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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081305
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】麹の出来評価方法及び麹の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/022 20190101AFI20240611BHJP
【FI】
C12G3/022 119F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194824
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593134472
【氏名又は名称】黄桜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 理奈
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 章
(72)【発明者】
【氏名】若井 芳則
(72)【発明者】
【氏名】高倉 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久志
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN41
(57)【要約】
【課題】床工程中にグルコアミラーゼ力価を評価することができる麹の出来評価方法を提供する。
【解決手段】蒸米に種麹を散布して麹を製造する製麹工程の床工程において麹の出来を評価する麹の出来評価方法であって、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹の出来を表す指標との関係を示す関係情報と、床工程を実行中に計測した二酸化炭素濃度の増加量とに基づいて、製麹工程の終了時における指標を評価する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸米に種麹を散布して麹を製造する製麹工程の床工程において前記麹の出来を評価する麹の出来評価方法であって、
前記床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と前記製麹工程の終了時における前記麹の出来を表す指標との関係を示す関係情報と、前記床工程を実行中に計測した二酸化炭素濃度の増加量とに基づいて、前記製麹工程の終了時における前記指標を評価する麹の出来評価方法。
【請求項2】
前記二酸化炭素濃度増加量は、前記床工程の開始時点の二酸化炭素濃度又は手入れを行った際の二酸化炭素濃度を基準状態にして、当該基準状態からの二酸化炭素濃度の増加量である請求項1に記載の麹の出来評価方法。
【請求項3】
前記関係情報は、前記床工程の開始から設定経過時間を経過するまでの前期用関係情報と前記設定経過時間を経過して前記床工程を終了するまでの後期用関係情報とであり、
前記前期用関係情報は、前記二酸化炭素濃度増加量が多いほど前記指標が高い関係を示す情報であり、
前記後期用関係情報は、前記二酸化炭素濃度増加量が多いほど前記指標が低い関係を示す情報である請求項1に記載の麹の出来評価方法。
【請求項4】
前記指標が、前記麹のグルコアミラーゼ力価である請求項1に記載の麹の出来評価方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の麹の出来評価方法にて評価された前記指標に基づいて、前記指標を高めるように前記製麹工程における製造条件を調整する麹の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸米に種麹を散布して麹を製造する製麹工程の床工程において前記麹の出来を評価する麹の出来評価方法及び麹の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒の製造は、主として、蒸米に種麹を散布して麹を製造する製麹工程、製麹工程にて製造した麹を用いて蒸米を糖化して糖化液を製造する糖化工程、糖化液を酵母の発酵作用により発酵させてもろみを製造する発酵工程、固液混合状態であるもろみを搾り清酒を得る固液分離工程が順次行われることになる(例えば、特許文献1参照)。なお、糖化工程と発酵工程は同時に発酵タンク内で進行し、これを並行複発酵と呼んでいる。
【0003】
ちなみに、製麹工程は、一般には2日間に亘って行われることが多い。1日目の工程は「床工程」と呼ばれ、密閉環境で30℃前後の高温で、湿度を保つことで、菌糸を増殖させる工程である。2日目の工程は「棚工程」と呼ばれ、既に菌糸の活動が活発化しており、麹の温度(品温)が上昇していくので、低湿度環境にすることにより、増殖した菌糸を成長させる工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-284542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製造された麹の出来を表す指標として、グルコアミラーゼ力価、αアミラーゼ力価、酸性カルボキシペプチターゼ力価などの酵素力価や菌体量などがあり、これらの指標の少なくとも一つを床工程中に評価できることが望まれている。
