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  • 特開-放射性同位体の製造方法及び製造装置 図1
  • 特開-放射性同位体の製造方法及び製造装置 図2
  • 特開-放射性同位体の製造方法及び製造装置 図3
  • 特開-放射性同位体の製造方法及び製造装置 図4
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  • 特開-放射性同位体の製造方法及び製造装置 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081254
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】放射性同位体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
G21G4/08 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194736
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯原 勝
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
(57)【要約】
【課題】アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】捕集部に可溶性物質を付着させる前処理工程と、ターゲットを加熱し、放射性同位体を気化して分離する加熱工程と、前記加熱工程で分離した放射性同位体を、前記前処理工程を実施した前記捕集部にて捕集する捕集工程と、前記捕集工程にて捕集された放射性物質を洗浄回収する洗浄回収工程と、を具備している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕集部に可溶性物質を付着させる前処理工程と、
ターゲットを加熱し、放射性同位体を気化して分離する加熱工程と、
前記加熱工程で分離した放射性同位体を、前記前処理工程を実施した前記捕集部にて捕集する捕集工程と、
前記捕集工程にて捕集された放射性物質を洗浄回収する洗浄回収工程と、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記加熱工程で分離した放射性同位体を、エアロゾル発生器で発生させたエアロゾルにより前記捕集部に搬送する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記エアロゾル発生器で発生させたエアロゾルにより、前記捕集部に前記可溶性物質を付着させる前処理工程を行う
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記エアロゾル発生器で発生させたエアロゾルを前記捕集部に送るキャリアガスの差圧を検出し、前記前処理工程により前記捕集部に付着させる前記可溶性物質の量を制御する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記捕集部に、前記可溶性物質を含む薬液を注入し、乾燥することによって前記前処理工程を実施する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の放射性同位体の製造方法であって、
アスタチン-211を製造する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項7】
ターゲットを加熱し、放射性同位体を気化して分離する加熱部と、
前記加熱部で分離した放射性同位体を捕集する捕集部と、
前記捕集部に可溶性物質を付着させる前処理部と
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の放射性同位体の製造装置であって、
前記前処理部は、前記捕集部に前記可溶性物質を含む薬液を注入する薬液注入機構を有する
ことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射性同位体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療において、アルファ線を用いたがん治療が注目されている。アルファ線は飛程が短いため、アルファ線を放射する薬剤を用いて、標的となるがん細胞を選択的に攻撃することができる。そのため、アルファ線を用いたがん治療では、正常細胞に対するダメージが小さいという利点がある。
【0003】
アルファ線を放射する薬剤として様々な放射性同位体が検討されている。特に、アスタチン-211は、半減期が短く、速やかに安定核種に崩壊することから、最も期待されている放射性同位体の1つである。その一方で半減期が7.2時間と短いために、分離に時間をかけてしまうと、生成したアスタチン-211が減少してしまう。
【0004】
このため、生成したアスタチン-211の迅速な分離方法が求められている。迅速かつ簡易な分離方法として、ターゲット材であるビスマスとの融点・沸点の差を利用した分離技術が知られている。しかし、この従来の分離技術では、回収部または搬送部である配管などの壁面にアスタチン-211が付着するため、有機溶剤またはアルカリ溶液などを用いて、付着したアスタチン-211を溶離または回収する必要がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、エアロゾルを用いた新たな分離技術を開発した。この新たな分離技術は、配管などの壁面へのアスタチン-211の付着を低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/195042号
