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特開2024-81266アレイアンテナ校正方法、アレイアンテナ校正装置及びアレイアンテナ校正プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081266
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】アレイアンテナ校正方法、アレイアンテナ校正装置及びアレイアンテナ校正プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/36 20060101AFI20240611BHJP
   G01R 29/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01Q3/36
G01R29/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194765
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】新井 栄
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021DB03
5J021FA06
5J021JA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アレイアンテナの初期位相を校正するにあたり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備を不要とする。
【解決手段】一の送信アンテナ素子Tから受信アンテナ素子Rへの受信位相と、他の送信アンテナ素子Tから受信アンテナ素子Rへの受信位相との位相差を測定する。一の送信アンテナ素子Tの初期送信位相と、他の送信アンテナ素子Tの初期送信位相との位相差を測定する。ただし、一の送信アンテナ素子T及び他の送信アンテナ素子Tから受信アンテナ素子Rへの入射角に応じて、一の送信アンテナ素子Tから受信アンテナ素子Rへの経路と、他の送信アンテナ素子Tから受信アンテナ素子Rへの経路との経路差を考慮する必要がある。そこで、複数の受信アンテナ素子Rによる位相モノパルス測角を用いて、一の送信アンテナ素子T及び他の送信アンテナ素子Rから複数の受信アンテナ素子Rへの入射角を測定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アレイアンテナのアンテナ素子が配列される方向と、複数の受信アンテナ素子が配列される方向と、が互いに平行である方向となるように、前記送信アレイアンテナ及び前記複数の受信アンテナ素子を配置する送信アレイアンテナ配置工程と、
前記送信アレイアンテナの一のアンテナ素子が放射する電波が、一の受信アンテナ素子で受信されるときの、第1受信位相を測定する第1受信位相測定工程と、
前記送信アレイアンテナの他のアンテナ素子が放射する電波が、前記一の受信アンテナ素子で受信されるときの、第2受信位相を測定する第2受信位相測定工程と、
前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子が放射する電波が、他の受信アンテナ素子で受信されるときの、第3受信位相を測定する第3受信位相測定工程と、
前記第1受信位相、前記第2受信位相及び前記第3受信位相に基づいて、前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子の初期送信位相と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子の初期送信位相と、の位相差を測定する初期位相差測定工程と、
前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の様々なペアについて、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程及び前記初期位相差測定工程を繰り返したうえで、前記送信アレイアンテナの初期送信位相を校正する初期位相校正工程と、
を備えることを特徴とするアレイアンテナ校正方法。
【請求項2】
前記送信アレイアンテナ配置工程は、前記送信アレイアンテナと、前記複数の受信アンテナ素子と、の間の配置距離が、遠方界距離(=2×(前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長+前記一の受信アンテナ素子と、前記他の受信アンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長)/前記送信アレイアンテナの送信波長)と比べて長くなるように、前記送信アレイアンテナ及び前記複数の受信アンテナ素子を配置する
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレイアンテナ校正方法。
【請求項3】
受信アレイアンテナのアンテナ素子が配列される方向と、複数の送信アンテナ素子が配列される方向と、が互いに平行である方向となるように、前記受信アレイアンテナ及び前記複数の送信アンテナ素子を配置する受信アレイアンテナ配置工程と、
一の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの一のアンテナ素子で受信されるときの、第1受信位相を測定する第1受信位相測定工程と、
他の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子で受信されるときの、第2受信位相を測定する第2受信位相測定工程と、
前記一の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの他のアンテナ素子で受信されるときの、第3受信位相を測定する第3受信位相測定工程と、
前記第1受信位相、前記第2受信位相及び前記第3受信位相に基づいて、前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子の初期受信位相と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子の初期受信位相と、の位相差を測定する初期位相差測定工程と、