例えば、製造された麹が含むグルコアミラーゼは、蒸米の澱粉を分解し、糖類を酵母に供給する重要な酵素である。アルコール発酵に必要な糖(グルコース)を生成できるのはグルコアミラーゼのみのため、製造された麹が含むグルコアミラーゼの酵素活性を示すグルコアミラーゼ力価(U/g)は特に重要視されている。
【0006】
従来では、質のいい麹を製造するために、製造者は、五感(見た目、手触り、食感等)を使って製麹状態を判断し、工程の製造条件を調整する(例えば、温度や湿度を制御する)ことにより、質のいい麹の製造を目指している。
しかしながら、製麹工程の初期(床工程)は、蒸米の変化が少なく、五感を使って製麹状態を判断することが難しいため、質のいい麹を安定的に製造することができないものであった。
【0007】
特に、麹のグルコアミラーゼ力価は、五感を使って麹を評価することでは判断できないため、製麹工程中にグルコアミラーゼ力価を評価することは難しいものであることが知られている。
ちなみに、グルコアミラーゼ力価は、試薬を用いて分析するが半日が必要である。従って、製麹工程中において、麹完成後のグルコアミラーゼ力価を評価することはできないため、製造現場では、製麹工程が終了した後に、グルコアミラーゼ力価を測定することが行われている。
【0008】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、床工程中に完成した麹の出来を表す指標を評価することができる麹の出来評価方法を提供する点にある。
また、同時にもう一つの目的として、麹の出来を表す指標を高める麹の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の麹の出来評価方法は、蒸米に種麹を散布して麹を製造する製麹工程の床工程において前記麹の出来を評価する方法であって、その特徴構成は、
前記床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と前記製麹工程の終了時における前記麹の出来を表す指標との関係を示す関係情報と、前記床工程を実行中に計測した二酸化炭素濃度の増加量とに基づいて、前記製麹工程の終了時における前記指標を評価する点にある。
【0010】
すなわち、発明者の鋭意研究により、製麹工程の床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹の出来を表す指標とには相関関係があることが判明した。
例えば、床工程の前期(例えば、製麹開始から6時間が経過するまで)は、二酸化炭素濃度増加量が多いほど麹のグルコアミラーゼ力価が高く、床工程の前期を終了してから床工程を終了するまでの後期では、二酸化炭素濃度増加量が少ないほど麹のグルコアミラーゼ力価が高いことが判明した。
【0011】
従って、例えば、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す関係情報を、予め、実験等により求めて設定しておけば、当該関係情報と床工程を実行中に計測した二酸化炭素濃度の増加量とに基づいて、製麹工程の終了時におけるグルコアミラーゼ力価を、床工程を実行中に、リアルタイムで評価(推測)することができるのである。
【0012】
要するに、本発明の麹の出来評価方法の特徴構成によれば、床工程中に麹の出来を表す指標を評価することができる。
【0013】
本発明の麹の出来評価方法の更なる特徴構成は、前記二酸化炭素濃度増加量は、前記床工程の開始時点の二酸化炭素濃度又は手入れを行った際の二酸化炭素濃度を基準状態にして、当該基準状態からの二酸化炭素濃度の増加量である点にある。
【0014】
二酸化炭素濃度増加量を、床工程の開始時点の二酸化炭素濃度を基準状態にして、当該基準状態からの二酸化炭素濃度の増加量として求めるものであるから、床工程の開始時点からの二酸化炭素濃度増加量を適切に計測して、麹の出来を表す指標を適切に評価することができる。
また、床工程においては、種麹が散布された蒸米に対して手入れが行われる。その際に、種麹が散布された蒸米を収納する収納空間が開放されて、収納空間内に存在する二酸化炭素が外部に拡散することになる。
そこで、二酸化炭素濃度増加量を、手入れを行った際の二酸化炭素濃度を基準状態にして、当該基準状態からの二酸化炭素濃度増加量として求めるものであるから、手入れを行った場合にも二酸化炭素濃度増加量を適切に計測して、麹の出来を表す指標を適切に評価することができる。
【0015】
本発明の麹の出来評価方法の更なる特徴構成は、前記関係情報は、前記床工程の開始から設定経過時間を経過するまでの前期用関係情報と前記設定経過時間を経過して前記床工程を終了するまでの後期用関係情報とであり、
前記前期用関係情報は、前記二酸化炭素濃度増加量が多いほど前記指標が高い関係を示す情報であり、
前記後期用関係情報は、前記二酸化炭素濃度増加量が多いほど前記指標が低い関係を示す情報である点にある。
【0016】
すなわち、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹の出来を表す指標との関係を示す関係情報として、前期用関係情報と後期用関係情報とを設定する。
