(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081300
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】自己始動形同期電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/24 20060101AFI20240611BHJP
H02K 19/14 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H02K1/24 A
H02K19/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194819
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 洋士
【テーマコード(参考)】
5H601
5H619
【Fターム(参考)】
5H601AA29
5H601CC01
5H601DD01
5H601DD11
5H601GB24
5H601GB26
5H619BB15
5H619PP02
5H619PP04
(57)【要約】
【課題】ポールヘッドに流れる電流の偏りを抑制可能な自己始動形同期電動機を提供する。
【解決手段】自己始動形同期電動機は、筐体と、前記筐体に収容された固定子と、前記固定子に囲まれるとともに回転軸まわりに回転可能なシャフトと、前記固定子と前記シャフトとの間で前記回転軸の径方向に延びた突極と、前記径方向において前記突極と前記固定子との間に位置するポールヘッドと、前記ポールヘッドに設けられた孔を通過して前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける締結部材と、前記孔に嵌め込まれるとともに前記孔の内周面に接触する導電部材と、を有し、前記シャフトに取り付けられた回転子と、を備え、前記ポールヘッドと前記導電部材とは、互いに同一の材料で形成される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体に収容された固定子と、
前記固定子に囲まれるとともに回転軸まわりに回転可能なシャフトと、
前記固定子と前記シャフトとの間で前記回転軸の径方向に延びた突極と、前記径方向において前記突極と前記固定子との間に位置するポールヘッドと、前記ポールヘッドに設けられた孔を通過して前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける締結部材と、前記孔に嵌め込まれるとともに前記孔の内周面に接触する導電部材と、を有し、前記シャフトに取り付けられた回転子と、
を備え、
前記ポールヘッドと前記導電部材とは、互いに同一の材料で形成される、
自己始動形同期電動機。
【請求項2】
筐体と、
前記筐体に収容された固定子と、
前記固定子に囲まれるとともに回転軸まわりに回転可能なシャフトと、
前記固定子と前記シャフトとの間で前記回転軸の径方向に延びた突極と、前記径方向において前記突極と前記固定子との間に位置するポールヘッドと、前記ポールヘッドに設けられた孔を通過して前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける締結部材と、前記孔に嵌め込まれるとともに前記孔の内周面に接触する導電部材と、を有し、前記シャフトに取り付けられた回転子と、
を備え、
前記ポールヘッドは、前記径方向の外側に向く曲面状の第1外面を有し、
前記導電部材は、前記径方向の外側に向くとともに前記第1外面に沿って延びる曲面状の第2外面を有する、
自己始動形同期電動機。
【請求項3】
前記孔は、前記締結部材が通過する第1孔と、前記第1孔に連通して前記導電部材が嵌め込まれるとともに前記第1孔よりも断面が大きい第2孔と、を有し、
前記締結部材は、前記第1孔を通過する柱部と、前記柱部の端部に設けられて前記第2孔に位置するとともに前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける頭部と、前記頭部から突出して前記第2孔に位置する第1雄ネジとを有し、
前記導電部材は、前記第1雄ネジと嵌合する第1雌ネジを有する、
請求項1又は2に記載の自己始動形同期電動機。
【請求項4】
前記導電部材の外周面は、前記第2孔の内周面に接触し、
前記導電部材の外周面及び前記第2孔の内周面はそれぞれ、前記突極に向かって先細る、