【特許文献2】国際公開第2019/088113号
【特許文献3】国際公開第2019/112034号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.Aneheim,“Automated astatination of biomolecules - a stepping stone towards multicenter clinical trials,”Science Reports,2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体をガス化し、フィルタにて捕集した場合、フィルタから洗浄回収できない放射性同位体が存在し、放射性同位体の回収率が低くなるという課題がある。
【0009】
本発明は、上述した従来の事情に対処してなされたもので、その解決しようとする課題は、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る放射性同位体の製造方法は、捕集部に可溶性物質を付着させる前処理工程と、ターゲットを加熱し、放射性同位体を気化して分離する加熱工程と、前記加熱工程で分離した放射性同位体を、前記前処理工程を実施した前記捕集部にて捕集する捕集工程と、前記捕集工程にて捕集された放射性物質を洗浄回収する洗浄回収工程と、を具備したことを特徴とする。
【0011】
本発明の実施形態に係る放射性同位体の製造装置は、ターゲットを加熱し、放射性同位体を気化して分離する加熱部と、前記加熱部で分離した放射性同位体を捕集する捕集部と、前記捕集部に可溶性物質を付着させる前処理部とを具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る放射性同位体の製造方法を示すフロー図。
図2】第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
図3】第1実施形態に係るアスタチン211の回収率を従来技術と比較して示すグラフ。
図4】フィルタの付着量と圧力との関係を示すグラフ。
図5】第2実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
図6】第2実施形態の変形例に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る放射性同位体の製造方法及び製造装置について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る放射性同位体の製造方法の工程を示すフロー図であり、図2は、第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0016】
図2に示すように、第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置は、キャリアガスボンベ1、キャリアガス流量調整弁2、差圧計3、エアロゾル発生器4、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5、フィルタ収容部6を具備している。エアロゾル発生器4は、例えば、KCl、NaCl、NaOH等のエアロゾルを発生させる。エアロゾルは、例えば、粒径が1nm程度から1mm程度の粒子である。これらのエアロゾルに放射性同位体が付着することにより、放射性同位体の輸送中に放射性同位体が配管に付着することによって失われる量を低減することができる。
【0017】
図1に示すように、第1実施形態では、まずフィルタ前処理を行う(工程1)。すなわち、捕集用フィルタをフィルタ収容部6に装着し、エアロゾル発生器4において可溶性物質としてのKClなどの可溶性塩を含むエアロゾルを含むガスを発生させ、これを所定時間フィルタ収容部6に通気して、捕集用フィルタの表面に可溶性物質(可用性塩)を付着させる。或いは、予め前処理を行った捕集用フィルタをフィルタ収容部6に装着しても良い。
【0018】
可溶性塩としては、後述する洗浄回収にて使用する水、有機溶媒などの常温常圧で液体の溶媒に対して溶解する塩であれば良く、KClの他、例えば、NaOH、NaCl、KI、などを使用することができる。
【0019】
その後、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5において、アスタチン-211などの揮発性放射性物質を含むターゲットを加熱し、ターゲット中に存在するアスタチン-211をガス化する(工程2)。放射性同位体含有ターゲット加熱炉5では、例えば、ビスマスターゲット等に、加速されたヘリウムイオン(アルファ線)を照射するとともに、図示しない加熱機構によって、ビスマスターゲットを所定温度、例えばアスタチンの沸点である337℃以上の温度、且つ、ビスマスターゲットの沸点以下の温度例えば500℃程度に加熱する。
【0020】
さらに、ガス化したアスタチン-211を、エアロゾル発生器4において発生させたエアロゾルに付着させ、キャリアガスボンベ1からのキャリアガスの流れで運び、その下流側に設置されたフィルタ収容部6に装着された捕集用フィルタにて捕集する(工程3)。
【0021】
上記工程を所定時間行った後、次に、フィルタ収容部6から捕集用フィルタを取り出し、捕集用フィルタを水などの溶液で洗浄し、捕集用フィルタに捕集されたアスタチン-211を回収する(工程4)。
【0022】
