(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008129
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】樹脂成形歯車
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20240112BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20240112BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29C45/14
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109718
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】519330489
【氏名又は名称】株式会社日栄
(71)【出願人】
【識別番号】519329885
【氏名又は名称】株式会社プラリンク
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山喜 政彦
【テーマコード(参考)】
3J030
4F206
【Fターム(参考)】
3J030BC01
3J030BC02
3J030BC08
4F206AB16
4F206AB17
4F206AB18
4F206AB25
4F206AD03
4F206AG13
4F206AG28
4F206AH12
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF02
4F206JF05
4F206JL02
4F206JN14
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】インサート成形の樹脂成形歯車において、樹脂繊維の配向を整え、かつ、樹脂成形歯車の製造コストを抑制する。
【解決手段】
樹脂成形歯車1と歯車形状のインサート2を備える。インサート2は、ウェブ部21と、歯部22を有し、歯部22は、樹脂成形歯車1の歯底12aと対向する歯底部22aと、樹脂成形歯車1の歯先12cと対向する歯先部22cを有する。ウェブ部21の表面に環状の第1流路23を形成し、第1流路23の外縁部に、歯底部22aに溶融樹脂31を流出させる流出口23aを設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート成形された樹脂成形歯車であって、
前記樹脂成形歯車と歯車形状のインサートを備え、
前記インサートが、ウェブ部と、歯部と、を含み、
前記歯部が、前記樹脂成形歯車の歯底と対向する歯底部と、前記樹脂成形歯車の歯先と対向する歯先部と、を含み、
前記ウェブ部の表面に、環状の第1流路が形成され、
前記第1流路の外縁部に、前記歯底部に溶融樹脂を流出させる流出口を設けたことを特徴とする樹脂成形歯車。
【請求項2】
前記インサートは、金属材よりなる請求項1に記載の樹脂成形歯車。
【請求項3】
前記インサートを被覆する樹脂部材を備え、
前記樹脂部材は、繊維強化樹脂である請求項1に記載の樹脂成形歯車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インサート成形された樹脂成形歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形歯車において、金型にインサート部材を配置し、インサート部材と金型との間に形成されたキャビティ内に溶融樹脂を注入して樹脂成形するインサート成形の技術が知られている。例えば、特許文献1には、インサートに溶融樹脂の誘導路を設け、誘導路を用いて溶融樹脂を歯底面に対応する部分に案内することで、歯面にウェルドラインが形成されることを防止し、歯車の耐久性を高める技術が提案されている。また、特許文献2には、歯車形状のインサートに注入された溶融樹脂を、インサート部材の内部を経由して歯部に導く流路が形成され、流路の開口端部を歯部の歯底に設けた樹脂成形歯車が提案されている。特許文献3には、インサートの表面に前処理を施しつつ、インサートを加温しておくことにより、溶融樹脂の滞留を抑制し、成形品の樹脂割れや剥離を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-154463号公報
【特許文献2】国際公開WO2021/049533公報
【特許文献3】国際公開WO2005/046957公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂成形歯車の強度を確保するためには、繊維強化樹脂を用いる事が望ましく、且つ、歯面を被覆する樹脂部の繊維配向が、歯面に沿って揃えられる事が望ましい。また、樹脂のウェルドラインは歯形部に形成される事なく歯車動力伝達による接触摩擦が発生しない歯面外へ形成される事が好ましい。金属歯車をインサートして成形した樹脂歯車においては歯元の強度は金属インサートで補強される為に歯車の耐久性には課題とならないが、歯面の樹脂の摩擦摩耗が歯車の耐久性に大きく影響する。この事から樹脂は摩擦摩耗特性に優れるスーパーエンプラにカーボンファイバー等を配合した繊維強化が好ましい。しかしながら、このような樹脂は非常に高価で実用化に当たってはコストが大きな課題となっていた。この点、特許文献1,2の技術によれば、溶融樹脂の流路が複雑化し、インサートの製造コストが嵩むほか、溶融樹脂の使用量が増して、材料コストが嵩むという問題があった。また、特許文献3の技術によれば、温度管理に手間がかかるという問題があった。