請求項3に記載の自己始動形同期電動機。
【請求項5】
前記孔は、前記締結部材が通過する第1孔と、前記第1孔に連通して前記導電部材が嵌め込まれるとともに前記第1孔よりも断面が大きい第2孔と、を有し、
前記締結部材は、前記第1孔を通過する柱部と、前記柱部の端部に設けられて前記第2孔に位置するとともに前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける頭部と、を有し、
前記ポールヘッドは、前記第2孔の内周面に設けられた第2雌ネジを有し、
前記導電部材は、当該導電部材の外周面に設けられるとともに前記第2雌ネジと嵌合する第2雄ネジを有する、
請求項1又は2に記載の自己始動形同期電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己始動形同期電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、突極に巻線が巻き付けられた突極形の回転子と、巻線が巻き付けられた固定子と、を備えた自己始動形同期電動機が知られている。突極に、例えばボルトによってポールヘッドが取り付けられる。
【0003】
自己始動形同期電動機の始動時において、ポールヘッドの外面には、固定子に巻き付けられた巻線から発生した回転磁界による電磁誘導によって渦電流が流れる。回転子は、ポールヘッドの外面を流れる渦電流によって回転を始める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポールヘッドの外面には、ボルトが通る孔が設けられる。ポールヘッドの外面を流れる渦電流は、当該孔には流れない。そのため、ポールヘッドの外面を流れる渦電流に偏りが生じ、当該ポールヘッドは局所的に発熱するおそれがある。
【0006】
本発明が解決する課題の一例は、ポールヘッドに流れる電流の偏りを抑制可能な自己始動形同期電動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の自己始動形同期電動機は、筐体と、前記筐体に収容された固定子と、前記固定子に囲まれるとともに回転軸まわりに回転可能なシャフトと、前記固定子と前記シャフトとの間で前記回転軸の径方向に延びた突極と、前記径方向において前記突極と前記固定子との間に位置するポールヘッドと、前記ポールヘッドに設けられた孔を通過して前記ポールヘッドを前記突極に取り付ける締結部材と、前記孔に嵌め込まれるとともに前記孔の内周面に接触する導電部材と、を有し、前記シャフトに取り付けられた回転子と、を備え、前記ポールヘッドと前記導電部材とは、互いに同一の材料で形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の回転電機によれば、ポールヘッドに流れる電流の偏りを抑制可能な自己始動形同期電動機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の自己始動形同期電動機の断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の回転子の断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のポールヘッドの平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の回転子の一部を拡大した断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の回転子の一部を拡大した分解断面図である。
【
図6】
図6は、本実施形態の変形例の回転子の一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係る自己始動形同期電動機1を図面に基づいて説明する。以下に記載する実施形態の構成、並びに当該構成によってもたらされる作用及び結果(効果)は、あくまで一例であって、以下の記載内容に限られるものではない。なお、本明細書では、序数は、部品や部材を区別するためだけに用いられており、順番や優先度を示すものではない。
【0011】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係る自己始動形同期電動機1の断面図である。本実施形態の自己始動形同期電動機1は、例えば、突極形の同期機である。