前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の様々なペアについて、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程及び前記初期位相差測定工程を繰り返したうえで、前記受信アレイアンテナの初期受信位相を校正する初期位相校正工程と、
を備えることを特徴とするアレイアンテナ校正方法。
【請求項4】
前記受信アレイアンテナ配置工程は、前記受信アレイアンテナと、前記複数の送信アンテナ素子と、の間の配置距離が、遠方界距離(=2×(前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長+前記一の送信アンテナ素子と、前記他の送信アンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長)/前記受信アレイアンテナの受信波長)と比べて長くなるように、前記受信アレイアンテナ及び前記複数の送信アンテナ素子を配置する
ことを特徴とする、請求項3に記載のアレイアンテナ校正方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のアレイアンテナ校正方法のうち、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程、前記初期位相差測定工程及び前記初期位相校正工程を、実行することを特徴とするアレイアンテナ校正装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のアレイアンテナ校正方法のうち、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程、前記初期位相差測定工程及び前記初期位相校正工程を、コンピュータに実行させるためのアレイアンテナ校正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレイアンテナの初期位相を校正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
送信アレイアンテナの初期送信位相を校正する技術が、特許文献1等に開示されている。特許文献1では、REV法(Rotating element Electric field Vector method)を用いて、送信アレイアンテナの初期送信位相を校正する。従来技術の送信アレイアンテナの校正処理の概要を図1に示す。
【0003】
送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnを備える。送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnについて、アンテナ素子間隔はdであり、初期送信位相はΦ、Φ、Φ、・・・、Φである。受信アンテナ素子Rは、送信アレイアンテナTが放射する電波を受信する。送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの送信位相を回転させたうえで、受信アンテナ素子Rの受信電力を最適化するように、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの初期送信位相を校正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-054301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、受信アンテナ素子Rにおいて、送信アレイアンテナTが放射する電波が平面波とみなせる必要がある。つまり、送信アレイアンテナTと、受信アンテナ素子Rと、の間の配置距離Lは、遠方界距離(=2(A+A/λ)と比べて長くなる必要がある。ここで、λは送信アレイアンテナTの送信波長であり、Aは送信アレイアンテナTの開口長(≒nλ/2)であり、Aは受信アンテナ素子Rの開口長(≒λ/2)である。よって、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が必要となる。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アレイアンテナの初期位相を校正するにあたり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備を不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
送信アレイアンテナの初期送信位相を校正するにあたり、前記課題を解決するために、以下に記載の処理を実行する。つまり、一の送信アンテナ素子が放射する電波が受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、他の送信アンテナ素子が放射する電波が受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、の位相差を測定する。そして、一の送信アンテナ素子の初期送信位相と、他の送信アンテナ素子の初期送信位相と、の位相差を測定する。ここで、一の送信アンテナ素子と、他の送信アンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長は、送信アレイアンテナ全体の送信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。
【0008】
ただし、一の送信アンテナ素子及び他の送信アンテナ素子から受信アンテナ素子への入射角に応じて、一の送信アンテナ素子から受信アンテナ素子への経路と、他の送信アンテナ素子から受信アンテナ素子への経路と、の経路差を考慮する必要がある。そこで、複数の受信アンテナ素子による位相モノパルス測角を用いて、一の送信アンテナ素子及び他の送信アンテナ素子から複数の受信アンテナ素子への入射角を測定する。そして、一の送信アンテナ素子から複数の受信アンテナ素子への経路と、他の送信アンテナ素子から複数の受信アンテナ素子への経路と、の経路差の影響を除去し、一の送信アンテナ素子の初期送信位相と、他の送信アンテナ素子の初期送信位相と、の位相差のみを抽出する。
【0009】
