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特開2024-81260細胞状態判定方法、タイミング判定方法、細胞状態判定装置及びタイミング判定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081260
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】細胞状態判定方法、タイミング判定方法、細胞状態判定装置及びタイミング判定装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240611BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 D
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194745
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】山口 高輝
(72)【発明者】
【氏名】平原 一郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 政嗣
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029DF03
4B029DG08
4B029FA12
4B063QA01
4B063QQ05
4B063QQ15
4B063QQ68
4B063QQ80
4B063QQ90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】培地の交換等のタイミングを判断するために、培養中の細胞の状態を容易に判定する方法を提供する。
【解決手段】細胞状態判定方法は、間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得ステップと、第1の物理量と第2の物理量との比を算出する算出ステップと、比に基づき、間葉系幹細胞の状態を判定する判定ステップと、を有し、第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、グルタミン代謝に係る物質であって第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得ステップと、
前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出ステップと、
前記比に基づき、前記間葉系幹細胞の状態を判定する判定ステップと、
を有し、
前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、
前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である、細胞状態判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞状態判定方法において、
前記取得ステップでは、前記第1の物理量及び前記第2の物理量の時系列データを取得し、
前記算出ステップでは、前記比の経時変化を算出し、
前記判定ステップでは、前記比の経時変化における極値点に基づいて、前記間葉系幹細胞の状態を判定する、細胞状態判定方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞状態判定方法において、
前記液体は培養上清液である、細胞状態判定方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の細胞状態判定方法において、
前記グルタミン代謝に係る物質は、グルタミン、アンモニア、αケトグルタル酸又はグルタミン酸であり、
前記解糖系に係る物質は、グルコース又はラクテートである、細胞状態判定方法。
【請求項5】
間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得ステップと、
前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出ステップと、
前記比に基づき、前記培地の交換のタイミング、前記培地への添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定する判定ステップと、
を有し、
前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、
前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である、タイミング判定方法。
【請求項6】
請求項5に記載のタイミング判定方法において、
前記取得ステップでは、前記第1の物理量及び前記第2の物理量の時系列データを取得し、
前記算出ステップでは、前記比の経時変化を算出し、
前記判定ステップでは、前記比の経時変化における極値点に基づいて、前記培地の交換のタイミング、前記培地への前記添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定する、タイミング判定方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のタイミング判定方法において、
前記液体は培養上清液である、タイミング判定方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のタイミング判定方法において、
前記グルタミン代謝に係る物質は、グルタミン、アンモニア、αケトグルタル酸又はグルタミン酸であり、
前記解糖系に係る物質は、グルコース又はラクテートである、タイミング判定方法。
【請求項9】
間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得部と、
前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出部と、
前記比に基づき、前記間葉系幹細胞の状態を判定する判定部と、
を有し、
前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、
前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である、細胞状態判定装置。
【請求項10】
間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得部と、
前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出部と、