図1に示すように、自己始動形同期電動機1は、筐体2と、固定子3と、シャフト4と、回転子5と、二つの軸受6と、を備える。
【0012】
以下の各図では、便宜上、互いに直交する三方向が定義されている。X方向は、筐体2の長手方向に沿う方向であり、前後方向とも称され得る。Y方向は、筐体2の短手方向に沿う方向であり、左右方向とも称され得る。Z方向は、筐体2の上下方向に沿う方向であり、上下方向とも称され得る。なお、本実施形態における前後左右上下のような方向を示す表現は、便宜上の呼称であり、自己始動形同期電動機1の位置、姿勢、及び使用態様を限定するものではない。
【0013】
筐体2は、金属等により箱型に形成される。筐体2は、固定子3と回転子5とを収容している。前後方向(X方向)における筐体2の両端には、X方向に開口した開口部21が設けられている。
【0014】
固定子3は、固定子鉄心31と、固定子巻線32と、を有する。固定子鉄心31は、筐体2に固定されている。固定子鉄心31は、径方向における回転子5の外側に位置し、回転子5を囲む円筒状に形成されている。固定子巻線32は、軸方向に延びるように固定子鉄心31の内周部31aに形成された複数のスロット(不図示)内を貫通して、当該固定子鉄心31に固定されている。
【0015】
シャフト4は、固定子3に囲まれた回転軸Axまわりに回転可能なように、二つの軸受6を介して筐体2に支持されている。言い換えると、二つの軸受6は、シャフト4を筐体2に対して回転可能に支持している。回転軸Axは、例えば、シャフト4の中心軸(中心線)である。なお、回転軸Axは、シャフト4の中心軸と異なっても良い。
【0016】
以下の説明では、便宜上、回転軸Axの軸方向、径方向、および周方向が定義されている。軸方向は、回転軸Axに沿う方向である。径方向は、回転軸Axと直交する方向である。周方向は、回転軸Axまわりの方向である。なお、以下の説明では、特に言及しない限り、軸方向、径方向、および周方向は、回転軸Axの軸方向、径方向、および周方向である。
【0017】
シャフト4は、筐体2の開口部21を貫通するように、回転軸Axに沿って軸方向に延びている。シャフト4のうち軸方向の両端部4a、4bの間の部分は、筐体2に収容されている。一方、シャフト4の軸方向の両端部4a、4bは、筐体2から外部に突出している。
【0018】
一方の端部4aは、例えば、種々の結合対象と結合される。また、他方の端部4bには、外扇が固定されている。外扇は、例えば外扇カバーに覆われ、シャフト4と一体に回転する。
【0019】
シャフト4における二つの軸受6と回転子5とのそれぞれの間には、内扇41が固定されている。内扇41は、シャフト4と一体に回転し、閉空間において冷却用気体を循環させる。
【0020】
図2は、本実施形態に係る回転子5の断面図である。
図2に示すように、回転子5は、回転子鉄心51と、複数の回転子巻線52と、複数のポールヘッド53と、複数のスタッドボルト54と、複数のナット55と、複数のブラケット56とを有する。なお、スタッドボルト54は締結部材の一例であり、ナット55は導電部材の一例である。
【0021】
図1に示すように、回転子鉄心51は、シャフト4のうち軸方向の両端部4a、4bの間の部分に取り付けられている。このため、回転子鉄心51は、筐体2に収容されるとともに、シャフト4と一体に回転する。
【0022】
二つの軸受6は、筐体2の開口部21に設けられている。すなわち、回転子鉄心51は、軸方向において二つの軸受6の間に位置している。二つの軸受6は、例えば、すべり軸受等である。
【0023】
図2に示すように、回転子鉄心51は、中央部510と、複数の突極511を有する。中央部510は、シャフト4に取り付けられている。突極511は、中央部510から固定子鉄心31の内周部31aに向かって径方向外側に突出している。言い換えると、突極511は、固定子3とシャフト4との間で回転軸Axの径方向に延びている。内周部31aは、例えば、固定子鉄心31の内周面、又は固定子鉄心31の径方向内側の端部である。
【0024】
回転子巻線52は、回転子鉄心51の突極511の側面511aに巻き付いている。言い換えると、回転子巻線52は、突極511を囲んでいる。側面511aは、突極511が延びる方向と交差する方向(例えば軸方向および周方向)に向く突極511の外面である。回転子巻線52は、例えば、ブラケット56によって突極511に固定されている。
【0025】