具体的には、本開示は、送信アレイアンテナのアンテナ素子が配列される方向と、複数の受信アンテナ素子が配列される方向と、が互いに平行である方向となるように、前記送信アレイアンテナ及び前記複数の受信アンテナ素子を配置する送信アレイアンテナ配置工程と、前記送信アレイアンテナの一のアンテナ素子が放射する電波が、一の受信アンテナ素子で受信されるときの、第1受信位相を測定する第1受信位相測定工程と、前記送信アレイアンテナの他のアンテナ素子が放射する電波が、前記一の受信アンテナ素子で受信されるときの、第2受信位相を測定する第2受信位相測定工程と、前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子が放射する電波が、他の受信アンテナ素子で受信されるときの、第3受信位相を測定する第3受信位相測定工程と、前記第1受信位相、前記第2受信位相及び前記第3受信位相に基づいて、前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子の初期送信位相と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子の初期送信位相と、の位相差を測定する初期位相差測定工程と、前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の様々なペアについて、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程及び前記初期位相差測定工程を繰り返したうえで、前記送信アレイアンテナの初期送信位相を校正する初期位相校正工程と、を備えることを特徴とするアレイアンテナ校正方法である。
【0010】
この構成によれば、一の送信アンテナ素子と、他の送信アンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長は、送信アレイアンテナ全体の送信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。よって、遠方界距離が短くなり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。
【0011】
また、本開示は、前記送信アレイアンテナ配置工程は、前記送信アレイアンテナと、前記複数の受信アンテナ素子と、の間の配置距離が、遠方界距離(=2×(前記送信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記送信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長+前記一の受信アンテナ素子と、前記他の受信アンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長)/前記送信アレイアンテナの送信波長)と比べて長くなるように、前記送信アレイアンテナ及び前記複数の受信アンテナ素子を配置することを特徴とするアレイアンテナ校正方法である。
【0012】
この構成によれば、実効的に狭い送信アンテナ開口長と、複数の受信アンテナ素子の受信アンテナ開口長と、に基づいて、短い遠方界距離が見積もられる。よって、送信アレイアンテナと、複数の受信アンテナ素子と、の間の短い配置距離が決められる。
【0013】
受信アレイアンテナの初期受信位相を校正するにあたり、前記課題を解決するために、以下に記載の処理を実行する。つまり、送信アンテナ素子が放射する電波が一の受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、送信アンテナ素子が放射する電波が他の受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、の位相差を測定する。そして、一の受信アンテナ素子の初期受信位相と、他の受信アンテナ素子の初期受信位相と、の位相差を測定する。ここで、一の受信アンテナ素子と、他の受信アンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長は、受信アレイアンテナ全体の受信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。
【0014】
ただし、送信アンテナ素子から一の受信アンテナ素子及び他の受信アンテナ素子への入射角に応じて、送信アンテナ素子から一の受信アンテナ素子への経路と、送信アンテナ素子から他の受信アンテナ素子への経路と、の経路差を考慮する必要がある。そこで、複数の送信アンテナ素子による位相モノパルス測角を用いて、複数の送信アンテナ素子から一の受信アンテナ素子及び他の受信アンテナ素子への入射角を測定する。そして、複数の送信アンテナ素子から一の受信アンテナ素子への経路と、複数の送信アンテナ素子から他の受信アンテナ素子への経路と、の経路差の影響を除去し、一の受信アンテナ素子の初期受信位相と、他の受信アンテナ素子の初期受信位相と、の位相差のみを抽出する。
【0015】
具体的には、本開示は、受信アレイアンテナのアンテナ素子が配列される方向と、複数の送信アンテナ素子が配列される方向と、が互いに平行である方向となるように、前記受信アレイアンテナ及び前記複数の送信アンテナ素子を配置する受信アレイアンテナ配置工程と、一の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの一のアンテナ素子で受信されるときの、第1受信位相を測定する第1受信位相測定工程と、他の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子で受信されるときの、第2受信位相を測定する第2受信位相測定工程と、前記一の送信アンテナ素子が放射する電波が、前記受信アレイアンテナの他のアンテナ素子で受信されるときの、第3受信位相を測定する第3受信位相測定工程と、前記第1受信位相、前記第2受信位相及び前記第3受信位相に基づいて、前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子の初期受信位相と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子の初期受信位相と、の位相差を測定する初期位相差測定工程と、前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の様々なペアについて、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程及び前記初期位相差測定工程を繰り返したうえで、前記受信アレイアンテナの初期受信位相を校正する初期位相校正工程と、を備えることを特徴とするアレイアンテナ校正方法である。
【0016】