前期用関係情報は、床工程の開始から設定経過時間を経過するまでの関係情報であり、二酸化炭素濃度増加量が多いほど麹の出来を表す指標が高い関係を示す情報として設定される。
後期用関係情報は、設定経過時間を経過して床工程を終了するまでの関係情報であり、二酸化炭素濃度増加量が多いほど麹の出来を表す指標が低い関係を示す情報として設定される。
【0017】
つまり、発明者の鋭意研究により、製麹工程の床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹の出来を表す指標との相関関係には、床工程の開始から設定経過時間を経過するまでにおいては、正の高い相関関係があり、設定経過時間を経過して床工程を終了するまでにおいては、負の高い相関関係があることが分かった。
【0018】
従って、床工程の開始から設定経過時間を経過するまで、及び、設定経過時間を経過して床工程を終了するまでのいずれにおいても、麹の出来を表す指標を適切に評価することができる。
【0019】
本発明の麹の製造方法の特徴構成は、前記指標が、前記麹のグルコアミラーゼ力価である点にある。
【0020】
すなわち、床工程中に麹の出来を表す指標として、グルコアミラーゼ力価を評価することができる。
製造された麹が含むグルコアミラーゼは、蒸米の澱粉を分解し、糖類を酵母に供給する重要な酵素である。
従って、床工程中に、重要な酵素力価の一つであるグルコアミラーゼ力価を評価することができる。
【0021】
本発明の麹の製造方法の特徴構成は、麹の出来評価方法にて評価された前記指標に基づいて、前記指標を高めるように前記製麹工程における製造条件を調整する点にある。
【0022】
すなわち、麹の出来評価方法にて評価された指標に基づいて、当該指標を高めるように製麹工程における製造条件を調整することにより、製麹工程の終了時における指標を適切に高めることができる。
【0023】
ちなみに、製麹工程における製造条件を調整するとは、例えば、床工程においては、温湿度調節、手入れの回数やタイミング、換気、照明などがあり、棚工程においては、温湿度調節、手入れの回数やタイミング、棚工程用製麹機内にて製造中の麹を保管する際の厚さ、照明、製麹を終了させるタイミングなどがある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】床工程用製麹機の概略図である。
図2】サンプルの製麹条件を示す図である。
図3】製麹温湿度プログラムを示す図である。
図4】製麹開始後の二酸化炭素濃度増加量の経時変化を示すグラフである。
図5】製麹開始後の複数の経過時間における二酸化炭素濃度増加量を示す表である。
図6】製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価を示す表である。
図7】製麹開始後の含水率の経時変化を示すグラフである。
図8】製麹開始後4時間を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との関係を示すグラフである。
図9】製麹開始後20時間を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との関係を示すグラフである。
図10】製麹開始後の複数の経過時間における二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との相関係数を示す表である。
図11】製麹開始後の複数の経過時間における含水率と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との相関係数を示す表である。
図12】他のサンプルの製麹条件及び製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価を示す表である。
図13】他のサンプルの製麹開始後4時間を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との関係を示すグラフである。
図14】他のサンプルの製麹開始後20時間を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時のグルコアミラーゼ力価との関係を示すグラフである。
図15】他のサンプルの製麹開始後の複数の経過時間における二酸化炭素濃度増加量を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔実施形態〕
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態においては、製麹工程の終了時における麹の出来(製麹状態)を表す指標として、麹のグルコアミラーゼ力価を例示する。
【0026】
(製麹工程の概要)
製麹工程は、蒸米に種麹を散布して麹を製造する工程であり、製麹工程の開始後に実行する床工程と、床工程で製造された麹をさらに培養する棚工程とからなる。
尚、以下の記載において、種麹が散布された蒸米や床工程で製造された麹を、製麹処理物Yと略称する場合がある。
【0027】
本実施形態においては、製麹工程が、製麹開始から20時間が経過するまでの床工程と、その後48時間が経過するまでの棚工程とからなる場合を例示するが、床工程を実行する時間及び棚工程を実行する時間は種々変更できる。
【0028】