前記比に基づき、前記培地の交換のタイミング、前記培地への添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定する判定部と、
を有し、
前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、
前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である、タイミング判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞状態判定方法、タイミング判定方法、細胞状態判定装置及びタイミング判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、細胞培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6824050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培地の交換等のタイミングを判断するために、培養中の細胞の状態を判定する必要がある。細胞の状態は、培養液等に含まれるラクテート等の物理量の経時変化に基づいて判定されるが、その判定の精度は、判定を行うユーザの経験、過去の培養実績の蓄積等に寄るところが大きい。そのため、培養中の細胞の状態を容易に判定できることが求められる。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の第1の態様の細胞状態判定方法は、間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得ステップと、前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出ステップと、前記比に基づき、前記間葉系幹細胞の状態を判定する判定ステップと、を有し、前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である。これにより、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【0007】
(2)上記項目(1)の細胞状態判定方法において、前記取得ステップでは、前記第1の物理量及び前記第2の物理量の時系列データを取得し、前記算出ステップでは、前記比の経時変化を算出し、前記判定ステップでは、前記比の経時変化における極値点に基づいて、前記間葉系幹細胞の状態を判定してもよい。これにより、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【0008】
(3)上記項目(1)又は(2)の細胞状態判定方法において、前記液体は培養上清液であってもよい。これにより、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【0009】
(4)上記項目(1)~(3)のいずれか1つの細胞状態判定方法において、前記グルタミン代謝に係る物質は、グルタミン、アンモニア、αケトグルタル酸又はグルタミン酸であり、前記解糖系に係る物質は、グルコース又はラクテートであってもよい。これにより、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【0010】
(5)本開示の第2の態様のタイミング判定方法は、間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得ステップと、前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出ステップと、前記比に基づき、前記培地の交換のタイミング、前記培地への添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定する判定ステップと、を有し、前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である。これにより、タイミングを容易に判定できる。
【0011】
(6)上記項目(5)のタイミング判定方法において、前記取得ステップでは、前記第1の物理量及び前記第2の物理量の時系列データを取得し、前記算出ステップでは、前記比の経時変化を算出し、前記判定ステップでは、前記比の経時変化における極値点に基づいて、前記培地の交換のタイミング、前記培地への前記添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定してもよい。これにより、タイミングを容易に判定できる。
【0012】
(7)上記項目(5)又は(6)のタイミング判定方法において、前記液体は培養上清液であってもよい。これにより、タイミングを容易に判定できる。
【0013】
(8)上記(5)~(7)のいずれか1つのタイミング判定方法において、前記グルタミン代謝に係る物質は、グルタミン、アンモニア、αケトグルタル酸又はグルタミン酸であり、前記解糖系に係る物質は、グルコース又はラクテートであってもよい。これにより、タイミングを容易に判定できる。
【0014】
(9)本開示の第3の態様の細胞状態判定装置は、間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得部と、前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出部と、前記比に基づき、前記間葉系幹細胞の状態を判定する判定部と、を有し、前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である。これにより、細胞状態判定装置は、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【0015】
(10)本開示の第4の態様のタイミング判定装置は、間葉系幹細胞を培地に暴露させることにより得られる液体における物質の第1の物理量及び第2の物理量を取得する取得部と、前記第1の物理量と前記第2の物理量との比を算出する算出部と、前記比に基づき、前記培地の交換のタイミング、前記培地への添加物の添加のタイミング、前記間葉系幹細胞の継代のタイミング、又は、前記間葉系幹細胞の回収のタイミングを判定する判定部と、を有し、前記第1の物理量は、グルタミン代謝に係る物質である第1の物質の物理量であり、前記第2の物理量は、解糖系に係る物質の物理量、又は、前記グルタミン代謝に係る物質であって前記第1の物質とは異なる第2の物質の物理量である。これにより、タイミング判定装置は、タイミングを容易に判定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、培養中の細胞の状態を容易に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、判定装置のブロック図である。