この構成によれば、一の受信アンテナ素子と、他の受信アンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長は、受信アレイアンテナ全体の受信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。よって、遠方界距離が短くなり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。
【0017】
また、本開示は、前記受信アレイアンテナ配置工程は、前記受信アレイアンテナと、前記複数の送信アンテナ素子と、の間の配置距離が、遠方界距離(=2×(前記受信アレイアンテナの前記一のアンテナ素子と、前記受信アレイアンテナの前記他のアンテナ素子と、の間の受信アンテナ開口長+前記一の送信アンテナ素子と、前記他の送信アンテナ素子と、の間の送信アンテナ開口長)/前記受信アレイアンテナの受信波長)と比べて長くなるように、前記受信アレイアンテナ及び前記複数の送信アンテナ素子を配置することを特徴とするアレイアンテナ校正方法である。
【0018】
この構成によれば、実効的に狭い受信アンテナ開口長と、複数の送信アンテナ素子の送信アンテナ開口長と、に基づいて、短い遠方界距離が見積もられる。よって、受信アレイアンテナと、複数の送信アンテナ素子と、の間の短い配置距離が決められる。
【0019】
また、本開示は、以上に記載のアレイアンテナ校正方法のうち、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程、前記初期位相差測定工程及び前記初期位相校正工程を、実行することを特徴とするアレイアンテナ校正装置である。
【0020】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するFPGA等を提供することができる。
【0021】
また、本開示は、以上に記載のアレイアンテナ校正方法のうち、前記第1受信位相測定工程、前記第2受信位相測定工程、前記第3受信位相測定工程、前記初期位相差測定工程及び前記初期位相校正工程を、コンピュータに実行させるためのアレイアンテナ校正プログラムである。
【0022】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本開示は、アレイアンテナの初期位相を校正するにあたり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来技術の送信アレイアンテナの校正処理の概要を示す図である。
図2】本開示の送信アレイアンテナの校正処理の概要を示す図である。
図3】本開示の送信アレイアンテナの校正装置の構成を示す図である。
図4】本開示の送信アレイアンテナの校正処理の手順を示す図である。
図5】本開示の送信アレイアンテナの校正治具の構成を示す図である。
図6】本開示の受信アレイアンテナの校正処理の概要を示す図である。
図7】本開示の受信アレイアンテナの校正装置の構成を示す図である。
図8】本開示の受信アレイアンテナの校正処理の手順を示す図である。
図9】本開示の受信アレイアンテナの校正治具の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0026】
(本開示の送信アレイアンテナの校正処理の概要)
本開示の送信アレイアンテナの校正処理の概要を図2に示す。送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnを備える。送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnについて、アンテナ素子間隔はdであり、初期送信位相はΦ、Φ、Φ、・・・、Φである。受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子R1、R2を備える。受信アンテナ素子R1、R2について、アンテナ素子間隔はdである。
【0027】
送信アンテナ素子T1、T2の初期送信位相Φ、Φを校正するにあたり、以下に記載の処理を実行する。他の送信アンテナ素子の初期送信位相の校正も同様である。
【0028】
つまり、送信アンテナ素子T1が放射する電波が受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、送信アンテナ素子T2が放射する電波が受信アンテナ素子で受信されるときの受信位相と、の位相差を測定する。そして、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T2の初期送信位相Φと、の位相差を測定する。ここで、送信アンテナ素子T1と、送信アンテナ素子T2と、の間の送信アンテナ開口長Aは、送信アレイアンテナT全体の送信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。
【0029】
ただし、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子への入射角θに応じて、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子への経路と、送信アンテナ素子T2から受信アンテナ素子への経路と、の経路差を考慮する必要がある。そこで、受信アンテナ素子R1、R2による位相モノパルス測角を用いて、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θを測定する。そして、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1、R2への経路と、送信アンテナ素子T2から受信アンテナ素子R1、R2への経路と、の経路差の影響を除去し、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T2の初期送信位相Φと、の位相差のみを抽出する。
【0030】
このように、送信アンテナ素子T1と、送信アンテナ素子T2と、の間の送信アンテナ開口長Aは、送信アレイアンテナT全体の送信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。よって、遠方界距離(=2(A+A/λ)が短くなる(λは送信アレイアンテナTの送信波長、Aは送信アンテナ素子T1、T2の間の送信アンテナ開口長(≒λ)、Aは受信アレイアンテナRの開口長(≒λ))。よって、送信アレイアンテナTと、受信アレイアンテナRと、の間の配置距離Lが短く済み、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。