床工程では、種麹を散布した蒸米を収納する収納空間を備える床工程用製麹機P(図1参照)が使用されることになり、棚工程においては、図示は省略するが、棚工程で製造された麹を上下複数段の棚形態に支持する収納空間を備える棚工程用製麹機が使用されることになる。
床工程用製麹機P及び棚工程用製麹機の収納空間は、制御装置によって電気ヒータや空調装置等が制御されて、図3に示す如く、製麹工程を開始してから終了するまでの温度及び湿度が予め設定された温湿度(製麹温湿度プログラム)に調節されることになる。
【0029】
図1に示すように、床工程用製麹機Pは、上部が開口した筒状の本体部1と、本体部1の上部を開閉する木蓋2とを備え、上述の収納空間が本体部1と木蓋2とにより囲まれた空間として形成される。
本体部1の内部の上下中間部には、鉄板製の載置部3が設けられている。そして、この載置部3に、すのこ4が載置され、すのこ4の上に、布巾で覆われた製麹処理物Yが載置される。
また、載置部3とすのこ4との間に、製麹処理物Yの製麹により発生する二酸化炭素の濃度を検出する二酸化炭素センサ5が設けられている。
【0030】
(製麹工程の具体例)
図2に、A~Eのサンプルを用いた製麹条件を示す。A~Eのサンプルは、種麹として黄麹Aを用い、蒸米として酒造好適米(400g)を用いた。精米歩合は図示の通りである。
尚、サンプルA~B、D~Eについては、米の保管環境として、製麹処理物Yを3枚の布巾で覆って、米に風があたりにくい状態とした。サンプルCについては、製麹処理物Yを1枚の布巾で覆って、米に風があたりやすい状態とした。
【0031】
本実施形態では、製麹前準備として、酒造好適米400gを蒸きょう後に揉みこみながら放冷し、種麹0.67gを蒸米に接触させた。品温が30℃以下にならないように素早く蒸米を揉みこみ、ゴアテックス(登録商標)と布巾で包み、恒温恒湿機に入れた。
次に、床工程用製麹機Pを模した恒温恒湿機(図示せず)を用いて、製麹処理物Yの収納空間を、図3に示す如く、製麹温湿度プログラムに沿って温湿度を制御した状態で、製麹工程を実施した。詳細は後述するが、製麹工程の床工程では、製麹開始4.5~6時間後に手入れ(米をもみほぐす)を行い、手入れ終了後は恒温恒湿機に米をもとの状態に戻して入れた。その後、温湿度を調整しながら、適宜のタイミングで手入れを行った。手入れ以外の時間では、米は放置した。
【0032】
手入れのタイミングは、サンプルB及びEについては、製麹工程(床工程)の開始後、1回目の手入れを270min(分)が経過した時点で行い、他のサンプルA、C、Dについては、1回目の手入れを360min(分)が経過した時点で行った(図3参照)。
その後、A~Eのサンプルについて、製麹工程の開始後の経過時間が同じとなる4つの時点で、2回目~5回目の手入れを行った(図3参照)。
【0033】
尚、本実施形態では、恒温恒湿機としてはヤマト科学株式会社製の恒温恒湿機(IGM300)を用い、恒温恒湿機内のCO濃度を測定するCOセンサとしてはNISSHAエフアイエス株式会社製のNDIR式ガスセンサを用い、恒温恒湿機内の温度及び湿度を測定するセンサとしては株式会社ティアンドディ製の温湿度センサ(TR72rf)を用いたが、これら機器に限定されるものではない。
→使用した恒温恒湿機、CO2センサ、温湿度センサは全て一般的な市販のセンサで代替できますので、メーカー名や型番の記入は控えていただければと存じます。(記載するであれば、CO2センサはNDIR式であるという記載のみで問題ないと思います。)
【0034】
(製麹工程の結果)
図4は、A~Eのサンプルについて、製麹工程(床工程)の開始後において二酸化炭素センサ5にて検出される二酸化炭素濃度の変化を検出した結果、つまり、二酸化炭素濃度増加量の経時変化を示す。製麹開始時間(0h)の二酸化炭素濃度を0とする場合の二酸化炭素濃度増加量を示す。
尚、以下の記載において、二酸化炭素濃度増加量をCO濃度増加量と記載する場合があり、添付図面においても同様である。
【0035】
ちなみに、サンプルB及びEについては、製麹工程(床工程)の開始後の270min(分)が経過した時点で二酸化炭素濃度が急激に低下し、サンプルA、C、Dについては、製麹工程(床工程)の開始後の360min(分)が経過した時点で二酸化炭素濃度が急激に低下する。このように二酸化炭素濃度が急激に低下するのは、木蓋2を開けて手入れを行うことにより、収納空間内の二酸化炭素が外部に拡散するためである。
【0036】
図5は、製麹工程(床工程)の開始後の2h(時間)、4h(時間)、12h(時間)、16h(時間)、20h(時間)の夫々における、単位米重量(kg)当たりの二酸化炭素濃度の増加量を示す。
二酸化炭素濃度の増加量を算出するにあたり、2h(時間)~4h(時間)については、製麹工程(床工程)の開始時点の二酸化炭素濃度を0とし、8h(時間)~20h(時間)については、6h(時間)が経過した時点で手入れがあるため、製麹工程(床工程)を開始してから6h(時間)が経過した時点の二酸化炭素濃度を0とした。
つまり、二酸化炭素濃度増加量は、手入れを行った際には、当該手入れを行った際の二酸化炭素濃度を基準状態にして、当該基準状態からの二酸化炭素濃度の増加量として求められることになる。
【0037】
図6は、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹終了時において、A~Eのサンプルについて、酵素力価として、グルコアミラーゼ(GA)を計測した結果を示す。