図2図2は、各物質の1日当たりの増減数の絶対値の経時変化を示すグラフである。
図3図3は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
図4図4は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
図5図5は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
図6図6は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
図7図7は、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
図8図8は、判定装置において行われる判定処理を示すフローチャートである。
図9図9は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態の判定装置10のブロック図である。判定装置10は、細胞培養装置12から入力される情報に基づき、細胞培養装置12において培養中の細胞の状態を判定する。判定装置10は、本発明の細胞状態判定装置及びタイミング判定装置に相当する。
【0019】
細胞培養装置12は、間葉系幹細胞を培養する。細胞培養装置12は、細胞を培地等に暴露させることにより得られる液体に含まれる物質の物理量を検出し、検出した物質の物理量の情報を判定装置10に出力する。当該液体は、培養上清液である。判定装置10に出力される物質の物理量は、当該培養上清液に含まれるグルコース、ラクテート、グルタミン及びアンモニアの各々の増減数の絶対値である。なお、培地とは、液性培地に限らず、寒天培地や培養液等であってもよい。
【0020】
図2は、グルコース、ラクテート、グルタミン及びアンモニアの各物質の1日当たりの増減数の絶対値[mmol/日]の経時変化を示すグラフである。細胞は、グルコースを消費してラクテートを分泌する。また、細胞は、グルタミンを消費して、アンモニアを分泌する。すなわち、図2のグラフは、グルコース及びグルタミンについては1日当たりの消費量の経時変化を示し、ラクテート及びアンモニアについては1日当たりの分泌量の経時変化を示す。
【0021】
判定装置10は、演算部14及び記憶部16を有する。演算部14は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。演算部14は、取得部18、算出部20、判定部22、表示制御部24及び報知制御部26を有する。取得部18、算出部20、判定部22、表示制御部24及び報知制御部26は、記憶部16に記憶されているプログラムが演算部14によって実行されることによって実現される。取得部18、算出部20、判定部22、表示制御部24及び報知制御部26の少なくとも一部が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路によって実現されてもよい。取得部18、算出部20、判定部22、表示制御部24及び報知制御部26の少なくとも一部が、ディスクリートデバイスを含む電子回路によって実現されてもよい。
【0022】
記憶部16は、コンピュータ可読記憶媒体である。不図示の揮発性メモリ及び不図示の不揮発性メモリにより構成される。揮発性メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)等である。不揮発性メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等である。データ等が、例えば、揮発性メモリに記憶される。プログラム、テーブル、マップ等が、例えば、不揮発性メモリに記憶される。記憶部16の少なくとも一部が、上述したプロセッサ、集積回路等に備えられていてもよい。記憶部16の少なくとも一部が、判定装置10とネットワークによって接続された機器に搭載されていてもよい。
【0023】
取得部18は、培養上清液に含まれるグルコース、ラクテート、グルタミン及びアンモニアの各物質の1日当たりの増減数の絶対値を取得する。
【0024】
グルコース及びラクテートは、本発明の解糖系に係る物質に相当する。グルタミン及びアンモニアは、本発明のグルタミン代謝に係る物質に相当する。グルタミン又はアンモニアの1日当たりの増減数の絶対値は、本発明の第1の物理量に相当する。グルコース、ラクテート、グルタミン又はアンモニアの1日当たりの増減数の絶対値は、本発明の第2の物理量に相当する。グルタミン又はアンモニアは、本発明の第1の物質に相当する。グルコース、ラクテート、グルタミン又はアンモニアは、本発明の第2の物質に相当する。
【0025】
算出部20は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出する。算出部20は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。算出部20は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。算出部20は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。算出部20は、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。
【0026】
図3は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。図4は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。図5は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。図6は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。図7は、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。
【0027】
判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化の極値点(図3)に基づいて細胞の状態を判定する。極値点とは、比の値が増加から減少に転じる点、又は、比の値が減少から増加に転じる点である。