【0005】
そこで、本開示の目的は、歯底から歯先に向かうように繊維配向を調整でき、かつ、歯先の中央ラインと一致するようにウェルドラインを形成でき、さらに、インサートに形成された溶融樹脂の流路が簡素である樹脂成形歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の樹脂成形歯車は、以下の特徴を備える。
【0007】
(1)インサート成形された樹脂成形歯車であって、樹脂成形歯車と歯車形状のインサートを備え、インサートが、ウェブ部と、歯部と、ウェブ部又は歯部に溶融樹脂を流す流路と、を含み、歯部が、樹脂成形歯車の歯底と対向する歯底部と、樹脂成形歯車の歯先と対向する歯先部と、を含み、ウェブ部の表面に、環状の第1流路が形成され、第1流路の外縁部に、歯底部に溶融樹脂を流出させる流出口を設けたこと。
【0008】
(2)(1)の樹脂成形歯車において、インサートは金属材であること。
【0009】
(3)(1)又は(2)の樹脂成形歯車において、インサートを被覆する樹脂部は、繊維強化樹脂であること。
【発明の効果】
【0010】
本開示の樹脂成形歯車によれば、第1流路の外縁部に、歯底部に溶融樹脂を流出させる流出口を設けたため、第1流路から歯底部に流出した溶融樹脂はキャビティ内を歯部の歯面部に沿って流動し、歯先部の中央ラインで合一する。従って、繊維配向が歯車歯の歯底から歯先に向かうように配置され、歯車歯の歯先の中央ラインにウェルドラインが形成される。また、第1流路の外縁部に流出口を設けたため、流路が簡素化され、溶融樹脂量の少量化ができるとともに、インサート自体の製造コストも抑えることができる。また、金属インサートで樹脂の収縮を抑える事ができる為に、樹脂歯形部の金型精度で高精度の樹脂歯車を製作する事ができるので、金属インサート自体には金属歯車の要求される精度が必要とされない事から製造コストも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態を示す樹脂成形歯車の(a)平面図、(b)底面図である。
【
図2】
図1の樹脂成形歯車の(a)平面側から見た斜視図、(b)底面側から見た斜視図である。
【
図3】インサートの(a)平面図、(b)底面図である。
【
図4】インサートの(a)平面側から見た斜視図、(b)底面側から見た斜視図である。
【
図5】(a)A-A線断面図、(b)B-B線断面図である。
【
図6】樹脂成形歯車の製造方法を示す模式図である。
【
図7】樹脂成形歯車の繊維配向とウェルドラインを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を樹脂成形歯車に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~5に示すように、樹脂成形歯車1は、インサート成形された樹脂成形歯車である。樹脂成形歯車1は、インサート2と樹脂部材3とから構成されている。また、樹脂成形歯車1は、ウェブ11と歯車歯12とを備える。歯車歯12は、歯底12aと、歯面12bと、歯先12cとから構成されている。以下、図面の紙面上方側を樹脂成形歯車1及びインサート2の表面、紙面下方側を樹脂成形歯車1及びインサート2の裏面として説明する。
【0013】
インサート成形とは、金型4とインサート2との間に溶融樹脂31を注入する製法である。ここで、インサート2は金属材を選択することが好ましい。溶融樹脂31を注入する際に、熱による変形を抑制し、設計寸法により近い精度の高い樹脂成形歯車1を成形することができるからである。一方、歯車を金属のみで構成するよりも、樹脂により被覆し、樹脂成形歯車とすることにも、メリットがある。樹脂は、金属よりも静音性が高いため、歯車歯を樹脂で被覆すると、作動音を抑制することができるからである。
【0014】
インサート2の素材は、具体的には、アルミ合金、マグネシウム合金、鉄合金などの金属、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂を選択できる。また、インサート2は、焼結、金属粉未射出成形(MIM:Metal Injection Molding)、鍛造、プレス成形により成形される。特に、MIMでインサート2を形成した場合は、インサート2の設計の自由度、経済性の面で優れている。
【0015】
樹脂部材3の素材は、具体的には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラメチレンアジパミド(PA46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(PA66)、ポリノナメチレンテレフタラミド(PA9T)、ポリデカメチレンテレフタラミド(PA10T)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(PA12T)などの合成樹脂材料を採用できる。樹脂部材3を、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などで補強したり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、シリコン樹脂、二硫化モリブデン、グラファイトなどの潤滑剤を配合し、摩擦特性を付与したりすることも可能である。