尚、グルコアミラーゼの酵素活性を示すグルコアミラーゼ力価(GA)である酵素力価(U/g)は、キッコーマン株式会社製の酵素力価測定キットを用いて計測した。
【0038】
図7は、A~Eのサンプルについて、製麹工程の開始後における製麹処理物Yの含水率の変化を計測した結果を示す。含水率は、床工程では略同じ状態を維持し、棚工程では漸次減少する状態となる。
尚、本実施形態では、含水率は、アルミ皿の上に約2gの米を載せ重量を測定し、135℃で1時間焼成した後に再度重量を測定して、焼成前後の重量変化を焼成前の米重量で除算することにより算出した。
【0039】
(二酸化炭素濃度増加量と酵素力価との関係性について)
図8は、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹終了時におけるA~Eのサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と、製麹開始時点の二酸化炭素濃度増加量を0とした場合における製麹開始後4h(時間)が経過した時点におけるA~Eのサンプルについての二酸化炭素濃度増加量との関係を示すグラフである。
尚、製麹開始後2h(時間)が経過した時点など、製麹開始後手入れが行われる6時間が経過するまでのいずれの時間においても、同様なグラフを求めることができる。
【0040】
このグラフから理解できるように、製麹終了時におけるA~Eのサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と製麹開始後4h(時間)が経過した時点におけるA~Eのサンプルについての二酸化炭素濃度増加量とは、正の高い相関関係があり、当該相関について前期用近似式(例えば、例示する破線)を求めることができる。同様に、製麹開始後2h(時間)が経過した時点など、製麹開始から手入れが行われるまで(正の高い相関関係が維持されている期間まで)の適宜の時点の夫々で、上記前期用近似式を求めることができる。
これら前期用近似式は、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す前期用関係情報に相当する。
【0041】
図9は、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹終了時におけるA~Eのサンプルについての、グルコアミラーゼ力価(GA)と、製麹開始から6h(時間)を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量を0とした場合における製麹開始後20h(時間)が経過した時点におけるA~Eのサンプルについての二酸化炭素濃度増加量との関係を示すグラフである。
尚、製麹開始後8h(時間)、10h(時間)、12h(時間)、14h(時間)、16h(時間)、18h(時間)が経過した時点など、製麹開始後手入れが行われる6時間が経過した後のいずれの時間においても、同様なグラフを求めることができる。
【0042】
このグラフから理解できるように、製麹終了時におけるA~Eのサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と製麹開始後20h(時間)が経過した時点におけるA~Eのサンプルについての二酸化炭素濃度増加量とは、負の高い相関関係があり、当該相関について後期用近似式(例えば、例示する破線)を求めることができる。同様に、製麹開始後8h(時間)、10h(時間)、12h(時間)、14h(時間)、16h(時間)、18h(時間)が経過した時点など、手入れが行われた時点以降(負の高い相関関係が維持されている期間)の適宜の時点の夫々で、上記後期用近似式を求めることができる。
これら後期用近似式は、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す後期用関係情報に相当する。
尚、グルコアミラーゼ力価(GA)と二酸化炭素濃度増加量との相関関係は、床工程の前期で正の高い相関関係を示し、後期で負の高い相関関係を示すが、これら床工程の前期と後期との境界(設定経過時間)は、製麹工程開始から6hから12h程度の時間帯に行われる手入れのうちで一番最後に行われた手入れ(切り返しと呼ばれる)が実行されたタイミングを例示することができる。
【0043】
つまり、本実施形態においては、図10に示す如く、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す相関係数は、床工程の開始から設定経過時間(6時間)を経過するまでは正の高い相関関係があり、設定経過時間(6時間)を経過して床工程を終了するまでは負の高い相関関係がある。
【0044】
以上の通り、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す関係情報は、床工程の開始から設定経過時間(6時間)を経過するまでの前期用関係情報と設定経過時間(6時間)を経過して床工程を終了するまでの後期用関係情報とがある。
そして、前期用関係情報は、二酸化炭素濃度増加量が多いほどグルコアミラーゼ力価が高い関係を示す情報であり、後期用関係情報は、二酸化炭素濃度増加量が多いほどグルコアミラーゼ力価が低い関係を示す情報である。
