数差Δnだけ下回るように設定され、ステップS6へ移行する。
【0106】
ステップS6では、「スロットル制御」の処理が行われ、スロットル装置7のスロットル開度が開制御されてエンジン回転数Neが増大し始め(図2のT0)、ステップS7へ移行する。
【0107】
ステップS7では、「Ne=NT?」の判断が行われる。Ne=NTであると判断されれば(YES)、ステップS8へ移行し、Ne=NTではないと判断されれば(NO)、ステップS6へリタ-ンし、ステップS6、S7の処理が繰り返される。
【0108】
ステップS8では、「スロットル制御、点火制御」が行われる(図2のT3)。この制御では、スロットル装置7のスロットル開度が閉制御され、且つ点火装置9により点火遅角制御が行われ、ステップS9へ移行する。
【0109】
ステップS9では、「Ne=NT?」の判断が行われる。Ne=NTではないと判断されれば(NO)、ステップS10へ移行し、Ne=NTであると判断されれば(YES、図2のT2)、ステップS8へリタ-ンし、Ne=NTを維持する処理が繰り返される(図2のT1-T2)。
【0110】
ステップS8の処理によりNe=NTを維持しようとするが、点火遅角制御によりエンジン回転数Neはやがて減少する。この減少傾向をステップS9で確認することになる。
【0111】
ステップS10では、「Ne=NT維持、スロットル制御、点火制御」が行われる(図2のT2)。この制御では、点火遅角制御により減少するエンジン回転数Neを再度増加させるためにスロットル装置7のスロットル開度が若干開制御さる。且つ点火装置9による点火制御が通常に戻される(図2のT2-T3)。エンジン回転数Neが増加してNe>No-Δnになった時点でスロットル制御、点火制御によりエンジン回転数Neが減少制御される(図2のT4)。かかる制御によりNo-Ne=Δnを維持する制御が行われ(図2のT4-T6)、ステップS11へ移行する。
【0112】
ステップS11では、「No、Ne読込」の処理が行われる(図2のT6)。この処理では、出力側回転数No及びエンジン回転数Neが読み込まれ、ステップS12へ移行する。
【0113】
ステップS12では、「No=Ne?」の判断処理が行われ、下段、例えば4速から3速へのダウンシフトで第1のクラッチリング41のドグ歯41bが3速ギヤ33のドグ歯33aに係合するとNo=Neとなり(YES)、ステップS13へ移行する。No=Neでなければ(NO)、ステップS10へリタ-ンし、ステップS10~S12の処理が繰り返される。
【0114】
ステップS13では、「タイマ-T1設定」の処理が行われる(図2のT6)。この処理では、ドグ歯41b、33aが係合してからの経過を見る時間としてT1が設定され、ステップS14へ移行する。設定時間T1は、ドグ歯41b、33aの係合初期における回転差数Δnによりエンジンブレ-キが働く時間であり、設定するΔnの大きさに応じて予め実験により得ることができる。
【0115】
ステップS14では、「T=T1?」の判断処理が行われ、設定時間T1が経過していなければ(NO)、ステップS15へ移行し、設定時間T1が経過すれば(YES)、ステップS16へ移行する。
【0116】
ステップS15では、「No=Ne?」の判断処理が行われ、No=Neが維持されていれば(YES)、ステップS14へリタ-ンする。ステップS14では、処理の繰り返しによりドグ歯41b、33aの係合が維持された状態での設定時間T1の経過が判断される。No=Neが維持されていなければ(NO)、ステップS17へ移行する。ステップS14でのNo=Neが維持されていないとの判断は、タイマ-T1設定後、設定時間T1が経過する前にドグ歯41b、33aの係合が離脱したことを意味する。
【0117】
ステップS17では、「No、Ne読込」の処理が行われ、ステップS18へ移行する。