【0016】
図3~5に示すように、インサート2は、樹脂成形歯車1と略相似形状の歯車形状に設けられ、ウェブ部21と、歯部22から構成される。歯部22は、樹脂成形歯車1の歯底12aと対向する歯底部22aと、樹脂成形歯車1の歯面12bと対向する歯面部22bと、樹脂成形歯車1の歯先12cと対向する歯先部22cと、を有する。
【0017】
ウェブ部21の表面には、第1流路23が環状に形成され、第1流路23の外縁部に、歯底部22aに溶融樹脂31を流出させる流出口23aが設けられている。第1流路23の流路幅w1は適宜選択可能であるが、溶融樹脂31の量を抑制するためにはより細く設けることが好ましい。
【0018】
ウェブ部21の裏面には、第2流路24が環状に形成されている。また、ウェブ部21には、ウェブ部21の表面から裏面に貫通する貫通穴25が設けられている。貫通穴25の開口部25aは第1流路23、開口部25b(
図5参照)は第2流路24に、各々配置されている。貫通穴25及び第2流路24を設けたため、貫通穴25及び第2流路24に充填された樹脂部材3が硬化すると、樹脂成形歯車1からのインサート2の脱落を防止することができる。なお、溶融樹脂31の注入口13は、開口部25aの鉛直上方に配置することが好ましい。また、注入口13の数は適宜変更可能である。
【0019】
ここで、第1流路23の深さd(
図5参照)、第1流路23の流路幅w1、及び、流出口23aの幅w2、流出口23aの凹み幅w3(
図3参照)は、歯面部22bを被覆する樹脂部材3の厚みw0(
図1参照)よりも大きく、即ち、「d>w0、w1>w0、w2>w0、w3>w0」のように設けられている。歯面12bを被覆する樹脂部材3の厚みw0より、第1流路23のd、w1、w2、w3を大きく設けたため、各歯底部22aに到達する溶融樹脂31の到達時間差を抑制することができる。このため、各歯車歯12において、歯面12bでの樹脂ウェルドの発生を防止することができる。つまり、歯面部22bにおける溶融樹脂32の流動バランスを均一に調整し、各々の歯車歯12の歯先12cに確実にウェルドライン33を形成することができる。
【0020】
また、第1流路23の流路幅w1は、流出口23の幅w3よりも大きく、即ち、「w1>w3」のように設けられている。このため、溶融樹脂3の周方向の流れを優先し、注入口13から遠い歯車歯12への溶融樹脂3の遅延を低減し、歯車歯12の品質をより均一化することができる。また、流出口23の凹み幅W3を、流路幅w1の1/2以下とすることもできる。この場合も、溶融樹脂3の周方向の流れを優先して、注入口13から遠い歯車歯12への溶融樹脂31の遅延を低減し、歯車歯12の品質をより均一化することができる。
【0021】
続いて、上記構成の樹脂成形歯車1の製造方法について、
図6に基づいて説明する。注入口13に溶融樹脂31を注入すると、溶融樹脂31は第1流路23に沿って周方向に流動し、第1流路23の流出口23aから歯底部22aに流入する。歯底部22aに流入した溶融樹脂31は、歯底部22aに沿って、インサート2の厚み方向に流動する。また、このとき、溶融樹脂31は、歯車歯12を形成するキャビティ5内を歯底部22aから歯先部22cに向けて、歯面部22bを這うように流動する。
【0022】
その後、溶融樹脂31が硬化すると、
図7に示すように、溶融樹脂31の流動方向、即ち、歯底12aから歯先12cに向かう繊維配向の樹脂繊維32からなる樹脂部材3が形成される。また、歯先12cの中央ラインと一致するようにウェルドライン33が形成される。
【0023】
一方、注入口13から注入された溶融樹脂31は、ウェブ部21の表面の開口部25aから裏面に向けて貫通穴25の内部を流動し、裏面の開口部25bから第2流路24に流入する。第2流路24に流入した溶融樹脂31は、インサート2の裏面を第2流路24に沿って周方向に流動する。その後、溶融樹脂31が硬化すると、樹脂成形歯車1の内部を貫通した樹脂部材3及び樹脂成形歯車1の裏面に形成された環状の樹脂部材3によって、インサート2の脱落を防止できる。
【0024】
従って、本開示の樹脂成形歯車1によれば、第1流路23の外縁部に、歯底部22aに溶融樹脂31を流出させる流出口23aを設けたため、第1流路23を流動する溶融樹脂31を、直接、歯底部22aに流入させ、さらに、キャビティ内を、歯底12aから歯先12cに向かわせることができるため、歯底12aから歯先12cに向かうように樹脂配向を整えることができる。また、インサート2は、第1流路23の外縁部に直接溶融樹脂31を流出させる流出口23aを設けた簡素な構造であるため、インサート2の製造コストを低減でき、かつ、溶融樹脂31の量を削減して材料コストを低減できるという効果がある。
【0025】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、例えば、歯車の形状や歯数を変更したり、樹脂部材3の厚みを変更したりするなど、各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 樹脂成形歯車
2 インサート
3 樹脂部材
4 金型
5 キャビティ
11 ウェブ
12 歯車歯(a:歯底、b:歯面、c:歯先)
13 注入口
21 ウェブ部
22 歯部(a:歯底部、b:歯面部、c:歯先部)
23 第1流路(a:流出口)
24 第2流路
25 貫通穴(a:表面の開口部、b:裏面の開口部)
31 溶融樹脂
32 樹脂繊維
33 ウェルドライン