【0031】
(本開示の送信アレイアンテナの校正処理の詳細)
本開示の送信アレイアンテナの校正装置の構成を図3に示す。本開示の送信アレイアンテナの校正処理の手順を図4に示す。アレイアンテナ校正装置Cは、スイッチ制御部1、受信位相測定部2、初期位相差測定部3及び初期位相校正部4を備える。アレイアンテナ校正装置Cは、図4に示したアレイアンテナ校正プログラムにより実現することができ、ネットワークアナライザ等及びFPGA等により実現することもできる。
【0032】
ベンダー又はユーザーは、送信アレイアンテナT及び受信アレイアンテナRを配置する。ここで、後述の理由により、送信アレイアンテナTの送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnが配列される方向と、受信アレイアンテナRの受信アンテナ素子R1、R2が配列される方向と、が互いに平行である方向となるようにする。そして、前述したように、送信アレイアンテナTと、受信アレイアンテナRと、の間の配置距離Lが、遠方界距離(=2(A+A/λ)と比べて長くなるようにする(ステップS1)。
【0033】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T1とが接続されるように、送信側スイッチStを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R1とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T1が放射する電波が、受信アンテナ素子R1で受信されるときの、受信位相Φ(T1→R1)を測定する(ステップS2)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)を基準として校正を行なう。
【0034】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T2とが接続されるように、送信側スイッチStを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R1とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T2が放射する電波が、受信アンテナ素子R1で受信されるときの、受信位相Φ(T2→R1)を測定する(ステップS3)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T2→R1)の位相差を測定する。
【0035】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T1とが接続されるように、送信側スイッチStを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R2とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T1が放射する電波が、受信アンテナ素子R2で受信されるときの、受信位相Φ(T1→R2)を測定する(ステップS4)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T1→R2)の位相差を測定する。
【0036】
初期位相差測定部3は、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T2→R1)、Φ(T1→R2)に基づいて、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T2の初期送信位相Φと、の位相差Φ-Φを測定する(ステップS5~S7)。
【0037】
まず、初期位相差測定部3は、受信位相差α=Φ(T1→R1)-Φ(T2→R1)を計算する(ステップS5)。ここで、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T2から受信アンテナ素子R1への経路と、の経路差dsinθを考慮して、受信位相差α=Φ-Φ+dsinθ×2π/λと計算する。これは、送受信間の配置距離Lが、遠方界距離と比べて長く、受信アレイアンテナRにおいて、送信アンテナ素子T1、T2が放射する電波が、平面波とみなせるためである。
【0038】
次に、初期位相差測定部3は、受信位相差β=Φ(T1→R1)-Φ(T1→R2)を計算する(ステップS6)。ここで、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R2への経路と、の経路差dsinθを考慮して、受信位相差β=-dsinθ×2π/λと計算する。これは、送受信間の配置距離Lが、遠方界距離と比べて長く、受信アレイアンテナRにおいて、送信アンテナ素子T1、T2が放射する電波が、平面波とみなせるためであり、送受信側の配列方向が、互いに平行方向であり、送受信側の出入射角が、θで等しいためである。
【0039】
次に、初期位相差測定部3は、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T2の初期送信位相Φと、の位相差Φ-Φを測定する(ステップS7)。ここで、ステップS5のα=Φ-Φ+dsinθ×2π/λと、ステップS6のβ=-dsinθ×2π/λと、を考慮して、位相差Φ-Φ=α+β×d/dと計算する。つまり、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1、R2への経路と、送信アンテナ素子T2から受信アンテナ素子R1、R2への経路と、の経路差の影響を除去する。
【0040】
スイッチ制御部1、受信位相測定部2及び初期位相差測定部3は、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの全隣接ペアについて、ステップS2~S7を繰り返す。つまり、送信アンテナ素子Tkの初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T(k+1)の初期送信位相Φk+1と、の位相差Φ-Φk+1を測定する。初期位相校正部4は、送信アレイアンテナTの初期送信位相を校正する(ステップS8)。つまり、送信アンテナ素子Tkの初期送信位相Φを、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φ等に揃える。
【0041】