【0118】
ステップS18では、「No=Ne?」の判断処理が行われ、設定時間T1内でのドグ歯41b、33aの再係合が判断され、再係合されればステップS13へリタ-ンし再度タイマ-T1が設定される。かかる設定によりステップS14によりドグ歯41b、33aの係合が維持された状態での設定時間T1の経過が再度判断される。
【0119】
ステップS14からステップS16へ移行したときは、「No、Ne読込」の処理が行われる。この処理では、出力側回転数No及びエンジン回転数Neが読み込まれ、ステップS19へ移行する。
【0120】
ステップS19では、「No=Ne?」の判断処理が行われ、設定時間T1においてドグ歯41b、33aの係合維持が判断されていなければ(NO)、ステップS17へリタ-ンし、ステップS18において設定時間T1内でのドグ歯41b、33aの再係合が判断される。
【0121】
ステップS19での処理により設定時間T1においてドグ歯41b、33aの係合維持が判断されれば、処理は終了する(図2のT7)。
【0122】
[ドグクラッチ]
図6は、図1のトランスミッション5に用いるドグ歯の浅い噛合いを示す要部断面図である。図7は、図1のトランスミッションに用いるドグ歯が歯先斜面で当接している状態を示す要部断面図である。
【0123】
図6のドグ歯の形状は、1速ドグクラッチから4速ドグクラッチまで同一構造である。ドグクラッチは、いわゆるシ-ムレスシフト用として形成されている。
【0124】
シ-ムレスシフト用として3速ドグクラッチを代表して説明する。
【0125】
図6のように、3速ドグクラッチは、第1のクラッチリング41のドグ噛41b及び3速ギヤ33のドグ噛33aを有している。
【0126】
ドグ噛41b及びドグ噛33aは、周方向でそれぞれ均一の高さに設定されている。ドグ噛41b及びドグ噛33aは、出力軸21の軸心に対して螺旋状に形成されている。このため、ドグ噛41b及びドグ噛33aが噛合うとき或は離脱するときネジのような動作を伴って相対的に螺旋ガイドされる。
【0127】
3速ギヤ33のドグ噛33aの歯先には、離脱ガイド用の歯先斜面101が備えられている。ドグ噛33aには、ドライブ噛合い面103が備えられている。ドライブ噛合い面103は、ドライブトルク伝達方向の後部の歯先側に備えられている。ドグ噛33aには、歯元側に移動ガイド面105とコ-スト噛合い面107とが備えられている。
【0128】
歯先斜面101は、出力軸21の回転軸心に対し回転方向に漸次傾斜して形成されている。この傾斜により歯先斜面101は、コ-スティングトルクにより他方のドグ歯41bの歯先をガイドして第1のクラッチリング41に対し噛合い解除方向の軸力を発生させる機能を有する。
【0129】
つまり噛合うドグ歯33a、41bの一方33aの歯先に、下段及び上段の第1、第2クラッチリング41、43及び変速ギヤ33、37のドグ歯33a、41b及びドグ歯37a、43bが同時噛合いした時にコ-スティングトルクにより下段のドグ歯33a、41bに噛合い解除方向の軸力を生じさせて噛合いを解除するためのガイド面として歯先斜面101を備えた構成である。
【0130】
ドグ噛33aのコ-スト噛合い面107は、変速時、エンジンブレ-キ時にドグ歯41bが噛み合う。コ-スト噛合い面107は、歯先斜面101の傾斜下端において出力軸21の軸心方向に立ち上がっている。コ-スト噛合い面107は、出力軸21の回転軸心に対してコ-スティングトルクの伝達方向に対し歯底から歯先斜面101に向かって後方へ傾斜するように設定されている。このコ-スト噛合い面107の傾斜設定により、コ-スティングトルクによりドグ歯41bが噛み合ったときドグ歯41bを噛合い方向に引き込む作用を奏する。
【0131】