【0045】
また、図11に示す如く、棚工程の実行中に減少する含水率と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価とは、それらの間には高い相関関係は存在しないことが分かった。
【0046】
(製麹工程の評価方法)
上述した関係情報、つまり、前期用関係情報及び後期用関係情報は、床工程を開始した後の製麹工程の評価時点における二酸化炭素濃度増加量の変動と製麹工程を終了した麹のグルコアミラーゼ力価の変動との関係を示す関係式であるから、当該評価時点における二酸化炭素濃度増加量を測定すれば、関係情報に基づいて、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価を推測することができる。
換言すれば、床工程を実行中の評価時点における二酸化炭素濃度増加量と上述した関係情報とに基づいて、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価を評価することができる。
【0047】
例えば、製麹工程を終了した時点(48時間を経過した時点)におけるグルコアミラーゼ力価の目標値を予め実験等により設定しておく。このグルコアミラーゼ力価の目標値は、製麹工程を終了した時点(48時間を経過した時点)で麹菌が有すべき活性に応じて決定することができる。床工程の開始から設定経過時間(6時間)を経過するまでの時点(例えば、4時間が経過した時点)で測定した二酸化炭素濃度増加量を、床工程の開始から4時間経過した時点での前期用関係情報の前期用近似式と比較する。具体的には、設定したグルコアミラーゼ力価の目標値を前期用近似式に当てはめて目標とする二酸化炭素濃度増加量(目標値)を導出する。そして、測定した二酸化炭素濃度増加量が前期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)よりも低ければ、床工程の開始から4時間経過した時点でのグルコアミラーゼ力価が低く、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価も低くなるものと評価(推測)することができる。一方で、測定した二酸化炭素濃度増加量が前期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)以上であれば、床工程の開始から4時間経過した時点でのグルコアミラーゼ力価が十分に高く、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価も十分に高くなるものと評価(推測)することができる。
また同様に、例えば、床工程の開始から設定経過時間(6時間)が経過した後の時点(例えば、20時間が経過した時点)で測定した二酸化炭素濃度増加量を、床工程の開始から20時間経過した時点での後期用関係情報の後期用近似式と比較する。具体的には、設定したグルコアミラーゼ力価の目標値を後期用近似式に当てはめて目標とする二酸化炭素濃度増加量(目標値)を導出する。そして、測定した二酸化炭素濃度増加量が後期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)よりも高ければ、床工程の開始から20時間経過した時点での二酸化炭素が多く存在する影響によりグルコアミラーゼ力価が低く、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価も低くなるものと評価(推測)することができる。一方で、測定した二酸化炭素濃度増加量が後期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)以下であれば、床工程の開始から20時間経過した時点でのグルコアミラーゼ力価が低くなることが抑えられており、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価が十分に高くなるものと評価(推測)することができる。
尚、製麹工程のうち、床工程での製麹状態の良否は、棚工程の製麹状態の良否と比べて、製麹工程の終了時の製麹状態(グルコアミラーゼ力価)に大きな影響を与えるものであるから、製麹工程の開始からの早い段階(床工程)において、製麹工程の終了時の製麹状態(グルコアミラーゼ力価)を評価(推測)して、製麹工程(特に床工程)の製造条件の調整が可能になることは非常に有用なものとなる。
【0048】
(製麹工程の製造条件の調整)
上述の如く、床工程の評価時点における二酸化炭素濃度増加量と上述した関係情報に基づいて、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価を評価することができるから、評価されたグルコアミラーゼ力価に基づいて、製麹工程を終了した時点におけるグルコアミラーゼ力価を高めるように製麹工程における製造条件を調整することができる。
【0049】
ちなみに、製麹工程における製造条件を調整するとは、床工程においては、温湿度調節、手入れの回数やタイミング、換気、照明などがある。