本開示の送信アレイアンテナの校正治具の構成を図5に示す。アレイアンテナ校正治具Jは、送信側取付板Pt、受信側取付板Pr及び取付板固定棒Bを備える。送信側取付板Ptは、送信アレイアンテナT(パッチアレイアンテナ等であり、アンテナ筐体及び入力コネクタを備える。)を取り付ける板状部材である。受信側取付板Prは、受信アレイアンテナR(パッチアレイアンテナ等であり、出力コネクタを備える。)を取り付ける板状部材である。取付板固定棒Bは、送信アレイアンテナTと、受信アレイアンテナRと、の間の配置距離Lを、遠方界距離(=2(A+A/λ)と比べて長くする棒状部材である。アレイアンテナ校正治具Jは、金属製であってもよく(電磁波の反射を防止する必要はある。)、樹脂製であってもよい(治具の加工誤差に留意する必要はある。)。
【0042】
ここで、アレイアンテナ校正治具Jが加工誤差を含まないときに、各々の取付板固定棒Bの長さはWであり、隣接する取付板固定棒Bの間隔はWであり、送受信側の配列方向は互いに平行方向である。しかし、アレイアンテナ校正治具Jが加工誤差を含むときに、隣接する取付板固定棒Bの長さは加工誤差ΔWを含み、送受信側の配列方向は加工誤差θ(=tan-1ΔW/W)を含み、送受信側の配列方向は平行方向からずれる。
【0043】
以下は、送信側の配列方向はずれないが、受信側の配列方向はずれることを考える。すると、経路差dsinθに対するずれの影響は、d=dsinθ≒dtanθ=d×ΔW/Wとなる。そして、受信位相差α、βに対するずれの影響は、α=d×2π/λ=d×ΔW/W×2π/λとなる。よって、加工誤差ΔWが小さいときに、経路差dsinθ及び受信位相差α、βに対するずれの影響は小さい。
【0044】
このように、送信アレイアンテナTと、受信アレイアンテナRと、の間の配置距離Lが短く済み、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。そして、REV法と異なり、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの送信位相を回転させる必要がないため、送信アレイアンテナTの初期送信位相の校正時間を短縮可能である。さらに、REV法と異なり、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの送信電界ベクトルの合成誤差と、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnの送信位相の回転誤差と、を考慮不要である。
【0045】
(本開示の送信アレイアンテナの校正処理の変形例)
実施形態では、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T2の初期送信位相Φと、の位相差(隣接アンテナ素子の初期送信位相差)を測定している。変形例として、送信アンテナ素子T1の初期送信位相Φと、送信アンテナ素子T3等の初期送信位相Φ等と、の位相差(非隣接アンテナ素子の初期送信位相差)を測定してもよい。変形例では、実施形態と比べて、遠方界距離(=2(A+A/λ)が長くなり(Aは送信アンテナ素子T1、T3等の間の送信アンテナ開口長(≒3λ/2等))、送信アレイアンテナTと、受信アレイアンテナRと、の間の配置距離Lが長くなる。
【0046】
実施形態では、受信アンテナ素子R1、R2による位相モノパルス測角を用いて、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θを測定している。変形例として、電気的な測角ではなく機械的な測角を用いて、送信アンテナ素子T1、T2から2個ではなく1個のみの受信アンテナ素子への入射角θを測定してもよい。
【0047】
実施形態では、送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子T1、T2、T3、・・・、Tnを1次元方向に備えており、受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子R1、R2を1次元方向に備えており、送受信側の配列方向は、互いに平行方向である。変形例として、送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子を2次元面内に備えてもよく、受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子を2次元面内に備えてもよく(例えば、4個の受信アンテナ素子の十字型配列)、送受信側の配列方向は、互いに平行方向にすればよい。
【0048】
(本開示の受信アレイアンテナの校正処理の概要)
本開示の受信アレイアンテナの校正処理の概要を図6に示す。受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnを備える。受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnについて、アンテナ素子間隔はdであり、初期受信位相はΦ、Φ、Φ、・・・、Φである。送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子T1、T2を備える。送信アンテナ素子T1、T2について、アンテナ素子間隔はdである。
【0049】
受信アンテナ素子R1、R2の初期受信位相Φ、Φを校正するにあたり、以下に記載の処理を実行する。他の受信アンテナ素子の初期受信位相の校正も同様である。
【0050】
つまり、送信アンテナ素子が放射する電波が受信アンテナ素子R1で受信されるときの受信位相と、送信アンテナ素子が放射する電波が受信アンテナ素子R2で受信されるときの受信位相と、の位相差を測定する。そして、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R2の初期受信位相Φと、の位相差を測定する。ここで、受信アンテナ素子R1と、受信アンテナ素子R2と、の間の受信アンテナ開口長Aは、受信アレイアンテナR全体の受信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。
【0051】