ドグ噛41bの歯先面108は、平坦面で形成されている。歯先面108は、ア-ル面(曲面)等で形成することもできる。ドグ噛41bには、ドライブ噛合い面109、コ-スト噛合い面111が形成されている。ドライブ噛合い面109及びコ-スト噛合い面111は、ドグ噛33aのドライブ噛合い面103、コ-スト噛合い面107に対応して傾斜が設定されている。
【0132】
コ-スト噛合い面107、111が噛み合う第1の噛合い位置は、第1のクラッチリング41及び3速ギヤ33がコ-スティングトルク時の相対回転により噛合う深い噛合い位置である。ドライブ噛合い面103、109が噛み合う第2の噛合い位置は、第1のクラッチリング41及び3速ギヤ33がドライブトルク伝達時に噛合う浅い噛合い位置である。この噛合い位置は、図6のようにドグ歯41bの歯先が歯先斜面101に回転方向に対向する。
【0133】
つまり、3速から同時噛み合いを経て他の変速段の4速へアップシフトするとき3速のドグ歯41bは、ドグ歯33aに対しドライブトルクを伝達する噛合い状態となっている。例えばドグ歯41b及びドグ歯33aが第1の噛合い位置にある場合にはドライブトルクが働くとドグ歯41bの歯先が移動ガイド面105により移動ガイドされて第2の噛合い位置となる。
【0134】
このように3速から4速へアップシフトするとき、シフトペダル47のアップシフト操作によるシフトドラム49の回転に応じて第1、第2のクラッチリング41、43が同時噛み合いを経る。この同時噛合いでは、第1のクラッチリング41の噛合いにより3速ギヤ33を出力軸21に結合し、且つ第2のクラッチリング43の噛合いにより4速ギヤ37を出力軸21に結合する状態となる。
【0135】
同時噛合いを経て3速ドグクラッチの結合から4速ドグクラッチの結合へ移行するときに3速のドグ噛33a、41bが相対トルクを受けてドグ歯41bの歯先をドグ歯33aの歯先斜面101に図7のように当接させる。この当接により第1のクラッチリング41を3速ギヤ33から離間移動させる。
【0136】
この場合、相対回転は、第1、第2のクラッチリング41、43での同時噛み合いにより下段の変速段に発生するコ-スティングトルク及び上段の変速段に発生するドライブトルクに起因する。
【0137】
4速から3速へダウンシフトするときは、シフトペダル51のダウンシフト操作によるシフトドラム49の回転に応じて第2のクラッチリング43が噛み合いを離脱し、第1のクラッチリング41のドグ歯41bが3速ギヤ33のドグ歯33aに対して第1の噛合い位置となるように移動力を受ける。
【0138】
(ダウンシフト時のシフトカムとシフトドラムの相対位置)
図8は、図1のトランスミッションのシフト機構に用いるシフトピンの位置を一部拡大図と共に示すシフトドラムの展開図である。図9は、図8のシフトドラムにおける要部展開図である。図10は、図1のトランスミッションのシフトドラムが有するチェック機構の説明図である。
【0139】
引き続き4速から3速へダウンシフトを例にする。本実施例のシフト機構45では図8図9のようにシフトピン51aをカム山頂点115ではなく手前にずらした位置まで移動させて第1のクラッチリング41に移動力を働かせるようにしている。
【0140】
図7の状態で引き続きトルクTの伝達が行われると、ドグ歯41bの歯先がドグ歯33aの歯先斜面101に対する当接力を強める。この当接力により歯先斜面101に対しドグ歯41bがガイド力を受けて軸力Pが発生する。
【0141】
この軸力Pは、シフトピン51aを図8図9のようにカム山頂点115に押し付ける。このため、軸力Pが発生するとシフトピン51aの推力によりシフトドラム49のカム山が押圧されてシフトドラム49の回転が戻されシフトピン51aの推力を逃がし噛合い待機状態となる。
【0142】