【0028】
判定部22は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図4)に基づいて細胞の状態を判定してもよい。判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図5)に基づいて細胞の状態を判定してもよい。判定部22は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図6)に基づいて細胞の状態を判定してもよい。判定部22は、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図7)に基づいて細胞の状態を判定してもよい。
【0029】
判定部22は、細胞の状態として、例えば、細胞の培養を開始してから最初に極値点が生じた日において、遅滞期(Lag期)から対数期(Log期)に移行したと判定する。また、判定部22は、細胞の状態として、例えば、最初に極値点が生じた日の翌日が、培地の交換のタイミングであると判定する。判定部22は、培地の交換のタイミングの判定に加えて、培地への添加物の添加のタイミングの判定、細胞の継代のタイミングの判定、細胞の回収のタイミングの判定等を行ってもよい。判定部22は、培地の交換のタイミングの判定に代えて、培地への添加物の添加のタイミングの判定、細胞の継代のタイミングの判定、細胞の回収のタイミングの判定等を行ってもよい。判定部22における細胞の状態の判定は、遅滞期(Lag期)から対数期(Log期)に移行したことの判定、培地の交換のタイミングの判定に限られない。
【0030】
表示制御部24は、表示部28を制御して、表示部28に、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図3)を表示させる。表示部28に表示されたグラフから、ユーザは、細胞の状態を判定する。表示部28に表示されたグラフから、ユーザは、培地の交換のタイミング、培地への添加物の添加のタイミング、細胞の継代のタイミング、細胞の回収のタイミング等を判定する。
【0031】
表示制御部24は、表示部28に、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図4)を表示させてもよい。表示制御部24は、表示部28に、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図5)を表示させてもよい。表示制御部24は、表示部28に、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図6)を表示させてもよい。表示制御部24は、表示部28に、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図7)を表示させてもよい。
【0032】
報知制御部26は、報知部30を制御して、報知部30により培地の交換のタイミングをユーザに報知する。報知部30は、スピーカであって、音声、ブザー音等によりユーザに報知してもよい。報知部30は、ライトであって、点灯する色、点滅の態様の変化等によりユーザに報知してもよい。報知制御部26は、表示部28を制御して、表示部28に文字、絵等を表示させることによりユーザに報知してもよい。
【0033】
報知制御部26は、培地の交換のタイミングの報知に加えて、報知部30により、培地への添加物の添加のタイミングの報知、細胞の継代のタイミングの報知、細胞の回収のタイミングの報知等を行ってもよい。報知制御部26は、培地の交換のタイミングの報知に代えて、報知部30により、培地への添加物の添加のタイミングの報知、細胞の継代のタイミングの報知、細胞の回収のタイミングの報知等を行ってもよい。
【0034】
[判定処理]
図8は、判定装置10において行われる判定処理を示すフローチャートである。判定処理は、所定周期で繰り返し実行される。
【0035】
ステップS1において、取得部18は、培養上清液に含まれるグルコース、ラクテート、グルタミン及びアンモニアの各物質の1日当たりの増減数の絶対値を取得する。その後、ステップS2へ移行する。
【0036】
ステップS2において、算出部20は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出する。その後、ステップS3へ移行する。
【0037】
ステップS3において、判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化の極値点(図3)に基づいて細胞の状態を判定する。その後、ステップS4へ移行する。
【0038】
ステップS4において、表示制御部24は、表示部28を制御して、表示部28に、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフ(図3)を表示させる。その後、ステップS5へ移行する。
【0039】
ステップS5において、判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化において極値点が生じたか否かを判定する。極値点が生じた場合には、ステップS6へ移行する。極値点が生じなかった場合には、判定処理を終了する。
【0040】
ステップS6において、報知制御部26は、報知部30を制御して、報知部30により培地の交換のタイミングをユーザに報知する。その後、判定処理を終了する。
【0041】
[作用効果]
細胞の状態が遅滞期(Lag期)から対数期(Log期)に移行したことを判定する指標の1つとして、ラクテートの増加数が用いられる。ラクテートは、嫌気的条件下でグルコース代謝が行われた場合に、細胞において産生される物質である。ラクテートの増加数は、細胞の密度に依存する。そのため、ラクテートの増加数から、細胞の状態が遅滞期(Lag期)から対数期(Log期)に移行したことを判定することが可能である。しかし、図2に示すように、ラクテートの増加数は単調増加しており、ラクテートの増加数の経時変化において特徴点が明確でない。
【0042】
図9は、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフである。このグラフは、グルコースの1日当たりの消費量と、ラクテートの1日当たりの分泌量との比の経時変化を示すということもできる。
【0043】
図9に示すように、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値との比は増減するため、当該比において特徴点はある程度明確となる。しかし、当該比は変化量が比較的小さい。このことは、図3図7のグラフの縦軸の極値点と、図9のグラフの極値点とを見比べても理解できるであろう。そのため、比の経時変化における特徴点がより明確となる手法が求められる。