ただし、送信アンテナ素子から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θに応じて、送信アンテナ素子から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子から受信アンテナ素子R2への経路と、の経路差を考慮する必要がある。そこで、送信アンテナ素子T1、T2による位相モノパルス測角を用いて、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θを測定する。そして、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R2への経路と、の経路差の影響を除去し、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R2の初期受信位相Φと、の位相差のみを抽出する。
【0052】
このように、受信アンテナ素子R1と、受信アンテナ素子R2と、の間の受信アンテナ開口長Aは、受信アレイアンテナR全体の受信アンテナ開口長と比べて、実効的に狭くなる。よって、遠方界距離(=2(A+A/λ)が短くなる(λは受信アレイアンテナRの受信波長、Aは受信アンテナ素子R1、R2の間の受信アンテナ開口長(≒λ)、Aは送信アレイアンテナTの開口長(≒λ))。よって、受信アレイアンテナRと、送信アレイアンテナTと、の間の配置距離Lが短く済み、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。
【0053】
(本開示の受信アレイアンテナの校正処理の詳細)
本開示の受信アレイアンテナの校正装置の構成を図7に示す。本開示の受信アレイアンテナの校正処理の手順を図8に示す。アレイアンテナ校正装置Cは、スイッチ制御部1、受信位相測定部2、初期位相差測定部3及び初期位相校正部4を備える。アレイアンテナ校正装置Cは、図8に示したアレイアンテナ校正プログラムにより実現することができ、ネットワークアナライザ等及びFPGA等により実現することもできる。
【0054】
ベンダー又はユーザーは、受信アレイアンテナR及び送信アレイアンテナTを配置する。ここで、後述の理由により、受信アレイアンテナRの受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnが配列される方向と、送信アレイアンテナTの送信アンテナ素子T1、T2が配列される方向と、が互いに平行である方向となるようにする。そして、前述したように、受信アレイアンテナRと、送信アレイアンテナTと、の間の配置距離Lが、遠方界距離(=2(A+A/λ)と比べて長くなるようにする(ステップS11)。
【0055】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R1とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T1とが接続されるように、送信側スイッチStを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T1が放射する電波が、受信アンテナ素子R1で受信されるときの、受信位相Φ(T1→R1)を測定する(ステップS12)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)を基準として校正を行なう。
【0056】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R1とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T2とが接続されるように、送信側スイッチStを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T2が放射する電波が、受信アンテナ素子R1で受信されるときの、受信位相Φ(T2→R1)を測定する(ステップS13)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T2→R1)の位相差を測定する。
【0057】
スイッチ制御部1は、アレイアンテナ校正装置Cと受信アンテナ素子R2とが接続されるように、受信側スイッチSrを制御し、アレイアンテナ校正装置Cと送信アンテナ素子T1とが接続されるように、送信側スイッチStを制御する。受信位相測定部2は、送信アンテナ素子T1が放射する電波が、受信アンテナ素子R2で受信されるときの、受信位相Φ(T1→R2)を測定する(ステップS14)。受信位相測定部2は、ネットワークアナライザ等であり、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T1→R2)の位相差を測定する。
【0058】
初期位相差測定部3は、受信位相Φ(T1→R1)、Φ(T2→R1)、Φ(T1→R2)に基づいて、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R2の初期受信位相Φと、の位相差Φ-Φを測定する(ステップS15~S17)。
【0059】
まず、初期位相差測定部3は、受信位相差α=Φ(T1→R1)-Φ(T1→R2)を計算する(ステップS15)。ここで、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R2への経路と、の経路差dsinθを考慮して、受信位相差α=Φ-Φ+dsinθ×2π/λと計算する。これは、送受信間の配置距離Lが、遠方界距離と比べて長く、受信アレイアンテナRにおいて、送信アンテナ素子T1、T2が放射する電波が、平面波とみなせるためである。
【0060】
次に、初期位相差測定部3は、受信位相差β=Φ(T1→R1)-Φ(T2→R1)を計算する(ステップS16)。ここで、送信アンテナ素子T1から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T2から受信アンテナ素子R1への経路と、の経路差dsinθを考慮して、受信位相差β=-dsinθ×2π/λと計算する。これは、送受信間の配置距離Lが、遠方界距離と比べて長く、受信アレイアンテナRにおいて、送信アンテナ素子T1、T2が放射する電波が、平面波とみなせるためであり、送受信側の配列方向が、互いに平行方向であり、送受信側の出入射角が、θで等しいためである。
【0061】
次に、初期位相差測定部3は、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R2の初期受信位相Φと、の位相差Φ-Φを測定する(ステップS17)。ここで、ステップS15のα=Φ-Φ+dsinθ×2π/λと、ステップS16のβ=-dsinθ×2π/λと、を考慮して、位相差Φ-Φ=α+β×d/dと計算する。つまり、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1への経路と、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R2への経路と、の経路差の影響を除去する。