各ポールヘッド53は、対応する突極511の回転軸Axの径方向の外側における端部に取り付けられる。各ポールヘッド53は、突極511の側面511aから軸方向及び周方向に張り出している。これにより、各ポールヘッド53は、回転子巻線52を径方向外側から押さえる。このため、ポールヘッド53は、径方向において突極511と固定子鉄心31の内周部31aとの間に位置する。
【0026】
ポールヘッド53は、端面53aと底面53bとを有する。端面53aは、径方向の外側に向くとともに略周方向に延びる円弧状の曲面である。端面53aの半径は、固定子鉄心31の内周部31aの半径より短い。そのため、端面53aは、内周部31aから離間し、当該端面53aと内周部31aとの間に隙間が形成される。なお、端面53aの中心は、固定子鉄心31の内周部31aの中心と異なっていても良い。また、端面53aは第1外面の一例である。底面53bは、端面53aの反対側に位置し、突極511に向いている。
【0027】
図3は、本実施形態に係るポールヘッド53の平面図である。
図3に示すように、ポールヘッド53には、複数の孔531が設けられている。なお、本実施形態では、複数の孔531は、2列に並んで開口しているが、孔531の個数や配置位置は適宜変更しても良い。
【0028】
図4は、本実施形態に係る回転子5の一部を拡大した断面図である。
図4に示すように、複数の孔531は、径方向に延びてポールヘッド53を貫通し、端面53a及び底面53bに開口する。孔531は、突極511に設けられた穴512と連通する。複数の孔531はそれぞれ、第1孔531aと、第2孔531bと、を有する。
【0029】
第1孔531aは、ポールヘッド53の底面53bに開口する孔531の一部である。第2孔531bは、ポールヘッド53の端面53aに開口する孔531の一部である。第2孔531bは、第1孔531aに連通する。第2孔531bは、ナット55を嵌め込み可能なように形成されている。すなわち、第2孔531bの内径は、ナット55の外径と略等しい。
【0030】
第2孔531bの直径は、第1孔531aの直径よりも大きい。言い換えると、第2孔531bは、第1孔531aよりも断面が大きい。そのため、孔531には突起532が設けられる。突起532は、第2孔531bの内周面531b1から突出し、第1孔531aを形成する。
【0031】
第2孔531bの内周面531b1は、例えば、テーパー加工が施されており、突極511に向かって先細っている。言い換えると、第2孔531bの内周面531b1は、突極511に向かって先細る傾斜部531b2を有する。
【0032】
スタッドボルト54は、ポールヘッド53の孔531を通過して突極511の穴512に挿入される。スタッドボルト54は、柱部541と、頭部542と、雄ネジ543と、突出部544と、を有する。なお、雄ネジ543は第1雄ネジの一例である。
【0033】
柱部541は、スタッドボルト54においてポールヘッド53の第1孔531aを通過するとともに、突極511の穴512に挿入される部分である。すなわち、柱部541の外径は、第1孔531aの直径より若干小さい。
【0034】
図4に示すように、柱部541の外周面には、雄ネジ541aが設けられている。雄ネジ541aは、穴512の内周面に設けられた雌ネジ512aと嵌合する。これにより、柱部541は、突極511の穴512に取り付けられる。
【0035】
頭部542は、柱部541の一方の端部541bに設けられる。頭部542は、スタッドボルト54がポールヘッド53の孔531に挿入された状態において、第2孔531bに位置する。
【0036】
頭部542は、柱部541よりも外径が大きい円柱形状である。そして、頭部542は、スタッドボルト54がポールヘッド53の孔531に挿入された際に突起532と接触する位置に設けられる。そのため、頭部542は、第1孔531aを覆うことが可能である。すなわち、スタッドボルト54をポールヘッド53の孔531および突極511の穴512に挿入した際、頭部542は、ポールヘッド53の突起532を径方向の外側から押さえる。これにより、頭部542は、ポールヘッド53を突極511に取り付けることができる。
【0037】
突出部544は、頭部542から径方向外側に突出している。雄ネジ543は、突出部544に設けられる。雄ネジ543は、スタッドボルト54がポールヘッド53の孔531に挿入された状態において、第2孔531bに位置する。