例えば、上述のように、床工程の開始から設定経過時間(6時間)を経過するまでの時点(例えば、4時間が経過した時点)で測定した二酸化炭素濃度増加量が前期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)よりも低い場合には、収納空間内の温度を上昇させて、製麹処理物Yの温度を上昇させ、床工程の前期において麹菌の活性を向上させる等の調整を行うことができる。測定した二酸化炭素濃度増加量が前期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)以上の場合には、温湿度ともに現状を維持した状態として、床工程の前期において麹菌の活性が向上した状態を維持することができる。
また、例えば、上述のように、床工程の開始から設定経過時間(6時間)が経過した後の時点(例えば、20時間が経過した時点)で測定した二酸化炭素濃度増加量が後期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)よりも高い場合には、収納空間を開放して換気することで収納空間内の二酸化炭素を外部に拡散させて、収納空間内の二酸化炭素濃度を減少させ、床工程の後期において麹菌の活性の低下を抑制させる等の調整を行うことができる。測定した二酸化炭素濃度増加量が後期用近似式から導出した二酸化炭素濃度増加量(目標値)以下の場合には、現状を維持した状態として、床工程の後期において麹菌の活性が安定した状態を維持することができる。
また、棚工程においては、温湿度調節、手入れの回数やタイミング、棚工程用製麹機内にて製麹処理物Yを保管する際の厚さ、照明、製麹を終了させるタイミングなどがある。
ちなみに、製麹工程だけではなく、その前後の工程の製造条件の調整にも展開してもよい。
【0050】
(製麹工程の他の具体例について)
図12に、他のサンプルA’~F’を用いた製麹条件を示す。サンプルA’~F’は、種麹として黄麹Bを用い、蒸米として酒造好適米又は一般米(500kgあるいは550kg)を用いた。精米歩合は図示の通りである。
そして、製麹処理物Yの収納空間を、上述の具体例と同様に、図3に示す製麹温湿度プログラムに沿って温湿度を制御した状態で、製麹工程を実施した。
【0051】
手入れについては、図示の通り、サンプルB’~D’については、適宜のタイミングで行い、他のサンプルについての手入れは省略した。米の製麹環境は統一した。尚、サンプルB’ については、製麹工程(床工程)の開始後、手入れを300min(分)程度が経過した時点で行い、サンプルC’については、製麹工程(床工程)の開始後、手入れを240min(分)程度が経過した時点で行い、サンプルD’については、製麹工程(床工程)の開始後、手入れを240min(分)及び300min(分)程度が経過した時点で行った。
図12には、製麹工程を開始してからの含水率の変化(開始時点(0h)、開始から22時間経過後(22h)、開始から48時間経過後の製麹工程の終了時点(48h))、及び、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹工程の終了時点におけるグルコアミラーゼ力価(GA)を併せて記載する。
【0052】
図15は、製麹工程(床工程)の開始後の2h(時間)、4h(時間)、12h(時間)、16h(時間)、20h(時間)の夫々における、単位米重量(kg)当たりの二酸化炭素濃度の増加量を示す。
二酸化炭素濃度の増加量を算出するにあたり、2h(時間)~4h(時間)については、製麹工程(床工程)の開始時点の二酸化炭素濃度を0とし、8h(時間)~20h(時間)については、6h(時間)程度までに手入れがあるため、製麹工程(床工程)を開始してから6h(時間)が経過した時点の二酸化炭素濃度を0とした。
【0053】
図13は、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹終了時におけるA’~F’のサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と、製麹開始時点の二酸化炭素濃度増加量を0とした場合における製麹開始後4h(時間)が経過した時点におけるA’~F’のサンプルについての二酸化炭素濃度増加量との関係を示すグラフである。
尚、製麹開始後2h(時間)が経過した時点など、製麹開始後手入れが行われる6時間が経過するまでのいずれの時間においても、同様なグラフを求めることができる。
【0054】
このグラフから理解できるように、製麹終了時におけるA’~F’のサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と製麹開始後4h(時間)が経過した時点におけるA’~F’のサンプルについての二酸化炭素濃度増加量とは、正の高い相関関係があり、当該相関について前期用近似式(例えば、例示する破線)を求めることができる。同様に、製麹開始後2h(時間)が経過した時点など、製麹開始から手入れが行われるまで(正の高い相関関係が維持されている期間まで)の適宜の時点の夫々で、上記前期用近似式を求めることができる。
これら前期用近似式は、床工程の実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す前期用関係情報に相当する。ただし、この前期用近似式は、サンプルA’~F’とサンプルA~Eとは種麹が異なるため、サンプルA~Eの前期用近似式とは傾きが異なる。
【0055】