【0062】
スイッチ制御部1、受信位相測定部2及び初期位相差測定部3は、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnの全隣接ペアについて、ステップS12~S17を繰り返す。つまり、受信アンテナ素子Rkの初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R(k+1)の初期受信位相Φk+1と、の位相差Φ-Φk+1を測定する。初期位相校正部4は、受信アレイアンテナRの初期受信位相を校正する(ステップS18)。つまり、受信アンテナ素子Rkの初期受信位相Φを、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φ等に揃える。
【0063】
本開示の受信アレイアンテナの校正治具の構成を図9に示す。アレイアンテナ校正治具Jは、受信側取付板Pr、送信側取付板Pt及び取付板固定棒Bを備える。受信側取付板Prは、受信アレイアンテナR(パッチアレイアンテナ等であり、アンテナ筐体及び出力コネクタを備える。)を取り付ける板状部材である。送信側取付板Ptは、送信アレイアンテナT(パッチアレイアンテナ等であり、入力コネクタを備える。)を取り付ける板状部材である。取付板固定棒Bは、受信アレイアンテナRと、送信アレイアンテナTと、の間の配置距離Lを、遠方界距離(=2(A+A/λ)と比べて長くする棒状部材である。アレイアンテナ校正治具Jは、金属製であってもよく(電磁波の反射を防止する必要はある。)、樹脂製であってもよい(治具の加工誤差に留意する必要はある。)。
【0064】
ここで、アレイアンテナ校正治具Jが加工誤差を含まないときに、各々の取付板固定棒Bの長さはWであり、隣接する取付板固定棒Bの間隔はWであり、送受信側の配列方向は互いに平行方向である。しかし、アレイアンテナ校正治具Jが加工誤差を含むときに、隣接する取付板固定棒Bの長さは加工誤差ΔWを含み、送受信側の配列方向は加工誤差θ(=tan-1ΔW/W)を含み、送受信側の配列方向は平行方向からずれる。
【0065】
以下は、受信側の配列方向はずれないが、送信側の配列方向はずれることを考える。すると、経路差dsinθに対するずれの影響は、d=dsinθ≒dtanθ=d×ΔW/Wとなる。そして、受信位相差α、βに対するずれの影響は、α=d×2π/λ=d×ΔW/W×2π/λとなる。よって、加工誤差ΔWが小さいときに、経路差dsinθ及び受信位相差α、βに対するずれの影響は小さい。
【0066】
このように、受信アレイアンテナRと、送信アレイアンテナTと、の間の配置距離Lが短く済み、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。そして、REV法と異なり、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnの受信位相を回転させる必要がないため、受信アレイアンテナRの初期受信位相の校正時間を短縮可能である。さらに、REV法と異なり、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnの受信電界ベクトルの合成誤差と、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnの受信位相の回転誤差と、を考慮不要である。
【0067】
(本開示の受信アレイアンテナの校正処理の変形例)
実施形態では、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R2の初期受信位相Φと、の位相差(隣接アンテナ素子の初期受信位相差)を測定している。変形例として、受信アンテナ素子R1の初期受信位相Φと、受信アンテナ素子R3等の初期受信位相Φ等と、の位相差(非隣接アンテナ素子の初期受信位相差)を測定してもよい。変形例では、実施形態と比べて、遠方界距離(=2(A+A/λ)が長くなり(Aは受信アンテナ素子R1、R3等の間の受信アンテナ開口長(≒3λ/2等))、受信アレイアンテナRと、送信アレイアンテナTと、の間の配置距離Lが長くなる。
【0068】
実施形態では、送信アンテナ素子T1、T2による位相モノパルス測角を用いて、送信アンテナ素子T1、T2から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θを測定している。変形例として、電気的な測角ではなく機械的な測角を用いて、2個ではなく1個のみの送信アンテナ素子から受信アンテナ素子R1、R2への入射角θを測定してもよい。
【0069】
実施形態では、受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子R1、R2、R3、・・・、Rnを1次元方向に備えており、送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子T1、T2を1次元方向に備えており、送受信側の配列方向は、互いに平行方向である。変形例として、受信アレイアンテナRは、受信アンテナ素子を2次元面内に備えてもよく、送信アレイアンテナTは、送信アンテナ素子を2次元面内に備えてもよく(例えば、4個の送信アンテナ素子の十字型配列)、送受信側の配列方向は、互いに平行方向にすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本開示のアレイアンテナ校正方法、アレイアンテナ校正装置及びアレイアンテナ校正プログラムによれば、遠方界距離が短くなり、電波暗室又はオープンサイト等の大型設備が不要となり、実験室の机上等のネットワークアナライザ等があればよい。
【符号の説明】
【0071】
T:送信アレイアンテナ
T1、T2、T3、Tn:送信アンテナ素子
R:受信アンテナ素子、受信アレイアンテナ
R1、R2、R3、Rn:受信アンテナ素子
C:アレイアンテナ校正装置
1:スイッチ制御部
2:受信位相測定部
3:初期位相差測定部
4:初期位相校正部
St:送信側スイッチ
Sr:受信側スイッチ
J:アレイアンテナ校正治具
Pt:送信側取付板
Pr:受信側取付板
B:取付板固定棒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9