【0038】
なお、突出部544の端面には、図示されない六角ボルト用穴等の、作業者が工具等を用いてスタッドボルト54を回転させ、雄ネジ541aを雌ネジ512aに嵌合させるための穴を設けても良い。
【0039】
ナット55は、スタッドボルト54を覆うとともに、ポールヘッド53の第2孔531bに嵌め込まれる。ナット55は、ポールヘッド53と同一の材料で形成される。これにより、ポールヘッド53とナット55との間の電気抵抗が低減される。
【0040】
図5は、本実施形態に係る回転子5の一部を拡大した分解断面図である。
図5に示すように、ナット55は、端面55aを有する。端面55aは、径方向の外側に向く。端面55aは、
図5に示すポールヘッド53の第2孔531bに嵌め込まれる前には、略平坦に形成される。
【0041】
本実施形態では、例えば、ナット55をポールヘッド53の第2孔531bに嵌め込んだ際、ナット55におけるポールヘッド53の第2孔531bから外部に露出した部分に対してヤスリ掛け等の研削加工や研磨加工を行う。そのため、ヤスリ掛け等を行われる前のナット55の厚さは、当該ナット55をポールヘッド53の第2孔531bに嵌め込んだ際、ポールヘッド53の端面53aから露出するような厚さに設定される。
【0042】
ヤスリ掛け等の研削加工や研磨加工によって、ナット55の端面55aは、
図4に示すようにポールヘッド53の端面53aに沿って延びる円弧状の曲面になる。これにより、ナット55の端面55aとポールヘッド53の端面53aとによる段差が生じにくくなる。なお、端面55aは第2外面の一例である。
【0043】
本実施形態では、ヤスリ掛け後のナット55の厚さは、2~3mm程度である。しかし、ナット55の厚さは、少なくとも2mm以上あれば良い。一般的にポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流は、当該端面53aから2mm~3mm程度の深さまで流れる。そのため、本実施形態では、ポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流が端面53aを流れ易い。
【0044】
ナット55には、凹部551と、二つの穴552と、が設けられている。凹部551は、径方向内側におけるナット55の端部から径方向外側に凹んでいる。
【0045】
凹部551には、スタッドボルト54の突出部544が嵌まる。そのため、凹部551の内径は、突出部544の外径と略同等である。さらに、凹部551の深さは、突出部544の長さより若干長い。
【0046】
二つの穴552は、例えば、作業者が工具等を用いてナット55をポールヘッド53の孔531に嵌め込むための穴である。穴552は、ナット55の端面55aに開口している。なお、穴552のサイズは、孔531と比較して極めて小さく、ポールヘッド53の端面53aを流れる電流に影響を与えない大きさである。
【0047】
本実施形態では、二つの穴552が設けられているが、穴552の数やサイズ等は、ポールヘッド53の端面53aを流れる電流に影響を与えない範囲で適宜変更して良い。また、穴552は、ナット55の端面55aに行うヤスリ掛け等の研削加工や研磨加工によって無くなっても良い。
【0048】
ナット55は、雌ネジ553をさらに有する。なお、雌ネジ553は、第1雌ネジの一例である。雌ネジ553は、凹部551の内周面に設けられている。そのため、雌ネジ553は、スタッドボルト54の雄ネジ543と嵌合する。
【0049】
第2孔531bの内周面531b1と接触するナット55の外周面55bは、内周面531b1と同様に突極511に向かって先細っている。言い換えると、ナット55の外周面55bは、突極511に向かって先細る傾斜部554を有する。
【0050】
これにより、ナット55をポールヘッド53の第2孔531bに嵌め込んだ際、ナット55の外周面55bと第2孔531bの内周面531b1との間の隙間が生じにくくなる。
【0051】
自己始動形同期電動機1を始動させる場合、固定子3の固定子巻線32に電流を流す。固定子巻線32に電流が流れることで、固定子3において回転磁界が発生する。固定子3において発生した回転磁界によって電流が誘導され、突極511に取り付けられたポールヘッド53の端面53aには渦電流が流れる。そして、ポールヘッド53が当該ポールヘッド53の端面53aに流れる渦電流によって励磁されることで、回転子5は回転を始める。