図1図10のように、シフトドラム49の回転が戻されることによりシフトドラム49に取り付けられたチェック機構63が働く。この働きでチェックカム65がシフトドラム49とともに回転する。この回転によりチェックカム65のカム山がチェックボ-ル67を介してチェックスプリング69を圧縮する。圧縮されたチェックスプリング69は、復帰用の弾性エネルギ-を蓄積する。
【0143】
したがって、ドグ歯33a及びドグ歯41bの噛合いタイミングが次に合うとチェックスプリング69の弾性エネルギ-が解放され、チェックボ-ル67がチェックカム65のカム山間に落ち込むようにしてチェックカム65が回転付勢される。
【0144】
このチェックカム65の回転によりシフトドラム49が回転駆動されて図9の位置に復帰する。この復帰により例えば第1のクラッチリング41と出力軸21との間に備えた移動付勢機構117により第1のクラッチリング41がさらに軸力を受けて第1の噛合い位置に移動することができる。
【0145】
図1のように移動付勢機構117は、例えば出力軸21側に備えられスプリング(図示せず。)で径方向外側へ付勢されたチェックボ-ル119を備えている。チェックボ-ル119は第1のクラッチリング41の内周に形成された斜面に当接する構成となっている。斜面は、第1のクラッチリング41の軸方向で両側に形成されている。このような移動付勢機構は、第2のクラッチリング43と出力軸21との間にも同一構造で備えられている。
【0146】
図11は、図1のトランスミッションに用いるドグ歯の噛合い状態とシフトドラムに対するシフトピンの位置との関係を示す一蘭図である。
【0147】
図11では、4行2列の欄において各部の動作を簡単に図示している。1行目はシフトドラム(ドラム溝)とシフトピンとの関係、2行目はチェック機構、3行目は噛合いクラッチ(ドグクラッチ)展開図、4行目はドラム(シフトドラム)及び噛合いクラッチ(ドグクラチ)断面図を示している。
【0148】
1列目は回転速度N1<N2時のダウンシフト、2列目は回転速度N1>N2時のダウンシフトの各状態を示している。
【0149】
図11のドライブトルクが働いているN1<N2時のダウンシフトのとき、シフトドラム49の回転によりシフトピン51aがカム山頂点115の手前にずらした位置まで移動し、ドグ歯33a、41bがドライブ噛合い面103、109により第2の噛合い位置で噛合う。
【0150】
図11のコ-スティングトルクが働いているN1>N2時のダウンシフトでは、シフトピン51aがカム山頂点115の手前に位置することで軸力Pによるシフトピン51aの推力によりシフトドラム49の回転が戻される。シフトドラム49の回転が戻されるとチェックカム65のカム山がチェックボ-ル67を押圧し、チェックスプリング69が撓んでシフトピン51aの推力が逃がされると共に復帰用の弾性エネルギ-がチェックスプリング69に蓄積される。
【0151】
またチェック機構63及び移動付勢機構117の働きにより次の噛合いタイミングでドグ歯33a、41bの第1の噛合い位置へのシフトを行わせることができる。
【符号の説明】
【0152】
1 噛合い制御装置
3 エンジン(内燃機関)
5 トランスミッション
7 スロットル装置
9 点火装置
11 回転数制御装置
13 機関回転数センサ-
15 出力側回転数センサ-
17 シフトセンサ-
19 入力軸
21 出力軸
23 1速ギヤ
25 1速ギヤ(他方の回転部材)
27 2速ギヤ
29 2速ギヤ(他方の回転部材)
31 3速ギヤ
33 3速ギヤ(他方の回転部材)
35 4速ギヤ
37 4速ギヤ(他方の回転部材)
39 噛合い機構
41 第1のクラッチリング(一方の回転部材)
43 第2のクラッチリング(一方の回転部材)
41a、41b、43a、43b、25a、29a、33a、37a ドグ歯
45 シフト機構
63 チェック機構
101 歯先斜面(ガイド面)
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10
図11