【0044】
そこで、本実施形態の判定装置10では、判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化に基づき、細胞の状態を判定する。グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図3)と、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化(図9)とを見比べると、図3のグラフに示す経時変化の方が変化量が大きく、特徴点が明確である。そのため、本実施形態によれば、細胞の状態の判定の精度を向上できる。また、図3のグラフを見たユーザは、特徴点を容易に見つけることができ、細胞の状態の判定の精度を向上できる。
【0045】
また、本実施形態の判定装置10では、判定部22は、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化に基づき、培地の交換のタイミング、培地への添加物の添加のタイミング、細胞の継代のタイミング、細胞の回収のタイミング等を判定する。そのため、判定部22は、培地の交換のタイミング、培地への添加物の添加のタイミング、細胞の継代のタイミング、細胞の回収のタイミング等の判定の精度を向上できる。また、図3のグラフを見たユーザは、培地の交換のタイミング、培地への添加物の添加のタイミング、細胞の継代のタイミング、細胞の回収のタイミング等の判定の精度を向上できる。
【0046】
比を取る組み合わせは、解糖系に係る物質の物理量と、グルタミン代謝に係る物質の物理量との組み合わせであればよい。例えば、図4に示すように、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値との比であってもよい。図5に示すように、グルコースの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比であってもよい。図6に示すように、ラクテートの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比であってもよい。
【0047】
また、比を取る他の組み合わせとして、グルタミン代謝に係る物質の物理量と、グルタミン代謝に係る別の物質の物理量との組み合わせであってもよい。例えば、図7に示すように、グルタミンの1日当たりの増減数の絶対値と、アンモニアの1日当たりの増減数の絶対値との比であってもよい。
【0048】
[他の実施形態]
第1実施形態に限らず、取得部18は、培養上清液に含まれるαケトグルタル酸又はグルタミン酸の各々の1日当たりの増減数の絶対値を取得してもよい。αケトグルタル酸又はグルタミン酸は、本発明のグルタミン代謝に係る物質に相当する。
【0049】
上記に限らず、取得部18は、グルタミン代謝に係る少なくとも2つの物質の1日当たりの増減数の絶対値を取得してもよい。取得部18は、グルタミン代謝に係る少なくとも1つの物質の1日当たりの増減数の絶対値と、解糖系に係る少なくとも1つの物質の1日当たりの増減数の絶対値とを取得してもよい。
【0050】
また、取得部18は、物質の1日当たりの増減数の絶対値に限らず、物質の増減に相関する物理量を取得してもよい。
【0051】
第1実施形態に限らず、算出部20は、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミン代謝に係る別の物質の1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。また、算出部20は、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、解糖系に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を算出してもよい。
【0052】
算出部20は、2つの物質の1日当たりの増減数の絶対値の比に限らず、2つの物質の増減に相関する物理量の比を算出してもよい。
【0053】
第1実施形態に限らず、判定部22は、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミン代謝に係る別の物質の1日当たりの増減数の絶対値との比に基づいて、細胞の状態、又は、培地の交換のタイミングを判定してもよい。また、判定部22は、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、解糖系に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値との比に基づいて、細胞の状態、又は、培地の交換のタイミングを判定してもよい。
【0054】
判定部22は、2つの物質の1日当たりの増減数の絶対値の比に限らず、2つの物質の増減に相関する物理量の比に基づいて、細胞の状態、又は、培地の交換のタイミングを判定してもよい。
【0055】
第1実施形態に限らず、表示制御部24は、表示部28に、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、グルタミン代謝に係る別の物質の1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフを表示させてもよい。表示制御部24は、表示部28に、グルタミン代謝に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値と、解糖系に係る物質の1日当たりの増減数の絶対値との比の経時変化を示すグラフを表示させてもよい。
【0056】
表示制御部24は、表示部28に、2つの物質の1日当たりの増減数の絶対値の比の経時変化を示すグラフに限らず、2つの物質の増減に相関する物理量の比の経時変化を示すグラフを表示させてもよい。
【0057】
第1実施形態では、2つの物質の1日当たりの増減数の比に基づいて、細胞の状態が判定される。これに対して、増減数は、1日当たりの増減数に限らず、1日よりも短い所定時間当たりの増減数であってもよい。
【0058】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0059】
10…判定装置(細胞状態判定装置、タイミング判定装置)
18…取得部 20…算出部
22…判定部 24…表示制御部
26…報知制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9