【0052】
ポールヘッド53の端面53aに流れる渦電流は、ポールヘッド53の端面53aに沿って流れる。ポールヘッド53の端面53aには、ポールヘッド53の第2孔531bに嵌まったナット55の端面55aが露出している。
【0053】
ナット55の端面55aは、ポールヘッド53の端面53aに沿う円弧状の曲面である。そのため、ナット55は、ポールヘッド53の端面53aに対して実質的に段差なく嵌まる。さらに、ナット55は、外周面55bが突極511に向かって先細っていることによって、内周面531b1に対して隙間なく第2孔531bに嵌まる。これにより、ポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流は、互いに接触する内周面531b1および外周面55bを通って、ポールヘッド53とナット55との間で流れる。従って、渦電流は、端面53a,55a全体を流れ易くなる。
【0054】
また、本実施形態では、ポールヘッド53とナット55とは、互いに同一の材料で形成され、ポールヘッド53とナット55との電気抵抗には実質的に差がないため、ポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流は、端面53a全体を流れ易い。
【0055】
従って、本実施形態の自己始動形同期電動機1では、ポールヘッド53を流れる電流の偏りを抑制可能である。
【0056】
以上のように、本実施形態の自己始動形同期電動機1は、筐体2と、固定子3と、シャフト4と、回転子5と、を備える。固定子3は、筐体2に収容されている。シャフト4は、固定子3に囲まれるとともに回転軸Axまわりに回転可能である。回転子5は、シャフト4に取り付けられており、突極511と、ポールヘッド53と、スタッドボルト54と、ナット55と、を有する。突極511は、固定子3とシャフト4との間で回転軸Axの径方向に延びている。ポールヘッド53は、径方向において突極511と固定子3との間に位置する。スタッドボルト54は、ポールヘッド53に設けられた孔531を通過して当該ポールヘッド53を突極511に取り付ける。ナット55は、孔531に嵌め込まれるとともに孔531の内周面531b1に接触する。ポールヘッド53とナット55とは、互いに同一の材料で形成されている。
【0057】
回転子5が回転し始めると、固定子3が発生させる回転磁界によってポールヘッド53の端面53aには渦電流が流れる。ポールヘッド53に設けられた孔531には、ナット55が嵌め込まれている。ポールヘッド53とナット55とは、互いに同一の材料で形成されている。そのため、ポールヘッド53およびナット55の電気抵抗には、実質的に差がない。これにより、ポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流は、ナット55の端面55aを含むポールヘッド53の端面53a全体に流れ易くなる。従って、本実施形態の自己始動形同期電動機1では、ポールヘッド53に流れる電流の偏りを抑制可能である。
【0058】
また、本実施形態では、ポールヘッド53は、径方向の外側に向く曲面状の端面53aを有する。ナット55は、径方向の外側に向くとともにポールヘッド53の端面53aに沿って延びる曲面状の端面55aを有する。
【0059】
ナット55の端面55aは、ポールヘッド53の端面53aに沿っている。そのため、ポールヘッド53には、当該ポールヘッド53の端面53aとナット55の端面55aとの間に段差は生じにくい。これにより、ポールヘッド53の端面53aを流れる渦電流は、当該端面53aとナット55の端面55aとを含むポールヘッド53の端面53a全体に流れる。従って、本実施形態の自己始動形同期電動機1は、ポールヘッド53に流れる電流の偏りを抑制可能である。
【0060】
また、本実施形態では、孔531は、第1孔531aと、第2孔531bと、を有する。第1孔531aには、スタッドボルト54が通過する。第2孔531bは、第1孔531aに連通してナット55が嵌め込まれるとともに第1孔531aよりも断面が大きい。スタッドボルト54は、柱部541と、頭部542と、雄ネジ543と、を有する。柱部541は、第1孔531aを通過する。頭部542は、柱部541の端部541bに設けられて第2孔531bに位置するとともにポールヘッド53を突極511に取り付けている。雄ネジ543は、頭部542から突出して第2孔531bに位置する。ナット55は、雄ネジ543と嵌合する雌ネジ553を有する。