図14は、製麹開始から48h(時間)が経過した製麹終了時におけるA’~F’のサンプルについての、グルコアミラーゼ力価(GA)と、製麹開始から6h(時間)を経過した時点の二酸化炭素濃度増加量を0とした場合における製麹開始後20h(時間)が経過した時点におけるA’~F’のサンプルについての二酸化炭素濃度増加量との関係を示すグラフである。
尚、製麹開始後8h(時間)、10h(時間)、12h(時間)、14h(時間)、16h(時間)、18h(時間)が経過した時点など、製麹開始後手入れが行われる6時間が経過した後のいずれの時間においても、同様なグラフを求めることができる。
【0056】
このグラフから理解できるように、製麹終了時のA’~F’のサンプルについてのグルコアミラーゼ力価(GA)と製麹開始後20h(時間)が経過した時点のA’~F’のサンプルについての二酸化炭素濃度増加量とは、負の高い相関関係があり、当該相関について後期用近似式(例えば、例示する破線)を求めることができる。同様に、製麹開始後8h(時間)、10h(時間)、12h(時間)、14h(時間)、16h(時間)、18h(時間)が経過した時点など、手入れが行われた時点以降(負の高い相関関係が維持されている期間)の適宜の時点の夫々で、上記後期用近似式を求めることができる。
これら後期用近似式は、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す後期用関係情報に相当する。ただし、この後期用近似式は、サンプルA’~F’とサンプルA~Eとは種麹が異なるため、サンプルA~Eの後期用近似式と傾きが異なる。
尚、グルコアミラーゼ力価(GA)と二酸化炭素濃度増加量との相関関係は、床工程の前期で正の高い相関関係を示し、後期で負の高い相関関係を示すが、これら床工程の前期と後期との境界(設定経過時間)は、製麹工程開始から6hから12h程度の時間帯に行われる手入れのうちで一番最後に行われた手入れ(切り返しと呼ばれる)が実行されたタイミングを例示することができる。
【0057】
つまり、A’~F’のサンプルについても、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す相関係数は、床工程の開始から設定経過時間(6時間)を経過するまでは正の高い相関関係があり、設定経過時間(6時間)を経過して製麹工程を終了するまでは負の高い相関関係がある。
尚、図13では製麹開始後4h(時間)が経過した時点の関係情報(相関関係及び近似式)を示し、図14では製麹開始後20h(時間)が経過した時点の関係情報(相関関係及び近似式)を示したが、図15に示す製麹工程(床工程)の開始後の2h(時間)、12h(時間)、16h(時間)の夫々の時点における二酸化炭素濃度の増加量を用いて、各時点での関係情報(相関関係及び近似式)を求めることができる。
【0058】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態においては、種麹として黄麹Aや黄麹Bを例示したが、その他の種麹を用いても同様に実施できる。
【0059】
(2)上記実施形態においては、関係情報として、床工程を実行中に増加する二酸化炭素濃度増加量と製麹工程の終了時における麹のグルコアミラーゼ力価との関係を示す関係情報を例示したが、当該二酸化炭素濃度増加量を、当該二酸化炭素濃度増加量に対応する二酸化炭素の増加量に換算して算出したものを用いて、当該関係情報を導出してもよい。この場合、床工程を実行中に計測した二酸化炭素濃度増加量を、当該二酸化炭素濃度増加量に対応する二酸化炭素の増加量に換算して算出したものと、当該関係情報とに基づいて、製麹工程の終了時におけるグルコアミラーゼ力価を評価することができる。
【0060】
(3)上記実施形態においては、関係情報として、前期用関係情報と後期用関係情報とを設定する場合を例示したが、前期用関係情報と後期用関係情報とのうちの一方を設定する形態で実施してもよい。
【0061】
(4)本発明を実施するにあたり、評価されたグルコアミラーゼ力価に基づいて製麹工程における製造条件を調整するにあたり、手動操作にて調整してもよいが、例えば、制御装置を用いて温湿度調節を自動的に行うようにするなど、自動的に調整する形態で実施してもよい。
【0062】
(5)上記実施形態においては、床工程用製麹機Pの収納空間に1種類のサンプルを収納する場合を例示したが、床工程用製麹機Pの収納空間に複数種類のサンプルを収納する形態で実施してもよい。
この場合、複数種類の製麹処理物Yを異なるバットや箱などの容器に収容して、複数種類の製麹処理物Yの夫々からの二酸化炭素を計測することになる。具体的には、複数種類の製麹処理物Yを収納する容器の夫々に、二酸化炭素センサを挿入して計測する形態や、共用する二酸化炭素センサを複数の容器とは別の箇所に設けて、各容器の空気をブロアにて吸引して二酸化炭素センサに吹き付ける形態で実施してもよい。
【0063】
(6)上記実施形態においては、製麹工程の終了時における麹の出来を表す指標として、麹のグルコアミラーゼ力価を例示したが、αアミラーゼ力価、酸性カルボキシペプチチターゼ力価などの酵素力価や菌体量などを指標とすることができる。
【0064】
尚、上述した実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
図1
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