以上のように、本実施形態では、工程1において、捕集用フィルタに対して前処理を行う。この前処理によって、予め捕集用フィルタの表面に可溶性物質である可溶性塩を付着させる。この前処理を行うことによって、洗浄回収工程において捕集用フィルタからアスタチン-211が離脱し易くなり、効率良く回収することができるようになる。なお、捕集用フィルタとしては、例えば、ガラス繊維などからなるフィルタを使用することができる。
【0023】
実際に、捕集用フィルタに対してKCl及びNaOHにより前処理を行う図1に示す工程により、アスタチン-211を回収した場合と、捕集用フィルタに対して前処理を行わずにアスタチン-211を回収した場合とで比較した結果を図3のグラフに示す。捕集用フィルタに対する前処理は、KClの場合、KClエアロゾルを含むHeキャリアガスにより行った。また、NaOHの場合、規定濃度(0.5、5wt%)のNaOH水250mlにフィルタ10枚を浸漬し、10分後に新しいNaOH水に浸漬し、さらに10分後に新しいNaOH水に浸漬し、合計3回浸漬した後、真空乾燥器で乾燥(常温、最低圧力)することにより行った。
【0024】
また、KClエアロゾルを含むHeキャリアガスを3L/minで流しながら、約250kBqのアスタチン-211を分離回収し、約10mlの0.01MのNaOH水溶液で洗浄回収したときの洗浄前後の補修フィルタに付着しているアスタチン-211の放射能をGe半導体検出器で測定した場合を示している。捕集用フィルタに対して前処理を行い、KCl30mgを事前に付着させた場合の分離回収率(図3の中央に示す。)は、比較となる捕集用フィルタに対する前処理無しのケース(図3の左側に示す。)に比べ、洗浄回収率が40%から90%程度まで向上した。また、NaOHを事前に付着させた場合の分離回収率(図3の右側に示す。)は、比較となる捕集用フィルタに対する前処理無しのケース(図3の左側に示す。)に比べ、洗浄回収率が40%から75%程度まで向上した。
【0025】
上述した実施形態のように、捕集用フィルタに対する前処理によって捕集用フィルタに付着させた可溶性塩などは、洗浄回収物に混入するため、洗浄回収物の用途によっては不純物となり得る。そのため、より効率的に捕集用フィルタからアスタチン-211を回収できるようにするためには、捕集用フィルタへの可溶性塩などの付着量を管理することが望ましい。
【0026】
この場合、図2に示したように装置の上流側に設置した差圧計3によって、捕集用フィルタの部分にかかる差圧を測定することで捕集用フィルタに付着した可溶性塩の量をオンラインで(装置から取り外さずに)測定することができる。図4は、縦軸を捕集用フィルタに付着したカリウム(K)の重量、横軸を差圧計3によって測定された圧力として、これらの関係を示したものである。
【0027】
図4に示すように、差圧計3で測定される圧力値と、捕集用フィルタに付着した可溶性塩の重量とは、一定の関係があり、差圧計3で圧力を測定することにより、可溶性塩の付着量を推定することができる。したがって、差圧計3で圧力を測定しながら、捕集用フィルタに対する前処理の時間などを調整することにより、可溶性塩の付着量を適正な量に制御することができる。なお、捕集用フィルタに付着した可溶性塩の量は、圧力の測定のみならず、フィルタの重量やフィルタ付着物に起因する電気抵抗などを測定することでも管理することができる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、図5を参照して第2実施形態について説明する。なお、図2に示した第1実施形態の放射性同位体の製造装置と対応する部分には、同一の符号を付して、重複した説明は省略する。
【0029】
図5に示すように、第2実施形態に係る放射性同位体の製造装置では、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5の下流側に、フィルタ収容部6に対して可溶性塩を含む薬剤を注入するための薬液タンク7、切り替えバルブ8を設けるとともに、フィルタ収容部6に乾燥器9を設けている。これらの薬液タンク7、切り替えバルブ8、乾燥器9は、捕集用フィルタに対する前処理工程を行う前処理部に相当する。
【0030】
上記構成の第2実施形態では、捕集用フィルタに対する前処理工程は、切り替えバルブ8を切り替えて、薬液タンク7からフィルタ収容部6に可溶性塩を含む薬剤を注入し、乾燥器9で乾燥させることによって実施することができる。なお、加熱などを行う乾燥器9による乾燥の他、キャリアガスボンベ1から乾燥のためのキャリアガスを通気することによって乾燥を行っても良い。
【0031】
上記構成の第2実施形態では、薬液タンク7からフィルタ収容部6に可溶性塩を含む薬剤等を注入することによって、捕集用フィルタに対する前処理工程を実施することができる。したがって、第1実施形態において捕集用フィルタに対する前処理工程を実施したエアロゾル発生器4は、必ずしも必要とはしない。しかしながら、図6に示すように、エアロゾル発生器4を具備した構成として、アスタチン-211の分離・回収工程においてエアロゾル発生器4を用いても良い。
【0032】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1……キャリアガスボンベ、2……キャリアガス流量調整弁、3……差圧計、4……エアロゾル発生器、5……放射性同位体含有ターゲット加熱炉、6……フィルタ収容部、7……薬液タンク、8……切替バルブ、9……乾燥器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6