【0061】
スタッドボルト54は、頭部542によってポールヘッド53を突極511に取り付けるとともに、雄ネジ543によってナット55を当該スタッドボルト54に取り付ける。すなわち、スタッドボルト54は、ポールヘッド53を突極511に取り付けるとともに、回転子5が回転することによる遠心力によってナット55が飛散することを防ぐ。これにより、自己始動形同期電動機1の部品点数増加が抑制されるとともに、回転子5が回転することによる遠心力によってポールヘッド53が飛散することを抑制できる。
【0062】
また、本実施形態では、ナット55の外周面55bは、第2孔531bの内周面531b1に接触する。ナット55の外周面55bおよび第2孔531bの内周面531b1はそれぞれ、突極511に向かって先細る。
【0063】
ポールヘッド53に設けられた第2孔531bにナット55を嵌め込んだ際、第2孔531bの内周面531b1とナット55の外周面55bとの間には隙間が生じるおそれがある。この隙間は、第2孔531bの内周面531b1およびナット55の外周面55bが突極511に向かって先細っているため、ナット55が第2孔531bに嵌め込まれるにつれて小さくなる。これにより、第2孔531bの内周面531b1とナット55の外周面55bとの間には隙間が生じにくくなる。
【0064】
(変形例)
本実施形態では、ポールヘッド53の端面53aにおいて、スタッドボルト54およびナット55により段差および隙間が生じにくくなっている。しかし、ポールヘッド53端面53aに段差および隙間を生じにくくする構成は、これに限らない。
【0065】
図6は、本実施形態に係る変形例の回転子5Aの一部を拡大した断面図である。
図6に示すように、変形例の回転子5Aは、下記に説明される構成を除き、前記実施形態の回転子5と同様の構成を備えている。よって、本変形例によっても、前記実施形態と同様の構成に基づく効果が得られる。
【0066】
本変形例では、回転子5Aは、前記実施形態のナット55と異なるナット55Aを有する。さらに、ポールヘッド53の第2孔531bの内周面531b1は、突極511に向かって先細っておらず、略一定の内径を有する。ポールヘッド53は、内周面531b1に雌ネジ533を有している。なお、雌ネジ533は第2雌ネジの一例である。
【0067】
ナット55Aは、外周面55bに雄ネジ555と有する。なお、雄ネジ555は第2雄ネジの一例である。雄ネジ555は、第2孔531bの内周面531b1に設けられた雌ネジ533と嵌合する。そのため、ナット55Aの外周面55bとポールヘッド53の第2孔531bの内周面531b1との間の隙間は、雄ネジ555と雌ネジ533とが嵌合することにより埋まる。これにより、ナット55Aは、第2孔531bに実質的に隙間なく嵌まる。
【0068】
ナット55Aは、雄ネジ555と雌ネジ533との嵌合によりポールヘッド53に取り付けられる。このため、スタッドボルト54は、雄ネジ543と突出部544とを省略される。さらに、ナット55Aは、凹部551を省略される。
【0069】
以上のように、ポールヘッド53は、第2孔531bの内周面531b1に設けられた雌ネジ533を有する。ナット55Aは、当該ナット55Aの外周面55bに設けられるとともに雌ネジ533と嵌合する雄ネジ555を有する。ナット55Aは、雄ネジ555と第2孔531bに設けられた雌ネジ533とが嵌合することによりポールヘッド53の孔531に嵌め込まれる。これにより、ナット55Aが、回転子5Aが回転することによる遠心力によって飛散することをさらに抑制できる。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、形式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…自己始動形同期電動機、2…筐体、3…固定子、4…シャフト、5、5A…回転子、511…突極、53…ポールヘッド、53a…端面(第1外面)、531…孔、531a…第1孔、531b…第2孔、531b1…内周面、533…雌ネジ(第2雌ネジ)、54…スタッドボルト(締結部材)、541…柱部、541b…端部、542…頭部、543…雄ネジ(第1雄ネジ)、55、55A…ナット(導電部材)、55a…端面(第2外面)、55b…外周面、553…雌ネジ(第1雌ネジ)、555…雄ネジ(第2雄ネジ)、Ax…回転軸。